蝶の咲く木 第四話 子供の世界(2)

  • 2018.01.09 Tuesday
  • 10:58

JUGEMテーマ:自作小説

非常識な出来事というのは、一つだけだと頭が混乱する。
しかし幾つも重なると、意外と動じなくなるから不思議なものだ。
理解を越えた現象の連続は、理解しようとする努力を放棄してしまう。
気にはなっても、謎を追い求める気にはなれない。
二年前にいなくなった息子と再会できた。それだけで充分だ。
今日はクリスマス。
妻はケーキを、俺はプレゼントを持ってきた。
出来れば家で祝いたかったが、この際場所はどこでもいい。
月だろうが火星だろうが、家族揃って迎えるクリスマスは、この二年間夢見た光景なのだ。
妻は丁寧にローソクを挿し、ライターで火を点けていく。
その数は11本。
息子が行方不明だった二年を含めた年齢だ。
「誕生日も祝ってあげられなかったからね。このケーキは兼用ってことで。」
妻お手製のポケモンが描かれたケーキは、優馬の笑顔を誘った。
「僕がいない間ポケモン増えた?」
「増えた増えた。いっぱい増えたよ。」
「どんなのが増えたの?」
優馬は目をキラキラさせている。
妻は笑顔を返し、そのまま俺を振り返った。
「増えたよね?」
「増えただろうな。」
「お父さん教えてあげて。」
とんだ所からキラーパスが飛んでくる。
俺のポケモンの知識は二年前で止まったままだ。
「ええっと・・・色々いるぞ。」
「どんなの?」
「どんなのだったっけなあ・・・・でも増えた増えた。」
「ええ〜!お父さん知らないんじゃん。お母さん教えて。」
再び質問をふられ、妻もうろたえていた。
「さ、ロウソク消そうか。」
ケーキを向け、「ふ〜ってして」と促す。
強引な方法で話を打ち切るが、優馬は「うん」と嬉しそうだ。
一生懸命息を吹きかけ、ロウソクの火が消えていく。
優馬の年は11歳。
しかし見た目は9歳のままだ。
《これはやっぱり・・・そういう事なんだろうな。》
グっと胸が重くなる。
成長が止まったままというのは、やはり優馬はもう・・・・、
「切って。」
待ちきれない様子でケーキを見つめる優馬。
妻は「いいよ」と調理用のナイフで切り分けていった。
ずっと見ていたい光景だが、俺は一歩あとずさった。
後ろを振り返り、眼下を睨む。
「ここにいる子供って・・・まさか全員・・・・、」
そこまで言いかけて言葉を飲み込む。
俺たちが立っているのは大木の上の方。
さっきまでいた場所よりも上の枝だ。
家族水いらすで過ごしたいだろうと、蝶モドキの群れがここまで運んでくれたのだ。
案外気の利く奴らだ。
「ほら、お父さんも。」
「おお。」
切り分けられたケーキを受け取り、三人で向かい合う。
「頂きます!」
優馬は口に入る分だけ頬張った。
フォークからはみ出るほど抉りとって、リスも真っ青になるほど頬を膨らませている。
「おいしい?」
妻が緊張した顔で尋ねる。
久々のケーキ作りで、少々不安のようだった。
優馬はコクコクと頷き、次なる獲物を口へ詰め込んだ。
「よかった」と笑う妻。
俺もひと口頬張って、「うまい」と言った。
「全然腕落ちてないよ。」
そう言って褒めるが、妻は優馬に掛かりっきりだ。
俺の言葉など耳に入っちゃいない。
全ての五感が優馬に向けられていて、「もう一個いる?」と切り分けていた。
《優馬が生まれた時と同じだな。》
思わず苦笑いしてしまう。
赤ん坊が生まれると、妻の愛は全てそちらへ注がれる。
あの頃と同じように俺は蚊帳の外だ。
寂しくないといえば嘘になるが、でもこれでいい。
優馬が嬉しそうにしているならそれでいい。
二口目を頬張りながら、景色に目を向ける。
相変わらず神話のような光景で、いつまでも見ていられるほど壮大だ。
山をも超える巨大な木、それが山脈のように連なり、下は雲海になっている。
所々に覗く根は、雲から顔を出す龍のよう。
そして広がる枝には大勢の子供がいる。
走ったりチャンバラごっこをしたり、本を読んだりゲームをしたり。
誰もが楽しそうに過ごしているが、子供だけしかいない世界というのは、なんとも違和感があった。
光る蝶はいつの間にか消えていて、一匹だけ枝の先に止まっている。
そいつを眺めていると、ヒラヒラと舞いながら俺の頭にとまった。
『楽しい?』
「ああ。こうしてまた優馬と過ごせるんだからな。アンタにお礼を言わないと。」
手を向けると指先に飛んできた。
向かい合った蝶モドキに「ありがとう」と頭を下げる。
「ここへ連れて来てくれてありがとう。なんと礼を言っていいか。」
『知りたい?』
「え?」
『色々不思議そうな顔してる。』
「・・・・・・・・。」
『なんでも聞いてくれていいよ。』
「そうだな・・・・じゃあ一番気になってることを。」
後ろを振り返り、聞きたいけど聞きたくないことを尋ねた。
「優馬はその・・・・今はもう・・・・、」
『そうね。残念だけどお父さんの思ってる通りよ。』
「何も言ってないが・・・・、」
『そんな顔してるから。』
「じゃあここにいる子供たちもみんな・・・・、」
『優馬君と同じ。』
「そうか・・・・可哀想に・・・。」
子供たちを見るのが辛くなる。
すでに生きていない子供たちのはしゃぎ声は、釘で胸を打たれるような苦しさがあった。
「なあ?復讐をやめるなら、優馬は俺たちの所へ戻って来られるって言ったな?」
『ええ。』
「でもその・・・もうこの世にいないんだよな?」
『いるじゃない、目の前に。』
「でも生きていないんだろ?そう言ったじゃないか。」
『ええ。』
「ならどうやって戻って来るんだ?まさか幽霊のままってわけじゃないよな?」
『形を変えて。』
「形を・・・・?」
『新しい肉体を得てってこと。』
「生まれ変わるってことか?」
『似たようなものね。』
「でもそれだけど俺たちの所へ戻ってこない可能性があるんじゃないか?だって新しい命として生を受けるってことなんだろ?
他人の子供として生まれてしまうんじゃ・・・・、」
『奥さんともう一度子供を作って。そうすればそれが優馬君の新しい肉体になる。』
「なるほど・・・・。でもさ、それってもう別の人間ってことだよな?見た目も中身も変わって・・・・、」
『まったく同じにはならない。でも優馬君の魂は受け継ぐわ。』
「魂か・・・・本当にあるんだな。」
『分かりやすく言えばってことね。本当は違うけど。』
「違うって・・・・魂がないのに生まれ変わりが出来るのか?」
『ええ。』
「・・・・・・・・。」
『ただし地球へ戻るまでにちょっと時間がかかるけど。』
「時間・・・・どれくらい?」
『その子が生きてきた時間。優馬君なら9年ってことね。』
「なら・・・・9年後に妻との間に子供を作れば、優馬の魂が戻ってくるってことか?」
『ええ。もしも妊娠が難しかったら、来年のクリスマスにまた川原の大木まで来てくれればいいわ。』
「じゃあ優馬は戻ってくるんだな。俺たちの子供として生まれ変わって。」
『ええ。』
「そうか・・・・それが聞けてよかった。」
ホッとしていると、『割り切りがいいのね』と言われた。
『怒ったり泣いたりする親もいるのよ。そのままの姿で返してくれって。』
「もちろんそうしてほしいよ。でも亡くなってる以上は無理なんだろう?」
『同じ形では難しいわ。クローンでいいなら可能だけど、長生きしないの。せいぜい10年で死んじゃう。それでいいなら・・・・、』
「いや、生まれ変わるのを待つよ。」
『奥さんと相談しなくていいの?』
「・・・・・そうだな。俺だけで決められない。」
妻はまだ優馬と楽しそうにしている。
プレゼントの包装紙を剥いで、吟味した末に選んだゲーム機を見せている。
優馬は声を上げてはしゃいでいた。
「答えは今すぐじゃなくていいか?」
『ええ。クリスマスが終わるまでならここにいられるから。』
「ならあとちょっとじゃないか。ここへ運ばれた時はもう夜だったから。」
『地球基準の時間じゃなくて、ここの時間で一日だからもっとあるわ。あと22時間ってところかしら?』
「22時間・・・・。」
腕時計を確認すると、午後9時。
明日の午後7時まではここにいられるらしい。
妻と優馬の笑顔を邪魔したくないので、相談するのはもう少し後にしよう。
『他には?』
蝶モドキは首を傾げる。
俺は「もう一つだけ」と答えた。
「その・・・もし復讐を選んでいたら、優馬は地球へ帰れなかったんだよな?」
『ええ。』
「その時は幽霊のままずっとここで過ごすってことなんだよな?」
『幽霊じゃないわ。蝶に生まれ変わるの。』
「蝶に?」
『正確には私と似たような生き物になるの。』
「え?てことはまさか・・・・、」
『そうよ、ここにいる光る蝶たちは、元々は人間の子供だった。』
「そんな・・・・、」
『そこらじゅうに飛んでる蝶は、親が復讐を選んだ子供たちってわけ。』
「もう人間には戻れないのか?」
『無理よ。』
「なら俺たちをここへ運んだあの蝶たちも・・・・、」
『かつて人は間の子供だった。』
「そうか・・・・。」
また釘で刺されたような気持ちになってくる。
子供に混じって羽ばたく蝶は、いったい何を思っているのだろう。
親が復讐を選んだことを恨んでいるのか?
それとも仇討ちに喜んでいるのか?
複雑な気持ちで見つめていると、『みんな不幸よ』と言われた。
「不幸?」
『ここに来る子供たちは不幸の中で死んでいったの。』
「子供が亡くなる時点で不幸だ。まだまだ未来があったのに・・・・、」
『そういう意味じゃなくて、虐待で殺されたり、変態に殺されたり、そういった子が集まる所なの。』
「誰かに殺された子がここへ来るのか?」
『ええ。』
「自然にここへ?」
『ええ。』
「アンタが連れて来るんじゃなくて?」
『・・・・・・・・。』
「なんで黙るんだ?」
『答えられない質問もあるの。』
「その答え方だと、アンタが連れて来てるって疑ってしま・・・・、」
『どっちにせよ、ここには不幸な死に方をした子が集まる。そしてクリスマスの日だけ親に会えるわけ。
普段は子供しか入れないんだけど、今日は特別ね。』
そう言い残し、俺の手から飛び立っていく。
高い空に昇り、遠くにそびえる別の巨木へと消えていった。
「何者なんだアイツ・・・・。」
アイツも不幸の中で死んだ子供の魂なのか?
それにしては妙に大人っぽい印象を受けたが・・・・。
ここは地球とは別の星らしいが、ということは・・・宇宙人?
疑問は尽きない。
しかし答えを知ったところで、何かが変わるわけでもないだろう。
9年後、優馬は新たな命として俺たちの元に戻ってくる。
でもそれは別人としてだ。
クローンでの生まれ変わりを選べばそのまま帰って来るが、生きていられるのは10年先まで。
どちらを選ぶか?
俺の中で答えは決まっている。
だが優馬は俺と妻の子だ。
なんの相談もなしに決められることではない。
優馬は妻の膝の上で、プレゼントにはしゃいでいる。
妻はそんな我が子を幸せそうに見つめていた。
《ここは子供だけの世界・・・か。もし大人も住めるなら、ずっとここでも構わないのにな。》
ここはある意味天国かもしれない。
子供と蝶だけがいる世界。
争いも犯罪もなく、平和に暮らせるだろう。
笑い合う妻と息子の顔を、このままずっと見ていたかった。

calendar

S M T W T F S
    123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031
<< October 2020 >>

GA

にほんブログ村

selected entries

categories

archives

recent comment

recommend

links

profile

search this site.

others

mobile

qrcode

powered

無料ブログ作成サービス JUGEM