蝶の咲く木 第六話 夫婦の諍い(2)

  • 2018.01.11 Thursday
  • 11:30

JUGEMテーマ:自作小説

子供だけが集まる神話のような世界。
巨木が連なり、雲海が大地を覆っている。
俺は眼下の子供たちを見下ろしながら、これからどうするべきかを考えていた。
妻とは再び険悪になり、離れた場所で背中を向け合って座っている。
今日はクリスマスで、二年ぶりの優馬との再会だ。
本当ならもっと楽しい時間を過ごすはずだった。
しかし意見の違いから喧嘩をする羽目になってしまった。
思えばこの二年間、俺たちの頭には優馬のことしかなかった。
だから夫婦喧嘩というものはほとんどなく、ある意味円満な関係だったかもしれない。
・・・・もちろん語弊があることは分かっている。
しかし優馬がいた頃、俺たちはちょくちょく今のように喧嘩をしていた。
もしも優馬が戻ってきたら、また俺たちは・・・・・。
考えてはいけないと思いながらも、小さな不安は消えてくれない。
腕時計を見ると午前0時半。
ここにいられるのはあと16時間半しかない。
出来れば優馬の傍に行きたいが、妻が怒るだろう。
これ以上子供に夫婦喧嘩を見せるのは悪い。
背中を向けたまま、あの蝶モドキが戻って来るのを待つしかなかった。
腕を組み、神話のような景色を眺める。
ここは地球とは別の星というが、いったいどんな星なのだろう?
太陽系には地球しか生命の住んでいる星はない。
ならば遠く離れた別の銀河の惑星だろうか?
もし地球へ戻ったら、二度と見ることの出来ないこの景色。
記念に写真でも撮っておくかと、ポケットからスマホを取り出した。
しかし・・・・、
「なんで切れてるんだ?」
家を出る前、バッテリーは残っていたはずだ。
なのにいくらボタンを押しても起動してくれなかった。
「壊れてるのか?」
何度もボタンを押していると、空の上がチカチカと輝いた。
「・・・戻って来た。」
光る蝶たちがヒラヒラと降りてくる。
群れの中にはあの蝶モドキがいて、少女に何かを話しかけた。
少女はコクコクと頷き、嬉しそうに微笑んだ。
しかし母親は残念そうに首を振り、父親は溜飲が下がったのか拳を緩めていた。
「復讐・・・・本当にやったのか。」
娘を殺した犯人に仕返しをしたい気持ちは分かる。
しかしこれでもうあの親子が再会することはない。
少女の魂は永遠にこの場所だ。
そして・・・・別れの時はすぐにやってきた。
光る蝶の群れが、彼女の両親を包み込んだのだ。
「なつ!」
母が叫んでいる。
父も「こんなの聞いてないぞ!」と怒鳴った。
「今日一日は一緒にいられるんだろう!」
そう喚くも、蝶の群れから逃れることは出来ない。
悲鳴と怒声を響かせながら、そのままどこかへ連れ去られてしまった。
眼下の少女を振り向くと、能面のような表情で手を振っていた。
「君はそれでいいのか?自分から復讐を選ぶなんて・・・・。」
せっかく会えた家族。
それを捨ててまで選んだ復讐。
優馬より少し大きいほどの子供なのに、いったいどれだけの憎悪を胸に抱えていたのか?
少女は両親が去った空に手を振り続ける。
そして・・・・復讐を選んだリスクはすぐにやってきた。
彼女はパっと光って、光る蝶に変わってしまう。
優雅な羽で宙を舞い、どこか別の木へと飛び去ってしまった。
「可哀想に・・・・。」
他人の子供であっても、胸が突かれるような思いだった。
最初ここへ来たときは、ある意味天国のような場所だと感じた。
子供と蝶だけが存在する、争いも犯罪もない世界だと。
出来ればここで優馬と暮らしてもいいと思ったほどだ。
しかし今はそんな気になれない。
はっきり言ってここは異常だ。
復讐、肉親との別れ、そして蝶へと変わってしまう子供たち。
今、一刻も早くここから出たかった。
俺は立ち上がり、背中を向けている妻の元へ歩く。
すると突然目の前が明るくなった。
瞳に懐中電灯を当てられたかのように、真っ白で何も見えなくなる。
『ただいま。』
「・・・・お前か。」
真っ白に輝く蝶モドキが、鼻先1センチくらいの所にいた。
ニコニコと笑っているその顔は、ある意味狂気に満ちている。
「あの子を殺した奴に復讐してきたのか?」
『ええ。』
「そのせいであの子は・・・・、」
少女が消えた空を振り返る。
いったいどこへ行ったのか知らないが、この星から出ることはないのだろう。
「・・・・可哀想に。一日くらい一緒にいさせてやればいいじゃないか。」
そう言って向き直ると、『だって蝶に変わっちゃうから』と笑った。
『復讐を選んだら人間じゃなくなる。ちゃんと説明した上であの家族が選んだことだから。』
「だからって今すぐにじゃなくてもいいだろう?せめてクリスマスが終わるまでは・・・・、」
そう言いかけた時、「どいて」と声がした。
振り返ると妻が立っていた。
「私が話すって言ったでしょ。」
「俺だって優馬の父親だ。まずは俺が・・・・、」
「何言ってんのよ。またどうでもいい話してたじゃない。」
「なにが?」
「他人の家族のこと話してたでしょ?どうして優馬のことを相談しないわけ?それじゃさっきと一緒じゃん。」
「これから話そうと思ってたよ。」
「どうだか・・・・。私が止めなきゃ延々とどうでもいいこと喋ってたでしょうに。」
もはや俺には期待すまいと、「いいからどいて」と割って入ってくる。
優馬の手を引き、「この子をこのまま返して」と言った。
「この姿で、この性格で、何もかもこのままで私たちの所に返して。」
『いいけど長生きしないわよ?』
「それをどうにかしてって言ってるの。」
『クローンで長生きさせろってこと?』
「方法はなんでもいい。とにかくこの子がこの子のまま帰って来てくれるならそれでいいから。」
『う〜ん・・・気持ちは分かるけど、それは難しいわ。
クローンは長生きしないって欠点があるし、長生きさせたいなら新しい命に生まれ変わらないといけないし。』
「でもあなた達はすごい力を持ってるじゃない。こうして私たちを遠い星まで連れて来てくれたんだから。」
『遠い星ねえ・・・・。』
蝶モドキの顔が不敵に歪む。
俺は「なあ?」と尋ねた。
「もしかしてこの星って、案外地球から近い場所にあるんじゃ・・・・、」
「アンタは黙ってて!」
金切り声が空を切り裂く。
「余計な話しないでって言ったでしょ?」
「じゃあ好きに話せよ。」
「なんでアンタが切れてんのよ?」
「悪かったな。話の腰を負って。」
「そういう態度がムカつくって言ってんの。下が雲海じゃなかったらマジで蹴り飛ばして・・・・、」
「お前こそ無駄な話してるぞ。」
「はあ?」
「喧嘩してる場合じゃないだろ?話すことがあるならさっさと話せよ。」
クイっと顎をしゃくると、妻の目がカっと見開いた。
「お前が邪魔してんだ!!」
手を振り上げ、ビンタをかましてくる。
さっき俺も叩いてしまったので、あえてよけずにおいた。
しかし二発、三発と続けて飛んでくるので、「いい加減にしろ!」とこっちも手を振り上げた。
しかし妻は動じない。
「やりたいならやれば」と強気だ。
「言っとくけど、次に叩いたら離婚だから。」
「はあ!?」
「私だって叩きたくて叩いてるんじゃない。アンタが余計なこと言うからこうなってるの。」
「お前なあ・・・・よくも自分のこと棚に上げられるな。」
「じゃあお互い様ね。」
「お互い様って・・・・どこが・・・・、」
「ね?スカした感じで言われると腹立つでしょ?」
「・・・あのな、俺が最初に叩いたのは、お前が優馬の手を引っ張ってたからだ。」
「だからアレは私が悪いって言ったじゃない。カッとなってごめんって謝ったでしょ。」
「もういい。なんでも好きなように話せよ。」
「じゃあ最初から黙ってて。」
また喧嘩が勃発してしまった。
言われたら言い返し、挑発されたら挑発し返す。
そんなことを続けていると、『黙れ』と蝶モドキが怒った。
俺も妻もピタっと固まる。
なぜならさっきまでとは明らかに声色が違っていたからだ。
女性っぽい声をしていたのに、今はエコーがかかった不気味な声だった。
『大声で怒鳴るからみんなが怖がってる。』
そう言って子供たちを指差す。
誰もが固まった表情で俺たちを見上げていた。
「悪い・・・・。」
ううんと咳払いをする。
妻も自分を落ち着かせるように深呼吸していた。
「ごめんなさい。」
小さく頭を下げ、子供たちにも申し訳なさそうな目を向けている。
『喧嘩したいなら家でどうぞ。いつでも地球へ帰してあげるから。』
そう釘を刺してから、妻に目を向けた。
『優馬君のことだけど、あたなの願い通りにするのは難しいわ。』
「・・・・本当にどうにもならないの?せっかく会えたのに・・・・、」
『また会えるわよ。』
「でも・・・・、」
『どっちかを選ぶしかないの。それが嫌だっていうなら、覚悟を見せてもらうしかないわね。』
「覚悟?」
『あなたの要求を飲むなら、クローンを利用するしかないわ。でも長生き出来ないって欠点がある。』
「それ・・・・私の覚悟次第でどうにかなるってこと?」
『ええ。』
「どんな!?どんな方法?私なんでもする!教えて!!」
そう言って「この子と一緒にいたいの」と抱きしめた。
「優馬と一緒に帰れるなら何でもする。お願いだから教えて。」
さっきまでの怒りが嘘のように、切実な声に変わる。
「なんでもするから。」
『ほんとに?』
「優馬が戻って来るならそれでいい。他に何もいらない。」
『分かった。なら復讐を手伝って。』
「復讐・・・?」
妻の顔が今までとは別の意味で強ばる。
眉間に寄ったシワが、小さな迷路のようになっていた。
『今日、あと三組ここへ大人が来るわ。』
「ここの子供たちの親ってこと?」
『ええ。もしその人たちが復讐を選んだ場合、あなたにも手伝ってもらう。
その代わり、優馬君をどうにか元のまま戻せないか考えてみるわ。』
うろたえる妻。
俺は「待て」と止めた。
「そんなのダメだ。復讐に手を貸すだなんて・・・・、」
「だからアンタは黙ってて!」
案の定妻が怒る。
俺は肩を竦め、どうぞと手を向けた。
「復讐を手伝えば、優馬を優馬のまま返してくれるのね?」
『どうにか出来ないか考えてみるわ。』
「考えるだけ?もし無理だったら?」
『その時は諦めて。』
「でもこっちは復讐を手伝うのよ?だったらそっちも約束を守ってよ。」
『だって初めてのことだもの。絶対になんて言えないわ。』
「じゃあ今から考えてよ。どうにか出来ないか。」
『どうしてアタナに命令されなきゃいけないの?』
「命令なんかしてないわ。ただお願いしてるだけ。」
『なら断るわ。こっちは善意でそう提案してるだけなんだから。』
「だけどそんなの不公平じゃない。こっちは復讐を手伝うのに、そっちは約束を破るかもしれないわけでしょ?」
『誰も約束なんかしてないわ。前向きに検討するって言ってるだけ。それが嫌ならけっこうよ。』
「前向きに検討って・・・政治家じゃないんだから、きちんと約束を・・・・、」
妻はどんどんヒートアップしていく。
語気も荒くなり、眉間に皺が寄り始めていた。
「アナタだってこうして子供を守ってるわけでしょ?だったら親の気持ちが分かるよね?」
『子供は好きだけど、大人は嫌いなの。』
「じゃあなんで私たちをここへ連れてきたのよ?」
『だってクリスマスだもの。子供へのプレゼントと思って。あなた達の為にやったわけじゃないわ。』
「子供の為だっていうなら、優馬をこのまま返してよ。その方が優馬だって喜ぶわ。」
そう言って「ねえ?」と振り返る。
「優馬だって今の姿のまま戻りたいよね?」
「僕は・・・このまま戻りたいけど・・・・・・・・、」
優馬は何かを言いかける。
しかし蝶モドキが『め』と口に指を当てた。
『余計なこと言う子は悪い子よ。』
「はい・・・・。」
怯える優馬。
そっと妻の後ろに隠れた。
「ちょっと。」
案の定、妻はカッと目を見開いて蝶モドキを睨んだ。
「なんで優馬を脅すのよ?」
『脅してなんかないわ。』
「さっき脅してたじゃない。」
『叱っただけよ。ここにはここのルールがあって、それを守らない子は悪い子なの。』
「優馬は私の子よ。なんであたなが優馬のルールを決めるのよ。」
『その子のルールじゃなくて、ここのルールよ。ちゃんと言葉が通じてるかしら?』
「はあ!?」
『さっきから話してれば、自分勝手なワガママばかり。こっちは善意で協力してあげようとしてるのに。』
「だから復讐は手伝うって言ってるじゃない!その代わり優馬をこのまま返して・・・・、」
『あなたは典型的な悪い大人ね。自分の身勝手は棚に上げて、相手に要求ばかりする。』
「どこが身勝手なのよ!自分の子供の心配して何が悪いわけ?」
『じゃあ捨てましょうか?』
「は?」
『何もその子たちを預かる義務はないのよ。』
「あなたが勝手にここへ連れて来たんでしょ?」
『違うわ。憶測で物を話さないでちょうだい。』
「じゃあ誰が連れてきたのよ?」
『自分からよ。』
「嘘!子供が自分だけでこんな場所へ来れるわけが・・・・、」
『だから憶測で物を言わないで。やっぱり言葉が通じてないのかしら?』
蝶モドキはクスクス笑う。
相手を挑発するような、馬鹿にした笑い方だった。
妻は「アンタねえ!」と詰め寄るが、「よせ」よ止めた。
「コイツにまで喧嘩売ってどうする?」
「アンタは引っ込んでて!」
「なんでそうやってすぐ喧嘩するんだよ!ちょっと落ち着け!」
「そいつが挑発するからよ!アンタみたいに!!」
「お前もしてるんだ!」
「どこがよ!?私は何も間違ったこと言ってない!」
「態度が問題だっつってんだ!」
「はああ!?」
「向こうはまだ何か喋ろうとしてる。それをカッカ怒ってたら喧嘩になるに決まってるだろ!とりあえず話を聞けよ!」
「うるさい黙れ!」
脛に蹴りが飛んでくる。
靴の先が当たって、「痛ったッ・・・」と飛び跳ねた。
「お前なあ・・・なんでいきなり蹴るんだよ!?」
「アンタが邪魔するから!」
「邪魔なんかしてないだろ!ただ落ち着けって言ってるんだ!」
「うるさい!もう一回蹴飛ばされた・・・・、」
そう言いかけ、足を出そうとした時、無数の蝶が妻に群がった。
「ちょッ・・・・・、」
『人の話は聞かないわ、駄々っ子みたいに喚くわ、挙句の果てには暴力。ほんとに大人の悪い部分を凝縮したような奴ね。』
「ちょっと!何すんのよ!!」
『下へ落っことすの。』
「は!?」
妻を包んだ蝶たちは、空高く昇っていく。
俺は「おい!」と止めた。
「殺す気か!すぐにやめさせろ!!」
『運がよければ死なないわ。』
「運が良ければって・・・・、」
『海へ落ちれば助かるかもしれないし、大地の上なら即死ね。』
「下は雲海じゃないか。海かどうか分からないぞ!」
『だから運が良ければって言ったでしょ。』
「ていうかやめさせろ!啓子を下ろせ!!」
蝶モドキに訴えるも、俺の手の届かない所へヒラヒラと飛んでいく。
「頼むから!せっかく家族三人揃ったのに・・・・、」
「お母さんを許してあげて!」
俺を遮って優馬が叫ぶ。
「僕が謝るから!ごめんなさい!」
涙ながらに訴えて、何度も「ごめんなさい」と叫ぶ。
すると蝶モドキは『そうねえ・・・・』と口に指を当てた。
『子供からお願いされちゃ、このまま落とすのは可哀想かも。』
「お母さん悪い大人じゃないよ!ちょっと怒りっぽいだけで、優しいんだから!」
『いいわ。だったら海の上に落としてあげる。お母さん泳げる?』
「分かんない・・・・。お父さん、お母さんって泳げた?」
「そういう問題じゃない!今すぐ啓子をここに・・・・、」
『じゃあお母さんの幸運を祈って。』
「よせ!」
蝶モドキが手を挙げて合図すると、蝶たちは妻から離れていった。
「嫌あああああああ!!」
悲鳴が響くが、蝶たちは助けない。
米粒ほど小さく見える上空から、妻は真っ逆さまに・・・・。
「お母さん!」
優馬が走り出す。
俺は「ここにいろ!」と肩を引っ張った。
「お父さんが行く。」
「ダメだよ!どこに落ちるか分かんない!」
「だからってほっとけるか!」
枝の先まで走り、思い切り飛び込もう・・・・とした。
しかしあまりの高さに足が竦む。
『無理しない方がいいんじゃない?』
「黙れ!」
近づいてくる蝶モドキを払い、すうっと深呼吸する。
啓子は遠くの空を落ちていき、「優馬ああああああ!」と叫んだ。
「生き返って!地球に戻って!」
「お母さん!」
「どんな形でもいいから生き返って!それでお父さんと一緒に地球に・・・・・、」
妻は俺たちより下へ落ちていく。
悲鳴さえも聞こえないほど下の方へ・・・・。
「啓子!」
まだ足は竦んでいるが、家族を見殺しにすることは出来ない。
妻は泳ぎが苦手なわけではないが、さすがにこの高さからでは・・・・・。
「優馬!」
後ろを振り返り、「お母さんと一緒に戻ってくるから!」と言った。
「ここにいろよ!絶対に戻ってくる!三人で地球に帰ろう!!」
「お父さん!」
優馬が駆け寄ってくる。
俺は背中を向け、枝の先から飛び降りた。
『あ。』
蝶モドキの声が聴こえる。
それと同時に、雲海へ向かって落ちていった。
《息がッ・・・・・、》
顔にぶつかる空気は突風のようで、呼吸がままならない。
全身が重力から解放されたような不思議な感覚は、雲海に突っ込むまで続いた。
《啓子!》
どうか生きていてくれと願いながら、雲海の中へと突き進む。
周りは真っ白な雲だらけで、かなり遠くから雷鳴が響いた。
青紫の閃光が走り、稲妻が龍のように駆け抜ける。
思っていたより雲海は分厚く、そろそろ呼吸も限界だ。
手足をばたつかせ、どうにか体勢を変えて、「ぶはあッ!」と息をした。
背中を向けて落ちれば、少なくとも呼吸はできる。
しかし下が見えないというのはとんでもない恐怖だった。
ある程度呼吸したら、また下を向かないと・・・・と思っていた時、ふと何かが目に入った。
《あれは・・・・。》
雲海の所々に、龍がうねるような物体が見えた。
それは遠くへ伸びていて、迷路のように繋がっている。
《根・・・・か。あの巨木の。》
雲海の上から少しだけ覗いていた巨大な根。
どうやらこの中に根を張っているようだ。
《いったいどうやって浮いてるんだ?ていうか土もないのにどうやって栄養を・・・・、》
そんな事を考えていると、突然ある物が目に飛び込んできた。
《あれは・・・竜巻か?》
下の方で、真っ白な何かが渦を巻いている。
《ヤバい!このままじゃ・・・・、》
焦っても遅く、白い竜巻の中に吸い込まれてしまった。
《うおおおおおおお!》
凄まじいスピード感が襲ってくる。
まるでオープンカーで高速道路を走っているかのような・・・・、
《これ・・・ここへ来た時の感覚と似てる。》
蝶の群れに連れ去られて、あの星へ行く時もこんな感覚だった。
そして・・・・、
《なんだ・・・・?いきなり景色が変わって・・・、》
真っ白だった風景が、吸い込まれるようなブルーに変わる。
《竜巻を抜けたのか?ていうかここって・・・・、》
目の前に広がっていた景色、それは快晴の空だった。
ポツポツと小さな雲が流れているが、ほとんど青一色だ。
《どういうことだ?雲海を落ちた先に空って・・・・。》
普通、雲海は地を這うように流れる。
空に浮かぶ雲とは違って、雲海の下には大地か海しかないはずだ。
《どうなってんだこの星?》
空に浮かぶ巨木の山脈。
雲海の下に広がる青空。
あの蝶モドキの言う通り、やはりここは別の星らしい。
どうやら地球の常識は通用しない。
ならばこの空の下に広がる景色も、地球とはまったく違うものなんだろう。
・・・そう思って下を向くと、《なんで?》と呟きそうになった。
眼下に広がるのは青い海、その遥か向こうには大地が広がっている。
ていうかビルが立ち並んでいる景色まで・・・。
そして何より、大きな城が見えた。それも日本風の城だ。
《なんで?》
あんな城が建っているということは、ここは日本か?
《何がどうなってんだ?》
混乱する頭を抱えている間にもどんどん落ちていく。
空を落ち始めてから数分後、頭と肩に凄まじい衝撃が走った。
《落ちたのか・・・・海に・・・・、》
薄暗い景色が広がって、上の方から微かに光が指している。
口からブクブクと泡が昇って、また息が苦しくなってきた。
《ダメだ・・・・溺れたら・・・・、》
手足をもがくも、水を吸い込んだ服が邪魔をする。
海面から射す光を睨みながら、深い深い闇の中へと沈んでいった。

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