蝶の咲く木 第十三話 子供の国へ(1)

  • 2018.01.18 Thursday
  • 14:30

JUGEMテーマ:自作小説

エアコンの点いていない部屋で、弟と二人、ドアを叩いていた。
窓は全て閉め切られていて。開けようにも子供の手が届かない場所にある。
冷蔵庫の中には何もなく、砂漠を彷徨っているみたいに喉が乾いた。
外の気温は41度。
今年一番の猛暑だ。
なのに冷房が点いてないわ飲み物はないわ窓から風も入ってこないわでは、まさしくサウナと同じ状態になる。
あれはいつだったか、父と一緒に銭湯に行った時、入っちゃいけないと言われていたサウナに、弟と忍び込んだことがある。
どんな場所かとワクワクしたが、足を踏み入れた瞬間に引き返しそうになった。
サウナに広がる灼熱は、とても子供が耐えられるものではなかった。
息をするのさえ苦しく、どうして大人たちは平気な顔で座っているのかと、本気で驚いたものだ。
どうにか堪えて入ったが、1分と経たずに出てきてしまった。
あの時、あと5分も入っていたら倒れていた自信がある。
幸いサウナはいつでも外へ出られるから助かったけど。
でもここはそうじゃない。
逃げ場のないサウナは、5歳と4歳の子供の命など、簡単に奪ってしまうのだ。
・・・まず最初に倒れたのは弟だった。
「喉乾いた・・・」と言ったきり、何も喋らなくなってしまった。
揺すっても怒鳴っても立ち上がることはなく、二度と起き上がることはなかった。
そして俺自身にも、その瞬間はすぐにやってきた。
ズキズキと頭が痛くなり、足がふらつく。
喉が渇くというより、喉が焼けるような感じになってきて、かつて入ったサウナがフラッシュバックしてきた。
やがて視界もボヤけて、気がつけば目の前に床があった。
弟を振り返ると、こちらにお尻を向けていた。
手を伸ばし、足先に触れながら、俺も弟と同じ場所へ旅立とうとしていた。
・・・しかしその時、ぼやける視界の中に、ピカピカと光る何かが飛んできた。
その瞬間、身体が楽になって、体重すら感じなくなっていた。
『可哀想に。ちょっと部屋を散らかしただけでここまでするなんて。あなたの母親は人間の心を持っていないわね。』
そう語りかけてきたのは蝶だった。
ピカピカと輝いていて、図鑑で見たことのあるモルフォ蝶より綺麗だった。
『でも悲しまないで。あなたは子供の国に行けるのよ。馬鹿な大人がいない楽園なんだから。もちろん弟さんも一緒に。』
二人で手を繋ぎ、蝶に導かれるように、高い空へと昇っていった。
街がミニチュアみたいに見えるほど高く昇って、雲も突き抜けていく。
雲の上は当たり前だけど雲一つなくて、その先は少しだけ暗くなっていた。
蝶はどんどん飛んでいく。
それに引っ張られて、俺も弟も空を超えていった。
・・・・やがて宇宙にまで飛び出して、遠い所で燃える太陽が見えた。
すごく離れているはずなのに、あまりの眩しさに目を開けていられなかった。
弟と一緒に目を逸らした先には月が見えた。
地球にいる時よりもハッキリ見えて、表面のでこぼこが妙にリアルだった。
蝶は太陽に背を向け、月の方へ飛んでいく。
『お月様に行くの?』
弟が尋ねる。
俺は『分からない』と答えた。
すると蝶が振り返って、『月までは行かないわ』と答えた。
『月と地球の真ん中くらいまで行くの。そこに子供の国があるのよ。』
『子供の国って何?』
弟が不思議そうに尋ねる。
蝶は『行けば分かるわ』と答えた。
宇宙は蛍みたいに星が輝いていて、そのたくさんの光でも埋まらないほど真っ暗だった。
綺麗な景色だけど、不安の方が大きかった。
いったいどこへ行くんだろうという怖さと、足元さえないただっ広い宇宙の恐さ。
弟の手を握り締め、『家に帰りたい』と呟いた。
『お父さんの所に帰りたい。』
それは弟も同じだったようで、『お父さんの家に連れて行って』と言った。
しかし蝶は『ダメよ』と首を振った。
『あなたのお父さんもお母さんも、子供の命をなんとも思っていない悪魔なの。戻ったらまた酷い目に遭うわ。』
『でも前のお父さんは優しいもん。』
『新しいお父さんはすごく殴るから嫌い。』
『残念だけど、前のお父さんはもう新しい家族がいるの。それにあなた達が会いに行ったら、お母さんが怒るだけよ。
キイ〜ってヒステリーを起こして、いつもみたいにブたれるわよ?それでもいいの?』
そう言われて、俺も弟も首を振った。
そしてなんでそのことを知ってるんだろうと、不思議に思った。
振り返れば地球が見える・・・・。
宝石みたいに青くて、すごく綺麗だった。
この時、俺も弟も感じていた。
もう二度とあそこには戻れないのだと。
なぜなら子供心に知っていたからだ。
俺たちはもう死んでしまったのだと。
この蝶は天使か何かで、俺たちを迎えに来たんだと。
・・・といことは、今から俺たちが行く場所は天国ということになる。
なぜなら今まで何も悪いことはしていないので、地獄へ行くはずがないと思っていたからだ。
天国のことは詳しく知らなかったが、なんとなくのイメージで、悪い場所ではないと期待していた。
できれば前のお父さんの家に戻りたかったけど、それが無理なら、もう天国へ行くしかない。
今のお父さんとお母さんの家にいたら、いつ今日みたいな目に遭うか分からない。
ちょっとしたことで叩かれて、ちょっとしてことでご飯を抜きにされる。
今日だって、俺と弟が遊んでいたオモチャをお母さんが踏んづけて、それで怒られた。
『クソガキ!部屋を散らかすな!』
そう言って一発ずつ叩かれてから、『お前ら見てるとアイツを思い出す』と、思い切り蹴られた。
『アイツに渡すのが癪だったから引き取ったけど、ほんと邪魔。死ねクソガキ!』
お母さんは元々怖い性格だったけど、新しいお父さんと結婚してから、余計に怖くなった。
だって新しいお父さんはお母さんよりも怖くて、お母さんでさえたまに叩かれているからだ。
俺たちが何かしでかすと、まずお母さんが叩かれる。
その次に俺たちを蹴ったり殴ったりするのだ。
だからお母さんは自分が叩かれるのが怖くて、前のお父さんと結婚している時より、もっともっと俺たちを叩くようになった。
俺も弟も、いつだってあの家から逃げ出したかった。
だけどそれは無理で、二人共出かける場合は、俺たちは閉じ込められるのだ。
いつもならエアコンか扇風機を掛けてくれるけど、俺たちが何かしでかした時は何も点けない。
だから冬は寒いし、夏は暑い。
窓だって閉め切ってしまうし、辛くて大変なのだ。
しかも今日は冷蔵庫の中が空っぽで、外の気温は41度。
5歳と4歳の子供が長時間そんな部屋に閉じ込められていたら、死なない方がおかしい。
あの家に戻れば、また今日と同じことが繰り返される。
そう思うと・・・・やっぱり天国へ行くことは悪くないように思った。
『お兄ちゃん、天国ってどんなとこ?』
『天使とか神様がいるんだよ。よく知らないけど、多分そう。』
『お父さんもいる?』
『お父さんは生きてるからいないよ。天国は死んだ人が行くところだから。』
『じゃあ天国に行ったら、もうお父さんに会えないの?』
『会えないけど、あの家に戻らなくてもいい。僕はその方が嬉しい。』
『ゲームある?』
『さあ。』
『コロコロは?』
『分からない。』
弟が気にするのはもっぱらオモチャやゲームのことだった。
すると蝶が振り向き、『あるわよ』と言った。
『DSもPSPもあるわ。漫画も絵本もある。お菓子もオモチャもあるわ。
子供が好きなものはなんでもあるの。すごく楽しい所よ。』
それを聞いた弟はとても喜んだ。
俺だって嬉しかった。
広い広い宇宙・・・・弟と手を繋ぎ、地球に手を振った。
これから天国に行く。
意地悪な大人がいない子供だけの国へ。
だけど・・・決して悪いものではないと思っていたその世界は、俺と弟が期待していたものと違うと知るのに、そう時間はかからなかった。
・・・・はっきり言おう。
ここは地獄だ。
見てくれは天国に似ているが、やっていることは地獄そのものだ。
俺がここへ来てから11年が経つ。
地球にいた頃と合わせると16歳、弟は15歳だ。
11年、俺たちはこの場所で過ごして、目を塞ぎたくなるような出来事をたくさん見てきた。
それどころか、俺たち自身がそういった出来事に手を貸してきた。
ここへ集められた子供は、意地悪な大人によって殺された魂だ。
時にその子たちの一部は復讐に走る。
本人の意志でそうなることもあれば、会いにやって来た親が復讐を選ぶ場合もある。
割合としてはやや本人が望む場合が多い。
いくら子供といえど、大人に受けた酷い仕打ちは、決して許すことの出来ない怒りとなって燃え続けるからだ。
俺と弟だってそんな子供たちの一部だ。
かつて俺たちを死に追いやった憎き母、その元凶となった新しい父。
だから俺たちは復讐をした。
・・・あの時はクリスマスで、俺たちの本当のお父さんがここへやって来た。
お父さんは優しいから、復讐はやめてくれと言った。
そんなことしたって、お前たちが生き返るわけじゃないし、お前たちに汚れてほしくないからと。
だけどお父さんの反対を押し切って、俺たちは復讐を選んだ。
後からヴェヴェに聞いた話では、母も新しい父も、悲鳴を上げながら死んでいったらしい。
母は丸焦げにされ、父は電気で焼かれた。
二人共この世の終わりみたいな表情で、ただただ苦しみながら死んでいったと。
あの時は胸がスウっとしたものだ。
ただその代償として、俺たちは人間として生まれ変わることが出来なくなってしまった。
父がここを去る時、とても悲しい顔をしていたのを覚えている。
うっすらと泣いていたかもしれない。
あれ以来、俺たちはヴェヴェの仲間入りをして、何度も復讐を手伝ってきた。
それがいい事だなんて思わなかったけど、ヴェヴェには逆らえないので仕方ない。
もし怒らせたりなんかしたら最後、例え子供でも雲海の養分にされてしまうのだ。
ここにいる以上、黙ってヴェヴェに従うしかなかった。
そしてここへ来る人はみんな、大人も子供も良い思いはしない。
復讐を選べば、子供は二度と地球へ戻れない。
そして復讐を選ばなかった場合も、幸せになるとは限らない。
いつか地球へは戻れるけど、その時はすでに別人になっている。
ここへやって来る親は、まずそれを受け入れることが出来ないのだ。
せっかく亡くなった我が子に会ったのに、もう二度と同じ姿で会えないなんて、認めるわけにはいかないからだ。
だからどうか同じ姿で返してくれと願う。
その場合はクローンでの復活になるんだけど、それだともって10年、早いと3年くらいで死んでしまう。
ウェウェは10年は生きられるって言うけど、実際はそこまで生きられないことの方が多い。
親としては、せっかく戻ってきた我が子と、すぐにお別れしなきゃいけなくなる。
その結果、夫婦の仲が悪くなったり、鬱病みたいになったりして、ここへ来る時よりも重いショックを受けることになる。
だからここは天国なんかじゃない。
大人も子供も不幸にする、天国に似た地獄なのだ。
だけどヴェヴェはここの神様みたいなものだから、嫌々でも従うしかない。
ないんだけど・・・・最近はそうもいかなくなってきた。
なぜなら巨木を支える雲海の養分が少なくなってきたからだ。
このままだといつか雲海が消え、木は枯れ果ててしまう。
この星はバラバラに散って、宇宙の藻屑になってしまうのだ。
そうならない為には、巨木の養分を保つしかない。
その最も手っ取り早い方法は、地球に根を張ることだ。
ここは月と地球の中間にあるけど、月に行った所で何もない。
見ている分には綺麗だけど、生き物が住める場所じゃない。
かといって、ここから生命の住める星まで飛ぶには、距離がありすぎる・・・・とヴェヴェは言っていた。
2万光年くらい先に土と水と空気が存在する惑星があるらしいんだけど、そこまで飛ぶには養分が足りなさすぎる。
だったら行くべき場所は一つ、地球しかない。
かつて俺たちが酷い目に遭ったあの星だけが、この巨木を支えることが出来るのだ。
だけどそれは、地球を乗っ取るのと同じことだ。
俺たちがいる子供の国はとても大きく、もし地球に降り立ったら、半分近く覆い尽くしてしまうだろう。
しかも根はとても大きいので、あちこちの大地に大穴を空けて、その下に流れるマントルまで届く。
そんな植物が根付いたら、地球はえらい事になる。
あちこちで災害が起きて、あちこちで人や動物が死ぬ。
そしていつかは地球の養分を吸い付くし、死の星に変えてしまうはずだ。
そんな大変なことになったら、もう大人がどうとか子供がどうとか言っていられない。
ここにいる子供たちは大人に恨みを持ってるけど、そんなレベルの話じゃなくなってしまう。
・・・・だからこれ以上ヴェヴェにはついて行けない。
俺も弟も、ヴェヴェもどきになってしまった他の子供たちの一部も、ヴェヴェを裏切ることに決めたのだ。
表面上は従うフリをしているけど、本気で従う気はもうない。
この巨木が地球に根を張るのを防ぐ為、どうしたらいいか真剣に悩んだ。
残念ながら、俺たちだけでヴェヴェを止めるのは無理だ。
それなら地球の人たちにこの事実に気づいてもらうしかない。
『子供の国っていう変な星があって、その星が地球を狙ってますよ!!』
たくさんの人にそう知ってもらえれば、この巨木が地球へやって来た時に、軍隊が迎え撃ってくれるかもしれない。
そりゃほっといても迎え撃つだろうけど、あらかじめ知っておけば戦いの準備ができるはずだ。
まず俺たちが最初にやるべき事は、どうにかして地球の人たちにここの存在に気づいてもらうことだ。
ここにいる子供の親たちはこの世界のことを知ってるけど、人に話したところで信じてもらえないだろう。
ありえない事を信じてもらうには、同時にたくさんの人に伝えなきゃいけない。
そうすれば個人の妄想だって馬鹿にされずにすむはずだから。
一気にたくさんの人に伝える手段は色々ある。
まずはネットだ。
これほど手軽に世間に物を言える道具はない。
だけどネットは信憑性が薄いし、どこの誰が発信しているか分からないので、あんまり良い手じゃないだろう。
となるとテレビかラジオが新聞になる。
影響力を考えるならダントツでテレビ、次に新聞だろう。
ラジオも悪くないけど、どうせならテレビの方がいい。
だけどこんなオカルトじみた話、テレビがちゃんと扱ってくれるか分からない。
仮にもし扱ってくれても、単なるオカルト番組で終わる可能性が大だ。
となると新聞か?・・・・と考えたけど、これも難しそうだ。
だって新聞はテレビより頭が固いから、きっとこんな話を扱ってくれないだろう。
じゃあラジオか・・・・と考えたけど、なんとなくテレビと同じ扱いになりそうな気がした。
やっぱりオカルト扱いで終わるんじゃないのかなあ・・・・と。
俺たちは散々悩んだ。
いったいどうやってたくさんの人に伝えればいいんだろうって。
なかなか良い答えが出ずに困っていると、去年にヴェヴェもどきになったなつちゃんがこう言った。
『悩んでばかりいても仕方ないから、ツイッターとかインスタでもいいから伝えてみない?』
なつちゃんは一昨年に地球へ戻った時、あの大木の写真を撮っていた。
ちょうど蝶が咲く瞬間の写真を。
こんなのヴェヴェに見つかったらめちゃくちゃ怒られるけど、なつちゃんは上手く隠していた。
雲海近くの根元、龍の鱗みたいな大きな樹皮の割れ目に、デジカメを隠しておいたのだ。
どうやってこんなの手に入れたのか聞いたら、前にここへやって来た大人が忘れていった物だと答えた。
ほんとはそういう物だってヴェヴェに報告しないといけないんだけど、なつちゃんは自分の持ち物にしていたわけだ。
なつちゃんは蝶の咲く木が写ったデジカメを持って、地球へと降りていった。
『繭の道』という不思議な道を通って。
白い竜巻みたいな感じの道で、ものすごい速さで地球まで行くことが出来る。
当然のことながら、これだってヴェヴェの許可なしに使っちゃいけない。
ていうか基本的にはヴェヴェしか使えない。
だけどなつちゃんはヴェヴェのお気に入りで、ここへ来て一年足らずで親友レベルになっていた。
『なつは私とよく似てるわ。パっと見は優しそうだけど、実はすっごい残忍。ここへ来てからもずっと復讐の事を考えてたもんね。
だけど自分と同じ子供には優しいわ。みんななつをお姉ちゃんみたいに思ってる。
だからここでは私がみんなのお母さん、なつがお姉さんね。』
そういう感じですごく気に入られていたので、なつちゃんだけは特別に繭の道を使ってもいいことになっていた。
・・・もしも誰かがこの写真に興味を持ってくれれば、色んな所に拡散してくれるかもしれない。
真剣にこの話を信じて、それを世の中に広めてくれる人。
そんな人が現れるのを待ったのだ。
そして・・・・そんな人が現れた。
ツイッターに写真を上げてから四ヶ月後、自称オカルト雑誌の記者が連絡を取ってきた。
オカルト雑誌って・・・・・って最初は思ったけど、なつちゃんはその人に会ってみることにした。
今のところ何の希望もないので、とりあえずすがってみる事にしたわけだ。
『じゃあみんな、記者さんに会いに地球へ行って来る。でもヴェヴェには内緒ね。
私がどこにいるか聞かれたら、バレないように誤魔化して。』
今日の朝、そう言い残して出て行った。
果たしてなつちゃんは上手くやっているのか?
記者は記事にしてくれるのか?
いっぱい不安はあるけど、今は待つしかない。
なるべくいつも通りに振舞っていないと、いつヴェヴェに疑われるか分からない。
幸い昼に会ったきりで、なつちゃんがどこにいるかは聞かれなかったけど、アイツは勘が鋭いから侮れないのだ。
『みんな。』
いきなり後ろから声がした。
ビクっと振り返ると、ヴェヴェが一つ上の枝にとまっていた。
いつもと同じように、狂気を感じる笑顔をしている。
・・・・いや、なんかいつもより狂気じみてるような・・・・、
『最近ね、ここのルールを守らない子が増えてるみたい。』
そう言ってジロリとみんなを見渡す。
『ルールを守らない子は悪い子よ。そんなの意地悪な大人と変わらないわ。みんなの迷惑になっちゃう。』
笑顔の狂気が増していく・・・。
俺は悪い予感がして、弟と目を合わせた。
『実は今日も一人そういう子がいたわ。地球へ行って、ここの秘密をバラそうとしたの。
私と仲良しの子だったから余計に悲しい・・・・。
可哀想だけど、そういう子には「め!」ってしなきゃダメなの。』
笑顔が消え、狂気だけが残る。
俺も弟も、なつちゃんが無事ではないことを悟った。
『これ以上こんな事が増えたら、ここはダメになっちゃう。そうなるとたくさんの子供が居場所を無くすわ。
だからね、今日は抜き打ち検査をしようと思うの。』
そう言って羽を振動させ、鱗粉を全て振り落とした。
透明になった羽は、鏡のように辺りの景色を反射した。
『お兄ちゃん、あれ・・・・、』
弟が不安そうに呟く。
俺も引きつった顔で頷いた。
『嘘発見器だ・・・・・。』
鏡のようになったヴェヴェの羽は、相手の頭の中を映し出すことができる。
いくら嘘をついても、あの羽の前では無意味だ。
あれは何年か前、まったくルールを守らない子供がいた。
注意すると反省するのだが、すぐに悪さをしてしまう。
なのであの羽を使って、本当に更生するつもりがあるのか映し出したのだ。
・・・・結果は黒。
その子は嘘を見破られ、雲海に溶かされてしまった。
『あれを使うってことは、ヴェヴェは本気で怒ってるんだ。』
ヴェヴェは俺たちの所まで舞い降りて、『一人ずつ調べていくわ』と言った。
『名前を呼ばれた子は前まで出て来て。そして私の質問に素直に答えること。もし嘘ついたってバレるんだから。』
再び笑顔に戻って、鏡の羽を広げる。
『じゃあまずは大地君から。』
そう言って俺の弟に指を差す。
『お兄ちゃん・・・・、』
『・・・・・・。』
弟が手を伸ばしてくる。
俺はその手を掴み、二人でヴェヴェの前に立った。
・・・・もう逃げることは出来ない・・・・。
嘘で誤魔化すことも・・・・・。
だからって弟を一人にさせたくない。
どうせ死ぬなら二人で・・・・・、
『お兄ちゃんも一緒?・・・・まあいいわ、じゃあ二人に質問。あなたたちはルールを破ったことがある?
私を裏切ろうとしたことは?あるいは悪い子と手を組んで、悪いことを企んだことはあるかしら?』
ヴェヴェの視線は槍みたいに尖ってて、すでに俺たちの胸を貫いている。
『お兄ちゃん・・・・・助けて・・・・、』
『・・・・・・・・。』
弟は泣いている。
なのに俺はダメな兄貴で、何もしてやれない。
せめて最後までこの手を握ってやるくらいしか・・・・。
11年前、あのサウナのような部屋にいた時のことを思い出す。
目の前にいるヴェヴェが、俺たちを閉じ込めた母と重なって見えた。

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