蝶の咲く木 第十七話 再び大木へ(1)

  • 2018.01.22 Monday
  • 13:38

JUGEMテーマ:自作小説

目が覚めると、そこは病院だった。
俺は死んだのではなかったか?
子供が集まるあの国で、俺は首を落とされたはずなのに・・・・。
首には包帯が巻かれていて、しっかりと繋がっている。
最近の医療はここまで発達しているのか?
・・・いや、いくらなんでも切られた首は繋がらないだろう。
目が覚めて少ししてから医者がやって来た。
どうして俺が病院で寝ているのかを説明してくれたけど、肝心の部分が分からなかった。
《川で溺れていたのは・・・まあいい。でもどうして首がつながって・・・・、》
医者に聴いても答えは貰えないだろう。
信じがたいあの体験は、誰かに相談できるものじゃない。
ただ一人を除いて・・・・。
《屋敷の爺さんに尋ねるか。》
あの人なら、どうして俺が生きているのか説明できるはずだ。
・・・ていうかそもそも、どうして俺はあんな場所へ行かされたんだろう。
爺さんは言っていた。
口で言うよりその目で見た方が早いと。
あんな不可思議な体験をさせてくれたことはありがたいけど、死ぬような危険な場所ならそう言ってほしかった。
《子供の国とやらに行ったはいいものの、あそこの秘密なんて何一つ分からなかったなあ。》
これは一人で悩んで答えが出る問題じゃない。
早いとこあの爺さんに話を聞かないと。
身体は特に問題ない。
こうして首が繋がっているなら、どこへだって行ける。
よっこらしょっとベッドから降りると、腕に何かが引っかかった。
「なんだ?・・・・ああ、点滴。」
右腕に針が刺さっていて、その先には黄色い液体が入った袋がある。
ていうか・・・・オムツまでしてるし・・・・。
「仕方ないな」とナースコールのボタンを掴む。
するとその瞬間、誰かが病室へ駆け込んできた。
「拓!」
「おお、母ちゃん。」
「ああ、よかった!お父さん拓が起きてる!」
母に続き、父も入って来る。
前より腰が悪いのか、えっちらおっちらと歩いていた。
「お父さんがトイレ行くっていうからついてったのよ。足悪くて不安だから。
そうしたら戻って来る前に先生と出くわして、あんたの目が覚めたって。
よかった〜・・・・ねえお父さん?」
「死人みたいな顔してたからな。もうあのままなんじゃないかって心配だったぞ。」
「そうなんだ。ごめん・・・心配かけて。」
二人を見つめながら、ベッドの縁に腰を下ろした。
「あのさ、ちょっと聞きたいことがあるんだ。俺って川で溺れてたんだろ?その時にさ、何か変わったことってなかった?
例えば首がチョン切れてたとか。いや、例えばの話だけど・・・・、」
そう言いかけた時、俺の言葉を遮るように看護師が駆け込んできた。
「円香さん!」
かなり慌てている。
いったいどうしたんだろう?
「落ち着いて聞いて下さい。奥さんが・・・・、」
そう言って神妙な口調で喋り出す。
・・・・そして看護師の話を聴いてから数分後、妻が俺と同じ病院へ運ばれてきた。
理由は俺と同じく、川で溺れていたから。
ただし俺の時とは違って、意識はしっかりしている。
妻のベッドに腰かけながら、「何があったんだよ?」と尋ねた。
「ごめんごめん、心配かけちゃって。」
気丈な顔で笑う。
しかし左肩には包帯が巻かれていて、少し痛そうにしていた。
「柚子ちゃん大丈夫?なんで川なんかに・・・・。」
母が尋ねると、「道に迷っちゃって」と答えた。
「考え事してたら、いつの間にか拓君が溺れてたっていう川の傍まで来てたんです。
それでどんな川なんだろうって傍まで行ったら、足を滑らせちゃって。」
笑顔を見せながら答えているけど、ふと俺に真剣な目を寄こす。
《なんだ?なんか伝えようとしてるのか?》
妻はたまにこうやってアイコンタクトを寄越してくる。
特に優馬が傍にいる時は。
子供には聞かれたくない話をする時に、『ちょっと来て』という意味なのだ。
今の状況だと人払いしてくれって意味だろう。
《人に聞かれたらまずい話でもあるってのか?》
何を隠しているのか分からないが、とりあえず両親には退席を願った。
「母ちゃん、悪いんだけどなんか飲み物買って来てくれない?」
「ちゃんとあるわよ。あんたの病室に。」
「俺のじゃなくて柚子の。」
「・・・ああ!そうね、気がつかなくてごめん。」
「それと父ちゃん、俺の病室に戻ってなよ。立ちっぱなしだと辛いだろ?」
「気い遣わんでいい。ちょっとくらい平気だ。」
「でも立ってるの辛そうだから。母ちゃん、悪いけど父ちゃんも・・・・、」
「連れてくわよ。」
二人は病室を出て行く。
俺は同室の患者に「どうも」と頭を下げ、サッとカーテンを引いた。
「で、なに?なんか言いたいことあるんでしょ?」
そう尋ねると、「それはお互い様でしょ」と言われた。
「ん?」
「だってお父さん、子供の国に行ってたんでしょ?」
「ちょ・・・・なんでそれを!?」
「私も行ってたから。」
「はああ!?」
「声が大きい。」
「ごめん・・・・。」
「説明しなくても分かると思うけど、繭の道を通って行ったの。」
「繭の道って・・・まさかあの竜巻みたいな?」
「そう。そこで危うく殺されかけた。ヴェヴェって奴に。」
「ヴェヴェ!そんな・・・・大丈夫だったのか!?」
「だから声が大きいって。」
「ごめん・・・・。」
「大丈夫じゃないならここにいないわよ。」
「そりゃそうだな。でも川で溺れてたんだろ?じゃあてっきりヴェヴェにやられたのかと思ってさ。」
「やられそうになったけど助かった。大きなイモムシのおかげで。」
「イモムシ?」
そう言われて、ふと引っかかるものがあった。
あれは雲海へ落ちる前のこと、巨大なイモムシがチラリと見えたような・・・・。
「色々あったのよ、向こうで。それでね、お父さんにもちゃんと知っててもらわなきゃいけない事があるの。
中には・・・・すごくショックを受けることもある。」
妻は辛そうに顔を歪める。
向こうで相当怖い目に遭ったのだろう。
「分かるよ、その気持ち。あの世界は普通じゃない。俺だって首を落とされてさ、マジで死にそうだったんだ。
なんでか分からないけどこうして生きてるけど。」
「そうね、きっと不思議よね。でもその事に関しては、簡単に話せるような事じゃない。心の準備がいることだから。」
「心の準備?何それ?」
「お父さんにも、私にも。」
「・・・・・・。」
いつになく妻の目が真剣になる。
普段はあまり自分の感情を表に出さないのに。
きっと重大な秘密を伝えるつもりなんだろう。
俺は病室のカーテンを見つめ、ふと冗談を漏らした。
「こんな場所で覚悟のいる話か。まるでガンの告知でもされるみたいだな。」
クスっと笑って目を戻すと、一瞬だが妻の表情が歪んでいた。
「どうした?肩が痛むのか?」
「・・・・ごめん、その・・・、」
「なんだよ。まさか本当にガンの告知でもするつもりか?」
「・・・・・・。」
「おいってば。」
「・・・・いつもは妄想ばかりしてるクセに、こういう時だけ勘がいいよね。」
そう言って俺から目を逸らす。
・・・妻は下らない冗談を言うタイプではない。
しょうもない事を言うとしたら、せいぜい優馬を笑わせる時くらいだ。
「もしかしてだけど・・・俺の身に関わること?」
「うん・・・・。」
「もうじき死ぬとかじゃないよな?」
「・・・・・・・・。」
「まさかほんとにガンなわけ?」
「そうじゃないよ。病気とかそんなんじゃなくて・・・・。」
「じゃあ何?」
「・・・・クローン。」
「ん?」
「お父さん、どうして死ななかったかっていうと、クローンを・・・・、」
そう言いかけて口を止めた。
「ごめん、やっぱこの話は最後で。」
「なんで?気になるじゃんか。」
「・・・・・・。」
「クローンってなに?」
「・・・・・・。」
「なあ。」
「・・・・・・・。」
それから何度聞いても、妻は口を開かなかった。
俺は「んだよ・・・」と腕を組み、パイプ椅子にもたれかかった。
《クローンってなんだ?》
なんの事やらさっぱりと思っていたが、先ほどのイモムシの時と同様、ふと胸に引っかかることがあった。
《そういやつい最近その言葉を聞いたな。あれは確か・・・・・・・、》
屋敷で爺さんと話していた時のことを思い出す。
あの時、爺さんは確かクローンという言葉を使った。
どういう意味で使ったのかというと、子供の国にいる子たちが、再び地球へ戻ってくる方法についてだ。
《確か二通りの方法があるんだっけ。一つは新しい人間として生まれ変わること。もう一つはクローンで元通りの人間に戻ること。
だけどクローンの場合はそう長生きしないって言ってたな。長くて10年、短いと3年って・・・・、》
そこまで思い出した瞬間、その先を考えることが出来なくなってしまった。
「・・・・なあ。」
目を逸らす妻を見つめる。
「俺、一回死んだのか?」
「・・・・・・・。」
「それでクローンになって生き返ったのか?」
「・・・・・・・。」
「もしそうだとしたら、いま生きてることにも説明がつく。だけどそうなると俺は・・・・優馬が大人になる前には死んでるってことだよな?」
妻は黙ったままだ。
いつもは気丈なクセに、膝の上で指をもじもじさせている。
「黙ってるなよ、教えてくれ。」
「それは・・・・・、」
「そうなんだろ?俺は一回死んで、それで生き返ったんだろ?クローンになってさ。」
「・・・・は、半分は・・・・、」
「え?なに?」
「半分は・・・・当たってる。」
「半分ってなに?それしか考えられないじゃんか。」
「その・・・死んではいない。だけど死ぬ一歩手前だった。その時にあの子が助けてくれたから。」
「あの子?あの子って誰?」
「遠野真鈴ちゃん。お父さんが取材しようとしてた子。」
「は?いや、あの子は確かヴェヴェに殺されて・・・・・、」
「真っ二つにされて雲海へ落とされたそうよ。でも運良く木の根に引っかかったんだって。」
「じゃあ死んでないのか?」
「うん。羽から糸を出して、切られた身体をくっ付けたって。」
「そ、そなんで治るのか・・・?」
「人間なら死ぬでしょうね。でもあの子は宇宙人モドキだから。」
「そっか・・・生きてたのか・・・。」
「お父さんが首を切られて雲海へ落とされた時、たまたま真鈴ちゃんがそれを助けたの。
それでね、自分の羽から糸を出して、とりあえず頭を包んだんだって。」
「・・・・・・。」
「それを屋敷のお爺さんに預けたそうなの。お爺さんはさらにそれを自分の糸で包んで、繭の状態にしたそうよ。
そうしてお父さんは生き返ったってわけ。だから頭はオリジナルだけど、首から下は・・・・、」
「じゃあやっぱりクローンなんだな?俺はあと3年から10年しか生きられないってことだろ?」
「真鈴ちゃんが言うには・・・・。」
「やっぱりそうか・・・・死んだはずなのにおかしいと思ったんだ。」
ようやく納得がいった。
今の身体はただのコピーで、元の肉体はもう滅んでいるわけだ。
・・・正直なところ、事実を知ってもそこまでショックじゃなかった。
なぜならいまいちピンとこないから
頭では分かってるんだけど、心までついていかない。
もう少し時間が経てば、泣いたり悲しんだりするのかもしれないが・・・・。
「お爺さん、もういないんだって。」
「え?」
妻が唐突に言う。
「ヴェヴェに殺されちゃったそうよ。勝手に繭の道を作って、お父さんを子供の国へ飛ばしたから。」
「そんな!だって・・・・いや、でもそうか。自分でも言ってたもんな。俺はヴェヴェに殺されるだろうって。
だけどそんな急に・・・・・。まだ助けてもらったお礼も言ってないのに。」
「そうだけど、元はと言えばそのお爺さんのせいじゃない。お父さんが危険な目に遭ったのは。」
「だってそれは俺が知りたいって言ったからなんだよ。なつちゃ・・・真鈴ちゃんが地球を守ってくれって言って、でもその方法が分からなかった。
だから向こうへ飛ばしてくれたんだ。百聞は一見に如かずみたいな感じで。」
「でも実際に死にかけたじゃない。ステルスも見破られて。」
「そういえばヴェヴェがそんな事を言ってたな。ステルスがどうとか・・・・。」
「お爺さん、ステルスっていうのを使って、安全にお父さんを飛ばしたつもりだったのよ。
だけどヴェヴェはそんな甘い奴じゃなかった。私の時だって見破られたし・・・・、」
「ちょっといいか?」
妻の言葉を遮り、身を乗り出す。
「詳しく教えてくれよ。いったい向こうで何があったんだ?知ってること全部教えてくれ!
そうじゃないと俺は真鈴ちゃんとの約束を守れない。」
「それも聞いた。あの大きな木・・・地球に根を張るつもりなんでしょ。」
「そうだよ!もしそんな事になったら・・・・・、」
「それを止める為に、私は向こうへ呼ばれたの。」
「へ?」
「真鈴ちゃんに言われたのよ、円香さんに協力してあげてって。」
「あの子が?」
「真鈴ちゃんが言うには、地球の軍隊だけじゃ勝てないって。そりゃ核ミサイルとかバンバン撃ったら倒せるだろうけど、そんな事したら・・・、」
「放射能で汚染されて、生き物が住めなくなるな。」
「うん、だからあの木がこっちへ来る前に弱らせないといけないんだって。核兵器なんて使わなくても倒せるくらいに。」
「弱らせる?」
「そう、イモムシでね。」
妻はニコリと頷く。
どうやら俺の代わりに、向こうで地球を守る方法を知ったようだ。
「今から話す事の中には、すごくショックなこともある。私だってまだ受け入れることが出来ないこととか・・・。」
「俺がクローンってこと以上にか?」
「きっと自分の事以上に辛いと思う。」
「怖いこと言うな。まさかお母さんもクローンだっていうつもりじゃないよな?」
恐る恐る尋ねると、「違う」と首を振った。
「そうじゃなくて・・・・、」
「いいよ、言ってくれ。自分がクローンだって知ったんだ。それ以上に覚悟のいる話なんてないだろ?」
何でも言ってくれと、ドンと胸を張る。
妻は「落ち着いて聴いてね」と、慎重な口調で語りだした。
子供の国で見聞きしたことを全て、言葉に紡いでいく。
そのどれもが驚くことばかりで、俺は開いた口がふさがらなかった。
だけど一番ショックだったのは・・・・、
「そんな・・・・なんで!?」
自分がクローンだと知った時以上に・・・・いや、そんな事さえどうでもよくなる程のことを聞かされた。
「ショックだよね・・・・私だって真鈴ちゃんにそう教えられた時、なんでよ!って叫んじゃったもん・・・・。」
「当たり前だろ!だってそんな・・・・優馬が・・・・優馬まで・・・・、」
頭を抱え、うずくまるように項垂れる。
「そりゃ確かに去年、優馬は死にかけたけど・・・・でもだからって・・・・そんな理由で助かったなんて・・・、」
確かにこれは覚悟のいる話だった。
いや、覚悟なんてしていたって、受け止め切れるものじゃない。
本当は死ぬ運命にあった者が生きながらえる。
そこには普通ではない秘密が隠されていたのだと、頭を掻きむしるしかなかった。
「優馬に別の子供の魂が・・・・。」
「その子も優馬君って言うの。ほら、去年のクリスマスに囚人が焼け死ぬ事件があったでしょ?
その人の子供の魂が・・・・、」
「なんだよそれ・・・・。」
「このままだと優馬は優馬じゃなくなる。いつか意識を乗っ取られて、もう一人の優馬君に・・・・。」
「んなことあってたまるか!俺たちの子供だぞ!」
「分かってる、だから覚悟がいる話だって言ったのよ。」
「・・・なんてこった。なんで優馬まで巻き込まれなきゃいけないんだ。」
眉間に皺を寄せながら、「なんで・・・」と繰り返す。
俺も妻も、しばらく黙り込むしかなかった。

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