不思議探偵誌 最終話 挑戦、再び!(3)

  • 2010.07.28 Wednesday
  • 09:20
 終わった。全て終わった。
俺の事務所にメロンちゃんを連れて、茂美と尾崎がやって来た時にそう思った。
尾崎は俺より先に、メロンちゃんを見つけたのだ。
尾崎と茂美はソファに座り、透明なカゴに入れたメロンちゃんをテーブルの上に置いた。
俺と由香利君は、茫然としたままメロンちゃんを見ていた。
「ふふふ、今回の勝負は私の勝ちですね。
やはり真の超能力探偵は私の方だったということです。」
尾崎が勝ち誇ったような笑みを浮かべ、俺を見下していた。
「久能さん、残念だったわね。
私はどっちかと言えば久能さんの方を応援していたんだけど、でもこうやって結果が出ちゃったからね。
尾崎さんの言う通り、あなたの負けよ。」
茂美の言葉は深く俺の心に突き刺さり、言葉は出てこなかった。
昨日、俺と由香利君は一生懸命になってメロンちゃんを捜した。
尾崎に負けたらどうしようという不安な思いが心の大半を占め、しかし由香利君が励ましてくれたおかげでやっとやる気が出てきた時に、茂美から尾崎が先にメロンちゃんを見つけたという電話を受けた。
あの後、そのことを知った由香利君はとても悔しそうな顔をしていたっけ。
唇を噛み、目を細めながら肩を震わせていた。
由香利君は何も言わなかった。
俺も何も言えなかった。
絶対に負けるものかと思っていたのに、二人でまだ探偵を続けたいと思っていたのに。
負けたら事務所の看板を降ろさなくてはいけない。
そのことだけが俺の頭を支配し、昨日は駅で由香利君と別れたあと、どうやって家まで帰ったのか覚えていなかった。
家に帰っても眠れず、気が付けば朝になっていた。
とりあえずコーヒーでも飲もうと布団から出た時に茂美からケータイが鳴った。
「今日メロンちゃんを連れて、尾崎さんと一緒にあなたの事務所に行くわ。
久能さん、負けちゃって可哀想だとは思うけど、これも勝負の結果だから仕方ないわよね。」
茂美からの電話に言葉は返さず、俺はケータイを切った。
食欲はなく、朝は何も食べないで事務所までやって来た。
あとからやって来た由香利君は、「おはようございます」と言ったきり、何も言わなかった。
そして事務所で待つこと一時間、こうして尾崎と茂美がやって来た。
メロンちゃんはカゴの中で忙しなく動き回り、事務所の中をキョロキョロと見渡していた。
「久能さん、約束は覚えていますよね。
負けた方が事務所の看板を降ろす。」
「言われなくても、分かっている。」
何とか声を絞り出し、尾崎に向かって言った。
「まあ、これからあなたは探偵じゃなくなるわけです。
さっさと次の仕事を探さないとね。」
尾崎は皮肉たっぷりに言い放った。
そうだ。
俺は探偵じゃなくなるんだ。
次に何をすればいいかなんて、まだ考えられなかった。
「何処でです?」
唐突に由香利君が口を開いた。
全員が由香利君を見る。
「何処でメロンちゃんを見つけたんですか?」
低い声で由香利君は言った。
まるで尋問する刑事のように。
「ふふふ、このメロンちゃんが無類の女好きだということは、茂美さんから聞いていましたからね。
しかも若い女性を好む。
だったら、若い女性が集まる場所を捜せばいい。
私は5キロ先まで見通せる透視能力を持っています。
それを駆使しながら、女子高を捜して回っていたのですよ。」
女子高か。
俺は素直に尾崎の目の付け所がいいと思った。
俺達は以前に駅前でメロンちゃんを見つけたので、駅を重点的に捜していた。
しかし、逆にそれが裏目に出たようである。
尾崎の考えることはもっともだ。
メロンちゃんは若い女性を好む。
だったら、若い女性が多く集まる場所を捜せばいい。
そのことが思い浮かばなかった自分が、悔しくなった。
「三つめの女子高を回った時です。
透視能力を使って、学校全体を見渡していました。
ちょうど下校時間でしたね。
私は校門のすぐ近くにいたんです。
すると、私の透視能力にメロンちゃんの姿が浮かびましてね。
学校の裏門でした。
テニスの部活をしている女子生徒を、じっと見つめているのを発見したんです。
持っていたカゴにすぐに捕獲したというわけです。」
由香利君は俯き、それ以降は何も喋らなくなった。
やはり尾崎の超能力はすごい。
もし俺が女子高を捜しても、学校全体を見渡す力などない。
勝負は超能力だけで決するわけではないと思っていたが、尾崎は俺には無い着眼点と、その強力な超能力を使ってメロンちゃんを捕獲したわけだ。
俺は項垂れ、自分の力の無さを痛感していた。
「由香利ちゃん、久しぶりやなー。
相変わらずべっぴんさんや。」
カゴの中のメロンちゃんが、体をクネクネ動かしながら、嬉しそうに由香利君を見る。
「やっぱり若い女の子はええなあ。」
右頭のメロンちゃん一号が言う。
「茂美さんみたいな色っぽい美人も好きやけど、由香利ちゃんみたいなのもタイプやでえ。」
左頭のメロンちゃん二号が愛想を振りまく。
由香利君はメロンちゃんの言葉を聞いているのかいないのか、視線を自分の足元に定めたまま動かない。
「なあ由香利ちゃん、今度俺らとデートしようや。
景色のええ場所知ってんねや、な。」
メロンちゃん一号が舌をチロチロ出しながら由香利君の気を引こうとする。
「そやそや。
それがええ。
今度俺らとデートしよ。
俺ら由香利ちゃんのこと大好きやねん。
景色のええとこを一緒に歩いて、ロマンティックな気分に浸ろうや。」
メロンちゃん二号がしつこく由香利君を誘う。
俺は黙ってメロンちゃんを見ていた。
メロンちゃんの二つの頭の目は、由香利君に釘付けで、「なあなあ、デートしよ」とまだ体をクネクネ動かしながら誘っている。
尾崎も茂美も言葉を発さず、ただメロンちゃんを見ていた。
「なあ、由香利ちゃん、俺らとデート・・・。」
そう言いかけた時、由香利君が勢いよくソファから立ち上がった。
泣きそうな顔でメロンちゃんを見下ろし、両手は拳を握って、体はわずかに震えていた。
「私は、あんた達のことなんか大嫌いよ!」
由香利君は大声で言うと、そのまま走るように事務所を出て行った。
「ああ、由香利ちゃん、カムバックー!」
メロンちゃんの悲しげな声が空しく事務所内に響き渡った。
「メロンちゃん、私より由香利ちゃんの方がいいの?」
茂美がメロンちゃんに声をかける。
「いやいや、茂美さんも大好きやでえ。」
メロンちゃん一号が答える。
「その色っぽい体と雰囲気、たまらんわあ。」
メロンちゃん二号が茂美に向かって言う。
「ふふふ、やっぱりメロンちゃんは女好きなのねえ。
まあ、そこが可愛い所でもあるんだけど。」
そう言うと茂美は立ち上がり、メロンちゃんの入ったカゴを手に取った。
「久能さん、あなたが探偵をやめなきゃいけないのは残念だわ。
でも、勝負は勝負。
結果には従わないとね。」
そう言ってドアまで歩き、出て行く間際に、俺に向かって言った。
「もう会うことは無いかもしれないけど、元気でね。」
茂美はドアを閉め、そのまま去って行った。
「久能さん。」
尾崎が俺に呼びかけ、俺は彼の顔を見た。
「茂美さんの言った通り、勝負は勝負です。
近いうちに事務所の看板を降ろして下さい。
あなたには悪いがね。
この世に、超能力探偵は私一人で十分だ。」
そう言うと尾崎も立ち上がり、俺を見下ろした。
「まあ、あなたには超能力探偵を名乗る資格は無かったということですよ。
早く次の仕事を見つけて、これからは普通に暮らして下さい。」
そう言い残し、尾崎も去って行った。
事務所には俺一人。
窓の外は曇っていて、まるで俺の心を映しているようだった。
俺は立ち上がってコーヒーを入れ、自分の椅子に座る。
窓を開け、タバコに火を点けて、大きく煙を吐き出した。
外を流れる風が、タバコの煙を運び去っていく。
コーヒーを口に含んだが、まるで味を感じることはなく、タバコも吸いつくして灰皿に押し付けた。
机の中には由香利君に隠して買ったエロ雑誌が入っている。
手に取ってパラパラとページをめくるが、まるで内容は頭に入ってこなかった。
俺は、もう探偵じゃなくなるのか。
もう依頼を持ちこまれることもない。
茂美から変なことを頼まれることもない。
そして、由香利君と一緒に街を歩くこともなくなるのだろう。
窓に近づき、曇った空を見上げていると、今までのことが思い出された。
思えば、妙な依頼ばかりだった。
とても探偵の仕事とは思えないものもあった。
でも、今になって思えば、どれも楽しかった気がする。
脱サラをして始めた探偵業は、俺の生き甲斐だった。
サラリーマン時代は何も刺激がなく、生きている実感というものがまるでなかった。
宝くじを当てた時、これで俺は変われると思った。
超能力を活かし、探偵という仕事を始めてからは生きているという感じがした。
やがて由香利君を雇い、彼女と行動を共にするようになって、さらに人生の充実度は増していった。
由香利君はいつだって俺の隣にいて、俺の行動にあれこれ口を出し、時には励ましてくれた。
探偵も由香利君も、俺にとって大切なものだ。
そのどちらも、もう失われようとしている。
俺は窓を閉め、事務所の表に出た。
「久能司探偵事務所」
そう書かれた看板を眺めた。
初めてこの看板を掲げた日、俺はワクワクしていた。
これからどんな依頼が舞い込んでくるんだろう。
きっと刺激のある素晴らしい人生を送れるに違いない。
そう胸を膨らませていた。
その時は、この看板を降ろす日がやってくるなんて思いもしなかった。
感慨深く事務所の看板を眺めていると、由香利君がとぼとぼとした足取りで帰って来た。
「やあ、何処に行ってたんだい?」
俺の問いには答えず、彼女は俺と同じように事務所の看板を見つめた。
俺はじっと由香利君の横顔を見た。
涙が目にいっぱいに溜まっていた。
やがて由香利君は俯き、唇を噛んで、小さな嗚咽を漏らした。
由香利君の涙が、一つ二つと地面に落ちていく。
何故由香利君は泣いているんだろう。
尾崎に負けたことが悔しいから?
それとも探偵事務所を閉めたくないから?
由香利君は、まだ俺と探偵を続けたいと言っていた。
しかし俺の力及ばず、その願いは叶えられなかった。
ごめん、由香利君。
俺は心の中で詫びた。
俯いて泣く由香利君を見て、俺は言った。
「ま、まあ仕方ないさ。
こういうこともある。
勝負は時の運。
今回は、たまたまついてなかっただけだよ。
な、だから泣くなよ。」
努めて明るい声を出して言った。
「由香利君、あんまり泣いてちゃ可愛い顔が台無しだぞー。」
そう言いながら俺はふざけて由香利君のお尻を撫でた。
しかし、鉄拳も回し蹴りも、かかと落としも飛んでこなかった。
由香利君はただ、泣いてばかりいた。
「ごめんな。
俺がもっとしっかりしていれば、探偵をやめることはなかったかもな。
本当にごめん。」
心に思っていることを、素直に言葉に出した。
曇り空はだんだんと濃くなり、一雨きそうな予感だった。
「わ、私・・・。」
由香利君が、泣きながら小さな声を出した。
俺は黙って由香利君を見ていた。
「私、まだ探偵をやめたくないです。
まだ、久能さんと一緒に、探偵をしていたい!」
そう言って俺の隣で泣いている由香利君に、かける言葉が見つからなかった。
俺は「久能司探偵事務所」と書かれた看板を見つめ上げる。
降り出してきた雨が、俺の頬を濡らした。

                              最終話 またまたつづく


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