蝶の咲く木 第二十五話 星を覆う羽(1)

  • 2018.01.30 Tuesday
  • 14:21

JUGEMテーマ:自作小説

どんな危機的な状況であれ、人の行動が一律であるとは限らない。
大災害の最中、避難する人もいれば、踏みとどまって誰かを助けようとする人もいる。
どの行動が正しいか?というわけではない。
人間には誰だって自分の意志があり、同じ状況を前にしても、取る行動は異なるということだ。
空にとてつもない巨木が現れ、大地を貫き、地球へ根付こうとしている。
それを迎え撃つために、人間は軍隊をもって対処した。・・・・いや、今もしている。
空は真っ赤に焼けて、あちこちに燃え盛る木炭が降ってくる。
それは瞬く間に街を炎で包んだ。
多くの人はすでに避難している。
燃え盛る建物の中に、すでに人はいないだろう。
しかし俺はまだこの街にいた。
それもボロい寺の中に。
本堂には阿弥陀如来が座して、大きな手の平をこちらに向けている。
その前には坊さんが座り、ビニールシートに包まれた骨を、丁寧に並べていた。
「あの・・・・本当にいいんですか?逃げなくて。」
そう尋ねると、「手伝ってもらえますか?」と、骨を並べるように手を向けてきた。
川底から掘り出した骨を、元の形になるように、丁寧に並べていく。
「すいません・・・・こんな時に葬式なんてお願いしちゃって。」
「あなたこそ逃げなくていいんですか?いつここも燃えるか分かりませんよ?」
「いいんです、俺には責任があるから。それにあの子に会わないと。」
「幽霊ですか?ほんとにいるんですか?そんなもの。」
「お坊さんなのに見たことないんですか?」
「私は霊能者ではありませんから。あの世のことなど存じませんな。」
ニコっと笑うその顔は、可愛いお爺ちゃんのようにも見えるし、獰猛な獣のようにも見えた。
だから言っていることが冗談なのか本気なのかも分からない。
これが徳ってやつなのか?・・・・なんて余計なことを考えていると、庭に木炭が降ってきた。
そいつは灯篭に当たり、地面へ落ちてパチっと弾ける。
「顔が青いですぞ。」
「だって怖いですから・・・、」
「なら逃げればいいものを。」
「いや、でも責任がですね・・・・、」
「何度も聞きました。さて・・・・状況が状況ですから、すぐに葬儀を始めましょうか。」
そう言って木魚を叩き、リズミカルにお経を唱え出す。
俺も手を合わせ、目を閉じて黙祷を捧げた。
《頼む!出て来てくれ!このままじゃ地球がやられちまう!》
あの巨木のデカさは桁が違う。
きっとここ以外にも被害が出ているだろう。
日本だけでなく、間違いなく他所の国でも。
《アメリカやロシアは核をぶっぱなすのかな?そうなったら巨木をやっつけても、放射能だらけになっちまうよな。》
一番いい方法は子供の国を消滅させることだ。
だがその手段として核兵器を使われてはたまらない。
・・・・ポクポクポクと木魚の音が響く。
また庭に木炭が落ちてきて、門の下で燃えていた。
《うわあ・・・・逃げたい!》
妻は大丈夫だろうか?優馬は無事だろうか?
親は?河井さんは?ついでに松永は?
こんな時、考えるまでもなく大事な人の顔が浮かんでくる。
もっと話しておけばよかったとか、遊んでおけばよかったとか。
チラリと目を開け、大きな阿弥陀如来を睨む。
本当に仏がいるなら、どうかあの巨木を遠くまで叩き飛ばしてくれと願った。
次々に頭に浮かぶ、家族や同僚や友人の顔。
するとその中に、ふとあの子の顔が浮かんだ。
それも写真のように鮮明に、生々しく・・・・。
恐怖で目を開けると、少年はすぐ目の前に立っていた。
「あ・・・・、」
・・・じっとこちらを見ている。
そしてポケットを漁り、クシャクシャになった紙を取り出した。
『あげる。』
「これは・・・・残りの絵か?」
『うん。』
広げてみると、間違いなくもう半分の絵だった。
空に巨木が浮かび、下の方では大人が焼かれている。
しかしこの前手に入れた絵とは一つだけ違う部分があった。
画面の上の方、巨木の辺りに二匹の虫が描かれている。
一つは蝶だ。
モルフォ蝶のような美しい羽をしている。
そしてもう一つは・・・・、
「これ、もしかして蛾か?」
『悪い奴。』
「え?」
『蝶を追いかけてきた悪い奴。悪い大人。』
「悪い大人・・・・・。」
『子供の国を滅ぼそうとしてる。死んだ後でも子供を追いかけてきて、暴力を振るう悪い大人。』
「・・・・・・・・。」
少年の言う通り、確かにそう見えなくもない。
蝶は背中を向け、蛾から逃げているような感じだ。
「・・・なあ?」
俺はある疑問を抱いていた。
ここに蝶と蛾が描かれているのは・・・まあいい。
きっと何か意味する所はあるんだろうけど、今はもっと気になることがあった。
「イモムシはどこにいるんだ?」
そう、この絵には根っこを齧る巨大なイモムシがいるはずなのだ。
この少年を殺した犯人が、イタズラで書き込んだものだ。
俺の持っている方の絵には描かれていなかったので、てっきりもう一枚の方かと思っていたけど・・・・、
「ここにはイモムシが描かれているはずだろ?もしかして自分で消したのか?」
『蛾になった。』
「なに?」
『繭を作って、サナギになって、大人になったの。それがコイツ。』
そう言って絵に描かれた蛾を指差す。
『大人になったから子供の国を襲ってる。』
「・・・・じゃあさ、こっちの逃げてる蝶はなんなんだ?もしかしてヴェヴェか?」
『うん。』
「それじゃヴェヴェは悪い大人に追いかけられてるってことか?」
『うん。』
「これ、全部君が描いたのか?この蝶も蛾も。」
『違うよ。勝手にそうなったの。』
「なんだって?だってこれは君が描いたものなんだろ?勝手にってどういうことだ?」
『もうその絵は僕のじゃないから。』
「は?」
『僕はもういい・・・・。子供の国はきっとなくなっちゃうし、こうやってお葬式してくれたし。』
少年は初めて笑顔を見せる。
自分の骨を見つめ、『もうなんにも痛くない・・・』と目を閉じた。
「おい・・・、」
『もっと早く・・・お葬式をしてもらってたら、もっと早く天国に行けてたのに・・・・。』
なんとも切なく、それでいて嬉しそうな声で言う。
少年は如来像の方へと歩いて、その大きな手のひらに乗った。
『大仏さんが連れてってくれるって。』
「・・・どこへ?」
『天国。』
「成仏するのか?」
『うん。』
「いや、ちょっと待ってくれ。」
俺も立ち上がり、如来像へと歩いた。
「今逝かれたら困るよ。」
『どうして?』
「だってあの空には巨木が来てるんだ。ほっといたら地球が危ない。君ならあれをどうにか出来るんじゃないのか?」
『無理だよ。もう僕の手の届かない所へ行っちゃったから。』
「それが分かんないんだよ。だってあれは君が描いた世界で・・・・、」
『大丈夫だよ。もう子供の国はなくなるから。』
「それは・・・蛾が滅ぼすからか?」
『うん。』
「・・・まさかとは思うけど、その蛾って地球を襲ったりしないよな?」
これは聞かずにはいられなかった。
俺は今まで二度、ある幻を見ている。
そのどちらにも蛾が出てきた。
あの幻はとても鮮明で、ただの幻覚とは思えない。
何か嫌なことが起こる予知夢のようなものではないのかと、ずっと不安だったのだ。
「あの蛾・・・・地球を砂漠に変えたりしないよな?襲って来たりしないよな?」
どうか違うと言ってほしい。
そうでなければ、子供の国がなくなっても意味がない。
答えを待っていると、少年はこう答えた。
『もし・・・・、』
「もし?」
『悪い方に未来が進んだら、きっとおじさんが見た通りの世界になると思う。』
「どういうことだ?」
『地球が砂漠になるのは、核兵器をたくさん使ったから。ほうっとけば子供の国はなくなるのに、焦って撃っちゃったらそうなる。』
「あれは人間の仕業だってのか?」
『でも蛾は死なない。それに蝶も死なない。』
「どうして?子供の国はなくなるんだろ?だったら蝶だっていなくなるんじゃないのか?」
『ヴェヴェを舐めたらダメだよ。アイツはとっても怖いんだ。悪い宇宙人じゃないけど、良い宇宙人でもないから。』
「怖い奴だってのはよく分かるよ。現に俺だってこんな身体になっちまったんだから。」
今の俺はクローンだ、もって10年の寿命しかない。
その元凶となったのはもちろんヴェヴェ。
奴は子供の味方かもしれないが、命を命とも思わない残酷な所がある。
「じゃあ人間が核兵器を使いまくったら、この星は砂漠に変わって、ヴェヴェと蛾だけが生き残るってのか?」
『うん。』
「そんな・・・・・、」
『大人も子供もいなくなる。でもそれって、ある意味一番いい世界なのかもね。』
「いいわけないだろ!人間が滅ぶってことじゃないか!!」
『それの何が悪いの?』
「なにが悪いのって・・・・、」
『大人も子供もいなかったら、虐待もないし、犯罪で死ぬ子供もいないよ。』
「そりゃ極端すぎだろう!だってみんながみんな不幸な子供じゃないんだぞ!」
俺とこの子では生きてきた道が違う。
親に虐げられ、最後は変態に殺されたこの少年にとっては、大人は悪の象徴なのだろう。
その境遇には同情するし、その気持ちも分かる。
でも大人も子供も消え去るなんてあってはならないことだ。
世の中、子供の天敵になる大人だけじゃない。
子供を護る大人だってたくさんいるのだ。
「なあ、どうにかできないか?どうやったら悪い未来を避けられる?」
どうか良い答えをくれと、返事を待つ。
すると・・・・・、
『あのことを解決すればいけるかも。』
「何か条件があるってのか?」
『僕を殺した犯人を捕まえること。』
「捕まえるって言われても・・・・あのオッサン、証拠となるものは全部燃やしたんだろ?」
『僕の分はね。』
「僕の分はって・・・・じゃあ他の子供の写真は・・・、」
『あるよ。』
「・・・・それを先に言えよ。」
ちょっとイラっとくる。
『ていうか自分が殺した子供の写真は燃やしたんだ。そうじゃない子供の写真は残ってる。』
「え?あのオッサンって君以外にも子供を殺してるのか?」
『うん。』
「・・・・・・・・・。」
『さすがに殺人はバレたらヤバいから、そういう写真だけは捨てたんだ。あのオジサンの子供が。』
「あのオジサンの子供・・・・って、あの子供っぽい青年のことか?」
『あの人はニートで、お父さんしか頼る人がいないんだ。だからお父さんが殺人で捕まらないようにする為に捨てたんだよ。』
「あの青年が・・・・。だってあんなに子供っぽいのに・・・・、」
『おじさんが記者だって名乗ったから、余計なことは言わなかったんだと思う。』
「でもそうだとしたら変だぞ。だってあいつは自分から取材してくれって追いかけてきたんだ。
最初は断ったのに・・・・。本当に隠すつもりならそんな事しないだろ。」
『また来られたら困るから、あえて自分から行ったのかもね。大人ってそういう所はズル賢いから。
あの人は子供っぽいけどもう大人だもん。知恵が回るっていうんでしょ?こういうの。』
「・・・・・・・・。」
『だけどあの人がUFOを見るっていうのは本当だよ。』
「あいつは蛾みたいなUFOだって言ってた。それって君が言っている蛾と関係あるのか?」
『それはきっとヴェヴェだよ。』
「ヴェヴェ?だってあいつは蝶だろ?蛾じゃないんじゃ・・・・、」
『蝶と蛾の区別って曖昧だから。人によっては蝶にも見えるし、蛾にも見えるし。実は決定的な違いってないんだよ。』
「そうなのか?いや、虫には疎くてだな・・・・、」
『とにかく犯人を捕まえれば、蝶も蛾も消えるかもしれない。』
「どうして?今さらそんなことしたって、どうにかなるとは思えないんだけど・・・・。」
『なるかもしれないし、ならないかもしれない。まあ捕まえてみれば分かるよ。』
「そんな曖昧な・・・・、」
『それともう一個教えてあげる。本当は大人に協力するの嫌なんだけど、おじさん良い人そうだから。』
少年は如来の手から飛び降りて、俺の前に立った。
『実はね、もう一人嘘ついてる人がいるんだ。』
「誰?」
『あのお爺さん。』
「お爺さん?それって屋敷の?」
『だっておかしいと思わない?子供の国って20年前にできたのに、あのお爺さんはもっと前に子供の国に行ったって言ってるんだよ。』
「ああ、それは俺も思った。なんでだろうって。」
『あの人はまだ生きてるよ。』
「え?だってヴェヴェに殺されたんじゃ・・・・、」
『ううん、生きてる。だって死んだりしないもん。あの人は人間じゃないから。』
「人間じゃない?・・・・まさかヴェヴェと同じ宇宙人とか?」
『違う。あの人の正体は・・・・・、』
少年はニッコリ笑い、『じゃあ』と如来の手に戻っていく。
『僕もう行くね。』
「おいコラ!どうして謎めいたことを言い残していくんだ?全部喋ってけよ。」
『だって大人は嫌いだもん。意地悪された分は仕返ししないと。』
「俺は何もやってってないだろ。」
『でも大人が嫌いだから。』
クスっと肩を竦め、『バイバイ』と手を振る。
『僕はもう天国に行くから関係ない。』
「こっちは関係あるぞ!」
『せいぜい頑張って。』
「お前なあ・・・・地球が危ないってのに・・・・、」
『全部大人が悪い。僕のせいじゃないよ。』
少年は取り付く島さえ与えてくれない。
やがて如来の手が光り、大きな蓮の花が咲いた。
その蓮は少年をすっぽりと包んでしまう。
そして花びらが開いた時には、もうどこにもいなかった。
「おい!待てよ!!」
俺も手の平に乗っかろうとすると、ベシっと如来に叩き飛ばされた。
「ぐおッ・・・・・、」
立ち上がり、「ちょっと!」と詰め寄る。
「あんた仏様だろう!だったら地球を救うのに手を貸し・・・・、」
・・・・言い終える前にまた叩かれる。
今度は寺の外まで弾き飛ばされ、思いっきりお尻を打ってしまった。
「痛った・・・・・、」
お尻を撫でながら、「ちょっと待てって!」と境内に駆け込む。
すると辺りは真っ赤に燃えていて、如来像にまで火が回っていた。
「な、なんだ・・・?どうしていきなり火が・・・・、」
「何してるんです!」
後ろから腕を引っ張られる。
見ると坊さんが慌てた様子で叫んでいた。
「逃げないと死にますぞ!」
「あの・・・・、」
「もうあの子の魂は逝きました!」
「・・・・見えてたんですか?」
「坊主ですからな。あんたさっきまでこの世とあの世の狭間におったんです。」
「なんですかそれ?」
「あんたが幽霊と会いたいっていうから、私がそうしたんです。でもここまで火が回っては・・・、」
寺のあちこちが赤く染まり、見渡す限り火の海だ。
境内の中を振り返ると、如来像がシッシと手を振っているように見えた。
「あの、いま大仏が・・・・、」
「逃げろと言っとるんです。さあ早く!」
坊さんに引っ張られ、寺の外へと連れ出される。
「待って!」
その手を振り払って、俺は境内へと駆け込んだ。
「危ないですぞ!」
「これ持って行かないと・・・・。」
燃え盛る大仏の前に行き、少年の骨をかき集める。
一部は燃えてしまったが、頭蓋骨や骨盤は残っていた。
そいつをブルーシートに包んで、急いで逃げ出した。
寺は少し山を登った所に立っていて、ここからだと街を一望できる。
俺も坊さんも変わり果てた街並みを前に、ただ言葉を失くすしかなかった。
「ひどいなこりゃ・・・・。」
火の海になっているのは寺だけじゃなかった。
街のあちこちで炎が蠢いている。
しかし一番異様なのは巨木の根っこだ。
スカイツリーよりも遥かに大きくて太い根が、大地を貫いていた。
それも一本や二本ではない。
街を串刺しの刑に処すかのごとく、至る所に根を下ろしている。
空ではまだ戦いが続いていて、続々とやって来る戦闘機が、これでもかとミサイルを撃ち込んでいた。
やがて攻撃ヘリまで飛んできて、根っこに機関砲を浴びせ始めた。
《まるでゴジラとでも戦ってるみたいだ・・・・。》
奮闘する軍隊ではあるが、いかんせん相手が大きすぎる。
空そのものを覆う巨木は、普通の兵器では倒せないだろう。
かといって核兵器を使えばそれこそ地球はおしまいなわけで・・・・。
「お兄さん、あれを。」
坊さんが川の向こうを指差す。
「何があるんです?」と尋ねようとしたが、すぐに「ああ・・・」と理解した。
どこもかしこも燃え盛っているのに、あの大木の周辺だけが燃えていないのだ。
バリアのように繭を張り巡らせ、炎を防いでいる。
「よく燃えないな、あれ・・・・。」
あれが不思議な木だってことは知っている。
なんかよく分からないけど、未知なるパワーかなんかで守っているんだろう。
「あそこまで逃げましょう。」
坊さんと一緒に階段を駆け下りる。
麓には乗り捨てられた車があったが、こんな状況では足の方が速いだろう。
ぜえぜえと息を切らしながら、炎に気をつけて川沿いを走っていく。
少し遠くには真っ赤な橋があって、橋桁の部分が燃えていた。
「どうにか渡れそうですね。」
炎はそう大きくない。
人が歩く部分にも押し寄せているが、走ればなんとかなるだろう。
俺と坊さんは覚悟を決めて、一気に橋を駆け抜けた。
そしてどうにか渡り終えた瞬間、撃墜されたヘリが落ちてきて、橋が崩れてしまった。
「・・・・・・・・。」
あと一瞬遅れていたらとゾッとする。
「ハリウッド映画みたいですな。」
こんな状況で笑う坊さんは、悟りでも開いているのだろうか?
まあいい・・・とにかくあの大木の近くまで逃げないと。
しかし周りは繭によってガードされていて、中に入れそうにない。
「クソ!俺たちも入れてくれよ。」
ふんぬ!と引きちぎろうとしたが、炎さえ防いでしまうほど頑丈な繭は、人の力ではこじ開けられなかった。
・・・このままじゃ死ぬ・・・・。
骨の入ったブルーシートを抱えながら、神でも仏でも悪魔でもいいから、この状況をどうにかしてくれと願った。
「お、またおかしな事が・・・・、」
坊さんが空を見上げる。
落ち着いたその態度にちょっとイラっとしたが、そんな気持ちはすぐに消え去った。
なぜなら・・・・、
「あれは・・・・蝶?」
炎に巻かれる街の中、至る所から小さな光が舞い上がっている。
いや、この街だけじゃない・・・・遠くの空からも無数に押し寄せてきた。
「・・・間違いない、あれは宇宙人モドキの蝶だ。どうして・・・、」
そう問いかけて、「ああ、なるほど・・・」とすぐに気づいた。
「大人は殺して、子供はあの国へ招待するってわけか。」
四方八方から押し寄せる蝶の群れは、オーロラを点描画で描いたかのような、えも言えぬ美しい光景だった。
坊さんは数珠を握りながら、「凄まじい子供の数ですな」と呟いた。
「分かるんですね、あれが子供だって。」
「伊達に坊主はやっておりませんでな。」
「なんの説明にもなってないですけど、今はすごいピンチですよ。あいつらは人を殺すほどの力を持ってるんです。
もしも襲いかかってきたら・・・・、」
そう言いかけた瞬間、蝶の群れの一部が、軍隊へと攻撃を仕掛けた。
稲妻のようにピカピカっと光り、青白い波のような物を放ったのだ。
それは波紋のごとく空に広がっていく。
すると戦闘機や攻撃ヘリは、糸が切れた人形のようにパタパタと墜落していった。
「あれって・・・・、」
何年か前に見たアメリカ版のゴジラ映画を思い出す。
あの時、敵の怪獣がこれと似たような技を使っていた。
「・・・あれ、確か強力な磁気を飛ばしてるんだったな。そのせいで電子機器とかコンピューターがダメになって・・・。」
そういえばあの蝶が傍にいると、スマホもデジカメも使えなくなることを思い出した。
元々強い磁気を放っているので、群れ全体でそれを放出すれば、今みたいに戦闘機やヘリを落とせるのだろう。
「これヤバイぞ・・・・。」
電子機器に頼る現代の兵器では、あの蝶の群れに対抗するのは分が悪い。
かといってアナログな大砲や銃ではもっと勝目がないだろう。
「あ・・・・、」
戦闘機から脱出したパイロットが、パラシュートを背負って降下している。
するとそこへ蝶が群がって、瞬く間に焼き殺してしまった。
「あれだ・・・あいつら人を燃やすんだ・・・・。」
兵器に乗っていれば磁気攻撃、降りれば炎が襲ってくる・・・・なんとも恐ろしい連携だ。
「お坊さん、もう俺たちヤバいかもです・・・。」
そう言って振り向くと、なんと一匹の蝶が坊さんに襲いかかっていた。
パタパタと羽ばたいて、光る鱗粉を飛ばしている。
その鱗粉は坊さんに触れた途端に炎を上げた。
「お坊さん!」
駆け寄ると、老人とは思えないほどの腕力で突き飛ばされた。
「なんで・・・・、」
「逃げなさい・・・どこか・・・安全なとこ・・・・へ・・・、」
蝶はなおも鱗粉を振りまく。
坊さんは藁人形のように燃え盛った。
真っ赤な炎の中、人のシルエットが浮かんでいる。
もうじき死ぬ・・・・彼はそんな中でも、坊主であり続けた。
膝をつき、合掌し、まるでお経でも唱えているかのように、苦しむ素振りを一つも見せない。
その姿を面白がったのか、蝶は必要以上に鱗粉を振りまく。
炎はさらに大きくなって、熱風が俺の頬を撫でた。
『逃げろ。』
ふと坊さんの声が聴こえた気がした。
《わざと蝶を引きつけてるのか・・・・?》
死に間際に合掌する坊さんを面白がって、蝶は俺の方を見ようともしない。
興味の惹かれる物にだけ執着するその姿は、まさに子供だ。
《・・・・・すいません!》
ここで逃げなきゃ坊さんの無駄死にだ。
背中を向け、一目散に駆け出した。
川原沿いの道を走り続け、どこかに安全な場所はないかと探す。
しかしその希望はすぐに打ち砕かれた。
見上げた空はどこまでも巨木に覆われている。
集まってくる蝶も増えている。
もうどこにも逃げ場なんかないし、助かる道なんてない・・・・。
また撃墜された戦闘機が落ちてくる。
爆風が押し寄せ、何メートルも吹き飛ばされる。
今日、この星は終わるのだなと確信した。

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