蝶の咲く木 第二十七話 羽化しない大人(1)

  • 2018.02.01 Thursday
  • 14:24

JUGEMテーマ:自作小説

「円香君!円香君!」
誰かが俺を呼んでいる・・・・。
この声は・・・・・、
「円香君!分かる?」
そう、この声は河井さんだ。
「分かる?」
声に続いて、ぼんやりと河井さんの顔が見える。
視界は土砂降りの空のように歪んでいるが、それでもどうにか光は飛び込んでくる。
俺は「ここ・・・天国ですか?」と尋ねた。
「違うよ、病院!野戦病院!」
「は?野戦・・・・・、」
「自衛隊のヘリでここまで運ばれてきたのよ、円香君!あの川原の傍で死にかけてたから。」
「・・・・・ああ、そうだった・・・。どこにも逃げ場がなくて・・・空から戦闘機が落ちてきて・・・・、」
そうだ・・・じょじょに思い出してきた。
俺はあの川原を逃げていたんだ。
坊さんが命懸けで逃がしてくれた。
あのあと、空を覆う巨木に絶望しながら、逃げ場のない街を走っていたんだっけ。
そこに撃墜された戦闘機が落っこちてきて、川の傍で爆発したんだ。
俺はその爆風で飛ばされて・・・・そこから意識がない。
「・・・俺・・・まだ生きてるんですね・・・。」
「そうよ、命に別状はないし、そこまで大きな怪我もしてないってお医者さんが。頭を打って気絶してただけだって。」
「そうですか・・・まだ生きてますか・・・・。」
命が助かったことは嬉しい。
しかし素直に喜べないのは、この地球が絶望的な状況になっているからだ。
「・・・あの巨木は・・・もう地球を侵略しちゃったんですか・・・?空が・・・全部覆われてたから・・・、」
「ううん、軍隊や自衛隊が戦ってる。今はギリギリの所で抑えてるみたい。」
「そうか・・・すごいな・・・あんなデカイもんを抑え込むなんて・・・、」
「核兵器を使ってるからね。普通の武器は効かないけど、核なら燃やせるみたいだから・・・、」
「なんですって!?」
背中にバネが仕掛けられたみたいに、慌てて飛び起きた。
ズキっと背骨が痛んだが、そんな痛みなんて屁でもないほどに焦った。
「ダメですよ核は!あんなもん使ったら人が住めなくなる!」
「そうだけど・・・それしかないじゃない。核兵器に頼るしか方法がないんだから。」
「だって砂漠になっちゃうんですよ!どこもかしこも!」
「ちょっと落ち着いて。さっきまで気絶してたんだから。」
河井さんはまだ寝ているように言うが、俺は無理にでも立ち上がった。
「円香君!」
「俺は見たんです!最悪の未来を!」
「何言ってるの・・・・?」
河井さんはキョトンとする。
心配そうな顔で「頭打ったせいで混乱してるんじゃ・・・」と、頭に触れてきた。
「違います!核兵器を使えばそりゃ燃やせますよ。どんなにデカくても木なんだから。
でもね、奴らは死なないんです!蝶も蛾も殺せないんです!俺たちが滅んじゃうだけなんですよ!」
大声を出すと、頭がクラクラしてきた。
気絶していたせいか、足にも力が入らない。
「いいから座って。」
河井さんは俺の肩を押して、ベッドに座らせる。
そしてあの巨木が出現してから、今に至る状況を手短に説明してくれた。
まず俺は丸一日も寝ていたらしい。
その間にどんどん地球は侵略されて、日本、朝鮮半島、そして中国とロシアと東欧まで、巨大な根が広がっているとのことだった。
このままではヨーロッパやアメリカまで根が降りることは目に見えている。
だから核保有国がミサイルを撃ったのだ。
通常兵器は効かなくても(正確には効くんだけど、相手が大きすぎて効果が出にくい)、核なら焼き払うことが可能だから。
核保有国はとにかく根っこに向けて撃ちまくっているらしい。
やりすぎると地球が死の惑星に変わってしまうが、やらなければ確実に侵略されるので、仕方なしの決断だろう。
核兵器という恐ろしくも強力な武器のおかげで、どうにか根っこの侵略は食い止めている状況だ。
しかし敵はそれだけではなかった。
なんと無数の蝶たちが人を襲っているというのだ。
それも大人ばかり。
炎で焼き払ったり、雷を落としたりと、好き放題しているらしい。
しかし子供だけは攻撃の対象になっていなかった。
子供に対しては、羽から糸を出して、繭のように包んでしまうという。
そうなってしまった子供は、光る蝶に生まれ変わる。
新たな生き物に変わった子供たちは、手当たり次第に大人を殺している・・・というのが、今現在の状況だという。
蝶には通常兵器も効くらしいが、いかんせん数が多くて手こずっているらしい。
人類が勝つか?
それとも子供の国が勝つか?
戦況は五分五分の状況で、いまも各地で核が炸裂しているという。
「これが円香君が寝てた間に起きたこと。」
「・・・・要するに核戦争が起きてるってことなんですね。」
「そう。だから大勢の人が避難してる。核シェルターに避難してる人もいれば、まだ根っこが届いてないオーストラリアとか南米とかに運ばれた人もいる。
アメリカとヨーロッパは戦うのに必死で、難民の受け入れは渋ってるみたい。」
「蝶は?蝶の方はどうなんです?軍隊は負けたりしませんよね?」
「今のところは抑えてるってラジオでは言ってたけど・・・・。でもこっちはこっちで別の敵がいるのよ。」
「別の敵?」
「だってあの蝶、元は人間の子供でしょ?それを撃ち殺すなんて人道に反してるって・・・そう騒ぐ人たちがいるのよ。」
「人権団体ってやつですか?」
「そんなところね。気持ちは分かるけど、もうあれは人間の子供じゃない。手当たり次第に大人を殺しまくってるから、退治するしかないのよ。」
河井さんは苦虫を噛み潰したみたいに言う。
きっと心苦しさを感じているんだろう。
あの蝶が・・・いや、子供の国がどういう場所か知っているから。
あそこは大人のせいで苦しんだ子供たちが行く世界だ。
生前は大人に殺され、蝶に生まれ変わったあとも大人によって殺されるなんて・・・・。
いくら地球を護る為とはいえ、気持ちのいい事ではない。
「どうなるんだろう・・・これから・・・。」
ボソリと呟くと、河井さんは「あ、そうそう!」と何かを思い出した。
「円香君の家族、無事みたいよ。」
「ほ、ほんとですか!?」
「奥さんも息子さんも、核シェルターに避難してるはずよ。」
「よかったあ・・・・。それが一番心配だったんです。」
「円香君の家、近くに自衛愛の駐屯地があったでしょ。それがよかったみたい。
あそこからヘリを飛ばして、街の人のほとんどが米軍の核シェルターに運ばれたって・・・石井さんが言ってた。」
「石井さんが?」
「あの人だって記者だからね。こんな状況になっちゃ経済誌なんてやってられないでしょ。
代わりにとにかく情報を集めて、ラジオに売ったりテレビに売ったりしてるのよ。」
「こんな時まで商売ですか。どんだけ出世欲が強いんだか・・・。」
「だけどご両親の所在は分かってないみたい・・・・。円香君の実家がある街、核兵器が炸裂したから。」
「そんな!」
「あ、でもあれよ!その前に避難しているかもしれないから、まだどうなったか分からないわよ。」
「・・・・・・・。」
「・・・・そういう顔になるよね、家族のことだもん。」
河井さんの慰めはありがたいけど、核が炸裂したなんて聞いたら、とてもじゃないが落ち着いていられない。
「・・・河井さんは?」
「え?」
「河井さんのご家族は・・・・?」
「亡くなったみたい。」
あっけらかんと言う。
まったく表情を変えずに、小さく肩を竦めるだけだった。
「悲しくないんですか?」
「そう見える?」
「すいません、無理してるのかなって・・・・、」
「・・・・・・・・。」
「河井さん?」
「・・・・たぶん親はもう死んでる。妹夫婦もきっと・・・・・、」
表情はそのままだが、声色が変わっていく。
細い首が動いて、ゴクリと喉が鳴った。
「状況が状況だからかもしんないけど、なんか泣けないんだよね・・・あんまり現実感がなくて。」
「河井さん・・・・。」
「そのうち泣くのかもしんないけど、今はなんか・・・色んなもんが麻痺してる感じがする。だってねえ、これだもん。」
そう言って手を向けた先には、大勢の人がベッドに横たわっていた。
《そうか・・・ここ野戦病院なんだよな。》
まさか自分がそんな所に運ばれると葉思わなかった。
落ち着いて周りを見れば、ここもかなりの異常事態だと分かる。
運動会で使うようなテントが幾つも並び、患者の傍を医者や看護師が慌ただしく走っている。
警察もいるし自衛隊の人もいるし、災害現場のニュースでしか見たことのないような光景が広がっていた。
「ここに病院があるってことは、この街はまだ被害に遭ってないってことで・・・・、」
「ここ、会社があった近くよ。外見て。」
河井さんが手を向けた先には、俺の知ってる街並みとは違う光景が広がっていた。
ビルは瓦礫と化し、道路がヒビ割れて、倒れた電柱の線が絡み合っている。
「まさかここにも核が?」
「ううん、ここは蝶が襲ってきたの。幸い撃退出来たみたいで・・・・今は病院として使ってる。」
「もう日本に・・・安全な場所はないんですね・・・・。」
「根が張ってる場所はたくさんあるし、蝶が暴れてる所もある。けどどこもかしこも戦場ってわけじゃないわ。人間だって戦ってるんだから。」
強気に笑って、「さて」と踵を返す。
「どこか行くんですか?」
「取材。」
「は?こんな時に?」
「こんな時だからこそ。」
「河井さんも・・・石井さんみたいに出世したいんですか?」
「言ったでしょ、私はもっと大きな仕事がしたいって。不謹慎かもしんないけど・・・・今がチャンスなの。」
そう言って振り返り、「もし人間側が勝ったら、その時は私は一流のジャーナリスト」と笑った。
「ピューリッツァー賞だって夢じゃないかも。」
「・・・・そうですね、その方が河井さんらしいです。」
俺だって記者だ。三流のオカルト雑誌だけど、河井さんの気持ちは分かる。
こういう非常事態にこそ、記者ってのはある意味輝くんだから。
「俺は不謹慎とは思わないです。だって誰かがこの出来事を記録して、ちゃんと伝えないといけないから。」
河井さんは「ありがと」と頷き、俺のいるテントから出て行った。
「・・・・あ!」
大声で叫ぶと、「なに?」と振り返った。
「あの・・・青いビニールシートがありませんでしたか?」
「ビニールシート?」
「あの中に幽霊の少年の骨が入ってたんですよ!ずっと持ってたのに見当たらないから、気絶してる間にどっかいっちゃったのかなと思って。」
今さらあんな骨が何かの役に立つわけじゃない。
しかし・・・・、
「実は俺も取材に行こうかなと思ってて。」
そう言うと、河井さんは「マジ?」と呆れた。
「死ぬような目に遭ったのに。」
「気になることがあるんですよ。あの少年の幽霊、成仏にする前に謎めいたことを言い残していったんです。それを探ってみようかなって。」
「なに?」
「あの子を殺した奴を捕まえれば、もしかしたらどうにかなるかもって。」
「どうにかって・・・どうなるの?」
「分かりません。でも捕まえてみれば分かるって。」
あの子は大人への意地悪と言ってたけど、まさにその通りだ。
ヒントはありがたいけど、モヤモヤすることこの上ない。
こんな状況なら尚更に。
「もしかしたら無意味に終わるかもしれないけど、やってみようと思うんです。だったらあの骨が役に立つかなって。
遺体は立派な殺人の証拠ですから。」
ベッドから立ち上がり、「河井さん知りませんか?」と尋ねた。
「あの骨、俺と一緒に運ばれて来なかったんですか?だったらあの街に戻らないと・・・、」
「あるよ。」
言い終える前に河井さんは答える。
テントの中に戻ってきて、「亡くなった人の所に」と言った。
「亡くなった人の・・・?」
「亡くなった人は大勢いる。あの子の骨もそこにある。」
クルリと背中を向けて、「こっち」と歩き出した。
俺はフラフラした足取りで、その背中を追う。
テントを出ても負傷者は大勢いて、地面にシーツを敷いて寝かされていた。
その傍では泣いている人もいるし、放心している人もいた。
《ほんとうに戦場みたいになっちまったな・・・・。》
直視するのが辛くて、ただ河井さんの背中だけを見つめる。
彼女の足取りは早く、俺と同じくここにいたくないのかもしれない。
人が苦しむ光景を、これでもかと見せられるのだから。
「円香君。」
急に呼ばれて「はい?」と声が上ずってしまった。
「それ、私も手伝う。」
「え?」
「ていうか手伝わせて。」
足を止め、怖い顔で振り向く。
「もし犯人を捕まえてこの事態が収まるなら、私たちは事件の中心にいたってことになるわ。」
「ええ、一番大事な部分だと思います。」
「ジャーナリストとして、こんなチャンスなことってないじゃない。
上手くいけば侵略は止まって、私たちだけが真実を知ることになる。
それを記事にすれば、君だって一流の記者になれるかも。」
「いやあ・・・俺は今のままで充分で・・・、」
「もうちょっと野心を持ちなさいよ。大きなチャンスが転がってるんだから。」
「・・・河井さん、顔が笑ってますよ。」
「もうね、不謹慎だなんて思わないことにした。こういうことを命懸けでやらなきゃジャーナリストだなんて言えないもん。
私は大きな仕事がしたい。だから手伝うわ、犯人捜し。断ってもついて行くから。」
「・・・河井さんは俺の上司です。命令なら逆らえませんよ。」
そう答えると、彼女は嬉しそうに頷いた。
しばらく歩いて行くと、黄色と黒の入り混じった立ち入り禁止のロープが張られていた。
その向こうはブルーシートで覆われて、中が見えない。
そして手前には何人かの警官が立っていた。
「あそこですか?」
「そう。こんな状況だからお墓なんて建てられないし、弔ってもあげられない。
だからあの向こうに安置してるの。もし戦いが終わったら、きちんと弔ってあげる為に。」
俺たちは警官に近づき、ここに身内の骨があるのだと伝えた。
警官は案外あっさりと頷いてくれて、シートをめくって「どうぞ」と手を向けた。
「ひどい・・・・。」
シートの向こうには、言葉にしがたい光景が広がっていた。
学校のグラウンドほどの広場に、ぎっしりと亡くなった人たちが敷き詰められている。
手前の方の遺体は、亡くなった人が詰められる銀色の寝袋のような物に入っていた。
しかしその奥は・・・・、
「惨いですね・・・・。」
「遺体を収容する袋が足りないの。上にかぶせる布だって・・・・。」
何百体とある遺体のうち、そのほとんどが剥き出しのまま寝かされている。
そのどれもが目も当てられないような状態だった。
真っ黒に焦げて、胎児のように丸まっている遺体。
上半身がない遺体に、頭しかない遺体もある。
中には骨に少しばかりの肉と内蔵が付いているだけの遺体まで・・・、
「あ、ここで吐いちゃダメよ。」
「・・・大丈夫です。」
「まあ偉そうに言う私も、最初は吐いちゃったんだけどね。」
「あの・・・・遺体の周りにいる人たちは・・・、」
「遺族よ。」
ぎっしりと敷き詰められた遺体の中、悲しみに暮れていたり、呆然と立ち尽くしている人がいる。
足の踏み場がないものだから、中には遺体を踏みつけている人も・・・・。
「なんでこんなことに・・・・。」
「悲しんでる場合じゃないわ。幽霊の子の骨を捜さないと。新しい遺体ほど奥にあるから・・・・、」
「いえ・・・すぐそこにあるみたいです。」
「え?どこ?」
「あそこ・・・あれ子供の骨ですよ。」
俺が指差した先には、小さな骨が丁寧に並べられていた。
どの遺体も入口からは少し離れているのに、あの子の骨だけがすぐ近くにあった。
「なんでだろう?後から入ってきた遺体なのに・・・。」
河井さんが不思議そうに呟くと「あんたらもしかして・・・」と、シートの向こうから警官が顔をのぞかせた。
「その子の親御さん?」
「え?」
「だってここにご家族がいるんでしょ?」
「・・・・はい。俺の息子が。」
嘘だけど仕方あるまい。
他人だとバレたら遺体は渡してもらえないだろうから。
警官は中へ入ってきて、なんとも言えない顔で少年の骨を見つめた。
「その子だけだよ、子供の遺体は。」
「そうなんですか?」
「死んでるのはみんな大人ばっかりだ。」
「あの蝶、大人しか襲わないんですよね?」
「蝶はな。でもこれだけの戦火なんだ。巻き添えになった子供の遺体があってもおかしくないんだが・・・・。
多分あれだな、みんな蝶に変えられちまったんだろうな。あいつら羽から糸を出して、子供を蝶にしちまうから。」
壮年の警官は「可哀想に」と嘆いた。
「あんなもんに変えられるくらいなら、死んだ方がマシだろうに。」
「そんなことは・・・、」
「分かってるよ、不謹慎だって。でも死ぬより辛いことだってあるだろう。あんな化物に変わって、人間を襲うなんてさ。」
「そうですね・・・確かに酷なことだと思います。」
「いったい何がどうなってんだか・・・。」
帽子を脱ぎ、歳の割りには黒々とした髪を撫でる。
眉間に寄った深い皺が、もう勘弁してくれとばかりに嘆いているようだった。
「あの・・・息子の骨を持って行っても?」
「いいけど・・・ここに置いといた方がいいんじゃないか?いや、そりゃ分かるよ、親としては弔ってやりたいって。
でもこんな状況じゃあなあ・・・。」
「そうだけど、せめて近くにいてほしいんです。ダメですか?」
「いいよ、お宅がそうしたいなら。」
「あの・・・じゃあこのまま持って帰っても・・・、」
「ほんとは身元確認しなきゃいけないんだけどね、こんな状況じゃどうしろって話だよ。
遺体盗んで喜ぶ奴もいないだろうし、遺族が引き取りたいならそうしてるよ。」
「ありがとうございます。じゃあ・・・・。」
少年の骨を拾い上げ、両腕に抱きしめる。
「あ、これ。」
警官はどこからかブルーシートを持ってきて、「その子が入ってたやつ」と渡してくれた。
「剥き出しのままじゃ可哀想でしょ。」
「すいません。」
この子はすでに成仏しているが、包む物があるのはありがたい。
警官はそっと手を合わせ、「迎えに来てもらってよかったな」と頷きかけた。
「たった一人の子供の遺体だったからさ。向こうに敷き詰めるのは可哀想だからここに寝かせといだんだけど・・・・親の所へ帰れてよかったよ。」
そう言い残し、警官は出て行った。
俺と河井さんは顔を見合わせ、すぐに外へと駆け出した。
「この子の骨を持って、犯人の所に行きましょう。」
「でも足がないわ、けっこう遠いんでしょ?」
「そうなんですよ。・・・自衛隊がヘリでも飛ばしてくれませんかね?」
「無理よ、戦うので精一杯だもん。けっこう撃墜されて、数も減ってるみたいだし。」
「そっか・・・どうしよう・・・。」
「車くらいならどっかにあるかもしんないけど、道路もめちゃくちゃだしね。」
「・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・。」
「警察に事情を話して、どうにか移動手段を頼んでみますか?」
「きっと信じてもらえない。」
「でも河井さん、警察にこの子のことを話してくれたんでしょ?石井さんの知り合いの署長に。」
「その警察署があった街はもう吹き飛んでる。」
「核ですか・・・?」
「ええ。ていうかその前に避難させられたのよ。空から根っこが降りてきたから。」
「参ったな・・・・。」
出鼻からくじかれてしまう。
どうにか出来ないものかと困っていると、『円香さん』と小さな声が聴こえた。
「え?」
「ん?」
河井さんがキョトンとする。
「なに?」
「今呼びました?」
「ううん。」
「じゃあさっきの声は・・・、」
『上です。』
今度はさっきよりはっきり聴こえた。
《この声・・・エコーがかかってる。てことは・・・いや、それよりもだ・・・・この声には聞き覚えがある。これはあの子の・・・・、》
『なつです。』
「やっぱり!」
慌てて上を見るが誰もいない。
「あれ?どこ?」
『ステルスを使ってるんです。姿が見えたらみんな怖がるだろうから。』
「なるほど・・・・。ていうかなつちゃんは大丈夫なの?ヴェヴェと戦ってるって聞いたけど・・・・、」
『私は平気です。仲間は大勢死んじゃったけど・・・・。』
悲しそうな声で言ってから、『それより!』と叫ぶ。
『ずっと捜してたんです。円香さんのこと。』
「俺を?どうして?」
『だってその子の骨を持ってるから。それがあればまだどうにか出来るかもしれません。』
「こいつがあればこの異常事態が終わるのか?」
『可能性はあります。私たちが運んであげますから、人気のない場所まで来て下さい。』
「わ、分かった!」
渡りに船とはこのことだ。
事情は飲み込めないが、とにかく移動手段は確保できそうだ。
「というわけです、河井さん!」
そう言って振り向くと「何が?」と首をかしげた。
「何がって・・・・蝶が運んでくれるんですよ!俺たちを。」
「ごめん・・・さっきからなに一人でブツブツ言ってるの?」
「え?聴こえてないんですか、あの子の声。」
「だからなんのこと?」
眉間に皺が寄って、どういうことか説明しろと、目で促してくる。
「と、とにかく行きましょう!歩きながら説明します。」
骨を抱えながら、戦場のような野戦病院を抜けていく。
大人と子供の国の戦い、どちらが勝っても人類に得はない。
それを打開できるなら、例えわずかな希望であってもすがるしかなかった。
病院を抜けた先は瓦礫だらけで、ほとんど人気はない。
足を止め、「実はですね・・・」と説明しようとした時、空から蝶の群れが降りてきた。
「いやああああ!」
河井さんは慌てて逃げ出す。
「大丈夫です!」と腕を掴んで、「あれは味方ですから」と言った。
「あの子たちが犯人のいる所まで連れていってくれるんです!」
「はあ?そんなわけないでしょ!殺されるわよ!」
「大丈夫ですって!あ、ちょっと・・・・河井さん!」
「命あっての仕事よ!円香君も早く逃げて!」
「河井さんってば!」
彼女の背中が遠くに去って行く。
空から降りてきたなつちゃんが、『あの人も行くんですよね?』と尋ねた。
「俺の上司なんだ。どうしても一緒に行きたいそうだから、連れ戻してもらえる?」
『いいですよ。』
蝶の群れが彼女を追いかける。
「いやああああ!死にたくない!!」
「だから味方ですって!その子はなつちゃんっていって、俺たちの味方です!前に話したでしょ!」
「誰か助けてええええええ!」
パニックを起こす河井さんに、蝶の群れが追いついていく。
悲鳴?絶叫?断末魔?
耳を塞ぎたいほどの声が響いてのち、恐怖で失禁した彼女が運ばれてきた。
「大丈夫ですよ、その子たちは味方なんです。実はさっきですね・・・・、」
事情を説明しても聞いちゃいない。
それから数分後、ようやく我を取り戻した彼女に、もう一度説明した。
「そういう大事なことはさっさと言ってよ!」と、恥ずかしそうに粗相の後を隠していた。
・・・・言わずもがな、しばらく彼女は怒ったままだった。

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