蝶の咲く木 第二十八話 羽化しない大人(2)

  • 2018.02.02 Friday
  • 10:28

JUGEMテーマ:自作小説

お伽話ではよく人が空を飛ぶ。
箒に跨ったり、魔法の絨毯に乗ったり。
雲のブランコなんてのもある。
幼い頃に見た絵本の世界は作り物で、いかにそれが素晴らしいものであっても、現実に体験するとは思わなかった。
思わなかったが・・・今、俺は空を飛んでいる。
蝶がちが糸で紡いだブランコに乗って。
いや、ハンモックといった方が正しいか。
頭上ではなつちゃんを筆頭に、数十匹の蝶たちが俺たちを運んでいる。
この蝶たち、身体は小さいが、力は人間よりも遥かに上だ。
そいつらが束になれば、人二人を飛ばすことなんて容易いのだろう。
糸で紡いだハンモックに揺られながら、なんともメルヘンな空旅を楽しむ・・・・わけにはいかなかった。
なぜなら眼下に広がる光景は・・・・、
「とんでもないな・・・・。」
瓦礫が散乱しているかと思えば、あたり一面更地になっている所もある。
遠くに見える鉄塔は、灼熱に晒されたかのように、途中から折れ曲がっていた。
「河井さん、これってやっぱり・・・、」
「核のせいだと思う。ほら、あそこに大きな穴が空いてる。」
河井さんの指差した先には、ブラックホールとしか形容しようのない大穴が空いていた。
「きっとあそこに根が刺さってたのよ。だからこの街も核で焼かれたんだと思う。」
「・・・今さらなんですが、放射線の影響は大丈夫なんですかね?」
「どうなんだろう?水爆って放射線はそこまで出ないって聞いたけど・・・、」
二人して不安になっていると、なつちゃんが『大丈夫です』と答えた。
『私たちの周りには強い磁場が出来るから。』
「磁場が出てると大丈夫なの?」
『強力な磁場は核反応の熱でも封じ込めるんですよ。ヴェヴェから聞いた話だけど。』
「そうなんだ・・・なら放射線も?」
『種類によっては防げます。』
「全部は無理なのか・・・。だったらやっぱり被爆するんじゃ・・・、」
『鱗粉があるから平気です。磁場で曲げられなかった放射線は、鱗粉でどうにかなるはずだから・・・と思います。』
「不安だな・・・ほんとに大丈夫なの?」
『ヴェヴェは宇宙を飛んできたんです。宇宙って放射線に晒されるから、鱗粉で身を守ってたってヴェヴェが言ってました。だから多分大丈夫かなって。』
「大丈夫であると願う・・・・。」
よく目を凝らすと、蝶の羽からわずかに鱗粉が撒かれていた。
七色にも見えるし、金にも銀にも見える不思議な色だった。
まあとにかく、被爆の心配はないのだろう・・・多分。
しかし問題は他にも・・・・、
「円香君、ほんとに大丈夫かな?」
河合さんが不安そうに言う。
俺は「さあ・・・・」と自信のない声を返した。
「行ってみないと分からないわよね・・・・。」
俺と河井さんが心配していること、それは犯人のいる街が無事かどうかってことだ。
仮に無事であっても、住民は避難している可能性が高いだろう。
「外国とか核シェルターとかに避難してたら、どうしたらいいんだろう・・・。」
「とにかく行ってみるしかないわね。」
河井さんはバッグからカメラを取り出す。
キヤノンF1という、昔のマニュアル式のカメラだ。
「あの蝶がいたらデジタル機器は使えないからね。こいつでバッチリ犯人の顔を収めてやるわ。」
勇ましく微笑んで、カチャカチャとカメラをいじっている。
それから三時間もの間、俺たちは空の上を揺られっぱなしだった。
なつちゃんいわく、もっと速く飛べるそうだけど、俺たちの身がもたないのであえてゆっくり飛んでいるとのことだった。
「ねえなつちゃん。この前みたいにさ、俺も蝶に変えてくれないかな?そうしたら速く飛んでいけるだろ?」
『やめた方がいいです。』
「どうして?」
『もし自衛隊に見つかったら攻撃されますから。』
「ああ・・・確かに。」
『それにアイツが降りてくるかもしれないし。』
「アイツ?」
『蛾です。イモムシが大人に変わったんですよ。』
それを聞いた俺は、「そう!それだよ!」よ指差した。
「いったい蛾の正体ってなんなの?」
『大人の暴力の象徴です。』
「それが分からないんだよ。あのイモムシは少年を殺した犯人が描きこんだんだろ?じゃあなんでそれが蛾に変わるのさ?」
『子供の国で成長したからですよ。養分を吸って。』
「そういやガシガシ根っこを齧ってたな。」
『あの巨木にはたくさんの栄養が詰まってるんです。なんたって子供の国のエネルギー源だから。』
「じゃあイモムシは勝手に成長しちゃったってことか?」
『本当はあの国に存在しちゃいけないものなんです。あそこは大人は入っちゃダメな世界なのに。』
「あれは大人が描いたものだもんな。そりゃ子供の世界には必要のないもんだよ。」
『そういう意味じゃなくて。』
「じゃあどういう意味?」
『あのイモムシ、大人の魂が宿ってるんです。』
「え?どういうこと?」
『最初はただの絵でした。だけどその絵を元に子供の世界を創る時、強引に大人の魂が入ってきたんです。』
「そうなの!?だってそんなのヴェヴェが許さないんじゃ・・・・。」
『もちろんヴェヴェは駆除しました。けど絵に描かれている以上、完全に消すことができなかったんです。
次から次に涌いてきて、その度にヴェヴェが駆除してきました。』
「じゃあ完全に倒すのは無理ってことか?」
『絵から消すことが出来れば、どうにか出来たかもしれません。
だけどあの絵を書き換えることが出来るのは、あの少年だけだったんです。
あの子、もう成仏しちゃったんですよね?』
「ああ、大仏の手に乗ってな。」
『じゃあもう絵を書き換えることは無理です。』
「絵を燃やすとかシュレッダーに掛けるとかしても無理なの?」
『そんなことしたって再生します。』
「そ、そうなの・・・?」
俺はカバンの中から絵を取り出す。
二枚に分かれていたあの絵、今はテープでくっつけている。
物は試しと、河井さんからライターを借りて燃やしてみた。
すると・・・・、
「マジかよ・・・・。」
燃えることは燃える。
しかし燃えた傍から再生して、瞬く間に元通りになってしまった。
「どうなってんだこれ?」
今度はビリビリに破ってみる。
しかしこれまた元に戻ってしまった。
まるでアメーバが再生するみたいに。
「手品みたいだな。」
『その絵はあの子にしかどうにも出来ないんです。例えヴェヴェでもそれだけは無理だから。』
「でも子供の国はヴェヴェが作ったんだろ?なのに無理なの?」
『無理です。』
「なんで?」
そう尋ねると、なつちゃんはしばらく沈黙してしまった。
「どうしたの?」
『ごめんなさい・・・・。』
「何が?」
『もっと早く話せばよかったって・・・・こんな事になるなら。』
エコーのかかった声が、とても切なく響く。
どうやら彼女は何かを隠しているようだ。
いったい何を秘密にしているのか?・・・尋ねようとしたが、彼女が口を開くまで待った。
『私も意地悪な子供でした。』
「え?」
『あの国にいる子供は、みんな大人を憎んでます。』
「知ってるよ。そういう子が行く場所だ。」
『私は私を殺した大人に復讐しました。それでも憎いって気持ちは消えなかった・・・・・。
もっと生きられたのに、なんであんな奴に殺されなきゃいけないの?って、今でも殺意が湧きます。
だから完全に素直になれなくて・・・・。』
「何を隠してるのか知らないけど、俺はなつちゃんを責めたりしないよ。
大人がみんな子供の敵ってわけじゃない。少なくとも俺は、子供の敵じゃないと思ってる。
子供の悩みを受け止めるのだって大人の仕事さ。」
『分かってます。それでも大人を許せなかった・・・・・。
だけどこんな事態になって、私は後悔してます。それに・・・・、』
「それに?」
『私・・・・もう大人なんですよね。死んだのは子供の時だけど、子供の国で過ごした時間も足すと、今は成人してるはずだから。
そのせいか分からないけど、だんだんと感覚が変わってきたんです。』
「感覚が変わる?」
『子供だった頃と比べて、物の感じ方とか、考え方とかが変わってきた気がするんです。
まだ子供として生きてた頃、どんな感じだったのか、ぼんやりとしてきて・・・・。
思い出すことは出来るんだけど、それってどっか別人のことのように感じるんです。』
それを聞いて、俺はハッとした。
大人と子供、この二つは本当に同じ生き物なのか?
どこか別人のように感じてしまうその気持ちは、痛いほど理解できた。
『自分で気づかないうちに、私はもう子供じゃなくなってたのかもしれません。
・・・・よくよく考えれば、ヴェヴェを裏切ろうとした蝶たちは、私も含めてもう子供じゃなかったのかもって思うんです。
年齢的には成人してない子もいました。だけど大人と子供の違いって、年齢だけじゃありません。
考えた方とか感じ方とか、自分の知らないところでいつの間にか変わってるんです。
まるでイモムシが蝶に変わるみたいに。』
ものすごく同意できる。
けど俺は頷かなかった。
胸の内を語ろうとする彼女の気持ちを、下手な相槌で邪魔したくはなかった。
『私、もう大人なんです・・・きっと。だからもう大人のことは憎めない。
だって私自身が大人なのに、子供のフリして好き放題やってたら・・・それこそ私を殺したような大人と変わらなくなるから。』
声は静かだが、口調は怒りとも悲しみともつかない、複雑な感情が混じっているように思えた。
彼女はひと呼吸おいて続ける。
『悪い大人ばかりじゃない、良い大人だっている。頭では分かってても、心までついていかなかった。
だけど今はちょっとずつ心が追いついてる感じがするんです。
きっと大人になるって、年齢とか身体の成長とかじゃなくて、心が成長するってことなんだって。
だから・・・今なら認めることができる。私たちのやってたことは間違いだったって。』
そう言ったあと、『円香さん』と俺を振り向いた。
『誰だってきっとこうなるんだと思います。嫌でも大人になっていくんだって。
だけどそうならない大人もいるんです。もう充分大人なのに、今でもイモムシのままでいようとしたり、繭から出てこようとしない大人が。』
そう言われてギクリとした。
それ、俺のこと言ってるのかなと。
しかしなつちゃんはこう続ける。
『そういう大人が悪いのかどうか、私には分かりません。でも一つ言えることがあります。』
「なに・・・?」
『子供の殻を盾にして、大人としての責任から逃れようとしているってことです。』
「それは・・・ニートとか引きこもりのことを言ってるの?」
『違います。そんなのその人の人生だから、好きにしたらいいです。それで困ったって自業自得だから。』
「じゃあどういうことさ?」
『他人を傷つける人のことです。』
今までないほど強い口調で言い切る。
『上手くいかないと喚いたり、思い通りにならないと人や物に当たったり。子供なら仕方のないことです。
だけどもう大人になってるクセに、いつまでも子供のフリして、自分のしでかした事から逃げようとする人がいるんです。
誰かが傷ついたって構わないとか、自分がよければそれでいいとか、ちっとも責任を持たないとか。
多分これって誰にでも当てはまることなんだろうけど、その言い訳として、自分はまだ子供だからって逃げる人がいるんです。
自分のせいで人が死んでも、それを言い訳にして許されると思ってる。
例えば・・・・あの少年を殺した大人とか。』
エコーが何重にも響く。
あまりのおぞましさに、全身が泡立ってしまった。
《怒ってるのか・・・・。》
声から激しい怒りが伝わってくる。
この怒りはなつちゃんだけものじゃない。
周りにいる蝶たちも同様に・・・・・。
『円香さん。』
「え?あ・・・はい!」
ビクっと背筋が伸びてしまう。
なつちゃんは怒りに染まるように、目を赤くしていた。
『全てをお話します。』
「す、全て・・・?」
『私は今まで、心のどこかで思っていました。地球が侵略されるのは嫌だけど、子供の国にも消えてほしくないって。』
「うん・・・・。」
『でも大人になったせいか、今は違います。今は・・・地球の方が大事だって思うんです。
だってここには大人も子供いるから。子供を大事にする大人だってたくさんいるから。』
そう言ってから、なつちゃんはポツポツと語りだす。
どうして子供の国が出来たのか。
どのようにして出来ていったのか。
ヴェヴェは何者なのか。
蛾は何者なのか。
そして・・・・川原の傍にそびえる、あの大木の正体を。
全てを聞き終える頃、俺は何も言葉を発することが出来なくなっていた。
俺の隣では河井さんも固まっていた。
カメラをいじっていた手を止めて、まるで石膏のようになっている。
大人と子供、夢と現実。
対になる二つのものが、今回の全ての出来事を引き起こしていた。
絶望したくなるような内容だったが、一つだけ救いもあった。
それは上手く事を運べば、全てを無かったことに出来るかもしれないということだ。
大人と子供を入れ替えれば、そして夢と現実を入れ替えることが出来れば、それは不可能ではない。
なるほど・・・・それを行う為には、確かにあの子を殺した犯人を捕まえる必要がある。
それ以降、なつちゃんは喋らなかった。
なぜなら彼女は後悔していたからだ。
大人になった今、過去を振り返って、子供時代とは違う答えが見えてきたから。
大人と子供では感じ方が違う、考え方も、見え方も、行動も違う。
大人になった彼女の決断は、ある意味では子供の敵に回ることを意味していた。
しかしそれは、結果的に子供を救うことに繋がるはずだ。
自らの過ちを清算するには、罪滅ぼしをするしかない。
それを成し遂げるまで言い訳はしないと、その為に黙っているのだろう。
・・・・・・。
・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・。
長い沈黙が続いた。
俺も河井さんも口を開かない。
糸で紡いだハンモックに揺られながら、どうか犯人を捕まえらえますようにと願っていた。
・・・やがてなつちゃんが『マズいかも』と呟いた。
『30キロくらい先に戦車がいます。』
「ほんとに?」
『戦闘ヘリも。』
「じゃあ俺たち狙われるんじゃ・・・、」
『戦ってるみたいです。』
「戦う?」
『蝶の群れと。』
「ええ!それヤバいんじゃ・・・・、」
『直進するとマズいから迂回します。』
そう言って左へと旋回し、さらに高度も上げた。
「寒い・・・・。」
上空には冷たい空気が流れていて、身体が震えてくる。
飛び立つ前に調達した防寒着も、まるで役に立たなかった。
見ると河井さんも震えている。
粗相をしたスーツの代わりに、暖かそうなズボンを穿いているのに。
「ちょっと、そんなとこジロジロ見ないでくれる?」
「いや、また粗相をするんじゃないかと・・・、」
「蹴落とそうか?」
「冗談です、すいません。」
「誰のせいでああなったと思ってんだか・・・・。誰にも言わないでよ。」
「もちろんですよ。だけどこの寒さ・・・・ちょっとキツイですね。」
もうちょっと低く飛んでもらえないもんかと、「なつちゃん」と呼びかけた。
すると『アレを見て下さい』と、遠い空を指差した。
「どうしたの?」
『核ミサイルの弾頭が落ちていきます。』
「え!どこ!?」
『すごい遠くに小さな粒が見えるはずです。』
言われて目を凝らすと、確かに何かが飛んでいく様子が見えた。
「あれが核ミサイル・・・・。」
まさかこの目でこんな光景を見るとは思わなかった。
遠い遠い空を落ちていく黒い物体は、きっと巨木の根を焼き払うつもりなのだろう。
俺は空を見渡した。
しかしどこにも根っこのような物はない。
「変だな・・・・。」
あの根っこは山のようにデカイ。
ミサイルがこの目で見えるなら、もっと大きな根っこだって見えるはずなんだけど・・・・、
頭上を見ても、ここら辺の空は根に覆われていない。
ならどうして核ミサイルなんか・・・・、
「・・・・ていうかあれが炸裂したら、ここまで吹き飛ぶんじゃ・・・、」
『大丈夫です。けっこう遠くに向かってるみたいだから。』
「いや、でも核だぞ?遠くで爆発しても、ここまで巻き込まれるんじゃないのか?」
『あの高さなら、爆発するのはもっともっと遠くの方だと思います。
それだけ離れてるなら、熱と放射線は防げるはずです。』
「磁場と鱗粉で?」
『ええ。』
「でも爆風は無理だろ?」
『この距離なら・・・・多分防げるかな。思いっきり羽ばたけば。』
「なんか不安だなあ・・・・・。」
俺と河井さんは身を寄せ合う。
もうじき核が炸裂する。
そう思うと、二人して身を固めるしかなかった。
怖い・・・という感情以外に湧いてこず、気がつけば互いの腕を強く握って、無事を祈っていた。
『あ、光は防げないので直視しないで下さい。できれば目を閉じていた方が・・・・、」
そう忠告されるも、彼女が言い終える前に、眩い閃光が走った。
遠く遠く、遥か彼方の地平線から、怒涛の光が押し寄せる。
『見ないで!』
なつちゃんが叫ぶ前に、俺は目を閉じていた。
こんな光は耐えられない・・・・。
太陽を直視したってこんなに眩しくは・・・・、
しかし襲いかかってくるのは光だけではなかった。
まるで地震がくる前のような、重々しい地鳴りが響いたのだ。
その直後、雷鳴を何重にも重ねたような、腹の底まで震えるような轟音が響いた。
《怖い!》
もうそれ以外に頭になかった。
死にたくないとか、誰か助けてくれとか、そんな感じじゃない。
ただただ怖いという感情だけが・・・・、
しかしまだ終わらない。
突如、周りに凄まじい風が吹き荒れた。
「うおおおお!」
「死ぬうううう!」
河井さんと抱き合い、必死に糸のハンモックにしがみつく。
核爆弾の衝撃波が押し寄せたのだ。
・・・そう思っていたのだが、どうも様子が違った。
強い風は急におさまって、四方八方から獣が鳴いているかのような音が響いてくる。
例えるなら・・・そう、竜巻の中にでもいるような・・・・。
《これ、もしかして・・・・、》
怖い・・・怖いけど、それを堪えて目を開ける。
すると蝶たちが俺と河井さんを囲って、必死に羽ばたいていた。
その羽ばたきは大きな気流を生み、まんま竜巻のように渦巻いていた。
「なつちゃん・・・・。」
頭上を見ると、彼女も羽ばたいている。
『動かさないで下さい。風の壁を作って、衝撃波を防いでるんです。』
目に見えないほど高速で羽ばたいて、これでもかと風を掻き乱している。
人間よりずっと小さな身体をしているのに、どこにあんなパワーが宿っているんだろう・・・なんて、また余計なことを考えてしまった。
「円香君、あれ・・・・。」
河井さんが腕を引く。
彼女が指さした方を見ると、そこには日本人なら歴史の授業で見せられたであろう、あの巨大な雲がそびえていた。
「キノコ雲・・・・。」
地上から全てを吸い上げるような、大きな大きなグレーの塊が昇っている。
《ありゃ雲なんてもんじゃない・・・あそこだけ火山が噴火したみたいだ・・・・。》
空を刺すほどの不気味で巨大な塊。
その周りには、真っ白な輪っか状の雲が掛かっている。
キノコ雲はその輪っかの中を、さらに昇っていった。
目を凝らすと、雲の中に赤く光るものが見える。
恐らく火球だろう。
雲が昇っていくにつれて、その姿がハッキリと見えた。
《まるで太陽だ・・・・。》
地平の向こうに輝く、半円球の火球。
・・・いつだったか、幼い頃に見たテレビでこう言っていた。
あれはそう・・・「たけしの万物創世記」っていう、科学をテーマにした番組だ。
好きでよく見ていたのだが、一度武器の歴史をテーマにやっていた。
その中でもちろん核兵器も登場した。
あの時のナレーションは今でも覚えている。
核が炸裂する映像に、こんな言葉を添えていた。
『人は小さな太陽を生み出せるようになったのだ。』
これは物の例えじゃない。
本当のことなのだ。
核兵器も太陽も原理は同じだ。
核分裂や核融合といった反応を繰り返し、普通の爆弾ではありえないほどのパワーを生み出している。
・・・立ち上るキノコ雲・・・・地平を焼く小さな太陽・・・・。
人が生み出したこの力、果たしてすごい事なのか?それとも恐ろしいことなのか?
俺には後者にしか思えなかった。
《人間が太陽を・・・・。》
規模は違えど、あれは紛うことなき太陽だ・・・・そう思った。
俺も河井さんも言葉を失くす。
知識はある、映像で見たこともある。
しかしそれがなんだ・・・・こうして目の当たりにすると、あんなもん・・・・。
「地球に人が住めなくなる・・・・・。」
巨木を焼き払うのに、あの太陽を幾つも生み出したらどうなるか?
そりゃ地球だって砂漠になるだろう。
「やっぱりダメだ・・・これ以上戦い続けちゃ・・・・、」
いつか見た未来の幻。
あの子は言った。
その幻は悪い方へ転がった、最悪の未来だと。
火球は形を崩しながら、キノコ雲に混じって、赤い火柱と化していく。
天を突く炎の柱。
それは巨木の根よりも恐ろしい、悪魔の微笑みに見えた。

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