蝶の咲く木 第三十五話 宇宙人の卵(1)

  • 2018.02.09 Friday
  • 11:30

JUGEMテーマ:自作小説
夢が現実になるのは恐ろしいことだ。
スポーツ選手になりたいとか、金持ちになりたいとか、現実に起こりうる夢なら構わない。
しかし子供の夢想ともいうべき夢が、この現実へ押し寄せたら、それはただの悪夢でしかない。
本来夢なんてものは、自分にとって都合の良い妄想であると、俺は思っている。
人生に目標は必要だが、夢は必ずしも必要なわけではない。
夢は頭の中にあるからこそ夢であり、頭の中にとどめておく事柄だと思う。
冷めた奴だと思われても、俺はそう信じている。
・・・さて、現実に押し寄せたこの夢、果たして夢の世界へ追い返すことが出来るだろうか?
その為の努力はしているし、お空を飛んで、遠路遥々目的の場所までやって来た。
ここは大木のそびえるあの川原。
街は戦火によって潰れてしまっていたが、あの大木だけは残っている。
荒野にポツンと立つその姿は、勇ましくも見えたし、滑稽でもある。
「お父さん、すごいねあの木。街はめちゃくちゃなのに・・・・、」
「ああ、きっとあの子たちのおかげだろう。」
今、大木には蝶が咲いていた。
それも全ての枝を埋め尽くすほどに。
そして大木の上空には、真っ白な竜巻にも似た、繭の道が出来ている。
その周りにはオーロラのような不思議な光が漂い、大木まですっぽりと覆っていた。
広い空には戦闘機も攻撃ヘリもいない。
地上は破壊しつくされ、人の姿もない。
そして巨木の根もないので、核で焼き払ったのかもしれない。
「酷いな・・・・とても人が近づける状態じゃないな。」
ついこの前、この街へ初めてやって来た。
あの時、こんな風に様変わりするなんて想像も出来なかった。
感慨深く見つめていると、なつちゃんが『降りますよ』と、高度を下げていった。
俺と妻はハンモックから降りて、大木の傍へと歩く。
今は緊急事態で、すぐにやるべきことを済ませないといけない。
それなのに、しばらく言葉を失ったまま、大木に咲く蝶を見上げていた。
《こんなにたくさん・・・・・。》
あまりの多さに枝がしなっている。
枝垂桜のような佇まいに、無数にむらがる光る蝶。
「これ、全部亡くなった子供なんだよね・・・・。」
妻が呟くと、なつちゃんが『そうでもないです』と答えた。
『ヴェヴェが地球を襲って、たくさんの子供を連れて行っちゃったから。』
「ねえ!優馬もいるのよね?」
『子供の国にいるはずですよ。でも今はとにかく数が多くて、探すだけでも大変ていうか・・・・、』
「会わせて!」
なつちゃんは卵を埋める方が先だと言うが、妻は譲らない。
「お願い!」
『・・・・分かりました。』
渋々という感じで頷き、繭の道へと消えていく。
それから数分後、一匹の蝶を連れて戻ってきた。
「優馬?」
そう尋ねると、その蝶は妻の肩にとまった。
「なつちゃん、この子・・・・、」
『優馬君です。』
「ほんとに?ほんとに優馬・・・・。」
そっと両手で包み込み、顔を近づける。
「優馬、お母さんだよ。」
囁くように語りかけると返事をした。
エコーがかかった小さな声なので、よく聴きとりにくい。
しかし妻には聞こえたようで、「優馬!」と喜んだ。
「よかった・・・・戻って来てくれた・・・。」
顔を寄せ、抱きしめる代わりに頬ずりしている。
「ねえなつちゃん。優馬を元に戻せない?」
『私には無理です。けど大木のお爺さんならできるかも。』
「呼んで!お願い!」
『今は・・・・無理です。』
「どうして?だって生きてるんでしょ?」
『生きてますけど、今は死んだことにしておかないと。』
「どうして?」
『ヴェヴェがこの大木を狙ってるからです。』
「狙う?」
『子供の国を作るのには、あのお爺さんも関わってたのは知ってますよね?』
「ええ・・・ヴェヴェに手を貸したんでしょ?」
『この大木には不思議な力があって、それを依り代にして子供の国を作ったんです。
半分はヴェヴェの力、もう半分はこの大木を通して、地中からエネルギーを吸い上げているんです。』
「エネルギーを・・・・?」
『この大木の根っこ、すごい深い所まで刺さってるんです。ヴェヴェが自分の触手の一部を与えて、地中深くまで伸びるようにしたから。
そうやってすごい深い所まで突き刺すことで、地熱を吸い上げているんです。』
「地熱・・・・。」
『マントルまで届いているんですよ。』
「マントルって確か・・・・、」
妻が俺を振り向くので、「地中を流れるマグマみたいなもの」と答えた。
「それが表に飛び出してくると噴火になる。」
「じゃあつまり・・・マグマの熱を吸い上げてるってこと?」
『そうです。その熱を電気に変換して、マイクロ波で子供の国まで飛ばしているんです。』
「マイクロ波って・・・・何?いや、聴いたことはあるんだけど、よく知らなくて・・・・、」
『波長の短い電磁波のことです。色んな所で使われているんですよ。
レーダーとか電子レンジとかケータイの通信とか。役に立つ便利な電波だと思って下さい。』
「な、なるほど・・・・。」
「それで色々役に立つ中に、マイクロ波送電っていうのがあるんです。
言うなれば、この大木は発電機のような物だと思って下さい。
その電気をマイクロ波を使って、子供の国に飛ばしているんです。」
「な、なるほど・・・・。」
『子供の国は巨木によって支えられています。その巨木のエネルギーがあの雲海です。
雲海は電気とヴェヴェの鱗粉をまぜて作ったもので、エネルギーを雲に似た形で保存しているわけです。
それが巨木の根っこを通って、全体にエネルギーを与えて、国のシステムを維持してるわけで・・・・、」
「ご、ごめん・・・そういう細かい話はいいから、なんでお爺さんに会えないのか教えてよ。」
『ヴェヴェは国を成すエネルギーの源を、自分の物にしたがっているからです。
そうすれば自由にエネルギーを取り出せるし、地球を侵略した後も役立つし。
だけどそんなのお爺さんが許すわけがない。』
「てことはつまり、お爺さんはこの大木を自由に使われるのが嫌ってことね。」
『そうです。それがヴェヴェの怒りをかって、ずっと狙われていたんです。
だけど本気でお爺さんを怒らせたら、いつエネルギーが絶たれるか分かりません。』
「じゃあヴェヴェは困ったでしょうね。手を出したくても出せないんだから。」
『その通りです。だからお爺さんの魂を大木から排除して、別の魂を宿そうとしたんです。』
「別の魂?」
『誰でもいいんです、自分の言うことを聞く魂なら。だから子供の国にいる誰かを犠牲にしようとしていたみたいで・・・・、』
「はあ?何それ?子供を犠牲って・・・・、」
『変ですよね、子供の国なのに、子供を犠牲にして成り立つなんて。』
「そうよ!やっぱりアイツはクズだわ、子供の天敵よ。」
妻の顔に怒りが宿り、「お父さんもそう思うでしょ?」と憤った。
「そう思うもなにも、実際にそういう奴だろ。あいつが子供の味方じゃないなんて、前から分かってたわけだし。」
「そうだけどさ・・・でもやっぱりムカつく。」
眉間に皺が寄り、怒りが増していく。
なつちゃんは話の先を続けた。
『もしそうなったら困るから、お爺さんはこう考えたんです。
自分を死んだことにして、ヴェヴェを騙そうって。』
「騙す?」
『お爺さんはわざとヴェヴェを挑発していました。時々エネルギーの供給を止めたり、私たちの謀反に手を貸したり。
そうすればヴェヴェは怒って、お爺さんを本気で大木から追い出そうとするだろうから。そして事実そうなったんです。
お爺さんが円香さんを子供の国へ飛ばしたあの日、ヴェヴェはお爺さんに襲いかかりました。
そこでわざと負ける振りをして、大木から出ていったんです。
身体を失ったお爺さんは、もうこの世に留まれません。だからそのまま成仏するはずだったんですけど・・・、」
「それは芝居だったと?」
今度は俺が尋ねる。なつちゃんは『はい』と頷いた。
『出ていったと見せかけて、実はすぐに戻って来てたんです。』
「どこに?」
『マントルまで刺さった根っこに。』
そう言って地面を指差す。
『魂だけなら地中でも平気だし、マントルの熱でも燃えないし。』
「なるほど、そりゃ確かに見つかりそうにない。」
『ヴェヴェは新しい魂を宿しました。けどそれは子供じゃなかったんです。』
「じゃあ誰?どっかから大人でも捕まえてきたとか?」
『いえ・・・・卵です。』
「卵?」
『また産んだんです。』
「マジで・・・・・?」
『それも蛾の卵を。だって前に産んだ奴は人間に奪われて、しかも孵化しちゃったから。』
「青年の母親だな。」
『ほんとは交尾しないと産めないんだけど、子供の国の半分以上のもの電力を使って、交尾なしで産んだんです。
それを大木に宿して、孵化してきたイモムシに管理させるつもりだったんですよ。』
「子供の国の電力を半分かあ。かなりのリスクを犯したんだな。だってもし失敗したら・・・、」
『ええ、失った電気が補充できないまま、子供の国はピンチになっちゃう。
それに単独で産むのってすごい疲れるみたいで、かなり弱ってました。
けどそうまでしてエネルギー源を自由にしたかったんですよ。地球そのものを子供の国に変える為に。』
「じゃあ卵はもう・・・・、」
『いえ、まだ孵化していません。』
「そうか。だから生きてるのがバレたら困ると・・・・、」
『ヴェヴェに見つかったら終わりなんです。だから今は会えません。』
そう言いきって『ごめんなさい』と呟く。
『きっとヴェヴェはもうあの蛾を倒してると思います。
今はきっと私たちを捜してるはず。だからもしお爺さんが出てきた所を見つかったら・・・・。
優馬君は可哀想だけど、私たちの力じゃどうにも・・・・、』
申し訳なさそうに言うその言葉は、妻に絶望をもたらした。
もちろん俺にも・・・・。
「・・・だったら・・・、」
「ダメだ。」
妻が言いかけた言葉を止める。
「なにがよ?」
鋭い目で睨むので、こう言ってやった。
「自分も蝶モドキに変わるとか言い出すんだろ?」
「そうよ、それしかもう優馬と一緒にいる方法が・・・・、」
「子供の国に大人は住めない。」
「子供の国になんか返さない。優馬はずっとここにいるのよ。」
「それも無理だよ。」
「なんで!?何が無理なのよ。姿が変わっても私たちの子供じゃない。周りに何言われようが育てればいいじゃな・・・・、」
「夢を押し返すんだ。」
「え?」
「子供の夢想はもう終わりだ。本当は何もなかったことに出来ればよかったけど、あの青年が死んだ以上は無理だ。
だったら・・・・もう夢を終わらせるしかない。」
俺は卵を取り出し、大木の元へと歩いた。
「優馬は大事だ。でも俺たちの子供の為だけに、こんな状態を放っておくわけにはいかない。」
「そんなの分かってる!だったら優馬だけでも残せばいいじゃんって言ってるんでしょ!」
「この卵を埋めて、爺さんをヴェヴェに生まれ変わらせるつもりだった。」
「だったって・・・どういうことよ?今からそれをやるんでしょ?それで優馬だけ残してもらえば・・・・、」
「俺たちが行こう、子供の国へ。」
「へ?」
「卵は二つある。一つはこの蝶の卵、もう一つは大木に宿ってる蛾の卵。これ使ってさ、俺たちが宇宙人になればいい。」
「・・・・・・・。」
「俺とお母さんでさ、子供の国を連れて、地球から離れよう。」
そう言って振り向くと、キツネにつままれたような顔をしていた。
「馬鹿なこと言ってると思うか?」
「・・・・なんていうか・・・・突拍子もないっていうか・・・・、」
「優馬は置いて行こう。」
「はあ!なんで?」
「優馬だけじゃない。まだ死んでないのに、ヴェヴェに連れて行かれた子は地球に残そう。
どっちかが蝶になれば、その子たちを人間に戻してやれるはずだ。
一緒に行くのは、大人に傷つけられて、命を終えてしまった子供だけ。
その子たちをさ、これから俺とお母さんで守っていこうよ。
だって俺たちは子供の天敵じゃない。守る側の大人なんだから。」
勝手なことを言っていると分かっている。
こんな事を一人で決めていいわけがないっていうのも分かってる。
だけど俺はそうするつもりでいた。
「爺さんだけに全てを任せて、はい終わりってのも・・・・よく考えりゃ酷い話だ。
だからそうしないか?俺たちが宇宙人になって、不幸になっちまった子供をさ、ほんとの夢の世界へ連れてってやればいい。
あんなヴェヴェみたいな大人が支配する世界じゃなくて、俺たちが子供を守って、安心して暮らせる世界にして。・・・どうかな?」
尋ねてはみたものの、もう決めていることだ。
ことだが・・・・妻が拒否したら、その時は爺さんに頼むしか・・・・、
「いいよ。」
妻はあっさりと頷いた。
「それで優馬が元に戻れるなら、私は構わない。」
「じゃあ・・・・、」
「そうしよう。」
妻はなつちゃんを見上げ、「蛾の卵は?」と尋ねた。
「この大木の中にあるんでしょ?」
『ええ。』
「それ、すぐに取り出せる?」
『出来ますけど・・・・ほんとにいいんですか?』
「だってそれしかないかなあって。そうしないと優馬は元に戻れないし、地球は侵略されちゃうし。それに・・・・、」
『それに?』
「子供の国にいる子たちは、大人のせいで苦しんだ子供たちよ。じゃあさ、同じ大人として責任取らないとと思ってさ。」
そう言ってから、「まあ一番は優馬の為だけど」と笑った。
『・・・・後悔しませんか?』
「全然。」
『本当にいいんですか?もう人間に戻れなくなるのに・・・・、』
「じゃあ一緒に行こうよ。私とお父さんだけじゃ心細いから、なつちゃんたちも手を貸してくれたら助かる。
魂は子供かもしれないけど、心はもう大人でしょ?だったらさ、私とお父さんと一緒に、あの国の子供たちを守ってあげようよ。」
妻は手を差し出す。
なつちゃんはじっとその手を見つめてから、『分かりました』と頷いた。
妻の指先に止まり、『信じていいんですよね?』と尋ねる。
『お二人とも信頼できる大人だって分かってます。ヴェヴェとは違うって・・・・。
でも私たちはずっと大人に傷つけられてきました。・・・・信じていいんですよね?』
「もちろん。もし子供の国がピンチになったら、身を挺してでも守るわ。」
『ほんとに?』
「約束する。あ、でも先にお父さんに盾になってもらってからね。私は予備の盾ということで。」
冗談っぽく言いながら俺を振り返る。
「いいぞ。俺でダメならお母さんがみんなを守る。だから信じてくれ。」
『・・・・ありがとう。』
エコーのかかった声が、小さく響き渡る。
それから数分後、なつちゃんたちは繭で大木を覆った。
そしてその中へと入って、小さな丸い玉を持って出てきた。
『これです。』
「これが蛾の卵?」
『はい。』
「なんか石みたいだな。あちこち穴が空いているし、色もどぎついし。」
『どうぞ。』
「あ、ああ・・・・。」
手に乗せた卵は、蝶のものより幾分重かった。
『もうじき孵化するはずです。』
「・・・だろうね、中でなんか動ているし。」
妻に手を向け、「持つ?」と尋ねる。
「いい。」
ブルブルと首を振り、「私はこっちで」と蝶の卵を奪った。
「お父さん、蛾にしなよ。」
「ジャンケンしないか?」
「最初はグー!ジャンケンぽん!はい私の勝ち。」
卵を乗せている俺の手に、容赦なくチョキを繰り出す。
なんて酷い・・・・。
《まあいいか。俺から言い出したことなんだから。》
元々無茶な提案をしているのだ。
それに付き合ってくれるというのだから、不満は言えない。
「ええっと・・・じゃあどうすればいいんだっけ?確か蝶の卵は飲むんだよな?」
『はい。奥さんは女性なので、産道を通って産まれてくるはずです。
そうすればイモムシが誕生して、そこに奥さんの魂が宿ります。』
「か、身体はどうなるの?」
『孵化したあと、養分として吸収されます。』
「そ、そっか・・・・。」
ごくりと喉を鳴らしながら、なんとも言えない形相で卵を見つめている。
『蛾の方は死体を糧とします。だから円香さんにはいったん死んでもらう必要があるんですけど・・・一人で出来ますか?』
「・・・・それは嫌だな。」
『じゃあやっぱりやめておきますか?』
「いや、そういうわけじゃないんだけど、死ぬってのは覚悟がいるなあと思って。」
『ちゃんと蘇ります。あの青年のお母さんがそうだったように。』
「そうだよな・・・生き返るんだよな。死んでも問題な・・・・、」
そう言いかけて、とんでもないことに気づいた。
「ぬああああああ!」
『ど、どうしました!?』
「そうだよ!生き返るんだよ!」
『はい・・・・?』
「だってこの卵、死人が復活するんだろ?だったらこれを使えばさ、あの青年を生き返らせて、全てを無かったことにしてもらって・・・・、」
そう言いかけた時、空の彼方から風が吹いてきた。
ほんの一瞬、嵐のような風が・・・・、
『円香さん、残念だけどそれは無理です。』
「ああ、分かってる。ヴェヴェが近づいてきて・・・・、」
『ヴェヴェが来なくても無理なんです。』
「・・・・どうして?」
『あの人、自分で死にたいって言ってたんでしょう?』
「ああ、だから父親に殺してくれって頼んだんだ。」
『それってある意味自殺ですよ。自分の意志で死んだ人は戻って来ません。』
「そ、そうなの・・・・?」
『生きていたくないから死んだんです。だったらその卵を使っても、魂がそこに宿ったりはしませんよ。』
「・・・・・・・。」
『もうお二人に蝶と蛾になってもらうしかないんです。それも今すぐ。』
なつちゃんは空を振り返る。
また風が吹いてきて、空がチカチカと光った。
「なんだあの光・・・・たくさん浮いてるけど。」
『おそらくですけど・・・・蛾だと思います。』
「蛾?でもあいつはヴェヴェにやられたんじゃ・・・・、」
『そっちの蛾じゃなくいて、小さな蛾の群れです。あの巨大な蛾、子供をさらって奴隷にしようと企んでたんです。
野戦病院で襲いかかってきた蛾の群れは、あの巨大な蛾に命令されてのことだと思います。
戦いを挑んではきたけど、どこか怯えてるように感じたから。』
「怯えてる?」
『あの蛾になったお母さん、虐待してたんでしょう。だからきっと、あの時の蛾の群れも同じ目に遭ったんだと思います。
暴力で抑えつけられて、無理やり言うことを聞かされて・・・・。』
「・・・・・・・・。」
『それを今度はヴェヴェがやろうとしている。
あの巨大な蛾がいなくなったもんだから、代わりに自分の手下にしたんだと思います。』
「そんな・・・・」
『知ってると思うけど、ヴェヴェは敵対する者に容赦しません。だから敵の奴隷だったあの子たち・・・・今度はヴェヴェに利用されてるんです。』
なんてこった・・・・と唇を噛む。
まったくどうしてこうも子供を傷つけたがる大人がいるのか?
《ようやく虐待者から解放されたと思ったら、今度は新しい虐待者が出てきたわけか。・・・・可哀想に。》
こちらに向かってくる蛾の群れは敵だ。
しかし憎むべき敵じゃない。
戦うべき相手でもない。
それは分かっているんだけど、放っておけばどうなるか?
妻と顔を見合わせ、複雑な心境になる。
『私たちが行きます。』
なつちゃんが群れを率いて舞い上がる。
『円香さんたちは子供を守る大人です。だから子供と戦わないで下さい。』
「でもなつちゃん、それだと君たちが辛い役割をすることに・・・・、」
『いいんです、それでも。これから自分たちの世界を託す大人に、子供殺しなんてしてほしくないから。』
空に浮かぶ繭の道から、無数の蝶が現れる。
怒るようにピカピカと点滅しながら、なつちゃんに続いていった。
『円香さん!大木の繭に入って下さい!』
「へ?」
『その卵を飲んで、繭の中に!そうしないと蛾に生まれ変わってもイモムシのままです!』
「・・・ああ、そっか!いきなり巨大な蛾になるわけじゃないんだよな。」
『早く繭の中へ入って下さい。そうすれば中にいる蝶たちが殺してくれます。』
「お、おう・・・・、」
『そのあと蛾に生まれ変わって、それから大木のエネルギーで急成長すればいけるかも・・・・。』
「大木のエネルギー?」
『大木の中に宿るんですよ!そうすれば直にエネルギーがもらえる。短時間で成虫に・・・・・、』
言い合っている間に、蛾の群れが迫ってくる。
その遥か後ろには、真っ赤に光る点が二つ・・・・。
《あれ・・・ヴェヴェの目か?》
なつちゃんたちは蛾の群れを迎撃に向かう。
妻は「待って!」と叫び、「亜子ちゃんを助けて!」と言った。
「彼女の子供なの!殺さないで!」
そう叫ぶも、すでに戦いは始まっていた。
蛾は雷を落とし、蝶は炎の竜巻で迎え撃つ。
俺は卵を握りしめたまま、大きな繭の前で立ち尽くしていた。
《行かなきゃな・・・・。》
死ぬのは怖い・・・・例え大きな使命であっても、我が子の為であっても。
しかし行かねばならない。
自分から言い出したことだ、今さら逃げることは出来ない。
「お母さん、すぐ戻ってくるから。・・・・優馬を頼む。」
妻の手には俺たちの息子がいる。
なつちゃんを追って飛び立とうとしているが、「ダメ!」と妻が手で覆った。
「行かせないからね!」
そう言って止めようとするも、蝶の力は半端ではない。
やがて妻の手から飛び立って、仲間の群れを追いかけるように、空へと昇っていった。
「優馬!!」
すでに高い空へと昇った優馬に、いくら声をあげても届かない。
妻は「そんな・・・」と呆然とした。
《きっと事態は把握してないだろうな。まだ二歳の子供だ。》
仲間が飛んで行くからついて行ってるだけに違いない。
このままだと、優馬はわけもわからずに殺される・・・・。
《もう迷ってる場合じゃない!》
卵を握りしめ、繭の中に飛び込む。
俺はもう人間をやめる、地球さえも離れて、子供たちと遠い宇宙へ・・・・。
だがその前に、やらなければならないことがある。
それは悪い大人を退治することだ。
遠い宇宙からやってきた子供の天敵、ヴェヴェ。
子供を守る大人として・・・・いや、子供の国を守れる大人かどうか、その為の試練を乗り越えないといけない。
少年の骨が入ったブルーシートと絵を置く。
ふうっと深呼吸して、バンバンと頬を叩いた。
「・・・・いくか。」
覚悟を決め、真っ白な繭の中へ飛び込んだ。

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