不思議探偵誌 最終話 挑戦、再び!(5)

  • 2010.07.30 Friday
  • 09:23
 突如として舞い込んできた希望の光。
もうダメだと諦めて、自分の唯一の生き甲斐を失くした喪失感を、心に灯った炎が明るく俺の気持ちを照らし始めた。
人生で何度か巡ってくる大きなチャンス。
それを活かすも殺すも俺しだい。
俺は、そのチャンスを絶対に掴んでみせる!
「もう、負けられませんね。
二度の敗北は許されないですから。」
由香利君が俺の隣に立って言う。
俺は椅子に座りながら頷き、昨日のことを思い出していた。
もう事務所を閉めるつもりでやって来た時、突然現れた茂美が俺に再度チャンスをくれた。
尾崎との再戦。
茂美の飼っているペットのメロンちゃんを見つける勝負。
これに全てがかかっている。
俺がこれからも探偵を続けられるかどうか、由香利君と一緒に、これからも働くことが出来るかどうか。
俺は椅子から立ち上がると由香利君に向き直った。
「また君と一緒に探偵が出来るなんて嬉しいよ。
それが今回一度限りで終わらないように、必ず尾崎に勝とう。」
由香利君は強く頷き、そして目に闘志を燃やしながら言った。
「私もまた久能さんと探偵が出来て嬉しいです。
もう負けるつもりはありません。
勝負は勝つ為にやるものです。
きっと、メロンちゃんを見つけ出しましょう!」
そして俺達は顔を見合わせて笑い、お互いに強く頷き合った。
上着を着て事務所を出た。
「久能さん、今回はどこを捜しますか?
メロンちゃんは女の子が大好きです。
尾崎の言っていたように、女の子がたくさん集まる場所を捜しますか?」
前回の勝負では、尾崎は女子高でメロンちゃんを見つけたと言っていた。
無類の女好きのメロンちゃんが、たくさん女の子が集まる女子高にいたのは当然かもしれない。
今回だって、尾崎は女子高を捜しているかもしれない。
「尾崎が女子高なら、私達は女子大でも捜しましょうか?」
それはいい考えだが、俺は何かが心の中で動いているような感じがした。
由香利君の言う通り、女子大にメロンちゃんが現れる確率は高いかもしれない。
どこを捜すか、それはとても重要な決断だ。
でも、自分の心の中で動く何か。
上手く言葉では説明出来ない。
何かが心の中を、そして頭の中を渦巻いていた。
「久能さん、早く捜しに行きましょうよ。
こうしている間にも、尾崎はきっとメロンちゃんを捜しているはずですよ。
私達には、もう後がないんです。
早く行動しないと。」
由香利君が焦った顔で俺を急かす。
俺はその顔を見た。
まだ俺と探偵を続けたいと言っていた由香利君。
その思いが目に表れていて、強く俺を見据える。
「うん、由香利君の言う通りなんだ。
早く行動しないといけない。」
でも俺は顔をしかめたまま、事務所の前で立ち止まっていた。
何だろう、この感覚。
何かが俺の心に芽生えようとしている。
強い力が流れ込んでくる気がして、俺は目まいにも似た感覚に襲われ、一瞬よろけた。
「大丈夫ですか。」
由香利君が、倒れそうになった俺の体を支える。
心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。
「ごめん、大丈夫だよ。
ちょっと目まいを起こしただけだ。」
俺が言うと、由香利君は俺の体から手を離さずに申し訳なさそうな顔をした。
「久能さん、疲れてるんですね。
ごめんなさい。
勝負に負けてから二日間、私何も連絡を取らずに・・・。」
顔を伏せた由香利君の頭をポンと叩き、俺は明るい口調で言った。
「いいさ、気にするな。
連絡をしなかったのは俺も同じだ。
昨日茂美がまた尾崎との再戦のチャンスを持ち込んでくれなかったら、俺はきっと、ずっと君と連絡を取らずにもう会うこともなかったと思う。
君だって、勝負に負けて辛かったろうにな。
何も気を遣ってやれなくて悪かったな。」
由香利君はぶんぶんと首を横に振り、顔をあげて言った。
「いいんですよ。
勝負に負けたショックは私も久能さんも同じだから。
どっちがどっちに気を遣うとか、そんな必要はないですよ。」
そう言って由香利君は俺の体から手を離し、ニコッと笑って見せた。
「今はもうそんなことを言っている場合じゃありませんよ。
早くメロンちゃんを見つけないと。」
由香利君、君は強い子だな。
俺も由香利君につられて笑い、よろけた体をしっかり立たせようとした時だった。
さっきまで心と頭の中に渦巻いていた何かが、急に俺の眉間に集まってくるように感じた。
これは、俺が超能力を使う時の感覚と同じだ。
でも、いつもと違う。
いつもより、もっと強烈な力が眉間に集まる。
熱い、そして痛い。
俺は頭を押さえ込み、その場に膝をついた。
「久能さん!」
由香利君が俺の前に屈んで、泣きそうな顔を見せていた。
「しっかりして下さい。
どこか体の具合が悪いんですか?
もしあんまり辛いなら、私一人でメロンちゃんを・・・。」
ガンガンと頭の中に大きな音が鳴り響く。
由香利君の声が、すごく遠くから聞こえるような気がする。
「久能さん、しっかりして!」
由香利君が俺の体を揺さぶる。
半分べそをかいている由香利君を見ながら、俺は眉間に集まる熱い力をどうすることも出来なかった。
どうしたんだ、一体?
自分でも、自分の体に何が起きているのか分からない。
超能力を使う時の感覚に似ているが、こんなに強烈な力は眉間に集中したことがなかった。
真っ白になる頭。
心の中で何かが暴れている。
耳鳴りのようなうねりが耳を痛いほど刺激する。
しばらくそのままうずくまっていた。
由香利君が半べそをかきながら俺に何か言っているが、何も聞こえない。
そうやって俺はどのくらいうずくまっていたのだろう。
多分長い時間ではないと思うが、やがて心も頭の中もクリアな状態になり、うねりのような耳鳴りもやんだ。
眉間に集まっていた力が、宙に向かって解放されていったような気がした。
「久能さん、久能さん!」
由香利君の声が聞こえるようになった。
彼女はちょっと涙を流しながら、強く俺の肩を握っていた。
俺はその手にそっと触れると、二コリと笑って立ち上がった。
由香利君が心配そうに俺を見上げる。
「大丈夫だよ、心配するな。」
由香利君の手を取って立たせ、俺は安心させるように微笑んだ。
由香利君は手で涙を拭きながら、相変わらず心配そうに俺を見ている。
心がとてもすっきりしていた。
頭の中がすっかり落ち着いて、とても気分がよかった。
眉間に集まった力が解放される瞬間、一瞬ある光景が目の前に浮かんだ。
頭の二つある、全身毛むくじゃらのヘビの姿が。
そしてそいつがいる場所が。
ほんの一瞬ではあったが、目の前にはっきりと見えたのだ。
これは透視能力だろうか?
自分でもよく分からなったが、きっとその一瞬見えた光景の場所にメロンちゃんがいると確信していた。
「由香利君、駅前に行こう!
以前メロンちゃんを捕まえたあの駅前に。」
由香利君はまだ半べそ状態のまま口を開いた。
「でも、あそこは前に捜して見つからなかったじゃないですか。
捜すなら、やっぱり女の子が集まる女子大の方が・・・。」
由香利君が言い終わる前に、俺は彼女の両肩を掴んで言った。
「いや、メロンちゃんは間違いなく駅前にいる。
きっとそこにいるはずなんだ!
間違いない。」
俺の真剣な目と力強い言葉に、由香利君は黙って俺を見ていた。
そして唇を一回噛むと、「はい」と頷いた。
「久能さんがそこまで言うのなら、私はその言葉を信じます。
二人で駅前に行きましょう。」
由香利君はもう涙を流していない目で、真っすぐ俺を見ていた。
「じゃあ行こう!
この勝負、きっと勝つんだ!」
そう言うと、俺達は駅前に向かって駆けて行った。
晴れた秋空が深い青色をしている。
その空の元を、俺達は勝利を信じて走って行った。
やがて駅前につくと、俺は息を切らしながら腕時計を見た。
午前10時。
駅前にはまばらに人がいた。
「若い女性の姿は少ないみたいですね。」
由香利君は息一つ切らしていない。
さすが空手で鍛えてあるなと思いながら、俺は駅の近くに歩み寄った。
由香利君がその後をついてくる。
由香利君の言う通り、若い女性の姿は少ない。
けど、きっとこのどこかにメロンちゃんはいるはずだと確信していた。
「二手に分かれて捜しますか?」
由香利君が俺の隣に並んで聞いてくる。
「そうだな、じゃあ1時間ほどしたらまたここに集合ということにしようか。」
「はい。
私、久能さんのこと信じてますから。
メロンちゃんはきっとここにいますよ。」
そう言って二手に分かれ、捜索を開始した。
前回と同じようにくまなく捜す。
若い女性も注意を払って見ていた。
そうこうしているうちに1時間。
俺達は元の場所に集まった。
「そっちはどうだった?」
俺は由香利君に尋ねた。
彼女は首を振る。
「見つかりませんでした。
久能さんは?」
俺も首を振った。
「でもきっとこのどこかにいるはずなんだ。」
俺はそう言って駅を見上げた。
「どこかに身を潜めているんですかねえ。」
由香利君も駅を見上げる。
その時、俺の眉間に力が集中してある映像が浮かんだ。
「危ない!」
そう言って由香利君の腕を引っ張った。
由香利君の体のすぐ脇を、頭が二つある、全身毛むくじゃらのヘビがジャンプしていった。
そのヘビはボテっと地面に落ちると、頭を持ちあげてこちらを振り返った。
「由香利ちゃーん!
会いたかったでえー!」
そのヘビはチロチロと舌を出しながら言った。
「見つけた!」
俺と由香利君は同時に叫び、そしてそのヘビを二人で鷲掴みにしていた。
「な、なんやなんや。
いきなり何すんねや!」
俺達の手の中でクネクネと体を動かしている生き物は、まぎれもなくメロンちゃんだった。
「やった!
やりましたよ!
見つけましたよ、久能さん!」
飛び上がって喜ぶ由香利君。
「なんや、由香利ちゃん。
そんなに俺らに会いたかったんかあ。」
二つの頭が同時に喋った。
メロンちゃんは相変わらず、俺達の手の中でクネクネと動いている。
「久能さん!
やった!
勝ちましたよ!
これでまた探偵が続けられますね!」
由香利君が満面の笑みで俺に向かって言う。
「ああ、そうだ。
俺達の勝ちだ。
これからも二人で探偵を続けらるぞ!」
メロンちゃんは二つの頭を忙しなく動かし、俺と由香利君を交互に見つめていた。
俺と由香利君は顔を見合わせて笑い合い、メロンちゃんを握りしめていた。
「痛たた。
あんまり乱暴に扱わんといてえなあ。」
その言葉にまた二人で顔を見合わせて笑い合った。
秋の深い青空が、俺達の勝利を祝福してくれているようだった。

                                 最終話 まだつづく


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