不思議探偵誌 最終話 挑戦、再び!(6)

  • 2010.07.31 Saturday
  • 09:39
 開けてある事務所の窓から、秋の涼やかな風が吹き込んでくる。
その風に頬を撫でられ、心地よい感触を感じていた。
今日は気持ちのいい秋晴れで、俺の心も同様に晴れ渡っていた。
今、俺の事務所には四人がソファに座っている。
俺、由香利君、茂美、そして尾崎。
その俺達のテーブルの前には、大人しくメロンちゃんがとぐろを巻いている。
「まさか、私が負けるなんて・・・。」
尾崎は茫然としながらメロンちゃんを見つめている。
メロンちゃんは男の俺と尾崎には目もくれず、由香利君と茂美を交互に見ていた。
「昨日駅前で見つけました。
これであなたとは一勝一敗。
まあ、引き分けってことですね。」
俺の言葉に尾崎は何か言い返そうとしたが、口をつぐんで黙り込んだ。
昨日駅前でメロンちゃんを見つけた俺と由香利君は、早速事務所に連れて帰り、茂美に連絡した。
「見つけたよ。
俺と由香利君でね。」
その言葉を聞くと、茂美は「そう、よかったわね」と明るく短い返事をしただけだった。
何故メロンちゃんが駅前にいると分かったのか。
昨日俺の体に起こった異変が、その原因かもしれない。
俺はただ目の前に一瞬浮かんだ映像を信じ、それに従っただけである。
どうしても負けたくないという思うが、一時的にではあるが、超能力を強くしたのかもしれない。
しかしまあ、今となってはそんなことはどうでもいい。
俺と由香利君は、こうして尾崎よりに先にメロンちゃんを見つけ、勝利を手にしたのだ。
「ねえ、尾崎さん。
今度は私の勝ちです。
さっき言ったように、これで一勝一敗の引き分け。
なら、どちらも事務所の看板を降ろす必要はなくなったということですよね。」
納得がいかないという感じの尾崎は、俺を睨んで言った。
「そうですね。
だったらまたもう一度勝負すればいい。
どぢらが真の超能力探偵に相応しいか、白黒はっきりつけようじゃありませんか。」
挑戦的な態度で身を乗り出し、チラリとテーブルの上のメロンちゃんを見た。
俺は尾崎の挑戦的な視線を受け流し、表情を柔らかくして答えた。
「いえ、私はもう勝負をするつもりはありません。
私にとって、どちらが真の超能力探偵かなんてどうでもいいことです。
あなたが自分こそ真の超能力探偵だと思うんなら、もうそれでいいじゃないですか。」
すると尾崎は俺を馬鹿にしたように笑い、そして言った。
「逃げるんですか?
もう一回私に勝つ自信が無いから。
事務所の看板を降ろすのが怖いから。」
その言葉にも、俺は柔らかい表情を浮かべたまま答えた。
「どういうふうに受け取ってもらっても結構です。
私は逃げたつもりはありません。
事務所の看板を降ろすのが怖いかと聞かれれば、それはその通りです。」
「ほら、やっぱり怖いんだ。
私に勝つ自信が無いということでしょう。
逃げているのと同じじゃないですか。」
そこで俺と由香利君は顔を見合し、わずかに笑った。
尾崎の隣に座っている茂美は、そんな光景を眺めていた。
「尾崎さん、私はね、誰かと勝負したくて探偵になったわけじゃない。
そして自分が超能力を持っていることを自慢しているわけでもない。
探偵は私にとって生き甲斐みたいなものなんです。
勝負の天秤にかけるような、安っぽいものじゃないんですよ。
さっきも言ったが、自分が真の超能力探偵であると思うなら、それでいいじゃないですか。
わざわざ私を目の敵にする必要なんてない。
実際あなたの超能力の方が優れているわけだし、それでいいじゃないですか。
それとも、本当に怖がっているのはあなたの方じゃないんですか?
この世に超能力を使える探偵が、自分だけじゃないっていう事実に怯えているだけじゃないんですか?」
「な、何を言って・・・。」
尾崎は一瞬うろたえたが、俺は構わず続けた。
「私はもうあなたと勝負するつもりはありません。
探偵は、誰かと勝負する為に存在しているわけじゃない。
持ち込まれた依頼を解決する為に存在しているんです。
私は、私の力を必要とする依頼人の為に探偵をしている。
あなと勝負をする為に、探偵をやっているのではない。」
「しかし・・・。」
そう言ってさらに身を乗り出そうとした尾崎を、茂美が不敵な笑みを浮かべながらたしなめた。
「尾崎さん、もういいじゃない。
久能さんの言う通りよ。
探偵は依頼人の為に存在している。
その言葉は、的を得ているわ。」
「いや、しかし・・・。
私はまだ勝負を続けたいと思って・・・。」
「醜いわよ!」
茂美が声を荒げ、尾崎が驚いたように目を開いた。
俺の隣で、由香利君もちょっとビックリしたようだった。
「さっき久能さんが言ったこと、やっぱり的を得てるわ。
あなた怖いのよ、この世に自分以外に超能力を使える探偵がいることが。」
「そ、そんなことはない!」
尾崎は慌てて答えた。
「だったら、もういいじゃない。
一勝一敗で勝負は引き分け。
それでお終いよ。」
尾崎は乗り出していた身を引っ込めて椅子に座り直し、唇を噛んで悔しそうな顔をしていた。
茂美は軽く口元を笑わせ、尾崎に言った。
「もう勝負はお終いなの。
あなたが久能さんに勝負を挑む正当な理由なんて、どこにもないわ。
元々この勝負はあなたのわがままみたいなもの。
久能さんはそれに付き合っていただけよ。」
由香利君が嬉しそうな目で茂美を見つめ、それに気付いた茂美は軽くウィンクをよこした。
「嫌がる相手を、これ以上勝負の土俵に引っ張り出そうとすのは、野暮な男のすることよ。
あなた、そんな野暮ったい男ってわけ?」
尾崎は完全に黙り込み、握った拳を膝の上で震わせていた。
また窓から風が吹き込み、それを合図にしたかのように尾崎は立ち上がった。
「分かりました。
もう勝負を挑むことはしません。
相手が逃げているんじゃ、勝負になりませんからね。
やっぱり、真の超能力探偵は、この私ということだ。」
そして尾崎はドアへ向かって歩き出す。
開けたドアを出て行く瞬間、一瞬だけ俺を見た。
俺はその視線を跳ね返すように見据えた。
尾崎は顔を伏せ、静かにドアを閉めて去って行った。
「茂美さん、カッコよかったです!」
由香利君がはしゃぐように茂美に言った。
「最後まで強がってたわね。
子供な男だわ。」
茂美は笑いながら言い、テーブルの上のメロンちゃんを掴むと立ち上がった。
「ごめんね、メロンちゃん。
寂しかったでしょう。
一緒にお家に帰りましょうね。」
茂美に甘い言葉をかけられながら撫でられているメロンちゃんは、とてもご機嫌そうだった。
「いやあ、やっぱり茂美さんは男前な美人やなあ。
惚れ直してまうわあ。」
メロンちゃん一号が言う。
「うんうん、その通りや。
さすが、俺らが惚れただけの女や。」
メロンちゃん二号も嬉しそうにしている。
「じゃあ、私はこれで。」
茂美がドアに向かって行く。
「なあ、茂美さん。
俺はまた探偵を続けられることが出来るよ。
君のおかげだ、ありがとう。」
そう言って頭を下げる俺に、「何のことかしら」ととぼけてみせる茂美。
「まあ、また近いうちに依頼を持ってくるかもしれないわ。
その時はよろしくね。」
そう言って茂美は去って行った。
「由香利ちゃん、またなー。」
ドアの向こうからメロンちゃんの声が聞こえ、茂美の足音とともに消えていった。
俺はソファから立ち上がり、自分の椅子に座り、窓の外を眺めた。
「お茶でも淹れましょうか。」
由香利君の声を背中に聞き、俺は頭だけ振り返って頷く。
俺はまた、探偵を続けることが出来る。
由香利君と一緒に。
嬉しいかと聞かれればその通りだが、飛び上がるような喜びではなく、何か心に暖かな安心めいた感情がわきたっていた。
「はい、どうぞ。」
由香利君が俺の机に上にお茶を置き、俺は椅子を回して由香利君と向かい合った。
お茶を一口飲み、ふうっと息を吐く。
由香利君が俺の前に立ったまま、ニコニコしながらこっちを見ている。
俺はもう一口お茶を飲み、由香利君に聞いた。
「なあ、君はいつまで俺の助手でいてくれるんだい?
大学を出たら就職だろう。
その時には、この事務所を辞めるのかい?」
由香利君は悪戯っぽく口に手を当てて笑い、「さあ、どうでしょう?」なんて笑いながら言っている。
「久能さんがどうしても私に助手を続けていて欲しいのなら、卒業してもここで働いてもいいですよ。」
俺はごほんと咳払いをし、ニコニコしている由香利君から顔を背けて言った。
「ま、まあ。
君がどうしてもここで働きたいのなら、俺は構わないけど。」
「素直じゃないなあ。」
そう言って由香利君は鼻歌を歌いながら書類の整理を始めた。
いつもと変わらない光景。
出来れば、ずっと続いて欲しい。
俺は嬉しそうに事務所を動き回る由香利君を見ながら、「卒業しても辞めないでくれよ」と小さく呟いた。

                      *

あれから十日以上が経ち、俺は相変わらず由香利君に隠れてエロ雑誌を読み、由香利君は相変わらず事務所の書類の整理や掃除をしていた。
「おお、このお姉ちゃんの腰のくびれはたまらんなあ。」
思わず声に出すと、由香利君が俺の前に立っていた。
「あ、しまった!」
そう言うのと同時に、俺の手からエロ雑誌を奪い取り、丸めてゴミ箱に捨てられてしまった。
「何度も何度も言わせないで下さい。
どうして仕事中にこういうものを読むんですか。」
俺は怒った顔の由香利君を見ながら、「えへへ」と誤魔化し笑いをして捨てられたエロ雑誌を拾おうとした。
「拾うな!」
由香利君のチョップが頭に落ちる。
「もう、相変わらず乱暴だなあ。
いいじゃないか、ちょっとくらい。」
俺が反論すると、またチョップをくらった。
「ダメなものはダメです。
たまには頭の中からエッチなことを消して下さい。」
由香利君はぷりぷり怒りながら、事務所の掃除に戻った。
「相変わらずやってるわねえ。」
茂美が開いたドアの前に立っていて、笑いながら言った。
「あ、茂美さん。
もう、聞いて下さいよ。
久能さんたら何度注意しても仕事中にエッチな本を読むんですよ。」
駆け寄って来て不満を漏らす由香利君に、「あら、それはいけないわねえ」と微笑みながら答えている。
俺は捨てられたエロ雑誌を拾いながら、こちらに近づいて来る茂美を見た。
「まあ、由香利ちゃん。
久能さんまたエッチな本を見ようとしてるわよ。」
「え?
あ、ほんとだ!
コラ、そんなもん捨てときなさい。」
またもやチョップをくらい、エロ雑誌を捨てられてしまった。
俺はチョップをくらった頭を押さえながら、顔をしかめて茂美に言った。
「もう!
バラすなよ!
また由香利君に怒られちゃったじゃないか。」
不機嫌な俺を見て茂美は笑い、そして俺の傍に寄って来て体を密着させる。
ああ、たまらん。
柔らかい胸が俺の腕に。
「うふふ、久能さん。
実はまたうちの雑誌で未確認生物の特集をやっていてね。
それで依頼を持って来たのよ。」
そう言ってさらに胸を押し付けてくる。
ああ、茂美お得意の色仕掛けが出たよ。
俺は顔をだらしなくニヤニヤさせながら、どうせまたろくな依頼じゃないんだろうなと思っていた。
「久能さん、顔がだらしないですよ。」
由香利君に拳骨をくらった。
頭を押さえて痛がる俺。
「本当に仲がいいわねえ。
ねえ、久能さん。
あなたと由香利ちゃんは、まったくいいコンビだわ。」
そう言って茂美は俺から体を離し、机の前に回って来て一枚の紙を置いた。
茂美の胸の感触が腕から離れていって、俺はちょっと残念に思いながらその紙を見た。
「今ね、インターネットで話題になっている生き物がいるのよ。
足が20本あって頭に羽が生えていて、しかも東北弁を喋るタコがいるんですって。」
またか・・・。
そんな生き物がいるわけないと思ったが、実際にメロンちゃんのようなヘビもいるので否定出来ない。
「詳しいことはその紙に書いてあるわ。
うふふ、メロンちゃんを見つけた久能さんなら、きっとこのタコも見つけてくれるわよね。」
茂美は前屈みになって豊満な胸を俺に見せつける。
クソ!また色仕掛けだ。
「ま、まあ捜してみるよ。」
俺が曖昧に答えると、茂美は満足そうに笑いながら頷いた。
「見つけたら教えてね。
期待してるわよ、久能さん。」
そう言葉を残し、茂美は色っぽいフェロモンを振りまきながら去って行った。
「面白そうな依頼ですね。
早速捜しに行きましょうよ。」
由香利君が嬉しそうに出掛ける準備をする。
俺はやれやれといった感じで立ち上がり、上着を羽織って茂美の置いていった紙をポケットに突っ込んだ。
「よし!
じゃあ張り切って捜しましょう!」
元気な声を出す由香利君の近くに寄り、俺はニコッと笑って言った。
「そうだな、張り切って行こう。」
そう言って由香利君のお尻を撫でる。
「何するんですか!」
凄まじい鉄拳が俺の顔にめり込んだ。
「もう!
本当にエッチなんだから!」
俺は出てくる鼻血を押さえるため、ティッシュを丸めて鼻に突っ込んだ。
「やっぱり由香利君の鉄拳は強烈だなあ。」
そう言うと、由香利君は「鍛えてますから」と拳を握って見せた。
「ほら、早く行きますよ!」
由香利君に急かされ、俺は「はいはい」と言いながらドアに向かう。
季節は秋。
今日は美しい秋晴れで、きっと外には透き通るような青い空が一面に広がっている。
「じゃあ、行こうか。」
俺は鼻にティッシュを突っ込んだまま、ドアを開けて由香利君とともに外に出た。
思った通り、綺麗な青空が広がっている。
「久能司探偵事務所」
その看板を一目見ると、俺は先を行く由香利君の後を追いかけた。
依頼を解決する為、今日も俺達は街へと繰り出した。

                                  最終話 完


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