勇気のボタン〜空っぽの賽銭箱〜 第十四話 獣たちの思惑(1)

  • 2018.04.05 Thursday
  • 10:49

JUGEMテーマ:自作小説

ド田舎の山の麓、オンボロの神社が建っている。
チェリー君から依頼を受け、車で二時間かけてここまでやってきた。
俺が住んでいる所と同じ県内ではあるが、あまりの田舎ぶりに感動さえ覚えていた。
「こんな場所があったなんて。」
見渡す限り山、山、畑、田んぼ、そして山。
一番近いコンビニでさえ、車で30分といった過疎ぶりだ。
「そりゃこんな所に建ってたんじゃ誰も来ねえぜ。」
マサカリが呆れたように言う。
神社は木立に囲まれていて、そのせいか鬱蒼と暗い。
多くの場合は神社は木々に囲まれているから普通といえば普通なんだけど、ここはなんていうか・・・・そう、とにかく暗いのだ!
木立に混じって竹林があり、歩道はまったく整備が行き届いていない凸凹の状態。
落ち葉が散乱しまくり、枝の燃えカスが散らかり、灯篭にはヒビが入り、鳥居までもが今にも崩れそうだった。
「いっそのこと借金取りに引き取ってもらった方がいいんじゃないか?」
チュウベエの言うことはもっともで、ちょっと大きめの地震が来たら倒壊してもおかしくない。
チェリー君は面白くなさそうに「ふん!」と鼻を鳴らした。
「だから嫌なんだよ、ここに帰って来るのは。」
「ちょっと同情するよ。」
「そうね、憐れみさえ覚えてくるわ。」
「ダメよモンブラン、チェリー君が傷つくから。・・・・でも私も可哀想になってきた。」
「うるせえ!いいからとっとと行くぞ。」
鳥居を潜り、鬱蒼とした暗がりの中へ入っていく。
チュウベエが「俺帰っていいか?」と言った。
「ダメだ。今回は全員出動なんだから。」
「んなこと言ったって、ここにいたら気分の底まで暗くなりそうだ。なあデブ犬。」
「デブじゃねえ、ぽっちゃりと言えぽっちゃりと。けどまあ・・・・バカインコの言うことも分かるぜ。」
「ねえ悠一、私みたいなレディにこういう場所は似合わないと思うの。」
「私もできればパスしたいわ。なんだか身体が冷えそうで・・・・。」
「はいはい、愚痴ってないで行くぞ。」
グチグチ言いながらついて来る動物たち。
おんぼろの参道を抜けていくと、これまた年季の入った本殿が見えてきた。
「見て悠一!お化け屋敷があるわ。」
「失礼だぞ。」
「いや、ほんとにお化けがいるぞ。」
チュウベエが羽を向ける。
するとその先には・・・・、
「ぎゃあああ!」
青白い顔をした男女が立っていた。
白装束を身にまとい、腕や足には包帯を巻いている。
本殿のすぐ隣に立ちながら、恨めしそうな目で睨んでいた。
《こんな昼間から幽霊かよ!》
背中を向け、一目散に逃げ出す。
しかし後ろから足音が近づいてきた。
《追いかけて来てる!》
俺も動物たちも必死に逃げる。
だが幽霊の足は速かった。
ガシっと襟首を掴まれて、後ろへ引き倒されてしまった。
「いやあああ!呪わないでくれええええ!」
「なに言ってんだボケ。」
パチンと頭を叩かれる。
見上げるとチェリー君がいた。
「何してるんだ!君も早く逃げろ!」
「なんで逃げなきゃいけねえんだよ。」
「だって幽霊がいるんだぞ!呪い殺されるぞ!」
「・・・・あのな、あれは幽霊じゃないから。」
グイっと顔を掴まれて、幽霊の方を振り向かされる。
「やめろおおお!」
「大人しくしろよ。」
「ああいうのは見ちゃダメなんだよ!きっと三日後くらいに死の呪いが・・・・、」
「ありゃ俺の親父とお袋だ。」
「・・・・・え?」
ピタっと固まる。
「君のご両親・・・もう亡くなってたのか?」
「だから幽霊じゃねえって!」
二人の幽霊はヒタヒタと近づいてくる。
マサカリは俺の後ろに隠れ、モンブランはさらにその後ろへ隠れ、マリナはさらにその後ろ、チュウベエはどこかへ飛び去ってしまった。
「呪うならコイツだけにしてくれ!」
「そうよ!私たちは無理矢理連れて来られたのよ!」
「酷い飼い主なの!私たちは無関係よ!」
「お前らなあ・・・・・、」
「ホ〜ホケキョ!」
「こらチュウベエ!ウグイスに混じって逃げようとするな!」
あっさり飼い主を見捨てるなんて・・・・こいつらとの信頼はいったいなんだったのか?
まあいつもの事ではあるけど。
幽霊らしき人達は俺の目の前までやってくる。
そしていきなり血を吐いた。
「ゴハアッ!」
「ひいい!」
「ゲバアッ!」
「ぎゃああ!」
膝をついてうずくまる二人。
チェリー君が背中を撫でている。
「無理すんなよ親父。肋骨と骨盤と大腿骨と腕を骨折してるんだから。」
「す、すまん・・・・ゴバアアッ!」
「お袋も寝てろよ。心臓と肺と胃と膵臓がズタズタなんだから。」
「でもお客様が見えるっていうから・・・・ゲバアアッ!」
二人の足元に血だまりが出来ていく・・・・。
「もういいから中に入って寝てろ。後でお粥作ってやるから。」
《それより病院に連れてけよ!》
二人はフラフラと立ち上がり、また血を吐きそうになる。
しかしどうにか堪えながら、ペコリと頭を下げた。
「有川さんですな・・・?」
親父さんが尋ねる。
「そ、そうですが・・・。」
「ツクネがお世話になりました・・・・。」
「いえ・・・こちらこそ。」
「不愛想な娘なもんで・・・・さぞ気を悪くされたでしょう。」
「と、とんでもない・・・・ツクネちゃんはとっても良い子でしたよ、ええ。」
そう答えると、今度はお袋さんが「すみません・・・・」と言った。
「私たちの為にわざわざお越し頂いて・・・・。」
「こ、これも仕事ですから・・・・。」
「大したおもてなしは出来ませんけど・・・・せめて中でお茶くらい・・・・ごふ!」
「いいです!いいですから寝てて下さい!」
ここで死なれちゃたまったもんじゃない。
チェリー君をせっつき、家に戻ってもらうように言った。
「どうか・・・・どうかツクネのことを頼みます。」
「不愛想だけど悪い子じゃないんです・・・・助けてやって下さい。」
「だ、大丈夫ですよ!僕とチェリー君で必ず助け出しますから。」
喋る度に血を吐くのでビクビクしてしまう。
おそらくあの二人も霊獣なのだろう。
でなきゃとうにあの世へ旅立っているはずだ。
二人は神社の脇にある平屋へ消えていく。
チェリー君は「悪いな驚かせて」と肩を竦めた。
「大人しくしとけって言ったのに、挨拶するって聞かなくてよ。」
「ある意味幽霊よりビビったよ・・・・。」
「まあとにかく姉貴を捜しに行かなきゃな。あのコウモリ野郎は向こうへ逃げてったんだ。」
そう言って神社の奥にある深い山を指さした。
「さ、行こうぜ。」
「待て待て。その前にもうちょっと詳しく話を聞かせてくれよ。」
「ん?」
「だって大まかな事しか聞いてないからさ。そのコウモリ野郎が現れた時、具体的にどんな状況だったのか教えてほしいんだ。」
「車の中で教えたじゃねえか。」
「いやいや、浮かない顔してなんにも答えてくれなかったじゃないか。なあみんな?」
動物たちを振り向くと、全員鳥居の外の逃げ出していた。
「悠一よお、悪いけど今回はマジでパスしたいぜ。」
「そうよ、いきなり目の前で血を吐かれるなんて・・・・正直泣きそうだったわ。」
「ありゃもうじき死ぬな。」
「実はもう死んでたりして・・・・。さっきのは未練を残した地縛霊で・・・・、」
「だから失礼だろ!」
なんと口の悪い奴らか。
呼んでも全然こっちに来ないし。
《まあいい。今は詳しい話を聞かないと。》
俺は尋ねた。
ツクネちゃんがさらわれた時、いったいここで何があったのかを。
チェリー君は「しゃあねえなあ」と面倒くさそうに喋り始めた。


        *****


実家に帰って来た次の日のことだよ。
俺は賽銭泥棒を待ち伏せしてたんだ。
近くの茂みに隠れてた。もちろん擬態してな。
時間?そうだな・・・陽は沈みかけてたな。日没までもうちょっとって所だ。
だんだん暗くなり始めてよ、今日は来ねえのかなって思ってたんだ。
俺の擬態は二時間しかもたねえから、その間に来なかったら引き揚げるしかねえ。
待ち伏せを始めて一時間半くらい経った頃かな。
あと30分待って来なかったら諦めようと思ってた。
けど・・・・奴は来やがった。
空から一匹のコウモリが飛んできたんだ。
あの日は満月だったからハッキリと姿が見えたぜ。
コウモリは神社の木にとまってよ、歯ぎしりみたいに口を動かしてた。
ああやって特殊な音波を出すんだろうな。
誰か見張ってねえか?罠はないか?
慎重に確かめてたぜ。
けど俺の擬態はそんなんじゃ見破れねえ。
誰もいないと思って油断した野郎は、そそくさと賽銭箱に近づいて来やがった。
そんで人間に化けやがったんだ。
細身の陰湿そうな野郎だったぜ。
そこの太ったブルドッグとは正反対だな。
・・・痛だだだだ!噛むな!
俺はデブじゃないだって?
何言ってんだ。どっからどう見ても脂肪の塊・・・・痛!
分かった!もう言わないから噛むな!
なんて犬だよまったく・・・・ちゃんと躾けくらいしとけ。
ええっと・・・どこまで話したっけ?
・・・そうそう!野郎が人間に化けたとこまでだ。
アイツは賽銭箱を掴んで、そんでああしてこうして中の金を盗みやがった。
え?どうやって盗んだのかって?
意外と簡単なんだよ、中身を取り出すのは。けど言わねえ、企業秘密だかんな。
奴は小銭をポケットにねじ込んで、意気揚々と引き揚げようとした。
そこで俺の出番ってわけだ!
茂みの中から飛び出して、後ろから飛びかかったわけさ。
野郎はビックリしてたぜ。
まさか茂みに誰かが潜んでるなんて思わなかったみたいでな。
俺は擬態を使ったままアイツを取り押さえようとした。
その方が反撃されにくいと思ってよ。
後ろから押し倒して、地面に組み敷いて、腕をねじり上げようとしたんだ。
・・・そん時だ。
野郎は180度首を回転させて、ガバっと口を開けた。
・・・その瞬間思ったよ、なんかヤバいって。
嫌な予感がして飛び退くと、野郎は超音波を出しやがったんだ。
その威力の凄まじいのなんのって・・・・。
空気が揺れて爆発みたいな音がしたからな。
もしかわすのが遅れてたら全身の骨がバキバキだったろうぜ。
焦った俺は心を乱しちまって、擬態が解けちまった。
野郎は立ち上がり、また超音波を撃とうとした。
今度はよけられねえ・・・・そう思った時だ。
親父が出て来て「コラあああ!」って叫んだんだ。
野郎はそっちに気を取られて、俺から目を逸らした。
その隙にまた擬態してよ、茂みの中に隠れたわけさ。
俺を見失った野郎は、親父とお袋に襲いかかった。
また爆発みてえな音がしてよ、親父とお袋は吹き飛ばされちまった。
二人とも一発でノックアウトだ。
けど野郎はまだ攻撃しようとしてた。
ゆっくり近づいて、ガバっと口を開けたんだ。
こりゃヤベえと思って助けに入ろうとしたよ。
茂みの中から飛び出して、後ろから飛び蹴りでも喰らわしてやろうとしたんだ。
けどその前に姉貴が助けに入った。
クルっとジャンプして人間に化けてから、足元の石を蹴り飛ばしたんだ。
姉貴はサッカーやってたからさ、物を蹴飛ばすのが得意なんだよ。
ほら、俺ん時だって見事に一発でおでこに当てたろ?
だから今回も見事にヒットしたわけさ。
コウモリ野郎のおでこにゴツン!と。
一瞬だけ「おうふ!」とか悲鳴をあげてたぜ。
こりゃ効いてると思って、姉貴はもう一発石を蹴飛ばしたんだ。
だけど野郎は超音波でそれを弾きやがった。
そんでそのまま姉貴に目がけて・・・・・。
姉貴はまともに喰らっちまったよ。
爆音と共に20メートルくらい吹き飛ばされてた。
その衝撃で気を失ってよ、全然立ち上がってこなかった。
このままじゃ姉貴も親父もお袋もやられちまう!だから俺は意を決して飛び蹴りをかましたわけさ。
でも残念ながら不発に終わった。
なんでかって?
動揺してたからさ!
目の前で家族がボッコボコにされちまってよ。
すんげえ焦ってた。
だから擬態を見破られちまったんだ。
野郎はサッと俺のキックをかわした。
そんで姉貴を抱えて、山の中に消えちまったってわけさ。


        *****


チェリー君は山を見つめている。
この山のどこかにいるであろうツクネちゃんを心配しているんだろう。
「詳しいことは分かった。要するにツクネちゃんは俺が思ってた以上にピンチみたいだな。」
「親父やお袋以上に大怪我してるはずだ。」
「なら一刻も早く助けないと。」
「だからそう言ってるだろうが。」
イラっとしながら睨んでくる。
「モタモタしてられねえんだ。今すぐ行くぜ。」
神社の横にある道を歩いて、奥の山へと登っていく。
俺は後ろを振り返り、鳥居の外に逃げている動物たちを呼んだ。
「いつまでビビってんだ、さっさと行くぞ。」
「怖い」だの「気味悪い」だの「行きたくない」だの「腹が減った」だのと喚いている。
最後のはマサカリだろう。
飯なら2時間前に食ったはずだ。
「嫌なら置いてくぞ。俺が戻るまでこの神社で待ってるんだな。」
そう言うと、「ええ〜・・・」と首を振った。
「またさっきの幽霊が出て来るかもしれねえじゃねえか。」
「私・・・ついて行く方を選ぶわ。」
「俺も。」
「私も。」
みんなトコトコと追いかけてくる。
モンブランが俺の横に並んで、「手伝うのは手伝うけどさ」と口を開いた。
「みんな固まって動いても意味ないんじゃない?」
「出来ればバラけて捜索したいけど、ここは初めての山だ。遭難したら大変だからまとまって行こう。」
「失礼ね、私は遭難するほどドジじゃないわ。」
モンブランは「別行動させてもらうわね」と道を逸れていく。
「おい!危ないぞ!」
「ピンチになったら助けに来てよ。私を拾ってくれた時みたいに。」
「あの時とは状況が違うだろ。」
言い終える前に山の中に消えてしまう。
「あ、じゃあ俺も別行動で。」
チュウベエが空へ羽ばたいていく。
「まあお前は遭難する心配はないだろうけど・・・・でも気をつけろよ。ワシとかタカがいたら喰われちまうぞ。」
「大丈夫だ、猛禽類の扱いは慣れてる。トンビやイヌワシの友達がいるからな。」
「相変わらずコミュ力が高いことで。」
「そんじゃ見つけたら知らせにくるから。バイ。」
「・・・・・おいコラ!なんで糞を落としてくんだ!」
頭が汚れてしまった・・・・最悪だ。
近くの葉っぱでゴシゴシと拭くが、なかなか取れなかった。
「悠一、俺も別行動で・・・、」
「お前はダメだ。」
「なんでだよ!俺には信用がねえのか!」
たぷんたぷんのお腹をブルブル揺らしながら抗議する。
「だってあいつらはこういうのに慣れてるだろ。でもお前はなあ・・・・すぐに弱音を吐くから。」
「やい!俺様をヘタレみたいに言うな!」
「ヘタレじゃなかったらなんなんだよ。すぐ疲れたとか怖いとか言うクセに。」
「へ!いつまでも俺様をただのブルドッグだと思ってたら大間違いだぜ。」
「なんだよその自信満々な顔は?なんか特技でも身に着けたのか?」
そう尋ねると、クルっとお尻を向けた。
「何してんだ?」
「・・・・・・・・。」
「・・・・・臭っさ!」
鼻がもげそうな悪臭がする・・・・。
「へへへ、どうだ?」
「どうだ?じゃないだろ!なんでこっちに向けて屁をこくんだよ!」
「俺様の特技が見たいって言うからよ。」
「もしかして・・・特技ってオナラのことか?」
「おうよ!最近オナラをコントロールできるようになってよ。溜めて溜めて直腸の辺りで圧縮するんだよ。
そいつを一気に放出するとだな・・・・、」
「いいよ説明しなくて!」
「けどリスクもある。下手すると固形物まで一緒に飛び出して・・・・、」
「しなくていいって言ってるだろ!」
こんなの特技でもなんでもなく、ただオナラを我慢してるだけじゃないか。
しかもめちゃくちゃ臭いし・・・・。
「もし誰かが襲ってきたら、こいつで撃退してやるのさ。」
「頼むからドヤ顔で言うのはやめてくれ。飼い主として恥ずかしい。」
「こいつの直撃を喰らった日には、しばらく吐き気が止まらなくなるだろうぜ。」
「俺がすでにそうなりかけてるよ・・・・。」
「というわけで、俺も別行動をする。」
「ほんとに大丈夫か?迷ったりしたら大変だぞ?」
「へ!腐っても犬でい!この鼻がありゃなんとかならあ!」
丸っこい鼻をヒクヒクさせながら、「リードを外してくれ」と言った。
「俺だって一匹でやれるってとこ見せてやるぜ!」
「・・・・分かったよ。でも無理は禁物だぞ。危ないと思ったらすぐに神社まで引き返してくるんだ。」
「おうよ!」
カチャっとリードを外してやると、「ほうりゃ!」と駆け出していった。
しかしものの数分で息が上がっていた。
トボトボ歩きながら木立の中へ消えていく。
「大丈夫かあいつ・・・・。」
ちょっと不安になってくる。
するとマリナも「私は・・・・」と言い出した。
「言っとくけどお前はダメだぞ。」
「なによ、誰も別行動するなんて言ってないわ。」
「ならいいけど。」
「その代わりさっきの神社に置いてってくれない?」
「え?なんで?」
「本殿の前だけ陽が当たってたのよ。ゆっくりお昼寝できるかと思って。」
「でもあそこは怖いって言ってたじゃないか。」
「冷える方が嫌なの。もうほとんど春だけど、陽射しの届かない所はまだ寒いから。」
「けどお前だけ残してくってのはなあ・・・、」
「もしコウモリ野郎が来たらコイツで引っかいてやるわ。」
鋭い爪をニョキニョキ動かしている。
「ね、いいでしょ?」
「う〜ん・・・・心配だけどそこまで言うなら。」
俺は神社まで引き返し、本殿の前にマリナを置いた。
「ああ・・・あったかい。」
目を閉じてウットリしている。
もし誰かが参拝に来たら腰を抜かすだろう。
「じゃあここで大人しくしてろよ。」
「は〜い。」
行ってらっしゃいとばかりに尻尾を振る。
まったく・・・どうして我が家の動物たちはこうも自分勝手なのか。
まあいつもの事ではあるけど。
神社を後にして山道へ向かう。
するとチェリー君が怖い顔で走ってきた。
「おい!いつまでモタモタしてんだ!」
「ごめんごめん、ちょっと動物たちが・・・・、」
「いいからさっさと来い!」
グイっと背中を押される。
山道はほとんど整備がされていなくて、あちこちに石が転がっていた。
地面も凹凸だらけだし、ほとんど人が通らないのだろう。
気をつけないと転んでしまいそうだ。
さすがにチェリー君は慣れた様子で歩いていくけど。
「なあチェリー君。」
「なんだ?」
「一つずっと気になってたことがあるんだけど。」
「だからなんだよ?」
「賽銭泥棒のせいで収入が無くなって、それで借金を返せないって言ってたよな?」
「それがどうした?」
「ちょっと不思議だなと思って。お賽銭ってそう儲かるもんじゃないだろ?
伏見稲荷とか出雲大社とか、ああいう大きな神社ならそれなりの額だと思うけど・・・・、」
チラっと後ろを振り返る。
もう神社の姿は見えないが、あのボロっちい佇まいは目に焼き付いていた。
「こう言っちゃ悪いけど、あんまり人が来るような感じじゃないよな。だったら借金を返せるほどの収入があるのかなと思って。」
「要するに誰も来ないほどボロい神社だって言いたいんだろ。」
「オブラートを外すなら。」
「アンタの言ってることは事実だよ。賽銭は年間に5千円を超えればいい方だ。」
「年収が5千円・・・・それじゃどう頑張っても借金の返済は無理じゃないか。いくら借りてるのか知らないけどさ。」
「借りたのは500円だ。」
「へ?」
「なんだよ?」
「500円?500万じゃなくて?」
「500円だ。」
思わず足が止まってしまう。
そんなの一時間バイトでもすれば余裕で稼げる。
なのにどうしてこんなに困っているのか?
「あの・・・よかったら俺が立て替えようか?」
そう言って財布を盗り出すと、「無理だ」と言われた。
「おいおい、いくら俺が貧乏人でも500円くらい持ってるぞ。」
「そういう問題じゃねえ。」
「じゃあどういう問題なんだ?」
「ただの金じゃ無理なんだ。願いのこもった金じゃねえとよ。」
「願い?」
「神社に来て賽銭を入れるってことは、願い事があるってことだろ?」
「俺はそうじゃなくても入れることがあるぞ。あの静かな空間が好きでさ、ちょくちょく行くんだ。
でも毎回タダでお邪魔させてもらうのは悪いと思って入れたりする。」
「そういうのは稀だ。ほとんどは願い事があって賽銭を放り込むんだよ。
俺たちにとってそういう金は特別なんだ。」
彼も足を止め、ゆっくりと振り向く。
リーゼントを揺らしてカッコをつけるのを忘れずに。
「金は金でも、無心の金と祈りの金は違うんだ。」
「・・・どういうことだ?」
「ただなんとなく放り込んだ賽銭はただの金だ。けど願い事をして入れた賽銭は祈りの証なんだよ。」
「祈りの証・・・・。」
「それってつまり、どれだけその神社を必要としてるかってことなんだ。そういう金は俺たちにとって特別なんだよ。」
「俺たちって・・・・チェリー君の家族にってことか?」
「違えよ。神を祀る全ての霊獣にとってだ。」
真剣な顔で答える。カッコをつけた表情は相変わらずだけど。
「願いのこもった賽銭を神様に奉納することで、霊獣はその加護を受けることが出来るんだ。
ウチの神社は代々霊獣が氏子をやっててな、つまり俺のご先祖様みんな霊獣ってわけだ。
それもこれも神様からの加護で力を貰ってるからなんだよ。」
「なるほど。つまり願いのこもったお賽銭を奉納できなくなると、ご加護が消えてなくなると。」
「そういうこった。となると次に生まれてくる子はただの動物になる。先祖代々続いてきた霊獣の家系が途絶えちまうのさ。」
「なんとなく話が見えてきたよ。」
彼の横に並んで、一緒に神社のある方を見下ろした。
「人がほとんど来ないあの神社は、神様に奉納するお賽銭が足りなくなっていた。
だから他所から奉納できるお賽銭を借りたわけだ?」
「ああ。たかが500円ぽっちだけど、本気で願いをこめた賽銭はそうそうあるもんじゃない。
だってほとんどの奴らが儀式的に放り込んでるだけだからな。」
「ならその500円には相当な価値があるってことだな。」
「そういうこった。」
「そしてそんな特別なお金を貸してくれる相手となると、同業者ってことになるよな。」
「おお、なかなか鋭いじゃねえか。」
ドンと肩を突いて褒めてくれる。
「実はこっから少し離れた所にも神社があってよ。そっちはまだウチより参拝客が多いんだ。
だから無理言って貸してもらったわけさ。」
「じゃあその借金の担保が、君んところの神社と土地ってわけか。」
「ああ。今月中に返せないと差し押さえられちまう。」
「ちなみにその相手も霊獣なの?」
「当たり前だろ。人間の神主にこんな借金頼むと思うか?」
「ごもっともで。」
チェリー君は「もう細かいことはいいだろ」と歩き出す。
「うだうだ喋ってたって始まらねえ。犯人さえ捕まえりゃどうにかなるんだからよ。」
「あ、ちょっと待って。」
「なんだよ?」
俺は財布から500円玉を取り出した。
「これ、今から入れてくるよ。」
「なんで?」
「だって願いを込めたお賽銭ならいいんだろ?だったらこいつを入れてお願いをしてくるよ。そうすれば・・・・、」
「アホかお前は。」
「なんで?願いをこめたお賽銭なのに。」
「あのな・・・・、」
チェリー君は呆れたように首を振る。
「そんなんで入れたってダメなんだよ。」
「どうして?本気でお願いするのに。」
「それは俺の話を聞いたからそうするだけだろ。」
「いやいや、ちゃんと願いを掛けるよ。だって最近全然依頼が来なくて困ってるからさ。どうか仕事が来ますようにって・・・・、」
「でも俺に言われなきゃ賽銭を入れようとはしなかっただろ。」
「まあ・・・それはそうだけど・・・、」
「そういうのじゃダメなんだ。もっと純粋な気持ちじゃねえとよ。」
そう言ってまた神社を振り返る。
「誰かに言われたからとかじゃなくて、自分から願いをこめないとダメなんだ。
それも心の底から本気で願ってないと意味がねえ。
一円でも十円でもいいから、誰よりも強くってほどに気持ちを込めるんだ。
そういう金だからこそ、神さんへの奉納になるんだよ。」
彼の声はいつになく真剣で、じっと神社のある方を見つめている。
俺は取り出した500円玉をチャリンと財布にしまった。
「ごめん、安易な発想だった。」
「いいさ。」
クルっと踵を返し、荒れた山道を登っていく。
その背中はただカッコをつけているのではなく、本気で家族や神社のことを心配しているのだと伝わってきた。
《マジでツンデレだな。》
やっぱりこういうところは憎めない。
しかし途中でつまづき、盛大に転んでいた。
「大丈夫か!」
慌てて起こすと、トレードマークのリーゼントがぐしゃぐしゃになっていた。
「カッコいい髪型が台無しだぞ。」
サッと直してやると「悪いな」と立ち上がった。
「あんた良い奴だな。」
そう言ってニコッと笑う。
こんな素直な笑顔を見たのは初めてだ。
「けどよ・・・・、」
急に不満そうな顔になり、髪をかき上げる。
「直すならちゃんと直してくれねえか。」
必死に前髪をかき上げている。
リーゼントが崩れたせいで、貞子みたいな前髪になっていた。

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