勇気のボタン〜空っぽの賽銭箱〜 第十五話 獣たちの思惑(2)

  • 2018.04.06 Friday
  • 12:56

JUGEMテーマ:自作小説

山を登り始めてから一時間。
凸凹道には慣れてきたけど、その分体力を消耗していく。
ほとんど整備のなされていない道は、もはや完全に獣道だ。
木の枝が道を塞ぎ、落石があちこちに転がり、そこらじゅうに草が生えている。
それに道幅もだんだん狭くなってくるし・・・。
「なあチェリー君・・・・。」
「なんだ?」
「いったいどこに向かってるんだ?」
「洞窟だ。」
「洞窟?」
「あのコウモリ野郎はこっちへ飛んでった。でもってこの先には洞窟があるんだよ。」
「コウモリ野郎はそこにいるのか?」
「多分な。あそこは昔からコウモリが棲みついててよ。逃げたとしたらそこしか考えられねえ。姉貴もきっとそこにいる。」
そう言ってクルっと振り返った。
「コウモリ野郎とは俺が戦う。アンタはその隙に姉貴を助け出してほしいんだ。」
「それはいいけど・・・深い洞窟じゃないよな?もしそうだったら中々見つけられないかもしれないぞ。」
「どこまで続いてんのかは俺も分からねえ。そんな奥まで入ったことねえし。」
「けっこう大きな洞窟なのか?」
「ああ、入口はバスでもすっぽり入るくらいだ。けど光が届かねえから、中がどうなってんのか分からねえ。」
「それ先に言ってくれよ、懐中電灯でも持ってきたのに。」
「俺が持ってる、ほれ。」
真っ赤なマフラーの中から懐中電灯を取り出す。
そいつをポンと投げ寄こした。
「俺はある程度は夜目が利くからよ。アンタそれ使っていいぜ。」
「助かるよ。」
カチっとスイッチを入れる。
木立の中に向けると、かなり遠くまで照らし出した。
「これがあればどうにかなるな。」
懐中電灯を握りながら、再び山を歩き始めた。
《洞窟に行くって分かってたら、あいつらと別行動する必要もなかったな。》
こういうことは先に言っといてくれよと思ったが、聞く前に別れてしまったので仕方ない。
まあマサカリ達を危険な目に遭わせるのも良くないし、よかったとしとこう。
「あ、そうそう。」
チェリー君は急に振り返る。
「あんた囮をやってくれよ。」
「囮?」
「さすがに洞窟の中で戦ったんじゃ勝ち目がねえ。だからアンタが囮をやって、野郎をおびき出してほしいんだ。」
「おびき出すって言われても・・・・。」
「洞窟の前でよ、ちょっと野郎を挑発してくれりゃいいだけだ。」
「そんなことしたら俺に飛びかかってくるんじゃ・・・、」
「大丈夫だって。外に出てきたら俺ブッ飛ばしてやるから。」
「ほんとだろうな?」
「約束するぜ。」
やや黄ばんだ歯を見せながらニカっと笑う。
果たしてどこまで信用していいものか。
それからさらに一時間、俺たちは山を歩き続けた。
道はどんどん険しくなって、足が攣りそうだった。
「おい、さっさと歩けよ。」
「そうしたいけど、こうも険しいと・・・・。」
「もうちょっとだから頑張れ。」
そう言われてからさらに30分後、ようやく目的の場所に到着した。
「見ろ、あれがそうだ。」
チェリー君は前方を指さす。
30メートルくらい先の方、木立が開けて、岩肌が剥き出しになっている場所があった。
その岩肌のやや左の方に大きな穴が空いていた。
いや、穴というより亀裂だ。
岩が裂けて、ポッカリと口を開けているような感じである。
「なんか不気味だな・・・・。」
ゴクリと息を飲む。
なぜなら洞窟の入り口のすぐ横が崖になっていたからだ。
「ずいぶん危険な場所にあるんだな。」
「だからこそコウモリにとって絶好の棲み処なんだよ。人間が入って来ねえからな。」
「なるほど。」
「ちなみに崖の下は渓流になってる。岩がゴツゴツしてるし、流れも速いから危険だ。人間が落ちたら助からねえだろうな。」
「俺・・・そんな場所で囮になるのか?」
「なあに、崖の方に近づかなきゃ大丈夫だ。」
またニカっと笑う。
その自信の根拠はどこから来てるんだろう。
「じゃ、準備はいいか?」
「ええ!もう行くのか?」
「当たり前だろ。姉貴が待ってんだから。」
「ちょっと心の準備が・・・。」
「今さらビビんな。」
「いやあ・・・でも囮なんてやったことないから・・・、」
「大丈夫だって、いけるいける。」
「適当な・・・。」
俺の不安もよそに、チェリー君はスウっと姿を消してしまった。
「おい!どこ行ったんだ?」
「擬態だよ擬態。」
「なんで!」
「だってノコノコ近づいたらバレちまうだろ。」
「そりゃそうだけど・・・、」
「俺はあの辺で待機してるからよ。後は頼んだぜ。」
そう言ったきり何も答えなくなってしまった。
《あの辺って・・・・どの辺だよ?》
姿が見えないんじゃどこにいるか分からない。
いきなり一人ぼっちになったみたいで不安が増してきた。
《やるしかないか・・・。》
ゆっくりと洞窟の穴まで近づく。
すぐ傍は崖になっているので、そっちには近寄らないようにしよう。
《挑発って言ってもなあ・・・どうやればいいんだ?》
アホとかマヌケとかお前のかーちゃんデベソとか言っても意味ないだろう。
コウモリを怒らせるようなことっていったい・・・。
《とにかくなんでもいいから叫んでみるか。》
スウっと息を吸い込む。
そしてありったけの声で叫んだ。
「おまえのかーちゃんデ〜ベソ!!」
・・・・最悪だ、咄嗟に出てきた言葉がこれなんて。
誰も見ていないのに顔が真っ赤になる。
《ええい!こうなったらもうヤケだ!》
また息を吸い込む。そして・・・・、
「バカ!アホ!マヌケ!変態コウモリ野郎!」
とにかく罵声を連呼する。
「ボケ!ドアホ!陰湿野郎!」
とにかく思いつく限りの罵りを叫びまくる。
しかしまったく出て来ない。
《こうなったら・・・・、》
近くにあった石を掴む。
そいつを洞窟の中に投げ込んだ。
「コウモリの霊獣!ここにいるんだろ!ビビってないで出てこいや!」
仰け反って高田延彦風に煽る。
すると穴の中から何かが飛び出してきた。
「来たああああああ!」
慌てて逃げる。
しかしあっさりと追いつかれて、目の前に回り込まれた。
「ちぇ、チェリー君!来たぞ!敵が出てきたぞ!」
必死に呼ぶけど彼は来ない。
なぜだ・・・?
このままじゃ俺が戦う羽目になる。
そして間違いなく瞬殺されるだろう。
だって霊獣ってのはむちゃくちゃ強いのだ。
素手の人間じゃ逆立ちしたって敵わない。
「早く!早く来てくれ!!」
敵に背中を向け、とにかく逃げる。
すると頭の上に何かが降りてきた。
「ぎゃあああああ!襲わないでくれえええ!」
ぶんぶん手を振り回す。キレた子供がやるグルグルパンチみたいに。
「落ち着け悠一。」
頭の上から声が響く。
けどこれが落ち着いていられるか。
「離れろ!俺は食っても美味くないぞ!」
「飼い主を食べるわけないだろ。」
「俺はコウモリなんか飼った覚えはない!」
「誰がコウモリだ。俺はインコだ。」
「嘘つけ!コウモリの霊獣なんだろ!」
「はあ・・・・ほんとにビビりな奴だな。」
頭の上から何かが飛び立って、目の前に降りてくる。
「俺だ俺。」
「来るなああああ!」
「よく見ろ。」
「うわああああ・・・・・・・って、あれ?」
「よ。」
「チュウベエ・・・・。」
一瞬思考が停止する。
なんでこいつがここに・・・・。
「悠一、こんな所で何してんだ?」
「そりゃこっちのセリフだ!なんでお前がここにいるんだよ?」
「虫を食ってた。」
「虫・・・・?」
「あの洞窟の中、いっぱい虫がいるんだよ。おかげで余は満足じゃ。」
よく見ればお腹が膨れている。
俺の頭にとまって、「げふう」と腹を撫でていた。
「お前またサボってたのか・・・・?」
「いやいや、ちゃんと仕事してたぞ。」
「嘘つけ!そんな満腹になりやがって。」
「あの洞窟に入ったのはついさっきだ。それまではちゃんとコウモリを探してたんだぞ。」
「ほんとかよ?」
「ほんとほんと。」
なんか白々しい・・・・。
「それより悠一こそなんでここにいるんだ?」
「チェリー君に連れてこられたんだよ。あの洞窟に犯人がいるって。」
「犯人って・・・・コウモリの霊獣のことか?」
「そうだよ。あそこはコウモリの棲み処になってるから、犯人はここへ逃げてきた可能性が高いんだと。」
そう答えると、「そりゃないと思うぞ」と返された。
「さっきまで中で虫食ってたけど、コウモリなんていなかったからな。」
「そ、そうなの・・・?」
「一匹もいなかった。」
「じゃあ・・・・ここにはいないってことか?」
「俺が見た限りじゃな。けど洞窟はかなり奥まで続いてた。もしかしたらその先に潜んでるのかも。」
「なるほど・・・・じゃあ覗いてみるしかなさそうだな。」
奥に潜んでいるとなれば、挑発しておびき出すのは難しい。
こうなったら直接乗り込むしかないだろう。
「チェリー君!聞こえてるか?」
どこかに隠れているであろう彼に向かって叫ぶ。
「洞窟の入り口には誰もいないそうだ。奥まで入ってみよう!」
そう叫んで待つが、返事はない。
「おおい!どこにいるんだ?擬態を解いて出てきてくれ!」
何度も何度も呼びかけるけど、やっぱり返事はない。
「おかしいな、どこ行ったんだ?」
キョロキョロ捜していると、チュウベエが「空から見てきてやる」と舞い上がった。
「擬態してたら見つけられないぞ。」
「一応確認だ。」
パタパタと羽ばたき、大空から様子を窺っている。
「どうだ!いたか?」
「・・・・・・・・。」
チュウベエはじっと一点を見つめている。
何か見つけたみたいだ。
「チェリー君か?」
「モンブランがいる。」
「モンブラン?」
「渓流の傍だ。」
「そんな所まで行ってたのか。危ないから呼び戻してくれ。」
「ラジャー!」
ビシっと敬礼して下の方へ飛んでいく。
すると突然「ぬああ!」と叫んだ。
「どうした!?」
「チェリーが渓流で倒れてる!」
「なにいい!」
「沢から突き出た岩に引っかかってるみたいだ。」
「なんで!?」
「俺に聞かれても。」
いったいなぜ?と首を傾げてしまう。
《そんな馬鹿な・・・・この近くに身を隠していたはずなのに。》
「あのままモンブランが行けばチェリー君にでくわすぞ。」
「おお!・・・・って、モンブランだけじゃ助けられないな。」
「俺も行ってくる。」
スイっと崖の下へ消えていくチュウベエ。
俺も後を追い、そろりそろりと崖の下を覗いた。
「・・・・ほんとだ。チェリー君が倒れてる。いったいなんで・・・・、」
そう呟いた時、空の向こうから黒い塊が押し寄せてきた。
「今度はなんだ!」
次から次へと起こる不思議な出来事に、ちょっとパニックになる。
巨大な影のような黒い塊は、吸い込まれるように洞窟の中へ消えていった。
「あれは・・・・コウモリか。」
ものすごい大群だった。
まるで一つの生き物に見えるほどだった。
例えるなら小魚が群れを成し、大きな魚に見せかけることで天敵を追い払った「スイミー」のように。
まあそれはいいとして・・・こんな昼間っから飛んでいるなんて珍しい。
もちろん昼間に活動する種類もいるけど、それは目が発達した大型種の場合だ。
日本に生息するような小型のものは夜行性である。
「こんな明るい時間にどうして・・・・。」
なんだか気になって、洞窟の中を覗いてみた。
外の光は入口の周辺までしか届かない。
奥は真っ暗で、どんなに目を凝らしても見えなかった。
「こんな時の為の懐中電灯だな。」
カチっとスイッチを入れ、中を照らしてみる。
すると・・・・、
「な、なんで・・・?」
ライトが照らす先に、一人の女が立っていた。
彼女はゆっくりとこちらへ歩いてくる。
「ツクネちゃん・・・・。」
まるで幽霊みたいな表情をしながら近づいてくる。
服のあちこちがボロボロになっていて、手や足には怪我を負っていた。
おそらくコウモリ野郎の超音波を喰らったせいだろう。
彼女の元へ駆け寄って、「大丈夫か!?」と尋ねた。
「やっぱりここにいたんだね。ずいぶん怪我してるみたいだけど無事でよかった。」
「・・・・・・・・。」
「みんな心配してたんだよ。とにかくここから出よう。」
彼女の手を引いて外に出る。
「今すぐ病院に連れてってあげたいんだけど、実はチェリー君もピンチでさ。
なぜか分からないけど崖の下に落ちちゃったんだ。霊獣だからあの程度で死んだりしないと思うけど・・・・。
とにかく彼を助けてくるまでの間、ここで待っててくれるかな。」
「・・・・・・・・。」
「あ、もし待ってるのが辛いならチュウベエに付き添わせるよ。呼べばすぐ戻ってくると思うから。」
「・・・・・・・・。」
「ツクネちゃん?」
「・・・・・・・・。」
「もしかしてそんなに辛いの?だったら・・・どうしようかな。」
チェリー君も心配だけど、ツクネちゃんの方が重症なら先に病院へ連れていかないといけない。
「帰って。」
突然ツクネちゃんが喋り出す。
「今すぐ帰って。」
「え?いや、帰ってって・・・・俺たちは君を迎えに来たんだよ。怪我してるみたいだしこのまま帰るわけには・・・、」
「帰れって言ってんでしょ!」
「ちょッ・・・・、」
いきなり胸倉を掴まれて持ち上げられる。
「ぐ・・・ぐるじい・・・、」
「帰れ!帰れ!」
「つ・・・ツクネちゃん・・・・どうしたの・・・?」
「ここはお前らの来る場所じゃない!今すぐ帰れ!」
物凄いパワーで振り回される。
俺の身体は人形みたいにブランブランと揺さぶられた。
「ちょっとツクネちゃん!落ち着いて!」
必死に抵抗するけどビクともしない。
霊獣の腕力は人間を遥かにしのぐ。
俺はただただ振り回されるばかりで、そのうち目が回ってきた。
「やめろ!なんでいきなりこんなこと・・・・・、」
「帰れ!帰れ!帰れえええええ!」
獣のような雄叫びを上げ、めいっぱい俺を振り回す。
そして・・・・、
「うわあああああああ!」
彼女の手がパっと離れる。
俺は孤を描きながら宙を飛んでった。
しかも・・・その先にあるのは崖。
周りは木立が開けているので、掴まる物すらない。
崖から落っこちるのを回避する術はなく、要するにあれだ・・・ご愁傷様ってことだ。
「NOおおおおおおお!」
遥か下の方にチェリー君が見える。
その隣にはチュウベエとモンブラン。
こんなに離れているのにしっかり見えるのは不思議だ。
それに景色もスローモーションだし・・・・。
《これテレビで見たことある・・・・絶体絶命の時は全てがゆっくりに見えるって・・・・。》
短い時間が何倍にも感じられて、その分だけ恐怖も増していく。
こうやってスローモーションになるのは、どうにか助かる方法はないかと脳が頑張っているかららしい。
はっきり言おう・・・無いよ!
こんなの余計に怖くなるだけだ。
《スローモーションにならなくていいから!どうせなら一瞬で楽にしてくれ!》
恐怖はじわじわと心を蝕んでいく。
いっそのこと走馬燈にしてほしかった。

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