勇気のボタン〜空っぽの賽銭箱〜 第十七話 洞窟のコウモリ男(1)

  • 2018.04.08 Sunday
  • 12:49

JUGEMテーマ:自作小説

罪を犯す者は一度きりではすまないという。
初犯で捕まえた容疑者が、実は何度も犯行を重ねている常習犯だったというのはよくあるらしい。
「実はウチも被害に遭ってましてな。少し前から賽銭箱が空になっているんです。」
松崎しげるなみの色黒のおじさんが、困った顔で頭を撫でている。
「ウチもそう参拝客が多いわけじゃありませんが、さすがにゼロってことはない。
こりゃ賽銭泥棒の仕業に違いないと思いました。」
険しい山の中を歩きながら、ポツポツと愚痴っている。
「こりゃなにがなんでも捕まえなけりゃならんと、何日か待ち伏せをしたんです。
しかしそういう時に限って現れないんですなあ。」
心底困った様子である。
そりゃそうだろう。
メインの収入源が断たれたわけだから。
「あなたの所も被害に遭ってたんですね。」
そう言うと「そちらこそ」と返してきた。
「まさかツクネさんとこの神社も被害に遭っていたとは。こりゃあもしかしたら他の所もやられてるかもしれませんな。」
松崎しげる色の神主さん曰く、賽銭を盗むのはものすごく簡単らしい。
だって警備もなければ見張りもいない。
賽銭箱の構造を知っている者ならば、誰でも簡単に盗めるのだという。
そのせいで防犯カメラを設置したり、警備会社と契約している所もあるという。
「しかしそういうことが出来るのは儲かっている所だけ。ウチみたいな細々とやっとる所はどうしようもないもんです。」
「大変なんですね。けど箱に鍵を掛けるとかすれば・・・・、」
「そういう手もありますが、結局は破られてしまうでしょうな。プロの手にかかっちゃ箱の鍵なんて無いも同然でしょうから。」
「確かに。」
「金がなければ金を守ることすら出来ない。嫌な世の中になったもんです。」
そう言って先を歩いていく彼の背中は、悲しさを宿しているように感じた。
俺は後ろを振り向き、チェリー君をつついた。
「おい。」
「んだよ。」
「なんかいい人っぽい感じじゃないか。君の言うようなストーカー変態野郎には見えないんだけど。」
「猫被ってんのさ。」
「猫?カラスの間違いだろ。」
「正体はな。」
そう、この神主さんは人間ではない。
彼もまたチェリー君と同じ霊獣である。
しかもカラスの霊獣だ。
「何度もしつこく姉貴に迫ってきたんだ。そいつが犯人に決まってる。」
「う〜ん・・・それだけで決めることは出来ないと思うけど・・・、」
「賽銭泥棒に遭ってるのだって嘘に決まってらあ。そうやって被害者面することで、容疑者から外れようとしてんだろうぜ。」
チェリー君の疑いは晴れない。
親の仇のように神主さんの背中を睨んでいた。
「あいつが姉貴をさらったのさ。絶対に許さねえ。」
今にも飛びかかりそうな彼を「まあまあ」と宥める。
するとマサカリが「おめえもしかして・・・、」と口を開いた。
「シスコンだな。」
「なッ・・・、」
「そうだろ?お姉ちゃん大好きなんだろ?」
ニヤニヤしながらからかう。
するとモンブランも乗っかってきた。
「やだあ〜、いい歳してお姉ちゃん大好きなんて。」
「ち、違わいボケ!家族を心配してるだけだ!」
「でもなんやかんや言ってツクネちゃんの事となると焦ってる感じがする。ほんとはシスコンなんでしょ?」
「だから違うっつってんだろ!」
否定すればするほど「シスコン」と攻撃を喰らっている。
やがてチュウベエまで乗っかってきた。
「そうかそうか、チェリーはお姉ちゃん大好きなんだな。」
「て、テメエらなあ・・・・、」
「いいじゃないか、お姉ちゃん想いで。恥ずかしがることじゃないぞ。」
「だから違うって言ってんだろ!」
「あ、でも一線は超えちゃダメだぞ。あくまで姉弟として仲良くだな・・・・、」
「ぶっ殺す!」
怒りのあまり顔を真っ赤にする。
俺は「落ち着けシスコン君」と肩を叩いた。
「誰がシスコンだ!」
「洞窟が見えてきたぞ。」
木立の向こうに先ほどの洞窟が現れる。
俺たちは立ち止まり、じっと息を潜めた。
「もしあの中にコウモリ野郎がいるなら、のこのこ近づいてもバレるだけだ。」
「分かってら。俺が擬態を使ってボコボコにしてやる。」
「いや、君にはツクネちゃんの相手をお願いしたいんだ。彼女が暴れたら洞窟へ入れないからな。」
「姉貴と喧嘩しろってのかよ?」
「悪いとは思ってるよ、でもそれしか方法がない。」
「へ!やだね喧嘩なんて。」
「なんだ?お姉ちゃんにビビってるのか?」
「誰がビビるか。」
「じゃあシスコンだから?」
「てめ!まだ言うか・・・・、」
胸倉に掴みかかってくる。
しかしすぐにその手を離してこう言った。
「どいつもこいつもシスコン扱いしやがって・・・・そこまで言うなら喧嘩でもなんでもしてやらあ!」
「おお、やってくれるか。」
「喧嘩なんざなんてことねえ。誰があんな姉貴を好きなもんか。」
まるで子供が拗ねるみたいにふてている。
するとマサカリが「でもやっぱりシスコンぽいよな」と言った。
モンブランも「私だったらこんな弟は嫌だわ」と首を振る。
チュウベエも「禁断の愛に発展しないといいけど」と不安そうだ。
「だ〜か〜ら〜!そうじゃないってことを今から証明してくるって言ってんだろ!」
顔を真っ赤っかにしながら、拳を握って吠える。
「見てろ!あんな姉貴なんざブッ飛ばしてやる!」
そう言って「ドラああああああ!」と駆け出していった。
「・・・・・・・・・。」
俺は黙ってその様子を眺める。
モンブランが「上手くいったわね」と頷いた。
「ああして煽ってやれば乗っかってくると思ったのよ。」
するとマサカリも「だな」と頷いた。
「ばっちり成功だな。」
するとチュウベエもうんうんと頷いた。
「しっかしここまで扱いやすいとはなあ。ある意味ものすごくピュアな奴だ。」
そう、チェリー君をシスコン呼ばわりしたのはわざとである。
洞窟の探索に反対してたから、どうにか出来ないかと悩んだ末の作戦だ。
ちなみに考案者はモンブランである。曰くあの手のオスは単純だからとのことだった。
果敢に向かっていったチェリー君は、洞窟の前で「姉貴!」と吠えた。
「隠れてねえで出て来い!」
両手でカモン!とアピールしている。
「さっさと出てこねえとコレクションのサッカーグッズを全部捨ててや・・・・、」
「ぶっ殺おおおおおおおおす!」
洞窟の中から勢いよくツクネちゃんが飛び出してくる。
タックルでテイクダウンを取り、背後に回ってチョークスリーパーを極めた。
「ちょ・・・・ギブギブ!」
たまらずタップするチェリー君。
戦いは一秒ほどで終わった。
《弱!》
これでは彼女を引き付けておくことが出来ない。
動物たちも首を振って呆れていた。
するとその時、サッと神主さんが立ち上がった。
「私が行きましょう。」
「ええ!?」
「あなた方の話を信じるなら、ツクネさんは操られているんでしょう?」
「ええ、賽銭泥棒のコウモリに。」
「だったらこのまま見過ごすことは出来ない。」
そう言ってバっと服を取り払う。
次の瞬間、真っ黒なカラスに変わっていた。
「私がツクネさんを引き付けます。あなた方はその隙に賽銭泥棒を捕まえて下さい。」
「いいんですか?」
「惚れた女の為ならば、この身を犠牲にすることなどたやすい!」
「意外と男気があるんですね・・・・。」
「賽銭泥棒を捕まえれば、ツクネさんも正気に戻るかもしれない。」
「ええ、彼女の為にも捕まえないと。」
「そしてツクネさんが正気に戻った時、必ずや私の胸に飛び込んでくるでしょう。
ああ、私の為に身を張ってくれるなんて・・・なんて逞しいオス!プロポーズお受けします!と。」
カラスは「カアー!」と鳴いてから、「すわ!」と羽ばたいていった。
《そっちが目的か・・・・・。》
あながちチェリー君の推理も外れてないのかも・・・なんて思ってしまう。
カラスは「ツクネさん!」と叫んで、彼女の前に立ちはだかった。
「さあ!ぞんぶんに私をシバくがいい!そして正気に戻った暁には、この烏丸寛太の求愛を受け入れてほし・・・・、」
「死ね!」
「ぐはあッ!」
一撃で叩き落とされている。
その後は散々に蹴られまくって、たまらず空に逃げていた。
しかしツクネちゃんの蹴った小石がヒットして、崖の下へと消えていった。
《あんたも弱いな!》
なんて頼りない奴らか。
チュウベエが「口だけだな」と呆れていた。
「悠一、このままだと洞窟の中に入れないぞ。」
「だな。誰かが囮にならないと・・・・、」
「悠一行けよ。」
「悠一お願い。」
「ここは飼い主の出番だ。」
「いや、ここは公平にジャンケンで決めよう。」
「最初はグー!」とジャンケンをする。
しかしその時、「早く行けええええ!」と声がした。
「姉貴は俺が抑える!その隙に洞窟へ行け!」
チェリー君がツクネちゃんを羽交い絞めにしている。
だがあっさり投げ飛ばされて、またチョークスリーパーを極められそうになっていた。
「クソ!何度も負けてたまるか!」
咄嗟に擬態を使って姿を消す。
そして・・・・・、
「ぎゃあああああああ!」
ツクネちゃんの悲鳴が響いた。
お尻を押さえながら苦しそうに倒れる。
彼女の後ろからチェリー君が現れ、ニヤリと笑った。
「へへへ、なかなかの威力だろ?」
そう言って鉄砲みたいに構えた指をフっと吹いた。
どうやらカンチョーをかましたらしい。
ピクピク痙攣するツクネちゃんを見て、チェリー君は嬉しそうだ。
「だははは!見たか姉貴!弟が下剋上を起こす時だぜえ!」
すっごい嬉しそうだ・・・・。普段の力関係がよく分かる。
だがその笑顔は一瞬にして消え去った。
なぜなら・・・・、
「てんめええ・・・・・、」
ツクネちゃんの顔がだんだんと変わっていく。
人とも獣ともつかない怪物のように・・・・・。
《出た!》
俺はサッと木陰に隠れた。
だぜかって?
怖いからさ!
ちょっとだけ覗いてみると、顔だけじゃなくて身体にも変化が起きていた。
ボディビルダーも真っ青のムキムキマッチョになり、全身から獣の体毛が生えてきた。
目は釣り上がり、牙は伸び、爪は鎌のように鋭くなっていく。
「ぐううう・・・・うううぐあああああおおおおお!!」
《ひいいいい!》
空気が震えるほどの雄叫びを上げる。
ツクネちゃんは狼男のような怪物へと変貌していた。
全身から殺気が満ち溢れ、近づく者すべてを切り裂きそうなほどである。
《ついに出たよ・・・・・霊獣の本当の姿が。》
人でもない、動物でもない。
お伽噺に出て来るような常識を超えた怪物・・・・それこそが霊獣という生き物だ。
強い霊力を宿したその獣は、一度力を解放すれば荒れ狂う嵐のようなパワーを発揮する。
正体を露わにしたツクネちゃんは、ギロリとチェリー君を睨んだ。
《マズい!》
早く逃げろと手を振る。
しかし彼は落ち着いていた。
余裕の笑みを浮かべながら、スウっと姿を消してしまう。
《そうだ!擬態してれば見つからない。》
ツクネちゃんはキョロキョロと辺りを捜す。
危うく目が合いそうになって、サッと身を隠した。
《危っぶねえ・・・・。》
心臓がバクバクいっている。
動物たちも足元で小さくなっていた。
《これじゃ絶対に近寄れないよ・・・・。》
彼女の怒りが解けるまで洞窟に入るのは無理だろう。
・・・・そう思っていたのだが、チャンスはすぐにやって来た。
「ブ〜スブ〜ス!万年不機嫌面のバカ姉貴!」
チェリー君が擬態を解いて挑発している。
《何やってんだ!殺されるぞ!》
悪口を言いまくって、お尻を向けてオナラをこいている。
「グウウガアアアアア!」
《言わんこっちゃない!》
ツクネちゃんは牙を剥き出して飛びかかる。
するとチェリー君、また擬態を使って隠れた。
「グウウ・・・・。」
辺りを探るツクネちゃん。するとまたチェリー君が・・・・、
「こっちだこっち!とろくさい奴だな。」
「グウオオオオオオ!」
爪を振り上げて飛びかかる。しかしチェリー君はまた擬態する。
そしてまた現れて挑発し、擬態して隠れ、また挑発・・・・。
「何やってんだアイツ?」
マサカリがしかめっ面で睨む。
「ついに頭がおかしくなったのか?」
「・・・・そうじゃない。見ろ、ツクネちゃんがどんどん洞窟から遠ざかっていく。」
ああやって挑発することで、俺たちから引き離してくれているのだ。
《行くなら今しかない!》
木陰から駆け出す。
「行くぞみんな!」
洞窟まで一気に駆け抜ける。
後ろを振り返ると、「グオオオオオオ・・・・・」と遠ざかる雄叫びが聴こえた。
「ナイスだチェリー君。」
伊達にカッコつけてるわけじゃないんだなと、ちょっとだけ見直した。
「さて、こっちはこっちで仕事をしないとな。」
懐中電灯のスイッチを入れ、洞窟の奥を照らしてみた。
天井も壁も足元も、ゴツゴツした岩肌がむき出しになっている。
ちょっと転んだだけでも怪我をしそうだ。
しかも奥へ行くほど狭くなっている。
光の届かない向こうからは、わずかに風が吹いていた。
「コウモリが一匹もいない。奥に隠れてるのかな?」
ゆっくり足を進めていく。
マサカリは「お化け屋敷みてえだ・・・」と怖がり、チュウベエは「ワクワクするな」と楽しそうだ。
そしてモンブランはというと、真剣な目つきで奥を睨んでいた。
「どうした?何か見つけたか?」
「・・・・・・・・。」
ピタっと足を止めて、注意深く睨んでいる。
猫は暗い所でも目が利くから、やはり何かを見つけたんだろう。
「モンブラン、何を見てるんだ?」
「たくさんの影が見える・・・・。」
「影?」
「あれ・・・・コウモリじゃない?」
「なに!」
ライトを向けるがまったく分からない。
モンブランほど夜目が利かないので、もう少し先まで進んでみた。
すると・・・・、
「ほんとだな・・・・なんかいっぱいいる。」
天井で何やら蠢いている。
遠いので分かりにくいが、何かが潜んでいることは間違いない。
「悠一い〜・・・・やっぱ引き返そうぜ。」
マサカリが泣きそうな声で言う。
出来ればそうしたいけど、そうもいかない。
「お前らは外で待ってろ。」
動物たちを残し、さらに進んでいく。
距離が近づくにつれ、天井に蠢く者の正体がハッキリと見えてきた。
モンブランの言った通り、あれはコウモリの群れだ。
そして群れの中に一際大きな奴がいる。
人の背丈の半分くらいはありそうなほどだ。
そいつはじっとこっちを睨んでいる。
真っ赤な目を光らせて・・・・・。
《おっかないなあ・・・。》
これ以上進むのはまずいと思い、いったん立ち止まった。
するとモンブランとチュウベエも隣に並んできた。
「危ないぞ・・・外にいろ。」
「コウモリなんかにビビる私じゃないわ。」
「いざとなったら悠一を置いて逃げるから安心しろ。」
この二匹はけっこう肚が座っている。
外で怯えるメタボ犬と違って。
「もし襲いかかってきたらすぐ逃げるんだぞ。」
動物たちと並んでゆっくり進む。
コウモリは射抜くような視線を向けて、それ以上近づくなと警告しているかのようだった。
《ビビるな・・・・こっちから話しかけるんだ。》
ふうっと深呼吸する。
「やあ、俺は動物探偵の有川悠一っていうんだ。人間なのに動物と話せる変わり者さ。」
なるべくフレンドリーに話しかける。
望むべきは話し合いであって、戦いではないのだ。
「勝手にお邪魔しちゃってごめん。どうしても君に尋ねたいことがあって・・・・、」
そう言いかけた時、モンブランが「あんた!」としゃしゃり出てきた。
「ツクネちゃんを元に戻しなさい!」
「お、おい・・・・いきなり喧嘩腰にいくな。」
「私は見たのよ!カラスの神社でツクネちゃんを操るところを!」
「だから喧嘩腰にいくなって!怒らせたらどうするつもり・・・、」
「彼女をさらった上に、思い通りに操ろうなんて・・・・コウモリの風上にも置けないわ!」
コウモリじゃないお前が言っても意味ないだろと思ったが、モンブランの怒声は止まらない。
「今すぐツクネちゃんを元に戻すのよ!そしてごめんなさいって謝りなさい!さもないと・・・・、」
怒ったように牙を向く。
まさか飛びかかるつもりだろうか?
「さもないと・・・・・悠一がアンタをぶっ飛すわよ!」
「・・・・え?俺?」
予想外の言葉に凍りつく。
「悠一はこう見えてもやる時はやるんだから!コウモリなんかボッコボコのメキョメキョよ!」
「おい!いきなり何を言い出して・・・・、」
「本気で怒ったら強いんだから!目からビームが出るわよ!」
「出るか!」
「痛い目に遭いたくなかったら、今すぐツクネちゃんを解放するように、以上!」
そう言って「あとよろしく」と逃げて行く。
「おい!」
「お膳立てはしたわ!あとは悠一次第よ!」
「こんなお膳を頼んだ覚えないぞ!」
シュタシュタっと逃げていき、マサカリの隣に並ぶ。
もう戻って来る気はないようだ。
「・・・・・・・。」
俺は恐る恐るコウモリを振り返った。
すると・・・・、
「ひい!」
さっきより近づいて来てる・・・・。
大きい奴だけじゃなくて、群れ全体がこっちへ・・・・。
「よし!次は俺の番だな。」
チュウベエはコウモリの方へと羽ばたいていく。
「危ないぞ!戻れ!」
引き止める間もなく飛んでいく。
そして・・・・、
「とりゃ!」
クルっとお尻を向ける。
次の瞬間、コウモリの顔にベチョっと糞がかかった。
「お、お前はなんてことを・・・・、」
「悠一!お膳立てしといてやったからな!」
「だからこんなお膳はいらん!」
「武運を祈ってるぞ。」
そう言ってマサカリたちの方へ逃げていった。
みんな何食わぬ顔をしている。
そりゃそうだろう・・・自分たちはいつでも逃げられる距離にいるんだから。
でも俺はというと・・・・、
「・・・ぎゃあ!また近づいてきてる!」
振り返ると10メートルくらい先にコウモリたちがいた。
もはや逃げることは不可能・・・。
そして話すら聞いてもらえないだろう。
「あ・・・その・・・・、」
めっちゃ怒った顔をしている。
相手は霊獣、戦っても勝ち目はない。
だったら・・・・いっそのこと謝ろうか?
土下座でもすれば命までは取られたりしな・・・・、
「さっきのはお前のペットか?」
ものすごくドスの利いた声で尋ねてくる。
俺はコクコクと頷いた。
「飼い犬が手を噛んだら、飼い主が責任を負うものだ。」
「・・・・・・・・・。」
「猫の暴言も同じ、そしてインコの糞も同じだ。」
「・・・・・・・・・。」
「お前がどこの誰だか知らんが、報いは受けてもらうぞ。」
大きなコウモリは羽を広げる。
すると他のコウモリたちが一斉に飛びかかってきた。
「ぎゃあああああ!」
「逃がさん。」
あっと言う前に先回りされて、道を塞がれてしまう。
後ろにはコウモリの大群、前にはコウモリの霊獣。
これぞ「前門の虎 後門の狼」ってやつだ。
どっちもコウモリだけど。
「コウモリの大群に噛まれて感染症に罹るか、俺の超音波で吹き飛ぶか・・・・好きな方を選べ。」
「どっちも嫌!」
頬を押さえて絶叫する。
病気になるのも大怪我を負うのもゴメンだ!
本日二度目の大ピンチ。
だがヒーローは遅れてやってくる。
大きなコウモリは突然「ごはあ!」と吹き飛んだ。
バチン!と壁に叩きつけられて、涎を垂らしながら倒れていく。
「待たせたな!」
何もない空間からチェリー君が現れる。
「見事に決まっただろ?俺の必殺キック。」
ビシっとカッコをつけている。
「ちぇ・・・チェリー君!」
思わずハグしてしまう。
「こら!気色悪いマネすんな!」
「君って奴あ・・・・二度も助けてくれるなんて!」
「離れろボケ!」
思いっきりケツを蹴飛ばされる。
でも嬉しいんだからしょうがない。
「まさかこのタイミングで助けに来てくれるなんて・・・・君はヒーローだ!」
「だから抱きつくな!」
男同士でイチャイチャしていると、「おのれ・・・・」とコウモリが立ち上がった。
「後ろから飛び蹴りとはやってくれる。」
大きな羽をマントのように広げる。
すると次の瞬間、人間とコウモリを足して2を掛けたような怪物に変わっていた。
「お前はあの神社にいたハクビシンだな?」
「おうよ!この前はよくもやってくれたな。」
「借りを返しに来たというわけか。いいだろう・・・・超音波で粉砕してくれる!」
コウモリ男は胸いっぱいに息を吸い込む。
「ヤバ!」
チェリー君は「逃げるぞ!」と駆け出した。
一目散に洞窟の出口に向かうと、今度は新たな敵が・・・・、
「グウガアアアアアア!」
「姉貴!もう戻ってきやがったのか!」
逃げ場を塞ぐように立ちはだかって、こっちに迫ってくる。
「いい加減に目え覚ませってんだ!」
「ガアアアアアア!」
狂ったように叫びながら襲いかかってくる。
鋭い爪を振り上げ、俺たちめがけてふり下ろそうとした。
しかしその時、何かが彼女の前を横切った。
「悠一!今のうちだ!」
「チュウベエ!」
クルクルと旋回して、ツクネちゃんの注意を逸らす。
俺たちはその隙に外へと逃げ出した。
「グウガアアアアア!」
「うわあああ!追いかけてきた!」
今度こそやられる。
そう思った時だった。
「臭ッ!」
洞窟の外から異臭が漂う。
俺もチェリー君も鼻をつまんだ。
「どうでい!?俺様の必殺技は!」
「マサカリ!?」
たるんたるんのお尻をこっちに向けて、圧縮したオナラを放っている。
その臭いこと臭いこと・・・・涙が出てくる。
だが俺たち以上に苦しんだのはツクネちゃんだ。
怪物と化した彼女は五感も鋭くなっている。
圧縮放屁弾を食らって、「オウヴェエエエエエ!」と悶えていた。
しかしそれも束の間、悪臭に負けじと立ち上がり、また飛びかかってきた。
「しつこいなクソったれ!」
チェリー君は近くの小石を蹴り飛ばす。
上手く眉間にヒットしたけどビクともしない。
そりゃそうだろう。銃弾でも跳ね返すほど頑丈なんだから。
「木立の中に逃げるぞ!」
みんなで慌てて走る。
しかしツクネちゃんは高く飛び上がり、俺たちの前に回り込んだ。
またも逃げ道が塞がれてしまった・・・・。
今度こそもうダメか・・・・と諦めかけた時、空から黒い塊が降ってきた。
そいつはツクネちゃんの前に立ちはだかって、大きな翼を広げた。
「さあ!存分に私をシバくがいい!」
人間とカラスを足して2で割ったような怪物が、「カモン!」と挑発する。
「あんたは・・・・神主さん?」
「カラスの霊獣、烏丸寛太見参!」
「やっぱり神主さん!」
彼も怪物に変身したらしい。
全身ずぶ濡れなのは渓流に落ちたせいだろう。
前髪がベチャっと張り付き、全身の羽毛もびちゃびちゃになっていて、なんともみすぼらしい姿だった。
「うっかり下流まで流されてしまいました。」
「よく戻って来られましたね・・・・。」
「愛するツクネさんの為ですから!さあツクネさん。存分に私をシバ・・・・ぐはあッ!」
言い終える前からシバかれている。
ラリアットを食らったあと、ボッコンボッコン蹴られまくっている。
こりゃたまらんとばかりに空に逃げていく。
しかしツクネちゃんの蹴った石がヒットして、そのまま崖の下へと落ちていった。
「無念!」
「あんた何しに来たんだ!」
期待外れもいいとこだ。
こうなってはいよいよツクネちゃんを抑え込む手段がなくなる。
いったいどうすれば・・・・、
「あんた先に逃げな。」
チェリー君が俺たちの前に立ちはだかる。
「先に逃げなって・・・・君はどうするんだ?」
「なあに、ちょっとばかし派手な喧嘩をするだけさ。」
「派手な喧嘩って・・・・まさか君も怪物になるつもりか?」
「それしかねえ。どっちが勝っても無事じゃすまねえだろうけど、このままくたばるよりかはマシだろうぜ。」
「ダメだそんなの!姉弟で本気の戦いなんて!」
霊獣同士が本気でやり合ったら、最悪は命を落としてしまう。
そんなのどっちが勝っても寝覚めが悪いだけだ。
「君も一緒に逃げるんだ!」
「離せ!姉貴を止められるのは俺しかいねえ!」
「でも家族だろ!殺し合いになるような戦いなんてしちゃダメだ!」
戦おうとする彼を必死に引き止める。
その時、洞窟からコウモリ野郎が飛び出してきた。
「逃がさん。」
ツクネちゃんの頭の上に乗って、俺たちを見下ろす。
思いっきり息を吸い込んだのだろう。
ハト胸なんて目じゃないほど胸がパンパンに膨らんでいた。
「木っ端微塵に粉砕してくれる!」
《ダメだ!今度こそやられる・・・・。》
南無三と目を閉じる。
するとその時、「させないわ!」誰かが走ってきた。
「モンブラン!」
俺を踏み台にして高くジャンプする。
「くたばれコウモリ男!」
爪を剥き出し、バリバリっと引っ掻きまくった。
「ぐおッ・・・・、」
体勢を崩したコウモリ野郎は、真下に向かって超音波を吐き出した。
「ギャガアアアッ!」
「姉貴!」
超音波がツクネちゃんを直撃する。
その衝撃波は俺たちにも押し寄せて、何メートルも後ろへ吹っ飛ばされる。
ゴロゴロっと転がって、ゴツンと木にぶつかった。
「痛たた・・・・、」
頭を押さえていると、何かが顔にぶつかってきた。
「痛ッ!」
「ああ、ビビった・・・。」
「モンブラン!」
「今のはけっこうヤバかったわ。」
「大丈夫か!?」
「なんとかね。」
「無茶しすぎだぞ。」
「でも助かったでしょ?」
「おかげ様で。」
ポンポンと頭を撫でると、嬉しそうに胸を張っていた。
「き、貴様らあ・・・・・、」
コウモリ野郎は痛そうに顔を押さえている。
モンブランに顔をやられたせいで、あみだくじみたいに傷らだけになっていた。
その隣ではツクネちゃんが倒れている。
半分くらい地面にめり込んで、ピクピクと痙攣していた。
「さすがの霊獣もあの直撃は効いたみたいだな。」
かなりダメージを受けているようで、しばらくは起き上がってこないだろう。
《逃げるなら今のうちだ!》
モンブランを抱え、急いで木立の中に隠れた。
「馬鹿め・・・逃がさんと言ったはずだ!」
一瞬だけ振り返ると、コウモリ野郎の顔が怒りに歪んでいた。
《本気にさせちゃったみたいだな・・・・。》
追いつかれたら今度こそ終わりだ。
とにかく必死に走り続ける。
するとチェリー君がモンブランに「やるじゃんお前」と言った。
「まあね。」
「他の奴らも見直したぜ。姉貴に挑むなんてよ。」
「俺様の必殺技が役に立ったな。」
「マサカリにしちゃナイスだった。危うくこっちまで昇天しそうになったけどな。」
動物たちの見事な活躍のおかげでどうにかピンチを切り抜けた。
しかしまだ終わりじゃない。
あのコウモリ野郎を倒すまでは・・・・。
「なあアンタ。」
チェリー君がヒソヒソ耳打ちをしてくる。
俺は「分かった・・・」と頷いた。
モンブラン下ろし、動物たちには茂みに隠れているようにと言った。
みんなあっさりと頷いて茂みの中へと消えていく。
相当怖かったんだろう。
それでも頑張ってくれたんだから、今夜は餌を奮発してやるか。
「じゃあアンタ、よろしく頼んだぜ。」
そう言ってチェリー君も俺から離れていく。
後ろを振り返ると、高い空にコウモリ野郎が舞い上がっていた。
あそこからじゃ木立に隠れる俺たちは見つけられない。
けど・・・・、
「何度も言う!逃げられると思うな!」
牙を剥き出し、大きく口を開けた。
その直後、一瞬だけキイイインと耳鳴りが響いた。
《今だ!》
俺はわざと大きな音を立てて走った。
力強く足を踏みつけながら、木立の中を駆け抜けていく。
「・・・・そこか!」
コウモリ野郎は一直線にこっちへ向かってくる。
木立に囲まれた視界の悪さなんてなんのその。
空からじゃまともに地面なんて見えないだろうに、得意のソナーでなんの迷いもなく突っ込んできた。
《怖ええ!》
背中を向けて逃げ出す。
決して後ろを振り返らず、とにかく走りまくった。
バキバキと枝が折れる音がする・・・・敵が迫ってくる気配がする。
それは瞬く間に距離を縮めて、ゾワっと背筋が波立つ恐怖に襲われた。
「吹き飛べ。」
すぐ後ろで息を吸い込む音がする。
振り返らなくても、奴の胸がパンパンに膨れ上がっているであろうことが伝わってくる。
恐怖に耐え切れなくなって、一瞬だけ振り返った。
「死ね!」
口を開け、喉の奥が震えるのが見えた。
俺は目を閉じる。
その直後、「ぎゃはあッ!」という大きな悲鳴が・・・・。
少し遅れてからバキバキっと木の倒れる音がする。
何かが遠くへ飛んでいった・・・・そんな音だった。
ギュッと目を閉じていると、「終わったぜ」と肩を叩かれた。
「・・・・・・・。」
ゆっくり瞼を開けると、そこにはツクネちゃんそっくりの怪物が立っていた。
「超渾身の飛び蹴りがクリーンヒットだ。完璧にノックアウトだぜ。」
怪物は顎をしゃくる。
大木がバキバキに折れていて、、その向こうにコウモリ野郎が倒れていた。
口を開け、ブクブクと泡を吹いている。
大の字に倒れたその様は、まさに完璧なノックアウトだった。
「ざまあみろ。」
ホッとして尻餅をつく。
目の前にいる怪物もニヤリと笑う。
彼の真っ赤なマフラーが、勝利の雄叫びのようになびいていた。

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