勇気のボタン〜空っぽの賽銭箱〜 第十八話 洞窟のコウモリ男(2)

  • 2018.04.09 Monday
  • 11:10

JUGEMテーマ:自作小説

「大丈夫かツクネちゃん!」
地面にめり込んだ彼女を引っ張り出す。
ズボっと抜いた後には、彼女と同じ形の穴が空いていた。
「おい姉貴!しっかりしろ!」
人間の姿に戻ったチェリー君が、パチパチと頬を叩く。
「ううん・・・・・。」
まだ怪物のままのツクネちゃんは、寝言のように何かを呟いた。
「やった・・・・日本代表・・・・優勝だ・・・・。」
幸せそうな顔で気絶している。
俺は後ろを振り向き、「もう洗脳は解けてるんだよな」と尋ねた。
「強い衝撃を受ければ元に戻る。」
コウモリ野郎はコクっと頷く。
チェリー君に蹴り飛ばされたせいで、こめかみに足跡が残っていた。
かなり痛々しい。
「とにかくみんな無事でよかったわね。」
モンブランが言う。
「俺様の必殺技のおかげだな。あれがなけりゃ今頃どうなってたか。」
自慢そうに言うマサカリ、チュウベエが「敵味方問わずの地雷技だけどな」とツッコんだ。
「しばらく鼻が利きそうにない。」
そう言って羽でゴシゴシとさすっている。
そしてチェリー君はツクネちゃんの傍で佇んでいた。
「まったく・・・・とんだ大暴れしてくれたぜ。」
うんざりしたような言い方だが、無事だったことにホッとしているようだ。
「それもこれも元はといえば・・・・、」
ギロっとコウモリ野郎を睨む。
「やいてめえ!よくも姉貴をこんな目に遭わせてくれやがったな。」
ガシっと胸ぐらを掴む。
「賽銭は盗むは姉貴を傷つけるわ・・・・事と次第によっちゃ生かしておかねえ。」
声に怒気がこもっている。
脅しではなく本気で言っているようだ。
だがコウモリ野郎は動じない。
冷めた視線で宙を睨んでいるだけだった。
「おい、なんとか言えよ。」
ガクガクと胸ぐらを揺さぶる。
俺は「まあまあ」と宥めた。
「とりあえずみんな無事だったんだし、いったん落ち着こう。」
「バカ野郎!危うく殺されるとこだったんだぞ。」
「そうだけど・・・彼にだって事情があるはずだよ。」
そっとチェリー君の手を下ろさせる。
コウモリ野郎は相変わらず冷めた目をしたままだった。
「あんた名前は?」
そう尋ねても知らん顔。
俺たちと話す気はないようだ。
「ずっとコウモリ野郎って言うのもアレだから、名前くらい教えてくれよ。」
「・・・・・・・。」
「そうか、言いたくないならいい。けど賽銭泥棒やツクネちゃんをさらった理由は答えてもらうぞ。」
「・・・・・・・。」
「今から質問をするから、合ってたら頷いてほしい。」
「・・・・・・・。」
だんまりのままである。
しかし言葉は届いているはずなので、「じゃあ聞くぞ」と切り出した。
洞窟を指差しながら、「あの奥に・・・」と尋ねる。
「祠があるんじゃないか?」
そう尋ねると、ピクっと目を動かした。
「あんたはその祠の番人なんだろ?」
「・・・・・・・。」
「もしそうだとしたら、あんたが賽銭を盗んでいた理由は分かる気がするんだ。」
「・・・・・・・。」
「この洞窟、コウモリの棲家になってるけど、元々は違う物なんだろ?
きっと祠に祀ってある神様の為のものだったんじゃないのか?」
また目を動かす。
さっきより落ち着きがなくなって、ゴクリと喉が動いていた。
「神社、お寺、教会・・・・神様に祈りを捧げる場所は色々ある。
けどこういった山の中じゃ大きな建物を建てるのは難しい。
そういう時は祠を建てるんだ。そうすることで神様を祀り、願いや祈りを捧げる場所にする。」
「・・・・・・・。」
「山の麓なんかにも時々見かけるよ。そしてそういう場所にはちょくちょくお供え物がしてある。
お酒だったりお菓子だったり、そして・・・・お賽銭だったり。」
コウモリ野郎は相変わらず無口だが、表情は明らかに変化していた。
落ち着き無く唇を舐めて、視線を彷徨わせている。
「チェリー君から聞いたんだ。神様を祀る為にはお供え物が必要だって。
お賽銭だってその一つだ。
けどどんなお金でもいいわけじゃない。願いや気持ちのこもったお金じゃないと、神様へのお供え物にはならない。
こう言っちゃなんだけど、ここは滅多に人が来るような場所じゃない。だから・・・・あんたも苦しんでたんだろ?
神様へ奉納するお賽銭がなくて。」
コウモリ野郎は俺を見る。
さっきとは違ってとても鋭い目つきだ。
するとチェリー君が「どういうことだよ?」と割って入ってきた。
「こいつも金に困ってるっていうのか?」
「俺はそう睨んでる。」
「んなアホなことあるかよ。」
「どうしてそう言える?」
「俺はこれでも霊獣だ。もしこの近くに神様を祀ってるならすぐに分かる。」
そう言ってクンクンと鼻を動かした。
「あの洞窟からはそういった気配を感じねえ。ここには何もいねえよ。」
「かもしれないな。」
「かもしれないって・・・・お前が言い出したことだろが。」
「もう遅かったのかも。」
「なに?」
「神様へ奉納するお金が用意できずに、祠を去ってしまったのかもしれない。」
「だったら盗む必要はねえじゃねえか。こいつはつい最近まで賽銭泥棒やってたんだぜ。」
「うん、だから新しい神様の為に用意したお金なんだと思う。」
「は?新しい・・・・、」
ポカンと口を開ける。
俺はツクネちゃんを見つめながらこう答えた。
「考えてほしい。どうしてツクネちゃんをさらったりしたのか。」
「それはあのストーカー野郎と手を組んでたから・・・・、」
「神主さんは無関係さ。でなけりゃ俺たちに協力はしなかっただろうから。」
「へ!あんなの俺たちを欺く為の演技だろ。」
「俺はそう思ってない。ツクネちゃんをさらったのはコウモリ野郎の単独犯だよ。
じゃあなんでそんなことをしたのかっていうと、あの神主さんの神社を乗っ取る為さ。」
「乗っ取る・・・・。」
またポカンと口を開ける。
チュウベエが「なかなか面白いアホ面だな」とからかった。
「うるせえ!おいテメエ、どういうことか説明しろ。」
ビシっと指を向けてくる。
俺は「そのまんまの意味さ」と答えた。
「祠へ参る人がいなくなってしまった今、コウモリ野郎は奉る神様を失ってしまった。
そうなると霊獣は彼の代で終わることになる。」
「そりゃ神様からの加護が受けられないからな。」
「それを避ける為に神社を乗っ取ろうとしたんだよ。自分が新たな神主になれば、あそこに祭ってある神様の加護が受けられるから。」
「いやいや、新しい神主になるって・・・・んなこと簡単に出来るわけねえだろ。」
「だろうね、だからツクネちゃんをさらったんだ。彼女を餌に使えば、あの神主さんも言うことを聞いてくれるんじゃないかと思って。」
俺はコウモリ野郎に目を向ける。
実に不機嫌そうな顔で遠くを睨んでいた。
「あんたはツクネちゃんの神社へ何度も泥棒に行っている間に気づいたんだろ?彼女があの神主さんからしつこく迫られてることを。」
「・・・・・・・。」
「だったら彼女を使えば、神主さんに言うことを聞かせられるかもしれないと考えた。
だからツクネちゃんをさらったんだ。違うか?」
少し強めに尋ねると、一瞬だけ俺を見た。
けどやっぱり何も答えない。
どうあっても黙秘を続けるつもりらしい。
「じゃあ勝手に続けるな。あんたは加護を与えてくれる新しい神様を欲しがっていた。
そして幸いなことに、この山には二つの神社がる。
チェリー君の所とあの神主さんの所。
この二つの神社のどちらを狙うか考えたはずだ。
そして神主さんの神社を選んだ。
なぜならチェリー君の所はあんたと一緒で、今にも神様が去ってしまうんじゃないかってほど経営難だから。」
「・・・・・・・。」
「狙うならもう一つの神社しかない。けど乗っ取るなんて簡単に出来るわけがないから、どうしようか考えたはずだ。
そこで閃いたのが、ツクネちゃんを利用することだった。
彼女をさらい、あの神主さんを落とせと命令したんじゃないか?
上手くいけば、お前んとこの借金だって返す必要がなくなるぞとか言って。」
何度も瞬きを繰り返して、口元を噛んでいる。
俺は「YESと受け取るぞ」と言った。
「上手くいけばあの神社はあんたの物になるんだから、借金だって帳消しに出来る。
そうすればツクネちゃんは自分の神社を守れるし、あんたは新しい神様の加護を手に入れることが出来る。
お互いにとってメリットのある事だ。」
「・・・・・・・・・。」
「きっと上手くいくはず・・・・そう思っていたんだろ?
けどツクネちゃんはすごく真面目な子だ。
いっつも不機嫌な顔だし、ぶっきらぼうな所もあるけど、根は純粋で優しい子だよ。
だからあんたの提案には乗ってこなかった。
彼女のことだから、あんたを蹴っ飛ばして帰ろうとしたんだろう。
けどあんたは諦めきれない。だから力づくで神主さんの神社まで連れて行ったんだ。」
「・・・・・・・。」
「けどその時、神主さんは買い物に出かけていなかった。
そこでまたツクネちゃんと喧嘩になったはずだ。実際に二人が揉めてるのをウチの猫が見てるからな。」
モンブランを振り返ると、「ばっちりね」とウィンクした。
「そこでとうとうツクネちゃんはキレた。いい加減しつこいあんたをガンガン蹴り飛ばした。
このままじゃ彼女に逃げられる。
そう思ったあんたは最後の手段に出た。特殊な音波で彼女を操ったんだ。」
ちょっとカッコをつけて指を向ける。
コウモリ野郎は「ふん」と小さく鼻を鳴らした。
「間抜けだなお前は。」
初めて口を開いた。
俺は「どうして?」と聞き返す。
「仮にお前の言う通りだったとしよう。だがそうなると、その女をさらうなんて回りくどい事をする必要はない。
最初からあの神主を操ればいいんだからな。」
そう言って音波を飛ばすように口を開いた。
マサカリが「確かに」と頷く。
「一番手っ取り早い方法だぜそりゃあ。」
「ほら見ろ、そのデブ犬もそう言ってる。」
「誰がデブでい!」
「ぐあッ!」
ガブっと噛みつく。
「次にデブって言ったら必殺技を食らわすぜ。」
クルっとお尻を向けて、米印の穴をヒクヒク動かした。
飼い主として恥ずかしいからやめてほしい・・・・。
「マサカリの言うことはもっともだよ。だったら逆に、なんで最初からそうしなかったのかって疑問が残る。」
「どういうことでい?」
「いいからお尻を引っ込めろ・・・・。」
「へ!みんな俺様の必殺技に恐れをなしてるようだな。」
ガハハハと笑うマサカリ。
それは恐れをなしているんじゃなくて、単に臭いから嫌なだけだ。
モンブランからも「下品なのよ」とツッコまれていた。
「とにかく・・・・なんで最初から神主さんを操らなかったのかって疑問が残るんだよ。
一番確実で手っ取り早い方法なのに。」
コウモリ野郎に目を向けると、またそっぽを向いてしまった。
「俺はこう思ってるんだ。あの技って異性にしか効かないんじゃないかって。」
そう答えると、チュウベエが「なんで?」と尋ねた。
「それはだな・・・・、」
「適当な答えだったら糞を落とすからな。」
そう言って頭にとまって来ようとするので、シッシと追い払った。
「それはチェリー君や神主さんには使わなかったからだよ。」
「・・・・・・。」
「だから頭にとまるな!」
「チッ・・・。」
「なんで舌打ちなんだよ・・・・。いいか?チェリー君も神主さんも霊獣だから、本気で戦えば強いはずだ。
実際にチェリー君はそいつを倒したわけだし。」
「不意打ちだけどな。」
「擬態を使ってたからな。けどそんな強敵だからこそ、普通なら真っ先に操ろうとするはずなんだ。
神主さんにしたってさ、さっきも言ったように最初から操れるならそうしてるはずなんだよ。
じゃあなんでそうしなかったのか?理由は異性にしか効かないからとしか考えられない。
俺たちの中で操られたのはツクネちゃんだけだからな。」
「じゃあツクネのお母さんは?あれだってメスだけど操られてないぞ?」
「だってお母さんを操っても仕方ないじゃないか。神主さんに言うことを聞かせる為のツクネちゃんなんだから。ていうかあれって言うな。」
「なるほどな。あんなに便利ですごい技なのに、確かにツクネにしか使ってない。じゃあやっぱり異性にしか効かないのか?」
チュウベエが尋ねると、コウモリ野郎は「間抜けめ」と罵った。
「これだから鳥は馬鹿なのだ。」
「言われてるぞ悠一。」
「俺はいつから鳥になったんだよ・・・。」
こいつと話してると気が抜けてくる。
コウモリ野郎は「お前も間抜けだ」と俺を睨んだ。
「もし俺がその女を操ったのなら、この洞窟へ戻って来るはずがないだろう。
神主が帰って来るまであの神社て待っていたはずだ。」
「それは・・・・、」
「わざわざ操ったのだから、ここへ戻って来る意味がないではないか。」
「そ・・・・そういう気分だったからとか?」
「?」
「いったん家に帰って落ち着きたいなあ・・・・みたいな?」
「間抜けめ。人間のクセに鳥と同じくらい阿呆だ。」
「また言われてるぞ悠一。」
「お前もだよ!」
ここまでいい感じで来てたのに詰まってしまう。
するとそんな俺を見てコウモリ野郎はこう言った。
「お前の言う通り、あの洞窟の中に祠がある。」
「やっぱり!」
「祀っていた神も去ってしまった。奉納する賽銭が足りずにな。」
「おお!」
「そして俺が操ることが出来るのは異性だけだ。」
「それも当たってたのか!じゃあやっぱり俺の考えは正しかっ・・・・、」
「いいや。」
これみよがしに首を振る。
「当たってるのはここまでだ。それ以外は全て的外れ、幼稚な探偵ごっこのようで聞くに堪えん。」
「そんな・・・・。」
また項垂れる・・・・。
チュウベエが「言われてるぞ」とからかってきたが、ツッコむ気にもなれなかった。
「じゃあ・・・教えてくれよ。どうしてツクネちゃんをさらったんだ?」
「さあな。」
「どうして教えてくれない?喋って困ることでもあるのか?」
「・・・・・・・・。」
「まだ・・・隠してることがあるとか?」
そう尋ねると、コウモリ野郎は首を振った。
そしてそれ以上は何も答えなかった。
「頼むよ、教えてくれ。なんでツクネちゃんをさらって・・・・、」
「もういいだろ。」
チェリー君が止めに入る。
「姉貴は助け出した。犯人だってシバいた。もう話すことはねえ。」
「さっきはあんなに怒ってたくせに。」
「許したわけじゃねえよ。ただ・・・・同情しちまってよ。」
「なにを?」
「祀る神様がいなくなったってことは、そいつの代で霊獣はおしまいだ。
つまり代々続いてきた祠を守れなかったってことだ。
祠の番人として力を授かっていたはずなのに・・・・霊獣としてこんなに恥ずかしいことはねえ。」
チェリー君は背中を向け、「よっと」とツクネちゃんを抱える。
「俺たちがどうこうしなくても、あの世へ行ったらたっぷりご先祖様に叱られるだろうぜ。
そん時まで恥を抱えて生きてくだけだ。」
コウモリ野郎に一瞥をくれ、「ふん!」と去っていく。
「・・・・・・・・。」
俺はどうしていいのか分からず、ポカンとその場に立ち尽くす。
するとモンブランも「帰りましょ」と言った。
「これ以上ここにいたって意味ないわ。」
「そうだけど・・・・、」
「ツクネちゃんが無事だったんだからいいじゃない。」
「けどこいつを引っ捕えないと借金がだな・・・・、」
そう返すと、マサカリが「それはチェリーたちが考えることだぜ」と言った。
「あいつがいいって言ったんだ。一件落着だ。」
「う〜ん・・・でも釈然としないような・・・・、」
「終わったこと気にしても仕方ねえぜ。たっぷり働いて腹が減った、帰って飯にしようぜ。」
マサカリとモンブランはチェリー君の後を追っていく。
俺はコウモリ野郎を振り返り、「あんた・・・」と話しかけた。
「何が目的だったのか分からないけど、二度とあの姉弟に手を出すなよ。」
「・・・・・・。」
「大事なモノを失う悲しみはあんただって知ってるはずだ。二度と賽銭泥棒なんてしないでくれ。」
そう言い残し、その場を後にする。
遠くに見えるチェリー君の背中を追いかけていると、チュウベエが「なんか忘れてるような・・・」と呟いた。
「ん?」
「なんだろな・・・・なんか忘れてないか?」
「そうか?ツクネちゃんは助け出したし、みんな無事だったんだから問題ないじゃないか。」
チュウベエは首を傾げる。
しばらく考えるような顔をしていたけど、「だな」と頷いた。
「悠一、今日はみんな頑張った。夕飯は奮発してくれよ。」
「ミルワームの甘酢かけを出してやるよ。」
「おおおお!さすがは我らが飼い主、太っ腹だ!」
興奮のあまり糞を落とすチュウベエ。
「いい加減にしろ!」と追い払った。

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