勇気のボタン〜空っぽの賽銭箱〜 第二十話 空っぽの賽銭箱(1)

  • 2018.04.12 Thursday
  • 10:50

JUGEMテーマ:自作小説

遠くの空をカラスが飛んでいく。
周りは田んぼだらけで空を遮るものがなく、そのおかげで見失うことはない。
ないんだけど・・・・いくら走っても追いつくことが出来ない。
もしここで逃がしてしまったら、そのクチバシに加えている物は二度と取り戻せないだろう。
《クソ!どうすれば・・・・、》
あれがなければチェリー君の神社の借金は返せない。
悔しい思いで遠ざかるカラスを睨んでいると、神主さんが「とおりゃ!」とジャンプした。
空中で一回転し、次の瞬間にはカラスに変わっていた。
「待て待てい!そこのカラス!」
バタバタと羽ばたいて、見る見るうちに追いついていく。
これなら取り返せる。
そう思った時、別のカラスが割って入ってきた。
「クアアア〜!」と怒りながらガンガン蹴っている。
「こ、こら!やめろ!」
必死に応戦する神主さんであったが、援軍のカラスは次々にやってくる。
一羽、二羽、三羽・・・・・気がつけばちょっとした群れになっていた。
ボッコボコに蹴られまくって、真っ逆さまに墜落していく。
「ぬううううああああ・・・・、」
糸の切れた凧のように落ちていき、用水路にはまっていた。
「神主さん!」
なんてこった・・・彼がやられたら誰もバッジを取り返せない。
しかしその時、チュウベエが「俺に任せろ!」と羽ばたいた。
「追いかけて巣を特定してやる!」
「おいよせ!下手に近づいたら・・・・、」
果敢に飛び立ったチュウベエだったが、カラスたちに「クカアア!」と威嚇されていた。
「ごめん、やっぱ無理だわ。」
「気が立ってる時のカラスは凶暴だからな。下手に近づかない方がいい。」
「でもこのままだとバッジを取り返せないぞ。」
「・・・・・どうしよう?」
「さあ?」
困った顔で立ち尽くす。
するとチェリー君が「俺がやる!」と叫んだ。
「怪物に変身すれば、あの高さくらいまでなら跳べる!」
「バカ!こんな所で変身したら人目につくぞ!」
いくら田んぼばかりのド田舎とはいえ、まったく民家がないわけじゃない。
もし誰かに見られたりしたら、どえらい騒ぎになってしまう。
「落ち着くんだチェリー君!」
「離せ!あれがなきゃ借金が返せねえ!」
「けど・・・・、」
「人目についたからってなんだってんだ!霊獣は人に正体をバラしちゃいけねえって決まりはねえんだ!」
「知ってるよ。けどもし騒ぎになったら、ご両親やツクネちゃんが大変な思いをするぞ。
マスコミや野次馬が群がって来るかも。
そうなったら借金を返しても神社は今のままじゃいられない。」
「ぐッ・・・・クソ!」
どうすればいいのか彼も迷っていた。
するとその時、用水路から出てきた神主さんが「私がやろう!」と叫んだ。
「これ以上君たちに迷惑は掛けられない!例え世間にこの正体がバレようとも・・・・、」
と言いかけた時、俺たちの後ろから何かが飛んできた。
そいつは弾丸のように空を舞い、カラスの群れに突っ込んでいく。
「あれは・・・・、」
じっと目を凝らす。
あのトカゲのようなシルエット・・・・間違いない!あれは・・・・、
「マリナ!」
どうしてか分からないが、あいつが空を飛んでいる。
「見ろ悠一!イグアナが空を飛べるように進化したぞ!」
チュウベエがアホなことを言う。
だから「アホか!」とツッコんでやった。
「イグアナが飛べるわけないだろ。」
「でも実際に飛んでるぞ。」
「だな・・・。」
確かに飛んでいる。
もしあんな風に空を飛べるとしたら・・・・、
「カアアアアー!」
カラスが悲鳴を挙げる。
空を飛んでったマリナが、鋭い爪でしがみついたのだ。
仲間のカラスが助けに入るが、イグアナのウロコにカラスキックは効かない。
逆に尻尾でバチコン!と叩き落とされていた。
「意外と強いなアイツ・・・・。」
マサカリが感心する。
モンブランは「知らなかったの?」と笑った。
「普段はお淑やかだけどキレると怖いのよ。」
「みたいだな・・・・。」
「ストーカーされてた私の友達を助けてくれたのもマリナだもん。」
「それ、お前が追い払ったんじゃねえのか?」
「ううん、ボコったのはマリナ。私はそのあと高らかに説教してやっただけ。」
「そんなことしてるからオスにモテないんじゃ・・・・、」
「おだまり!」
「ふぎゃ!」
ほっぺに肉球がめり込む。脂肪がぶるんと揺れていた。
「カアアアアア!」
カラスは必死に羽ばたくが、マリナは決して離れない。
鎌のような爪でガッチリとホールドしている。
そして・・・・、
「カアアアア・・・・、」
遂に力尽きた。
地面へと真っ逆さまに落ちていく。
「マズい!」
あのまま落ちてはマリナが昇天してしまう。
俺は弾かれたように駆け出した。
しかし後ろから誰かがやってきて、俺より速く駆けていった。
それはハクビシンだった。
地を這うように猛ダッシュして、高く飛び上がる。
そして空中で一回転して人間の女に化けた。
彼女は両手を広げ、見事にマリナをキャッチした。ついでにカラスも。
「やるじゃんマリナ。」
「ふふふ、ツクネちゃんのおかげよ。」
ニコっとピースしている。
「大丈夫か!」
慌てて駆け寄ると「なんとか」とピースした。
ツクネちゃんからマリナを受け取る。
「お前なんて無茶なことを・・・・、」
「はいどうぞ。」
「え?」
「これが必要なんでしょ。」
「バッジ・・・。なんでお前がこれを・・・・、」
一緒に神社へついて来なかったマリナが、このバッジの重要性を知るはずがない。
いったいなぜ?・・・と思っていると、ツクネちゃんが答えた。
「ウチにカラスがやって来たんです。」
「カラスが・・・・。」
「チェリーを出せって。理由を聞けばバッジを奪われたからだって言ってました。」
「・・・・・・・。」
「ここにはいないって答えると、どこかへ飛んで行ったんですよ。
しばらくしたらバッジを咥えた飛んでるのが見えたから。」
「じゃあマリナが空を飛んでったのは・・・、」
「私がやりました。」
「やっぱり・・・・。」
「蹴飛ばすと怪我するから、足に乗っけてこう。」
小石を足に乗せ、そのままポンと蹴り上げる。
なんていうか・・・・見事というか無茶をするというか・・・・。
「私からやってって言ったのよ。」
「マリナから?」
「だって日向ぼっこしてばっかりじゃ悪いじゃない。ちょっとくらい役に立たないとと思って。」
鋭い爪でピースをする。
ちょっと怖い・・・・。
まあとにかくバッジを取り返せてよかった。
それよりもだ・・・・、
「このカラス、公園で俺たちに襲いかかって来たあいつか?」
「みたいね。」
マリナにやられたカラスは、ツクネちゃんの腕で気を失っている。
するとチェリー君が顔を覗き込んだ。
「どう?同じ奴?」
「間違いねえ、あん時しつこく追いかけてきたカラスだ。」
うんざりした目で睨んでいる。
するとカラスは目を開け、「カアアア!」と慌てた。
「おいコラてめえ!よくもこんなとこまで追いかけて来やがって!」
ガシっと掴んで締め上げる。
俺は「よせよせ」と止めた。
「あんまりやると死んじまうぞ。」
「へ!焼き鳥にして食ってやらあ!」
「カアアアア!」
カラスは慌てて空へ逃げる。
「覚えてろ!」と言い残し、仲間のカラスと一緒に飛び去っていった。
チェリー君は「いつでも来い!返り討ちにしてやんぜ!」とファックした。
「ったくよ・・・まさかこんな所まで追っかけて来るとはな。執念深いにもほどがあるぜ。」
「そのバッジ、自分たちの物だと思い込んでるんだよ。」
「へ!誰が渡すかってんだ。」
俺の手からバッジを奪い取り、「ほらよ」と神主さんに投げる。
カラスのままだった彼は、慌てて人間に化けて受け取っていた。
「おお、ありがとう!」
嬉しそうに頬ずりしている。
「本殿の補修工事をしたからお金が苦しかったんだ。これでどうにかなる。」
「釣りはいらねえ、全部取っときな。」
「ほんとにいいのかい?君のとこだって苦しいんじゃ・・・・、」
「タダってわけにはいかねえさ。さっきも言ったけど・・・・、」
「もうツクネさんには近づくなと?」
「ああ。」
神主さんはバッジを見つめる。
果たしてこれを受け取ってもいいものかどうか・・・かなり悩んでいるようだ。
するとツクネちゃんが「寛太さん」と呼んだ。
「え?あ・・・はい!」
「私を助けるのに手を貸してくれたそうですね。」
「い、いやあ・・・・そんな大したことは・・・、」
「ありがとう。」
珍しく笑顔を見せる。
神主さんはものすごく照れていた。こっちが恥ずかしくなるくらいに。
「つ、ツクネさんこそ無事でよかった・・・・。」
指をモジモジさせながらバッジをいじっている。
恥ずかしそうに顔をあげて、「ツクネさん!」と叫んだ。
「ほ、本殿を新しくしたんですよ!いつあなたがお嫁に来てもいいように。」
「・・・・・・・・。」
「僕は決してあなたを泣かせるような事はしません!だから・・・・僕と結婚して下さい。」
声が上ずっている。
でも真剣なんだろうなというのは伝わってきた。
チェリー君が「またしょうこりもなく・・・・」とボヤいた。
「僕はあなたが好きなんです。どうか・・・・よろしくお願いします!」
頭を下げて手を差し出す。
今時こういうのは珍しいんじゃなかろうか。
まるでバラエティの恋愛企画みたいだ。
「・・・・・・・。」
ツクネちゃんは黙ってその手を見つめる。
そしてゆっくりと口を開いた。
「ごめんなさい。」
「・・・・・・・・。」
「寛太さんが純粋で真面目だっていうのはよく分かってます。しつこいのが玉にきずだけど。」
「・・・・・・・・。」
「しょうじき気持ちは嬉しいです。でも・・・・タイプじゃないんです。
私はスポーツマンタイプの男性が好きで、特にサッカーやってる男性が好きなんです。
そうじゃないと恋愛対象にならないんです。」
「じゃ、じゃあ僕もサッカーを覚えて・・・・、」
言いかける神主さんの言葉を、首を振って遮る。
「そういう動機でやられるのは嫌なんです。」
「ぼ・・・僕は本気でサッカーを好きになりますよ!練習だってして上手くなって・・・・、」
「私のことなんて関係なしにサッカーをやってる人が好きなんです。
もし私と結婚したって、誕生日や記念日をほったらかしてでもサッカーに夢中な人がいいんです。」
「ど、どうしてそこまでサッカーにこだわるんですか?何か理由が・・・・、」
「私もサッカー選手になりたかったから。けど無理なんです。
霊獣の身体能力は人間を遥かに超えてるから、公平な戦いじゃなくなっちゃう。
そんなの格闘技の試合にヒグマが出るようなものだから。
スポーツそのものがダメになっちゃう。だから諦めざるをえなかった・・・・。
でもその代わり、彼氏や夫になる人に夢を見せてもらいたいんです。
自分が出来ないなら、せめて頑張ってる人を傍で応援してあげたいから。」
「ということは・・・・そもそも霊獣は恋愛対象外ということに・・・・、」
「そうなりますね。いま言われて気づきました。」
長い髪を揺らしながらニコっと笑う。
「寛太さんなら他にいい相手が見つかりますよ。」
「いや、僕はツクネさんが・・・・、」
「そのバッジを受け取ったなら、借金を返済したってことになります。だから・・・もう諦めて下さい。」
深々と頭を下げている。
神主さんは何かを言いかけたが、グっと言葉を飲み込んだ。
「・・・・・分かりました。」
実に残念そうな顔だ。
「これ以上アタックしても無理なんですね・・・・。ツクネさんの負担になるだけだ。」
自分の言葉に自分で頷く。
そしてクルっと背中を向けた。
「すぐには忘れられないだろうけど、もうあなたを困らせることはしません。
こんな僕の気持ちに真剣に答えてくれてありがとう。」
背中が泣いている。
ダダっと駆け出し、空中で一回転した。
「カアー!」
寂しい鳴き声が響く。
傷心のカラスが山へと飛び去っていった。
「ようやく終わったな。」
チェリー君はニヤっと肩を竦めた。
「こうして引き下がるってことは、あの野郎は黒幕じゃなかったのかもな。」
「だろうね。やっぱりコウモリ野郎の単独犯だよ。」
これで全て解決、ようやく終わったと背伸びをした。
「ああ、大変だった・・・。」
やっと帰れる。
グルっと首を回して、また背伸びをした。
「じゃあツクネちゃん、チェリー君。俺たちはこれで。」
そう言って手を振ると、ツクネちゃんは「待って下さい」と言った。
「ん?どうかしたの?」
「その・・・・実は黙っていたことがあって・・・・、」
「黙ってたこと?」
「私をさらったコウモリの霊獣なんですけど・・・・、」
「うん。」
「実は前に付き合ってた彼氏なんですよね・・・・。」
「・・・・・はいいい!?」
変な声が出てしまう。
チェリー君も「嘘だろ姉貴!」と目を丸くした。

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