海の向こう側 第十五話 海の向こうへ(1)

  • 2018.05.27 Sunday
  • 11:27

JUGEMテーマ:自作小説

いつも穏やかな海が荒れていると、いつも温厚な人が怒っているかのような怖さがある。
普段は平らな海面と真っ直ぐな水平線を見せてくれる瀬戸内の海が、台風に近いほどの風に煽られて感情的になっていた。
いつもなら決して水に濡れない場所まで波が押し寄せて、靴底からじんわりと海水が染み上げてくる。
濡れた靴下はとても気持ち悪く、歩く度に不快な音と感触を伝えてきて、いっそのこと脱いでしまえと裸足になった。
少しながら砂浜が広がるこの海岸なら裸足でも問題あるまい。
足型に沈んでいく濡れた砂は、振り向けば数秒間の俺の歴史を刻んでいる。
大した距離は歩いていないのに、ほんの少しでも時間が経てば、前の一歩は過去のものとなる。
今日は波が激しいので、すぐにこの軌跡は消えるだろうけど、ここを歩いていたという事実は頭の中に残るだろう。
・・・・怖いと思った。
理由は分からない。
不快でも嫌な気分でもなく、むしろ波の力で埋まっていく足跡は面白いとさえ感じた。
マイナス気分になる要素は一切ないはずなのに、どうして恐怖を感じてしまうのか理由が分からず、その事に対して不快感が込み上げた。
昨日、夜遅くにお姉ちゃんとたくさん話をして、それはとても有意義で幸せな時間だった。
駅で話した分だけじゃ全然足りなかったので、向こうから電話を掛けてきてくれて本当に嬉しかったのだ。
それなのに今日は沈んだ気持ちで朝を迎えたのはなぜか?
『怖がる必要はないんだよ。』
電話を切る直前のたった一言が、翌日にまで胸の中に錐を突き立て、嵐が来ているというのに海辺へ足を運んでしまったのだ。
強い風が雲を運び、空の青を嫌味に覆い隠しているし、荒れる海面は見ているだけで心がざわつく。
そして何よりも水平線が滲んでしまっているのがいけない。
いつ雨が降ってもおかしくない空模様のせいで、空気はこれでもかと湿り気を含み、強い風がそいつを拡散させるものだから、遠景が水墨画のごとく霞んでしまっているのだ。
無論、水平線も墨の中である。
あそこがはっきりと見えたならば、もう一人の俺に会うことが出来るかもしれないのに。
少し前から抱いている悩みは、お姉ちゃんと会ったことでより強くなってしまった。
俺は今のままでいいのか?
人真似をして生きてきたこの10年にピリオドを打ち、まだお姉ちゃんに会う前の自分に戻ることが、今の俺が本当に望んでいることじゃないのか?
それを探る為にはもう一人の自分と会う必要があった。
そもそもどうして俺は他人になろうとしたのか?
イジメから逃れたかったのか?お姉ちゃんになりたかったのか?
今となっては分からなくなってしまい、過去の10年を振り返っても、まるで空白であるかのような虚しさが漂うばかりだ。
波に消される足跡のように、俺の生きてきた過去も、時間と共にかき消されてしまって、ただ死なずに生きてきたという事実だけが残っているようで怖くなる。
そんなのは死んでいるのと同じじゃないかと、足元の砂を強く踏みしめて、これでもかと形を残してやった。
だがそうしている間にも波が押し寄せて、じょじょにではあるが形が崩れていく。
顔を上げれば遠景はさらに霞んでいて、海の向こう側では雨が降っているのだなと、滲んだ景色が伝えてくれた。
風が強いせいか、遠い雨の雫が頬に一滴落ちてきて、嫌な気分でそいつを拭う。
そういえばずっと昔、まだ俺が小学生の頃、家族でキャンプに行ったことを思い出す。
友達の家族と一緒に山へ行ったのだ。
山の天気はとても変わりやすく、青かった空へ早送りのように雲が流れてきた。
あの時も頬に一滴だけ落ちてきて、嫌だなと思いながら拭った。
ちょうど川遊びをしている最中で、友達と仲良く盛り上がっていたのに、親からもう川から出るようにと促された。
雨が降れば水遊びは危険で、渋る俺の手を「さっさとしろ」と姉が引っ張った。
本格的に降り始めた雨は、一息に辺りを煙らせてしまって、慌てる大人たちを尻目に友達とはしゃいでいた。
バケツをひっくり返したかのような豪雨は瞬く間に川を増水させて、「もっとこっちまで来い」と姉に怒鳴られた。
降り注ぐ雨に顔を拭い、なぜか腹を抱えるほど可笑しかったのは、俺が子供だったからだろう。
豪雨はものの10分ほどで去っていったけど、おかげで地面はびしょ濡れになってしまい、テントを張る予定だった草地も湿原のように水を蓄えていた。
父が慌てて麓のコテージへと走っていき、数分後に浮かない顔で手でバツ印を作りながら戻ってきた。
それを見た母が荷物を纏め始め、友人のお父さんが車を回してきた。
いったい何をしているんだろうと眺める俺に向かって、姉が「予定変更」と教えてくれた。
そこらじゅう水浸しなのでテントは張れない。
ならばと近くのコテージに予約を取りに行ったのだが、あいにくどこも一杯で、仕方なしに帰ることになってしまったのだ。
さっきまではあれほど楽しかったのに、その全てを取り上げられたショックを受けて、帰りの車の中ではずっと拗ねていたのを覚えている。
不機嫌なせいで髪さえもちゃんと拭かなくて、母から頭くらいちゃんと拭きなさいと怒られた。
Tシャツの前に垂れた長い髪はじっとりと湿っていて、冷房がかかっているせいもあってか、胸からお腹にかけてとても冷たかった。
見かねた姉がタオルを掴み、粘土でも捏ねるように俺の頭を撫で回した。
家に着く頃には後ろで髪を結んで・・・とうより、結ばされていた。
友人とはいえ人様の親の車なので、濡らすのは良くないからと、母が束ねなさいと言ったのだ。
思えば物心ついた時からずっと髪の毛は長かった。
クラスメートには短い子もいたし、そういう髪型が良いなと思うこともあったが、断然長い方が好きだったので、腰に届くほど伸ばしていた。
それは中学に上がってからも同じで、お姉ちゃんの真似を始めるまでの間はずっとそうだった。
今は結ぶことすら出来ないほど短く切っている。
無理すれば出来ないこともないが、おそらくじゃりん子チエのような感じになってしまうだろう。
楽しみにしていたキャンプが中止になり、俺はどうしてもその事が納得出来なくて、埋め合わせとしてどこかへ連れて行ってくれと頼んだ。
渋る父を説得し、どうにか海へ連れて行ってもらえる約束を取りつけた。
しかし姉は面倒くさいからと拒否し、母は夏バテ気味なのでやめとくわと言った。
落ち込む俺に向かって、二人だけで行っても楽しくないぞと父が肩を叩き、ホッとした様子でゴルフクラブの手入れをしていた。
ますます納得がいかず、どうして楽しみにしていたイベントをお預けにされたまま我慢しなければいけないのかと、夏休み中はずっとふてくされていた。
そして8月30日、あと少しでせっかくの夏休みも終わるのだなと悲しみを抑えつつ、特にすることもなくて、家でゴロゴロしていた。
寝返りを打つと目の前に庭がある。
そう大きな庭ではないが、玄関への通路として機能しているだけの狭いものでもない。
車が二台は停められるほどのスペースであり、ならば充分にアレを使えると思って、押入れの中から懐かしい道具を取り出した。
幼い子が庭で水遊びを楽しむ為の、あの丸いプールである。
以前に父が使っていたスポーツバッグの中に、クシャクシャになったまま詰め込まれていて、その隣には足で踏んで空気を入れるあの道具もあった。
庭で何度も足踏みをして空気を送り込み、ホースを引っ張ってきて、少しずつ水面が高くなっていくのを見てウキウキしていた。
限界ギリギリまでたっぷり水を溜めてから、水着にも着替えずにそのままで飛び込んだ。
大きな波紋が弾けて水滴をバラ撒き、プールの外へと逃げ出していったり、俺の顔に降り注いだりと大忙しだった。
確か最後にこれを使ったのは幼稚園の頃で、姉にプールごとひっくり返されて泣いた記憶がある。
可笑しそうにゲラゲラ笑う姉を見て、大泣きしながら空っぽになったプールを蹴飛ばしたのだった。
プールの縁に頭を乗せながら、うんと体を広げると、手足がはみ出てしまった。
あの頃はそこそこ大きく感じたのに、今は俺の方が大きくなってしまったんだなと、ちょっとばかしここに入っていることが恥ずかしくなった。
父は仕事で、母は婦人会の寄り合いで、姉はどこかへ遊びに行っている。
しばらくは誰にも邪魔されることはなかろうと、懐かしい気持ちに浸りながら青空を仰ぎ見ていた。
視界の中には空と雲だけで、頭の全てをぼんやりさせていると、プールごと宙に浮かんでいるかのような錯覚に陥った。
それはとても心地の良い錯覚で、このまま水に溶けてしまって、空の中に染み込んでいたけたらなんてメルヘンな気分に酔いしれた。
だが気持ちいい時間というのはいつでも突然に打ち切られる。
いきなり視界の中に姉の顔が入ってきて、「あんた何してんの?」と怪訝な目で見つめられた。
一瞬だけなんと答えようか迷った。
プールに入っているというのは見たまんまだし、暑いから涼んでいるというのは最もらしくて嫌だ。
「空に溶けてる。」
はあ?という姉の顔を想像していた。
ほぼ間違いなく馬鹿にされて、期待を裏切ることなくゲラゲラと笑って、またあの時みたいにプールごとひっくり返されるんじゃないかと身構えていた。
「気持ちいい?」
興味津々に尋ねてこられて、なんで?と肩透かしを食らってしまった。
「気持ちいい」と素直に答えると、姉は家の中にバッグを放り投げて、そのままプールの中に飛び込んできた。
俺より大きな姉が飛び込んだせいで、さっきよりもたくさんの水滴が宙へ逃げていく。
姉は俺とは反対側の縁に頭を乗せながら、まるで温泉に浸かったおじさんみたいに「うい〜」と息を漏らしていた。
面白いもので、このプールに入ると誰もが同じ行動をするようだ。
ダラリと手足を投げ出し、完全に脱力しきったまま、じっと空を仰ぎ見るのである。
「気持いいい?」
「気持ちいい。」
俺の質問に即答して、「懐かしいなあ」と足をバタバタさせるもんだから、「狭いからじっとしてよ」と足を掴んで水に浸けた。
今度は手をバタバタさせて水を弾くもんだから、足でがっしりと押さえつけてやった。
俺たち二人がここから出たら、水嵩はうんと低くなっていることだろう。
できれば一人で入りたかったが、姉が俺の馬鹿に付き合うなんて珍しいので、新鮮な気持ちで空を見上げるその顔を睨んでいた。
嫌なことでもあったのか?
友達と喧嘩したとか、仕事でミスをしたとか、彼氏と上手くいっていないとか。
けど友達と喧嘩くらいで拗ねるような人じゃないし、仕事でミスしたくらいで落ち込む人でもないし、彼氏と上手くいかないからって悩むほど細かい人でもない。
じゃあなんで?
答えの出ない姉の行動に、つい口から言葉が出てしまう。
「なんかあったの?」
「なんも。」
即答してから「ただなんとなく」と手足をバタつかせるので、なるほど大人でもそういう時があるんだなと、「水がなくなるって」と忙しない手足を押さえつけてやった。
「じゃあ水足して。」
「ヤダ。」
「なんで?」
「一人で入りたかったのに邪魔されたから。」
パシャっと水を掛けると突然立ち上がったので、怒られると思って身構えたのだが、姉は何もせずにプールから出て行った。
しかも「悪かったね」などと謝る始末で、もしかして本当に嫌なことがあって落ち込んでいるのかなと、「別に出ていけとは言わないけど」とフォローした。
「入りたいなら入ればいいじゃん。」
「だって悪いから、あんたの世界を邪魔しちゃ。」
怒るでもなく馬鹿にするでもなく、嘲笑するでもなく説教するでもなく、どこか哀れんだ口調に眉を潜めた。
俺の世界とはなんのことだろうと、「なにが?」と聞き返すと、「そのプール」と指をさされた。
「一人で気持ちよく違う世界に行ってたんでしょ?」
「だから違う世界ってどういう意味?」
「その幼児向けプールみたいに狭いあんたの頭の中。」
やっと人を馬鹿にするようないつもの笑顔を見せてくれたので、ちょっとばかりホッとした。
姉は自分の頭を指差し、ドリルで穴を開けるみたいにグリグリしながら、「あんたの将来が心配だわ」と嫌味な笑みのまま嘆いた。
「きっとこれからもそういう狭い世界の中で生きてくんだろうね。孤独なまんまで。」
「孤独?」
「あんた人に心開かないじゃない。いつだって自分の世界に没頭して、友達どころか家族さえその中に入ってくるのを嫌がるでしょ?
こっちは散々スキンシップ取ろうとしてんのにさ。」
嫌味な笑みは呆れたため息を変わり、だけど俺を馬鹿にしたような表情だけは変わらない。
こんなのいつものことなので今さら腹も立たなかったが、狭い世界だの孤独だのと、意味の分からないことには少々戸惑いを覚えた。
それが顔に出ていたのだろう。頼んでもないのに、これでもかと丁寧に説明をしてくれた。
「私はこれでもあんたの姉貴だよ?可愛い妹だと思って仲良くしようとしてきたのにさ。いっつも突っぱねるよね。」
「突っぱねたことなんかないじゃん。お姉ちゃんがぶっきらぼうっていうか、愛想悪いから仲良く出来ないだけで。」
「あのね、人はみんなそれぞれ違うの。愛想良い人もいればそうじゃない人もいんのよ。
確かに私は無愛想だけど、別に人嫌いってわけじゃないからね。
いきなり人を突き放したり、こういう人間だって決めつけたりしないから。
ある程度付き合ってみて、その上で仲良くできるかどうか判断してるわけ。
でもあんたは違うよね?頭の中の狭い世界が基準で、そこに合わない人は最初から突っぱねてる。」
「そんなことない。」
せっかく良い気分でまったりとしていたのに、姉のせいでぶち壊しにされてしまって、不機嫌の極みみたいな表情で睨んでやった。
このプールは俺が用意したもので、一人で楽しむ為に入っていたのだ。
キャンプは中止になり、海にも行けず、明後日には学校が始まるかと思うと、ついこういう遊びもしたくなってしまうではないか。
もう姉と話すことなどないと、口を噤み、目も逸らし、大の字に手足を広げて、先ほどと同じように空だけを仰いだ。
「それよそれ。」
腰に手を当てながらうんざりしたように、これみよがしに首を振って、「そんなんだから」と実に不機嫌そうに言った。
「せっかく仲良くしようと思って一緒に入ったのにさ、いっつもそう。
テストとかで頑張った時にお父さんが褒めてくれてもつっけんどんだし、お母さんが服とか靴を買って来てくれた時だっておんなじ。
私だって誕生日の度にプレゼントをあげてるのに、次の日には居間のゴミ箱に入ってた時があるよね?
別に要らないなら要らないでいいけどさ、普通本人の目の届く場所に捨てる?」
こっちへ歩いて来て、鬼みたいな目で見下ろしてくるので、ぶたれるんじゃないかと身を竦めた。
「でも何が一番タチが悪いかっていうと、そういうことに全然何も感じてないことなんだよ。
悪気があるなら叱れるけど、そうじゃないからどう怒っていいのかも分からない。
友達が誘い来た時だってそうじゃん?あんた約束してたはずなのに、今忙しいからとか平気で追い返したりするよね?
自分から家に来てって言っときながらふざけんなって話よ。いっつも私かお母さんが謝ってるの、あんた知ってる?」
俺の頭の傍に膝をつき、突き刺すように指を向けてくる。
その顔は哀れな子羊を見るみたいに、怒りよりも哀れみの方が強くて、なんでそんなに悲しい顔をしているのか分からなかった。
確かに俺だって悪いところはある。
けどそういうのは誰だって同じで、いちいち人の悪いところに文句を言っていたらどうにもならないじゃないかと、口を尖らせながら睨み返したのだ。
「そうやってすぐにふてくされる。あんたずっと自分の頭の中の世界だけで生きてるから、人の気持ちが分からないのよ。
きっとこれからもそう。今はまだ子供だからいいけど、ほんとこの先心配だわ。
来年もう中学なんだよ?そのまんまでいたら絶対にイジメられるって。」
言うべきことは全て言い切ったとばかりに、興味を無くしたように立ち去っていく。
「このまんまじゃ誰も仲良くしてくれなくなって、一人ぼっちになるよ。
あんたそれでいいの?甘えたの寂しがり屋のくせにさ。」
一瞬だけ足を止め、プールを睨みながら「もうとっくにはみ出てる」と冷たい目をした。
「それ小さな子供が入るもんだよ。あんたもう手足がはみ出てるじゃない。いつまでも幼稚園児みたいな狭い世界の中にいられないんだから、今のうちに卒業しないと。」
ガラガラと玄関の音がして、窓の向こうから階段を上がっていく足音がした。
少ししてからまた降りてきたようで、風呂場の方からシャワーの音が響いた。
どうしてあそこまで怒るのか理解出来ず、また空を仰ぎ見ながら、空に溶けていく夢心地に浸る。
この年の誕生日以来、姉からプレゼントを貰うことはなかった。
・・・・そう、俺はわがままで自己中で、人の気持ちなど顧みない子供だったのだ。
そして姉の予言通り、中学に上がってからイジメに遭い、そこで初めて自分の頭に描く世界と、現実の世界には隔たりがあることを思い知った。
今にして思えば、美桜里君の彼女が俺をイジメにかかったのは、単に彼と仲良くしていたせいだけではないように思う。
おそらくだけど、俺の言動そものが気に食わず、もし美桜里君のことがなかったとしても、遠からずイジメに遭っていたかもしれない。
美桜里君の彼女に限らず、クラスメートや上級生から目を付けられて。
そもそも中学時代はほとんど友達がおらず、だからこそお姉ちゃんとの出会いが救いだった。
友達になろうよと言ってくれて、いったいどれほど嬉しかったか
過去を思い出している間に、いつの間にやら雲は薄くなり、滲んでいた景色もハッキリと輪郭を浮かばせていた。
風はまだ強いが、空が照るだけで海の印象は変わるもので、真っ直ぐに形を保っていく水平線を見ていると、なぜか目眩のようなフラつきを感じた。
やがて頭も痛くなってきて、この前みたいに風邪を引いても御免だと、せっかく晴れた海に背を向けた。
踵を返す時、思いっきり体重をかけて、これでもかと砂浜に足跡を残してやった。
濡れた靴下はポケットにしまい、水が染み込んだ靴を履いて、不快感を我慢しながら海を後にする。
一度だけ振り返ると、さっきよりもハッキリと浮かぶ水平線に目を奪われ、立ち止まったまま睨みつけてやった。
もう幻は見えない。
もう一人の俺は空へ昇ったのか海へ沈んだのか分からないが、もう俺の目の前に現れる気はないようだ。
少し濡れた髪を撫でながら、昔みたいにもう一度伸ばしてみようかなと、誰もいなくなった水平線に向かって語りかけた。

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