稲松文具店〜燃える平社員と動物探偵〜 第六話 消えた協力者(2)

  • 2018.08.18 Saturday
  • 10:54

JUGEMテーマ:自作小説

一日が過ぎるのは早い。
伊礼さんからもらった休日はあっという間に過ぎてしまった。
今日からまた稲松文具で働くのだ。
昨日と同じようにネクタイを締め、スーツにシュバっと腕を通した。
「・・・・よっしゃ!」
パンパンと頬を叩き、オンボロの軽自動車を走らせる。
今日は朝から雨。
こんな天気じゃ寝起きと共にテンションも下がるってもんだが、ハリマ販売所へ着く頃には多少気持ちが高揚していた。
《今日からまたスパイ開始だ!気を引き締めなくちゃな。》
グっと胸を張りながら店の自動ドアを潜る。
「おはようございます!」
ビシっと敬礼しながら挨拶する。
しかし何の返事も返ってこなかった。
それどころか電気も点いておらず、箕輪さんも美樹ちゃんもいない。
「あれ?なんで?」
時計を見ると午前10時。
開店は9時なので、とうに来ているはずだが・・・・。
「おかしいな。昨日の夜にここへ来いって伊礼さんから連絡があったんだけど。」
外へ出て裏手へ回ってみる。
「車がない。てことはやっぱりまだ誰も来てないのか。」
さて、どうしたもんか。
俺はもうここの店員ではないわけで、勝手にお邪魔するっていうのはよろしくない気もする。
・・・いや、誰もいないならなんで自動ドアが開いたんだろう?
シャッターだって開いていたし。
「事務所を覗いてみるか。」
再び店に戻り、コンコンとドアをノックした。
「すいません。誰かいますか?」
返事はない。
ノブを回してみると、ゆっくりとドアが開いた。
《やっぱ誰かいるのか?》
ほんの少しだけ顔を覗かせながら、「すいませ〜ん・・・」と小声で尋ねる。
「冴木です。今日ここで人と合う予定がありまして・・・・、」
そう言いかけて、ふとある人物が目に入った。
こちらに背中を向けてノートパソコンを叩いている。
長い黒髪、背筋の伸びたまっすぐな姿勢。
ただそこにいるだけで醸し出されるミステリアスな雰囲気。
顔は見えないが、この雰囲気には覚えがあった。
「あなたは・・・・、」
俺が尋ねる前に、その人は立ち上がった。
「おはようございます。冴木前社長。」
「やっぱり玉木さん!」
なぜこの人がここに?
今は行方をくらましているはずじゃないのか?
「ええ、そうです。」
「へ?」
「顔に出ていました。玉木は姿を消したはずじゃないのかと。」
恥ずかしくなってちょっとだけ赤面する。
「ううん!」と咳払いしてから「どうしてあなたがここに?」と尋ねた。
「ていうか心配してたんですよ、カグラの人たちに酷い目に遭わされたんじゃないかって。」
「行方をくらますのは得意なんです。カグラの方たちがいくら頑張っても私は見つけられないでしょう。」
「そ、そうなんですか・・・・。」
妙に説得力がある。思わずコクコクと頷いてしまった。
「今日ここへ来たのはある人に呼ばれたからです。」
「ある人?」
「ハリマ販売所の店長、進藤歩。」
「あ、あの子と知り合いなんですか!?」
「ええ。」
なんとも妖艶な笑みで頷く。これはもしかして・・・・、
「し、失礼ですが・・・・、」
「はい?」
「若いツバメを囲っているとかではないですよね・・・・?」
「まさか。」
クスクスと笑いながら速攻で否定する。
「なんていうか・・・・そうですね、身内のようなものです。」
「身内?まさかお子さんとか?」
「子供ではありません。ただ身内とだけ言っておきます。」
顔は笑っているけど、それ以上は踏み込むなというオーラが出ていた。
「あの子からお店の鍵を借りてお邪魔していたんです。」
「な、なるほど・・・・。ちなみに進藤君はどこに?」
「今日はお休みです。」
「そうですか。ていうか店に誰もいないから変だなあと思ってたんですよ。何か聞いてます?」
「今日は臨時休業だそうですよ。あの子からそう連絡がありました。」
「臨時休業?またどうして?」
「シフトのミスらしいです。」
「シフトのミス?」
「全員の休みが重なってしまったと。」
「それで臨時休業してもいいのか・・・・。」
超絶ホワイトもいいところだ。
もし正社員として戻って来られたら、ここへ配属願いを出そう。
「おはよう冴木君。」
いきなり後ろから声がして、ポンと肩を叩かれる。
俺は振り向きざまに「おはようございます!」と頭を下げた。
恭しく頭を上げると、そこには高原に咲く一輪の花が。
「か、課長は今日も麗しく、冴木晴香は感無量です!」
「冴木君はいつもと相変わらずね。」
なんと爽やかで凛とした笑顔か・・・・。
外の雨も一瞬で吹き飛んでしまいそうだ。
朝から課長と挨拶を交わせる・・・・それだけで充分ここに戻ってきた価値がある。
麗しきその佇まいに見とれていると、「ねえ冴木君」と呼ばれた。
「は、はい!なんでございましょう!?」
「あの・・・こちらの方はもしかして・・・・、」
「ええ、玉木千里さんです。」
「やっぱり!」
キョトンとしている。まあそうなるだろう。
事情を話すと「そうだったの」と頷いた。
「初めまして。本社部長補佐の北川翔子と申します。」
ペコリと頭を下げると、玉木さんも「こちらこそ」と微笑みを返した。
「部長補佐の噂は聞いています。お若いのにとても優秀な方だと。」
「いえ、そんな・・・・、」
「先の件では本社にも多大なご迷惑をお掛けしてしまいました。お詫び致します。」
そう言って深くお辞儀する。
課長は黙ったまま彼女を見つめていた。
「・・・・・・・。」
眉間にどんどん皺が寄っていく。怒っているんだろうか?きっと怒っているんだろうな。
あんな不正を犯しておいて自分だけ姿をくらましたから。
「課長!全ては俺のせいです!」
二人の間に割って入り、「玉木さんは何も悪くありません」と言った。
「俺が話を持ちかけたんです。無理にお願いしただけなんですよ。
それに姿を消さないとカグラの人たちに何をされるか分からなかったから・・・・、」
必死に弁明するが、俺の方など見ちゃいない。
それどころか玉木さんに詰め寄って睨みつけていた。
「あ、あの!課長・・・・、」
「失礼ですが、以前にどこかでお会いしたことがありますか?」
いったい何を言っているんだろう?
以前に会うも何も、同じグループの社員なんだから・・・・、
「同じグループであってもウチは大きいわ。顔を合わせたことのない人はたくさんいる。」
また顔に出ていたみたいだ。
「玉木さんのことは社員ファイルの写真でしか見たことがない。けど・・・・どこかで会ったような気がするのよ。」
そう言って彼女に視線を戻す。
すると玉木さんは「どこかですれ違ったのかもしれません」と答えた。
「私も用があって本社へ行くことはありましたから。廊下かどこかですれ違って、その時に顔を覚えられていたのでは?」
「だけどあなたとは初めてじゃない気がするんです。すれ違う程度とかそんなんじゃなくて。」
「私は初めてお会いしました。」
「そうですか・・・。なら私の思い違いなのかな?」
「部長補佐はとても優秀な方ですから、きっと記憶力も良いのでしょう。一瞬すれ違っただけの私を覚えていたのかもしれません。」
悩む課長、飄々と答える玉木さん。
そこへ伊礼さんがやって来て、「よう」と手を上げた。
「どうだ冴木?昨日はよく休めたか?」
「お陰様で。」
「そりゃよかった。今日からバリバリ働いてもらうからな。」
「もちろんです。」
「それより・・・・なんで店に誰もいないんだ?」
不思議そうに言ってから、「お前なんか聞いてるか?」と口元を曲げた。
「臨時休業だそうです。」
「臨時休業?どうして?」
「全員の休みが重なったらしくて。」
「なんだそりゃ?」
眉を寄せながら唇を尖らせる。
そしてようやく場違いな人間が一人いることに気づいた。
「ア、アンタはッ・・・・、」
目を見開いて驚いている。
ズカズカと詰め寄って、「今までどこにいた!?」と怒鳴った。
「当事者のクセして一人だけ逃げやがって!」
「ちょっと伊礼さん!落ち着いて!」
「冴木!コイツが逃げたせいでお前一人で背負い込むことになったんだぞ。」
「でもそれは俺が話を持ちかけたからなんです!それに逃げないとカグラの人から何をされるか分からなかったから。」
「だとしてもだな、コイツにだって責任はあるんだ。何の追求もせずに見過ごすことは出来んぞ。」
怖い顔をしながら「おい」と玉木さんに向き直る。
「アンタ今までどこにいた?なんでこんな場所にいる?」
「それは俺から話し・・・・、」
「お前にゃ聞いてない!本人から話を聞きたいんだ!」
「でもそんなに怒ってちゃ玉木さんだって話せませんよ!もうちょっと落ち着いて・・・・、」
「冴木君。」
課長が俺たちの間に割って入る。
「私も伊礼さんと同じ気持ちよ。」
「か、課長も・・・・?」
「当然じゃない。どうして君だけが責められなきゃいけないの?玉木さんがどういう理由で君に協力したのかは分からない。だけど手を貸した以上は共犯なのよ。」
「そうですけど・・・・・、」
「それに私は知りたい。カグラの人間でありながら、なぜ冴木君に手を貸したのか。それが分かれば何かが見えてくるかも。」
「何かって・・・・なんですか?」
「カグラの内部のことよ。玉木さんは私たちより遥かに詳しいはず。だから・・・お話を聞かせて頂けますよね?」
強気な目で尋ねると、玉木さんは「もちろんお答えします」と頷いた。
「今まで姿をくらましていたのは身を守る為です。だけどもうその必要もなくなりました。」
「どういうことですか?」
「進藤君から連絡をもらったんです。伊礼さん、北川部長補佐、そして前社長の冴木さんが、店に集まってコソコソ話をしていると。」
そう答えると、伊礼さんが「お喋りな野郎め」と舌打ちをした。
「どうして簡単に内部の情報を漏らす。今度会ったらお灸を据えてやらんと。」
「あの子はあの子なりにこの会社を心配しているんですよ。
そしてあなた達がここへ集まった理由・・・それは不正の件に違いないと考えたそうです。」
「進藤君もあの件のことを知ってるんですか?」
「ええ。」
「でもあれって上から情報封鎖されてるはずですよね?誰がどう絡んだとか、詳しい情報は分からないようになってるはずだけど・・・・、」
課長に目を向けると、「そうよ」と頷いた。
「下手に情報を伝えれば、現場の社員を不安にさせてしまう。だから箝口令が敷かれていたんだけど・・・・一人だけ行き届いていない人がいたわ。」
玉木さんを見据え、「あなたが進藤君に?」と尋ねる。
「そうです。なんたって当事者の一人ですから。」
「なるほど。進藤君が入社したのは不正の件があった後だけど、あなたと繋がりがあったなら詳しい事情を知っていたとしてもおかしくないわ。」
「その通りです。だからこそあの子は私に伝えて来たんですよ。ここへ来ればカグラに復讐できるかもしれないと。」
「復讐?」
穏便ではない言葉が出てきて、緊張感と共に興味を引かれる。
「玉木さん・・・あなたはカグラに恨みを持ってるんですか?」
そう尋ねると、「恨みというより怒りです」と答えた。
「私個人が特に何かをされたわけではありません。」
「じゃあなんで怒りを?」
自分のことでもないのに怒りを感じるなんて、何か深い事情があるはずだ。
玉木さんは背中を向け、椅子に腰を下ろす。
カチカチっとマウスを動かし、「これを見て下さい」とノートパソコンを向けた。
「これは・・・・何かのサイトですか?」
「ええ、希少動物を販売するサイトです。」
「希少動物・・・・って絶滅危惧種みたいな?」
「絶滅危惧種ではありません。」
「じゃあどんな動物を?」
「普通ではありえないような特別な動物です。」
そんなこと言われたってどんな動物か想像もつかない。
「まさか恐竜の生き残りとか?」
「違います。」
「じゃあ・・・・ネッシーとか。」
「あ、それは近いですね。」
「いや、冗談で言ったんですけど・・・・、」
「現実には存在しないはずの動物・・・・という意味では近いんです。」
「要するに未確認生物みたいな感じの?」
「そうですね、ある意味では未確認生物です。けど図鑑にも載っています。」
「じゃあ未確認じゃないじゃないですか。」
「姿形の問題ではありません。その動物が備えている能力のことです。」
「能力?」
「ええ。」
「どんな風に?」
「・・・・・・・。」
「玉木さん?」
「今はまだお教え出来ません。問題はそのような動物を捕獲し、高値で販売する組織があるということです。」
「要するに密猟みたいなもんですか?」
「そうです。それがこのサイトです。」
「けどそんな事してたらすぐに警察に捕まるんじゃ?こんなサイトまであるんだからバレるのは時間の問題でしょ?」
「いえ、このサイトは普通ではアクセスできないものなんです。普通の人には・・・・。」
「それは・・・ハッカーとかじゃないと見つけることが出来ないって意味ですか?」
「・・・・・・・。」
「なんでちょいちょい黙るんですか?」
「このサイト・・・・ある組織が運営しているんですが・・・・、」
「ええ。」
「代表者の名前は鬼神川周五郎といいます。」
「へ?鬼神川・・・・。」
「インパクトのある名前でしょう?」
ニコリと妖艶な笑みを向けてくる。
今一瞬だけ目が光ったような気がしたけど・・・・気のせいだよな?
「あの・・・まさかとは思いますけど・・・・、」
「そのまさかです。希少種を密猟し、販売している組織・・・・それはカグラです。」
「・・・・・・・。」
今度はこっちが黙り込んでしまう。
だってそれはつまりその・・・・、
「カグラが犯罪組織ということですか?」
俺に代わって課長が尋ねる。
「カグラが密猟を行っているということですか?」
「ええ。」
「そんなまさか・・・・。」
課長も信じられないのだろう。
強ばった顔でサイトを睨みつけていた。
「いったいなんの為にそんなことを?カグラは立派に儲けている会社なのに。犯罪に手を染めるメリットなんてないと思いますけど。」
「あるんです。というよりこっちが本業ですから。」
「元々が密猟組織ってことですか?」
「ええ。」
「そんな・・・。カグラがウチのグループに入る時、当然きちんと調べました。けどそんな情報はいっさい出て来ませんでしたよ。」
「悪さをしている組織です。そういう情報は上手く隠していますから。」
「お言葉ですが、ウチはそう甘い会社じゃありません。犯罪行為をしているのなら、何かしらの情報を掴むことは出来るはずです。」
「人の起こす罪ならそうかもしれません。しかし・・・彼らは人では捕まえられない。」
「人では無理って・・・・じゃあいったいカグラの人たちは何者だっていうんですか?」
課長の顔が険しくなっていく。
玉木さんは涼やかな笑みでそれを受け流し、パタンとパソコンを閉じた。
「北川部長補佐。」
「なんですか?」
「あなたはご存知のはずです。」
「だから何を?」
「この世には人ならざる者たちが蠢いていることを。」
「人ならざる・・・?」
「今から約一年半前、あなたは誘拐されたことがあるはずです。」
そう尋ねられた課長は、「なんで・・・・、」と目を見開いた。
「なんで知ってるんですか!?」
「犯人は大柄の男。しかもそいつは人間ではなかった。」
「だからどうして知ってるんですか!あれはごく一部の人しか知らない出来事なのに・・・・、」
見る見る表情が曇って、俺を振り向く。
「課長・・・それって確か・・・・、」
「ええ、お稲荷さんの事件よ。あの時君もいたでしょ?」
そう、俺も覚えている。
社長になってまだ間もない頃、課長が誘拐されたという知らせが舞い込んできた。
血の気が引く思いで現場の神社に駆けつけると、そこには人じゃない生き物がいたのだ。
「あの出来事・・・俺の中では封印していたんです。あまりに現実離れしてたから。」
「私もよ。問題はどうして玉木さんがそれを知っているのかってことよ。」
あの現実離れしたファンタジーな事件は、当事者であるごく一部の者たちしか知らない。
玉木さんがそれを知っているということは、あの時の誰かが教えたのだ。
「玉木さん。あなたはいったい誰からその話を聞いたんですか?」
課長が詰め寄る。
すると伊礼さんが「ちょっと待ってくれ」と止めた。
「俺にはなんのことだかさっぱり分からん。」
ボリボリと頭を掻きながら、「いったいなんの話だ?」と不機嫌そうに眉を寄せた。
「誘拐だとかお稲荷さんだとか、まったく話が見えん。」
「ごめんなさい・・・あの出来事は伊礼さんにも話してなかったから。」
「ずいぶん冷たいですね部長補佐。社長選挙を一緒に戦った仲なのに。」
「だってあれは・・・・ねえ?」
「そうですよ。あんなの人に話したって信じてもられませんから。」
UFOを見たというのなら信じてくれる人はいるだろう。
しかしUFOに乗ったとなると、途端に笑い話になってしまう。
現実離れし過ぎた出来事というのは、某スポーツ新聞のように、日付以外は誤報と受け取られてしまうだろう。
「冴木、説明しろ」と迫ってくるけど、どう説明していいのか俺にも分からない。
それは課長も一緒で、困った顔で腕を組むしかなかった。
「すみませんが私はこれで。」
玉木さんはパソコンを持って立ち上がる。
「もう帰るんですか?」
「今日は顔合わせをしに来ただけですので。」
首をかしげて微笑むその姿はやっぱり妖艶だ。
けど・・・・なんだろう?
ただ美人とか色っぽいでは説明のつかない、なんとも言えない怪しげな気配を放っている。
「それでは」と言い残し、事務所から出て行こうとした。
「待て!」
伊礼さんがドアを押さえる。
「意味ありげなことばっかり言いやがって。こっちは聞きたいことが山ほどあるんだ。」
「いずれお話します。」
「今言えばいいだろう。」
「今教えたら混乱するだけでしょう。あなた方が追いかけようとしている者たちは人の常識を超えていますから。」
「そんなこと言って逃げようだって通らんぞ。せめて不正のことについては話してもらわんと納得出来ん。」
ドアの前に仁王立ちして、なんとしても帰さないつもりだ。
正直なところ、俺ももっと話を聞きたい。
どうして俺に手を貸したのか?
カグラが密猟組織ってどういうことなのか?
人の常識を超えるっていったい・・・・。
また顔に出ていたんだろう。
玉木さんは「焦ってはダメです」と言った。
「急がば回れ。真実を知るには時間が必要です。・・・・カグラの調査はあなた達だけでは難しいかもしれない。」
挑発的な物言いに、「舐めてくれる」と伊礼さんが噛み付いた。
「こちとらただのサラリーマンってわけじゃなくてな。」
「知っています。あなたはかつて探偵をやっていらしたんでしょう?」
「ほう、よく知ってるな。カグラの連中に話したことはないはずなのに。実はアンタも同業者ってわけじゃないだろうな?」
「私は違います。」
「私は?」
顔をしかめる伊礼さんに、そっと名刺を差し出した。
「なんだこりゃ?アンタの名刺なんていらんぞ。」
「私のではありません。」
「じゃあ誰のモンだ?」
「・・・人ではない物を調べるのが得意な探偵です。」
ニコっと笑いながら受け取るように促す。
伊礼さんは渋い顔をしながら奪い取った。
「動物探偵・・・有川悠一?」
「動物に関することならどんな依頼でも受けてくれます。行方不明になった飼い犬から、誘拐されたゾウガメの捜索、時には化け猫の相談に乗ったり。」
「ふざけてるのか?」
若干キレそうになる伊礼さん。
ポイっと名刺を投げ捨てる。
そいつは課長の足元にヒラヒラと落ちていった。
「人ではない者を追い詰めるには、人にはない力を持った者が必要です。あの子ならきっとあなた達の力になってくれるはず。」
「そうかい。あんたはずいぶん変わり者なようだが、その知り合いも変わり者とはな。まさかアンタの男か?」
「いえ、弟子のようなものです。」
一瞬だけ表情を和らげて、クスっと肩を竦める。
「それでは失礼。」
ガチャっとドアを開け、足音もなく出て行く。
「おい!待て!」
伊礼さんは慌てて追いかけて行ったけど、俺はそれどころじゃなかった。
なぜなら・・・・、
「課長・・・・その名刺の人ってまさか・・・、」
さっきの名刺を拾って、目からビームでも出るんじゃないかってほどの眼力で睨んでいる。
それもそのはずだろう。
だってこの人は課長の想い人なのだ。
「この人って動物と話せるっていうあの人ですよね?」
「・・・・・・・。」
「課長がお稲荷さんに誘拐された時も助けてくれたあの・・・・。」
「・・・・・・・。」
課長は何も答えない。
不安と心配が入りじまった目をしながら、手の中で名刺を弄んでいた。

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