稲松文具店〜燃える平社員と動物探偵〜 第七話 私の居場所(1)

  • 2018.08.19 Sunday
  • 13:10

JUGEMテーマ:自作小説

『箕輪凛 12月1日より店長を命ずる』
机の引き出しの中、捨てるに捨てられない紙がある。
私をハリマ販売所の店長に任命する通知書だ。
これを受け取ったのは今から五ヶ月前のこと。
冴木が不正を犯し、会社を去ってから一ヶ月後くらいである。
会社のトップが不正を犯したことで、我が稲松文具は大きな混乱にみまわれた。
上の人たちは詳しいことを教えてくれなかったけど、それはいつものこと。
なにか事件が起きる度に箝口令が敷かれるので、現場の社員はただ想像するしかない。
いったい何があったんだろうって。
冴木がこの店にいた頃、まあバカでマヌケで無能でおっちょこちょいで、よくクビにならなもんだと感動すら覚えていたものだ。
だけど社長になると決めて選挙に出た時、こいつに期待してみようかと思った。
どうしようもないボンクラではあるけど、何かを期待してみたくなる素質があったのも事実だから。
そしてあいつは社長になった。
その間、この会社は実に働きやすい職場になった。
ウチは完全実力主義を謳っていて、成果と実力以外は評価の対象にならない。
例えば学歴だとかコネだとか、そういうものでさえ出世とは一切無関係なのだ。
求められるのは結果だけであり、それが行き過ぎて「結果さえ出すなら悪いことしてもいいじゃん」的な輩が上に立つこともあった。
そうなると現場の社員はとにかく息苦しくなる。
時には利用されたり傷つけられたりと、「結果さえ出してりゃ何やっても許されるんかい!」って、会社の看板を蹴っ飛ばしたくなることもあった。
だけど冴木が社長になってからそれは変わった。
アイツは本当に現場のことを大切にしてくれて、みんなが働きやすい環境を実現してくれた。
なんと出世項目に人格まで加えたのである。
そのおかげで周りを思いやる人が上に立つ環境に変わったのだ。
いったいどういう物差しで人格を評価していたのかは分からない。
「下手すると差別になりかねないんじゃ?」って思ったこともあるけど、アイツが社長の頃は一切そういう不満は出なかった。
冴木はみんなから信頼されていた。
よくぞ社長になってくれたと、社長の歌まで作る社員がいたとも聞く。
だからこそショックだった。
あの冴木が不正を犯すだなんて・・・・・。
みんなの信頼は一転して嫌悪に変わった。
やっぱり偉くなると人は変わるもんだなと、あちこちで陰口が絶えなかった。
用事があって本社へ行った時など、冴木の悪口を聴こえないようにするのが難しいほどだった。
みんなから信用されていた冴木でさえ悪さをする。
不正の一件があって以来、上の人たちは大幅な人事の見直しを行った。
もう二度とこんな事件を起こさない為に。
不届き者の洗い出しは、辺鄙なこの店にまで及んだ。
かつてここには楠というオジサン店長がいたのだが、まあ仕事の出来ない人だった。
おまけに極度の怖がりということもあって、客からのクレームを恐れてか事務所に篭っていることも多かった。
そのクセ態度だけは一人前で、コイツが店長じゃいつか店が潰れるんじゃないかと心配だった。
だけどそのポンコツ店長はもういない。
草刈というおっかない重役がこの店にもやって来て、左遷を突きつけていったからだ。
『仕事は出来ない、やろうともしない。おまけに細かいルール違反が山積みになってる。・・・・何しにここへ来てんだお前?』
蛇みたいな鋭い眼光で睨まれて、カエルみたいに竦み上がっていた。
次の日には正式に辞令が出され、今は配送センターの倉庫でバイトの学生たちと一緒に商品の箱詰めをしているはずだ。
使えない店長がいなくなってくれたことは喜ばしいんだけど、一つ問題もあった。
なんとこの店に店長が不在になってしまったのだ。
いくら仕事が出来なかろうが、店長がいなければ責任の所在が明確ではなくなってしまう。
大きなクレームでも入った場合、いったい誰が対応すればいいのか分からないし、上からの命令だって誰が受け取ればいいのかも分からない。
そんな宙ぶらりんな状態が一ヶ月近くも続いた。
『いつになったら新しい店長が来てくれるんでしょうね。』
美樹ちゃんも不安そうに漏らしていた。
そして11月の下旬頃、一通の封筒が届いた。
辞令に関するものだ。
名前は私宛になっていた。
『美樹ちゃん。私もとうとう異動がかかるみたい。』
『ええ〜!嫌ですよ箕輪さんがいなくなるなんて!』
『そりゃ私だってこの店が好きだけどさ、ずっとってわけにはいかないわよ。いつかこういう日が来ると思ってたわ。』
『じゃあ私もついて行きます!』
『子供じゃないんだから・・・・。』
正社員になったのにこういう部分は相変わらずだなと、可愛いような心配なような気持ちになる。
『どれどれ、どこへ飛ばされるんだろう。』
チョキチョキと封を切り、綺麗に折りたたんである真っ白な紙を取り出す。
美樹ちゃんが腕にくっつきながら、ゴクリと息を飲んでいた。
この子、私が異動したら辞めたりしないだろうなと不安になりながら、恐る恐る通知書を拝読した。
『・・・・・・・・・。』
『どこ!どこって書いてあります!?』
『・・・・・・・・・。』
『遠いところ?それとも近く?』
文面を見るのが怖いのか、背中に張り付いて顔を出そうとしない。
『ねえ!箕輪さんってば!』
振り返ると不安いっぱいの目をしながら、グっと口元を噛んでいた。
『ここ。』
『へ?』
『このお店。』
『ここって・・・・ハリマ販売所?』
『うん。』
『でもそれだったらなんで辞令なんか・・・・。』
『変わるのはお店じゃない。肩書き。』
ビシっと通知書を向けると、ビクビクしながら覗き込んでいた。
『箕輪凛・・・・12月1日より・・・・・店長を命ずる!』
ガバっと紙を奪い取って、『店長!』と叫んだ。
『すごいじゃないですか!出世ですよ出世!』
『そうだね。』
『基本給だって上がるし、それに店長手当も付くんでしょ!?』
『そうよ。』
『おめでとう箕輪さん!』
通知書を抱きしめながらピョンピョン飛び跳ねている。
『箕輪さんがこのお店の店長だなんて最高じゃないですか!今まで頑張ってきた甲斐がありましたね!』
美樹ちゃんは自分のことのように喜んでいる。
だけど私は浮かない顔で外を睨んでいた。
『どうしたんですか?』
『んん〜・・・ちょっとね。』
『嬉しくないんですか?店長になれるのに。』
『・・・・そうね、嬉しくないかも。』
『なんで!?』
『上と下の板挟みなんてゴメンだから。』
『そんな・・・・。上の人はともかく、下の人はみんな箕輪さんについて行きますよ!私だってバイトの子だって。』
『そう言ってくれて嬉しいんだけど、どうもね・・・・乗り気になれないっていうか。』
『だからどうして!?』
納得いかない顔で詰め寄る美樹ちゃんに背中を向け、自分のデスクに腰掛ける。
『なんかさ、気が抜けちゃって。』
『気が抜ける?』
『冴木のことがあったから。』
『ああ・・・・・。』
美樹ちゃんも隣に腰掛けながら、憂うようなため息をついた。
『あの人・・・なんで不正なんてしちゃったんでしょうね。』
『さあ?偉くなって変わったんじゃない。』
『でもあの冴木さんですよ!賄賂を受け取ってたって噂だけど、そんな知恵の回る人なのかなって・・・・。』
けっこう酷いことを言う。
顔は可愛いクセに、私より毒を吐く時があるから面白い。
『周りからチヤホヤされて、どこかおかしくなっちゃったんですかね?』
『チヤホヤされて出来るほど甘いもんじゃないでしょ、社長なんて。同族経営の小さな会社とかなら知らないけどさ。』
『じゃあなんで・・・・。』
ショックを受けているのは美樹ちゃんも同じようで、毒を吐きながらも辛そうな顔をしていた。
私は窓の外に目を向けながら、客のいない静かな店内に耳鳴りさえ感じそうだった。
『偉くなるってなんなんだろうね?』
ふと口をついて出た言葉に、なんて青臭いことを言ってるんだろうと恥ずかしくなる。
だけどこれが今一番の悩みだった。
『私の知ってる冴木はさ、少なくとも悪さをするような奴じゃなかった。
役立たずでボンクラで、あまりの無能っぷりにイライラすることもしょっちゅうだったけど、どこか憎めない奴でもあった。
誰かを守る為なら、自分が傷つくことさえ厭わなかったのに。』
『箕輪さん・・・・。』
『私はアイツを信じてた。社長になって、必ずこの会社を良くしてくれるって。その期待通り、みんなが働きやすい会社に変えてくれた。
やっぱりコイツはただのボンクラじゃなかったんだって感心したのに。』
今まで抑えていた愚痴や不満が溢れ出す。
もしも冴木のことをどうでもいい奴だと思っているなら、ここまでショックを受けることはなかっただろう。
だけどそうじゃない。アイツには人から信頼を勝ち取る魅力があった。
だからこそショックなのだ。私も美樹ちゃんも。
『選挙の時みんなで応援してさ、アイツの演説聴いて感動して、この店の全員で投票してさ。社長に決まった時どれほど嬉しかったか。』
『酷いですよね・・・・。みんなの信頼を裏切るなんて。』
『私はこの会社が好きだった。アイツが社長になってからもっと好きになった。でも今は・・・・・。』
美樹ちゃんから通知書を取り、複雑な思いで見つめる。
《冴木のバカ野郎!アンタが悪さなんてしなけりゃ迷わず拝命したのに。》
こんなことなら、あの時応援なんてするんじゃなかった。
役立たずでボンクラのままで、ずっとこの店にいればよかったのだ。
そうすれば悪いことなんて考える暇もないほど、私がコキ使ってやったのに。
だけど過ぎたことはどうにもならなくて、悩むだけ損というものだ。
『やっぱり無理だわ。辞退する。』
『ええええええ!』
美樹ちゃんの悲鳴が響いて、狭い店の中にこだまする。
『辞退って・・・・拒否するってことですよね?』
『そうね。』
『辞令を拒否なんてしたらクビになっちゃいますよ!そんなの絶対にダメです!』
私の手から通知書を奪い、『だったら私がやります!』と叫んだ。
『冴木さんがあんな事になって、その上箕輪さんまでいなくなるんだったら・・・・私が店長をやります!』
冗談ではなく本気で言っているようで、思わず『ぶ!』と笑ってしまった。
『何がおかしいんですか!私は嘘で言ってるわけじゃないですよ。』
『ごめん、そういう意味じゃなくてさ。』
ポンポンと頭を撫でて、『平気だよ』と言った。
『この会社は出世を目指して頑張ってる人ばかりだからさ。昇進を拒否したって他の誰かが手を挙げるだけだから。クビになんかなんないよ。』
『ホントですか・・・・?』
『店舗移動とかだったらなるかもしんないけど、昇進を蹴ったところで誰も困らないもん。』
不安そうにする美樹ちゃんに『平気平気』と宥めつつ、内心では《大丈夫かな・・・・・》と強張っていた。
その日、家に帰ってから死ぬほど悩んだ。
やっぱり拒否はまずいんじゃないか?
グチグチ言ってないで拝命した方がいいんじゃないか?
夜遅くまで悩んで、次の日には眠たい目をこすりながら仕事をするは羽目になってしまった。
そしてその日の夜も悩みに悩み、翌日の朝一番に本社の人事課へと出向いた。
ウチの店から近いのでこういう時は助かる。
けどその分本社の人が来てあれこれ言われることも多いけど。
『お忙しいところをすみません。少しお話があるんですが・・・・、』
昇進を辞退したい旨を伝えると、素っ気ない声で『あっそ』とだけ言われた。
『あの・・・・辞令を拒否するわけですから、なにか処罰とかは・・・・、』
恐る恐る尋ねると、これまた素っ気ない声で『なんで?』と逆質問された。
『ええっと・・・そりゃやっぱり人事の命令を拒否するわけですから・・・、』
『出世したい奴なんていっぱいいるよ。君がやらないなら他の奴が手を挙げるだけだ。』
『・・・・ですよね。』
まんま想像していた通りの答えに拍子抜けしてしまう。
もちろんホッとしたけどさ・・・・。
ハリマ販売所へ戻り、美樹ちゃんにこの事を伝えると『ええ!もったいない〜』と嘆かれた。
『一度断ったら二度とチャンスないですよ!』
『だろうね。』
『箕輪さんはそれでいいんですか?今までこんなに頑張ってきたのに。』
『頑張るっていうか、美樹ちゃんが来るまでは他が使い物にならないから頑張らざるをえなかっただけよ。出世を望んでたわけじゃないから。』
『だけど・・・・、』
『いいのいいのこれで。』
ポンポンと頭を撫でてから、《いいのよねこれで・・・》とちょっとばかし後悔する。
それから数日後、12月1日の朝に新たな店長がやって来た。
名前は進藤歩。
今年の始めまで中学生だった15歳だ。
学歴が出世と関係ないこの会社では、中卒で入社してくる子も珍しくない。
中には常務にまで出世した人もいたほどだ。
『ども。進藤っていいます。』
年相応の幼い喋りで挨拶をした。
私と美樹ちゃんは『よろしくお願いします』と挨拶を返した。
『箕輪凛といいます。』
『栗川美樹です。』
『今日はバイトの子たちは休みなんで、私たち二人だけで・・・・、』
『あ、敬語じゃなくていいっすよ。』
『え?』
『俺って堅苦しいの苦手なんすよ。』
『でも店長なわけですし・・・・、』
『店長ってのもやめて下さい。進藤でいいっすから。』
『はあ・・・・。』
『じゃあそういうことでよろしくっす。』
軽い感じで会釈して事務所へ消えていく。
私は美樹ちゃんと顔を見合わせ、首を振った。
『箕輪さん・・・なんで15歳の子が店長なんですか?』
『入社試験の成績が良かったんだって。歴代一位らしいわよ。』
『すご!』
『それに研修でも飛び抜けて優秀だったって。』
『そんなに優秀なら本社へ配属すればいいのに。』
『本人が希望したらしいよ。ここがいいって。』
『こんな小さなお店を?どうして?』
『さあ?変わり者なんじゃない。』
『なるほど。ここって変わった人ばっかり集まりますもんね。冴木さんとか前の店長とか。』
『ついでに私と美樹ちゃんもね。』
『え?私も!』
心外だという風に驚いているのが可笑しくて、思わず笑ってしまった。
この日からハリマ販売所は新たな体制で臨むことになった。
15歳の店長、進藤歩。
若いというよりまだ子供の彼だったが、噂に違わぬほどの実力者だった。
一日と経たずに仕事を覚えてしまい、翌日からは積極的に赤字解消に乗り出した。
商品の見直し、作業の効率化、無駄な値引きの廃止、赤字覚悟の死に筋在庫の処分。
それに接客の腕前も見事なもので、マニュアルを自作してみんなに配ってくれた。
『分かんないことがあったらなんでも聞いてくれていいっすから。』
特別にイケメンってわけじゃないけど、笑うとなんとも可愛らしい笑顔もお客さんに好評だった。
『箕輪さん、すごい人が来ましたね!』
『ここへ配属されてたった一ヶ月なのに・・・・間違いなく今月は黒字ね。』
『ああいう人を天才っていうんでしょうね。』
『何年後かには取締役になってたりして。』
ハリマ販売所がオープンしてから、ここまで優秀な人が来たのは初めてだろう。
今までは役立たずのポンコツどもに足を引っ張らていたから、素直に嬉しくて嬉しくて。
だけどここまで優秀だと、ハリマ販売所にいるのは長くないだろう。
実力主義のこの会社なら、一年と経たずに大出世するはずだ。
でもそうなると、次は間違いなく使い物にならない店長が飛ばされてくる。
ある意味そういう理由で存在している店でもあるから。
ちなみに私と美樹ちゃんは違う。
元々がここから始まっているので、冴木や前店長のようなポンコツってわけじゃあない。
《またしょうもない店長が来るくらいなら、いっそのこと私がやった方がよかったかな・・・・。》
今になって後悔が膨らむ。
でも自分から辞退したんだから、今後二度と出世のお知らせは来ないだろう。
そう思うとちょっとだけ進藤君に嫉妬が湧いてきた。
もちろん私が悪いのは分かっている。完全な自業自得だって。
それに彼のおかげでこの店は大繁盛で、ちょっとだけみんなの給料も上がったのだ。
だから嫉妬できる筋合いはないんだけど・・・・。
《馬鹿だな私。なんで素直に受けなかったんだろ。》
引き出しの中にしまいこんだ昇進の通知書、こんな物をまだとっている時点で未練タラタラなのだ。
あの時どうして私は断ってしまったのか?
どうして素直に喜ばなかったのか?
後悔は膨らむばかりでうんざりする。
・・・・多分、それはこの男のせいだ。
「おはようございます!」
馬鹿みたいに大きな挨拶をして、「どうも!どうも!」とバイトの子にまで頭を下げている。
冴木晴香・・・・こいつが不正なんてしなかったら、私の心に迷いもなかった。
それなのに何食わぬ顔で戻ってきて、ここ数日は事務所で偉いさんたちとコソコソ話をしている。
北川部長補佐、伊礼課長、このメンバーで集まってまともな話をしているわけがないのだ。
きっとまた私の知らないところで大きな事件が動き出しているに違いない。
そしてこっちのことなんてお構いなしに巻き込んで、不安と心配だけをバラ撒くに決まっている。
以前なら『コラ冴木!』とチョップの一発でもかましたところだが、さすがに前社長にそれをやるのは気が引けてしまう。
だから直接尋ねてやることにした。
今度はいったい何をやらかそうとしているのか。
幸いまだ北川部長補佐と伊礼課長は来ていない。
これならあのボンクラと二人だけで話が出来る。
奴が事務所へ入っていくのを見計らい、サッと椅子から立ち上がった。
「ごめん美樹ちゃん。ちょっと事務所に篭るから。」
「え?あ・・・はい。」
きっと私の顔が強張っていたのだろう。
美樹ちゃんは怯えた様子で「怖・・・」と引いていた。
ドアの前に仁王立ちして、コンコンとノックする。
「箕輪です。ちょっと入っていい?」
「え?いや、今はちょっと・・・・、」
なぜか動揺している。
やっぱり良からぬことが起きているのだ。
また会社の乗っ取りだろうか?
だとしたら私だって知る権利がある。
裏で恐ろしいことが起きているのに、何も知らずに不安だけ抱えて仕事なんか出来るかってんだ。
「入ります。」
「いや!ちょっとタンマ・・・・、」
なんか焦ってるようだけど、無視してドアを開ける。
「あのさ、ちょっと話したいことがあるんだけど・・・・、」
そう言いかけて固まった。
「いや、あの・・・・、」
焦る冴木。
サッと後ろに手を回しながら、苦笑いで後ずさる。
「あ、あのですね・・・これはなんというか・・・・、」
「アンタ・・・何持ってんの?」
「いや!だからこれは・・・・、」
「まさか本物じゃないよね、それ。」
冴木は何も答えずに首を振る。
テーブルの上には鉛色をした小さな細長い物が転がっていて、まさかとは思いつつ触れてみる。
「ダメですそれは!」
サッと奪い取って、「これは危ないから」と後ろに隠した。
「それ、やっぱり本物なのね?」
「ち、違うんですよ!これはただのオモチャで、その・・・・今度サバゲーでもしようかなって・・・・、」
「ウソ!さっきの本物なんでしょ?」
ガシっと腕を掴み、後ろに隠している物を引っ張りだす。
そいつはメタリックな銀色に輝いていて、手を握る部分だけが茶色い木で覆われていた。
「拳銃・・・・これ本物なんでしょ?」
「・・・・違います。」
「顔に出てる。」
「ああ!またしても!」
今更慌てても遅い。
この馬鹿は事務所にこんな物騒なモンを持ち込んでいやがった。
ていうかなんで拳銃なんてモンを持ってるのか。
「あんた・・・今度は何に首を突っ込んでるの?」
「え?」
「惚けるな!」
バシンとテーブルを叩くと、「ひえ!」と怯えた。
「どうせまた危ないことに首突っ込んでんでしょ!」
「え、え〜と・・・・伊礼さんから口止めされていまして・・・・、」
「やっぱりか。」
「下手にみんなに知られると、かえって危険というかですね・・・・。」
「あんたさ、正社員として戻って来たわけじゃないんでしょ?」
「え?」
「だってなんにも聞いてないもん。アンタが戻って来るなんて。」
「うう、それは・・・・、」
「当ててやろうか?ここへ戻って来た理由。」
狼狽える冴木に向かって指を突きつける。
まるで私の指がナイフであるかみたいに、引きつった顔で仰け反った。
「あんたがここへ戻ってきたのはスパイとしてでしょ。」
「・・・・違います。」
「だから顔に出てんのよ!」
思わずチョップが出てしまう。
久々なので加減が難しくて、思いっきり鼻面に叩きつけてしまった。
「ぐほッ!」
「あ、ごめん・・・・。」
鼻面を押さえながら倒れていく。
さすがに悪いと思って「大丈夫?」と膝をつくと、「平気です・・・」と立ち上がった。
「ていうか懐かしいなあ・・・箕輪さんの強烈なツッコミ。」
「なんで喜んでんのよ。」
呆れて首を振ると、ふと恐ろしい物が目に入った。
「ちょっと!銃口を向けないでよ!」
「え?あ、すいません!」
慌てて銃を隠そうとするが、次の瞬間パアン!と乾いた音が響いた。
銃口から火が吹き、私の髪が弾かれる。
恐る恐る後ろを振り向くと、壁に穴が空いていた。
「・・・・・・・。」
「す、すいません!わざとじゃないんです!」
ペコペコ必死に謝っている。
私は表情を消して睨みつけた。
「ねえ冴木・・・・、」
「はい!」
「やっぱりアンタがいるとさ・・・・、」
ガシっと顎を掴み、手を振り上げる。
「いっつもロクな目に遭わないのよ!」
「ぎゃふぅ!」
今度は本気でチョップを見舞う。
このどうしようもないボンクラは、鼻面を押さえながら「痛い!でも懐かしい」と笑っていた。

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