稲松文具店〜燃える平社員と動物探偵〜 第九話 大事な畑(1)

  • 2018.08.21 Tuesday
  • 10:52

JUGEMテーマ:自作小説

お天気の良い日、青空を眺めながら自転車を漕ぐ。
お店に着くと箕輪さんが「おはよう美樹ちゃん」と言った。
「おはようございます。」
今日は遅番、事務所に入ると時計はお昼前を指していて、その隣にあるカレンダーに目をやった。
あと十日ほどで四月も終わる。
今年はお花見に行けなくてちょっと残念だった。
土日祝日もお店を開けることになったから休みが減っちゃったし、優秀な店長が来たからお客さんも増えて忙しくなった。
桜を見たのは家からお店に向かう途中の土手だけで、お花見をしている人たちが羨ましかった。
でも良いこともあった。
私は今までバイトの掛け持ちをしていたんだけど、もうその必要がなくなったから。
こがねの湯ってところで週一でやってたんだけど、先月いっぱいで退社した。
仕事の掛け持ちってすごく疲れるから、どっちかっていうと稲松文具で出勤日が増えた方が楽だ。
ちなみにどうして仕事を掛け持ちしてたかっていうと、お金がいるからだ。
別に結婚するとかじゃない。
彼氏らしき人はいるけど、まだまだ遊んだりしたいから、もっと先でもいいかなと思ってる。
箕輪さんには『出来るうちにしといた方がいいよ』と釘を刺されちゃったけど。
『若いうちなんてあっという間だから』なんて言う箕輪さんだって、まだまだ若いのに。
私の五つ上だから、まだ27のはずだ。
30を超えると厳しくなるっていうのはよく聞くけど、箕輪さんが言うには20代の後半くらいからちょっとずつ変わってくるらしい。
21とか22の時と比べると、明らかにモテにくくなったって言ってたから。
でもその割にはちゃんと彼氏を作ってるし、あれだけしっかりした人なら結婚したってきっと上手くいくはずだ。
ああ・・・でもどうなんだろう。
男の人ってしっかりし過ぎた女性は敬遠するっていうし、でもベタベタ甘えた女の子は嫌だっていう人もいるし。
人によって好みは違うんだろうけど、私の知る限りじゃ、素の状態を見せた方が男の人は傷つくんじゃないかと思ってる。
エッチなビデオをそのまま信じる人もいるっていうくらいだから、きっと間違いなく女性に幻想を抱いているはずだ。
それを分かってるから、しっかり者に見せたり甘えて見せたりしてるんだけど、それはそれで嫌だっていうなら、なんてワガママなんだろうって時々思う。
じゃあ女はどうすりゃいいのさ!って。
「どうしたの?ボーっとして。」
いつの間にか後ろに箕輪さんがいた。
「男の人ってワガママだなあと思って。」
「なにそれ?」
可笑しそうに笑いながらお弁当を取り出している。
そういえばここ何日かは外へ行っていたのに、またお弁当に戻したみたいだ。
やっぱり冴木さんたちがお店に来ていたからだろう。
一昨日に箕輪さんがすごく怒って、それ以来みんなここには来ていない。
あの時なんで怒ってたのか聞いても全然教えてくれなくて、ちょっともどかしい気分だった。
でも箕輪さんが何も教えてくれないってことは、知らない方がいいってことなんだろう。
だってあのメンツで集まってまともな話をしてるわけがないから。
きっとまた裏でスパイとか乗っ取りとかコソコソやってるんだと思う。
そのせいで私も危ない目に遭ったことがあるから、ちょっとだけトラウマだったりする。
でもやっぱり何をやってたのか気になるけど。
「あの日ってすごい音がしましたよね。鉄砲を撃ったみたいにパアン!って。」
「冴木のバカが爆竹なんて持ち込んでたからね。こんなとこで遊ぶなっての。」
「ほんと子供ですね、冴木さん。」
私はクスっと肩をすくめる。そして壁に空いた穴を振り返った。
けっこう深く空いてるみたいで、本当に鉄砲でも撃ったんじゃないかと疑ってる。まさかとは思うけど。
ロッカーに荷物を置いてから、洗面台の鏡で髪を直す。
「そういえば美樹ちゃんさ・・・、」
「はい?」
髪を結いながら振り返ると、「掛け持ちのバイト辞めたんだってね」と言った。
「そうなんですよ。こっちの出勤日が多くなっちゃったから。その分稼げるしもういいかなって。」
「そっか。で・・・・お金は貯まったの?」
「もうちょっとてところです。」
ニコっと返すと、「でもアンタも物好きよね」と笑われた。
「なんで畑なんか飼うわけ?」
「前にも言ったじゃないですか。あの畑は私の大事な思い出なんです。」
「おじいちゃんとおばあちゃんが大事にしてたから?」
「今でも覚えてるんですよ。夏休みになるとお弁当やお茶を届けに行ったこと。」
子供の頃を思い出す。
まだ幼稚園くらいの頃を。
あの時はおじいちゃんもおばあちゃんも元気で、家の隣にある畑で野菜を作ったりしていた。
お昼どきになると、私はお母さんの作ったお弁当と水筒を持って畑に行くのだ。
そして三人で古い井戸の上に座ってお弁当を食べた。
畑には色んな野菜があって、スイカも育てていた。
だからお弁当と一緒にスイカもよく食べた。
全然冷えてないから温いんだけど、それでもすごく美味しくて、丸々一個食べようとしてお腹を壊したこともある。
今となっては良い思い出だ。
だけどおじいちゃんもおばあちゃんももういない。
先におばあちゃんが亡くなって、その一年後におじいちゃんが亡くなった。
二人とも亡くなる何年か前から足の調子が悪かったから、畑を耕すこともなくなった。
だから草がボーボーに茂って、綺麗に手入れしていた頃の面影はもうどこにもない。
それでも畑を見る度に優しかったおじいちゃんとおばあちゃんを思い出す。
私には兄弟がいないから、親が忙しい時はよく遊んでもらった。
どこかへ連れて行ってもらったこともあるし、どんな悩みでも聞いてくれたし。
欲しいオモチャがある時はこっそりお小遣いもくれた。
あとでお母さんに『こんなのいつ買ったの!』と怒られても、優しく私を庇ってくれた。
だから亡くなった時はすごく悲しくて、しばらく畑を見るのが辛かった。
だけど今は違う。
あの畑は私にとって宝物みたいなもので、二人はまだ井戸の上に座って私を待っているような気がする。
お弁当を届けに行ったらそこにいるんじゃないかって。
だけどその畑が今ピンチなのだ!
お父さんもお母さんもあの畑を無くしてしまうつもりでいる。
なんでも固定資産税というのがかかるらしくて、土地をほったらかしにしとくと余計にお金を払わないといけないんだって言っていた。
それなら畑なんて潰して、誰かに貸した方が得だって。
私は猛反対したけど、じゃあ誰がお金を払うんだって逆に怒られてしまった。
『私が払う!』
思わずそう叫んでいて、次の日から副業を探していた。
家から少し離れた所に「こがねの湯」ってスーパー銭湯があって、週一だけどそこでアルバイトを始めたのだ。
友達と遊びに行くのもちょっとだけ減らし、彼氏らしき人とのデートもちょっとだけ減らし、コツコツお金を貯める毎日が始まった。
親からは期限は二年と言われている。
すでに一年ちょっと経ってしまったけど、この分ならあと少しで目標額まで行きそうだった。
これが都会の土地ならとんでもない金額になるんだろうけど、あいにくここは山と田んぼが多い田舎だから、そう高くはない。
それに家族だからってことでけっこう安くしてもらえたし。
だけど自分の土地になったら、次からは私が税金を払わないといけなくなる。
はっきり言ってそっちの方が大変かもしれない。
だから私はこう考えてる。
あの畑を復活させて、近所の人に使ってもらおうって。
ただの空き地よりも、誰かが使う畑にした方が税金は安くなる。
それに畑の使用料を取ることで、払う税金の足しにも出来るし。
《誰が駐車場になんかさせるもんか!》
ビシっと髪を直して、今日も精一杯働くぞとお店に出る。
出勤してから一時間後、箕輪さんが休憩から戻ってきて、代わりにバイトの子がお昼へ行った。
箕輪さんと二人きりになった私は、もう一度この前のことを尋ねてみた。
「ねえ箕輪さん・・・・、」
「ダメ。」
「まだ何も言ってないのに。」
「冴木たちが何をしようとしてるのか知りたいんでしょ?」
どうやら雰囲気で察知されてしまったみたいだ。
でもへこたれずに「知りたいんです」と迫った。
「また大きな事件が動き出してるんですか?」
「さあね。」
「じゃないとあのメンバーで集まってコソコソ話したりしませんよね?」
「迷惑よねほんとに。私たちの関係ないところでやってほしいわ。」
「やっぱり何かあるんですね?」
「アンタが知らなくてもいいことよ。」
「そうですけど・・・・、」
私は気になっていた。
この前やって来た玉木さんって人が。
進藤君の知り合いらいしけど、彼に聞いても詳しく教えてくれなかった。
『心配しなくても悪い人じゃないっすから。』
そんな言い方をされたら逆に気になってしまう。
でも彼は今日お休みで、誰に質問をすることも出来ない。
モヤモヤした気持ちを抱えながら仕事をこなしていくしなかった。
・・・それから数時間後、早番の箕輪さんが上がる時間がやって来た。
五時を指す時計を見て、「ああ〜終わった」と背伸びをしている。
「今日は比較的ヒマだったわね。」
「ですね。進藤君がいないせいかも。」
「彼目当てのお客さんも多いからね。異動になったら一気にお客さんが減るかも。」
「また赤字店に戻っちゃいますね。だって彼みたいな優秀な人が来るとは思えないから。」
私は頬杖を付きながら、「こんなことなら箕輪さんに店長をやってほしかったなあ」と呟いた。
「進藤君はすごく良い子だけど、すぐに異動するって分かってたし。またしょうもない店長が来るくらいなら、絶対に箕輪さんの方がいいですよ。」
そう言って「でも本人さんが決めたことなら仕方ないけど」と俯いた。
「こういうのは自分が決めることですもんね、もしまたポンコツみたいな店長が来ても、二人でお店を守っていきましょうね!」
拳を握って頷きかける。
すると箕輪さんは「ええっと、そのことなんだけど・・・」と口ごもった。
「実はね・・・、」
「はい。」
「次の店長、もう決まってるのよね。」
「そうなんですか!」
思わず身を乗り出し、「だれだれ!?」と問い詰める。
「進藤君みたいな優秀な人?それとも前の店長みたいにポンコツな人?」
「私。」
「へ?」
「来月から私が店長やるの。」
「・・・・・・・。」
思いもしない答えに固まってしまう。
「あ、いいねその顔。面白い。」
パシャっとスマホで撮っている。
私は呪いから解き放たれたみたいに「箕輪さん!」と叫んでいた。
「なんで!だって断ったんじゃないんですか?」
「そうよ、だから進藤君が来たんじゃない。」
「でもでも!じゃあなんで次は箕輪さんなんですか?昇進なんて一度断ったらもう無理なんじゃ・・・・、」
「誰もやりたがらなかったんだって。」
「へ?」
「この店の店長。」
箕輪さんは頭の後ろで腕を組みながら天井を見上げる。椅子の背もたれがギイっと鳴った。
「実は昨日本社の人事課に行ってきたの。」
「はい・・・。」
「無理だろなとは思ったんだけど、やっぱり店長やらせてもらえませんかって頼んだのよ。そうしたらあっさりOkだった。」
「ウソ!一度断ったのに?」
「ねえ、私もビックリだよ。どうお願いしようかって夜遅くまで考えてたのに。けど理由を聞いて納得した。」
「なになに!?」
ズイっと顔を近づけると、「近いってば」と押し戻された。
「さっきも言ったけど誰もやりたがらないのよ。なんでかっていうと、今までの大きな事件は常にこの店が関わってるから。」
「ああ・・・・たしかに。」
「冴木、私、美樹ちゃん、部長補佐・・・あの頃は課長だったけど。それに他にもこの店に関わりのある人がいた。
そのせいで疫病神が集まる場所だって思われてるみたいでね。敬遠されてんのよ。」
「そっかあ・・・」と納得してしまう。
確かにこの店はいつもトラブルだらけだった。
ここ最近は何も起こらないから安心してたけど、これからはどうだろう?
「冴木さんたちがまた動き出してますもんね。今ここの店長になっちゃったら大変かも。」
「だから私がやるの。だってこのまま新しい店長が来なかったら困るでしょ。」
ギシっと椅子から立ち上がって、「奴らの好きにさせるもんか」と、ちょっと怒った感じで呟いた。
「スパイでも事件でもやりたいならやればいい。ただし私たちの関係ないところでね。」
そう言い残して事務所へ消えていく。
それから一分もしないうちに出てきて、バイトの子に「休憩行ってきなよ」と言った。
店には私と箕輪さん二人だけになって、「はいこれ」と渡された。
「なんですかコレ?」
「スタンガン。」
「スタンガンって・・・あのバチバチってなるやつ?」
「昨日街まで行って買ったのよ。」
「ええ!いらないですよこんなの!」
「でも何があるか分からないじゃない。備えあれば憂いなしって言うでしょ。」
「そうかもしれないけど・・・・。」
「スタッフの人数分買ってあるから。それは美樹ちゃんのやつね。あと予備として事務所に一個置いてるから。ロッカーの横の三番目の棚に。」
「・・・・・・・・・。」
いったいこれからどんな危ない事が起きるっていうんだろう・・・・。
思ってたよりも大事になるかもしれない。
ていうか電気がバチバチする物なんて持ちたくない。
想像してたよりも小さくて持ちやすいけど、だからってこんなの・・・・、
「ここのスイッチを押したら電気が走るから。あとは相手に押し付けるだけ。」
「・・・・・・・。」
「そんな顔しないで。もし強盗とかが入って来た時にも役に立つし。」
ポンポンと頭を撫でてくる。
私はスイッチを入れてバチバチっと鳴らしてみた。
「ちょっと!いきなり点けないでよ!」
「ねえ箕輪さん。」
スタンガン置いて立ち上がる。
背の低い私は見上げるように箕輪さんに向き合った。
「やっぱり危ない事が起きてるんですね?」
「違うわよ、もし万が一の時に備えてって意味だから。」
「じゃあどうして一度断った店長をやるんですか?」
「そ、それは・・・やっぱり給料が上がった方が嬉しいなって思ったから。」
手を組んで可愛らしく微笑む。だけどその顔は明らかに動揺していた。
「このお店がまた危険な事に巻き込まれるんでしょ?それを守る為に店長になったんでしょ?」
「ち、違うわよ!そうならない為にあいつらを追い出したんだから。」
笑顔でそう言うけど、どこか無理してるように見える。
私はスタンガンを手に持って、「こんなのじゃ・・・」と呟いた。
「もしまた大きな事件が起きたら、こんなのじゃどうしょうもないと思います。」
「で、でも・・・何もないよりはマシでしょ?」
「・・・・鉄砲。」
「え?」
「この前のパアン!って音、あれやっぱり鉄砲なんでしょ?」
「だから違うって!あれは冴木のバカが爆竹を・・・・、」
「でも壁に穴が空いてたじゃないですか。」
「あれも冴木のせいよ。事務所の傘を振り回して刺さっちゃったの。いい歳こいてなんとか戦隊のマネしててさ。どんだけ子供なんだって笑うっちゃうよね。」
可笑しそうに言うけど、私は真面目な顔で睨んでいた。
「本当のこと言って下さい。」
「言ってるわよ。」
「目が泳いでますよ?」
「最近寝不足だったから・・・・、」
「今月で一人バイトが辞めるけど、どうしてか知ってますか?」
「どうしてって・・・・就職の為でしょ?どっかの会社に決まったっていうから・・・、」
「違います。怖がってたんです。」
「怖い?」
「そうです。冴木さんが戻って来てから、偉い人たちが集まってコソコソ話してましたよね。
あれを見て怖がってたんです。だってウチの会社は二回も大きな事件があったから。バイトの子たちも噂で知ってたんですよ。」
「だからってここで何か起きるわけじゃないんだから。別に怖がる必要なんて・・・・、」
「私が言ったんです。また大きな事件が起きるかもしれないって。その時にこのお店も巻き込まれるかもって。」
箕輪さんの顔から笑顔が消える。
見る見るうちに曇っていって、「アンタが・・・?」と言った。
「なんでそんな脅すようなことを・・・・、」
「だってもし何かあったら私たちだけで守れないから。」
「そ、そんなことないわよ!冴木たちはもう追い出したんだし、私だって店長になるんだし・・・・、」
「戻って来ますよ。」
「え?」
「冴木さんはまた絶対にここへ戻って来ます。」
「・・・なんで言い切れるのよ?」
不安そうにそっぽを向く。
私は知っている。箕輪さんはすごく怖がってることを。
気が強そうに見えるけど、ほんとは私よりも繊細な人なのだ。
だったらこのままじゃいけない。
私たちだけじゃ・・・・。
「ここは冴木さんの畑なんです。」
「畑?」
何を言ってるんだみたいな目で振り向く。
「私と一緒ですよ。大事な場所があって、それを守りたいんです。」
「まさか。あいつは社長にまでなったのよ。こんなちっぽけな店が大事なわけないじゃない。」
「そんなことないです。だって冴木さんは半年も離れていたのに、最初に戻って来たのはここだから。」
「伊礼さんか部長補佐に呼ばれたんでしょ。自分から来たわけないじゃない。」
「でもでも!今までだってずっと私たちを守ってくれたじゃないですか。
私が悪い人に捕まった時だって助けに来てくれた。箕輪さんだってそうでしょ?悪い人に監禁されてた時に冴木さんが来てくれたんでしょ?」
「・・・・そうよ。でも元はといえばアイツが悪いのよ。アイツがスパイなんてしてたから私たちまで・・・・、」
「私は逆だと思う。冴木さんがいたから助かったんだって。」
「・・・・・・・・。」
「箕輪さんだって分かってるはずでしょ?冴木さんはいつだって周りのことが一番なんです。
社長になったのだってそう。みんなが安心して働ける職場にしたいからって。
だから私たちだって応援したんじゃないですか。」
「でも最後は悪い事して追い出されたじゃない。」
眉間に皺を寄せて、イライラした顔で言い返してくる。
でも今日の私は怯んだりしない。
だって私たちだけじゃ無理なんだ。
きっともう大きな事件が動き出していて、その危険から身を守るには私たちだけじゃ・・・・。
「私は冴木さんを信じます。」
「やめときなって。あんなポンコツなんか。」
「不正の件だって絶対に何か理由があるんですよ。そうじゃなきゃあの冴木さんが悪い事するなんて考えられない。」
「偉くなって変わったのよ。人間なんてそんなもんよ。」
「普通の人ならそうかもしれません。だけど冴木さんは普通じゃない。箕輪さんも・・・・ううん、箕輪さんの方がよく知ってるはずです。」
この人は私よりも冴木さんと付き合いが長い。
だからきっとショックを受けてるんだ。
私よりも冴木さんのことを信じていたのに、不正なんてしてたから。
だけどそれでも私は信じたい。
ここは私の第二の畑みたいなもので、いつの間にかすごく大事な居場所になってしまったから。
「教えて下さい。今なにが起きてるんですか?」
スタンガンを握り締めたまま詰め寄る。
こんなの買ってくるなんて絶対に普通じゃない。
だったら隠し事をされた方が不安になるっていうもので、私はともかくバイトの子はもうすでに・・・・、
「あの・・・・、」
事務所のドアから顔だけ出している。
こっそりと様子を伺っていたんだろう。
「あの・・・・今日体調が悪いんで早退していいですか?」
箕輪さんはキっと睨んで、「あと二時間くらいなんだから我慢しな」と言った。
「アンタが帰ったら美樹ちゃん一人になっちゃ・・・・、」
「いいよ帰っても。」
そう言うと慌てて帰り支度をしていた。
そしてお疲れ様も言わずにお店を飛び出していく。
「あ、ちょっと・・・・、」
「いいんです。帰してあげましょ。」
追いかけようとする箕輪さんを引き止めながら、スクーターに乗ろうとしているバイト君に手を振る。
「おつかれさま。」
ニコっと手を振ると、それも無視してあっという間に遠くへ消えてしまった。
箕輪さんは呆然とした目でそれを見ている。
私は心の中で呟いた。明日からもう来ないだろうなって。
進藤君が異動しちゃったら、この店は私と箕輪さん二人だけになってしまう。
そうなったら人手が足りないわけで、だったらやっぱり冴木さんに戻って来てもらうしかない。
「冴木さんはきっと戻って来ます。だから一緒にこのお店を守りましょ。だってここは箕輪さんにとっての畑でもあるんだから。」
ツンツンと袖を引っ張るけど、立ち尽くしたまま振り向こうとしない。
二人並んだまま、陽が落ちていく空を見つめていた。

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