稲松文具店〜燃える平社員と動物探偵〜 第十話 大事な畑(2)

  • 2018.08.22 Wednesday
  • 11:43

JUGEMテーマ:自作小説

「どもっす。」
進藤君が開店ギリギリにやって来る。
それはいつものことなんだけど、いつもと違うお店の様子に「あれ?」と首を傾げていた。
「今日って箕輪さん出勤でしたっけ?」
いるはずのバイトの子がいなくて、代わりに箕輪さんがいることを不思議がっている。
だから私は説明してあげた。
昨日の夜に一人辞めますって電話があって、もう一人は連絡が繋がらないって。
「マジっすか?」
「マジっす。」
「バックレかよ。キツいなあ〜!」
困った顔で頭を掻いている。
「これじゃ俺が異動したら人がいないじゃないっすか。」
「そうなんです、足りないんです。」
「マジっすかあ。」
ブツブツ言いながら事務所に消えていく。
箕輪さんは全然会話に入ってこなくて、無言のまま仕事をしていた。
朝から何も喋ってくれなくて、挨拶しても知らん顔だった。
《怒ってるよね絶対・・・・。》
すごく気まずい。
だけどこれでよかったのだ。
だってさすがにバイトの子たちまで巻き込んだら可哀想だから。
進藤君が事務所から出てきて、「すぐに新しいバイト取らないとヤバいっすね」と言った。
「俺はいなくなるからいいけど、二人は困るっしょ?」
「はい困ります。すぐに新しい人を寄越してほしいんです。」
「とりあえずバイトが決まるまでは他の店から応援に来てもらうしかないっすね。
あとで伊礼さんに言っときますよ。誰か人を寄越してくれって。」
「お願いします。出来れば冴木さんで。」
「え?あのオジサン?」
ポカンと口を開けている。
だってあれ、仕事出来ない感じの人っしょ?って顔に書いてあった。
「そうなんです。多分役に立たないと思うけど、今は必要だから。」
「いない方がマシじゃないっすか、あれ。」
「そんなことないですよ。冴木さんはずっとこのお店にいて、みんなを守ってくれたこともあるんです。頼りにならないけど頼りになるっていうか。」
「いざとなったら眠った力を発揮するみたいな?」
「そうそう!そんな感じ。」
「んな漫画の主人公じゃあるまいし。」
「・・・無理ですか?進藤君なら伊礼さんにお願いできると思ったんだけど。」
「ていうかあの人って悪いことしてクビになったんでしょ?いくら伊礼さんでも・・・・、」
「出来るよ。」
急に箕輪さんが入ってくる。
モップ片手にやって来て、「バイトでいいなら戻せるってさ」と言った。
「それ伊礼さんが言ってたんすか?」
「そう。その代わり永遠にバイトのまんまだけど。」
「いやあ・・・普通に新しい人を雇った方が無難じゃないっすか。」
「私もそう思う。けどこの子はそうじゃないみたいでさ。」
ギロっと私を睨むので、怖!と思って目を逸らした。
「なんか冴木にご執心みたいで。」
「え?栗川さんってああいうのがタイプなんすか?」
「ち、違いますよ!お金もらったって冴木さんとなんか付き合いたくありません!」
絶対に嫌だ。
私が冴木さんを信用してるのは、あくまで仕事の仲間としてだけなんだから。
「思いっきり否定しましたね。」
可笑しそうに笑う進藤君に、「真面目に話してるんです」と返した。
「詳しいことは言えないけど、もしかしたら大変なことになるかもしれないんです。」
「なんすかそれ?俺が休みの日に特大クレームでもあったんすか?」
「そうじゃないけど・・・・でもきっと大変なことになるんです。」
そう言って今度は私から箕輪さんを睨んでやる。
するとバツの悪そうな顔でそっぽを向いた。
「このままこのお店にいたら進藤君もピンチになるかも。」
「ええ・・・んなヤバいクレームなんですか?」
「だからクレームじゃないってば!とにかく冴木さんを戻してほしいんです。永遠にバイトでもいいからお願いします!」
ペコっと頭を下げると、「まあいいっすけど・・・」と渋々って感じで頷いてくれた。
「でもアレっすよ。俺が出来るのは伊礼さんに頼むことだけっすから。」
「それで充分!だってバイトのままなら戻せるんでしょ?」
箕輪さんを振り返ると、「らしいわよ」と不満そうだ。
「じゃあこれで人手が足りますね!」
「ふん!足引っ張られて余計忙しくなるっての。」
クルっと背中を向けて、イライラオーラを放ちながらモップ掛けをしている。
でも内心は絶対に喜んでるはずだ。
《箕輪さんも素直じゃないからなあ。》
箕輪さんだってほんとは冴木さんに戻って来てほしいのだ。
でもあれやこれやと色んなことを考えすぎて、素直になれないんだと思う。
お店のこととか、冴木さんが不正をしていたこととか。
「じゃあ進藤君、冴木さんのことお願いね。」
「了解っす。」
「あ、それと・・・・、」
「まだなんかあるんすか?」
「うん、こないだの玉木さんって人のことなんだけど・・・・。」
ボソボソっと話しかけたのに、箕輪さんの耳にも届いてしまったみたいだ。
背中を向けてはいるけど、こっちに耳を立てているのがバレバレだった。
《やっぱり気にしてる。》
箕輪さんがこのお店や私を守ろうとしているように、私だってお店と箕輪さんを守りたい。
だからこそ冴木さんが必要だし、今なにが起きてるのか知らないといけない。
「あの玉木さんっていう人、進藤君の知り合いなんでしょ?どういう人か教えてよ。」
そう尋ねると、この前と同じように「ただの知り合いっすよ」と答えた。
「それはもう分かったから、どういう知り合いか教えてほしいの。」
「知り合いは知り合いっすよ。」
なんでもないみたいに誤魔化すけど、それが逆に怪しい。
「んなことよりもう開店っすよ。お客さんも入ってきたし。」
「いらいっしゃいませ」と笑顔で向かっていくけど、腕を掴んで引き戻した。
「ちょっと、なにするんすか?」
「ちょっと事務所で話そ。」
「いやいや、もう仕事が始まってんすから。」
「箕輪さんならちょっとの間くらい一人でも平気だから。ね?」
ニコっと振り返ると、何も言わずに接客へ向かっていった。
これは徹底的に話を聞いてこいってことなんだろう。
「ほらほら行こ。」
事務所に引っ張っていくと、「ダメっすよ!」と手を振りほどいた。
「もう営業時間は始まってるんすから。」
「玉木さんのこと教えてくれたら仕事するから。」
「だからただの知り合いだってさっきから・・・・、」
「どういう知り合い?」
「・・・・店長命令っす。仕事しましょ。」
「あれ?そういう堅苦しいの嫌いじゃなかったっけ?」
惚けながら笑ってみせると、「冗談はいいっすから」と強気だ。
「話すことなんてなんもないんだから。」
「それは話を聞いてから決めるから。」
「・・・・いいんすか?命令に従わないならクビも有り得ますよ?」
「く、クビ・・・・。」
ちょっとだけ怯みそうになったけど、深呼吸して気を取り直す。
箕輪さんみたいな怖い顔で睨んでやった。
「なんで変顔してんすか?」
「変顔じゃないもん!」
「だって泣き笑いみたいな顔してるじゃないっすか。」
「これは怖い顔してるの!どう?ビビったでしょ!」
グイっと詰め寄って「白状しなさい!」とテーブルを叩いた。
バチン!と良い音がしたけど手が痛い・・・・・。
「んな無理して迫力出そうとしなくても。」
「無理なんかしてないもん!本気で怒ってるのよ。どう、怖いでしょ?」
「よっぽど手え痛かったんすね。涙目になってますよ。」
「・・・・・グス。」
手をふーふーしてると、「いったいなにをそんな躍起になってんだか」と呆れられた。
ガラっと窓を開けてタバコを咥える。
「あ!コラ!」
すぐに取り上げて「子供はこんなの吸っちゃダメ!」と注意した。
「お酒とタバコは二十歳になってからだよ!先生とか親に教わったでしょ?」
「いいじゃないっすかちょっとくらい。」
「ダメはものはダメ。だいたいここは禁煙なんだから。」
箱ごとタバコを取り上げて、クシャっとしてからゴミ箱に捨てた。
「あ、人のモンを勝手に・・・・。」
「ブチブチ言わない!今度こんなの吸ってたらお姉さん怒るよ。」
「もう怒ってるじゃないすか。」
「・・・・・・・。」
「はいはい・・・・もう吸いませんよ。」
お手上げみたいにホールドアップする。
うん、大人としてちょっと良いことした気分だ。
ていうかこんなことで喜んでる場合じゃない。
「ねえ教えて!玉木さんってどんな人なの?」
「どうしてあの人のことそんなに気にしてるんすか?」
「だって・・・・、」
前の事件の時のことを思い出す。
何かが大きく変わる時、見慣れない人がこのお店に出入りするようになるのだ。
そういう人は必ず冴木さんと関わりがある。
玉木さんって人がこのお店にやって来た時、冴木さんはいますか?って聞いていた。
私は接客中だったけど、近くにいるので聞こえてしまった。
あの時にピンときた。
これはまた絶対に何かが動き出しているんだって。
「進藤君は言ったよね?玉木さんは悪い人じゃないって。」
「そうっすよ。あの人は良い人なんすよ。」
「私もそう思う。だって悪い人なら冴木さんが知り合いになったりしないから。
だけど普通の人じゃないのも分かるの。なんかこう・・・・上手く言えないけど、独特のオーラっていうか雰囲気っていうか・・・・、」
そう言いかけた時、ガチャリと事務所のドアが開いた。
箕輪さんかなと思ったけど、まったく違う人が入ってきて腰を抜かしそうになった。
「おはよう進藤君。」
なんと玉木さんだった。
私にも「おはようございます」と笑顔を振りまく。
「お、おはようございます・・・・。」
なんでこの人がここに!
しかもパーティーにでも行くみたいに、真っ赤なドレスを着ていた。
今まさに玉木さんの話をしてたところだから余計に驚いてしまう。
それは進藤君も同じようで、「なにしに来たんすか?」と目を丸くしていた。
玉木さんはクスっと首を傾げた。
「何しにってお言葉ね。進藤君こそ今日がなんの日だか忘れてるんじゃない?」
「ええっと・・・なんかありましたっけ?」
焦った顔で目を泳がせている。
彼のこんな表情を見るのは初めてで、ちょっとスマホで撮りそうになってしまった。
「今日は集会の日でしょ。」
「・・・・・あ!」
「全然来ないからボスが怒ってるわよ。早く行ってきなさい。」
そう言って事務所の外に手を向ける。
「でも俺が抜けると二人だけになっちゃうしなあ。今日は土曜だから忙しいだろうし・・・・、」
「私が代わるわ。」
「え?玉木さんが?」
「元稲松グループの社員だからね。会社に迷惑かけたこともあるし、お手伝いくらいしなきゃ。」
「そっすか。じゃあ・・・お言葉に甘えて。」
ロッカーから鞄を取り出して、「これ渡しときます」と私に鍵を預けた。
「栗川さん今日はフルでしょ?」
「そうだけど・・・・、」
「どうしても外せない用事なんすよ。悪いけど先に失礼します。」
「じゃ!」と敬礼して駆け出していく。
「箕輪さんもおつかれっす!」
「え?あ・・・・ちょっと!」
「俺の代わりに玉木さんが出てくれますから。」
「玉木さんって・・・・うそ!いつの間に!!」
口元を押さえながら驚いている。
どうやら勝手に入ってきたみたいだ。
「というわけで今日は私が進藤君の代わりを務めます。精一杯頑張りますのでよろしくお願いします。」
深々と頭を下げている。
その時に胸元が見えて《うわおっきい!》なんて余計なことで感心してしまった。
「栗川さんでしたよね?」
「え・・・・ああ、はい!」
「出来れば制服を貸して頂きたいのですが。」
そう言って真っ赤なドレスの裾をつまんでいた。
《いったい何がどうなってるの・・・・。》
わけの分からないことばかり増えていく。
私も箕輪さんも呆気に取られるしかなかった。

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