稲松文具店〜燃える平社員と動物探偵〜 第十五話 苦悩する猫又(1)

  • 2018.08.27 Monday
  • 11:42

JUGEMテーマ:自作小説

この世に生まれて34年。
楽しいこともあれば嫌なこともあった。
まだ俺が子供だった頃、親とはぐれて街をさまよっていた。
フラフラとたどり着いた先は民家の庭だった。
そう広くはないけど、端っこの方に家庭菜園なんかもあって、綺麗に手入れされていた。
玄関の傍には犬小屋があって、隣でゴールデンレトリバーが寝ていた。
そのすぐ近くには銀色のエサ入れがあって、まだカリカリが残っている。
親とはぐれてから丸一日、とにかく腹が減っていた。
犬が危険だというのは知っていたけど、空腹の辛さには耐えられない。
爪を引っ込めて足音を殺し、こっそりと忍び寄ってから、前足を伸ばしてカリカリを奪い取った。
エサ入れから数粒のカリカリが転がり落ちて、そいつを餓鬼のように貪る。
また前足を伸ばし、カリカリを奪い、貪り、また前足を伸ばして・・・・。
なんて事をやっていたら、突然犬が目を開けた。
『なにやってんだ!』と怒鳴られ、慌てて飛び退いたけど、あっさりと咥えられてしまった。
殺される!
そう思った・・・・。
だけどそうなる前に俺は助けられていた。
人間の子供の手によって。
その少年は犬の口から俺を奪い取り、家に連れて入った。
そして親に俺を見せながら何かを話しかけていた。
やがて少年は笑顔になって、自分の部屋に連れていった。
どこからかダンボールを持ってきて、中にタオルを敷いて、その中に俺を置く。
何度か頭を撫でてから、駆け足で部屋を出ていった。
数分後に戻ってきた時には、その手に何かを持っていた。
どうぞとばかりにそいつをダンボールの中に置く。
犬用のカリカリを細かく砕いたやつを、小皿に入れて持って来てくれたのだ。
空腹に耐えかねていた俺は飛びつくようにして貪った。
・・・・この日から俺は少年の家で飼われることになった。
月日が流れ、この家に来てからもうじき20年が経とうとしていた頃、少年は大人へと成長し、この家から出ていって自分の家庭を築いていた。
俺もとうに子供の時間は終えて、大人どころかおじいちゃんになっていた。
昔のように外をうろつくこともなくなり、一階の窓の傍で日向ぼっこに明け暮れる毎日だった。
あの日もいつもと同じように日向ぼっこをしていた。
歳を取ると微睡んでばかりで、暖かい日差しに晒されながら夢と現の間をさまよっていた。
誰にも邪魔されたくない、ある意味麻薬のような快楽の中、ふと誰かの気配を感じた。
こういうとき猫ってのはいけない。
鈍感な人間と違って、微睡みの中でさえ常に五感が研ぎ澄まされているからだ。
誰かが近づいてくれば無意識に反応してしまう。
パチっと目を開け、いったいどのどいつが眠りをさまたげやがったのかと、恨み節たっぷりに睨んでやった。
「初めまして。」
窓を一枚隔てた向こうに真っ白な猫がいた。
ふわりと毛が長いが、洋猫という感じではなく、まるで髭をたくわえている仙人のような威厳を感じさせる毛並みだった。
コイツがタダ者じゃないってことは一目で分かった。
猫ってのはよく生きても24、5くらいが限界なのに、もっともっと長い時間を生きてきたかのような、俺なんか遠く及ばないほど含蓄のある目をしている。
気が付けば恨み節は消え去り、代わりに敬礼する兵隊のようにビシっと背筋を伸ばしていた。
猫なもんで人間のようにまっすぐにはならないけど。
・・・・こちらから話しかけてはいけない。
そう思った。
相手が何か喋るまでは沈黙を貫かないと失礼に当たる。
俺って猫なのに、なんで犬みたいに上下関係を気にしているんだろうって、ちょっと悔しさを堪えながら。
「あんたもうすぐ猫又になるわよ。」
涼しい声で不思議なことを言った。
俺は首を傾げ、次の言葉を待つしかなかった。
「あと一ヶ月も経たないうちに二十歳でしょ?その時が来れば猫又になる。」
先ほどと変わらない涼しい声だけど、こっちは涼しい気持ちではいられなかった。
尻尾で敬礼していたのをやめて、「どういうこと?」と尋ねていた。
「猫又って化け猫のこと?」
「化け猫とは違うわ。不思議な力を宿しているって意味では同じだけど。」
「どう違うんだ?」
「猫又は良い霊獣、化け猫は悪い霊獣。いわば妖怪みたいなものね。」
「はあ・・・・。」
「私はアンタに用があって来たの。アンタには猫又の素質があるわ。そういう猫が二十歳を超えると霊力を宿すようになる。普通の猫じゃいられなくなるわ。」
「普通じゃなくなる・・・・。てことは怪物みたいになるかもってことか?」
「下手をすればね。不思議な力を使って人間や他の動物を傷つけることなんて容易いわ。
その大きな力のせいで勘違いして、悪さに走る猫もいる。そういうのを化け猫っていうわけね。
私はアンタがそうならないように指導しに来たってわけ。」
「指導?」
「もうすぐ猫又になりそうな猫を見つけては声を掛けてるのよ。間違った道に走らせない為に。
あともう少しで身体に変化が出てくるわ。そうしたら近所の公園の植え込みまで来て。」
それだけ言い残し、「じゃあまた」と去っていった。
俺にはなんのことかサッパリだった。
しかしあの猫の纏う不思議なオーラ・・・・きっと嘘じゃないのだろう。
それを証明するように、二十歳を迎えたその日、身体にある変化が起きた。
いつものように日向ぼっこをしていると、尻尾に違和感が走ったのだ。
振り向くと根元から二つに分かれていた。
驚きのあまり「ミギャ!」と飛び上がってしまった。
なんでいきなりこんな事に・・・・と思ったが、あの猫が言っていたことを思い出した。
『アンタもうすぐ猫又になるわよ。』
猫又というのは、尻尾が二つに分かれるから猫又なのだ、というのを近所の野良猫から聞いたことがある。
ということは、つまりそういうことなのだろう。
不思議なのは、人間にはもう一本の尻尾が見えてないということだ。
俺を拾ってくれたご主人は大人になって家を出ていったので、今は代わりにご主人の母親が世話をしてくれている。
いつものようにエサをくれる時間、これみよがしに二つの尻尾を振って見せたのだが、まるで反応がなかった。
気づいていないだけかと思い、もう一つの尻尾を足に絡ませてみたのだが、これも無反応。
野良猫の友達には見えていたのに。
『お前どうしたんだよそれ!』なんて驚いていた。
どうやらこれは猫にしか見えないモノらしい。
・・・変化は他にもあった。
人間の言葉がハッキリと理解出来るようになったのだ。
今までは親しい人間の言葉しか理解できなかったのに(ハッキリとじゃなくてなんとなくの雰囲気として)、今は言葉として理解できる。
テレビで喋っている人間の言葉まで。
それに身体の中から突き上げるような衝動がこみ上げて、全身が波打つ感覚があった。
もしかしたら人間に化けられるんじゃないか?
本能的にそう感じるような衝動だった。
しかし家の中で化けたらみんな腰を抜かすだろう。
だから我慢した。夜まで待った。
みんなが寝静まった頃、あの猫が言っていた近所の公園に向かう為に。
やがて夜が来て、みんなが寝たのを確認してから窓の傍に立った。
こみ上げる衝動は限界に達していて、早くこれを解放したかった。
窓の外を見上げながら、自分を抑える理性を解除する。
すると突然二つの尻尾が大きくなって、グルグルと巻きついてきた。
《間違いない!絶対に人間に化けられる!》
根拠はないが、何かが本能にそう告げていた。
その本能を外に向かって解放するのと同時に、身体の中から何かが弾けるような衝撃が走った。
・・・モワっと白い煙が上がる・・・かんしゃく玉みたいに。
その煙が消えていくと、俺は人間に変わっていた。
自由に動く指、直立できる長い足、猫とは違うむき出しの肌。
鏡で見てみると、俺を拾ってくれたご主人の姿に変わっていた。
それも時の少年の姿に。
《なんでこんな姿に!・・・・いや待て、そういえば・・・・・、》
体内から突き上げる大きな衝動を解放する瞬間、少年時代のご主人をイメージした。
人間に化けられると確信したその時、パッと頭に浮かんできたのだ。
《なるほど・・・化ける瞬間にイメージした人間に変わるんだな。》
面白いのでもう一度化けてみよう・・・・と思ったのだが、方法が分からない。
なぜなら人間に化けた状態では尻尾がないからだ。
これじゃ元に戻ることも出来ない。
いったいどうすればいいのかアタフタしていると、窓の外にこの前の白猫がやって来た。
前足で開けろとジェスチャーしてくる。
俺は素晴らしいほど器用に動く指を使い、猫のままなら至難の業である開錠を行なった。
クイっと鍵を下ろし、ゆっくりと開けていく。
白猫は中に入ってきて、「ふんふん」と一匹で頷いていた。
「初めてでここまで完璧に化けるなんて見事ね。アンタ才能あるわ。」
褒めてくれて嬉しいが、今の俺は困っている。
いったいどうすれば元に戻れるのか?
その悩みを見透かすかのように、白猫は「イメージよ」と言った。
「お尻の辺りから尻尾が生えてくるイメージをしてみなさい。」
なるほど、頭の中で二本の尻尾を思い描く。
するとニョロニョロっと生えてきた。
「あとは同じ。そいつを巻きつけて元に戻るイメージをするだけよ。」
言われた通りにやってみる。
さっきと同じようにボワっと煙が上がり、いつもの俺に戻っていた。
「そうそう、上手上手。」
子猫でもあやすみたいに褒めてくれる。
素直に喜んでいいのかどうか。
「やっぱりアンタには才能があるわね。だからこそ危険でもあるわ。もし間違った道に進んでしまったら取り返しのつかない事になる。
そうなる前に教えてあげるわ。猫又としての心得をね。」
クルっと踵を返し、窓の外へ走って行く。
「行きましょ、仲間が待ってるわ。」
「仲間?」
「アンタ一匹が特別じゃないってこと。ほら早く。」
ササっと庭を駆け抜け、ピョンと塀の上に飛び乗る。
俺は家の中を振り返りながら、「質問がある」と言った。
「俺は普通の猫じゃなくなったんだよな。ならもうここには帰って来れないのか?」
「そんなことないわ。どこで生きるかはアンタの自由。でも今まで通りこの家に住みたいのなら、尚のこと猫又について知ってもらわないと。」
「ほんとにほんとか?どこかに連れ去ったりしないだろうな?」
「心配しなくても大丈夫。怖がらないでほら。」
ついて来いと尻尾を振る。
最近会ったばかりの猫を信用してもいいものか?
少し迷ったが、それ以上に好奇心が勝った。
《俺は普通の猫じゃないんだ。これは誇るべきことだぞ。》
猫又ってやつについてもっと知りたい。
そうすれば色んなモノに化けたり、それ以上のことだって出来るかもしれない。いや、きっと出来るはずだ。
身体中にこみ上げる衝動は力強く、もっともっと大きな可能性を秘めているはずだ。
「腹を括った良い顔ね、それじゃ行きましょ。」
白猫は塀の向こうに消えていく。
俺はもう一度家の中を振り返ってから、白猫のあとを追いかけた。
塀を飛び越え、街灯と月明かりだけが照らす夜道を歩いていく。
トコトコと先を行く白猫の尻尾は一つだけで、「アンタは猫又じゃないのか?」と尋ねた。
「私?」
「尻尾が一つしかない。」
「そうね、昔は猫又だったわ。でも今は違う。」
「今は違うって・・・・もしかして化け猫になっちまったのか?」
「そうじゃないわ。猫又よりもちょっと偉い猫ってところかしら。」
「なんだいそりゃ?」
「例えるなら猫の神様ってところかしら。」
冗談で言っているのだろう・・・・そう思った。
タダ者じゃないからって、いくらなんでも神様ってのは信じられない。
「そういえばアンタの名前をまだ聞いてなかったわね。」
足を止めて振り返る。俺は胸を張って答えた。
「タンクっていうんだ。ご主人が付けてくれた。」
「良い名前じゃない。身体が大きいから似合ってるわ。」
「だろ!俺も気に入ってるんだ。そっちは?」
「私はたまきっていうの。よろしくね。ちなみにアンタのご主人様の名前は?」
「ご主人?進藤歩っていうんだ。ずっと昔に俺を拾ってくれた優しい人間だよ。今はもう一人立ちして家にいないけど。」
「そう。じゃあ・・・人間に化けてる時はそう名乗れば。」
「ご主人の名前を?」
「さっきアンタが化けてた人間、あれご主人様なんでしょ?」
「どうして分かるんだ?」
「最初は飼い主に化けることが多いのよ。きっとイメージしやすいからでしょうね。」
「なるほど・・・・それで無意識に化けてたのか。」
「最初のうちは何にでも化けられるわけじゃないわ。しばらくはご主人様の姿を借りることになるはず。だったら同じ名前の方がしっくりくるでしょ?」
「そう言われればそうかもしれない。」
妙に納得してしまう。
公園に着くと何匹も猫が集まっていて、植え込みの傍で雑談をしていた。
「猫の集会だな。」
「ええ。でもただの猫じゃない。みんなアンタと同じよ。」
「こんなにたくさん俺と同じような奴がいるのか。尻尾が一つしかないぞ?」
「慣れれば出したり消したり出来るからね。とにかくみんなに挨拶して来なさい。猫又の一年生としてね。」
尻尾でポンと背中を押される。
俺はトコトコと駆け寄っていって、「初めまして、猫又のタンクです!」と名乗った。
みんなが一斉にこっちを見る。
普通の猫とは違う魔性的な視線にちょっとだけ怯えてしまった。
しかしどの猫の優しく迎え入れてくれて、すぐに緊張はほぐれた。
俺が猫又としてデビューした忘れられない日だ。
・・・・あの日から20年、人間に化ける時は今でも進藤歩と名乗っている。
お店でポイントカードを作る時も、レストランで予約待ちの名前を書く時も、そして稲松文具で働く時も。
猫又になってから20年の間、本当に色んな事があった。
良い事も悪い事もたくさん。
あれは猫又になってから5年後のこと、ご主人の両親が事故で亡くなってしまった。
俺の世話をしてくれた人たちが亡くなってしまったことはとても悲しかった。
だから家を出た。
もうあそこに帰っても誰もいないし、一人立ちしたご主人の世話になるのも悪いから。
だけど同じ年に嬉しい事もあった。
あてもなく野良を続けていた俺に、声を掛けてくれた猫又がいたのだ。
ムクゲという100歳を超える大ベテランの猫又で、人間になることを夢見ている(変化ではなく完全に)変わった猫だった。
ムクゲは人間への憧れから、人間の擬似家族を作っていた。
自分は妻を演じ、恋猫には夫を演じさせ、他の猫にはおばあちゃんや娘を演じさせていた。
誰もが人間になりがたっている変わった猫又たちだった。
俺はそんな変わった猫又に声を掛けられ、よかったら一緒に暮らさないかと誘われた。
最初は断った。
だって人間に成りたいなんてちっとも思わなかったからだ。
だけどムクゲはそれでもいいから一緒に暮らそうとしつこかった。
後で分かったことだが、あてもなくフラフラしている俺を心配してのことだった。
しばらく悩んだ末、出て行きたくなったらいつでも出ていっていいという条件付きで、ムクゲの擬似家族に加わることになった。
最初の六年は人間として暮らす練習をして、その後は学校へ通い始めた。
小学校一年生から中学三年の間まで。
そして今年の春にめでたく卒業し、稲松文具に勤めることになったのだ。
それはムクゲの擬似家族を卒業した日でもあった。
今までありがとうとお礼を言い、いつでも会いに来てねと抱きしめられ、母親になってくれた彼女の元から旅立ったのだ。
本当に色んなことがあった20年で、良い事も悪い事も、今となっては過ぎた時間の中の事でしかない。
・・・・たった一つだけを除いて。
あれはムクゲに拾われてから10年後のことだった。
俺のいた街からどんどん猫又が消えていくという事件が起きたのだ。
やがて化けタヌキや人狼など、霊獣と呼ばれる不思議な動物たち全てが姿を消していった。
そんな物騒な事件が続いていたある日のこと、学校からの帰り道で一人の男が声を掛けてきた。
そいつはプロレスラーみたいな厳ついガタイをしていて、鬼みたいに怖い顔をしていた。
『私たちと一緒に来ないか?霊獣にとって理想の世の中を作る為に。』
そう言いながら手を差し出してきたので、ちょっと怖くなって後ずさった。
すると腕を掴まれて、強引に車の中に引きずり込まれそうになった。
抵抗はしたけどまったく歯が立たず、遂には車に押し込められてしまった。
暴れないようにと手足を縛られながら、ふとあることを考えていた。
街から霊獣が消えているのはコイツのせいなんじゃないかって。
だとしたら俺もどこかへ連れ去られてしまって、二度とこの街へ戻って来られないのかもしれない。
そう思うと怖くなって、大声で助けを呼んだ。
『ムクゲ!』
擬似家族のはずなのに、いつの間にやら本当の家族のようになっていた彼女に、無意識に助けを求めていた。
するとその願いが通じたのか、突然車のドアが開いた。
・・・・ムクゲだった。
俺を車から降ろし、手足を縛る鎖を引きちぎり(霊獣はとんでもなく腕力が強いので)、『間に合ってよかった!』と泣きそうな顔で言った。
『ムクゲ!ここにいたらマズい!またあの鬼みたいな奴に襲われて・・・・、』
『大丈夫よ、彼女が追い払ってくれたから。』
そう言って後ろを振り返ると、そこには綺麗な毛をした真っ白な猫がいた。
『たまき!』
『久しぶり。』
クスっと笑いながら、『危ないところだったわね』と尻尾を揺らした。
『もうアイツはいないから大丈夫よ。』
周りを見ると・・・・確かにいない。
車だけ残してどこかへ消えたらしい。
『たまきが追い払ったのか?』
『ええ。』
何でもないという風に頷く。
『ほんっとにカグラの連中は・・・・。』
イライラしながら言うたまきに、『カグラ?』と尋ねていた。
『霊獣を捕まえては密売する極悪組織よ。表向きは家具屋さんだけどね。』
『ちょ、ちょっと待って!じゃあこの街から霊獣が消えたのは・・・・、』
『奴らがさらったのよ。』
『やっぱり・・・・。』
『ちなみにさっきの男も霊獣。それもお稲荷さんよ。』
『お稲荷さんって・・・・あのキツネの神様の?』
『そう。』
『なんで神様がそんなことを・・・・。』
『神様は神様でもアイツは禍神(マガツカミ)っていう悪い奴。稲荷の世界でも鼻つまみ者よ。』
『じゃあ奴らにさらわれた霊獣たちは・・・・、』
『残念ながらどこかへ売り飛ばされたでしょうね。』
『・・・・・・・・・。』
『カグラはそうやってお金を稼いで、どんどん人間社会で力を増していってるわ。このまま放置しておけばさらに被害が出る。早くどうにかしないと。』
クルっと踵を返してどこかへ去って行く。
『たまき!ちょっと待って!もうちょっと話を聞かせて・・・・、』
追いかけようとした時、『ダメよ』とムクゲに止められた。
『もう帰りましょ。』
『でも・・・・、』
『街のみんなが消えてしまったことは悲しい。だけど下手に関わるとこっちまで危ないのよ。
いつ歩も連れ去られるか不安だったから、ここ最近はずっと見張ってたの。』
『だからすぐ助けに来てくれたのか。』
『うん。でもあの鬼みたいな男・・・・アイツ自身が位の高い霊獣だから、私だけじゃ勝てない。
どうしようって焦ってたら、偶然たまきが通りかかって・・・・。』
ムクゲは『今日のことはもう忘れようね』と言い、その日はおとなしく家に帰った。
だけどそれから一ヶ月後くらいに、今度はムクゲが襲われた。
どうにか逃げ切ったものの、とても大きな傷を負っていた。
最初は擬似家族だったけど、でも今は違う。
ムクゲは俺の母なのだ。
それを怪我させたことが許せなくて、どうにかしてカグラって連中に復讐できないか考えた。
放っておけばまた被害者が出るだろうし、同じ霊獣として怒りが湧いていたし。
だから俺は稲松文具へ就職した。
カグラの連中に一泡吹かせる為に。
この会社なら中卒でも正社員として雇ってくれるし、出世だってさせてくれる。
頑張って偉くなれば、グループの傘下であるカグラに復讐できると思ったから。
だけど中々上手くいくものじゃなかった。
せっかく出世が決まったというのに、ある出来事のせいで会社を離れなきゃいけなくなるかもしれないのだ。
ムクゲ・・・俺の母がまた襲われた。
鬼神川の奴に誘拐されてしまったのだ。
かつてムクゲをさらおうとした時、反撃されて傷を付けられたことを根に持っていたようだ。
その恨みを晴らそうと、ムクゲの家にまで襲撃してきた。
今は人質となって、たまきとの交渉材料に使われている。
コイツを無傷で返してほしいのなら、俺たちの邪魔をするのはやめろと。
たまきは激怒した。
霊獣を、いや動物を守る神様としてカグラをぶっ潰す!
そう息巻いていた。
だけどムクゲを人質に取られている以上、事は慎重に運ばないといけない。
多分カグラは俺の正体に気づいているだろう。
あの時さらおうとして失敗した霊獣だということ、そしてムクゲの家族だってことを。
だからしばらく表から身を隠すことにした。
たまきからそうしろと言われたのだ。
アンタまでさらわれたらややこしくなるからと。
悔しいけどたまきの言う通りだ。
今の俺にカグラと戦う力はない。
下手に動けばたまきの足を引っ張って、ムクゲを危険に晒してしまうだけだろう。
鬼神川たちに見つからないよう、今は猫神神社という所に身を隠している。
ここはセンリという猫の神様を祭った神社で、緑の深い山の麓にあるのだ。
ちなみに祭神のセンリとはたまきのことである。
ここにいる限りはカグラも手を出せないそうなので、今はおとなしく身を潜めているしかない。
賽銭箱の横に座りながら、ムクゲが無事に帰って来ることを祈っていた。

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