稲松文具店〜燃える平社員と動物探偵〜 第十八話 心を開けない少年(2)

  • 2018.08.30 Thursday
  • 11:25

JUGEMテーマ:自作小説

夜の公園でブランコに揺られる。
僕と、若い男の人と二人で。
隣のブランコに座るこの人は冴木晴香さん、半年前まで稲松文具の社長だったらしい。
とてもそうは見えないけど・・・・。
でも前にお父さんが言ってたっけ。
晩酌をしながら『冴木社長がもっとしっかりしてくれないと会社がままならん・・・・』とかなんとか愚痴ってたような気がする。
僕はお茶を、冴木さんは缶コーヒーを飲みながら、さっきまで色んなことを話していた。
やっぱりお父さんは誘拐されていたこと、それを助ける為に冴木さんが頑張ってくれていること。
そして・・・・僕が眠っていた二年間のこと。
『絶対に俺から聞いたって言うんじゃないぞ。』
そう釘を刺してから、誰も教えてくれなかった僕の過去を教えてくれた。
・・・・信じられないことだけど、小四から小六までの二年間、僕の身体は他人の魂に乗っ取られていたらしい。
その人はお父さんの大親友だったそうだ。
でも悪い奴の罠にハマって、交通事故に見せかけて殺されてしまった。
その人は生前にドナー登録をしていたそうで、ある少年に腎臓が提供された。
・・・そう、僕だ。
僕はその人のおかげで病気から解放された。
だけどもらったのは腎臓だけじゃなかった。
なぜか魂まで乗り移ってしまって、そのせいで二年間の眠りにつくことになった。
僕が眠っている間、その人は靴キングの社長として活躍していた。
当時は小学生社長誕生って話題になったらしい。
その人は自分を罠にハメた相手に復讐する為と、靴キングという会社を守る為に、僕の身体を借りて悪い奴と戦っていた。
そしてお父さんと冴木さんもその人と一緒に戦っていたそうだ。
とにかく大変な戦いだったけど、悪い奴を倒すことが出来た。
その瞬間、その人の魂は成仏して、僕が目を覚ましたってことらしい。
・・・・こんなの全然信じられない。
冴木さんはたぶん僕をからかっているんだろう。
でも何度聞いても同じ答えだから、ほんとのことを言うつもりはないんだって諦めた。
僕の眠っていた二年間のことは謎のままで、きっとこれからも謎のままなんだろう。
いつかは真実を知りたいけど、いつになったら分かるのか・・・・。
でもそれはとりあえず置いておこう。
いま一番気になっていることはお父さんの事だ。
冴木さんが言うには、月曜の朝にお父さんと会って、仕事の話をしていたそうだ。
お父さんは先に切り上げて、靴キングの配送センターから出て行った。
そしてそこから行方が分からなくなってしまったらしい。
『ある犯罪組織に誘拐されちゃったんだ。』
冴木さんはそう言った。
ちなみに行方が分からないのはお父さんだけじゃない。
その時一緒にいた北川さんって人も行方不明になっているらしい。
北川さんは稲松文具の会長の娘だから、警察は営利誘拐じゃないかって疑っているそうだけど、冴木さんが言うにはそうじゃないらしい。
お金が目的でさらったんじゃなくて、脅しが目的でさらったんだろうって。
稲松文具がその犯罪組織のことを調べ始めたから、これ以上首を突っ込むなって意味でさらったんだろうって。
『これ、俺じゃなくて草刈さんの考えなんだけどね。』
最後にそう付け加えていた。
僕は『草刈さんってこの人ですか?』と、この前もらった名刺を見せた。
すると『おお、これこれ!』と驚いていた。
『なんで君がこんなモン持ってるの?』
『草刈さんって人が学校まで来て渡していったんです。』
『あの人学校にまで乗り込んだのか!?』
『なんかすごい先生がヘコヘコしてました。』
『マジかよ!学校の先生まで脅すなんて・・・・最低な奴だな。』
『別に脅してはなかったけど・・・・。』
『いいや、アイツはそういうことする奴なんだ。俺だって社長時代に何度ケツを蹴っ飛ばされたか。』
『社長なのに蹴っ飛ばされるんですか?』
『普通はありえないだろ?でもあのオッサンはそういうことするんだよ。ありゃパワハラの塊だ。いつか訴えてやる。』
なんか知らないけどすごく怒っていた。
でもこの人が社長だったら、お尻を蹴っ飛ばしたくなるのも分かる気がする。
だって頼りなさそうだもん。
適当なことして平気で会社を潰してしまいそうだ。
まあ初対面の人にそんなこと言えないけど。
とにかく僕たちは色々話をして、今はギシギシとブランコに揺られている。
冴木さんは言った。
お父さんはきっと無事だろうって。
相手も馬鹿じゃないので、無駄な暴力は振るわないはずだって。
でも僕は心配だった。
だって犯罪組織なんて何をしでかすか分からない。
「あの、ひとつお願いがあるんですけど・・・・、」
「電話鳴ってない?」
冴木さんが僕のポケットを見る。
言われるまで気づかなくて、慌てて電話に出た。
結子さんからで『今どこにいるの?』と心配そうに言った。
『ちょっとコンビニに。ていうか今日は帰りが遅いんじゃなかったの?』
『早めに帰らせてもらったのよ。猛君がいるから。』
『僕もうそこまで子供じゃないけど・・・・、』
『なに言ってんの。中学生の子を夜遅くまでほっとけないわよ。もうご飯も出来てるからすぐ帰って来なさい。』
まるで母親みたいに言う。
でもちょっとそれを嬉しいと感じている自分がいた。
お父さんも結子さんも、もしかしたら僕にとって大切な人なのかもしれない。
いなくなっても構わないなんてウソで、ほんとは傍にいてくれることが嬉しいのかも。
「すぐ帰るから」と電話を切ってブランコから飛び降りた。
「あ、帰る?」
僕は「はい」と頷いてから、冴木さんにあるお願いをした。
「僕も仲間に入れて下さい。」
なんのことか分からなかったみたいでキョトンとしている。
だからもう一度言った。「仲間に入れて下さい」って。
ちょっと間が空いてから、「ええ!」と驚いていた。
「仲間って・・・・君もスパイになりたいってか?」
「僕はお父さんに無事に帰って来てほしいだけです。その犯罪組織とかはどうでもいい。」
「でも伊礼さんを助け出すってことは、その犯罪組織とも戦うってことになるよ?」
「分かってます。」
「分かってますって・・・・。あのね、さっきも説明したけどすごく怖い組織なんだよ。警察でさえ手こずってるんだから。」
「それも分かってます。会長さんがコネを使って警察を動かしてるんでしょ?」
「腕利きの刑事に来てもらってね。でも全然上手くいかないんだ。
だってその犯罪組織は普通じゃないからさ。なんていうかな・・・・とにかく普通じゃないんだよ、うん。」
そんな一人で頷かれても困ってしまうけど、僕の決意は変わらない。
「このままだとモヤモヤして気持ち悪くて嫌なんです。僕はお父さんに帰って来てほしい。」
これはお父さんの為っていうより自分の為かもしれない。
今のままだとずっとお腹が痛いままで、どんな事さえ楽しいと思えない。
すると冴木さんは「それ伊礼さんに聞かせてやりたいよ」と言った。
「あの人って仕事の時は鬼だけど、それ以外の時はけっこうナイーブなんだよな。
多分だけど、猛君とお父さんって上手くいってないだろ?」
「分かるんですか・・・・?」
「なんとなくな。」
冴木さんもブランコから飛び降り、ポンと僕の肩を叩いた。
「大丈夫、絶対にお父さんは助けるから。」
「はい!だから僕も手伝って・・・・、」
「それはNG。」
「なんでですか!」
「子供に犯罪組織と戦わせるわけにはいかないよ。伊礼さんが戻って来たとき俺が殺される。」
「でもじっとしてられないんです!どうでもいいと思ってた人なのに、今は心配で仕方なくて・・・・、」
「わかるよ、俺だっておんなじ気持ちだから。」
「冴木さんも?」
「だって俺の大事な人もさらわれてるから。北川課長・・・・あの人の為なら死んだって構わない。」
「もしかして北川さんって人のこと好きなんですか?」
「人じゃない、女神だ。」
「女神?」
「もしくは天使。」
「はあ・・・・。」
なんかよく分からないけど、それだけ好きってことなんだろう。
「課長も伊礼さんも必ず助ける。だから気持ちだけ受け取っとくよ。」
「どうしてもダメですか?僕も一緒に・・・・、」
「だって俺が伊礼さんに殺されるから。」
「そんなことさせませんから!」
「庇ってくれるのは嬉しいけど、でもやっぱり子供を関わらせるわけにはいかないよ。
猛君がいつもと変わらずに元気でいること。それが伊礼さんが一番望んでることだと思う。
心配で怖いのは分かるけど、ここはお父さんの気持ちを考えてあげてよ。」
「お父さんの気持ち?」
「どうして伊礼さんが君を引き取ったのか?それは自分の手で守りたいって思ったからさ。
だからいつでも君が元気でいることが一番嬉しいに決まってる。」
「・・・・・・・・。」
「納得いかないかもしれないけど、こればっかりは無理だから。もう遅いし家に帰ろう。」
そう言って「家どっち?」と公園から出て行く。
僕はしばらく立ち尽くしたままで、冴木さんは急かすように「お〜い!」と呼んだ。
その時また電話が掛かってきた。結子さんからだ。
『ちょっと猛君!いつまで出歩いてるの?』
「・・・・ごめん、すぐ帰る。」
『まさか変な人に絡まれたりしてないでしょうね?』
「平気だよ、たぶん良い人だから。」
『良い人って・・・・まさかほんとに変な人に絡まれて・・・・、」
「すぐ帰るから。心配しないで。』
『ちょっと猛君!たけ・・・・、』
電話を切り、「こっちです」と公園を出て行く。
冴木さんはマンションの前まで送ってくれて、「じゃあ俺はこれで」と手を振った。
「お父さんは絶対に助ける。それじゃまた。」
ちょっとカッコつけた感じで去って行く。
そこへマンションから結子さんが出て来て、「どこ行ってたの!」と怒った。
「もう七時半よ!こんな遅くまでほっつき歩いて!」
「ごめん、ちょっと外の空気を吸いたくて。」
「無理してるとまたお腹が痛くなるわよ。」
「平気だって。良い人と話して色々楽になったから。」
「やっぱり変な人に絡まれてたのね!大丈夫?何もされてない?」
「だから平気だって。子供だけじゃ危ないからってここまで送ってくれたし。」
「送る!?てことはここにいたの?」
「さっきまで。」
「どこ!?」
「そこ。」
去りゆく冴木さんを指さす。
すると結子さんは「待ちなさい!」と追いかけていった。
「あんた猛君に何したの!?」
「ぐぎょッ・・・・、」
思いっきり襟を引っ張っている。
冴木さんは「ちょ、ギブッ・・・」とタップするけど、結子さんは離そうとしなかった。
「子供を狙うなんて許せない!警察に突き出してやるわ!」
「く、首・・・・苦し・・・・、」
本気で苦しがっている。
僕は慌てて止めに入った。
「結子さん違うから!」
「猛君は隠れてなさい!」
「だから違うって!その人は良い人だから!」
「こんな夜に子供に絡む人が良い人なわけないでしょ!」
「その人は僕から声を掛けたんだって!稲松文具の人なんだよ!」
「へ?稲松文具・・・・?」
結子さんの力が緩む。
冴木さんはその隙に逃げ出した。
「なんなんだよいったい・・・・。」
ゴホゴホと咳をしながら結子さんを睨む。
「こっちは親切で送ってやったのに・・・・乱暴なオバハンだな。」
「オバハンですって!」
「ちょ、タンマ!」
「私はまだ29よ!オバハンじゃない!」
「ほんとだ。よく見れば若いな。雰囲気はオバハンっぽいけど・・・・、」
「まだ言うか!」
「冗談冗談!首締めないで!」
結子さんの攻撃をサッとかわし、慌てて逃げて行く。
「猛君!お父さんは絶対に助けるから!男の約束だ!」
そう言い残し、ものすごい速さで遠くに消えていった。
「あ、待て!」
悔しそうにする結子さんに、「帰ろうよ」と手を引っ張った。
「あの人はほんとに良い人だから。心配しなくて平気だよ。」
「20代に向かってオバハンなんて言う奴が良い人なもんか!」
「だっていきなり首を絞めるから。」
「今度会ったらタダじゃおかないわ!」
まるで猪みたいに鼻息を荒くしている。
「とにかく落ち着いて」と宥めて、マンションの中へ引っ張っていった。
部屋に戻ると「猛君!」と怒られた。
「今まで何してたの!?」
「だからコンビニに・・・・、」
「ウソ言わない!コンビニ行ってたならなんであんな人に送ってもらうの?」
「それは・・・・、」
「稲松文具の人とか言ってたけど、まさかまた草刈って人が会いに来たんじゃ・・・・、」
「違うよ、スーパーに買い物に行ったらさっきの人とぶつかったんだ。
胸に社員バッジをつけてたから、稲松文具の人だと思って話しかけただけ。ほんとだから。」
「ほんとに?」
「ほんとのほんと。」
「だったらどうしてこんなに帰りが遅いの?今まであの人と何してたの?」
「何って・・・・ちょっと話をしてただけだよ。」
「なにを話してたの?」
「ええっと・・・忘れた。」
「そんなわけないでしょ。ついさっきのことなのに。」
「でも忘れちゃったんだって。ほんとだから。」
なにを話してたかなんて言えない。
そんなこと言ったら余計に心配させるだけだから。
結子さんは何度もしつこかったけど、僕は適当に誤魔化した。
「・・・まあいいわ。とにかくご飯食べなさい。」
ちょっとだけ怒りが収まったみたいだ。
僕は黙々とご飯を食べながら、結子さんの顔色を窺った。
「美味しい?」
「うん。」
「育ち盛りなんだから遠慮せずにどんどん食べて。」
「うん。」
そう言って自分の唐揚げを二つ分けてくれた。
それは嬉しいんだけど、その後に嬉しくないことを言われた。
「ここにいる間は夜の外出は禁止ね。六時以降は家にいること。」
「え?」
「当たり前でしょ。いつまたあんな変な人に絡まれるか分からないんだから。」
「でも僕もう中二だよ?夜でも一人で大丈夫・・・・、」
「大丈夫なわけないでしょ。最近は子供が狙われる事件も多いんだから。もし何かあったらって思うと・・・・、」
そう言いかけて急に黙る。
俯いて悲しそうな顔をしながら。
結子さんがこういう顔をする時は、決まって亡くなった家族のことを思い出しているんだ。
結子さんは大学生の時に結婚して子供を産んだ。
できちゃった婚ってやつだ。
親には反対されたけど、絶対に産むって言って、同級生の大学の彼氏と結婚した。
でもそれから二年後、事故で旦那さんと子供を亡くした。
三人で車に乗っていて、自分だけが助かった。しかも運転していたのは結子さんだった。
もちろん結子さんが悪いわけじゃない。
酔っ払った車が突っ込んできたんだ。
結子さんは悪くない。悪くないんだけどすごく責任を感じている。
もっと気をつけていれば、相手の車をかわすことが出来たんじゃないかって。
それは今から六年前のことだから、そんなに昔じゃない。
だから結子さんは今でも悲しいままなんだと思う。
僕はお父さんがさらわれて不安で堪らないけど、結子さんは六年間も不安で悲しいままなんだ。
そう思ったら・・・・、
「守るよ門限。」
「・・・・・・・・。」
「もう一人で夜に出歩かないから。」
「・・・・・・・・。」
「部活とかで遅くなる時は電話するし。」
「・・・・・・・・。」
「もう心配かけるようなことしないから。」
「・・・・ごめん。」
席を立って洗面所に消えていく。
きっと泣いている顔を見られたくないんだ。
いつもならすぐに戻ってくるのに、今日はやけに長くて、ちょっと心配になった。
「結子さん?」
洗面所に行くと、結子さんはサッと顔を逸らした。
「大丈夫だよ、ちゃんと約束守るから。」
そう言ってもこっちを向かない。
「結子さん」って呼んでも黙ったまんまで、僕まで不安になってきた。
気がつけば手を伸ばして、服の袖を掴んでいた。
「ほんとだよ。約束するから。」
結子さんにこっちを向いてほしかった。
もしこのままお父さんが帰ってこなくて、結子さんまでずっと振り向いてくれなかったら・・・・。
そんなわけないのに、そんな風に怖くなってしまう。
・・・もしかしたら自分で気づかないだけで、親がいないことを悲しんでいたのかもしれない。
まだ小さかったからピンと来なかったなんてウソで、思い出すと悲しいから記憶の底に封じ込めようとしていただけなのかも。
・・・・分からない。
でもとにかく結子さんにこっちを見てほしかった。
僕が悪いならいくらでも謝るし、結子さんが言うならどんなルールでも守る。
だからずっと背中を向けるのはやめてほしい。
いったいどう言えば振り向いてくれるんだろう?
手を引っ張ってもダメで、名前を呼んでもダメで、約束を守ると言ってもダメで・・・・、
「お母さん。」
考える前に呟いていた。
自分でもビックリして、でもそれ以上に結子さんがビックリしていた。
「僕どこにも行かないよ。だからお母さんもどこにも行かないで。」
なんでそんなこと言ってるのか自分でも分からないけど、ただとにかく傍にいてほしかった。
僕を見てほしいし、背中を向けたまま泣くのもやめてほしい。
結子さんはビックリしたまま固まっていて、僕は少し怖くなってきた。
変なこと言ったから嫌われたんじゃないかって。
「ごめんなさい。お母さんって言って。」
そう謝るのと同時に、結子さんは僕の手を握ってきた。
そのままギュっと抱きしめられて、「こっちこそごめんね」と逆に謝ってきた。
ちょっと苦しいくらに抱きしめられて、僕はどうしていいのか分からない。
結子さんが謝ることなんてないのに。
「・・・・もう大丈夫、ご飯食べよ。」
背中を押されてテーブルに戻る。
そのあと他愛ない話を色々したけど、何を喋ったのか覚えてない。
ご飯が終わってお風呂に入って、布団に寝転ぶ頃になって急に恥ずかしくなってきた。
《お母さんって・・・。いきなりお母さんって・・・・もう中二なのに。》
これじゃ明日顔を合わせるのが恥ずかしくなる。
でも言ったことは消せないから、明日「おはよう」って言ったあとにどんな顔をしようか悩んでしまった。
お父さんのこと、結子さんのこと、モヤモヤすることばかりが続いて、夜遅くになっても眠たくならなかった。
仕方ないからスマホをいじってやり過ごす。
気がつけば空は明るくなっていて、隣の部屋からゴソゴソと音が聞こえた。
《結子さん起きたんだ。》
時計は朝の六時半を指している。
今日から学校だ。
朝練は休むにしても、そろそろ起きないと授業まで遅刻してしまうかもしれない。
《どうしよう・・・どんな顔したらいいんだろう。》
答えの出ないまま布団から起き上がる。
とりあえずおはようって言って、あとは・・・・その場で考えよう。
ちょっと重い気分で襖を開けようとすると、いきなり結子さんの悲鳴が聞こえた。
短い悲鳴だったけど、耳に残るほどの声だ。
「どうしたの!?」
慌てて部屋を出ると、結子さんは口元を押さえて固まっていた。
足元には卵焼きが散らばっている。
まん丸に目を見開いて、まっすぐに廊下の方を見つめていた。
僕もそっちに目を向ける。
そして結子さんと同じように叫びそうになった。
「よ。」
お父さんだった。
軽く手を上げながら笑っている。
服はボロボロで、顔には痣が出来ていて、ちょっと痛そうに口元を曲げていた。
「悪かったな、心配かけちまって。」
ニコっと笑う。
僕は俯いて黙り込む。
昨日の結子さんみたいに、洗面所へ走って背中を向けた。

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