稲松文具店〜燃える平社員と動物探偵〜 第二十話 鬼の怒り(2)

  • 2018.09.01 Saturday
  • 11:37

JUGEMテーマ:自作小説

ハリマ販売所はおそろしくボロい店だった。
貸ビルの一階に入っているこの店は、よく潰れないなと感心するほどの佇まいである。
私は少し離れた場所に車をとめ、存続理由が謎のこの店を見張っていた。
「いませんね冴木の奴。」
部下が助手席から言う。飯を食いながら。
こんな狭い場所でニンニク入りのカレーを食うとはどういう神経をしているのか?
「店には女二人だけか。」
「たしか箕輪って奴と栗川って奴ですね。」
「・・・・・・・。」
「どうしました?」
「・・・もう一人いるようだ。」
「え?どこ?」
「奥から出てきた。とんでもない奴がな。」
部下は「どれどれ」と首を伸ばす。そして「マジで・・・」と青ざめた。
「たまき・・・・。」
「アイツめ・・・・どうしてこんな場所に。」
「なんか仕事してますね。商品並べたり。」
「・・・・・・・。」
「鬼神川さん?なにムスっとしてるんですか?」
「たまきは・・・・向こうに組みしているというわけか。」
カグラを去ったあの女、稲松文具側に付いているらしい。
ということはつまり・・・・、
「伊礼や冴木と手を組んでいるというのか。神獣ともあろう者があんな人間風情に。」
苛立ちがこみ上げる。
馬鹿なサルどもに組みしていったいなんの益があるというのか?
やはりあの女は変わり者だ。
「ねえ鬼神川さん。」
「なんだ?」
「ここから離れましょう。すぐに気づかれますって。」
「そうだな。悔しいが奴がいる以上はどうにも出来ん。」
戦いになれば勝ち目はなく、追いかけられれば逃げ切ることも無理だろう。
俺たちの側で奴と対等に渡り合えるのはカマクラ家具の葛之葉公子しかいない。
いないのだが、俺たちの為に腰を上げるような女ではない。
こちらから土下座して、さらに大金を積んで、ようやく手を貸そうかというくらいのものだろう。
たまきはまだこちらに気づいていない。
今のうちに車を走らせ、ハリマ販売所から遠ざかった。
「どうします?次は冴木のアパートに行ってみますか?」
「いや。」
「じゃあ靴キングに?」
「そこにも行かん。」
「ええっと・・・じゃあ会社に戻りますか?」
「帰らん。」
「なんか駄々っ子みたいですよ鬼神川さん。」
「子供の頃そう言われていた。」
「じゃあ幼児退行ですか?」
「黙れ。」
うるさい部下を無視して車を走らせる。
バイパスに乗り、姫道市の隣にあるさらに大きな街へと向かう。
一時間後、ある会社へとやって来た。
新幹線が停まる大きな駅、そこから伸びる一本の国道、その真正面に巨大なビルがそびえている。
ここは我が社のライバルであり、同時に協力関係にもある大企業、カマクラ家具の本社。
地上60階、高さ250メートル、全面ガラス張り、嫌でも目につく巨大なこのビルには多くの霊獣が働いている。
何しろ社長の葛之葉公子からして人間ではないのだ。
それを支える重役たちも人間ではない。
専務の瀞川、常務の豊川、取締役の安志、会社のトップは全て霊獣である。
「なんでここに?」
部下が不思議そうに言う。
私は無言のままカマクラ家具の本社へと入った。
エントランスのような巨大な入口、その奥にはモデルのような美形の男が二人、受付にいた。
「カグラの鬼神川だ。葛之葉社長に取り次いでもらいたい。」
男たちは固まる。
どうやら私を怖がっているようだ。
《人間か。》
何も事情を知らない下っ端である。
もう一度「社長に取り次いでもらいたい」と言った。
「お、お名前はカグラの鬼神川様で・・・、」
「二度言わせるな。」
「申し訳ありませんがアポはの方は・・・・、」
「取っていない。」
「ではお取り次ぎは致しかね・・・・、」
「カグラの鬼神川と伝えれば分かる。さっさとしろ。」
軽くテーブルを叩く。
大きな音がして男はさらに竦み上がった。
すると部下が「脅してどうすんですか」と止めた。
「こいつただの人間でしょ・・・・。」
肘を引っ張りながら小声で言う。
「だからどうした」とその手を振り払った。
「早急に葛之葉公子に会わねばならん。」
「なんでです?」
「たまきだ。あの女がウロウロしているとなれば、こちらも迂闊には動けん。」
「そりゃまあね、あいつに対抗出来るとしたら葛之葉公子だけでしょうけど。でも俺たちだけ来たところで会っちゃくれませんって。
ウチの社長から取り次いでもらわないと・・・・、」
「うつけか貴様!」
またテーブルを叩く。
少々力んでしまったので、大理石のテーブルにヒビが入ってしまった。
受付の男は怯えきり、目も合わせようとしない。
「社長はご立腹だ。我々だけで失態を挽回せなばならん。」
「まあ今のこのこ戻ったらぶっ殺されるでしょうね。」
「我々だけで葛之葉公子に会うのだ。そしてどうにか説得し、たまきを抑え込んでもらう。」
「だから俺たちの言うことなんて聞いてくれるタマじゃないですって。」
「手ぶらならな。」
「ん?何か手土産でも?」
「ああ、大企業のご令嬢だ。」
「ええっと・・・まさかそれって・・・、」
言いかける部下の口を押さえ、「早く取り次げ」と受付の男に言う。
するとあろうことか警備員を呼び寄せた。
私より一回り小柄なガードマンが四人、こちらへ迫って来る。
「あんなものを呼べと言った覚えはないが?」
そう睨んでやると、テーブルの下に隠れてしまった。
《ふん!情けない。》
こんなガードマンごときどうということはないが、ここで暴れるのは避けたい。
どうしたものかと悩んでいるうちに取り囲まれてしまった。
「すいませんがちょっとこちらへよろしいですか?」
一人が外に手を向ける。
見たところ・・・・霊獣のようだ。
しかし私よりも遥かに位は低く、片手で捻り潰せるだろう。
「殺気出しすぎですよ。こんなとこで喧嘩しちゃマズいですって。」
「喧嘩などせん。向こうから手を出さん限りはな。」
こちらから詰め寄り、じっと目を見返してやる。
正面から視線がぶつかって数秒後、ガードマンは一歩後ずさった。
「あんた何者・・・?人間じゃあないよな。」
「カグラの副社長、鬼神川という。」
「え!あの鬼火の狐と呼ばれた武闘派の・・・・、」
「余計なことは口走るな。」
思わず手が出る。
コツンと殴っただけなのだが、数メートル先に吹っ飛んでいった。
唖然とする他の警備員たち。
慌てて警棒を抜き、「う、動くな!」と裏返った声で威嚇した。
私は近くにいた一人の警棒を掴み、少し力を入れて握り締めた。
手を離すとぺちゃんこにひしゃげており、その警備員は青ざめた顔で警棒を落とした。
すると別の一人が「抵抗すると痛い目に遭うぞ!」と銃を向けた。
実弾を発射する銃ではない。
電撃で相手を痺れさせるテーザー銃というやつだ。
はて、警備員がこんな物を所持してもいいのか?
少し考えたが、ここは葛之葉公子率いる巨大企業。
建物の中はある種の治外法権なのかもしれない。
震えながら銃を向ける警備員に向かって「撃たんのか?」と詰め寄る。
距離が近くなるにつれて震えが増し、そのせいで引き金を引いてしまっていた。
「あ・・・」と言った瞬間には有線式の針が発射され、私の首に刺さっていた。
そして電流が流れる。
スタンガンの一種であるこの銃、電圧は10万から20万ボルトというところだろう。
うむ、ビリっとくる。
しかしそれだけである。
私にダメージを与えるには温い。
首に刺さった針を抜き、銃を持つ警備員に突き刺す。
「ぎゃッ・・・・、」
短い悲鳴の後、額を押さえてうずくまっていた。
残るは一人、振り返ると一目散に逃げ出していった。
実に他愛ない。
仮にも霊獣ならもう少し根性を見せてほしいものだ。
「結局暴れてるじゃないですか。」
部下がため息をつく。
「成り行きだ」と返した。
「これじゃ絶対に葛之葉公子に会えないですよ。」
「そうとも限らんぞ。」
エントランスの奥にある階段を指差す。
その向こうには取り巻きを従える妖艶な美女がいた。
葛之葉公子である。
スーツなのか和服なのかよく分からない服を着ているのはいつものことだ。
長い髪を耳の後ろへかき上げながらヒラヒラと手を振った。
「誰が暴れてるのかと思えば、カグラの副社長じゃない。」
静かだが棘を感じさせる声もいつものことで、取り巻きの重役を引き連れてこちらへ下りてきた。
ノックアウトされた警備員を見つめながら、口元に手を当ててクスクスと笑う。
「いきなり人のお城へ来て暴れるなんて。鬼の狐火らしいわね。」
「成り行き上こうなってしまった。申し訳ない。」
「いいわよ別に。それ対人間用の警備員だから。あなたに敵うタマじゃないものね。」
なんでもないことのように言い、ふと表情を引き締める。
「で、なんの御用かしら?」
また髪をかき上げる。
両方の耳があらわになり、さらに妖艶さを増した。
「実は折り入って話が。」
「もしかして伊礼とかいう人間が逃げ出したこと?」
「ご存知だったのですか!」
「オタクの社長から電話があってね。ブチブチ愚痴ってたわ。」
部下と顔を見合わせる。
なぜ社長が?と思ったが、あの御方ならやりかねない。
私は「お恥ずかしい話で」と頭を下げた。
「嫌よね、使えない部下って。アタシならその場で殺しちゃうかも。」
今度は口元を隠さずに大笑いした。
「悪趣味ですよね、社長・・・・。」
「し!黙ってろ。」
部下の頭を抑え込む。
下の者が失態を犯した時、社長はわざとそれを煽ることがある。
恥をかかせる為に。
「オタクの社長、人間のクセにかなりのやり手だもの。きっと私より器が大きいのね。」
「あの御方は楽しんでおられるだけで・・・・、」
「楽しむ?」
「部下がもがくのを。」
「ああ、なるほど。良い趣味ね。」
クスっと微笑み、「それじゃ」と去って行く。
「好きなだけゆっくりしていって。でももう暴れないようにね。」
倒れた警備員を尻目に、ヒラヒラと手を振りながら去って行く。
「葛之葉社長。」
呼び止めると無言で振り返った。
わずかに微笑んでいるその目は、これから私が何を切り出そうとしているかを見透かしている目だった。
「実は困っていることがあります。」
葛之葉公子は笑みをたたえたまま私の言葉を待つ。
「どうか手を貸して頂きたい。」
「見返りは?」
私の言葉に重ねるように返してくる。
「伊礼には逃げられたが、もう一人の人質はまだ残っている。」
「北川翔子?」
「そうです。あの娘を譲ります。」
「・・・・・・・・。」
「その代わりたまきを抑え込んでほしい。」
「あの猫神をねえ・・・・。」
「奴は稲松文具に組みしています。伊礼たちに協力しているらしい。」
「要するにたまきが怖いから守ってくれってことね。」
「そう言われては身も蓋もない。」
「鬼と呼ばれた男も、さすがにあの猫神にはビビってるわけね。」
「奴は高位の神獣、私では太刀打ち出来ません。」
「強敵よね。私だって事を構えたくないんだけど?」
「その見返りとしての北川翔子です。」
「使い道はあるわね。」
「父である稲松文具会長は、目に入れても痛くないほど溺愛していると聞く。あの娘を手中に収めている限り、なんでも言うことを聞いてくれるでしょう。」
「ならあなたがやればいいじゃない。思い通りに稲松文具を動かして、敵対する者さえ掌握できるわ。」
「それが出来ればいいのですが、なにぶん私は・・・・、」
「分かってる、腕っ節は強くてもオツムの方がね。」
頭に指をさしながら馬鹿にしたようにほくそえむ。
「武闘派っていうのは飼い主がいてこそだもの。北川翔子なんていいオモチャを持ってても使いこなせない。」
「おっしゃるとおりです。」
「オタクの社長は冷たいから、部下が泣きついてきても知らん顔だろうし。」
「ですからあなたにお願いしたい。あの娘をお譲りします。その代わりどうかたまきを・・・・、」
「イヤ。」
「なぜ!」
てっきり引き受けてくれるものと思っていた。
この女は強欲だ。
あの娘を道具にすれば、稲松文具からいくらでも金を引き出せるだろうに。
納得のいかない私の顔を察してか、「前社長がね・・・」と呟いた。
「あんまり派手なことはするなって。」
「もう出獄したので?」
「あとちょっとね。でも手紙のやりとりくらいなら出来るわ。」
「九ノ尾吉音・・・・前社長であり、稲荷の頂点に君臨していた女、ダキニ。」
たまきに匹敵する神獣である。
だが今はとある事情で幽閉されていた。
それが戻って来るとなると・・・・、
「私はもうじき引退。やっとドブ臭い人間の世からおさらば出来るわ。」
うんざりしたように首を振っている。
「どうせ欲深い人間の世にいるんだもの。向こうに帰るまではこのドブ臭さを楽しむに限るわ。」
なるほど、この女は散財癖があると聞くが、あくまで浮世の暇つぶしらしい。
だが・・・・、
「葛之葉社長!」
彼女は無言のまま去っていく。
追いかけようとすると取り巻きが立ちはだかった。
「どけ!怪我をするぞ!」
「私たち相手に暴れると?」
専務の瀞川が言う。
「そこに転がっている警備員相手ならともかく、我々は社長直々の部下です。あなたが困ることになりますよ。」
嫌味な笑みで挑発する。
私は「貴様・・・」と詰め寄った。
「10年前までは私の部下だった分際で・・・・、」
「あの頃は技術主任、ですが今はここの専務です。偉くなったでしょう?」
「出世したならその嫌味な笑いを治したらどうだ?見ているだけで苛立ってくる。」
「それはこっちのセリフだ。」
「なんだと?」
タメ口と生意気な態度に怒りが沸いてくる。
部下が「ダメですよ!」と腕を引っ張った。
「さすがにそいつら相手に暴れちゃマズいです!」
「誰も暴れたりせん!」
「その割には顔のパーツが思いっきり真ん中に寄ってますって。お願いだから落ち着いて下さいよ。」
私をヤンチャ小僧とでも思っているのだろうか?
昔なら容赦なく叩き伏せたが今は違う。
相手を考えずに暴れるほど馬鹿ではない。
「鬼神川さん。」
瀞川は睨みながら顔を近づけてくる。
このヘラヘラした顔・・・・本気で叩きのめしたくなるが、グっと拳を堪える。
「俺がカグラにいた頃、ずいぶんコキ使ってくれましたよね。」
「それがどうした?」
「一年で売上を5倍にしろとか、そのクセにコストは3分の1に減らせとか。」
「だからそれがどうした?」
「あの時はなんちゅう無茶をってムカつきましたよ。でもアンタの命令とあっちゃっやるしかない。だから俺たちゃ頑張ったんですよ、なあ?」
そう言って後ろにいる取締役の安志を振り返った。
この男もかつてはカグラにいた。
瀞川の補佐役として。
「アンタの無茶な命令を実現する為に、俺たちゃ必死で頭を捻った。そして今までにない新しい技術を開発したんだ。」
「プラズマカッターのことか?」
「高性能、高品質、量産性に優れる画期的な木材加工技術です。これによってカグラの売上は前年の10倍超、コストは7分の1ですんだ。」
「その技術のおかげで従来の技術に頼る必要がなくなったからな。機材も人材もカットすることが出来た。あの時は社長も大喜びだったぞ。」
「そりゃそうでしょ。なのにアンタときたら・・・・、」
これみよがしにため息をつく。
安志も険しい目で睨んでいた。
「俺たちが苦労してやり遂げたことを自分の手柄にしやがった。そのおかげであんたは技術部長から一気に副社長へ昇進。
けど俺たちには大した見返りはなかった。気持ち程度のボーナスだけで、出世もなしだ。」
「ふん、それがどうしたというんだ。昔のことをグチグチと情けない。」
「情けないだと・・・・・。」
瀞川の目の色が変わる。
嫌味な笑みを消し、喧嘩でも売るかのように睨んでくる。
それは安志も一緒で、二人で俺を取り囲んだ。
「やる気か?私は構わんぞ。」
ネクタイを緩めると、「はいはいそこまで」と常務の豊川が手を叩いた。
「瀞川さん、安志さん、ちょっと落ち着きましょ。」
憤る二人を押し下げてから私を振り返る。
「あなたもそう挑発しないで。」
「私は何もしていない。そいつらが勝手に熱くなっているだけだ。」
後ろで「ウソばっか」と部下が呟く。
腕を組みながら「ふん」と鼻を鳴らしてやった。
「とりあえず今日のところはお引き取り下さい。」
「どうしても無理か?葛之葉社長の手を借りることは。」
「今朝から機嫌が悪いんですよ、オークションで欲しい宝石が落とせなかったらしくて。明日になれば少し落ち着くかと思うんで、今日のところはこれで。」
「・・・・仕方あるまい。日を改めるとしよう。」
「行くぞ」と部下に顎をしゃくる。
「どうもすいません」と豊川に会釈していた。
私は途中で立ち止まり、瀞川と安志を振り返る。
「貴様らが私を恨んでいることはよく分かった。そのせいでカグラを離れ、カマクラ家具へ移ったことも。
しかし気になるのはその間のことだ。カマクラ家具へ移るまで8年以上の時間が空いている。いったい何をしていた?」
「さあね。」
「言えない何かがあるようだな。」
「霊獣の世界へ戻っていたとだけ言っておきますよ。」
「詳しく語る気はないわけか。・・・・まあいい。なんにせよ今日は葛之葉社長に話を聞いてもらうのは難しいようだ。
明日の朝一番にまた来る。次は必ず取り次いでもらうぞ。」
しっかりと釘を刺し、カマクラ家具を後にする。
運転席に乗ろうとすると、「代わりますよ」と部下が言った。
「怒ってる時は運転が荒いから。」
「ふん。」
いつまで経っても上達しない部下の運転に揺られながら、今後のことを考える。
このまま伊礼たちを放っておけば、さらにこちらの腹を探ってくるだろう。
あの男、散々痛めつけてやったにも関わらず、どこまで我々のことを掴んでいるのか決して吐かなかった。
これ以上うろちょろされては面倒だ。
いつ我々の核心部分に触れられるか・・・・・。
最悪は力で叩きのめすことも考えていたが、たまきが味方しているとなればそれも難しい。
こんなことになるならば、最初から腕力で抹殺しておけばよかった。
たかが人間に力を振るうのはプライドが許さなかったが、ここまで来てはそうも言っていられない。
明日、なんとしても葛之葉公子の協力を取り付け、たまきへの当て馬としたい。
その間に私が邪魔な人間どもを・・・・・、
「ケータイ鳴ってますよ。」
部下が言う。
「分かっている」と不機嫌に返しながら懐に手を突っ込んだ。
表示を見ると管恒雄からで、《あの男、また何かやらかしたのか?》と眉間に皺が寄った。
良い予感はしないが無視するわけにもいかず、「なんだ?」と威圧的な声が出た。
『もしもし!大変です!』
「今度は何をやらかした?」
『け、警察が・・・・、』
「警察?」
『店を取り囲んでいるんです!』
「なんだと!?」
『おそらくここに北川翔子がいることがバレたみたいで。』
「・・・・・・・。」
ケータイを握り締めたまま固まる。
《私は大馬鹿者だ。伊礼を逃がしてしまったのだから、あの店に北川翔子を監禁していることが漏れるのは当然。
にも関わらず大事な人質をあそこに置いたままにするとは・・・・、》
葛之葉公子が言っていたことが蘇る。
私はオツムが弱いと・・・・。
部下が不安そうに「どうしたんですか?」と尋ねてくる。
「タカイデ・ココに警察が来ているようだ。すでに取り囲まれていると。」
「あちゃ〜!」
わざとらしく驚いている。
私は「どうすればいいのか・・・」と呟いた。
「私が行って警察を蹴散らすのは容易い。しかしそんな事をすれば・・・・、」
「さすがにそこを考えるオツムはあるんですね。」
「黙れ!貴様も案を出さんか。」
「そうですねえ・・・・とりあえず脅せばいいんじゃないですか?」
「脅す?誰を?」
「管恒雄を。なにがなんでも北川翔子を守れ。でなけりゃミンチにしてやるぞ!って。」
「なるほど・・・それは良い案だな。」
持つべきものは頭の回る部下。
私はすぐに管を脅した。
「いいかよく聞け!今からそちらに向かう。それまでなんとしても北川翔子を渡すな。」
『渡すなって・・・・もう警察が踏み込んできそうなんですが・・・、』
「警察だろうと相手は人間だ。お前なら充分叩き伏せられるだろう?」
『ちょっと待って下さい!そんなことしたら私はどうなっちゃうんですか!もうこっちの世界にいられなくなる!』
「それで?」
『それでって・・・・、』
「霊獣の世界へ帰ればいいだけだろう?」
『そんな!だって私はアンタの為にここまで付き合ったんですよ!人間の世界を霊獣の世界に変えようって言い出したのはアンタじゃないですか!
上手くいけば私を神獣の位に上げてやるからって・・・・、』
「もちろんだ。しかし今お前が踏ん張ってくれなければ北川翔子を奪われてしまう。
そうなれば再びさらうのは困難だろう。なにせ向こうにはたまきが付いているからな。」
『たまきが!』
「いいか管、私の言う通りにするんだ。そうすれば悪いようにはしない。とにかく北川翔子を守り抜け。
もし奪われるようなことがあったら、霊獣の世界まで追いかけて貴様を殺す。」
『殺すってそんな・・・・、』
「すぐにそちらへ向かう。それまでの辛抱だ、いいな。」
『ちょっと待って下さい!アンタはいっつもそうやって無理ばっかり言って・・・・、』
「泣き言は無用。私の命令は絶対だ。」
返事を聞かずに電話を切る。
部下が「これで大丈夫でしょう」と笑った。
「そんだけ脅せばなにがなんでも守りぬくはずです。」
「警察相手に大立ち回りをやるだろう。だがそれは奴が勝手にしでかしたこと。我々は関係ない。」
「その通りです。管はカグラの者じゃないですからね、表向きは。」
その通りだ。
奴はタカイデ・ココのオーナーであって、カグラの社員ではない。
全ての責任を押し付けてしまえばいい。
だが・・・・、
《奴も私に恨みを抱くだろうな、瀞川や安志のように。後々敵に回られても厄介だ。そうなる前に始末しておくか。》
使えない駒は処分するに限る。
敵に回りそうな者も潰しておくに限る。
全ては大いなる目的の為に。
「鬼神川さん、なに笑ってるんですか?」
言われてルームミラーを覗いてみる。
顔が般若になっていた。

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