稲松文具店〜燃える平社員と動物探偵〜第二部 第二話 おかしな薬(2)

  • 2018.11.07 Wednesday
  • 12:56

JUGEMテーマ:自作小説

動物探偵、有川悠一。
動物に関するトラブルや悩みならどんな依頼でも受け付けている。
だけど希に手に負えないこともある。
だって俺は動物と話せること以外は普通の人間なのだ。
あまりに不可解な現象には対処出来ない。
つい一時間ほど前のこと、我が家の動物たちが人間に変わってしまった。
原因はモンブラン。
アイツが持って帰ってきた怪しげな薬のせいで、動物たちは人間に姿を変えてしまった。
幸い五分くらいで元に戻ったけど、こんなことは今までに初めてだ。
「いったいどうなってんだ!」ってモンブランを問い詰めたけど、「秘密」と言うばかりで教えてくれない。
チェリー君に聞いても「俺にだって分からねえよ」とサッパリだった。
となればここは誰かに相談するに限る。
こういう出来事に詳しくて、とにかく信頼の置ける相手に。
俺は「こがねの湯」というスーパー銭湯に来ていた。
半年ほど前までここでアルバイトをしていたのだ。
ちなみにこの店を経営しているのはお稲荷さんである。
従業員のほとんどもお稲荷さんだ。
一昨年前、ダキニと揉めた時にもここのお稲荷さんたちに助けてもらった。
そういうわけで今回も助けを乞うべく、ここへ足を運んだというわけだ。
俺はこがねの湯の事務所で、ある人にさっきの出来事を相談していた。
「なるほどねえ。そりゃまたおかしな話ね。」
まだ初夏だというのに露出の多いノースリーブを着て、困った顔で頬杖をつく美人さん。
この人はウズメさん。
こがねの湯のオーナーにして稲荷の長である。
以前はダキニが稲荷の長だったんだけど、地獄に幽閉されてからはウズメさんが代わりを務めている。
その実力は稲荷の世界でナンバー2。
しかもダキニと違って人格者なので、困った時の相談相手としてはこれほどうってつけの人はいなかった。
「すぐに元に戻ったからよかったけど、もしあのままだったらどうしようかと思いましたよ。」
「私もそんなの初めて聞いたわ。モンブランちゃんは何も教えてくれなかったの?」
「いつものことですよ。トラブルばっか運んでくるんです。それでどうしようもなくなってから白状するんですよ。だいたいが時すでに遅しって感じで・・・・。」
「オテンバねえ。」
肩を竦めながら笑っている。
頭の後ろで腕を組みながら、ギシっとパイプ椅子を鳴らした。
「普通の動物が人間に化けるなんてねえ。普通はありえないことだわ。」
「やっぱりモンブランの持って帰ってきた怪しげな薬が原因ですかね。」
「それしか考えられないわね。もう残ってないの?」
「ええ。全部使っちゃったみたいで。」
「だったらまた必ず欲しがるわね。」
「だと思います。」
「その時に尾行するしかないわね。いったいどこでそんな薬を手に入れたのか?それが分からないことにはなんとも言えないわ。」
「ウズメさんでも分かりませんか?」
「だって情報が少な過ぎるもの。ただ・・・・、」
「ただ?」
「どこかに落ちてたっていうのは考えにくいわ。きっと誰かから渡されたんでしょうね。そして相手は人間じゃないはずよ。そんな薬を作れるとしたら霊獣しか考えられない。」
「霊獣・・・・。また悪い霊獣がどこかにいるってことなんですかね?」
「そこらじゅうにいるわよそんなの。ただ人間が気づかないだけでね。あんまり目立つことしたら上の者からお咎めを受けるから、バレないようにコソコソ悪さをしてるのよ。」
「でもウズメさんはその上の者ですよね?なんたって稲荷の長なんだから。もし犯人が分かったら捕まえてくれますか?」
「分かったらね。」
「よかった・・・・。霊獣ってすごい強いから俺だけじゃどうしようもないですもん。でもウズメさんが手を貸してくれるなら心強いです。」
「君もここを辞めてから頑張ってるみたいだし、こういう時は協力してあげなくちゃ。なんたってたまきの見込んだ男だし。」
そう言ってバシンと肩を叩かれる。
手加減してるんだろうけどすごい痛い・・・・。
ウズメさんはたまきの親友なのだ。
ここでアルバイトをしていたのもたまきの紹介があってのことだ。
「とりあえず調査は君だけでやってみることね。もう立派な動物探偵なんだから。」
「立派・・・・。俺ってそう見えますか?」
「前よりかは凛々しい顔してるわ。正直言うとここで働いてる時は頼りなさそうだったから。」
「やっぱりそう見えてましたか・・・・。」
「吹けば飛んでいきそうな顔してる時があったわね。この子ちゃんと生きていけるのかしらって心配になることもあったし。」
「それ、他の誰かにも同じようなこと言われた記憶があります。」
ウズメさんはクスっと笑う。そして背伸びをしながら立ち上がった。
「とにかく何か分かったら知らせに来て。」
「はい!ありがとうございます。」
ペコっと頭を下げる。
と同時に事務所のドアが開いて、一人の女性が顔を覗かせた。
細くて切れ長の目に、幽霊かと思うような無表情。
一瞬だけ俺を見て、すぐにウズメさんに視線を移した。
「お客さんからクレームです。松川くんがお釣りの渡し間違いしてたみたいで。かなりご立腹で責任者呼べの一点張りなんですよ。」
「分かったわ、すぐ行く。」
慌てて駆け出すウズメさん。
幽霊みたいな顔の女性は俺を振り返り、「来てたんだ」とハスキーな声で言った。
この人はアカリさんという。
ここの古株で、ウズメさんの親戚に当たる。
要するにこの人もお稲荷さんってわけだ。
根は優しいんだけど、それと同じくらいに厳しいというかおっかない。
ここでバイトしている時はよく叱られたものだ。
「お久しぶりです、アカリさん。」
「一年ぶりくらいね、元気にしてる?」
「ええ、お陰様で。」
二人きりになると緊張する。
嫌いとか合わないとかそういうことじゃなくて、おっかない先輩だったから未だに気を遣ってしまうのだ。
気まずくなるのもアレなので、サっと立ち上がった。
「仕事の邪魔しちゃ悪いんでもう帰りますね。ウズメさんにもよろしく言っといて下さい。」
そう言って事務所を出ようとすると、「待って」と止められた。
「なんですか?」
無言で近づき、壁ドンしてくる。
《ひい!なんか怒ってる?》
俺の態度が気に障ったのだろうか?
だったらすぐに謝らなければ。
「あ、あの・・・なんか失礼なこと言っちゃいましたかね?」
「有川君ってまだ動物探偵ってやつ続けてるのよね?」
「え、ええ・・・。その為にここを辞めたようなもんですから。」
「動物に関することならなんでも相談に乗ってくれるんでしょ?」
「そうです。」
「なら・・・・いっこお願いしていいかな?」
「依頼ってことですか?」
「そんな大層なもんでもないんだけど。まあちょっとしたお願いみたいな感じ。」
「もちろんですよ。アカリさんの依頼ならタダでも。」
「そんな気を遣わなくていいわよ。」
「いやいや、いいんですよ。こがねの湯のみんなにはお世話になったし。実はさっきウズメさんにもまた相談事をしてて。」
「みたいね。二人でコソコソ話してたから。もしかしてまた面倒なことに巻き込まれてるの?」
「う〜ん・・・今のところはまだ。この先は分からないけど。」
「なるほど、またそういう事に足を踏み入れかけてるわけか。」
ため息を吐きながら首を振っている。
これは同情か?それとも呆れているのか?
「なんかあったら私にも相談してよ。」
「え?アカリさんに・・・?」
「ダキニ様の件の時は助けてもらったからね。有川君のおかげで命拾いして、その上自分の神社まで持つことが出来てさ。おかげで子供たちと幸せに暮らしてるわ。」
「アカリさん・・・・。」
そう、この人もかなり苦労しているのだ。
ダキニと揉めた時は俺以上に危険な目に遭っていた。
ポケットを漁り、名刺を取り出す。
「なんでも相談に乗りますんで。いつでも来て下さい。」
「おお!なんか本格的じゃない。しかもまたこっちに引っ越してきたんだ。」
「そうなんですよ。なんでいつでも来てくれれば。」
「OK!じゃあ今日の五時くらいでも平気?」
「もちろんです。お待ちしてます!」
「それじゃまた夕方に。」
手を振りながら仕事に戻っていく。
アカリさんの方から依頼してくるなんてよっぽどの悩みを抱えているんだろう。
これはきちんと話を伺わねば。
とりあえず部屋の掃除はしておこう。
自宅兼事務所の我が家は最近ちょっと散らかっているのだ。
特にチェリー君がくしゃみを撒き散らしまくっているから綺麗にしておかないと。
そんなことを考えながらアパートまで帰って来た。
そして部屋の前に立ち、ドアを開けようとしたその瞬間・・・・。
《人の話し声が聞こえる・・・。》
家には動物しかいないはずだ。
チェリー君が人間に化けているのかと思ったけど、どうも違うみたいだ。
野太い男の声や甲高い女の声が混じっている。
《いったい誰が来てるんだ?もしかして誰かが仕事を頼みに来たとかかな?》
そう思ったけど、ふと嫌な予感が過ぎった。
《まさかとは思うけど・・・・、》
ゆっくりとドアを開ける。
・・・・案の定、嫌な予感は的中した。
「あ、おかえり悠一。」
「・・・・また。」
人間に化けたモンブランが手を振っている。
その向こうにはマサカリたちも。
「おう悠一!」
メタボな腹に坊主頭、そして野球チームのハッピを羽織った男が野太い声で出迎える。
こいつはマサカリだ。
そしてその向こうから金髪のチャラい感じの兄ちゃんが現れた。
鳥みたいにギョロっとした目に、パンクロッカーみたいな派手な格好をしている。
こいつはチュウベエ。
「遅かったな。ウズメには会えたか?」
「まあな。ていうかその姿でミミズを食うのはやめろ。」
まるでラーメンみたいにどんぶりでミミズを食ってやがる。
見るのもおぞましくて目を逸らした。
その奥では日傘を差したゴスロリ風の女が佇んでいた。
窓からの風に長い髪をなびかせて、「人間っていいわあ」とうっとりしている。
「いちいち体温を上げなくも動けるなんて。イグアナの苦労とは大違い。」
これはマリナだ。
やけにアンニュイな表情をしているけど、元々こういう顔なんだろう。
どいつもこいつもまた人間に化けていやがるなんて・・・・。
「こらモンブラン!」
ズイっと詰め寄って「またあの薬を持ってきたな!」と怒鳴った。
「いったいどこの誰にあんなもん貰ってるんだ!白状しろ!」
「イ・ヤ。」
「なんで?」
「だって教えたら絶対に取る上げるでしょ?」
「当たり前だ。どいつもこいつも人間に化けるなんてあってたまるか!」
「そんなの誰が決めたのよ?」
「誰がって・・・・動物は動物だろうが。自分の種族を全うしろ。」
「でも悠一の婚約者だってタヌキじゃない。」
「マイちゃんは霊獣なの。お前らとは違うんだ。」
「どう違うのよ?」
「どうって・・・そりゃ彼女は特別な生き物でだな、だから人間にも化けられるわけで・・・・、」
「私たちだって特別よ。」
「お前は普通の猫だろが。」
「いいえ、命ある者はみんな特別なの。」
「それとこれとは話が違う。」
「どう違うのよ?」
「だからあ・・・・猫は猫!犬は犬!インコはインコだしイグアナはイグアナだ。人間に化ける必要なんてないだろ。」
「そんなことないわ。だってこの薬があれば霊獣じゃなくたって人間ライフを満喫できるんだもん。」
ポケットからゴソゴソと例の薬を取り出す。
青と赤のツートンカラーのカプセル剤。
こんなもんどこの誰が発明しやがったのか。
迷惑にもほどがある。
「そんなもんがあるとこの世がおかしくなる。寄越せ。」
「嫌よ。」
「いいから。」
「ちょっと!女の子に乱暴しないでよ!」
「ぐはあ!」
思いっきりパンチをかまされる。
猫の時とは段違いの威力だ。
「ちょっとモンブラン。人間のパワーで殴っちゃ可哀想よ。」
マリナが宥めてくれる。
ノックアウトされた俺を見て「ごめん・・・」と苦笑いしていた。
「大丈夫?痛かった?」
「当たり前だろ・・・・。だから人間になんか化けるなって言ったんだ。」
「だって悠一が乱暴なんだもん。」
「いいからその薬を寄越せ。」
「だから嫌だってば!」
「ぐはあ!」
「あ、また・・・・、」
なんと乱暴な女か。
毎日がこんな状態では身がもたない。
なんとしても薬を取り上げないと。
そしてこんなもんを渡した奴が誰なのか白状させないと。
「モンブラン、これは大事なことなんだ。頼むからそいつを渡した奴を教えてくれ。」
「それは無理よ。」
「もしかして口止めされてるのか?」
「絶対に秘密ねって渡されたから。」
「やっぱりか。見ず知らずの猫にそんなモン渡すなんて・・・そうとうタチの悪い奴だな。」
「悪い人じゃないのよ。ちょっと変わってるけど。」
「人?霊獣じゃないのか?」
「本人は人間だって言ってたわ。」
「人間がそんな薬を持ってたのか?」
「私も詳しいことは知らない。高速道路の下にある空き地に行った時に偶然会った人だから。」
「ほう、高速道路の下の空き地か。」
「この辺じゃ見ない人だなって思ったのよね。でも優しい感じの人だからつい甘えちゃって。そしたらこれをくれたのよ。」
「なるほどなあ。ちなみに男か?女か?」
「オカマ。」
「オカマ?」
「だってムキムキなんだもん。声も男だったし。でも女の格好してるのよ。だってミニスカート穿いてたもん。」
「ほうほう、なるほど。」
「さっきもそこへ行ってもらって来たの。でもこれ以上は絶対に教えないわよ。」
《それだけ分かれば充分だっての。》
いくら人間に化けようがオツムは猫のまま。
自慢したがりの性格が災いしていることに気づいてない辺りがモンブランたる所以だろう。
《とりあえずその空き地に行ってみるか。》
モンブランの話をどこまで信じていいのかは分からない。
けどもし本当にただの人間ならウズメさんの手を借りるまでもない。
この俺がとっちめて、二度とそんな薬を渡さないように説教してやる。
「ちょっと用事が出来た。しばらく出かけるから大人しくしてるんだぞ。くれぐれもその姿で外に出ないように。」
動物たちから「ええ〜!」とブーイングが飛ぶ。
「なんで外に出ちゃダメなんでい!」
「いらんトラブルを起こすからだ。」
「んなことするかってんだ。モンブランはともかくよ。」
「そうだぞ悠一。人間の時はちゃんと人間らしく振舞うから安心しろ。」
「だったらどんぶりでミミズを食うのをやめろ。外に出た瞬間に職質されるぞ。」
「お、警察か!いいねえ、いっぺんパトカーに乗ってみたかったんだ。」
「それがトラブルだって言ってんの。いいから外に出るなよ。」
「私はお出かけしたいわ。だってせっかく人間になったんだもの。この身体で自由に歩き回ってみたいわ。」
「気持ちは分からんでもないけどダメだ。」
「もう!ケチね。」
「ケチでけっこう。面倒事を起こされるよりマシだ。」
ブーブー言う動物たちに背を向け、玄関で靴を履く。
するとツンツンと肩をつつかれて振り返った。
「悠一にもあげる。」
「むがッ・・・・、」
モンブランが口に何かを押し込んでくる。
もしかしてこれは・・・・、
「お前・・・あの薬を飲ませやがったな!?」
「うん。」
「うんって・・・・、」
「人間に飲ませたらどうなるのかなあって。」
「俺で実験するなよ!」
飼い主で試すとはなんという奴か。
いい加減本気で怒ってやろうと立ち上がった時、急に目眩がした。
「なんだ・・・・足元がふらついて・・・・、」
立ちくらみのような感覚が襲ってきて、まっすぐ立っていられなくなる。
・・・・次の瞬間、ボワっと白い煙が上がった。
「うわすごい!みんな見て見て!」
「・・・おお!すげえなこりゃ!」
「なんてこったい!まさか人間にも効くとは。」
「すごいわこの薬!まさに世紀の発明よ。」
大喜びする動物たち。
しかし俺は喜べない。
だって動物に変わってしまったからだ。
それもなぜか柴の子犬に。
《人間にも効くのかよ・・・・。なんて恐ろしい薬なんだ。》
こんなもんが出回った日には本当に世の中がおかしくなってしまう。
これはやっぱりウズメさんの手を借りないといけない。
「可愛くなったわねえ悠一。」
モンブランが俺を抱き上げる。
コイツにあさやれるなんて屈辱だ。
「降ろせ!」
「やだ。」
「覚えてろよお前ら!どうせすぐに元に戻るんだ!立場逆転だぞ!」
「ううん、今回のは戻らないわ。」
「へ?」
「前のは試作品だったの。これは本物だから、元に戻る薬を飲まないと一生このままなのよ。」
「な・・・なんだって?一生?」
「というわけで、これからは私たちが悠一の飼い主ね。よく言うことを聞くように。」
「おい待て!本当にもう戻れないのか?」
「戻る薬を飲まないとね。」
「じゃあすぐにそれを飲ませてくれ!」
「残念だけどそっちは貰ってないのよね。」
「なんで!?」
「別にいいかなあって。」
「いいわけないだろ!」
「まあまあ。ちゃんと可愛がってあげるからそう怒らないで。」
「怒るに決まってるわ!」
「じゃあとりあえず散歩に行きましょうか。」
そう言って俺を抱えたまま家を出る。
「ちゃんと戸締りしとかねえとな。」
マサカリが鍵をかけ、「じゃあ俺が運転するわ」とチュウベエが言い出す。
「お前運転なんか出来るのか?」
「ノープロブレム。」
クルクルと車のキーを回している。
そして運転席にチュウベエが座り、助手席に俺を抱えたモンブランが座り、後ろにマサカリとマリナが座った。
「ええっと・・・・これが鍵を挿すところかな?」
「やめろ!」
「はいはい、大人しくしてなさい。」
「これはオモチャじゃないんだぞ!」
「・・・おお、エンジンが掛かったぞ!」
「すげえ!早速走らせてみろよ。」
「ドキドキするわね!」
どいつも人間に変わったことで浮かれている。
普段は大人しいマリナでさえ「楽しみねえ」とはしゃいでいた。
「じゃあ出発するぞ。」
適当にギアを入れ、サイドブレーキも落とさずにアクセルを踏み込んでいる。
「あれ?なんか動きが遅いな。」
「おいおい、これを下ろさねえとダメじゃねえか。」
マサカリがサイドブレーキを下ろす。余計なことを・・・・。
「そうだったそうだった。じゃあ出発!」
またいきなりアクセルを踏み込む。
車は後ろに急発進して塀にぶつかった。
「きゃあ!」
「うお!」
ものすごい音と共に衝撃が走る。
後ろを振り返るとブロック塀にヒビが入っていた。
「ちょっと!なにしてんのよチュウベエ!」
「すまんすまん。Rってやつにしてたみたいだ。」
「それ後ろに下がるやつよ。たしか・・・・このDってやつよ。」
「そうだったな。じゃあ今度こそ出発だ。」
「おい!頼むからやめてくれ!」
「はいはい、喚かない喚かない。」
「喚くわバカタレ!人でも撥ねたら冗談じゃすまなくなるんだぞ!」
「心配するな。ちゃんと運転するから。」
「さっきぶつかったクセに何言ってんだ!」
必死に止めようとしたが聞く耳をもたない。
やがて車は走り出し、公道へと躍り出た。
《ああ!マジでヤバい!でもどうすることもできない・・・・・。》
今の俺はただの子犬。
ていうかなんで子犬なんだろう?
子供じゃないのに。
チュウベエの運転はやっぱり下手くそで、ガリガリと塀を削りながら進んでいく。
このまま大通りに出たら即事故るだろう。
そうすればこいつらも無事では済まない。
《クソ!どうにかして止められないのか!?》
頭を抱えたくても頭まで手が届かない。
子犬の身体ってなんで不便なんだろう。
そんな風に絶望していると、途中でライダースーツを着たリーゼント頭の兄ちゃんとすれ違った。
「チェリー君!」
必死に叫ぶとすぐに気づいてくれた。
さすが動物、耳がいい。
「助けてくれ!」
「子犬?」
「俺だ!悠一だ!」
「・・・・ええええ!なんで犬に変わってんだよ!」
慌てて追いかけてくる。
でも車の足には敵わない。グングン引き離されて見えなくなってしまった。
やがて車は大通りへ出て、交通量の多い道を走っていく。
「気をつけてねチュウベエ。事故ったらみんな怪我しちゃうから。」
「任せとけって!」
《ああ・・・もう終わりだあ。》
マサカリは「マクドナルドに行ってみようせ」とウキウキしているし、マリナは「私は服を見に行きたいわ」とノリノリだ。
もはや誰もこいつらを止められない。
モンブランにくしゃくしゃと頭を撫でられながら、絶望の底に沈むしかなかった。

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