稲松文具店〜燃える平社員と動物探偵〜第二部 第六話 オカマとハリネズミ(2)

  • 2018.11.11 Sunday
  • 11:39

JUGEMテーマ:自作小説

どんな世界にも変わり者はいる。
例えば俺。
どうしてか分からないけど動物と話すことが出来る。
なんか前世とか前前世あたりに理由がありそうな気がするんだけど、記憶がすっぽり抜け落ちているかのように思い出せない。
まあそれはいい。
とにかく俺は変わり者なのだ。
しかし動物の世界にも変わり者はいた。
なんと人間としゃべることの出来るハリネズミがいたのだ。
その名の通りトゲトゲに覆われたこのネズミは、日本でもペットとして人気がある。
理由はたぶん可愛いからだろう。
けど安易な気持ちで動物を飼うのは御法度だ。
勝手に捨てたりする飼い主のせいで野生化しているからだ。
動物の種類によっては特定外来種に指定されている。
まあそれも今は置いておこう。
問題なのは俺と似たような奴が他にもいたってことだ。
しかもそいつは例の薬をばら撒いたオカマのペットなのだ。
オカマとハリネズミのマシロー君。
源ちゃんは鋭い目で二人を睨んでいた。
「この薬はどこで手に入れた?」
オカマに薬を突きつける。
「そ、それはあ・・・・、」
「誤魔化しても無駄だぞ。調べれば分かるんだ。」
「じゃあご自分でどうぞ。」
「言った方が身の為だぞ。」
「なによ・・・・脅そうっての?」
「捜査に協力すれば罪は軽くなる。だが意地を張っていると逆効果だぞ。」
「で、でも!それ違法薬物じゃないでしょ!別に麻薬を捌いたわけじゃないんだし。」
ツンと開き直っている。
確かにこの薬を法律で裁くのは難しいかもしれない。
ていうかこんなの公に出来ないだろう。
オカマはそれを分かっているかのように、「逮捕したければすれば?」と強気だ。
「どうせそんな薬は誰も信じないわ。ていうか世間にバレたら大きな騒ぎになるだけよ。刑事にさんにその覚悟があるのかしら?」
さっきとは打って変わって態度が大きくなる。
でも源ちゃんは狼狽えない。
「なら別件で引っ張るしかないな。」
「別件?」
「お前、風呂を覗いてたんだろう?」
「ち、違うわよ!そんなことしてない!」
「ならこれはなんなんだ?」
押収したバッグの中からビデオカメラを取り出す。
源ちゃんは「見るぞ?」と念を押してから再生させた。
「・・・・・・・。」
険しい顔で見入っている。
ウズメさんも覗き込んで、「ウチの脱衣所!」と叫んだ。
「あなたやっぱり盗撮犯だったのね!」
「ち、違うってば!」
「なに言ってんの!ここにバッチリ映ってるじゃない!」
「私は女に興味はないのよ!見れば分かるでしょ?」
立ち上がり、フリルのついた可愛い服とスカートを見せつける。
ついでにクルっと回ってみせた。
「女に興味ある奴がこんな格好してると思う?」
「じゃあどうして女子の脱衣所が映ってるのよ?女に興味がないならこんなことしないはずでしょ。」
「それはちょっと事情があって・・・・、」
「どんな事情よ。」
「・・・・言えないわ。」
「白々しい。」
ウズメさんは「さっさと逮捕しちゃって」と言った。
「バッチリ証拠があるんだもの。どう言い訳しても無駄でしょ。」
「・・・・・・・・。」
「ねえ源ちゃん、聞いてる?」
「確かに盗撮をしていたのは間違いないでしょう。しかし・・・・女の裸に興味があってというわけではないかもしれません。」
「どういうこと?」
「見て下さい。」
カメラを向けると、ウズメさんは「これは・・・」と唸った。
「薬?」
「ええ、これとよく似ています。」
そう言って例の薬を摘む。
「脱衣所の奥にいるこの女性、これと似たような薬を持っています。カメラはその女性を狙っているようですな。」
「確かに・・・・。手元と顔をアップで映してるわね。」
「なぜこの女性がこんな薬を持っているのか・・・・。」
カメラをオカマの方に向け、「どういうことだ?」と睨んだ。
「どういうことって言われても・・・・。」
「この薬の出処はお前だろう?」
「お前って言わないで。ちゃんと名前があるんだから。」
「そういえばまだ名前を聞いてなかったな。」
メモ帳を取り出し、「名前と住所、あと年齢と職業」と尋ねた。
「名前は遠藤タクオ。」
「住所は?」
「アタシ家ないのよねえ。」
「ない?」
「その時その時に仲良くなった男の家に泊めてさせてもらってるから。」
「じゃあ今もそういう男がいるのか?」
「ううん、この前別れたばっかりで。今はホテル暮らし。」
「どこの?」
「特に決まってないわ。安いホテルを転々と。」
「歳は幾つだ?」
「ヒ・ミ・ツ。」
「・・・・・・・。」
「冗談よ、睨まないで。」
わざとらしく可愛子ぶって、「38」と答えた。
「職業は?」
「寂しい男に幸せにしてあげること。」
「・・・・・・・。」
「だから冗談だってば。」
源ちゃんが怒るのも無理はない。
俺だってイラっとくる。
「今はプーちゃんなの。昔はちゃんと働いてたんだけどねえ。」
「どこで?」
「カグラって家具屋さん。」
「ほう、稲松グループのあそこか?」
「すごいでしょ。」
誇らしそうに胸を張っている。
まあ気持ちは分かる。
だってカグラといえば国内で一、二を争う家具メーカーだ。
そんな一流企業で働いてたなんて・・・・ちょっと想像できない。
「そんないい所に勤めてて今はプー太郎か。クビにでもなったのか?」
「ううん、自分から辞めたの。」
「どうして?
「う〜ん・・・まあちょっとね。会社の方針に納得いかなかったっていうか。それで色々と揉めちゃって。なんか居づらくなっちゃったのよね。ていうかこれ事件と関係ある?」
「いや。」
源ちゃんはもう一度カメラを向ける。そして「なんでこの女が薬を持ってる?」と尋ねた。
「お前が渡したのか?」
「渡したんじゃなくて盗まれたの。」
「盗まれた?」
「公園のベンチでちょっと休憩してたのね。そしたらその女がいきなり隣に来てさ、サっとバッグを持ってっちゃったの。」
「要するに引っ手繰りにあったと?」
「そういうこと。」
「しかしバッグはここにあるじゃないか。」
「追いかけて取り戻したのよ。でも薬だけがなかった。」
「・・・そのあとは?」
「薬がないことに気づいたのはしばらく経ってからなのよ。こりゃヤバいと思ってさっきの女を探したわ。
でも全然見つからなくて。走り回って汗掻いたからこがねの湯に来たんだけど、駐車場でその女を見つけたってわけ。」
「それで薬を取り返そうとしたと?」
「そうよ。でも全然取り合ってくれないの。これは私のだって言い張って。力づくで取り返そうかと思ったんだけど、さすがに人目に付くから。だったら別の方法しかないかなあって。」
「別の方法?」
「あの女ちょっと美人だったからさ。盗撮してそれをネタに薬を返してもらおうかなあって。」
「要するに脅しをかけるつもりだったと?」
源ちゃんの目が鋭く光る。
でも遠藤さんは狼狽えなかった。
「だって最初に悪いことしたのは向こうじゃない。人の物勝手に取ってさ。しかも開き直って。素直に返せばこんなことせずに済んだんだから。」
「自分のやってることが犯罪だって自覚してるのか?」
「だからそれは向こうも一緒でしょ!」
バンとテーブルを叩く。
マッチョなもんだからすごい音がした。
「なんでこっちだけが悪者扱いされるのよ!」
「盗まれたものを取り返す為でも犯罪が許されるわけじゃない。警察に被害届を出せばよかっただろう?」
「ふん!警察なんて・・・・。相談しに行ったってこんなの面倒くさがるだけじゃない。
大金でも盗まれたならともかく、わけの分からない薬を取られたからって真面目に取り合ってくれるわけ?
どうせ当事者で解決しろとか言うんでしょ?そんなの分かってんのよ。」
なにやら警察に不満があるようだ。
でもまあ・・・・その意見は分からなくもない。
こっちにとっては大事でも、警察がそうじゃないと判断すれば相手にしてくれないってことはある。
ストーカーだってつい最近まで野放し状態だったんだから。
しかし源ちゃんは刑事だ。いくら理屈をこねたところで罪を見逃してくれるはずがない。
はからずも遠藤さんは盗撮を自供する羽目になってしまった。
手錠を掛けられるのは間違いないだろうけど、問題は例の薬だ。
「お前が盗撮犯だってことは分かった。これで別件で引っ張ることが出来る。」
「やりたきゃやればいいじゃない。ただしその薬で罪に問うなんて無理よ。そんなの刑事さんが一番分かってるでしょ。」
まだ強気にふんぞり返る。
もし源ちゃんが普通の刑事ならその通りだろう。
だけど彼は猫又だ。
俺の師匠であるたまきから聞いたことがある。
猫又には猫又のルールがあって、それを破った者には厳しい罰が待っていると。
ということは、霊獣の世界には法律とは違う決まり事があるってわけだ。
俺たち人間のルールでは罪に問えなくても、別の形でなんらかの罰を与えることは可能だろう。
悲しいかな、遠藤さんは彼が霊獣であることを知らない。
だからこそ強気でいられるんだろうけど。
するとずっと黙っていたマシロー君が「話した方がいいかもしれません」と言った。
「この刑事さん、普通の人間じゃありませんよ。」
「え?」
「たぶん・・・・いや間違いなく霊獣です。」
「ウソ!」
「ちなみに隣の女性も。」
「そっちも!?」
「もっと言うならタクオさんを捕まえたあの二人も霊獣だと思います。」
「はあ!なによそれ?ここは霊獣だらけだっていうの!?」
目を見開いて源ちゃんとウズメさんを見ている。
さっきまでの強気がウソのように狼狽え始めた。
「僕には分かるんです。普通の人間と霊獣って微妙に臭いが違うんですよ。」
「臭い?」
「すごく些細な違いですけどね。でも普通の人間にはない獣っぽい臭いが混じってるんです。」
「要するに臭いってこと?」
「臭いってほどじゃありません。ほんとうにごく僅かな臭いですから。」
遠藤さんはクンクン鼻を動かす。「全然分かんない」と首を傾げた。
するとウズメさんが「君って鼻が利くのね」と言った。
「確かに霊獣はほんの少しだけ人間とは違う臭いを放ってるわ。でもそんなの犬でも嗅ぎ分けられないのに・・・・よく気づいたわね?」
「生まれつき鼻はいいんです。」
「いいってレベルじゃないわよそれ。」
感心するウズメさん。
それとは対照的に狼狽える遠藤さん。
いや、これは狼狽えるというより怯えているって感じだ。
「まさか霊獣だったなんて・・・・、」
どうやら霊獣の存在を知っているようだ。
そしてかなり怯えている。
もしかして霊獣に怖い目に遭わされたことでもあるのだろうか?
源ちゃんは遠野さんの怯えを見逃さない。
もう一度薬を突きつけ、「これはどこで手に入れた?」と尋ねた。
「そ、それは・・・・・、」
「もう隠す必要はないから言おう、私の正体は猫又という霊獣だ。」
お尻から二股の尻尾が出てくる。
ウネウネと動くそれを見て余計に怯えていた。
「確かにこの薬は人間のルールで罰することは難しい。だが俺は猫又だ。こっちの世界のルールでなら罰を与えることが出来るぞ。」
源ちゃんの目が妖しく光る。
まるで猫みたいに。
遠藤さんは頭を抱えて突っ伏した。
「ああ、イヤ!私は知ってるのよ・・・・霊獣がどれだけ恐ろしいか。奴らのせいで酷い目に遭わされた社員を嫌っていうほど見てきたんだから・・・・。」
「奴ら?社員?なんのことだ?」
「カグラよ!」
バシン!とテーブルを叩きつける。
あまりに大きな音がしてマシロー君がビクっと飛び上がった。
「あそこは悪魔の吹きだまりよ!副社長の鬼神川にその部下だった祝田と大川。それに管恒雄って奴もいたわ。
たくさんの社員がこいつらのせいで酷い目に遭わされた・・・・・。もし辞めてなかったら私だって・・・・、」
そうとう怖い何かがあるのだろう。
頭を抱えたまま震えている。
源ちゃんは「何があったんだ?」と尋ねるが、首を振るばかりで答えようとしない。
これは落ち着くまで待たないと話にならないだろう。
「仕方ない。ウズメさん、今のうちに盗まれた薬を回収したい。ビデオに映っているこの女なんですが見覚えはありますか?」
「ええ。月に二回ほど来る常連さんよ。前に忘れ物したからって電話が掛かってきて、その時に番号と名前を控えてるわ。」
「見せて頂けますかな。」
二人は事務所を出て行く。
後には頭を抱えた遠藤さんと俺たちだけが残された。
あとマシロー君と。
「栄次郎さん、元気出して下さい。」
小さな前足でポンポンと励ましている。
俺は「なあ?」と尋ねた。
「取り込み中に悪いんだけど・・・・。。」
「なんでしょう?」
「いい加減元に戻りたい。解毒剤をくれないか?」
「残念ですがそれも盗まれてしまいました。」
「ええ!?」
「変化の薬と一緒にポーチに入れていたんです。だから盗んだ人を捕まえないことにはどうにも。」
「そんな!やっと元に戻れると思ったのに・・・・・。」
期待していた分ショックがデカい。
逆にモンブランたちは大喜びだけど。
「まだ人間のままでいられるのね!」
「やったぜ!これでステーキ食い放題だ!」
「なんなら盗んだ奴は捕まらなくてもいいな。」
「ねえ、私この浴衣飽きたわ。新しいのないのかしら?」
こいつらだけはほんとに・・・・・。
「あなたも元気出して下さい。」
俺まで慰めてくれるなんて優しいハリネズミだ。
でも感謝は出来ない。
「君たちのせいでこんな事になってる。罪悪感はあるのかい?」
「それは悪の定義によりますね。」
「定義も何も悪は悪だろ。」
「あなたは困っているけど、後ろの方々は喜んでいらっしゃいます。困っている人が一人、喜んでいる人が四人。
善悪を数で計るなら、喜んでいる人が多いので僕たちは悪いことはしていません。」
「いや、こいつらは人じゃなくて動物なんだけど・・・・、」
「でも今は人間です。逆にあなたは犬です。」
「だからそれは君たちの薬のせいで・・・・、」
「そもそも人間は動物の一種です。差別はいけません。」
「こういうのは差別じゃなくて区別と言ってだね・・・・、」
「では差別と区別の定義とはなんでしょうか?
例えば人間と牛の遺伝子は80パーセントが同じです。ネズミは85パーセント、猫は90パーセント、チンパンジーに至っては96パーセントが同じで・・・・・、」
「もういい・・・・。」
なんだかよく分からないけど確かなことが一つある。
俺はもうしばらく子犬のままってことだ。
後ろではモンブランたちがはしゃいでいるし、目の前では遠藤さんが頭を抱えているし、マシロー君は延々とうんちくを垂れ流しているし。
「ちなみに人間同士の場合だと、あなたと他人の遺伝子は99.9パーセントが同じで・・・・・、」
「だからもういいって!」
ちなみに犬の場合は何パーセントが同じなのか?
ちょっとだけ気になった自分が情けない。
次々に起きる事態に翻弄され、何もできずに困り果てるだけ。
これぞ本当の負け犬ってやつだ。

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