稲松文具店〜燃える平社員と動物探偵〜第二部 第十話 キツネの少年たち(2)

  • 2018.11.15 Thursday
  • 11:00

JUGEMテーマ:自作小説

「こんッッのバカタレども!!」
アカリさんの怒号が響く。
少年たちはビクっと怯え、肩を丸くしていた。
ここはこがねの湯。
事務所でアカリさんが怒鳴り散らしていた。
「あれほど人間の街には行くなって言ったでしょうが!」
バシン!とテーブルを叩く。
少年たちは「ごめんなさい・・・」と涙目だ。
「何度も危ないって注意したでしょ!なんで分からないの!?」
「だって面白そうだったから・・・・。」
「山にいてもつまんないし・・・・。」
「言い訳しない!!」
「ご、ごめんなさい!」
「もうしません!」
ひたすら謝る少年たち。
それでもアカリさんの怒りは治まらない。
俺は「ちょっと落ち着いて下さい」と宥めた。
「その子たちも反省してるみたいですし・・・・、」
「なによ?」
なんておっかない目なんだ・・・・。
元々怖い人ではあるけど、最近はちょっと怖すぎる。
「その子たちにも事情があるんじゃないかと思いましてですね・・・・、」
「アンタがなに知ってんの?」
「え?なにって・・・・、」
「ウチの子のなにを知ってんのよ?」
「・・・・なにも知りませんけど。」
「じゃあ黙っててくれる?」
「はい・・・・。」
これ以上刺激したら俺まで怒号の嵐に晒されるだろう。
モンブランが「情けないわねえ」と笑うけど、なんとでも言うがいい。
相手はお稲荷さんなのだ、本気で怒らせたら無事じゃすまない。
その後もアカリさんの説教は続いた。
事務所は気まずい空気に包まれる。
そこへウズメさんがやって来て、「終わった?」と尋ねた。
「まだです。全然反省してないんで。」
「そうかしら?目に涙がいっぱいだけど。」
そう言って少年の顔を覗き込む。
「ねえ君たち、お母さんがどうしてここまで怒るか分かるかな?」
「それは言うこと聞かなかったからです・・・・。」
「勝手に街に行ったし、変な薬で人間になっちゃったし・・・・。」
「そうね。でも一番はそこじゃないわ。」
椅子に座り、少年たちに向かい合う。
「アカリちゃんも座りなさい。」
「・・・・・・・・。」
「ほら。」
怖い顔をしたまま腰を下ろす。
ウズメさんは時計を見上げ、少し眉を潜めた。
時刻は朝の八時前。開店は九時だからそろそろオープンの作業をしないと間に合わない。
「モンブランちゃんたち。悪いんだけどお店を開けるの手伝って。」
「ええ!またこいつら雇うんですか?」
「だって仕方ないじゃない。こっちをほったらかすわけにはいかないし。」
俯く少年たち、鬼の形相のアカリさん。
俺は「そうですけど・・・」と答えるしかなかった。
「モンブランちゃんたち、ちゃんと仕事してくれたらご褒美をあげるわ。」
「ほんとに!?」
「この前はうやむやになっちまったけど、今日はぜったいだぜ!」
「もちろん。」
はしゃぐモンブランたち。
ウズメさんは松川くんを呼び、「その子たちお願い」と押し付けた。
「ええ!またですか・・・・。」
「ちょっと手が離せないのよ。」
状況を察した松川くんは「分かりました・・・・」とモンブランたちを引き連れて行った。
《すまんな松川くん。》
いつも損な役回りばかり。
いつか飯でも奢ってあげよう。
事務所は未だ気まずい空気のままだ。
ウズメさんは「お母さんは君たちが心配なのよ」と言った。
「君たちにはもう一人兄弟がいたわよね?」
「はい・・・・。」
「事故で死んじゃったけど・・・・。」
「飲酒運転のドライバーのせいでね。あの時はお母さんも死にかけた。だから心配でたまらないのよ。
いつまた事故が起きて子供を失うか・・・・。君たちが街をウロウロする度に気が気じゃなくなるの。
最近すごく感情的になってるのはそのせいでしょ?」
そう言ってアカリさんを振り向くと、「はい・・・」と頷いた。
「だんだん大人になってきたせいか、前より行動範囲が広くなってるんです。今は人間でいえば中学生くらいだから、それは仕方ないのかなって。
でもやっぱり心配なんです。仕事が終わって家に帰って、だけどもし子供達が帰って来なかったらって・・・・。」
「そんなに大変なら言ってくれればいいのに。子供の面倒を見る為なら休んだって全然構わないのよ?」
「それは嫌なんです。」
「どうして?」
「事故の時、ウズメさんに助けてもらって稲荷になって、今でもこがねの湯で働かせてもらって・・・・ずっとお世話になりっぱなしです。
だったらこれ以上のワガママなんて・・・・、」
「そんな風に思ったりしないわよ。」
「でもこれは私の意地なんです。子供たちもこのお店も、私にとっての宝物です。だったらどっちも完璧にこなさないと。子供を言い訳に手を抜くなんてぜったいに出来ません。」
「アカリちゃん・・・・。」
困ったように眉を寄せるウズメさん。
アカリさんはとにかく真面目で頑固で、だからこそ自分を追い詰めて感情的になりやすくなっていたんだろう。
そんな母親を見て、少年たちはバツが悪そうに俯くしなかった。
「アンタたち、お母さんの仕事が終わるまでここにいなさい。勝手にどこか行ったら許さないわよ。」
鬼の眼光に身を竦めている。
アカリさんは出て行き、少年たちは再び涙目になっていた。
ウズメさんは苦笑いしながら俺を振り返る。
「君も大変よね、次から次へと色んなことに巻き込まれて。」
「まったく。」
「まあ今回のはアカリちゃん親子の問題だから。君が首を突っ込むことじゃないわ。ただ・・・・、」
テーブルの上には例の薬によく似た薬が置かれている。
緑と黄色のカプセル剤・・・・こいつが解毒剤だ。
しかしその数は二つしかない。
この薬・・・・喉から手が出るほど欲しいけど、俺が飲むわけにはいかない。
アカリさんは解毒剤を掴み、少年たちに向けた。
「今すぐこれを飲みなさい。」
それぞれに薬を手渡し、水の入ったコップを置く。
少年たちは迷っていた。
おそらくこんな体験は二度と出来ない。
もう少し人間のままで、人間の世界を楽しんでみたいんだろう。
しかしウズメさんの目はそれを許さない。
気圧された少年たちは薬を口に入れ、コップの水で流し込んだ。
ボワっと白い煙が上がる。
そして次の瞬間にはキツネに戻っていた。
《おお!すごい・・・・。》
ああ、俺も早く戻りたい。でも今はまだ我慢だ。
二匹のキツネは、まだ幼さが残るあどけない感じだった。
「事務仕事がたまっててね。今日はここに篭るわ。何かあったら言ってちょうだい。」
子ギツネたちはシュンと項垂れる。
いったいどうしてこんな事になってしまったのか?
その事情はすでに聞き出してある。
ここへ連れて来た時、アカリさんが鬼の形相で問い詰めたからだ。
山から下りて街をウロウロしていた時のこと、この前見た犬みたいな人間に再会した。
そいつは相変わらず犬みたいにあちこちの臭いを嗅ぎ、フラフラと通りを歩いていた。
過ぎ行く人たちは怪訝な目でそれを見ていたという。
子ギツネたちは好奇心をくすぐられた。
なにせなんにでも興味を示す年頃だ。
なんならちょっとからかってやろう、そういう気持ちで近づいた。
すると犬みたいなその人間は、自分から子ギツネたちに近づいてきた。
そしてポケットからカプセル剤を取り出し、目の前に放り投げたという。
こいつはいったい何なのか?
子ギツネたちは目を見合わせた。
人間からもらった物を口にしてはいけない。
常日頃アカリさんからそう注意されていた。
しかし目の前にこんな好奇心の惹かれるものを見せられてはじっとしていられなかった。
犬のような人間はそれを食べろとジェスチャーする。
子ギツネたちは少し迷いながらも、気が付けばペロリと飲み込んでいた。
胃の中に薬が入ったその瞬間、目眩が襲ってきてフラフラとよろけた。
倒れまいと踏ん張った時、前足は人間の手に変わっていた。
そしてお互いの姿を見て悲鳴を上げる。
前足だけでなく全身が人間になっていたからだ。
しかも服まで着た状態で。
犬のような人間はゲラゲラと笑った。
『ようこそ人間の世界へ。』
おどけながらそう言って、『でもすぐに戻っちまうけどな』と付け加えた。
『そいつは試験薬だ。モノホンが欲しいならここへ行くことだな。』
そう言って地図の描かれた紙切れを寄越した。
『人間の世界を楽しめよ。じゃな。』
酔っ払ったみたいにフラフラと去って行く。
少年たちは地図を睨んだ。
そこには一箇所だけ丸印がついている所が。
『ここに行けばさっきの薬がもらえるってことかな?』
『本物の薬がとか言ってたよね。これはすぐ効果が切れるって。』
突然の出来事に冷静でいられない彼らは、これからどうずべきか迷っていた。
そうこうしているうちに薬の効果が切れ、元の姿に戻ってしまう。
驚く子ギツネたち。興奮が高まっていく。
『これ面白いぜ!人間に変われるなんてさ!本物の薬をもらいに行こうぜ!』
『うん!そうすれば堂々と街に行けるよね。』
子ギツネたちは山の中へ引き返す。
というのも地図の丸印は山の反対側にあったからだ。
そこは山間の集落で、ほぼ老人しかいない過疎化の進んだ場所だった。
その集落には稲荷神社が建っていて、丸印はその場所に付いていた。
子ギツネたちは山を駆け抜け、山間の集落までやってきた。
老人が畑で野良仕事をしている。
奥には民家が並び、その下側には小さな棚田があった。
稲荷神社は集落から山道へ続く麓に建っている。
子ギツネたちはコソコソと駆け抜け、辺りを警戒しながら赤い鳥居を潜った。
しかしそこで弟が『いいのかな?』と立ち止まった。
『こっちの稲荷神社には勝手に行くなってお母さん言ってたよね?』
『そういえば派閥が違うからどうとか言ってたな。』
『派閥ってなに?』
『仲の良いグループみたいなもんだよ。』
『じゃあここのお稲荷様は違うグループってことなのかな?』
『かもな。でも気にすることないって。どうせそんなの大人の事情だし。それにここへ来ないと薬がもらえないんだし。』
『・・・・そうだよね。』
アカリさんの言いつけは気になるが、好奇心には勝てない。
稲荷神社を見渡すと、短い参道の向こうに階段があり、その上にはまた鳥居があった。
階段を登ると両脇には狐の像が控えていた。
奥には本殿がある。
あちこちに葉っぱが散っていて、草も茂っていた。
子ギツネたちは本殿へ近づき、扉の向こうにある御神体を覗き込んだ。
『お稲荷様、僕たちに薬を下さい。』
子ギツネたちはこう思っていた。
あんな不思議な薬を人間が作れるわけがない。
きっとこれはお稲荷様の秘薬なのだと。
だから本殿に祭ってある御神体に話しかけたのだが、返事は別の方向から飛んできた。
『お前らこれが欲しいのか?』
振り向けば人間の男が立っていた。
細身だが筋肉質で、獰猛な獣のような目をしていた。
手には例の薬を持っている。
『これ欲しさに来たんだろ?』
そう言って近づいてくる男に後ずさった。
『兄ちゃん・・・・、』
『ビビるなって・・・・。』
『そうそう、ビビることはない。俺はただコイツを配ることが仕事なんだから。』
『ぼ・・・僕たちの言葉が分かるの!?』
『これってもしかして・・・・、』
『そう、俺は霊獣だ。でもここに祭られている稲荷じゃないぜ。』
『え?違うの?』
『じゃあなんの霊獣?』
『んなことはお前らには関係ねえ。大事なのは薬が欲しいかどうかだろ?』
そう言って例の薬を振って見せた。
『欲しいならくれてやる。その代わり結果を聞かせてくれよ。』
『結果?』
『なんの?』
『だからこいつを使った感想だよ。なんでもいいんだ、ちょっと気になった事とかでもよ。』
『いいけど・・・・なんでそんなの知りたいの?』
『大人の事情ってやつさ。とにかく早く決めてくれ。ウダウダ言うならこいつはやらねえ。』
兄弟は迷った。
弟は不審に思い、『やめようか・・・』と弱気になる。
しかし兄は『平気だって』と強気だ。
『感想言うだけでもらえるんだから。』
『でもさ、もし人間のまま元に戻れなかったりしたら困るじゃん。』
弟の心配はもっともだったが、男は『解毒剤がある』と言った。
緑と黄色のカプセル剤を取り出し、『こいつを飲めば元通りだ』と。
『ちなみにこっちの感想も聞かせてくれよ。』
『いいよ。その代わりタダでくれるんだろ?』
兄は前に出てそれを欲しがる。
男は『ああ』と頷き、薬を渡した。
『俺はいつでもここにいるからよ。使い終わったら感想を言いに来てくれよ。』
『わかった。』
兄は喜んで薬を飲む。そしてさっきと同じように人間に変わった。
『早速飲んじまうのか。』
男は笑う。そして『気をつけろよ』と言った。
『人間になると動物の言葉は分からなくなるからな。困ったことがあっても同族を頼れねえぜ。』
『そうなの!でもまあ・・・・これがあるから平気かな。』
解毒剤。
もし仲間の助けが必要になればこれを飲めばいい。
兄は『お前も飲めよ』と促した。
弟は『ヒャオン!』と甲高い犬のような声で返事をした。
『ほんとだ・・・ただの鳴き声にしか聞こえなくなってる。』
『そいつも一緒だぜ。お前が何言ってるのか分かってねえ。』
『マジで?』
『そりゃ人間だからな。』
『早く飲ませてやんな』と急かされて、弟の口の中に放り込んだ。
煙が上がり、人間に変わる。
『兄ちゃん!いきなり飲ますなよ!』
『悪い悪い。だってこうしないと言葉が通じないからさ。』
『・・・やっぱ怖くなってきたな。元に戻りたいよ。』
『何言ってんだよ。これから人間の街へ探索に行こうぜ。ぜったいに面白いからさ。』
意気揚々とはしゃぐ兄、不安と心配に悩まされる弟。
男は『喧嘩するなよ』と笑った。
『街へ行きたいなら集落を下っていくといいぜ。麓の村まで出られるからよ。あとはヒッチハイクでもして街まで乗っけてもらうんだな。』
『ヒッチハイクってなに?』
『こうやって親指立ててりゃ、お人好しが車に乗っけてくれるのさ。』
『でも僕らお金持ってないんだけど。』
『んなもんいらねえよ。タクシーじゃねえんだから。』
背中を向け、『じゃあな』と手を振りながら去って行く。
少年たちはその姿を見送ると、教えられたとおりに集落の下へ伸びる道を向かった。
やがてさっきの集落より大きな村が見えてきた。
『ヒッチハイクってのをすればいいんだよな。』
道路に出て車を待つが、一向にやって来ない。
すると弟が『あそこバス停じゃない?』と指さした。
『でもバスはお金がいるんだぜ。』
『そっか・・・じゃあ車が来るのを待つしかないか。』
それからしばらく待ってみたが、やはり車は来なかった。
結局この日は街へ行くことを諦め、解毒剤を使って元に戻った。
夜、アカリさんが帰ってきて、『今日は街へ行かなかったでしょうね』と言った。
兄弟は『行ってないよ』とウソをついた。もちろん薬のことも喋らなかった。
そして翌日、またあの稲荷神社へ向かい、薬をもらった。
『こんなにすぐ新しいのをもらいに来たのはお前らが初めてだ。これで最後だからな。』
薬を受け取った兄弟は計画を練った。
あの集落から街へ出るのは難しい。
だったら家の神社で使ってから街へ出ることにしたのだ。
翌日、アカリさんが仕事へ向かったあと、薬を使って人間になった。
そして街へ向かったのだが、時刻はまだ午前六時前。
ほとんど人もおらず、開いている店も少なかった。
こんな街を探索しても面白くない。
そう思った兄弟は母のいる街へ向かうことにした。
最初はヒッチハイクをしようかと思った。
しかし近くのコンビニにトラックが停まっているのを見て、兄がこう提案した。
『あのトラックに忍び込もうぜ。』
『でもお母さんのいる街へ行くとは限らないんじゃない?』
『そんなの乗ってみれば分かるよ。もし違ってたら降りればいいんだし。』
強引な兄に引っ張られて、こっそりとトラックに忍び込んだのだ。
そのトラックは岡山から東に向かった。
高速道路に乗って、母のいる街へ近づいていく。
そしてサービスエリアで停まり、運転手はトイレへ向かった。
兄弟はこの隙にトラックを抜け出し、立ち入り禁止の階段を通って高速道路を降りた。
ラッキーなことに、そこはちょうどこがねの湯から近い場所だった。
『おいやったぜ!あれぜったいにお母さんが働いてる所だ。』
『うん、よくお母さんが言ってる建物と似てるもんね。』
少し近づいてみると看板が見えた。
そこにはこがねの湯と書いてある。
母から教わった、唯一読める文字だった。
いきなり会いにいったら驚くだろう。
そしてあんな遠い場所から会いに来たことに喜んでくれるはずだ。
兄はそう思っていた。
しかし弟はまだ不安で、しかもお腹が空いていた。
『兄ちゃん、なにか食べたい。』
『そうだな、俺も腹が減った。』
『ネズミでも捕まえる?』
『この姿じゃ無理だろうな。人間って鈍いから。』
『どうしよう・・・・。』
『人間が餌を食う所に行こうぜ。』
『そんなのどこにあるの?』
『前にお母さんが言ってたんだ、街にはファミレスっていうのがあるって。』
兄弟はこがねの湯から離れ、市街地へ向かった。
しかし何がどこにあるのか分からない。
だから思い切って道行く人に尋ねてみた。
『ファミレスってどこにありますか?』
犬を散歩させていたおじさんは『すぐそこだ』と教えてくれた。
それがさっきまでいたあのファミレスだった。
食い逃げして捕まり、代わりにマサカリがお金払って、どうにか見逃してもらったのだ。
ここまでのことをすればアカリさんが怒るのも当然だ。
けどこの子たちだけを責めるわけにはいかない。
一番悪いのは薬を渡した謎の男である。
例の薬を持っていたということはカグラの関係者か?あるいはどこかで拾っただけなのか?
・・・・おそらく前者だと思う。
遠藤さんは言っていた。鬼神川たちの真の目的を。
それは世の中を霊獣の住みやすい世界に変えてしまうこと。
その為には人間を排除しなければいけない。
じゃあどうやって排除するかというと、動物に変えてしまうのだ。
代わりに動物たちを人間に変え、霊獣に都合の良いように教育し、手足としてコキ使うのである。
モンブランたちを見ていれば分かるが、人間になりたての動物は常識に疎い。
いわば人間として真っ白な状態だ。
そこへ都合の良い教育を施せば、間違ったことでも正しいと思うようになるだろう。
じゃあどうしてそんなことをするのか?
『鬼神川が言うには「ある御方」がそう望んでいるからだって言ってたわ。それが誰なのか教えてくれなかったけど。
でも「ある御方」の望みは鬼神川たちにとっても都合のいいものだそうよ。上手くいけな稲荷の勢力を拡大できるからって。』
遠藤さんはそう言っていた。
要するに稲荷の力を拡大させる為に、こんな薬をばら撒いているのだ。
しかもこれはカグラの単独犯ではなく、ライバル会社のカマクラ家具が関わっている可能性もあると言っていた。
なぜなら鬼神川がちょくちょく向こうの役員と会っていたからだ。
名前はたしか・・・・そう、常務の豊川だ。
『これは私の勘だけど、あの豊川って人もお稲荷さんじゃないかって思うのよね。なんか普通の人間って感じがしなくてさ。』
それは大いに有りうることだと思った。
なぜならカマクラ家具はダキニが社長をやっていた会社だ。
だったら奴以外にも稲荷がいたっておかしくない。ていうか多分いるだろう。
そう考えると、ふと閃くものがあった。
鬼神川の言う「ある御方」とはダキニのことなんじゃないかと。
人間の世を霊獣の世に変えてしまう・・・・・ダキニならじゅうぶんに考えそうなことだ。
次から次へと問題が出てきて、どこから対処していいのか分からない。
優先順位をつけるとしたら、遠藤さんから依頼された、薬で人間に変わってしまった動物の捜索だろう。
お店を開ける準備が終わればモンブランたちは解放されるから、また街へ聞き込みに行こう。
そう思っていると、突然子ギツネたちが苦しみ始めた。
フラフラとよろけて倒れてしまう。
呼吸が苦しいのか大きく口を開け、やがて泡まで吹き始めた。
「ウズメさん!」
叫ぶのと同時に「どうしたの!?」と抱きかかえる。
「大丈夫!?ちょっと!」
「息が・・・・、」
「胸が苦しい・・・・、」
ヒューヒューと息を漏らし、痙攣を始める。
そしてすぐに気を失ってしまった。
「ちょっと!しっかり!!」
二匹を抱き上げ、急いで駆け出して行く。
「ウズメさん!」
「病院へ連れて行くわ!あとお願い!!」
いったいなんなんだ・・・・。
どうしていきなり苦しみ始めて・・・・、
「有川さん!」
今度は松川くんが血相を変えてやって来た。
「大変です!モンブランさんとマサカリさんが・・・・、」
「どうした!?」
「苦しいって倒れちゃったんですよ!」
「なんだってえ!!」
こっちまで病人が。
マジでどうなってるんだ・・・・。
アカリさんが二人を肩に担いで駆け込んでくる。
「大変よ!この子たち急に倒れちゃって!」
「モンブラン!マサカリ!大丈夫か!?」
「いま救急車呼ぶから!」
そう言って電話を掛けようとする。
しかしその手を止めて「あの子たちは?」と首をかしげた。
「実はアカリさんの息子さんたちも苦しいって言って・・・・、」
「はあ!?」
「さっきウズメさんが病院へ連れて行きました。」
「・・・・・・・。」
受話器を握ったまま固まっている。
するとマシロー君が「行ってあげて下さい」と言った。
「モンブランさんたちは僕らに任せて。」
そう言ってもアカリさんは動かない。
まるで金縛りにでもあってるみたいに。
顔からは血の気が引いていた。
松川くんが「アカリさん!」と叫ぶ。
「こっちは僕がやるんで子供さんの所へ!」
背中を押して事務所から連れ出す。
「たぶんアナグマ動物病院ですよ!あそこの獣医さんも霊獣だから!ここからならそう遠くないから早く!!」
グイグイと背中を押して店の外へ連れて行く。
マシロー君は受話器を取り、器用にプッシュボタンを押した。
「・・・もしもし?救急車をお願いします。場所はこがねの湯、スタッフが苦しいって倒れてしまって・・・・、」
マシロー君・・・・君はなんて冷静で頼りになる奴なんだ。
そしてなんで俺はこんな時に子犬なんだ!
苦しむモンブランとマサカリを前になにも出来ないなんて・・・・。
二人共お腹を押さえ、こんなに苦しそうにしているのに・・・・。
「うう・・・・ヤバイぜこれ・・・・、」
「マサカリ!しっかりしろ!!」
「ダメ・・・・もう・・・・我慢できない・・・・、」
「モンブラン!大丈夫か!」
「と・・・・、」
「と?」
「トイレに・・・・、」
「へ?トイレ?」
二人はよろよろと立ち上がり、バックヤードのトイレに入っていく。
そして数分後、すっきりした顔で出てきた。
「いやあ!危うく漏らすとこだったぜ。ファミレスで食い過ぎちまったみてえだ。」
「・・・・・・・。」
「私もヤバったかたわあ。ドリンクバーだっけ?あれで冷たい物飲みすぎたみたい。」
「・・・・・・・。」
「悠一、ちょっとパンツが汚れちまってよ。悪りいけど新しいの買って来てくれねえか?」
「私はあったかい飲み物お願い。女の子はお腹冷やすと良くないし。」
二人ともケロっとしている。
どうやら子ギツネたちとは違う理由で苦しんでいたらしい。
それから数分後、今度はチュウベエとマリナが倒れた。
チュウベエはサウナでふざけていて、マリナは水風呂に浸りすぎたせいで。
「あっちい〜・・・・蒸し焼きになっちまう・・・・。」
「いくら人間でも冷えすぎると動けなくなるのね・・・・。」
いったいこいつらはなんなのか?
どうしてトラブルを起こさないと気がすまないのか?
マシロー君が「すみません。救急車はキャンセルで」と電話を切った。

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