稲松文具店〜燃える平社員と動物探偵〜第二部 第十三話 二人の狼男(1)

  • 2018.11.18 Sunday
  • 10:24

JUGEMテーマ:自作小説

たくさんの急患が運ばれてくると、病院はパニックになる。
小さな病院となれば尚更だし、時間だって夜だ。
ここはアナグマ動物病院。
霊獣が獣医をやっている変わった病院だ。
「お前ら大丈夫か!しっかりしろ!!」
ベッドに寝かされた急患をチェリー君が励ましている。
その数12人、医者が一人しかいないこの病院ではとても手が回らなかった。
ずんぐりした角刈りの医者が「いったいどうなんてんだ!」と叫んだ。
「こんなにいっせいに中毒を起こすなんて!なに食ったんだ!?」
チェリー君を呼びにきたぽっちゃりした女が「なにって・・・」とたじろいでいた。
「どうせ変なモン食ったんだろう!」
「そんなの食べてません!人間はお腹を壊しやすいから、安全な物しか食べちゃダメだって先生が言ってたから。」
そう言ってチェリー君を振り返る。
「ですよね先生?」
「その通りだ。でもこうして中毒が起きてる。てことはつまり・・・・、」
チェリー君はアカリさんに目配せする。
「アンタの子供と同じで、やっぱ例の薬のせいでこうなったとしたか・・・・。」
アカリさんは何も答えない。
険しい表情で急患を見つめているだけだった。
先生には事情を話してある。
例の薬のせいで彼らは人間に変わってしまったと。
けど薬との因果関係がハッキリしていないから、まだ断定は出来ないんだろう。
薬のせいかもしれないし、変な物を食べたせいかもしれないし。
「とりあえずの処置は終わったが、油断できない状態だ。もしこれ以上急患が来ても対応できんからな。」
先生もいっぱいいっぱいなんだろう。
看護師は5人ほどいるらしいけど、今いるのは一人だけ。この看護師も霊獣なのだ。
たった二人でこの状況に対応しなきゃいけないわけで、そりゃパニックにもなるってもんだ。
「ただの怪我ならウズメさんに頼めばどうにか出来るのに。」
アカリさんが呟く。
位の高い霊獣は強い治癒力を持っている。
それを分け与えることで、致命傷になる怪我でさえ回復させることが出来るのだ。
ウズメさんの力で、俺の婚約者も怪我を治してもらったことがある。
でも中毒となるとそうもいかない。
それこそ原因の分からない中毒なら余計に。
医者は「邪魔だから出てってくれ」と言った。
「何かあったらすぐに連絡するから。」
「でもよお・・・、」
チェリー君が食い下がるが、「さっさと出ろ!」と追い出された。
彼らの仲間の女だけ残し、俺たちは病院の外にあるベンチに座った。
《アカリさんの子供たち、そして今運んできた急患たち。どっちにも共通するのは例の薬を飲んだってことだ。ぜったいに無関係なわけがない。》
あの薬はアナグマ医師に渡してあるので、結果が出たら教えてくれるだろう。
今の俺たちにできることは、とにかく回復を願うことだけだった。
チェリー君がベンチから立ち上がり、「行こうぜ」と言った。
「医者の言う通り、俺たちがここにいても意味ねえ。」
ポケットに手を突っ込みながら三輪車へ歩いて行く。
まるでバイクに乗るみたいに大げさに跨って、キコキコとペダルを漕いだ。
「行こうぜ、薬を渡した奴らの所によ。」
あれで岡山まで行くつもりなんだろうか・・・・。
まだ歩いていった方が早いだろう。
アカリさんも立ち上がり、「行こ」と言った。
「私の可愛い子供たちをこんな目に遭わせた奴らを殺しに。」
決意は変わらないようである。
表情はさっきより落ち着いているけど、殺気はそのままだ。
「薬を渡した奴は、たぶん岡山に逃げたはず。」
「・・・・本気で殺す気なんですか?」
「ええ。」
「・・・・・・・・・。」
「殺すのは私の役目、アンタは見つけるのを手伝ってくれればいいから。」
「でも俺はそういうことは・・・・、」
「アンタは何も気にしなくていい。手を下すのは私なんだから。」
「それは分かってます、分かってますけど・・・・、」
「モンブランがどうなってもいいの?」
「え?」
「あの子も一緒にいなくなった。てことはロッキーって奴が連れ去ったってことでしょ?」
「そうなりますね。」
「これはただの勘だけど、そのロッキーって奴も霊獣だと思うわ。」
「あの間抜けな奴が?」
「きっと演技してたのよ。わざと目立つことして動物たちを引き寄せてたんだわ。このままほうっておいたらモンブランだって何をされるか分からない。
もしあの子に何かあったら悠一君は冷静でいられる?病院に担ぎ込まれたら平気でいられる?」
「そんなの無理ですよ!もしそんなことになったらぜったいにロッキーを許しません。」
「それが今の私の気持ち。だから力を貸してよ。」
「でも・・・・今の俺はただの子犬ですよ?力を貸せって言われても・・・・、」
「ただの子犬じゃないわ。たぶんだけど、あんたは動物と人間の両方と話せるはずよ。」
「無理ですよ。だって俺の言葉は人間には通じてないから・・・・、」
「でもモンブランたちとは普通に話してるじゃない。」
「・・・ほんとだ、なんでだろう?」
言われて気づく。
「それにマシローってハリネズミは両方と話せるんでしょ?だったらあんたも出来るわよ。その力はきっと役に立つ。」
「あの子は特殊ですよ。あんな変わった動物は初めてで・・・・、」
そう言いかけて重大なことに気づく。
「マシロー君もいなくなってる!」
今気づいた。さっきまでバタバタしてたから・・・・。
「もしかしてさっきの河原に置いてきちゃったのか?」
「それはないと思うわ。だって私が来た時にはいなかったから。」
「ええ!ということはまさか・・・・、」
「あの子もさらわれたのかもしれない。」
「そんな・・・・、」
「モンブランにマシロー君、二人も仲間がさらわれてじっとしてられないでしょ?だから行こう。ウズメさんの神社から私の神社までワープすればすぐだから。」
アカリさんは歩き出す。チェリー君に「そっちじゃない、こっちよ」と手招きしていた。
三輪車が向きを変え、キコキコとあとを追っていく。
俺は病院を振り返り、自分がどうするべきか迷った。
子供を傷つけられたアカリさん、人間に変わった動物たちを傷つけられたチェリー君。
それがどれほど痛いものか想像するのは難しくない。
きっとチェリー君はアカリさんに手を貸すだろう。
その目的が復讐の為の殺しでも。
彼は俺と違って迷いがない。
根は優しいけどやる時はやる。そういう男だ。
《もしこの病院にいるのがモンブランだったら?マシロー君だって遠藤さんから預かってる大事な動物だ。それを傷つけられたら・・・・。》
商店街のある大通りは明るかったけど、ここは街の外れだ。
夜になれば暗闇に包まれ、ポツポツと点在する街灯の光だけが頼りになる。
ふと顔を上げると、一番近い場所にある街灯の下、スポットライトのように光が差す中に、誰かが佇んでいた。
「あれは・・・・、」
若い男だった。
細面の整った顔立ちをしていて、真っ白なスーツを着ている。
そいつはじっと俺を見つめながら、アカリさんが歩いて行く方に指をさした。
まるでついて行けと言わんばかりに。
アカリさんの方を振り向き、また街灯に目を戻すと、男はいなくなっていた。
「・・・・誰だったんだ今の。」
首を傾げる。
あんな知り合いはいないし、しかもいつの間にかいなくなってるし。
まさか幽霊?と思ったが、どうもそういう感じではない気がした。
「悠一君!」
遠くからアカリさんが呼ぶ。
俺はもう一度病院を振り返り、ここに運ばれたのがモンブランだったら?と想像した。
マサカリだったら?チュウベエだったら?マリナだったら?
あいつらがここで生死の境を彷徨っているとしたら・・・・・。
「・・・・行くか。」
誰かを殺すなんて賛成できない。
けどそれを上回るほどの使命感が湧き上がる。
これ以上あんな薬のせいで苦しむ者を出したくないと。
さっきの男はいったいなんだったのか気になるけど、今はそれどころじゃない。
トコトコとアカリさんを追いかけていくと、ヒョイっと抱き上げられた。
「急ぐわよ。」
尻尾が四本ある大きな狐に変わる。
ウズメさんほどではないにしても迫力のある姿だ。
「ちょっとアンタ!いつまでもそんなもん漕いでないで!置いてくわよ!!」
アカリさんは弾丸のように駆け出す。
夜の街を軽快に走り抜け、途中ですれ違った車のドライバーが目を丸くしていた。
向かった先はこがねの湯。
この近くにウズメさんの神社があるのだ。
駐車場の向かい、真っ赤な鳥居のそびえる参道があって、大きな木立が壁のように並んでいる。
その先には砂利敷きの境内が広がっていて、真ん中に古びた本殿が鎮座していた。
アカリさんは元の姿に戻り、御神体が祭られている扉の前に立つ。
その時、背後で何かが迫ってくる音がした。
振り返ると狼男みたいな怪物がこちらへ走ってきている。
首には真っ赤なマフラーを巻いていて、頭は金髪のリーゼントだ。
「あんた速すぎだぜ・・・・。」
ぜえぜえと息を切らしている。
この狼男みたいな怪物はチェリー君。霊獣に変化した時の姿であり、彼の正体でもある。
アカリさんは「アンタが遅すぎるのよ」とそっぽを向いた。
「まあ下っ端の霊獣じゃ仕方ないけど。」
「ぬかせ・・・俺はこう見えても秘獣なんだぜ。普通の奴にはない特殊能力を持ってんだ。」
「知ってる、ウズメさんから聞いたから。ぜったいに見破られない擬態が使えるんでしょ?」
「まあな。尾行や潜入、それに奇襲はお手のもんだぜ。」
誇らしそうに胸を張る。
アカリさんは「とっても役に立ちそう」と微笑んだ。
「私たち三人いれば奴らを見つけ出すのも難しくないわ。」
そう言って本殿の扉に飛び込んだ。
一瞬だけグニャっと空間が波打って、その次にワームホールみたいな奇妙な道へと引き込まれた。
凄まじい風が襲いかかる。
まるで嵐の直撃を受けているかのような。
《何度やっても慣れないんだよなこれ・・・・。》
はっきり言って怖い。
アカリさんがしっかり抱えてくれているけど、それでも吹き飛ばされるんじゃないかってほどだ。
しかしすぐに風はやんだ。
「もういいわよ」と言われて目を開けると、そこはアカリさんの神社。わすか数秒で岡山までやって来たのだ。
少し遅れてチェリー君が飛び出してくる。
すごい勢いで御神木にぶつかっていた。
「ぐあ!」
「ちょっと!私の神社傷つけないでよ。」
ブルブルっと首を振って、痛そうに頭を押さえていた。
「初めてなんだよワープすんの・・・・。気持ちのいいもんじゃねえな。」
「ブツブツ言わない。すぐに捜索を始めるわよ。」
神社を出ると、目の前には細い道が通っていた。
車がギリギリすれ違えるくらいの幅で、周りには民家も何もない。
道の向こうにあるのは山だけで、どこからか「ホーホー」とミミズクの声が響いていた。
「この山の向こうに寂れた集落があるの。あの子たちが薬をもらった神社もそこにある。」
「じゃあそこへ行けば薬を渡した奴に会えるってことですね。」
「ロッキーだっているかもしれないわ。」
「もし誰もいなかったら?」
「張り込みしましょ。それでも無理なら聞き込みね。」
そう言って真っ暗な山の中へ入って行く。
するとチェリー君が「まあ待てよ」と追いかけてきた。
「なによ?ていうかアンタいつまでその姿のままなの?」
「悪いかよ。」
「そんなんで近づいてったら目立つじゃない。気づいて逃げられたらどうすんのよ?」
「何言ってんだ。俺にはこれがあるんだぜ。」
スウっと透明になり、姿が見えなくなってしまう。擬態で周りの景色と同化したのだ。
アカリさんは「すごい!」と手を叩いた。
「見えないだけじゃなくて、霊力も気配も感じさせないなんて・・・・やるじゃない。」
チェリー君は擬態を解き、「だろお?」と上機嫌だ。
「まずは俺が行って様子を見るからよ。あんたらは後について来てくれよ。」
「OK、集落はこのまま真っ直ぐ行けば見えてくるわ。ああそれと、あんたじゃなくてアカリさんって呼ぶように。」
「なんでもいいだろ、呼び方なんて。」
「私の方が年上だし先輩。」
「そういう堅いの嫌いなんだ。」
「好き嫌いなんか聞いてないわ。常識的な話をしてるの。だいたい敬語くらい使えないの?」
「だからあ、そういうのが嫌いなんだよ。だいたい俺はあんたのこと先輩なんて思ってねえし・・・・、」
「あんたじゃなくてアカリさん。」
「ヤダね。俺は俺の呼びたいように呼ぶ。」
「あっそ。ならこうしてやるわ。」
尻尾を出して巻き付けようとする。
チェリー君は「うお!」と飛び退いた。
「何しやがる!」
「口で言っても分からないんじゃ体で教えるしかないでしょ?」
「おいおい、今の時代に体罰かよ。勘弁してくれ。」
「それは人間の世界の話、私たちは霊獣でしょ。こっちにはこっちの掟があるんだから。」
「そんな掟ねえだろ。」
「いいから敬語。」
「ヤダったらヤダね。」
険悪なムードになっていく。
アカリさんは規律や礼儀を大事にするのだ。
しかしチェリー君は自由を愛するパンクロッカーみたいなタイプだ。
根っこが違いすぎてまったく合わないようだった。
ここは俺が取りなすしかないだろう。
「まあまあ、喧嘩してても埓が明かないし。」
「なによアンタ、子犬のくせに。」
「躾ならあとからいくらでも出来ますから。今は薬を渡した奴を捕まえることが先でしょ?」
「捕まえるんじゃなくて殺すのよ。誰がそんな生ぬるい罰で許すか。」
今日のアカリさんは一段と殺気立っている。事情が事情だから仕方ないけど。
しかしチェリー君は決してひれ伏さない。
「あんたみてえなオバサンの言うことなんて聞けないね。」
「おばさん?」
目つきが変わる。怖いよ・・・・。
「だいたいあんたは俺より年下だろ。それに霊獣としても後輩だ。」
そう、チェリー君の言う通りなのだ。
実は彼の方が年齢もキャリアも上である。
なぜならアカリさんは数年前の事故が原因で稲荷になったからだ。
対してチェリー君は何十年も前から生きている。
けどここまで挑発してしまっては、そんな理屈も通用しないだろう。
その証拠に全ての尻尾を出してチェリー君を締め上げようとした。
「だから危ねえって!」
「こっちは稲荷なのよ。しかも聖獣。立場も位も上なんだから先輩に決まってるでしょ。」
「だからなんだってんだ。すぐ手を出そうとする乱暴モンがよ。ウチのオテンバの姉貴だってもっとお淑やかだぜ。」
「あんたの身内のことなんか知らないわよ。」
「だからやめろって!」
マズい・・・・ここで喧嘩なんかされたら事が進まなくなる。
けど子犬の俺では止めようがない。いや、もし人間だったとしても無理だけど・・・・。
「ふん!こんなオバサンとやってられっか。」
「あんたの方が年上でしょ。」
「性格がって意味だ。」
「・・・・いいわ、先にあんたを血祭りに上げてやる。」
アカリさんは大きな狐へと変わる。
鼻先に皺を寄せながら、鋭い牙をむき出しにした。
しかしその瞬間、チェリー君はスウっと消えてしまった。
「逃げる気?」
アカリさんは辺りの気配を窺うけど、見つけることは無理だった。
数秒後、少し離れた場所にチェリー君が現れる。
「オバサンと子犬はここにいな。俺が薬を渡した野郎どもを捕まえてきてやるからよ。」
そう言い残し、また消えてしまった。
「なんなのあいつ。心の底からシバきたいんだけど。」
ジロっと俺を睨むので、「あとからよく言い聞かせておきます」と頭を下げた。
「根っこは悪い奴じゃないんでどうかご勘弁を。」
「自分だけで捕まえてくるって偉そうなこと言ってたわね。もし無理だったらボコボコにシバき倒して嫌ってほど説教してやる。」
ギラっと牙を光らせる。
だから怖いよ・・・・。
せめて人間の姿に戻ってほしい。
それからしばらくチェリー君を待った。
時計がないから分からないけど、20分くらいは経っているだろう。
「遅いですね。」
「・・・・・・・・。」
「なんかあったんですかね?」
「・・・・・・・・。」
「あの・・・・まだ怒ってます?」
「しくじったみたいよ、アイツ。」
「え?」
アカリさんは尻尾で前を指す。
暗い木立の中、何かがこちらに近づいていた。
人のシルエットに見えるけど、ちょっと様子がおかしい。
まるで犬みたいな息遣いが聞こえて・・・・、
「あれ?これってまさか・・・・、」
暗闇の向こうから奴が現れる。ロッキー君だ。
・・・・いや、彼一人じゃない。その手にチェリー君を引きずっていた。
「チェリー君!」
ノックアウトされたみたいにぐったりしている。
ロッキー君はヘラヘラ笑いながら「よ」と手を上げた。
「こんなとこまで追っかけてくるなんて。よくやるな。」
「おい!チェリー君に何した!?」
「ぶん殴った。」
「な・・・殴るって・・・。だって彼は・・・・、」
「ああ、擬態してた。でも弱点知ってんだよね、俺。」
「なんでお前が・・・」って言いかけようとしたけど、チェリー君は彼の先生だったのだ。
自慢したがりな彼のことだから、弱点までベラベラしゃべってしまったんだろう。
「擬態はとにかく神経をすり減らすんだってなあ。だから心を乱されると解けちまうって言ってぜ。」
その通りだ。全神経を集中させないと出来ない技なんだ。
だから心を乱されなくても二時間が限度なのである。
しかし・・・・、
「なんでチェリー君がいるって分かったんだ?いくら弱点を知ってても、近くにいるって分からなきゃ心を乱すことも出来ないはずなのに。」
「だって警戒してたもんよ、追いかけてくるんじゃないかって。こっちもそれなりの対処をしてたんだよ。」
「対処だって?」
ロッキー君はニヤリと笑う。
そして・・・・、
「あ・・・・。」
なんと彼も狼男みたいな姿に変わってしまった。
ていうか狼男そのものだ。
獰猛な狼の顔に、筋肉質な肉体、前身が灰色の毛で覆われている。
「やっぱり霊獣だったのか!」
「狼のな。」
「でもラブラドールの雑種だって言ってたじゃないか。」
「ウソに決まってんだろ。俺はハイイロオオカミって種類の霊獣なのさ。だからこういうことも出来る。」
口をすぼめ、空に向かって遠吠えを放った。
その音はだんだんと高くなっていき、耳がキンキンしてくる。
やがて耳鳴りがし始めて、頭まで痛くなってきた。
「おい!やめろ・・・・、」
ロッキー君はなおも吠え続ける。
頭が割れそうなほど痛い・・・・。
このままじゃ気絶する!・・・・そう思った時、ふと遠吠えがやんだ。
でも彼はまだ吠え続けている。
夜空を仰ぎ、喉を振動させながら。
すると今度はアカリさんが苦しそうに顔を歪めた。
「なるほど・・・そういうことか・・・、」
「ど、どういうことですか!?」
「超音波よ・・・・。ものすごい高音で遠吠えをすることで超音波を出してる・・・・・。」
「俺は何も聴こえませんけど・・・・。」
「霊獣の方が感覚が鋭いのよ・・・・。これをやられちゃ頭が痛くて仕方ない。心を乱されるわけだわ・・・。」
「それでえ擬態が解けたのか。」
はっきり言ってチェリー君は霊獣の中ではそこまで強くない。
もし相手が位の高い霊獣なら負けてしまう。
てことは・・・・、
「ロッキー君!お前はまさか神獣なのか?」
そう尋ねると遠吠えをやめた。
「残念ながらまだ神獣じゃないんだよねえ。ていうかそんなモンになりたくないし。」
「でもロッキー君を簡単にやっつけちゃうってことは、そこそこ位が高いんだろ?」
「まあね、これでも聖獣だから。でも出世する気はないぜ。偉くなる代わりに自由が利かなくなるからな。」
それを聞いたアカリさんが「お前もゆとりか」と睨んだ。
「チェリーといいお前といい、最近の霊獣は人間の若い子みたいなのが増えてる。」
「あんたが時代遅れなんだよオバサン。」
アカリさんの表情が固まる。
とうとうキレてしまったんだろう。
無表情のまま牙を剥き出していた。
「悠一君、ちょっと離れてて。」
「あ・・・はい!」
こうなってはもう止められない。
尻尾の毛が逆立ち、蛇みたいにウネウネと動く。
鋭い爪で地面を蹴り、ロッキー君に飛びかかった。
「殺す!」
「やってみろ。」
ロッキー君は素早く攻撃をかわし、また遠吠えを放った。
アカリさんの顔が苦しそうに歪む。
「この程度で・・・、」
体を一回転させて尻尾を叩きつける。
ロッキー君は達人のようにそれを受け流し、カウンターの回し蹴りを返した。
アカリさんはその蹴りを口で掴み、鋭い牙を突き立てる。
「いででで!」
メリメリと音を立てて牙が食い込んでいく。
ローッキー君は「このアマあ!」とアカリさんの頭を掴み、至近距離から超音波を放った。
「ぐッ・・・・、」
辛そうに顔を歪めながら、それでも足を離さない。
それどころか四本の尻尾でロッキーを締め上げた。
ミシミシっと骨が軋んでいる。
「ぎゃああああ!折れる折れる!」
こうなっては遠吠えも出来ない。
アカリさんは顎に力を込め、とうとうロッキーの足を食い千切ってしまった。
「ぎゃああああああ!」
赤い血が飛ぶ。
悲鳴がこだまする。
俺は《ひえ!》と目をそらした。
「許さねえ!許さねえぞこのアマ!」
普通はここまでされたら怯むと思うのだが、ロッキー君は逆だった。
怒りに火が着いたように暴れまくる。
しかし尻尾で締め上げられている以上、大した抵抗は出来ない。
アカリさんの顔は殺気に満ちていて、このまま絞め殺す気なんだろう。
でもロッキー君もしぶとい。
身をよじり、尻尾に噛み付いていた。
霊獣同士の喧嘩っていうのはいつもこうだ。
荒々しいというか血なま臭いというか、かなり凄惨なものになる。
呆気にとられながら戦いに見入っていると、「おい!」と後ろから声がした。
「ん?」
「ここだよここ!」
振り返ると茂みの中にイタチがいた。
「あんた何者だ!?」
「何者って・・・そっちこそ誰?」
「俺はこの先にある集落のモンだ!」
「集落のモンって・・・あんたイタチじゃないか。もしかして誰かに飼われてたのか?」
「違う、俺は人間だ!」
「・・・へ?」
どこからどう見てもイタチである。
怪訝に見つめていると、「あんたこそ誰なんだ?」と尋ねてきた。
「あんな大きなキツネを連れてきて・・・・いったい何するつもりだ!」
「何するって・・・・、」
「また妙な薬を飲ませる気じゃないだろうな!」
「薬って・・・あんたも?」
「あんたもって・・・あんたもか?」
「そうだよ、俺だって人間なんだ。でも変な薬のせいで子犬になっちゃったんだよ。」
「じゃあ・・・あんたも被害者か?」
「被害者?」
「狼男だよ!あいつが持ってる薬を飲まされたんだろう!?」
「狼男って・・・・まさかあいつのこと?」
ロッキー君に手を向けると、「違う!」と言った。
「あいつはただの手下だ。そうじゃなくて親玉の方だよ!」
「親玉ってなに?」
「だから集落の稲荷神社にいたデッカイ狼男だ!あんた知らないのか?」
「いや・・・知らない。」
「じゃあなんで薬を飲んだんだ?」
「それには色々とあって・・・。説明すると長くなる。」
話がまったく見えない。
でもこのイタチの言っていることが本当だとしたら、これは大変なことだ。
「もしかして集落の人たちって全員動物に変わっちゃったのか?」
「ああ、狼男のせいでな。しかも!しかもだ、代わりに動物が人間になっちまったんだよ!」
「ええ!なら集落は・・・・、」
「動物に乗っ取られちまった。」
「そんな・・・、」
「しかもみんな狼男に従ってやがるんだ。人間のせいで住処を奪われたとか、遊び半分で仲間が撃ち殺されたとか・・・。どいつも人間に恨みを持ってやがるんだ。
危うく俺も殺されるところだった・・・。」
「他の人たちは?」
「みんな山に逃げたよ。でもあいつら追って来やがるんだ。銃を持ってる奴もいる。」
「銃!」
「猟師が持ってた銃を奪ったんだよ。モタモタしてたら追いつかれて撃ち殺される。だから必死に逃げてたんだが、その途中であんたらを見つけたんだよ。」
そう言って不安そうな目で戦いを見つめている。
「あのキツネは強えな。たぶん勝っちまうだろう。」
「アカリさんはお稲荷さんなんだ。そんじょそこらの奴には負けないよ。」
「お稲荷さん?んな馬鹿な。」
可笑しそうに笑うので、「ほんとだよ」と言った。
「アカリさんは俺たちの味方なんだ。」
「俺たち?あんたしかいねえじゃねえか。」
「仲間がさらわれたんだ。モンブランっていう猫なんだけど、薬のせいで人間に変わっちゃって。
赤っぽい髪でショートカットで、猫っぽくて気の強そうな顔をしてるんだけど、見たことないか?」
そう尋ねると「おお!あの姉ちゃんか!」と頷いた。
「狼男の手下が連れてたぜ。ついでに変わったハリネズミも。なんと人間の言葉が分かるんだ。」
「やっぱりか・・・・。」
ロッキー君がさらったと見て間違いなさそうだ。
「モンブランは無事なんだよな?ハリネズミも。」
「それが・・・、」
急に表情を曇らせる。
「何かあったのか・・・・?」
「そのモンブランって子・・・・、」
「まさか・・・・酷い目に遭ってるとか?」
「酷い目?なんでだ?」
「なんでって・・・・モンブランはさらわれたんだ。今頃ひどい目に遭ってるんじゃないかって心配で。」
「さらわれた?俺にはそんな風には見えなかったけどなあ。」
「どういうこと?」
「だって彼女なんだろ、狼男の親玉の。」
「なッ・・・・そんなわけないだろ!」
「でも腕を組んでたぜ。ベタ惚れって感じでよ。」
「う、腕を・・・・、」
「あなたと結婚するとかなんとか言ってたけど・・・・あの子は狼男の彼女なんだろ?」
「・・・・・・・・。」
なるほど、そう来たか。
モンブランよ、お前はほんっとうに予想の斜め上をいく奴だな!
「式場とか日取りとか話してたぜ。幸せな家庭を築こうねってラブラブな感じだったけどなあ。」
ああ・・・そうですか。
要するにこれはあれだ。
誘拐じゃなくて駆け落ちなのかもしれない。
モンブランよ、俺はぜったいにそんな結婚は認めないからな!

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