稲松文具店〜燃える平社員と動物探偵〜第二部 第十六話 紫に染まる(2)

  • 2018.11.21 Wednesday
  • 11:07

JUGEMテーマ:自作小説

動物は夢を見るのか?
それは動物にしか分からないが、子犬になった俺は夢を見ていた。
この世の全ての人間と動物が入れ替わって、霊獣が支配する世の中になってしまった夢を。
これは夢だと夢の中で自覚している。
でも妙にリアルで恐怖を感じていた。
動物に変わった俺たち人間は虐げられていた。
住処を奪われ、スポーツとして銃に撃たれ、金の為に捕まえられて、見ず知らずのところへ売り飛ばされる。
それをやっているのは人間に変わった動物たちだ。
今までの恨みを晴らすように、みんな嬉しそうに元人間のことを虐めている。
そして彼等の後ろでそれを眺める者たちがいた。
稲荷、狼男、そして・・・・若い人間の男だ。
男は銃を抜き、霊獣たちに向ける。
鋭い炸裂音が響き、火花が飛び散る。
一匹の稲荷が銃弾に倒れ、動かなくなってしまう。
さらにもう一匹撃たれ、また一匹、一匹と、次々に銃弾に倒れていった。
そして狼男たちも・・・・・。
霊獣たちは死に絶え、残ったのは人間に変わった動物たちと、動物に変わった人間だけ。
男は銃をしまい、背中を向けて去って行く。
一瞬だけこちらを振り返り、俺と目が合った。
この男はどこかで見たことがある。
細面の整った顔立ち、この顔を見たのは・・・・・そうだ!昨日の夜だ。
街灯に照らされ、じっと俺のことを見つめていた。
あの時と同じ男が霊獣を撃ち殺し、あの時と同じような表情で佇んでいる。
その目は何かを言いたそうで、でも決して口を開こうとはしない。
ただ一つだけその目から感じることがあった。
この男は霊獣を憎んでいる。
理由は分からないけど、強い怒りと恨みが伝わってきた。
男はまた銃を抜き、空に向かって撃った。
乾いた炸裂音が響き、俺の夢は弾ける。
「・・・・・・・・・。」
ゆっくりと目を開けると、木目模様の天井が目に映った。
あちこちシミだらけで、雨漏りの跡もある。
「あれ?ここって・・・・、」
起き上がって周りを見渡すと、「お目覚めですかな?」と野太い声がした。
「源ちゃん!」
「よく寝ておられましたな。」
「あの・・・ここって・・・、」
「有川さんのアパートです。」
そう言って手を広げる。
ボロいタンス、爪痕だらけの畳、あちこち傷んだちゃぶ台、申し訳程度のキッチンに、動物たちのトイレ。
間違いなく俺の家だ。
「なんでここに・・・・?」
「カーチェイスの件、どうにかなりそうでしてな。」
「ほんとに!?」
「交通科の課長にちょっとばかし猫又の術をかけまして。あの件の捜査は終了するようにと暗示をかけたんです。」
「そんなこと出来るのか。すごいな源ちゃん。」
「ほんとは掟に反することなんですが、ウズメさんから猫又の長老に掛け合ってもらいました。今回は特例ということで。」
「助かったよ!ありがとう。」
フリフリ尻尾を振っていると、「いやいや」と苦笑いしていた。
「それより昨晩は大変だったそうですな。」
「そうなんだよ。狼男に襲われるわ、モンブランは駆け落ちするわ。それに薬の副作用で動物たちが病院に運ばれるわで。目が回るくらい大変だったよ。」
「マサカリさんたちから聞きました。そのあと病院へ行き、アカリさんという稲荷からも。」
「そういえばアカリさんの子供たちは?大丈夫なのか?」
「医者によれば快方に向かっているそうです。他の動物たちも命に別状はないようで。」
「よかった・・・・それが一番心配だったんだ。」
「しばらくは入院する必要があるそうですが、もう平気でしょう。問題は有川さんたちの方ですぞ。」
「ん?なにが?」
「副作用です。今のところ異変はないようですが、いつ発症するか分かりません。マサカリさんたちには病院で検査を受けてもらっています。」
「それでアイツらいないのか。」
部屋には俺と源ちゃんだけなのでおかしいと思ったのだ。
でも・・・・、
「遠藤さんは?」
「逮捕しました。」
「ええ!なんでいきなり・・・・。」
「なんでも何も、奴は盗撮をしていますから。」
「でもそれは別件でしょ。本命は薬のはずだよね。こればっかりはカグラを調査しないと分からないんじゃ。」
「だからしました。」
「いつの間に!?」
「有川さんが寝ている間にです。」
そう言って壁の時計を指す。
「夕方の四時!半日も眠ってたのか・・・・。」
「最近は気の休まる時がなかったでしょう?そして昨日は徹夜。そりゃ泥のようにも眠りますよ。」
「おかげでスッキリしたよ。話を戻すけど、カグラを調査したって言ったよね?たった一日で出来るもんなの?」
「私一人じゃ無理だったでしょうな。」
「なら協力してくれた人がいるんだな。」
「ええ。元カグラの社員が。」
「いつの間にそんな人と接触してたんだ?」
「ずっと前からですよ。もっとも彼女がカグラにいたのを知ったのは昨日のことですが。」
「彼女?なら女性?」
「そうです。有川さんもよくご存知の方です。」
「でも俺はカグラに知り合いなんていないぞ。」
「会えば分かりますよ。」
「誰だろう?まさか・・・翔子さん?」
「いえ、彼女は本社の人間ですから。」
「他に思いつかない。」
「正確には社員のフリをして潜入していたんです。カグラを調べる為に。」
「まるでスパイじゃないか。」
「あの会社はガードが固くね。外からだと手が出せんのですわ。そこで身分を隠し、社員として採用されることで潜入していたんです。
技術部へ潜入していたから、カグラの秘密をたくさん知っておるわけですな。」
「そんな人が協力してくれるなら心強いよ。俺も会ってみたいな。」
「そのうち顔を会わすことになるでしょう。」
そう言ってズズっとお茶をすすった。
「あ、これ勝手に淹れさせてもらいました。」
「好きなだけ飲んでよ。それより教えてくれないか?その人のおかげで何が分かったの?」
「遠藤の正体です。」
「正体?まさか彼も霊獣っていうんじゃ・・・・、」
「いやいや、奴は紛れもない人間です。」
「なら正体ってどういうこと?」
「あの男、その日暮らしのオカマのように見せかけて、実はカマクラ家具の社員だったんですよ。」
「えええ!無職じゃなかったの?」
「無職の期間があったのは事実でしょう。しかしカグラを辞めたあと、カマクラ家具に入社しておるんです。」
「なんで!?」
「身を守る為でしょうな。」
「それは・・・薬の開発に関わったせいで、カグラから狙われるかもしれないから?」
「だと思います。よほどカグラの鬼神川を恐れているんでしょう。身を守る為にはライバル会社に行くしかないと思ったんでしょうな。
ただ普通に行ったところで現場の社員がせいぜい。それじゃ身を守ることは出来ない。」
「鬼神川って奴から逃れるには、それなりのポストに就かなきゃダメってことか?」
「そうです。そこである物を手土産にしたんですわ。何か分かりますかな?」
「・・・・例の薬?」
「薬じゃありません。あれは厳重に管理してあるそうですから、そう簡単に持ち出しは出来んでしょう。」
「じゃあ何を手土産にしたのさ?」
「とある情報です。」
「情報?」
「ええ、カグラの中でもトップシークレットの。」
「そ、それはどんな!?」
「社長、伊藤秀典に関する情報です。」
「伊藤秀典・・・。なにか秘密のある人?」
「カグラは神道系の稲荷が仕切っている会社です。筆頭は鬼神川ですな。しかし奴は副社長、その上に社長の伊藤秀典がおるわけです。」
「ということはその伊藤って人もお稲荷さん?」
「いえ、遠藤が言うにはただの人間だそうです。」
「人間って・・・ただの人間がお稲荷さんの上に立てるもんなの?」
「普通は無理でしょうな。しかし遠藤の話によれば、拳銃で脅していたのを見たことがあると。」
「拳銃?そんなのお稲荷さんに効かないでしょ。」
「どうも通常の弾丸ではないようでしてな。紫色をした特殊な弾丸のようです。」
「紫って珍しいな。普通はもっと金属っぽい色じゃないの?」
「ええ。拳銃なら鉛色が普通です。紫の弾丸など聞いたこともない。しかし遠藤はたしかに見たと言っておりましてな。
鬼神川と一緒に社長室に呼ばれた時、伊藤が紫色の弾丸をいじっているのを。
そいつを銃に込め、鬼神川に突きつけると顔が強ばっていたそうです。」
「自分の部下に銃を突きつけるって・・・その人も大概だな。」
「部下がミスをする度に銃で脅していたそうです。そしてこんなことを口走ることもあったとか。」
「どんなこと?」
「霊獣なんてみんないなくなっちまえと。」
「それは・・・霊獣を恨んでるってこと?」
「そういう口ぶりで話すこともあったようですな。しかし一番の問題は紫の弾丸だ。鬼神川を脅せるほどとなると、これは相当に恐ろしい武器です。
私も長年猫又をやっておりますが、そんな弾丸は初めて聞いた。」
「源ちゃんでも知らないってかなりレアな物なんじゃない?」
「おそらく伊藤のオリジナルかと思います。これは霊獣にとって脅威です。その弾丸が量産されれば、人間は霊獣を恐れなくなる。」
「でもそんな弾丸どうやって作ったんだろう。ただの人間には作れない気がするけど?」
「だからこそ伊藤には秘密があるんです。そして遠藤はその秘密を知っているという。それを手土産にカマクラ家具へ身を寄せたわけです。おかげで奴のポストは取締役だ。」
「取締役!それってめちゃくちゃ偉いんじゃないの?」
「重役の一人です。ただし経営には関わっていないでしょう。身を守る為に与えてもらったポストでしょうな。」
「そういえば遠藤さん、怖くて夜も眠れないって言ってたからな。そうまでしてカグラから逃げたかったんだ。」
彼の身になると少し可哀想になってくる。
自業自得な部分があるとはいえ、まったく同情できないわけじゃない。
「で・・・・肝心の伊藤って人の秘密は?」
これが一番気になる。
もしそんな弾丸が作れるなら、人間は霊獣と対等な立場になれる。
霊獣にとってこれほど脅威なことはないだろう。
「そんな弾丸どうやって作るんだ?伊藤って人の秘密っていったい?」
源ちゃんはズズっとお茶をすする。
そして険しい顔でこう言った。
「無闇に他言しないと約束してくれますかな?」
「約束する。」
「では教えましょう。奴はある霊獣と契約を結んでいるんです。」
「霊獣と契約って・・・どういう意味?」
「伊藤自身はただの人間です。しかし力のある霊獣と契約を結ぶことで、人ならざる力を手に入れたということです。」
「そんなこと出来るの?」
「霊獣には様々な能力を持つ者がおりましてな。中には自分の力を他人に与えることが出来る霊獣もいます。」
「じゃあその力を受け取った人間は、霊獣と同じような力を持つってこと?」
「そういうことです。」
「人間でありながら霊獣と同じ力って・・・・それ無敵に近いじゃん。だって霊獣の掟を気にすることなく力を使えるってことだろ?」
「そうです。制約のない大きな力ほど恐ろしいものはない。しかし契約はタダでというわけにはいきません。人間側も見返りを差し出さなければいけない。」
「例えば?」
「契約相手の霊獣次第ですな。命を見返りに取る者もいれば、運気を吸う者もいる。莫大な金を要求する者もいるし、契約者の愛する者を差し出せと言う者もいる。」
「どれも酷いな。でも霊獣の力が手に入るなら契約しちゃう奴もいるんだろうな。」
「伊藤もその一人です。そして契約相手は狼の霊獣である可能性が高い。」
「狼?それも遠藤さんが言ってたの?」
「ええ。たまたま目撃したそうです。ある日のこと、仕事に追われて深夜まで残業していたそうです。
気晴らしにと途中で会社を抜け、近所のコンビニに出かけたらしいんですが、帰り道で奇妙な光景を見たというんです。」
「どんな?」
「人通りのない路地で伊藤を見たそうなんです。ポツンと街灯の下に立って、まるで誰かと話している風だったと言っていました。
その時は独り言を呟いているようにしか見えなかったそうなんですが、よく目を凝らすと、街灯の光の中に何かがいることに気づいたそうです。
それは光と同じくらいに真っ白に光る狼だったと言っていました。」
「光る狼・・・・。」
「最初は犬かと思ったようですが、それにしては身体も大きく、顔つきも鋭かったと。狼は伊藤に何かを話しかけあと、自分の血を飲ませたそうです。」
「ええ!自分の血って・・・・どうやって!」
「自分で自分の前足に噛み付いたと言っていました。伊藤はひざまづき、狼の前足から流れ落ちる血を飲んでいたと。
遠藤は呆気に取られながらその光景を眺めていたそうなんですが・・・・、」
「なにかあったの?」
「狼がこちらを向いたそうなんです。目が合った瞬間、ヘビに睨まれたカエルのように動けなくなったと言っていました。
全身に鳥肌が立つほど鋭い眼光で、殺されると竦んだそうです。
そして伊藤も振り返ったと言っていました。奴の顔を見て、遠藤はさらに竦み上がったそうです。」
「そりゃ怖いでしょ。俺もぜったいにビビるよ。」
「でしょうな。しかし目が会っただけが理由で竦み上がったんじゃないです。」
「もしかして脅されたとか?」
「いえ、伊藤の目が紫に染まっていたというんです。」
「紫に?」
「しかも怪しく光っていたと。そして狼の目も紫に光り、更には血の色も紫だと言っていました。」
「血って・・・・その狼の血?」
「ええ。きっとその血のせいで伊藤の目も同じ色に染まったんだろうと。」
「ということは、狼の血を飲むことで霊獣の力を手に入れたと?」
「私はそう考えとります。なぜなら伊藤が持っていた弾丸の色も紫だ。おそらくその霊獣の力を使って特殊な弾丸を作り出しているんでしょう。
これはあの薬の件と同じくらい・・・・いや、それ以上に大きな問題です。我々霊獣にとっては。」
「その弾丸があれば人間でも霊獣に勝てるわけだもんな。源ちゃんたちにとっては由々しき問題だよな。」
「遠藤はとんでもない現場を目撃してしまった。しかし伊藤は何も言ってこなかったそうです。
翌日、会社で顔を会わせてもいつも通りだったとか。それが逆に怖かったと言っていました。」
「目撃者が遠藤さんだと気づかなかったのかな?」
「分かりません。しかし遠藤が重大な秘密を目撃してしまったことは確かです。これは薬以上にヤバい事実なんじゃないか?もし目撃者が自分だとバレたら消されるんじゃないか?
取り調べで話している時、遠藤は自分で自分の腕を抱くほど震えていました。なぜなら伊藤は会社のトップ、鬼神川よりも上の立場です。
副社長ですら恐ろしいのに、その上の社長の秘密を知ってしまった。しかも薬の件は鬼神川から指示されてやっていたことだが、伊藤の件はたまたま目撃してしまっただけ。
となるといつ殺されてもおかしくない。早くカグラを離れないとと決心したそうです。
遠藤が本当に怖がっていたのは伊藤の秘密です。ライバル会社のカマクラ家具に庇護を求めたのは、それが一番の理由でしょうな。」
一息に話し終え、ずずっとお茶をすする。
そしてポケットからカリカリを出して頬張っていた。
「調べれば調べるほど複雑な事情が明らかになっていきます。事件の解明が進むどころか、困難になっていくだけですな。」
「俺もそう思うよ。でも全ての出来事がバラバラなわけじゃないはずだ。」
「どんなに複雑な事件も、一つの根っこで繋がっているものです。そこに辿り着けるかどうかが問題ですな。」
「でもたった一日でここまで分かるなんてすごいな。さすがウズメさんが信頼する刑事だよ。」
「いやいや、私は大したことはしとりません。全てはあのお方のおかげです。」
「それってさっき言ってたカグラに潜入してた人のこと?」
「そうです。技術部に潜入していたので、遠藤のこともよく知っておったんですわ。しかし薬のことは知らなかったようですな。」
「ごく一部の社員だけの秘密だもんな。かなり厳重にガードしてたんだな。」
「あのお方でも情報が掴めなかったわけですから、ガードが固いどころの話じゃありませんよ。こっちが持っている薬の情報を渡したらとても喜んでおられました。」
「源ちゃんもタダで情報を得たわけじゃないわけか。」
「こういうのはギブアンドテイクですから。ただあのお方は薬の件についてはしばらく知らないフリをすると言っていました。
すでに潜入捜査は終えて、いよいよカグラを追い詰めようとしている時です。いざという時の為に、切り札としてとっておきたいんでしょう。」
「なんかすごい人だな。でも・・・・やっぱり俺の知り合いにそんな人は思い当たらない。元カグラの社員で、そこまで優秀で・・・・そんな人いたっけ?」
翔子さん以外でそんな知り合いや友達はいない。
けど翔子さんがカグラに潜入なんて考えられないから、やっぱり違うんだろう。
いったい誰なのかと考えていると、源ちゃんが「じゃ、行きますかな」と立ち上がった。
「あ、帰る?」
「いえ、病院に行くんです。」
「病院って・・・どっか体調でも悪いのか?」
「何言っとるんです、有川さんがです。」
「俺?俺はどこも悪くないけど?」
「今は平気でも、いつ副作用が出るか分からんでしょう。病院へ行って検査を受けましょう。」
「じゃあアナグマ病院へ行くのか?」
「マサカリさんたちも待っています。本当なら一緒に行くはずだったんですが、ぐっすり眠ってるんで起きてからにしようということになったんですよ。」
俺を抱え、アパートを出て行く。
「あ、ちゃんと鍵かけてね。」
「分かっとります。」
アパートの階段を下り、源ちゃんの車へ歩いて行く。
黒のBMWだった。
車には詳しくないけど、これが高い車だってことくらいは分かる。
「良い車乗ってるね。もしかして源ちゃんってけっこう偉い刑事さんなんじゃ・・・・、」
「とんでもない。安月給の下っ端ですよ。こいつは唯一の趣味でしてな、ちょっとばかり金掛けとるんですわ。」
ポンポンと車を叩き、嬉しそうに笑っている。
源ちゃんにもこんな人間臭いところがあったとは。猫又だけど。
それから俺たちは病院へ向かい、30分ほど検査を受けた。
すでに検査を終えていたマサカリたちが「どうだった!」と駆け寄ってくる。
「うん、今のところ問題ないって。」
「おお!俺たちと一緒でよかったぜ!」
「悠一くらいは副作用が出るかと思ってたんだけどな。チッ!面白くない。」
「ちょっとチュウベエ、ひどいこと言うもんじゃないわよ。・・・・ちょっと期待してたけど。」
「うんうん、お前らは相変わらずで大丈夫そうだな。」
モンブランにしろコイツらにしろ、いつどんな時でも変わりがないっていうのは、ある意味すごいことだ。
たまにイラっとくるけどそんなの慣れっこだし。
みんなでホっとしていると、「有川さん」とアナグマ医師がやって来た。
「ちょっと診察室まで来てくれ。」
「え?ああ・・・はい。」
なんかドキっとする。
チュウベエが「やっぱ問題があったのか?」とニヤニヤした。
「悠一、もしなんかあっても骨は拾ってやるからな。」
「縁起でもないこと言うな。」
「ほんとにねえ、さっきからひどいわよチュウベエ。あ、でもお葬式の場所くらいは決めておいた方がいいかも。万が一ってことがあるし。」
「なら俺様に任せとけ!散歩コースの途中にデッケエ葬式場があるんだ。ちょっと予約しといてやるぜ。」
飼い主の葬式の話で盛り上がるとは・・・・元に戻ったら覚えとけよ。
「有川さん。」
「あ、はいはい!すぐ行きます。」
俺の葬式の話題を背中で聞きながら、「なんですか?」と診察室へ入った。
アマグマ医師はレントゲン写真を見せながら、「実はちょっと気になる影が・・・・」と言った。
「あの・・・・、」
「はい?」
「見えないんですけど。」
「これは失礼。」
子犬のままじゃ低くてよく見えない。
診察台の上にあげてもらった。
「これで見えるかな?」
「バッチリ。」
「じゃあちょっとここを見てほしい。」
そう言って細長い棒でレントゲンの真ん中を指した。
「実は心臓の辺りに気になる影が見つかってな。」
「気になる影って・・・・検査に問題はなかったんでしょ?」
「そう思ってたんだが、よくよく見ると違ってたみたいでな。」
「いい加減な・・・・。」
こっちは命が掛かってるっていうのに・・・・ちゃんとしてほしいものだ。
「で、その影がどうかしたんですか?まさか腫瘍とか言わないですよね?」
「ご心配なく。そういう類の物ではない。」
「ほ。」
「ただ・・・・、」
「ただ・・・・?」
なんだろう?
腫瘍じゃないのに医者がすごく気になることって・・・・。
まさか他の重大な病気とか?
アナグマ医師はミリオネアのみのもんたばりに溜める。
俺はその視線に圧倒され、思わずファイナルアンサーと呟きそうになってしまった。
「この影は・・・・、」
「この影は・・・・・?」
「おそらく・・・・・、」
「おそらく・・・・・?」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・ゴクリ。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・もう一つ心臓があるものと思われる。」
「・・・・・・・・え?」
「有川さんの心臓の外側に、もう一つ小さな心臓があると思われる。」
「・・・・・なんで?」
「さあ。」
「さあって・・・・・、」
「とにかく今すぐ命に影響はないので安心してよろしい。」
「いやいやいや!出来るわけないでしょ!」
心臓の外側にもう一つ心臓って・・・・どう考えてもおかしいじゃないか。
「あの・・・・なんでそんなことになってるんですか?」
「影の写り方を見るに、心臓から心臓が発生している。こんな例は初めてだ。」
「俺もビックリですよ。だって普通はそんなことにならないでしょ?」
「以前からこういう病気を持っていたとかは?」
「ありません。健康そのものでしたから。」
「となれば考えられることは一つ・・・・あの薬だな。」
「例の薬のことですか?」
「あれの副作用は胸が苦しくなるというものだ。もしかしたらだが、心臓になんらかの影響を与えるのかもしれない。」
「そういえば薬の検査はどうなったんですか?知り合いの霊獣の学者さんに頼んだんですよね?」
「今日中には報告が上がることになっている。ま、詳しくはそいつを見てからだな。」
そう言って「もう帰ってよろしい」と診察台から下ろした。
その時、肉球に何かが当たって「痛!」と叫んだ。
「どうかしたか?」
「なんか地面に落ちてたみたいで・・・・、」
「どれ。・・・・ああ、さっき検査した奴らが暴れたせいだ。」
「マサカリたちですか?」
「血液検査で針を刺そうとしたら大暴れでな。あちこち備品が落ちてしまった。その時に割れたガラスか何かの破片だろう。」
「あいつらめ・・・人間になってもほんと変わらないな。」
「押さえつけるのが大変だった。あんた、もうちょっとしっかり躾をしといてくれないと。」
ヒョイっと俺を抱き上げ、肉球に刺さった破片を抜いてくれる。
しかし・・・・、
「あ、アンタこれは・・・・、」
「どうしたんですか?」
「自分で見てみるといい。」
指で俺の血を拭う。
「ほら。」
「え、なんで・・・・?」
「血の色が変わってるぞ。」
「・・・・・・。」
「さっき検査した時は赤だったのに。」
アナグマ医師は興味深そうに見つめている。
俺は開いた口が塞がらないまま自分の血を睨む。
傷口からにじみ出た血は、今まで見たことのない色をしていた。
「紫の血・・・・。」

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