稲松文具店〜燃える平社員と動物探偵〜第二部 第十九話 念願の解毒剤(1)

  • 2018.11.24 Saturday
  • 11:08

JUGEMテーマ:自作小説

霊獣同士の戦いは激しい。
狼男を倒す為、アカリさんとチェリー君は共闘していた。
といっても狼男と戦っているのはアカリさんだけだ。
チェリー君は擬態で姿を隠し、奇襲を仕掛けるつもりでいる。
それを成功させるにはアカリさんの奮闘が必要不可欠だ。
どうにかして狼男に隙を作らないと奇襲は成功しないだろう。
でもそれはとても難しいことだった。
なぜなら狼男は強いから。
アカリさんは本気で戦っているけど、ずっと押されっぱなしだ。
牙も爪も通用せず、自慢の尻尾はその一つが食い千切られていた。
殴られ、蹴られ、投げられて、もはやボロボロの満身創痍位である。
「はあ・・・はあ・・・ったく・・・・たかが狼男の分際で・・・。」
辛そうに顔を歪める。
これ以上やられたら立っていることすら出来ないだろう。
狼男はほそくえみ、ボキボキと拳を鳴らした。
「世界中を旅して色んな霊獣と喧嘩してきた。その中にはお前より強い奴もたくさんいたが、全部ぶっ倒してきた。もう諦めるんだな。」
「ふざけんな!大事な子供をあんなに目に遭わされて降参なんか出来るか!!」
残された力を振り絞り、狼男に飛びかかる。
しかし無駄だった。
渾身の尻尾の一撃もあっさりとかわされ、逆に噛み付かれてしまう。
「ああッ・・・・、」
「もう一本食い千切ってやろう。」
鋭い牙を突きたて、嫌な音を立てながら引き裂いていく。
アカリさんはグっと歯を食いしばり、ひたすら痛みに耐えていた。
そして残った尻尾を叩きつける。
狼男はその尻尾まで掴み、牙を突き立てた。
「あああ!」
「ひょへんほはへへははへん!」
口いっぱいに尻尾を咥えているから何を言っているのか分からない。
もし全ての尻尾を失ってしまったら、それこそ戦い様がなくなってしまう。
絶体絶命のピンチ!・・・・のはずなのに、なぜかアカリさんは笑っていた。
「いくら強くてもしょせんは狼男ね。」
「はんはほ?」
「オツムが弱いって言ってんのよ!」
「へはほうひ。はっはらほへほはほひへひほ!」
偉そうに、だったら俺を倒してみろ!・・・と言ったんだろう、多分。
すると次の瞬間、狼男の背後にチェリー君が現れた。
上手く死角を取ったようだ。
そして「くたばれやあ!」と狼男の尻尾に噛み付いた。
「ひぎゃ!」
「どうだ?いくら強くてもここは効くだろ。」
「ひ、ひはまあ・・・・、」
狼男はチェリー君を捕まえようとする。
しかし擬態で姿を消してしまった。
「ひへへほふはは!ほへひはほへはあふははな!」
逃げても無駄だ!俺にかこれがあるからな!・・・・と言ったはずだ、おそらく。
アカリさんの尻尾を離し、遠吠えをしようとする・・・・が、上手くいかなかった。
なぜならアカリさんの方から口の中に尻尾を突っ込んだからだ。
「ほら、私の尻尾を食い千切るんでしょ?さっさとやりなさいよ。」
「ムググ・・・・、」
これでは遠吠えが出来ない。
その隙にまたチェリー君が奇襲を仕掛ける。
「今度はここだぜ!」
思いっきり股間を蹴り上げる。
狼男は「ひゃあ!」と悶絶した。
「ひはは!ゆふはん!」
「許さねえってか?だったら捕まえてみろや。」
また消える。
しかし尻尾で口を塞がれている以上、遠吠えは出来ない。
「ふはへふは!まぶはほはへほひっほをふいひひってはふ!」
どうやら先に尻尾を食い千切るつもりらしい。
しかしその前にチェリー君が奇襲を仕掛ける。
今度は目を狙った。
鋭い爪が狼男の瞼を切り裂く。
「むおッ・・・・、」
「へへ!鬼さんこちらってな。」
瞼を傷つけられたせいで視界を奪われたようだ。
赤い血が垂れて目を覆っている。
チェリー君は「ついでにこっちも頂くぜ!」と、狼男の耳に何かを詰め込んだ。
そして・・・・、
「むぐあああああッ・・・・、」
何かが炸裂した。
パン!と弾けて火花が飛ぶ。
「耳ん中で銃弾が弾けたらさすがに効くだろ?」
「むう・・・ひひは・・・ひほへはい・・・、」
「耳が聴こえないってか?じゃあ次はここも潰してやるぜ!」
そう言って何かを握り締めて鼻にぶつけた。
「ぐおおおお・・・、」
「どうだよ大将?」
「ぶ・・・ぶええええくっしょおおお!」
「唐辛子入りの胡椒だ、効くだろ?」
何度も大きなくしゃみをする。
そのせいでアカリさんの尻尾を吐き出してしまった。
このままじゃまた遠吠えを放つだろう。
そう思ったんだけど、狼男は遠吠えをしなかった。
それどころか顔を押さえて悶え苦しんでいる。
チェリー君は勝ち誇ったようにニヤリとした。
「狼男は他の霊獣より感覚が鋭いんだろ?てことは目や耳や鼻が弱点ってわけだ。痛くて痛くて堪んねえだろ。」
「ぐう・・・・お前え・・・・最初から感覚器官を狙うつもりだったのか!」
「だってアンタ頑丈なんだもんよ。まともにやってもダメージが通らねえ。だったらこういう嫌がらせでもしねえと勝負になんねえだろ。なあアカリの姐さん?」
そう言って顎をしゃくると、アカリさんが唸った。
「よくも大事な尻尾を噛み千切ってくれたわね。ツケは高く付くわよ!!」
狼男に尻尾をからませ、扇風機みたに振り回す。
「やめろ!目が回る・・・・、」
「喧嘩の最中にやめろって言われてやめる馬鹿なんかいないっての!」
狼男を振り回したまま、近くのビルを駆け上がっていく。
一瞬で屋上まで登り、「覚悟はいいわね」と言った。
狼男の耳には届いていないだろうけど。
アカリさんは10階建てのビルから高く飛び上がり、地面に向かって急降下していく。
そして思いっきりアスファルトに叩きつけた。
まるで爆発のような轟音が響き、ちょっとだけ地面が揺れる。
アスファルトはバキバキにひび割れ、もうもうと土煙が上がった。
風が吹き、煙が晴れていくと、そこには地面に突き刺さった狼男が。
頭からプッスリと刺さっていて、ピクピクと痙攣している。
チェリー君が「よっしゃあ!」とガッツポーズをした。
「アカリの姐さん、良いバックドロップだったぜ。」
さっきのあれ、バックドロップだったのか。
速くてよく見えなかったけど。
アカリさんは狼男を引っこ抜き、尻尾で胸ぐらを掴んだ。
「どう?まだ続ける?」
「・・・・・・・・・。」
「聞こえてないか。」
狼男は完全に失神している。
この勝負、アカリさんとチェリー君の勝ちだ。
狼男は大の字に倒れ、口を開けたまま天を仰いでいる。
婚約者が負けてしまったのだ。
これでモンブランも大人しくなるだろうと思ったんだけど、そんなタマじゃなかった。
「野郎!ぶっ殺してやる!!」
コマンドーのベネットばりに叫びながら銃を振り回している。
どうやら弾が尽きたようだ。
それでも戦おうとするその気迫には感服する。
マサカリたちも「かかって来いやあ!」と銃を振り回して応戦した。
お互いに弾切れなのによくやる。
ていうか婚約者が負けたことはどうでもいいのか?
まあとにかく、狼男がやられたことで暴動の鎮圧は時間の問題だろう。
警察は次々に暴徒を捕まえていく。
応援のパトカーも到着して、数分後には全ての暴徒が捕らえられていた。
これでひとまず安心だ。
でもまだ問題は残っている。
ハンターたちが動物を狙っているのだ。
ツムギ君が必死に止めようとしているけど、遂に警察に取り押さえられた。
「コラ!僕を誰だと思ってる!」
誰もお稲荷さんだとは気づかないだろう。
引っ張られていくツムギ君。
ハンターたちは動物に銃を向けた。
「このままじゃ撃たれる!」
俺は急いで駆け出した。
しかし「待って下さい!」と誰かが止めに入った。
「マシロー君!」
そういえばこの子もチェリー君と一緒だったんだ。
「大丈夫か?怪我とかしてないか?」
「物陰に隠れていたので平気です。それよりハンターの前に行ったらダメですよ。有川さんも撃たれてしまいます。」
「でもこのままじゃ・・・・、」
「ここは彼に任せましょう。」
そう言ってハンターたちを振り返ると、なんと銃が勝手に宙に浮いていた。
ハンターたちの手から離れ、一箇所に集まっていく。
「あれは・・・・、」
「チェリーさんです。擬態しながら銃を奪っているんですよ。」
次から次へと銃を奪われ、ハンターたちは慌てふためく。
宙に浮いた銃は遠くへ飛んでいく。
ハンターたちは「おい待て!」とどこかへ行ってしまった。
しかしまだ警官が残っている。
彼等も銃を持っているわけで、いつ動物が撃たれるか分からない。
「お前ら・・・・いい加減にしないと天罰が下るぞ。」
ツムギ君が静かな声で怒鳴る。
押さえつけていた警官を振りほどき、怪しく目を光らせた。
するとその眼光に当てられた警官たちは、金縛りにあったみたいに動けなくなっていた。
辺りにいた全ての警官は石みたいに固まり、微動だに出来なくなる。
《優しいなツムギ君。》
彼なら警官たちをぶっ飛ばすことくらいわけないだろうに、なるべく傷つかない方法で封じてしまった。
さすがはお稲荷さん、やる時はやる。
残った警官は暴徒の拘束で手一杯なので、もう動物たちが撃たれることはないだろう。
とにかくこれで暴動は終わった。
と思ったのだが、まだ争っている奴らがいた。
「よくもやったわね!」
「テメエこそいい加減降参しやがれ!」
モンブランたちである。
銃を振り回してチャンバラしている。
マサカリが「隙ありいいいい!」と飛びかかるが、「甘い!」とカウンターの面を打った。
「ぐはあ!」
「ふん、まだまだね。」
倒れるマサカリ、見下ろすモンブラン。
そこへチュウベエが襲いかかる。
「喰らえ!五月雨突き!!」
ライフルを槍みたいに構えて突きまくる。
モンブランは「とおりゃああ!」とそれを蹴り上げた。
チュウベエのライフルは宙を舞い、頭の上に落っこちて「無念・・・・」と撃沈された。
残るはマリナ。
動きは鈍いが力は強く、たった一撃でモンブランのガードを打ち崩す。
「これしき!」
すぐに体勢を立て直し、銃を振りかぶるモンブラン。
しかし・・・・、
「今だ!」
「やれ!」
マサカリとチュウベエがモンブランの足にしがみついた。
「ちょっと!離してよ!!」
ガンガン二人を叩きまくる。でも決して離れない。
そしてマリナの攻撃が目前に迫っていた。
「あちょー!」
「た、タンマ!」
銃を持ち上げてガードしようとする。
しかしマリナの方が一枚上手だった。
銃で殴りかかると見せかけて、思いっきり蹴り飛ばしたのだ。
ブーツの底がモンブランの顎を捉える。
「ぐげぇ・・・・、」
見事にクリーンヒット。
モンブランは変な声を出しながら宙を舞った。
大地に叩きつけられ、「く、悔しい・・・」と呟きながらノックアウトされた。
「これでイグアナが最強ということが証明されたわね。」
嬉しそうに髪をかき揚げるマリナ。
ボコボコに叩かれまくってボロボロになったマサカリとチュウベエ。
顎を蹴り飛ばされて仰向けに倒れるモンブラン。
我が家の動物たちの戦いはここに決着を見た。・・・・どうでもいい勝負だったけど。
「なんか知らんがこれで終わりだな。」
暴動は鎮圧。
街の混乱は消え去り、静けさが戻った。
しかしそれも束の間だろう。
きっと警察の応援が駆けつけてヤバいことになる。
それまでにとっとと退散しないと。
「有川さん。」
マシロー君がつついてくる。
「なんだ?」と振り向くと、「モンブランさんの周りを見て下さい」と言った。
「あいつの周りがどうかしたのか?」
「有川さんの欲しがっている物が落ちています。」
モンブランの周りを見ると、カプセル剤が散らばっていた。
黄色と緑のツートンカラー、あの薬は・・・・・、
「解毒剤!」
急いで拾いに行く。
舌で掬い取り、そのまま飲み込もうとすると、「ダメダメ」とマシロー君に止められた。
「そのまま飲んだら副作用が出てしまいます!」
「・・・・あ、そうだった。」
「それは煎じて飲まなきゃいけないんです。そこに狼男さんが倒れているから、ちょっとだけ血を拝借しましょう。」
危ないところだった。
間違った飲み方をすれば発作が出てしまうかもしれない。
マシロー君、君はほんとに頼りになる奴だ。
でも・・・・一つ疑問が浮かんだ。
「なあ?」
「なんですか?」
「どうして君が薬の正しい飲み方を知ってるんだ?」
「はい?」
「だって君はアナグマ病院にはいなかった。なのにどうして薬の正しい飲み方を知ってるんだ?」
「ど、どういうことですか・・・・?」
「俺たちはアマグマ医師から正しい飲み方を聞いたんだ。なのにあの場にいなかった君がどうして・・・・、」
「ああ、ええっと・・・・それはたまたまっていうか・・・・、」
「何を動揺してるんだよ?いつもの君らしくない。」
「と、とにかく今は薬を煎じましょう!モタモタしてたら狼男が目を覚ましてしまいます。」
「なんでそんなに焦ってるんだ?」
マシロー君は逃げるように走って行く。
アカリさんのところへ行って、「手伝って下さい」と言った。
それから数分後、近所の家から拝借した鍋とガスコンロで、狼男の血をグツグツと似た。
マシロー君はカプセル剤から中身を取り出し、沸騰する血の中に放り込んだ。
血の色がだんだんと紫に変わっていく。
なぜならカプセル剤の中身は紫色をした何かの結晶だったからだ。
「マシロー君、カプセルの中身って何で出来てるんだ?」
「ど、どうして僕に聞くんですか・・・・?」
「なんとなく。」
「僕も知りません・・・・。」
すごい冷や汗を流している。
これはぜったいに何かを隠している。
「ほら、もうすぐ飲み頃ですよ。」
長い箸で器用にかき混ぜ、「もうそろそろいいでしょう」とお椀に掬った。
「では有川さんから。」
「ありがとう。」
目の前に置かれたお椀には、ドロリとした紫色の液体が入っている。
《これを飲むのか・・・・・。》
はっきり言って気が進まない。
でも飲まなきゃ戻れないわけで、迷う余地はない。
恐る恐る口を近づけ、ペロリと舐めた。
《うわ!鉄臭い・・・・・、》
口の中いっぱいに嫌な味が広がる。
マシロー君が「我慢して飲み干して下さい」と言った。
「分かってる」と頷き、ペチャペチャ舐める。
そしてお椀を空っぽにした瞬間、身体の中から稲妻が炸裂するような衝動がこみ上げた。
《この感覚は動物に変わった時にそっくりだ・・・・。》
鋭い衝動が全身を駆け巡り、ボワっと白い煙が上がった。
「・・・・・・・。」
煙が晴れた後、地面に着いていた前足が人間の手に戻っていた。
足も胴体も、そして・・・・、
「マシロー君、俺の顔・・・・人間?」
「ええ、良い意味で優しそう、悪い意味でちょっと頼りなさそうな顔をした人間です。」
自分で自分の顔を触る。
するとアカリさんも「元に戻ってるわ」と言った。
「良い意味で頼りなさそう、悪い意味でも頼りなさそうな顔に。」
「どっちも悪い意味じゃないですか。」
「冗談よ。」
クスっと笑い、アカリさんも人間に化ける。
「自分で見てみ。」
割れた窓ガラスの破片を拾ってきてくれる。
そこにはたしかに元の俺が映っていた。
「や・・・・やった・・・。元に戻れたあ!!」
これで動物探偵を再開できる!マイちゃんとも結婚できる!
感極まるってのはまさにこのことだ。
「喜ぶのはまだ早いわよ。他にも元に戻さないといけないのがたくさんいるんだから。」
そう、薬の被害者は俺だけじゃないのだ。
まずはモンブランたちを戻すことにしよう。
人間のままだと何をしでかすか分からないから。
幸いマリナ以外はみんな気絶している。
飲ませるなら今のうちだ。
「どうぞ。」
マシロー君がお椀を差し出してくれる。
「解毒剤はまだまだありますから。」
「でもそんなにたくさん血を抜いて大丈夫かな?」
「この狼男さんは立派な体格ですから。どうってことないでしょう。」
「そ、そうか・・・。」
「もし足りないならロッキーさんからも血を抜けばいいし。」
「じゃあどんどん煎じてくれ。俺はみんなに飲ませていくから。」
「あ、私も手伝うわ。」
アカリさんと二人で解毒剤を飲ませていく。
モンブラン、マサカリ、チュウベエは気絶している間に口の中に注ぎ込んだ。
「ゲボ、ゴホ!」と呻いていたけど、無理やり押し込んで飲ませる。
すると白い煙が上がり、元の姿に戻ってくれた。
「よかった・・・・。あとはマリナだけだ。」
あいつはモンブランほどオテンバじゃないから素直に飲んでくれるはずだ。
「マリナ!解毒剤が手に入ったぞ。」
「ほんとに?」
そう言って駆け寄ってくる。
「コラ!ライフルを捨てろ!」
「平気よ、まだ弾が入ってるんだから。」
「余計危ないじゃないか!」
「私バズーカ撃ちたかったんだけど、どこにも落ちてないのよね。」
「いくら警察でもそんなモン持ってないよ。」
「人間に戻るのはバズーカ撃ってからでもいい?」
「ダメに決まってるだろ・・・・。」
「ケチ。」
ツンと唇を尖らせながらブチブチ言っている。
そこへツムギ君がやって来て、「こら貴様!」」と怒鳴った。
「お前が絡むと毎回毎回ロクな目に遭わない!どう責任取ってくれるんだ!?」
「うん、ごめん。」
「謝って許されるか!」
めちゃくちゃになった街を見渡し、「ぜったいに上から怒られる・・・」と嘆いた。
「え?ここってツムギ君の管轄なの?」
「いや違う。違うけど・・・・奴から因縁をつけられるかもしれない。」
「ああ、エボシって奴か?」
「俺はアイツに目を付けられてるからな。今度はもっと田舎に飛ばされるかもしれない・・・・。」
すんごい落ち込んでいる。
嫌な上司を持つと気苦労が絶えないのは稲荷も同じようだ。
するとマリナが「元気出しなさいよ」と肩を叩いた。
「お稲荷さまって神様なんでしょ?だったらそんな顔してちゃダメよ。」
「うるさいな、お前なんかに何が分か・・・・、」
言いかけて固まる。
なぜなら振り向けばすぐ近くにマリナの顔があったからだ。
「悠一は悪い人じゃないけど、ちょっと頼りないところがあるのよ。今回のことは私たちへの監督不行届ってことで許してあげて。」
はっきり言おう。
モンブランも美人だったが、マリナもかなりの美人である。
片や気の強いオテンバ、片やアンニュイでおっとりした感じ。
そしてツムギ君はこういうおっとりした女に弱い。
以前にマイちゃんに一目惚れしていたからだ。
「あ、あの・・・・アンタは有川の・・・・、」
「飼いイグアナよ、マリナっていうの。」
長い髪を揺らしながらニコリと微笑む。
ツムギ君の頬が赤く染まった。
「・・・・ゴクリ。」
「こらエロギツネ。」
「だ、誰がエロギツネだ!」
「人のペットに惚れてる場合か。」
「惚れてなんかいない!誰がイグアナなんかに・・・・、」
「え?ツムギ君って私のこと好きだったの?」
キョトンとするマリナ、その表情にまた頬を赤らめるツムギ君。
「ねえ悠一、一つお願いがあるんだけど。」
「バズーカなら無理だぞ。」
「そんなのはもういいの。私、一回でいいから人間のデートをしてみたいわ。」
「で、デート・・・・?」
「だってこんな機会は二度とないじゃない。今からちょっとだけツムギ君とデートしてきていい?」
「それは・・・・彼に聞いたらどうだ?」
そう言って目を向けると、顔を真っ赤にして茹でダコみたいになっていた。どうやらOKらしい。
「だそうだ。」
「やった!じゃあ行きましょ!」
腕を組み、嬉しそうにルンルン歩いて行く。
ツムギ君は緊張のあまりお地蔵さんみたいにカチコチになっていた。
「あんまり遠くに行くなよ!」
「は〜い!」
「あと腕を組む以上はダメだからな!」
「りょ〜かい!」
マリナはギュっと腕を組み、本物の恋人のようにピタリとくっ付く。
あいつにしてみればただデートというのを体験したいだけなんだろうけど、ツムギ君はすっかりその気になっている。
キリっと表情を引き締め、「マリナさん!僕がエスコートします」と舞い上がっていた。
「ちょっと悠一君、サボってないでさっさと解毒剤を飲ませていってよ。・・・・・って、なに渋い顔してんの?」
「ああアカリさん。ちょっと感傷に浸ってたんです。」
「感傷?」
「知らない間に娘が育つって、こんな気持ちなのかなあって。」
「はあ?」
「俺もいつか本物の娘ができたら、いま以上に切ない気持ちになるのかなって。」
「あの薬、頭にも副作用が出るの?」
アカリさんは手を当てて熱を計る。
マシロー君に向かって「なんか変な副作用が出てるんだけど」と言っていた。

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