稲松文具店〜燃える平社員と動物探偵〜第二部 第二十話 念願の解毒剤(2)

  • 2018.11.25 Sunday
  • 09:49

JUGEMテーマ:自作小説

激しい戦いの末、ようやく解毒剤が手に入った。
おかげで俺は人間に戻れたし、モンブランたちも動物に戻った。
集落の人たちも無事に戻り、警察に拘束されていた暴徒たちにも無理矢理飲ませて動物に戻した。
警官はみんな唖然として、拘束することさえ忘れていた。
大変なのは暴動の後始末なんだけど、「僕に任せろ」とツムギ君が引き受けてくれた。
「このまま放置したらぜったいにエボシの奴に文句言われる。これ以上田舎に飛ばされるのはゴメンなんでな。」
おお、なんて頼りになる男と思ったけど、頬を染めているのを見てピンときた。
「マリナさん、ここは僕がなんとかします。安心してお帰り下さい。」
イグアナに戻ったマリナに愛を囁いている。
「僕があなたを守ってみせます。」
真剣な顔で言っているけど、マリナはバナナを食っていた。
「貴女はすぐにこの場を引き上げて下さい。お義父さんと一緒に。」
「誰がお義父さんだ!」
「それと結婚式は私の神社でと考えているんですが、マリナさんがご希望ならチェペルでも構いません。最近この近くに式場が出来たので・・・・、」
「気が早すぎだろ!」
「もうじき警察の応援がやってくるはずです。私が足止めをしますので、すぐに安全な場所まで避難を。」
そう言って「アディオス!」と去って行った。
「なんだアレは・・・・思い込みが激しすぎだろ。」
マリナはずっとバナナを食っていて、「げふ」とゲップをしていた。
「デートは堪能したか?」
「まあね。」
「ツムギ君が結婚式はどこがいいか尋ねてたぞ。」
「結婚式?そんなのよりバナナが欲しいわ。」
「今度会ったら伝えとくよ。」
残念ながらこの恋は実らないだろう。
俺もお義父さんと呼ばれずにすみそうで、しょうじきホっとしていた。
「さ、今のうちに逃げましょ。」
アカリさんが先導していく。
その後ろを俺たちがついて行き、ヒッキー君とロッキー君、集落の人たちと動物たちがついて来た。
一番後ろにはチェリー君がいて、追っ手が来た時の為に殿を務めてくれた。
「あ〜あ、もっと人間でいたかったなあ。」
モンブランが言う。
後ろの方で「あの・・・・、」とヒッキー君が声を掛けようとするが、「話しかけないで」と突っぱねていた。
「もうあなたとの恋は終わりよ。」
「そんな!」
「チェリー君なんかに負けるなんて情けない。」
「でもあれは二対一だったし、奇襲をされたし・・・・、」
「言い訳する男なんてもっと嫌い。」
「うぐ・・・・。」
無念、ここにも破局したカップルが。
ロッキー君に至っては「俺なんて一つもいいとこがねえ・・・」と落ち込みっぱなしだった。
マサカリが「まあなんつうか、元に戻れてよかったよな」と笑う。
「人間は人間で楽しかったけど、やっぱり犬の方がしっくり来るぜ。」
「あんたは犬でも人間でも太ったままね。」
「んだとこのバカ猫!」
「おい喧嘩すんな。お前らはほんとに人間でも動物でもバカのままだな。」
「インコに言われたくねえ!」
「そうよ!こんな時にまでミミズなんか食べて。」
「まだ半分残ってる、欲しいならやるぞ。」
「いるか!」
「いらないわよ!」
「やあねえ、みんな喧嘩ばっかりして。私なんかいつだっておっとりのマイペースなのに。」
「バンバン銃撃ってたクセになに言ってんだ。」
「マリナが一番最初に撃ってたな。」
「私なんか思いっきり顎を蹴り飛ばされたんだけど。」
「だって人間になるなんて滅多にないことじゃない。だったら銃を撃ったりブーツで蹴ったりデートしたり、色々楽しまなきゃ。」
「で、どれが一番楽しかったんだ?」
「そりゃ銃よ。次こそはバズーカを撃ちたいわあ。」
「お前が一番怖いっての・・・・。」
こいつらは元に戻っても相変わらずだ。
まあそれはいいんだけど、一つ気になることがあった。
「誰かマシロー君を見てないか?」
「さあ?」
「知らないな。」
「私も見てないわ。」
「さっきまでいたのにねえ。」
「アカリさんは?」
「そういえば見てないわね。せっせと薬を煎じてたところまでは覚えてるんだけど。」
誰に聞いても知らないという。
いったいどこへ行ってしまったんだろう?
遠藤さんから預かっている大事な動物なのに。
「やっぱ探した方がいいかな。」
そう言って立ち止まると、チェリー君が「おいヤベえぞ!」と叫んだ。
「向こうからパトカーが来てるぜ!」
街の遠くから赤いランプが迫ってくる。けたたましいサイレンを鳴らしながら。
ツムギ君が走り出し、「止まれ!」と手を広げていた。
「僕はマリナさんを守ってみせる!誰一人通さないぞ!!」
愛の為に身を捧げるツムギ君だったが、マリナはあくびをしていた。
「マシロー君のことは気になるけど仕方ない、みんな急いで逃げるぞ!」
慌てて街を駆け抜けるが、追っ手が迫ってくる。
チェリー君が「お前ら先に行け!」と叫んだ。
警察の前に立ちはだかり、擬態を使って翻弄する。
目に見えない敵を相手に、警察隊はパニックになっていた。
「モタモタしてたら埓があかない!狼男ども、手を貸して!」
アカリさんが稲荷に変身する。
そして人間や動物を抱えられるだけ抱えて、颯爽と駆け出した。
ヒッキー君とロッキー君も渋々という感じてみんなを担ぎ上げる。
「ほらアンタたちも!」
アカリさんの尻尾に巻かれて、一気に街から離れていく。
そして山間の集落まで戻ってくると、みんなホっとした様子で座り込んでしまった。
「よかった・・・人間としてここに戻って来られた。もうハンターに狙われる心配はないんだ。」
「私たちやっぱり動物の方がいい。ままこの山で暮らしたいわ。そうすれば警察に捕まらずにすむし。」
人間と動物、それぞれがお互いの立場を経験したことで、少し距離が縮まってくれたら嬉しい。
けどそれは理想論で、また喧嘩を始めてしまった。
「みんな、もう二度と動物どもが入って来ないように、高い柵で集落を囲もう。」
「ねえみんな、これ以上山を削られたら住処を失うわ。ここで人間どもをやっつけちゃいましょ。」
ぜんぜん距離が縮まっていなかった。
それどころか以前より仲が悪くなっている気がする。
このままじゃまた暴動が起きかねない。
どうしたもんかと悩んでいると、モンブランが「ねえ」と狼男たちに言った。
「あの薬のせいでみんなが迷惑したわ。あなた達にはその責任があるはず!」
ビシっと尻尾を突きつけると、狼男たちは狼狽えた。
「お、俺たちはただ頼まれただけで・・・・、」
「そうそう。依頼してきたのはカマクラ家具だ。」
「また言い訳するの?」
「言い訳のつもりはないが・・・・、」
「全部俺たちに押し付けられても困るぜ。なあ相棒?」
「ああ。悪いのはカマクラ家具の瀞川と安志だ。」
「俺たちはただの使いっぱしり。主犯は奴らだぜ。」
たしかにその通りだが、モンブランは納得しない。
キっと目を釣り上げたかと思うと、急に微笑んだ。
「もし責任を取ってくれるなら、ちょっとだけあなた達のこと見直してあげるわ。」
「え?」
「マジで?」
「この集落の人たちと動物、これ以上喧嘩したりしないように、二人で守ってあげてよ。」
「守るって・・・・、」
「ずっとここにいろっていうのか?」
「だってこのままじゃまた揉めるし。」
「しかし・・・なあ?」
「俺たちは風来坊の流れモンだ。こんな辺鄙なとこにずっといられるかってんだ。」
「あっそ。じゃあ稲荷の長にチクっちゃお。」
「なに!?」
「ちょっと待てよ!そんなのに出て来られちゃいくら俺らでも・・・・、」
「やられちゃうわよね?それが嫌なら責任取ってよ。」
「うう・・・・ぐむう!」
「お、俺はイヤだぜ!ずっとこんな場所になんか・・・・、」
「たまにはデートしてあげるわ。」
「え?」
「お?」
「退屈したら私の家まで来たらいいじゃない。気が向いたらデートしてあげるから。」
「お、おお・・・・、」
「ほんとか!」
「その代わりこの山の人間と動物たちを守ってあげて。霊獣のあなた達ならそれができるはず。だってお互いの気持ちを知ってるんだもん。」
ヒッキー君とロッキー君は顔を見合わせ、少しの間悩んでいた。
するとアカリさんも「私からもお願い」と言った。
「アンタたち強いからさ、きっとこの山を守ってくれると思うのよね。」
「まあ強いことは認める。」
「ちなみに俺は頭脳派だ。」
「この国では狼は神様として崇められていたのよ。狼は大神って意味から来てるくらいだからね。」
「ほう、俺たちが神とはな。」
「でも堅苦しいなあ。俺らそういうのはイヤなんだけどなあ。」
「けどいつまでも放浪ってのもどうかと思うわよ。ここらで一つ腰を落ち着けてみたら?」
そう言って奥にあるツムギ君の神社を見つめた。
「神社は複数の神を祭ることが出来る。もしあんた達にその気があるなら、私からこの国の神々に掛け合ってあげるわ。
流れ者の狼男二人を、この神社で祭ってあげてくれないかって。そうすればあんた達は本物の神様になる。
そしてこの集落の人たちや動物を守る存在になるのよ。ツムギ君と一緒にね。」
「あの弱っちい稲荷とか?」
「それは気が進まないっていうか。」
「だからこそ手を貸してあげてほしいのよ。ツムギ君は戦いは弱いけど、根は真面目で優しいんだから。
あなた達が力を貸してくれたら、きっと良い関係になれると思う。その時、放浪してるだけじゃ見えなかった新しい世界が見えるかもよ。」
ニコっと微笑みを飛ばすと、二人は険しい顔で悩んだ。
「まあ・・・・神様っていうのは悪くない気もするな。」
「今までに経験したことのないことだからな。興味がないわけじゃない。」
悩む二人にモンブランがトドメを刺しに行く。
「わあ!それいいじゃない!神様とデート出来るんなら私もすっごく嬉しいわ。」
「ほんとか!」
「マジで?」
「初詣はここに来てあげるわ。それで新年一発目からデートしましょ!」
「お・・・・おおお!」
「やる!俺たちここで神様やる!」
なんて単純なんだ・・・・。こいつらが神様で大丈夫なんだろうか?
喜ぶ狼男たち。モンブランとアカリさんはニヤリとほくそえんでいた。
《恐ろしい女たちだ・・・・。》
上手く乗せられてるだけとも知らず、狼男たちはやる気になっている。
「よし!この山は俺たちで守るぞ。」
「だな。ここは任せてアンタらは帰っていいぞ。あ、でもモンブランちゃんはまた会いに来てね。」
げんきんな奴らだ。
でも彼等がこの山を守ってくれるなら安心だ。
ロッキー君はともかくヒッキー君は強いから。
俺たちもずっとここにはいられないし、お言葉に甘えて帰ることにした。
「それじゃみんな、仲良く暮らせよ。」
手を振って集落をあとにする。
そしてアカリさんの神社まで向かい、ワープして俺の街まで戻ってきた。
空は明るくなり始めていて、どこからか雲が流れてくる。
「今日は雨らしいわよ。」
アカリさんが言う。
「天気が崩れる前に病院に行きましょ。あそこのお医者さんもきっとこれを欲しがってるはずだし。」
そう言って解毒剤を振る。
そして空が完全に明るくなる頃、病院にいた人間たちも無事に動物へと戻った。
「でかしたぞ!これで家に帰れる。」
ずっと泊まり込みで面倒を見てくれたアナグマ医師には感謝しかない。
人間に変わっていた動物たちも、どこかホっとした様子だった。
でも彼らは人間に捨てられた動物たちだ。
その恨みや怒りまでは解毒剤で消せない。
「ねえ悠一、せっかく人間に戻ったんだから、困ってる動物たちの為にひと肌脱ぎましょうよ。」
モンブランに言われ、「そうだな」と頷いた。
「俺たちで引き取り手を探してみるか。全部は無理かもしれないけど、何もしないで諦めるよりマシだ。」
すでに大人になった犬や猫の引き取り手を探すのは並大抵じゃない。
けどチェリー君はこう言っていた。
やる前から決めつめるのは嫌いだって。
その信念のもと、彼は狼男に勝ったのだ。
アカリさんの協力があったとはいえ、普通の奴ならあそこまで戦えないだろう。
だったら俺も見習わないといけない。
「じゃあみんなでこの動物たちの里親を探すか。でも暴動の後だからちょっと休みたいし、もう一晩だけ預かってもらおう。」
そう言うとアナグマ医師は「家に帰れると思ったのに・・・」と落ち込んでいた。
「すいません、あと一日だけ。」
「・・・・いいさ。家に帰っても録画したドラマを見ることくらいしかやることないしな。」
「それは・・・・なんとも言えないですね。」
「笑いたきゃ笑え。」
「そんな・・・。あ、それよりもちょっと聞いてほしいことがあるんですよ。どうしてか分からないけど、もう一つの心臓を吐き出しちゃったんです。」
「なに?吐き出すってどういうことだ?」
「俺にも分かりません。いきなり気分が悪くなって、オエ!って感じで。」
「ふうむ・・・・詳しく検査してみないとなんとも言えんな。で、吐き出した心臓は?」
「妙な男に持って行かれちゃいました。」
「なんだそりゃ?」
「この前も病院の前にいたんですよ。けっこう男前なんだけど、どうも普通の人間っぽくないっていうか。」
「まさか霊獣か?」
「分かりません。でも普通の人間じゃないことは確かだと思います。」
「吐き出した心臓を持ち去るなんて・・・相当な変わり者だな。まあとにかくこれでアンタの心臓は一つに戻ったわけだ。発作の心配はもうないだろう、安心したまえ。」
ポンポンと肩を叩き、「今晩も泊まり込みかあ」とあくびをしながら奥の部屋へ消えていった。
アカリさんが「待って」と追いかけていく。
きっと子供さんの体調を尋ねているんだろう。
早く退院して一緒に帰りたいだろうから。
「じゃあ俺たちも帰るか。」
「だな。」
頷くマサカリ。「みんな元に戻ったお祝いに犬缶パーティーやろうぜ!」なんて浮かれていた。
「ダメよ、今夜はモンパチでお祝いよ。もしくはコルカン。」
「いいや、ここはミミズ鍋にしよう。」
「私はバナナの刺身がいいわ。」
「元々刺身みたいなもんだろ・・・・。」
とにかくこれで一件落着・・・ってわけでもないけど、とりあえず今日は家に帰ってゆっくりしたい。
こうして人間に戻れたんだし、慣れ親しんだ自分のアパートでぐっすり眠りたかった。
そう思ってアパートまで帰って来ると先客がいた。
「あら、おかえり。」
ウズメさんと源ちゃんがお茶をすすっていた。
「ごめん、勝手に頂いちゃってるけど。」
「ぜんぜん構いませんよ。」
「さっきアカリちゃんから連絡があってね。暴動は無事に治まって、しかも解毒剤まで手に入ったって。」
そう言って「なんか人間の有川君を見るのは久しぶりな気がするわ」と笑った。
「俺もですよ。長いこと子犬のままだった気分です。」
「まあまあ、立ち話もなんだから座って座って。」
ポンと座布団を敷いて、トポトポとお茶を淹れてくれる。
「おうコラ悠一!俺たちの飯が先だぜ!」
「はいはい。」
「私テレビが見たいわ。注目してる若手俳優が主演のやつやってるのよ。」
「たしか10チャンだよな。」
「俺はちょっと出かけてくる。ミミズの良い穴場があるんだ。」
「さっきまで戦ってたのに・・・・大人しく休んどけよ。」
「いんや、このアパートの植え込みだから平気だ。窓開けてくれ。」
「仕方ないな、ほれ。」
「私やっぱりバズーカが撃ちたくなってきたわ。買ってきていい?」
「売ってないし金もないだろ。」
人間の時でも動物の時でもにぎやかな奴らだ。
ていうか今はこいつらに構ってる場合じゃない。
「ウズメさんの方はどうだったんですか?収穫はありましたか?」
そう尋ねるとプクっと頬を膨らませた。
「かなり頭に来てるのよ。」
「どうして?派閥の違うお稲荷さんに腹立つことでも言われたんですか?」
「それならまだいい方かも。神道系の稲荷の偉いさんたちに会いに行ったんだけど、通してもらえなかったのよ。」
「通してもらえないって・・・じゃあ会うことすらできなかったんですか?」
「そ。」
「どうしてまた?」
「お前はダキニの代理でしかないだろってさ。」
「うわ、それ腹立ちますね。」
「長いことダキニ様が長をやってたからね。私はただの穴埋めだと思われてるみたい。まあ実際そうなんだけど。」
「そんなことないですよ!ウズメさん以外に稲荷の長が務まるお稲荷さんなんていません。」
「そう言ってくれて嬉しいんだけど、事実といえば事実なのよね。ダキニ様は元々が有名な妖怪だもの。そのあと稲荷になって、長い間頂点に君臨していたわ。
とうぜん神道系の稲荷たちも一目置いてる。でも私は名もない代打だもん。」
「そんな・・・・。俺はダキニなんかよりウズメさんの方がよっぽど長に相応しいと思います。あんな身勝手な奴なんかより・・・・。」
「身勝手だけどカリスマ性のある御方よ。それに上手くみんなをまとめてたし。どんなクセ者でもダキニ様の言うことなら聞いてたわ。
けど私の場合はそうはいかない。なんでアイツがって陰口も叩かれてるし、ずっとウズメが長なら神道系に移ろうかなんて言ってる子もいるし。」
「そんなの酷いですよ!だってウズメさん、こんなに頑張ってるのに。」
「残念だけど、私にはみんなをまとめられるだけの力はないわ。ツムギ君だってそう言ってたんじゃない?」
「ええっと・・・・そんなことは決して言ってませんでした、はい。」
「いいのよ気を遣わなくても。」
クスっと笑い、すぐに肩を落とす。
「そんなに落ち込まないで下さい!だって俺は尊敬してるし、それにたくさんお世話になってるし・・・・。
俺は大好きですよ、ウズメさんのこと。いや、もちろん変な意味じゃなくて。」
「ありがと。」
また微笑むけど、その目はどこか悲しい。
「でも私が落ち込んでるのは自分のことだけじゃないのよ。」
「違うんですか?じゃあなんで・・・・、」
「向こうのお偉いさんたちに会えないってことは、カグラのやってることをやめさせてることが出来ないってことよ。
このままじゃどんどん薬がバラ撒かれて、あちこちで今日みたいな暴動が起きるわ。それを止められないことが悔しいの。
もちろんこのまま見過ごすつもりなんてないけど。」
「まさかカグラに人脈があるんですか?奴らを止められるほどの強い人脈が。」
「ん〜ん、ないわそんなの。」
あっけらかんと言う。
「じゃあどうやって?」と尋ねると、「力づくで止めに行く」と立ち上がった。
「そんな物騒な・・・・。」
「じゃあこのまま放っておいていいの?また暴動が起きたり副作用で苦しむ人や動物が出てくるかもしれないのよ。」
「だからって力づくっていうのはよくないですよ。稲荷同士の争いになったりしたら大変です。」
そう言うとウズメさんはムっとした。
「私じゃ力不足だって言いたいの?」
「そうじゃありません。ウズメさんが心配だから言ってるんです。」
「気持ちは嬉しいけど、君に心配されるほど落ちぶれてないわ。何かあっても自分で責任を取る。君やアカリちゃんに迷惑は掛けないから安心して。」
「だからそういうことじゃなくて・・・・、」
ウズメさんにだってプライドがあるから、大人しく引き下がれないのは分かる。
普段なら止めたりしないけど、今回ばかりは嫌な予感がするのだ。
「やめときな。」
窓の向こうから声がする。
誰かと思ったらチェリー君だった。
ハクビシンの姿に戻っていて、スルスルっと中に入ってくる。
「おお、おかえり!」
「お前ら無事に帰れたんだな。」
「そっちこそ大丈夫だったのか?たくさんパトカーが来てたみたいだけど・・・・、」
「あんなもんどうってことねえ。ツムギのあんちゃんも無事に帰ってったぜ。」
「ならよかった。でもあれだけの大混乱だったんだ。何事もなく終わりってわけにはいかないだろうな。」
「さあねえ、事後のことは俺に聞かれても。」
ボンと煙が上がり、リーゼント頭の人間に化ける。
「まあそれはともかく、単身でカグラに乗り込むのは俺も賛成しねえな。」
「なによ、チェリー君まで私じゃ力不足だって言いたいの?」
「ウズメさんの姐さんが強いのは知ってるけど、さすがに相手が相手だろ。」
「そんなの分かってるわ。だからって何もしないで見過ごすなんて出来ない。下手をしたら稲荷の世界からおわれるかもしれないけど覚悟の上よ。」
「姐さんらしくねえな。いつもはもっと冷静なのに。なにかあったのか?」
「別に・・・・大したことじゃないわ。」
たしかにいつものウズメさんらしくない。
よっぽどのことがないと、ここまで熱くなったりしないはずなのに。
「ウズメさん、なにか隠してませんか?」
「隠すってなにを?」
「だっていつものウズメさんらしくありませんよ。すごく焦ってるように見えます。」
「私だってたまにはこういう時もあるわよ。」
「でも・・・・・、」
「あんまり他人のこと詮索してると嫌われるわよ?」
普段見せないようなちょっと怖い顔で睨んでくる。
これは絶対に何かある。
でもいくら尋ねたところで答えてくれないだろう・・・・・と思っていたんだけど、代わりに源ちゃんが答えてくれた。
「ダキニが帰って来るかもしれんのですよ。」
「え?帰って来るって・・・・あいつは地獄に幽閉されてるんだろ?」
「今はね。だがもうじき出てくるはずだ。信頼できる筋からの情報です。」
「そんな!だってかなり悪いことしてたんだぞ、なのにどうして・・・・、」
「それがダキニという女です。奴を甘く見るとどうなるか、有川さんならご存知じゃありませんか?」
《ダキニ・・・またあいつが戻ってくるのか。》
想像しただけでも寒気がする・・・・・。
それはきっと俺だけじゃないはずだ。
ウズメさんだってきっと・・・・、
《だからこんなに焦ってるのか。》
ダキニが戻って来るということは、ウズメさんは長の座を明け渡さなくてはいけない。
でもそうなるとカグラを止めるのは難しくなる。
「ウズメさん、もしダキニが戻ってきたら・・・・、」
「君が気にすることじゃないわ。」
「でもあいつが絡んできたらもっと大変なことになりますよ!それこそ手のつけられない事態にかるかもしれ・・・・、」
「言ったでしょ、君が気にすることじゃないの。」
怒っている・・・・。
静かだけど苛立ちと焦りを感じる声だった。
「悠一君。」
「は・・・はい。」
「この件のことはもう忘れなさい。」
「ええ!忘れろってどういう・・・・、」
「君は無事に人間に戻った。そしてマサカリたちも。あとのことは君が関わることじゃないわ。」
そう言い残し、部屋を出て行ってしまった。
「あ、ウズメさん・・・・、」
追いかけようとすると、「まあまあ」と源ちゃんに止められた。
「ウズメさんの気持ちも汲んであげて下さい。」
「なんだよ、分かったようなこと言って。」
「彼女は不安なんでしょう、自分の仲間が危険に巻き込まれるのが。」
「危険なんて今までにもいっぱいあったよ。今日の暴動だって・・・・、」
「ダキニと比べても?」
「え?」
「奴と比べても危険といえるほどのことですかな?」
「それは・・・・・、」
「一昨年の夏、あなたはダキニに命を狙われている。周りの者たちも危険な目に遭ったはずだ。」
「そうだよ・・・・アイツはとんでもない奴なんだ。稲荷の長のクセにワガママで自分勝手で。まさに独裁者って感じだったよ。」
「あのたまきさんでさえ不覚を取りそうになったほどの相手です。そんな奴と関わればどうなるか?次は命の保証はないでしょうな。」
言われなくても分かってるよ!と返したかったけど、言葉に出来なかった。
そう、アイツと関わるってことは、また危険だらけの日々に晒されるってことだ。
もしそうなったらって思うと、胸の奥に岩を置かれたみたいに重たい気分になった。
「ウズメさんはあなたを危険な目に遭わせたくないんですよ。いや、あなただけじゃない。こがねの湯の仲間たちも。
もしまたダキニが悪さを始めたら、命懸けで止める覚悟でいるんです。」
「そんな!いくらウズメさんでも一人じゃ勝てっこないよ!」
「百も承知でしょうな。しかし有川さんがこの件に関わり続ければ、ダキニが戻ってきた時にどうなるか分からない。
人が動物に、動物が人に変わる薬。あの女がこんなオモチャを放っておくわけがありませんからな。
あなたが望もうと望むまいと、奴と揉めることになるでしょう。もしそうなった時、残念ながらウズメさんに仲間を守りきれる力はない。だから冷たくあしらったんですよ。」
「俺の身を案じてってこと・・・・?」
「ええ。」
「ウズメさん・・・・。」
なんて言っていいのか分からなくなる。
だっていつもお世話になりっぱなしで、今回だってまた守られている。
《このまま放っておいたらウズメさんだって無事じゃすまないはずだ。でも俺には稲荷のトラブルを止める力なんてない。
どうしたら・・・・どうしたらいいんだ!?》
悶々と悩んでいると、「そういえば・・・」と源ちゃんが呟いた。
「今日有川さんを尋ねて来られた方がいましてな。」
「ほんとに?もしかして依頼かな?」
「そのようでしたな。頼みたい仕事があるとかなんとか。」
「おお!人間に戻ってすぐに仕事の話とは嬉しいな。」
「夜にまた来ると言っていましたが。」
「で、どんな人?」
「女性です。綺麗な方でしたな。フリーのカメラマンだそうです。名前はたしか・・・・、」
「たしか・・・?」
「忘れました。」
「おいおい、源ちゃん刑事だろ。しっかりしてくれよ。」
「ちょっとばかりこれをやっていたもので。」
ポケットからマタタビ取り出し、匂いを嗅いでウットリしている。
「今晩来るでしょうから、名前はその時にでも聞いて下さい。」
「源ちゃんもけっこう適当なとこがあるな・・・・。」
「気張ってばかりじゃすぐに疲れてしまいますからな。適当なところで手を抜くのも仕事のコツです。」
そう言って「では私はこれで」と立ち上がった。
「ありがとな源ちゃん、いろいろ助けてくれて。」
「たまきさんのお弟子さんとあれば、助力しないわけには参りません。なにかあったらいつでも警察署を尋ねてきて下さい。」
「気が進まないけど・・・。でもありがとう。」
「ああ、あとこれをお返ししておきます。」
ポケットからマタタビを取り出し、「間違えた」と言って別の物を取り出した。
「スマホ?」
「有川さんのです。」
「おお、すっかり忘れてた。なにか連絡とか入ってた?」
「いやいや、中は見ておりません。」
「ほんとに?。」
「有川さんが犯罪者なら洗いざらい見たでしょうな。」
可笑しそうに言いながら「どうぞ」と渡してくる。
「ではこれにて失礼。」
ペコリと会釈してから去って行く。
俺は外まで見送り、「ありがとな!」と手を振った。
「お気遣いなく。お金さえ返して頂ければ礼はいりません。」
「あ・・・・、」
そういえばすっかり忘れていた。
マサカリたちが一万円借りているんだった。
「利子は・・・・付けなくてもいいよな?」
去りゆく源ちゃんに呟く。
そしてこの日の夜、一人の来客があった。
コンコンとノックされたので、「はいただいま」と愛想よく返事をした。
《源ちゃんの言ってた依頼者かもしれないからな。ここは営業スマイルだ。》
「有川動物探偵事務所にご用でしょうか?」
満面の笑みで出迎える。
するとそこにはスレンダーな美人が立っていた。
首からはカメラをぶら下げ、「依頼をお願いしたいのですが」と言った。
《ビンゴ!》
営業スマイルのまま「中へどうぞ」と手を向けようとした。
しかし・・・・、
《なんだろう?この人どっかで見たことが・・・・。》
記憶の中にぼんやりと浮かぶ。
あれは・・・・そうだ!一昨年の夏、ダキニと揉めた時のことだ。
俺はこの人と会ったことがある。たしか名前は・・・・・、
「フリーのカメラマンをやっております、御神祐希と申します。」
「ああ、そうだった!たしか翔子さんの知り合いの。」
「あら、覚えていて下さったんですね。」
「もちろんですよ。あの時のことは今でも忘れません。」
「大変な事件でしたわね。翔子ちゃんもさらわれたりして。」
「ええ、ほんとにもう・・・・。」
「まあそれはともかく、依頼をお願いしたんですが・・・・引き受けて下さいますか?」
「動物に関することならなんでも。」
「じゃあ是非お願いします、ツチノコの写真を。」
「つ、ツチノコ・・・・?」
「前に会った時ツチノコが一緒にいたでしょう?アレを撮らせて頂きたいの。」
そう言ってニコリとカメラを向ける。
「ええっと・・・・残念ながら今はいません。」
「あらそうなの?じゃあ・・・どうしよっかな。」
眉間に皺を寄せながら悩んでいる。
そして・・・・、
「ならチュパカブラでもいいわ!」
「はい?」
「ツチノコを飼ってるくらいだから、チュパカブラだって見つけられるでしょ?お願いだから写真を撮ってきてほしいの。なんならこのカメラを貸すから。」
プロ仕様のゴツいカメラを「どうぞ」と押し付けてくる。
《この人、俺を矢追純一か何かと勘違いしてるんじゃないか?》
人間に戻って一発目の仕事がこれとは・・・・しょうじきガッカリだ。
「なんなら宇宙人でもネッシーでもいいわ。とにかくオカルトチックなものならなんでもいいから。引き受けて下さるわよね?」
疑問形で尋ねてくるけど、ぜったいに引き受けろってプレッシャーがハンパない。
これが赤の他人なら断っただろう。
でもこの人は翔子さんの知り合いだ。無碍にするのは胸が痛む。
俺は少し悩んだあと、カメラを受け取ってこう答えた。
「お稲荷さんでいいなら。」

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