稲松文具店〜燃える平社員と動物探偵〜第二部 第二十一話 困った依頼者(1)

  • 2018.11.26 Monday
  • 11:28

JUGEMテーマ:自作小説

仕事の依頼はいつでも緊張するものだ。
これは何度やっても慣れない。
でもそれでいいんだろうと思っている。
やりたいことを実現させた時、一番怖いのは慣れだ。
そうなったら刺激も興奮もあったもんじゃないし、やりがいも充実感もなくなってしまう。
いい仕事には緊張感が必要なのだ。
けどその緊張がいつもと違うものだとしたら、不安の度合いは大きくなり、仕事を楽しめなくなる。
いま目の前に座っている依頼者は、いつもとは違う緊張を感じる人だった。
正確にはその依頼内容である。
まず言っておかなければならないのは、俺は動物探偵であって、オカルト探偵ではないということだ。
世の中には超能力を使える探偵がいて、オカルトまがいの仕事ばかりこなしているという。
本日の依頼者、フリーカメラマンの御神祐希さん曰く、お姉さんはいつもそんな人とばかり仕事をしているのだという。
そしてそのお姉さんからオカルトチックな仕事を依頼され、ほとほと困り果てているというのだ。
「ツチノコだのチュパカブラだの、そんなモノの特集ばかりやっている雑誌なのよ。」
「はあ・・・・。」
「姉はその雑誌の編集長でね。月間ケダモノっていうんだけど知ってる?」
「いえ・・・・、」
「それでいいわ。あんなの読んだら確実にIQが下がるから。」
「たぶん今後もぜったいに読まないと思います。」
「賢明ね。」
ニコっと微笑み、ズズっと昆布茶をすすっている。
「問題なのは、そんなオカルトチックな依頼を受けてしまったということなのよ。
これでも社会派のカメラマン兼ジャーナリストのつもりなんだけど、ツチノコだのチュパカブラだのなんて仕事・・・・どうして引き受けちゃったのか今でも謎なのよ。」
「でも自分でOKしたんですよね?」
「腹違いとはいえ血の繋がった姉だからね。断りきれなくて。でもどう頑張っても私には無理よ。」
「ツチノコとかチュパカブラの写真を撮るって、普通なら無理ですよ。」
「そう、普通ならね。でも有川さんはツチノコを飼ってたはずでしょ?だからあなたに頼めば万事解決かと思ったんだけど・・・・。」
そう言って「はあ・・・」とため息をついている。
「期待してやって来たのに、ツチノコはもういないなんて・・・・。」
「山に帰っちゃったんですよ。」
「他に飼ってる動物はいないの?猫とか犬とか普通の動物じゃなくて、例えばチュパカブラとか・・・・、」
「ぜったいに飼いませんよそんなの。」
「生息してる場所とかは・・・・、」
「知りません。」
「困ったわね、どうしようかな?」
「お稲荷さんなら何人も知ってるんですけどね。」
「お稲荷さんねえ・・・・。」
またため息をつき、遠い目をしながら窓の外を見ている。
ついさっきのこと、お稲荷さんなら紹介できると言ったら、『ちょっと姉に聞いてみるわ』と電話を掛けていた。
しかし結果はNOとのこと。
理由はウチの雑誌とは方向性が違うからだそうだ。
「姉が言うにはそういう方面のネタは扱ってないんだって。」
「そういう方面って・・・・どういう方面ならOKなんですか?」
「宇宙人とか未確認生物とか。」
「要するに矢追純一とか藤岡弘の探検隊みたいな感じのやつですか?」
「みたいね。お稲荷さんだと神様になっちゃうわけでしょ?そういう高尚なものを扱う雑誌じゃないからって。
もっとウソ臭くてバカっぽくて真面目に読む気にならないようなネタがいいそうなのよ。」
「普通逆でしょ。」
「それが姉のポリシーなのよ。」
「どんな編集長なんですか・・・・。」
「ほんとにねえ、困ったものだわ・・・・。」
本日三度目のため息が出る。
ズズっとお茶をすすりながら、チラチラと俺を見ていた。
《うわあ・・・・やだなあ。》
思わず目を逸らす。
さっきから感じているいつもとは違う緊張感の理由・・・・それは御神さんのこの視線のせいなのである。
「ねえ有川さん・・・・、」
「イヤです。」
「そんな即答しなくても。」
「そりゃたしかに俺は動物と話せますけどね、なんでそんな怪しげな雑誌で特集を組まれなくちゃいけないんですか?」
「だって姉にあなたのことを話したらOkだって。」
「お稲荷さんがダメで俺がOKって・・・・判断基準がおかしくないですか?」
「私に言われても。」
「それはこっちだって同じですよ。俺は動物探偵であって、奇妙な雑誌のネタじゃないんですよ。」
「けどもし引き受けてくれたらギャラは弾むって言ってたわよ。」
「お金の問題じゃないです。」
「いつも一緒に仕事をしている超能力探偵とのコラボ企画とか言ってたけど・・・・どう?」
「ぜったいお断りです!」
まったく・・・・こんな依頼は初めてだ。
なんで俺が怪しげなオカルト雑誌でネタにされないといけないのか。
そんなもんに載ったら最後、まともな依頼は来なくなるだろう。
だけど御神さんは諦めない。
チラチラ俺を見てばかりで、ぜんぜん帰ってくれないのだ。
時計を見ると午後11時。
あと一時間で明日になってしまう。
「すいませんけどもう帰ってくれませんか?」
「・・・・チラ。」
「チラチラ見たってダメです。」
「引き受けてくれないと私が困るのよ。」
「それ御神さんの都合じゃないですか。」
「そうよ。」
「そうよって・・・・、」
「じゃあ分かった。他になにか面白いネタない?」
「はい?」
「有川さんの特集は諦めるから、代わりになりそうなネタをちょうだいよ。」
「例えばどんな?」
「ウソ臭くてバカっぽくて真面目に読む気にならないようなネタ。」
「帰って下さい。」
「そう言わないで。」
「動物に関する依頼なら引き受けます。でもそれ以外のことはお断りです。」
「どうしても無理?」
「無理です。」
「・・・・・チラ。」
「だから無理ですって!」
「ケチ。」
ツンと拗ねている。
《なんてしつこい人なんだ・・・・・。》
いい加減うんざりしてくる。
そしてこともあろうに・・・・、
「引き受けてくれるまで帰らないわ。」
「はあ!?」
「今晩は泊まっていくから。」
「困りますよ!」
「私だって困ってるのよ。さっさとこんな下らない仕事からオサラバして、社会派の仕事に戻りたいんだから。」
「要するに面倒事を押し付けたいだけじゃないですか!」
「そうよ。」
「そうよって・・・・・、」
「翔子ちゃんから聞いてるのよ。有川さんはとっても良い人で、困った時はいつも助けてくれるって。」
「そりゃ翔子さんは友達ですから。ていうか最近はどうしてるんですか?まだシンガポールに?」
「つい最近帰ってきたわ、出世してね。」
「さすがだな、どんどん遠い世界へ行っちゃう。」
「彼女は優秀だしやる気もあるからね。有川さんもモタモタしてると会うことすら出来なくなるかもよ?」
そう言ってクスクス笑っている。
「とにかく今日は泊まるから。」
「だから困りますって。」
「とりあえずシャワー借りるわね。」
「あ、ちょっと!勝手に・・・・、」
有無を言わさず風呂場に向かっていく。
バタンとドアが閉じられて、シャワーの音が聴こえてきた。
《本気だよあの人・・・・参ったな。》
強引にも程がある。
どうしたもんかと頭を掻いていると、モンブランがニヤニヤしていた。
「ねえ悠一・・・・、」
「はいはい分かってる。どうせまた下らない妄想してるんだろ?」
「なによ下らない妄想って。」
「女の人が来た時はいつも言うじゃないか。三角関係がどうとか、浮気がどうとか。」
「まあね。」
「こっちにその気はないっての。俺にはマイちゃんという婚約者がいるんだから。」
「だからこそ面白いんじゃない、ねえマリナ?」
「ほんとにねえ。このことをコマチさんが知ったらどう思うのかしら?」
「頼むからそういうのはやめてくれ。」
「でも泊まっていくのよあの人。」
「男女が一晩屋根の下、何もない方がおかしいわ。」
「お前らの思考はエロオヤジと一緒だ。」
「そんなことないわ。もしあの人と何かあったって、私は悠一を責めたりしないもん。」
「いくら婚約者とはいえ、一年も待ちぼうけは辛いものね。一つくらい間違いを犯しても目を瞑っててあげるわ。」
「お前らから煽ってるクセに何言ってんだ。」
二匹は下らない妄想で盛り上がっている。
こうなったらもう何を言っても無駄で、好きなようにさせておくしかない。
オスたちはグーグー寝ているし、俺もこのまま寝てしまいたい気分だ。
ゴロンと畳に寝転ぶと、「シャワーありがと」と御神さんが出てきた。
「ありがとも何も勝手に使ったんじゃないですか。」
そう言って振り向くと、バスタオルだけを巻いて立っていた。
「ちょ、ちょっと!何してるんですか!」
「何って?」
「服を着て下さい!」
「だって洗濯機に入れちゃったし。」
「はあ!?」
「泊まることになるなんて思ってなかったから、着替えを持ってきてないのよ。乾くまでこれ借りておくわね。」
「いや、あの・・・・、」
「ごめん、ちょっと電気も借りるわね。」
パソコンを取り出し、勝手にコンセントを挿している。
そしてカタカタとキーボードを叩き始めた。
「・・・・帰ってくれませんか?」
「依頼を引き受けてくれたらね。」
「だからそれは無理ですって。」
「じゃあ帰らない。」
「子供みたいなこと言わないで下さい・・・・。」
「あ・・・・、」
「なんですか?」
「ビールある?」
「ないです。酒は飲まないんで。」
「なら買ってきてくれない?」
「自分で行けばいいでしょ。」
「バスタオル一枚なのよ?こんな格好で夜道を歩いたら確実に襲われるわ。」
「だからってなんで俺が・・・・・、」
「500のやつお願いね。メーカーはなんでもいいから。」
財布から1000円取り出し、強引に押し付けてくる。
「お釣りはあげるから。」
「誰も行くなんて言ってないんですけど・・・・、」
「・・・・・・・・。」
「御神さん?」
「・・・・・・・・。」
「・・・・無視かよ。」
ずっとキーボードを叩いている。
モンブランとマリナはニヤニヤ見つめているし、オスたちはグーグー寝ているし。
この状況、俺一人で耐えなきゃいけないらしい。
せめてチェリー君が起きていてくれたらな。
今は人間の姿で寝ているけど、彼が化けるのを見たら、御神さんは腰を抜かすだろう。
ていうか・・・・チェリー君を紹介してみようかな?
彼なら御神さんもOKしてくれるかもしれない。
人間に化けられるし、擬態で姿を消せるし。それにただの霊獣だから神様でもないし。
《・・・・いや、ダメだダメだ。仲間を売るようなことしちゃイカン。》
千円を握り締めたまま黙って立ち上がる。
アパートを出て近所のコンビニに向かうことにした。
田舎の道は夜になると寂しい。
街灯の光に虫が集まるくらいだ。
細い路地を抜け、大通りを右に曲がればすぐなんだけど、気晴らしに散歩でもと思って、いつもとは違うコンビニへ行くことにした。
ちょっと距離はあるけど、考え事をするにはちょうどいい。
《こうして無事に人間に戻れたけど、まだ全てが終わったわけじゃないんだよな。》
カグラという会社をどうにかしない限り、あの薬は増え続けるだろう。
そしてダキニが帰ってくる以上、ウズメさんだけではどうにも出来ない。
《こんな時にアイツがいてくれたら・・・・、》
見上げた夜空は雲に覆われ、月も星も見えない。
そこに重ねたのはたまきの顔だ。
あの猫神がいてくれればダキニが相手でも負けないのに。
今どこで何をしているんだろう?
俺はいつかアイツに手が届くんだろうか?
なあたまき、教えてくれ。
俺はちゃんと成長しているか?
正しい道を歩んでいるか?
もしかしたらどこかで俺のことを見ているのか?
それとも遠いどこかへ行ってしまったのか?
・・・・いや、案外近くにいるような気がするな。
神出鬼没ではあるけど、いつだって近くにいる気がするんだ。
そう思うのは、まだお前に頼ろうとしているせいかな?
一人立ちできない子供のように、お前を母親のように思って、ただ甘えているだけなんだろうか?
もしそんなマザコン野郎だとしたら、マイちゃんを幸せにすることなんて出来るのかな。
自分のことさえままらない男が、好きになった女を幸せに出来るかな。
俺は色んな人や動物にお世話になりっぱなしで、まともに恩返しすらしたことがないよ。
もう子供じゃない、いい大人だ。
なのに一人前だと自信が持てないのは、誰かに頼りっぱなしのせいなんだろうか?
教えてくれ、たまき。
今の俺にはなにが出来るんだろう?
俺はカグラのやっていることをやめさせたい。
ウズメさんの力になりたい。
でもそう出来るだけの力も自信もないんだ。
ダキニが戻ってくるって聞いて、正直ビビりまくってるよ。
もしかしたらアイツの方から関わってくるんじゃないかって。
なにせアイツを地獄へ落としたのは俺だ。
もし復讐なんてされたら、俺だけじゃなくてマサカリたちまで巻き込んでしまう。
下手をすればマイちゃんだって。
それが一番怖いよ・・・・・。
自分の大事なものが傷ついていくのが一番怖い。
その時、何もできない自分を直視するのも同じくらいに怖い。
なあたまき、手を貸してくれとは言わないよ。
代わりに神託を授けてほしい。
一昨年の夏、お前は猫神のご神託を授けてくれたよな。
藤井と別れるか?
それともどちらかが動物と話せる力を消すか?
そうでなければ不幸になるって。
あの時はそんな馬鹿なって思ったけど、今は正しかったと思ってる。
藤井は藤井で強烈な信念があって、それは俺とは比べ物にならないほど激しく燃え上がってたよ。
なにせ日本を飛び出してアフリカまで行っちゃうんだから。
自分の全てを懸けてでもやりたい道に邁進してる。
文字通り動物たちの為に命を懸けてるよ。
俺にはそこまでの覚悟は・・・・胸を張ってあるとは言えないかも。
もし藤井と一緒にいたままだったら、俺の方がアイツの信念に焼かれていたと思う。
でもって確実に足を引っ張っていたはずだ。
だからアイツと別れた選択は正しいと思ってるんだ。
もちろん藤井を嫌いになったわけじゃなくて、別れた今でも戦友のように思ってる。
遠く離れていても、お互いに動物に関わる道を歩いているから。
それにアイツとの出会いがなかったら、こうして動物を助ける道に進むこともなかっただろうから。
でもやっぱりずっと一緒ににはいられなかった。
だからお前の神託は正しかったんだ。
・・・・お願いだたまき、もう一度だけでいいから神託を授けてくれ。
ほんの少しでもいいから、道しるべを照らしてほしい。
力のない俺が、巨大な敵を相手にするにはどうすればいいのか?
大事な仲間を助けるにはどうしたらいいのか?
些細なキッカケでいいから教えてほしいんだ。
そうすれば俺も覚悟を決める。
最初の一歩はここだって分かれば、そのあとは藤井にも負けないほどの信念で最後まで貫き通してみせる。
・・・・・なんて考えてる時点で、やっぱり俺は甘ちゃんなんだろうな。
だってさ、結局お前を頼ろうとしているんだから。
最初の一歩なんて自分で見つけるものなのに。
少しでいいから頼ろうなんてしてる時点で、まだお前に甘えてるんなんだろうな。
でもさ、俺はこのまま逃げ出したくないんだ。
どんなに大変な道でも、踏ん張って戦わなきゃいけない時は誰にでもあるはずだろ?
もしここで放り投げてしまったら、俺は周りの全てから置いて行かれるような気がするよ。
そしてもちろん、永遠にお前に手が届かないままだろう。
いつか自分の力で見つけ出すなんて言っておきながら、そんな日はぜったいにやってこない。
だからいいさ、例え最初の一歩が分からなくても、とりあえず踏み出してみるよ。
行き先は天国か地獄か知らないけど、同じ場所で悩んでるよりかはずっとマシだ。
ていうか一人で夜道を歩いてると、ほんとに色んなことを考えちゃうな。
・・・・立ち止まり、曇った夜空を見上げていると、ふと誰かの気配を感じて振り向いた。
「あ・・・・・・、」
路地の街灯の下、またあの男が立っていた。
真っ白に照らされて・・・・というより、自ら輝いている感じだ。
しかもその手には小さな心臓を持っていた。
ドクンドクンと鼓動を刻みながら、紫色の血を滴らせている。
「・・・・・・・。」
男の目は鋭い。
まるで野生の狼のようだ。
でも不思議と恐怖は感じなかった。
「・・・・・・・・・。」
どうしようか迷った・・・・。
このまま立ち去ろうか?
それとも近づいてみようか?
敵なのか味方なのかも分からないし、そもそもどこの誰かすら分からない。
でも一つ感じることがあった。
《アイツ、わざと俺の前に現れてる。》
その目的はなんなのか・・・・直接アイツの口から聞きたかった。
少し怖いけど足を進めてみる。
男は微動だにせずに睨んでいて、以前と同じように、普通の人間とは思えない気配を放っている。
幽霊か?それとも霊獣か?
正体不明の男の思惑を知るべく、「やあ」と声を掛けた。
「ちょくちょく俺の前に現れるけど、なにか用かな?」
声が上ずっていたと思う。
冷静を装ってもやっぱり緊張する。
「この前病院の前で会ったよな?それに今日は俺の心臓を持ち去っていったし。その・・・・用があるなら話を聞くよ。」
男は答えない。
一ミリも表情を変えずに睨んでいるだけだ。
「実はさ、夢の中にまでアンタが出てきたんだ。とても奇妙な夢だった。だって銃で霊獣を撃ち殺していく夢だったんだ。
あの時のアンタの目、霊獣を憎んでいるような気がした。いや、もちろんただの夢なんだけど・・・・。」
俺がどんな夢を見たかなんて、この男には関係ない。
だけどあれはただの夢ではないような気がしてきたのだ。
こうして何度も目の前に現れるってことは、伝えたい何かがあるってことなんだろう。
ということは不思議な力を使って、夢の中にまで現れたってこともありうる。
「俺はアンタのことは何も知らない。名前も歳も。見た感じ若そうだけど、俺より年上な感じもする。
それになんていうのかな・・・・不思議な気配を感じるんだ。アンタ、ぜったいに普通の人間じゃないんだろ?」
どう聞いても何も答えてくれない。
それならどうして目の前に現れるのか?
怖いけどもう一歩近づいてみる。
すると初めてアクションを起こした。
懐から銃を取り出し、俺に向けたのだ。
「ちょッ・・・・、」
逃げる暇もなく撃たれる。
乾いた音が弾け、頭を抱えてしゃがみこんだ。
「・・・・・・ッ!」
当たったのか・・・・?
どこも痛くないけど、痛すぎると何も感じないっていうし・・・・。
「大丈夫か!?」
誰かが駆け寄ってくる。
恐る恐る顔を上げると、そこにはチェリー君がいた。なぜか霊獣の姿で。
「大丈夫か?」
「・・・・・・・・・。」
「心配すんな、もうアイツはいねえ。」
言われて街灯を振り返ると、男は消えていた。
「どこ行ったんだ・・・・?」
「さあな。俺を見るなりいきなり撃ってきやがった。しかも・・・・、」
痛そうに肩を押さえている。
「血・・・・弾が当たったのか!?」
「いや、掠っただけだ。」
「でもけっこう出てるじゃないか!すぐ病院に・・・・、」
「んな大したモンじゃねえよ、舐めときゃ治る。それよりこんなの初めてだぜ。銃で傷つくなんてよ。」
驚いた顔で傷口を睨んでいる。
「俺たち霊獣にあんなモン効きゃしねえはずなのに。どうなってんだいったい。」
「ほんとに平気なのか?」
「ああ。しっかしなんなんださっきの野郎は。いきなり撃ってくるなんてよ。通り魔か何かか?」
そう言って人間の姿に戻る。
「さっきの知り合いか?」
「いや・・・・。」
「アンタの帰りが遅いんで様子見て来いって言われてよ。」
「御神さんに?」
「叩き起されたんだ。人間に化けたままだったからよ。あなたちょっと様子見てきてよって。」
「ごめん、ちょっと考え事してたから。」
「近所のコンビニに行ってもいねえし、電話かけても出ねえし。どこ行きやがったんだって探してたら、この近くで嫌な気配を感じてよ。」
「嫌な気配?」
「さっきの野郎さ。血に飢えた猛獣みたいな気配がしてたぜ。こりゃナンかとんでもねえモンがいると思ってよ、ゆっくり近づいてみたんだ。
そしたらアンタがいたから慌てて助けに入ってってわけさ。」
「それで霊獣の姿になってたのか。」
「しかし迂闊だったぜ。もし頭でも撃たれてたらオシャカだったな。」
あっけらかんと笑っている。なんて神経が太いんだか。
「ま、とりあえず帰ろうぜ。またあんな野郎に襲われちゃたまんねえからよ。」
ポケットに手を突っ込み、ブラブラと歩いて行く。
撃たれた肩の血はもう止まっていて、さすがは霊獣だと感心した。
「・・・・あ、ちょっと待って。」
「なんだ?」
「チェリー君を撃った弾丸、どこに行ったか分かる?」
「さあな。貫通したから後ろにでも落ちてるんじゃねえか?」
「ちょっと探してみるよ。」
「ほっとけよそんなもん。」
「ちょっと気になることがあるんだ。」
チェリー君の立っていた後ろを探してみるけど、曇った夜空の下ではよく分からなかった。
「お〜い、さっさと帰ろうぜ。」
「・・・・・薬莢。」
「あん?」
「薬莢なら落ちてるかも。」
さっきの男が持っていた銃、あれはリボルバーではなかった。
たしかマガジン式?の銃というか、とにかく薬莢が落ちるタイプのやつだ。
街灯の下に駆け寄り、地面を探してみる。
「・・・・・あった!」
少し離れた場所に薬莢らしき物が転がっていた。
そいつを摘み、街灯に照らしてみる。
「なんだそりゃ?」
チェリー君が顔を近づけてくる。
俺は「銃を撃ったあとだよ」と答えた。
「これが?」
「どう見ても薬莢だろ。」
「でもこれ、紫色だぜ。こういうのって銀色とか鉛色とか、そんなんじゃねえの?」
「普通はね。」
「普通はねって・・・・これ特殊な弾丸なのか?」
「だと思う。なんたって霊獣を撃ち抜くくらいだから。」
「物騒なモンだな。」
険しい顔をするチェリー君を尻目に、スマホを取り出す。
「なんだ?110番でもすんのか。」
「ああ。」
「やめとけよ。面倒くせえことになるだけだ。」
「でも立派な事件じゃないか。君だって撃たれてるわけだし。」
「それが面倒くせえって言ってんの。だいたいもう傷は治りかけてるしよ。薬莢だってオモチャみてえな色してるし。呼んだって相手にされねえよ。」
「大丈夫、源ちゃんなら話を聞いてくれるよ。」
「さいですか。まあ好きにしろよ。」
そう言って「ふあ〜あ」とあくびをしながら帰って行く。
俺は薬莢を見つめながら電話を掛けようとした。
けど・・・・、
「あら、電源が切れてる。」
ボタンを押しても起動しない。どうやらバッテリー切れのようだ。
「しばらくほったらかしだったからな。家に帰ってからにするか。」
スマホと一緒に薬莢もポケットにねじ込む。
アパートに帰ると御神さんはもう寝ていた。
勝手に俺の布団に潜り込み、しかもその隣には巻いていたバスタオルが・・・・。
《まさか裸で寝てるわけじゃないだろうな。》
チェリー君は「んだよ、人のこと起こしたクセに」とブツブツ言いながら、横になってすぐ寝てしまった。
モンブランとマリナも妄想に飽きたのか寄り添って寝ている。
せっかく人間に戻ったってのに落ち着かない夜だ。
今夜も安眠できそうにない。
まあとにかく源ちゃんに電話しないと。
そう思ってポケットに手を入れると、いつの間にか薬莢が消えていた。
「ありゃ?」
ちゃんとポケットに入れたはずだ。
穴でも空いているのかと裏返してみたけど、そういうわけでもない。
スマホはあるのに薬莢だけが消えている。
でもその代わり・・・・、
「濡れてる・・・・紫色に。」
ポケットとスマホに紫の液体が滲んでいた。
・・・・まさかとは思いつつ、臭いを嗅いでみる。
けどよく分からないので、思い切って舐めてみた。
指で拭い、舌の先で軽く。
「やっぱり・・・・。」
ゾワっと背筋が波打つ。
口の中に鉄臭い血の味が広がった。

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