稲松文具店〜燃える平社員と動物探偵〜第二部 第二十二話 困った依頼者(2)

  • 2018.11.27 Tuesday
  • 09:59

JUGEMテーマ:自作小説

車で一晩過ごすというのは久しぶりだ。
自家用車はこの前のカーチェイスでお亡くなりになったけど、業務用の安物(いつ壊れてもおかしくないほどの)の自動車だ。
朝陽が瞼を刺激して、目を開けた時にはスズメがさえずっていた。
サラリーマン時代、こうして車で夜を明かすことは珍しくなかった。
終業とともにドっと疲れが出て、座席を倒して横になったが最後、そのまま朝を迎えてしまうのだ。
家に帰らずにそのまま出社して、油断しているとまた車で一晩・・・・なんて日々を過ごした時代が懐かしい。
とりあえず外に出て背伸びをする。
「う〜ん・・・背中が痛いな。」
ググイっと背筋を伸ばしながら二階の部屋を見上げる。
なにも望んで車で一晩明かしたわけじゃない。
こうなったのは御神さんのせいなのだ。
勝手に人の部屋に泊まっていくもんだから、同じ部屋で過ごすのはまずいと思い、こうして車に避難した次第である。
別にやましい気持ちなんてない。
ただマイちゃんが帰って来たとき、モンブランやマリナが何を吹き込むか分かったもんじゃない。
あることないこと吹き込んで、俺が困るのを楽しむに違いないんだから。
近くの自販機でコーヒーを買い、ズズっとすすりながら腕時計を見る。
午前6時50分。
寝過ごした・・・・。
きっとマサカリは怒っているだろう。
いつもは5時半に散歩に連れていき、帰ってくるのと同時に餌をねだるので、『悠一の野郎は何してんでい!』なんて息巻いているに違いない。
申し訳ないなと思いつつ、コーヒーをすすりながら昨日の晩のことを思い出した。
御神さんに頼まれてビールを買いに行った夜道でのこと、またあの男と出くわした。
無言で俺を睨み、しかもいきなり銃を撃ってきたのだ。
狙ったのは俺じゃない。
俺を探しにやって来たチェリー君だ。
幸い掠っただけですんだけど、男はいつの間にか消えていた。
俺は薬莢を拾い、家に帰ってから源ちゃんに電話を掛けるつもりだった。
あの紫の薬莢、そして霊獣を傷つけることが可能な弾丸。
普通じゃありえない代物だけど、これとよく似た話を源ちゃんから聞いた。
伊藤秀典・・・・カグラの社長にして、狼の霊獣と契約を結んだ男。
その男もまた、霊獣を殺傷できる銃を持っているという。
しかもその弾丸は紫色。
昨日のあの男の銃と一緒ではないか。
これは偶然?
それとも何かの繋がりがあるのか?
ここは源ちゃんに相談するしかないと思った。
けど家に帰ってくるなり御神さんが寝ていたもんだから(おそらく裸で)、とりあえず車に避難をと思って、夜を明かしてしまったけど。
まあいい。もう夜は明けたんだから。
部屋に戻ってスマホを充電して、すぐに電話を掛けよう。
ポケットに手をつっこみながら、アパートの階段を上っていく。
残念ながらあの薬莢はもうない。
ポケットに入れていたはずなのに、いつの間にか消えてしまったのだから。
代わりに紫色の液体が滲んで、ポケットとスマホを汚していた。
その液体を舐めてみると、鉄臭い血の味が広がった。
つまりあの薬莢は血で出来ていたということになる。
ということは弾丸だって同じだろう。
俺はポケットをひっくり返し、紫の滲みを確認してみた。
薬莢はなくても、これがあれば何か分かるかもしれない。
アナグマ医師のところに持っていて、詳しい成分を調べてもらえば・・・・・って、
「ありゃ?なんで・・・・、」
消えている。
ベットリとポケットを汚していたはずなのに・・・・。
スマホに付いていた血も消えているみたいで、舐めても味がしなかった。
一晩で乾くことはあっても、綺麗さっぱり蒸発してしまうなんて考えられない。
つまりあの血は普通の血じゃないってことだ。
人間やただの動物ではなく、特別な生き物の血。
考えられるとしたら霊獣しかない。
「分からないな。とにかく源ちゃんに電話だ。」
ガチャリとドアを開け、部屋に入る。
「あらおはよう。」
御神さんが出迎えてくれる。
それはいいんだけど・・・・、
「なんて格好してんですか!」
「ん?なにか変?」
「ズボン穿いて下さい!」
「だってまだ乾いてないんだもの。あ、ちなみに犬の散歩はもう連れてったわよ。」
「え?御神さんが・・・?」
「陽が昇る前からギャンギャンうるさいんだもの。有川さんはいないし仕方ないわねと思って。ついでに餌もあげておいたから。」
「あ、ありがとうございます・・・・。」
「散歩の時だけあなたのジーパンを借りたけど、いいわよね?」
「それは構いませんよ。ていうか部屋でも穿いてて下さい。」
隅っこにたたんで置かれていたジーパンを渡す。
御神さんは「照れちゃって」っと笑っていた。
「そんなウブな年頃じゃないでしょうに。」
「ぜんぜん話が違うでしょ・・・・。」
こんなに目のやり場に困っては話も出来ない。
御神さんがズボンの穿くまでの間、シャワーでもしていよう。
熱いお湯で疲れを癒し、サッパリした気分で風呂場を出る。
するとモンブランとマリナが駆け寄ってきた。
「はいはい、また俺をからかうんだろ。好きなだけどうぞ。」
まともに相手をしてちゃ損をする。
適当にあしらうと「もういいって」とモンブランが言った。
「なにが?」
「だから悠一をネタをするのは諦めるって。」
「そうなの!よかったあ。」
「その代わりチェリー君でいくみたいよ。」
「へ?チェリー君・・・・?」
「あの子ね、御神さんの前で動物に化けちゃったのよ。そしたら『もうアナタで決まり!』って喜んでたわ。」
「そ、そうなのか・・・・。で。チェリー君はなんて?」
「別にいいぜって。」
「軽いな・・・・。」
「お金も貰えるみたいだし即OKしてたわ。」
「なるほど、まあ彼がいいって言うならそれでいいんじゃないか。」
ホっと一安心だ。
これでようやく帰ってくれるんだから。
ドライヤーで頭を乾かしながら、「御神さん」と呼ぶ。
「チェリー君のこと、よろしくお願いしますね。」
「え?なに?」
「だからチェリー君のこと・・・・って、さっさとズボン穿いて下さい!」
「だってサイズが合わないんだもの。」
「でもそれ穿いてマサカリの散歩に行ったんでしょ?」
「ずり落ちて大変だったわ。」
「ベルトすればいいじゃないですか。」
棚から取り出し、「どうぞ」と渡す。
「ありがと。」
ガチャガチャとベルトを巻いて、ようやくズボンを穿いてくれた。
そしてすぐにパソコンに向かい、昨日と同じようにキーボードを叩いていた。
《仕事熱心な人だな。》
ちょっと強引なところはあるけど、悪い人ではないだろう。
マサカリの散歩も連れて行ってくれたし。
俺はコーヒーを淹れ、「どうぞ」と置いた。
「あら、ありがとう。」
ニコっと笑ってからまた仕事に取り掛かる。
用は済んだんだしもうじき帰ってくれるだろう。
あまり刺激せずに放っておくことにした。
部屋を見渡すとチェリー君がいない。
「どこ行った?」と尋ねると、マリナが「散髪」と答えた。
「雑誌に載るんだからカッコよくしなきゃって。」
「ノリノリだな。チュウベエもいないようだけど?」
「昨日から帰って来ないのよ。」
「なんだって!」
「ずっと窓を開けておいたんだけど戻って来なかったわ。きっとトンビにでも食べられたんじゃないかしら。」
「サラっと酷いことを言うな。ていうかマサカリもいないじゃないか!」
「いるわよそこに。」
「どこ?」
「そこ。」
マリナは尻尾で指す。
そこには御神さんの膝の上で丸くなっているマサカリが。
「何してんだアイツ・・・・。」
「散歩に連れてってもらってからすっかり懐いちゃってるのよ。出来れば飼ってほしいって。」
「薄情な・・・・俺はいつも散歩に連れてってるのに。」
ほんとに我が家の動物たちはどうなっているのか。
元に戻って大人しくなるかと思いきや、いきなりこれである。
まあとにかくチュウベエを探しに行かないと。
近所でミミズを食べてくるって言っていたから、探せばすぐに見つかるだろう。
「すいません御神さん、ちょっと家を空けます。」
「どこか出かけるの?」
「インコが帰ってこないんですよ。探してきます。」
「いいわよ、お留守番しててあげるわ。」
パソコンの画面を見つめながらヒラヒラと手を振る。
俺は玄関に向かい、「おっとその前に・・・・」とスマホの充電をした。
「帰ってきたら源ちゃんに電話しないとな。」
昨晩のことが気になって仕方ない。
あの男はまた必ず現れるだろうから、それまでに相談しておきたかった。
「じゃあお前ら、大人しくしてろよ。御神さんに迷惑掛けるんじゃないぞ。」
「は〜い。」
モンブランとマリナが尻尾を振る。
御神さんが「ほんとに動物としゃべれるのね」と驚いていた。
「翔子ちゃんが気に入るはずだわ。彼女も動物好きだもの。」
クスっと笑い、またパソコンに目を戻している。
俺はペコっと会釈してから部屋を駆け出した。
「たしかアパートの植込みにいるって言ってたな。」
駐車場を回り込み、ツツジの植込みを探していく。
しかしどこにもいなかった。
念の為アパートの周辺をくまなく探したけど見つからない。
「どこ行ったんだアイツ?」
もし調子に乗って遠くへ行っていたとしたらマズい。
なんたってチュウベエは鳥だ。夜になると何も見えない。
どこかで迷子になっているんじゃないかと不安になる。
「アイツの行きそうな場所っていったら・・・・たくさんありすぎるな。」
鳥だから行動範囲は広い。
しかも友達も多いので、見当を付けるだけでも大変だった。
だったらどうするか?
「他の鳥に聞いてみるか。」
友達が多いということは、誰かがアイツの居場所を知っているかもしれない。
とりあえず近くの電柱にとまっていたスズメに話しかけた。
「おはよう、ちょっといいかな?」
「ん?あんたはチュウベエの飼い主の変態。」
「誰が変態だ!」
「動物としゃべれるんだろ?この辺りの動物はみんな知ってるぞ。アイツは変わり者の変態だって。」
「嫌な評価をしないでくれ。いや、そんなことよりチュウベエを見てないか?昨日の夜から帰ってこないんだ。」
「さあ?」
「行きそうな場所に心当たりは?」
「ありすぎて分からない。」
「だよな・・・・。」
「でも仲の良い友達なら知ってるぞ。」
「おお、教えてくれ!」
「川を渡ったところにあるカマド公園に変わり者の犬がいるんだ。全身真っ白で、目の周りだけ黒い模様をしてる。まるでパンダみたいな犬だ。」
「それは飼い犬?」
「野良っぽいけど首輪はしてるんだ。とにかくいつもカマド公園をウロウロしてる。チュウベエと大の仲良しだから聞いてみれば?」
そう言ってどこかへ飛び去ってしまった。
「ありがとう、助かったよ」と手を振り、急いでカマド公園まで向かった。
いったんアパートへ戻り、車に乗って行く。
川の向こうは城下町の風情を残していて、景観保護地区に指定されている。
だから今でも細い道が網の目のように行き交っているのだ。
橋を渡り、信号を右に曲がり、少し進んだところでまた交差点が出てくるので、左に曲がる。
そのまままっすぐ行くと市民図書館が出てきて、さらに進むと三叉路の突き当たりに出る。
このすぐ近くに公民館の駐車場があるので、こっち側へ来る時はいつもここに停めるのだ。
そして徒歩で少し道を引き返し、寂れた商店街へ入ると、カマド公園が見えてくる。
そこへ向かう途中、一匹の野良猫がダダっと駆け抜けていった。
続けて綺麗な毛並みをした洋猫があとを追いかけていく。
「あ!あれは・・・・、」
サっと駆け抜けて別の路地へ消えてしまった。
チラっと見えただけだけど、さっきのはカレンに間違いない。
翔子さんの飼い猫で、モンブランの大親友でもある。
声を掛けようとしたけど、すでに姿は見えなかった。
「まあいいか、今は忙しいし。」
商店街を駆け、目的地のカマド公園までやってくる。
入口は屋敷の門構えのようになっていて、右にはトイレ、左にはちょっとした地元の資料室がある。
そこをまっすぐ抜けると広場が見えてくる。
公園といっても遊具はなく、地元の祭りの時にお店が並んだり、フリーマーケットの時に使われるような場所だ。
あのスズメはここに変わった犬がいるって言っていたけど・・・・、
「・・・・ん?あれっぽいな。」
全身真っ白で、目の周りだけが黒模様の犬がいた。
まんまパンダである。
真っ赤な首輪をしているけどリードは付けていない。
公園の傍には民家もないので、おそらく野良犬だろう。
パンダみたいな犬は公園の端っこで何かを見つめていた。
その先には草の茂った植込みがある。
《何を見つめてるんだ?》
じっと観察しているとすぐに答えが分かった。
植込みの陰から一羽のインコが出てきて、犬に何かを渡していたのだ。
《あれはチュウベエ!》
どうやら食べ残しのチキンを渡しているようだ。
誰かが植込みに捨てたのだろう。
犬は美味そうにチキンを平らげ、ゲフ!とゲップを放っていた。
そして植込みの近くの土を掘り返し、その場所をトントンと叩いた。
チュウベエは犬の掘り返した土をつつき、「うます!」と叫んだ。
どうやらミミズを食っているらしい。
《ははあ・・・チキンを取ってきたお返しに、土の中のミミズを掘り返してもらったのか。》
相変わらず知恵の回る奴である。
《たぶんここへ来るのが目当てだったんだろうな。》
アパートの植込みに行くなんてウソもいいところである。
夜に遠くへ行くと言ったら絶対に外へ出してもらえないから、あんなしょうもないウソをついたんだろう。
《チュウベエめ、年々ずる賢さが増してやがる。》
小鳥にとって夜の遠出は危険である。
このままでは他の動物の餌食になりかねない。
ここは飼い主として一発かましておくべきだろう。
《いつだって甘い顔してるわけじゃないってこと、教えてやらないとな。》
スウっと息を吸い込み、こらチュウベエ!と怒鳴ってやろうとした。
しかしその時、公園の反対側から二匹の猫がやってきた。
《あ!あれはさっきの・・・・、》
カレンともう一匹の猫が犬の所へ近づいて行く。
そしてカレンが・・・、
「チュウベエじゃない!アンタ何してんの?」
「よ。」
翼をあげて返事している。
「なんでアンタがここにいるのよ!」
「なんでって見れば分かるだろ。ミミズを食ってる。」
「そうじゃないわよ!今までどこ行ってたのか聞いてるの。」
怒るカレン、チュウベエは首を傾げていた。
「何をそんなにムキになってんだ?」
「一昨日アンタの家に行ったのよ。悠一さんに用があるから。」
「おお、そうだったのか。悪いけどこっちも色々忙しくてな。」
「また動物探偵の依頼?」
「依頼っちゃあ依頼だけど、いつもの依頼とは違うな。口で言っても信じてもらえないような話だから。」
「そんなに大変な依頼だったの?」
「まあな。ちょっと岡山まで行って銃をぶっ放してたから。」
「銃!?そんなに危ない依頼なの?それじゃあ家にいなくても仕方ないか。」
納得したように頷くカレン、そして「今はもう帰って来たの?」と尋ねた。
「おお、もう終わったからな。」
「てことは悠一さんもいるわよね?」
「いるぞ。出かけてなければな。」
「実は相談したいことがあるのよ。」
「カレンも依頼か?だったら俺から悠一に伝えといてやるぞ。」
「ほんとに?じゃあ今すぐ呼んできて。翔子ちゃんがピンチなの!」
聞き捨てならないことを言う。
チュウベエが返事をする前に「どういうことだ!」と駆け出していた。
「ああ!悠一さん!!」
「カレン、今の話は本当なのか?」
「ほんとよ、誘拐されちゃったの。」
「誘拐!誰に?」
「分からない。でもこの子が言うには・・・・、」
そう言ってもう一匹の猫を振り返る。
目つきの鋭いキジトラ模様の猫だった。
「カグラって会社が怪しいんじゃないかって。」
「カグラだって!?」
「悠一さん知ってるの?」
「ええっと・・・まあ。名前くらいは。」
危ない危ない・・・・下手に話をすれば薬の噂が広まってしまう。
そうなれば欲しがる動物も出てくるだろうから気をつけないと。
「カグラは翔子ちゃんの会社のグループなの。タンクが言うにはそのカグラが怪しいんじゃないかって。ね?」
「うん。ていうか・・・・この人ほんとに動物と話せるんだな。霊獣でもないのにビックリだよ。」
「君も知ってるのか?霊獣のこと。」
「知ってるもなにも・・・・ほら。」
タンクから白い煙が上がる。次の瞬間には人間に変わっていた。
高校生か中学生くらいの男の子に。
「まさか・・・君は猫又?」
「まあね。ちなみにアンタのことはカレンから聞いた。部長補佐のお友達なんだって?」
「部長補佐って・・・・翔子さんのことか?」
「そうだよ。あの人、何日か前から行方が分からなくなってるんだ。警察が必死に捜してるけど全然見つからなくて。だから俺たちで捜そうってことになったんだ。」
そう言ってカレンを見つめる。
「ちなみにタンクのお母さんも誘拐されちゃったの。」
「君もか!」
「血の繋がりはないんだけど母親だと思ってる。間違いなくカグラに誘拐されたはずだ。なんたって奴らは犯罪組織だからな。表向きは家具屋だけど、裏じゃ酷いことやってるんだ。」
少し考える。
このタンクって猫又、カグラの事情を知っていそうな口ぶりだ。
だったらこっちのことも話しておいた方がいいかもしれない。
しれないが・・・・もう少し様子を見てからにしよう。
でないとどこからどう漏れて薬の噂が広まるか分からない。
「あの・・・・、」
いきなりパンダみたいな犬が話しかけてくる。
「さっきから何話してんですか?」と不思議そうだ。
「ああ、ええっと・・・・、」
「カグラがどうとか言ってましたけど、もしかして例の薬の件ですか?」
「なんで知ってるの!?」
「チュウベエから聞いたもんで。」
「なにい・・・・。」
ギロっとチュウベエを睨む。
「ウィイ。」
「ウィイじゃないだろ!」
「イェイ。」
「しばくぞ!」
「それは困る。」
「困るのはこっちだ!なんでベラベラ喋るんだよ!」
「でもこの街の動物はほとんど知ってるぞ。」
「なんで!?」
「だって遠藤のオッサンがバラ撒いてたから。」
「そういえば・・・・、」
「まあ俺が言いふらしたせいでもあるんだけどな。」
「やっぱりお前のせいじゃないか!」
「ウィイ。」
「ほんとにしばきたい・・・・。」
いったいこいつの思考回路はどうなっているのか。
脳ミソが詰まっているのかどうかも怪しい。
「まあまあ、チュウベエはおしゃべりなんで。大目に見てやって下さい。」
犬がフォローする。
チュウベエも「そうだぞ」と頷いた。
もはや相手にするまい。こいつはアホなのだ。
「ねえ悠一さん、力を貸してくれるよね?」
カレンが懇願するような目で見つめてくる。
そしてタンクも「俺からも頼む」と言った。
「アイツから言われたんだ。カレンと一緒にアンタのところへ行けって。」
「アイツ?アイツって誰?」
「たまき。」
「たまきだって!君もたまきのこと知ってるのか?」
「知ってるもなにも、猫又でアイツのことを知らない奴の方が少ないんじゃないか?なんたって猫の神様なんだから。」
「まあたしかに。猫の霊獣の元締めみたいな感じなんだろうな。」
「たまきが言ってたんだ。アンタは私の弟子だって。」
「その通りだよ。俺はたまきの弟子だ。まだまだ師匠には及ばないけどな。」
「でもたまきが認めるほどの人間ならきっと力になってくれるはずだ。お願いだから手を貸してくれ!俺だってムクゲを助けたいんだ!!」
「それは君のお母さんの名前?」
「そうだよ。ムクゲも猫又なんだ。」
「もはや猫又のオンパレードだな。」
「カグラは危険な連中だから何をするか分からない。特に鬼神川って奴は・・・・。」
「その名前は知ってるよ、カグラの副社長なんだろ?」
「鬼の狐火って異名をとる稲荷なんだ。めちゃくちゃ喧嘩が強くて、たまきレベルじゃないと勝てない。」
「相当なだそりゃ。」
「でもたまきが認めた人間ならどうにかなるかもしれない。手を貸してくれるよな?」
タンクも懇願するような目で見つめる。
もちろん異論はない。でも相手がカグラとなると・・・・、
《敵が大きすぎるよ。でもこのまま翔子さんをほっとくなんて絶対に出来ない。どうにかして助けないと。》
腕を組み、険しい顔で明後日の空を見上げる。
翔子さんは大事な友達だ。
一昨年の夏だって誘拐されて、今年もまただなんて・・・・。
《翔子さんはあんなに頑張ってるのに、どうしてこんな目にばっかり遭うんだ。俺に・・・俺にもっと力があれば・・・・。》
大事な友達がピンチなのに何も出来ないなんて・・・なんて情けない。
「パンダ帰るってよ。」
いきなりチュウベエが言う。
見るとパンダみたいな犬がどこかへ去っていくところだった。
「アイツ飼い犬なのか?」
「飼い犬っていうか居候だな。一人暮らしの婆ちゃんの家に住み着いてるんだ。」
「なるほど。それで首輪付けてもらってるのか。」
「いいや、あれは元々だ。」
「なら捨てられたのか?」
「らしいぞ。あんまり昔のことは話したがらないけどな。」
「犬も色々あるもんだ。気安く詮索は出来ないな。」
「あいつは色んなとこウロウロしてるから情報通なんだ。」
「へえ、なら仲良くしておいた方がいいかな。動物探偵として情報屋は貴重だから。」
「見返りに餌でもあげれば喜ぶと思うぞ。なんなら声掛けてみたらどうだ?」
「そうしたいけど、今はどれどころじゃ・・・・、」
「遠慮すんな、俺から話してやる。」
「あ、おい・・・・、」
チュウベエが飛んでいき、何やら話しかけている。
パンダという名の犬は「喜んで!」と駆け寄ってきた。
「けっこうげんきんな奴だな。」
「好きなだけ餌を食わしてくれるんですって?なんでも協力しますぜ旦那。悪い奴をお縄にする為なら。」
「俺は岡っ引きか。まあいいや、せっかく協力してくれるっていうなら何か聞いてみようかな。」
何を尋ねるべきか迷う。
するとカレンが「翔子ちゃんを助けたいの」と言った。
「パンダは情報通でしょ。だったら何か知ってるかと思って相談しに来たのよ。」
「俺もお願いしたい!ムクゲを助けたいんだ!!」
「たしか誘拐がどうとか言ってましたね。実はちょっとばかし気になる噂を耳に挟んだんですが・・・・聞きますかい?」
「お願い!」
「教えてくれ!」
「じゃあ犬缶10個で手を打ちましょう。」
「いいわよ。ねえ悠一さん?」
「それくらい余裕だよな。」
「まあいいけど・・・・。後払いでもいいか?」
「ほんとは前払いがいいんですが、チュウベエの飼い主さんですからね。信用しましょ。」
「助かる。ならその噂とやらを教えてくれ。」
「いいですぜ、耳を貸しておくんない。」
俺たちはパンダに耳を近づける。
周りには誰もいないのにこれをやる必要があるのか?・・・・というのはツッコまないでおこう。
「実はですね、ちょくちょく動物が消えるって噂があるんでさあ。」
「消える?」
「どっかの連中が密猟してるらしくてね。動物をさらっていくそうなんですよ。しかも狙いは霊獣だと。」
「霊獣・・・・。ていうかパンダ君も霊獣を知ってるんだな。」
「知ってなきゃタンクさんが化けるのを見て腰を抜かしてまさあ。旦那が思ってるより霊獣の存在を知ってる動物は多いんですぜ。」
「そうなの?俺が無知なだけなのか・・・・。」
「話を戻しますが、その密猟集団を追いかけている霊獣がいるそうなんでさあ。そいつに会うことが出来れば手がかりが掴めるかもしれません。」
「なるほど。で・・・・その霊獣の居場所は?」
「氷ノ山ってご存知ですかい?」
「もちろん。兵庫県と鳥取県にまたがる大きな山だろ?この県の北にあるはずだ。」
「その通りでさあ。でもってそこに正義の味方の霊獣が集まる場所があるらしいんですが、そのうちの一人が密猟集団を追っかけてるって噂でね。
ちょくちょくこの街にも来てるみたいですぜ。」
「どこだ!どこに行けば会える?」
「知り合いの猫又の話じゃ、古民家の喫茶店によく来てるみたいで。こっから一キロほど西に行ったところに朧って名前の店があります。」
「朧か。ネットで検索すれば出るかな?」
「そんなことしなくても、この商店街を抜けて西に向かえば看板が見えてくるはずですぜ。
妖艶な気配を放つ超美人の霊獣だそうです。ただいつもいるとは限らないそうですが。」
「ならとりあえず行ってみるよ。有益な情報をありがとう。」
「あくまで噂ですから信用されすぎても困りますけどね。」
そう言って「犬缶は忘れないで下さいよ」と舌なめずりをした。
「この公園の植込みにでも隠しといて下さい。」
「分かった、必ず置いておくよ。」
「約束ですぜ。それじゃあっしはこれで。」
軽快な足取りでひょこひょこ去って行く。
俺たちは顔を見合わせ、「行くか」と頷いた。
パンダ君の言った通り、商店街を抜けて西に歩いていく。
城下町の風情を残す細い道には、古い家がたくさん並んでいた。
最近は古民家を利用したお店が増えているそうで、朧もその一つなんだろう。
注意深く看板を探していると、チュウベエが「あれじゃないか?」と見つけた。
「ええっと・・・・おお!あれだあれ。」
年季の入った民家の軒先に、切り株みたいなデザインの看板が立っている。
そこには達筆な字で「朧」と書かれていた。
「チュウベエ、お前また読める字が増えたな。」
「賢いだろ。」
「賢すぎて困ることもあるけどな。」
こいつは以前にも店の看板を読み当てたことがある。インコのクセに恐ろしい奴だ。
「じゃあちょっと中に入ってくるから。みんなはその辺で待っててくれ。」
動物たちを残し、暖簾を潜る。
石畳の通路に、苔と砂利引きの庭。
古民家というより小さな料亭という感じだ。
玄関も立派なもので、和の風情を感じさせる洒落た造りだった。
入口の近くには木の板にメニューが書かれていて、本日オススメが貼り出されていた。
「どれどれ・・・。マタタビパウダーのクッキーに煮干の羊羹。ねこじゃらし風味のコーヒーにマタタビ入りの紅茶か。・・・・どんなメニューなんだこれは。」
味の想像がつかないけど・・・・まあいい。
お茶を飲みに来たわけじゃないんだから。
「ここに正義に味方の霊獣がいるのか。」
一つ深呼吸をする。
たしか妖艶な気配を放つ超美人の霊獣と言っていた。
もしいたらすぐに分かるだろう。
ちょっと緊張しながら引き戸に手を伸ばす。
するとその瞬間、ガラっと戸が開いて誰かが出てきた。
「今日のお茶も美味しかったわマスター。また近いうちに来るから。」
スーツに白衣をまとった女が出てくる。
ぶつかりそうになって脇によけると、「あらごめんなさい」と言った。
「いえいえ」と言って店に入ろうとした瞬間、ピンときてその女を振り返った。
するとなぜか向こうも俺のことを見ていて、思わず目が会ってしまった。
《ぜったいにこの人だ!》
一瞬で分かる。
だって妖艶な気配を放っているし、ものすごく美人だし。
パンダ君が言っていた霊獣で間違いないだろう。
いきなり会えるとはラッキーだ。だからまずは喜ぶべきなんだろうけど・・・・、
《なんだろう・・・・この感じどこかで・・・・、》
「何かご用かしら?」
「へ?」
「じっと見てらっしゃるから。」
「いやその・・・ちょっと知り合いに似た雰囲気を感じたから。」
この女、俺の知ってるアイツにそっくりだ。
そう、猫神たまきに。
たまきは色んなものに化けられるから、人間に化けて街をウロウロしていたとしてもおかしくはない。
けど・・・・・、
《もし正体を明かすつもりなら自分から言うよな。》
俺は確信していた。
この女はぜったいにたまきだって。
根拠はない。ただの勘なんだけど・・・・・うん、でもこの気配、雰囲気、間違いなくたまきだ。俺には分かる。なんたって弟子なんだから。
けど今はまだたまきとして会う時じゃないんだ。
だって自分自身の力で見つけないといけないから。
こんな偶然みたいな出会いじゃ絶対に認めてもらえないだろう。
だったら・・・今は忘れるしかない。
この女はたまきじゃなくて、正義の霊獣っていうだけなのだと。
「あの・・・・ぶしつけなお願いで申し訳ないんですが。」
「なんでしょう?」
ニコっと微笑むその顔は、まるで俺を試しているかのようだ。
下手な受け答えをしたら力は貸さない。そう言っているかのような目だった。
「実はですね・・・・、」
背中に冷や汗が流れる。
だって翔子さんの無事が懸かっているのだ。
もし俺が情けない受け答えをしたら・・・・。
そう思うと喉が乾いてくる。
たまきはもう一度「なんでしょうか?」と笑みを向けてくる。顔は笑っているけど目は厳しい。
俺は覚悟を決め、「力を貸して頂きたいことがあるんです」と切り出した。

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