稲松文具店〜燃える平社員と動物探偵〜第二部 第二十三話 道しるべ

  • 2018.11.28 Wednesday
  • 10:32

JUGEMテーマ:自作小説

古民家を再利用した喫茶店は風情があっていいものだ。
ここは朧という店。
古いものをただ古いものとして切り捨てるんじゃなくて、人が手を入れることで新しい形になって復活したレトロなお店だ。
昨今は空家が増えているから、こういった古い家屋を利用したお店が流行っているらしい。
いま俺がいるお店も歴史を感じさせる佇まいだった。
照明はわざと裸電球を使い、テーブルや椅子もあえて古びた物を揃えている。
外から新しい物を持ち込むんじゃなくて、なるべくそこにあった物を利用しているようだ。
でもお店としての体裁もちゃんと整っていて、落ち着いてお茶やお菓子を楽しめる。
それが口に合えばの話だけど・・・・。
《なんだよこのマタタビパウダーのクッキーって・・・。もさもさしてて美味しくない。
それにねこじゃらし風味のコーヒー、なんか喉がイガイガするんだけど・・・・。》
俺はちっとも美味しいと思わないけど、隣に座っているタンク君は「これウマ!」と絶賛していた。
そして向かいに座る女性も。
「ここはちょっと変わったメニューを出すんです。なかなか他では味わえないでしょう?」
「うん!マジでウマいよ!」
そう言って「これいらないならもらうよ」と俺のマタタビクッキーを頬張っていた。
好きなだけ食べればいい。もう食う気になれないから。
ちなみにカレンも「美味しいこれ!」と絶賛している。
猫の持ち込みOKの喫茶店とは珍しいが、カレンが喜んでくれるならそれでいい。
ちなみにチュウベエは「おえ!」と吐いていた。
「不味いぞこれ。」
「人の頭の上で吐くな!」
「へいマスター!ミミズの羊羹プリーズ!!」
「置いてねえよそんなもん!」
「どうぞ。」
白髪まじりの渋いマスターが置いていく。
心の中で《あるのかよ!》とツッコんでしまった。
ていうかチュウベエの言葉が分かるなら、このマスターも霊獣なんだろう。
世の中霊獣のバーゲンセールをやっているらしい。
「う〜ん・・・・これは美味!ほら悠一、お前も食え。」
「いるか!」
「ミミズの粒つぶ入りだぞ。」
「余計に食いくないっての・・・・。」
アホなインコはほっといて、そろそろ本題に入ろう。
目の前に座るこの女性は玉木千里さんという霊獣だ。
どう考えてもたまきなんだけど、今はそのことは忘れよう。
「お話があるとのことですが、いったいどんなお話なのか・・・・そろそろ聞かせて頂けませんか?」
妖艶な微笑みを向けてくる。
けどその目は厳しい。まるで面接の試験官のように。
《とりあえず話は聞いてもらえることになったけど、ここからが本番だな。》
店先で出会って、『力を貸してほしいことがあるんです』と頼むと、『お話を伺ってから』と言われたのだ。
とりあえず門前払いを食らうことはなかったけど、この先の受け答えによっては、力を貸してもらえない可能性もある。
要するにこれはたまきから俺への試験なのだ。
動物探偵としてちゃんと腕を磨いているか?
成長はしているか?実力を付けているか?
妖艶な笑みの向こうに厳しい眼差しが浮かんでいる。
「申し訳ないけどそう時間がありません。なにもお話にならないのであればこれで。」
そう言って立ち上がろうとするので、「ちょっと待って!」と止めた。
「今から話します!」
「では手短に。」
「手短に言うのは難しい内容なんですけど・・・・、」
「要点を簡潔に伝えられないのなら、人を引き止めてお願い事をするものじゃありません。ましてや初対面の人に向かって。」
「そ、そうですよね・・・すいません。」
必死に考える。
翔子さんを助ける為、力を貸してもらうにはどうすればいいのか。
すると俺がお願いする前に、カレンがテーブルに飛び乗り、「助けてほしいの!」」と叫んだ。
「私の飼い主が誘拐されちゃったの!あなたは正義の味方の霊獣なんでしょ?だったら翔子ちゃんを助けてあげて!」
カレンの叫びは魂がこもっていて、玉木さんは少しだけ表情を変えた。
「誘拐・・・・あなたの飼い主が?」
「だってぜんぜん帰ってこないんだもん!翔子ちゃんが勝手にどっか行っちゃうなんてありえない!きっと誰かに誘拐されたのよ。」
そう言って「ほら、タンクもお願いして!」と促した。
「アンタだってお母さんを誘拐されてるんだから。それにこの霊獣はアンタの知り合いでしょ?」
「え?ああ・・・・うん。」
なんだか歯切れが悪い。どうしたんだろう?
タンク君はチラチラと玉木さんを見ながら、何かを言いたそうに口ごもっていた。
しかし何も言わない。
俺は「どうしたんだよ?」と尋ねた。
「なんでそわそわしてるんだ?」
「いや、ちょっと・・・・、」
「ていうかこの霊獣、君の知り合いなのか?」
「まあ・・・・。」
オドオドと頷く。
別に俺は驚かない。
だって玉木さんはたまきなのだ。
俺も彼もたまきのことは知っているわけで、だったら人間に化けた時のたまきだってタンク君は知っているんだろう。
「有川さんさ、この女の人、実は・・・・、」
そう言いかけた時、玉木さんの目が一瞬だけ光った。
タンク君はビクっとして、俯いたまま黙り込んでしまう。
《なるほど・・・・目で圧力をかけてたのか。》
この人はたまきですなんて言ってしまったら、俺に正体を隠している意味がなくなってしまう。
余計なことは口走るなとプレッシャーを掛けていたようだ。
でもそんな事情を知らないカレンは「お願い!」と頼み続ける。
「翔子ちゃんが心配で仕方ないの!だってきっと怖がってるもん。誘拐するなんて悪い奴に決まってるから、何されるか分からないし。」
「そうね、たしかに怖いことだわ。」
「でしょ!だから力を貸して。ほら、悠一さんからもお願いしてよ!」
「あ、ああ・・・・。」
そうしたいのは山々なんだけど、要点を簡潔にって釘を刺されている。
どう切り出すべきか悩んでいると、チュウベエが「俺たちだけでいいだろ」と言った。
「こんな今日あったばかりの霊獣に頼らなくたって、俺たちだけでどうにか出来るはずだ。」
「簡単に言うなよ。あんな薬をバラ撒く連中だぞ、俺たちだけじゃ太刀打ちできない。」
「でも霊獣の味方ならこっちにもいるじゃないか。ウズメにアカリにチェリー。あと狼男たちも。」
「あ、あいつらもか・・・・?」
「それにツムギだっている。」
「彼は手を貸したりはしてくれないよ。俺のこと嫌ってるし。」
「でもマリナに惚れてる。アイツから頼んでもらえば動いてくれると思うぞ?」
「そ、そうかな・・・・?」
「見知らぬ霊獣を頼るより、よく知った霊獣に頼んだ方がいいって。」
「・・・・・・・・。」
そう言われてハっとする。
たしかにその通りかもしれない。
「玉木さん。」
「なにかしら?」
「その・・・・こっちから呼び止めておいてアレなんですけど、俺たちだけでどうにかしてみせます。」
「どうにかって?」
「翔子さんやムクゲさんを誘拐した犯人は分かっています。ただあまりに敵が強大だから尻込みしちゃってたみたいで。
でもそんなのダメなんですよね。俺の友達なんだから俺が助けに行かないと。
それにチュウベエの言う通り、こっちにだって霊獣の仲間がいます。まずは彼らに相談してみようかなって。」
玉木さんは笑みを消し、険しい表情で頬杖をつく。
この顔、この仕草、たまきそのものである。
アイツはいつだって俺が何か言い出すたびにこんな感じになるのだ。
《ほんとにアンタに出来るの?》
そう尋ねている目だ。
チュウベエが頭から飛び上がり、「よく言ったぞ悠一!」と叫んだ。
「信頼できる仲間こそ頼りになる。遠くの仏より近くの鬼ってやつだ。」
「別にみんな鬼じゃないけど・・・・。」
「細かいことはいい。お前の友達の為なんだ、みんな手を貸してくれるはずだ。」
そう言って「行くぞ!」と外に飛んでいってしまった。
けどすぐに戻ってきてミミズの羊羹を平らげていた。
「げふう・・・おかわり!」
「言ってることとやってることが違うだろ!」
チュウベエの言うことにちょっと感心してしまった自分が情けない。
でも・・・・、
《たしかにコイツの言う通りだ。ここでたまきの手を借りようとすること自体が間違いだったのかもしれない。》
厳しい目で見つめていたのは、俺の受け答えを試す為なんかじゃなくて、また自分を頼ろうとする俺の根性に怒っていたんだろう。
大事な友達の為ならまずは自分で動いてみろ。
そう言いたかったのかもしれない。
立ち上がり、一礼する。そして店を出ようとした。
タンク君が「待ってよ!」と引き止めにくる。
「相手はあのカグラだぞ!ほんとに自分たちだけで挑むつもりかよ?」
「ああ。」
「あのさ、今まで黙ってたけどこの人は・・・・、」
言いかけるタンク君を遮って、玉木さんが「分かりました」と頷いた。
「特に用もないようですし、帰らせていただきます。」
そう言って伝票を摘んでいく。
そして一度だけ振り返り、こう言った。
「自分よりも強い敵と戦うコツ、ご存知かしら?」
「いえ。」
「なら一つアドバイスを。」
射抜くような視線で語りかけてくる。
思わず背筋が伸びた。
「どんな強敵でも急所を射抜けば倒れるもの。そして急所は必ずしも弱い部分とは限りません。」
ニコっと微笑み「ではこれで」と去って行った。
タンク君が「ちょっと待ってよ!」と慌てて追いかけて行く。
カレンはわけが分からずにキョトンとしていた。
「ねえ、なにがどうなってるの?なんであの霊獣に手を貸してもらわなかったの?」
不満そうに言うけど、俺はこう返した。
「もしここで手を借りようとしたら、それこそアドバイスすら貰えなかったと思う。だからこれでいいんだ。」
俺も店を出て行く。
カレンが後ろからついて来て「私も行く!」と叫んだ。
「翔子ちゃんを助けに行くんでしょ?だったら私も行く!」
「ありがとう。でもカレンを危険に巻き込むわけにはいかないよ。そんなことしたらきっと翔子さんが心配する。」
「私だって翔子ちゃんが心配よ!大事な飼い主なんだから。」
「分かってるさ。でもカレンに何かあったらモンブランだって黙ってない。きっと猫パンチでボコボコにされちゃうよ。」
「モンブランはそんなことしないわ。」
「冗談だよ。でもカレンはモンブランの親友だ。だったらやっぱり危険には巻き込めない。」
「でも・・・・、」
「大丈夫、必ず翔子さんを連れて帰る。俺たちを信じて待っててくれ。」
カレンを抱き上げ、ポンと頭を撫でる。
チュウベエもカレンの頭にとまって「心配するな」と言った。
「こういう時の悠一はなかなか頼りになる。いつもはどうしようもないほど情けないけどな。」
「そりゃ余計だ。」
シッシと追い払うと、「先帰ってるぞ」と飛んでいった。
「なあカレン、約束するよ。ぜったいに君の飼い主を傷つけさせたりしない。」
「ほんと?」
「ほんとだ。」
カレンの尻尾を小指で掴む。
指切りげんまんならぬ尻尾切りげんまんをすると、「分かった・・・・」と呟いた。
「でもほんとに約束よ。ぜったいに助け出してね。」
「ああ、約束する。」
カレンは「なら信じる」と言って、ピョンと俺の腕から飛び降りた。
「助けたらすぐに知らせにきてね!」
「もちろん。」
力強く頷いてみせると、少しだけ安心したように尻尾を振った。
そこへタンク君がやって来て「クソ!」と舌打ちをした。
「逃げられたよ。」
「玉木さん?」
「そうだよ!アンタに教えてあげるよ。実はさっきの女の人って・・・・・、」
「知ってるよ。」
「え?気づいてたの?」
「まあね。」
「だったらなんで手を貸してもらわなかったんだよ?」
「これでいいから。」
「意味分かんねえ・・・・。でもまあ別にいいけどさ。アイツは元々ムクゲを助けようとしてくれてるんだ。アンタなんかアテにしなくても平気さ。」
「強いし頼りになるからな、あの猫神は。それよりカレンを追いかけてあげなよ。」
ポンとタンク君の背中を押す。
「女の子が帰るんだ。送ってあげなよ。」
「なんだよ、カッコつけたこと言って。」
ツンと拗ねているけど満更でもなさそうだ。
「まあアンタなんかに何か出来ると思わないけど、あんまり無茶するなよ。」
そう言い残し、カレンのあとを追いかけて行った。
「さて・・・・、」
偉そうに見栄を切ったものの、ぶっちゃけ不安の方が大きい。
しかしやると決めたからにはやるしかない。
車まで戻り、エンジンを掛ける。
すると「よう」とチェリー君がドアを叩いた。
「アンタもこっちに来てたのか?」
「そりゃこっちのセリフだよ。散髪に行ってたんじゃないのか?」
「おう、さっき行ってきたぜ。そこの床屋によ。」
そう言っていかにも床屋って感じの店を指さした。
「あそこっておっちゃんとかが利用する店じゃないか。」
「悪いかよ。」
「ていうかぜんぜん変わってないじゃんか。」
「バカいえ。いつもより尖ってんだろがよ。」
両手でシュっとリーゼントを撫でている。
でもまったくいつもと同じだった。
「それどこが変わったの?」
「全部変わってんだろうが。」
「ごめん、前と同じにしか見えない。」
「かあ〜!これだから素人は。」
リーゼントに素人とかプロとかあるんだろうか?
まあどうでもいいけど。
「アンタ今から帰るのか?」
「ああ、乗ってくか?」
「もちろん。」
ドカっと助手席に乗って、「俺もついに全国デビューか」なんて呟く。
「ん?なんの話?」
「だって雑誌に載るんだぜ?これでいよいよメジャーだぜ。」
「でも超マイナーなオカルト雑誌だぞ。チュパカブラとかネッシーと同じ扱いにされてもいいのか?」
「実はどっちも見たことがあるんだ。」
「ウソ!マジで?」
「UFOもあるしな。いよいよ俺もその仲間入りってわけだ。そうすりゃアンタ、テレビとかにバンバン出て大金持ちだぜ。」
「そうなったら俺のことも養ってくれ。」
「おう!まとめて面倒見てやるぜ!」
これは期待しよう。
マイちゃん、君が帰って来る頃には豪邸に住んでるかもしれないよ。
結婚指輪も給料三年分くらいのやつが買えるかも。
なんて妄想を膨らませながら家に帰る。
そしてドアを開けた瞬間、モンブランが飛び出してきた。
「悠一!翔子ちゃんが大変なんだって?」
「チュウベエから聞いたのか?」
「誘拐されちゃったんでしょ?」
「カレンが言うには。」
「カレンはウソをついたりしないわ。あの子が言うならきっと間違いない!」
「もちろん疑ってなんかないよ。これからみんなで翔子さんを助けに行くつもりだ。」
そう答えると「それでこそ悠一よ!」と尻尾を振った。
「聞いたみんな?全員出動で翔子ちゃんを助けに行くわよ!」
マサカリが「がってんでい!」と気合を入れ、マリナが「さらった奴らをボッコボコにしてやりましょ!」と息巻く。
そしてチュウベエが「またこいつの出番だな」と何かを咥えてきた。
「ん?お前・・・・それはまさか・・・・、」
「例の薬。」
「なんで持ってんだ!」
「パンダがくれたんだよ。街をウロウロしてる時に拾ったって。」
「アイツが?」
「マサカリの犬缶をやるっていったらくれたんだ。」
「そういうことは早く言えよ!」
おそらく以前に遠藤さんが落としたものだろう。
まさかパンダに回収されていたとは。
「まあいい。そんなモンはとっとと処分しないとな。」
そう言って手を出すと、「てい!」とつつかれてしまった。
「痛!何すんだよ・・・、」
「これは俺のモンだ。」
「はあ!?」
「パンダから犬缶10個で買ったんだからな。」
「アホか。それはお前が持ってていいモンじゃないんだ。とっとと寄越せ・・・・、」
手を伸ばして奪おうとした瞬間、マサカリが「おうおう!」と割って入ってきた。
「この野郎!勝手に俺様の犬缶を売るとはどういうつもりでい!」
「こういうつもり。」
ポイっと薬を投げる。
マサカリはゴクンと飲み込んでしまい、ボワっと白い煙が上がった。
「あ、また人間になっちまった。」
「ほらマリナも。」
「あ〜ん。」
チュウベエが薬を放り込む。
マリナまで人間に変わってしまい、「今度こそバズーカを撃ってやるわ!」と息巻いた。
「こらチュウベエ!お前なんてことを・・・、」
「どいて!」
「ぐはあ!」
モンブランに体当たりされてよろける。
「チュウベエ!私にも!」
「ほい。」
「・・・・いよっしゃあああ!これなら翔子ちゃんを助けられるわ!」
銃を撃つ真似をしながら「待っててねカレン」と言った。
「大親友の飼い主、ぜったいに助け出してみせるわ!」
「じゃあ俺も。」
チュウベエもゴクンと飲み込み、みんな人間に変わってしまった。
「お、お前らあああああ!せっかく元に戻ったのになんてことを・・・・、」
「悠一も飲むか?」
「いるか!」
「じゃあアンタは?」
チュウベエは御神さんにも薬を差し出す。
すると険しい顔をしながら受け取った。
「あ、ダメですよ!それを飲んだら・・・・、」
「これ・・・いったいなんなの?」
「はい?」
「動物たちがみんな人間に・・・・。」
信じられないといった様子で睨んでいる。
そして「チェリー君、ごめんなさい」と言った。
「悪いけど雑誌のネタはこれでいくわ。」
「な、なんでだよ!?」
「だってこっちの方が面白そうじゃない。」
「そんな・・・・。散髪までしてきたんだぜ!」
「前と変わってないわ。」
「んなことねえって。リーゼントが尖ってんだろうがよ。」
両手でシュっと撫で付けている。
でも御神さんは見向きもしなかった。
「どう考えてもこっちの方が面白そうじゃない。」
「いやいや!考え直してくれよ。」
「姉に電話するわ。ネタを変更しないかって。」
「そ、そんなあ・・・・・俺の全国デビューが・・・・。」
すごい落ち込んでいる。
ていうかオカルト雑誌で全国デビューは無理があるだろう。
御神さんはお姉さんに電話を掛けようとして、けどピタリと手を止めた。
「どうしたんですか?」
「お、やっぱ俺でいく気になったか?」
「この薬・・・・オカルト雑誌のネタにするのはもったいないかも。」
薬を摘み、仕事人の表情に変わる。
「これ、私がネタにするわ。」
「ええ!だって御神さんって社会派のカメラマンでしょ?なんでそんな物を・・・・、」
「てことはオカルト雑誌の方は俺で決まりか?」
「すごく興味があるわ。いったいどこの誰が作ったの?」
「それはちょっと・・・・、」
「カグラって会社だ。稲松文具グループのな。」
「おいチェリー君!勝手にベラベラ・・・・、」
「さっき翔子ちゃんの誘拐がどうとか言ってたけど、ほんとに誘拐されたの?」
「みたいです。」
「彼女も稲松文具の人間よ。ということは・・・まさかこの薬絡み?」
「まだなんとも言えません。ただ誘拐された可能性は高いと思います。」
「なあ?俺の全国デビューはどうなんだ?」
「翔子ちゃんから依頼されてたのよ。半年前に起きた稲松文具社長の不正事件を調べてくれないかって。これは私の勘だけど、この薬が関わってるんじゃないかと思う。」
マジマジと薬を見つめがら「決めたわ!」と立ち上がった。
「この薬の件を追いかける。カグラって会社の内情を暴いてやるわ。」
「ま、マジですか・・・・?」
「おい!俺は雑誌に載れるのか?」
「それに翔子ちゃんの誘拐、犯人はカグラなんでしょ?社長不正の件を追いかけているうちに、カグラの内情を知ってしまい、それで連れ去られてしまった。」
「ええっと・・・やっぱ鋭いですね。さすがジャーナリスト。」
「おい答えてくれ!俺は雑誌に載れるんだよな?」
「だったらやることは決まりね。私たちで翔子ちゃんを助け出す。そしてカグラを叩きのめす!」
パソコンを閉じ、カメラバッグを持って立ち上がる。
「有川さん。」
「なんですか?」
「あなたも多少の事情は知っているんでしょ?カグラがどういう組織なのか。」
「まあ少しは・・・。でも無闇に他言はできません。それにその薬の話は広めたくないんですよ。ぜったいに欲しがる連中が出てくるだろうから。」
「悪いけどこういう出来事を暴くのが私の仕事なの。あなたの知ってること、詳しく教えてくれないかしら?」
そう言って「これは前金で」とお金を渡してきた。
「事が終わればもっと払うわ。」
「いやいや、こんなお金渡されても・・・・、」
「これは正式な依頼よ。あなたも探偵なら引き受けてくれるわよね。」
「俺は動物専門の探偵ですから・・・・・、」
「大事な友達が懸かってるのに?」
「もちろん翔子さんは助け出します。仕事とか関係なしに。」
「無理ね。」
「なんでですか?」
「動物専門のあなたが企業を相手に戦えるはずがないわ。私のような人間の協力がなければね。」
そう言ってニヤリとほくそえむ。
「悪いけど俺にも心強い味方がいるんですよ。わざわざあなたの手を借りる必要は・・・・、」
「お稲荷さんのこと?」
「そうです。みんな強いし頼りになるんです。チェリー君だって霊獣だし。」
「な?」と肩を叩くと「俺は雑誌に載れないのか!?」とまだ言っている。
「だったら協力しねえ!」
「ええ!なんでだよ?」
「翔子とかいう奴なんて俺にとっちゃ関係ねえからな。どうなろうと知ったこっちゃねえ。」
「冷たいこと言うなよ。仲間だろ?」
「いつからそうなったんだよ。」
「この家に来た時から。」
「今月の頭だからつい最近じゃねえか。」
「時間は関係ない。大事なのは絆だよ、うん。」
「臭せこと言いやがって。悪いが俺はゴメンだぜ。雑誌にも載れないってんじゃ、見ず知らずの他人の為に手を貸す気にゃなれねえ。」
腕を組みながらツンとそっぽを向いてしまう。
すると御神さんが「あなたでいいわ」と言った。
「え?マジで!」
「薬の件は私で扱う。姉のオカルト雑誌にはあなたが出ればいい。」
「約束だぜアンタ!」
ひゃっほうと飛び上がり、リーゼントを揺らしまくっていた。
「チェリー君、じゃあ手伝ってくれるよね?」
「いいぜ。さらわれたお姫さんを颯爽と助け出す霊獣。・・・・雑誌に載れば一躍人気者だぜ!!」
ぴょんぴょん飛び跳ねながら外へ駆け出していく。
「俺の擬態があればカグラへの潜入なんざ簡単だ!さっさと行こうぜ。」
カッコつけて顎をしゃくっている。
するとモンブランたちもそれに続いた。
「グダグダ言ってないで行きましょ!カレンを安心させてあげないと。」
「そうだぜ悠一。翔子だって助けを待ってるはずだ。」
「数少ない人間の友達、しかも女ときてる。悠一、ここは男を見せる時だぞ。」
「私もそう思うわ。なんならこれを機に翔子さんに乗り換えて逆玉を狙いましょ。そうすればお金持ちになってバズーカ撃ち放題よ。」
みんなが俺を急かす。
理由はともあれじっとしていられないみたいだ。
ていうか不安だな・・・・また人間になっちゃったんだから。
「ねえ有川さん。」
「なんですか・・・・?」
「長年ジャーナリストをやってる経験から言わせてもらうと、こういう不可解な出来事は早急に対処するに限るわ。」
「どういう意味ですか?」
「誰だって中身の分からない箱には怖がって手を出さない。だから慎重になって事を長引かせてしまうものよ。
けどそれは良くない選択だわ。真っ暗な中に手を突っ込む時は、思い切ってズバっとやっちゃった方がいいのよ。」
「つまり・・・・どういうことで?」
「決断が必要ってこと。有川さんは私のような人間と組むのは初めてでしょ?」
「ジャーナリストなんて普段は関わり合いがないですから。」
「けど今回の相手は動物じゃなくて企業よ。それもこんな不可解な薬を作ってる。」
そう言って例の薬を睨んだ。
「ハッキリ言って有川さんとその仲間だけじゃ対処のしようがないと思うわ。返り討ちに遭うのがオチでしょうね。」
「お言葉ですけど、俺の仲間はめちゃくちゃ強いですよ。警察でも簡単に蹴散らしちゃうくらいには。」
「力だけで物事は解決しないわ。だから・・・・今回は私と組まない?
ほぼ初対面の人間と組むのは不安でしょうけど、私はあなたの力を信じてみるわ。」
「上手いこと言って。この件に一枚噛もうとしてません?」
「もちろん自分の利益は考えてるわ。プロなんだから当然でしょ。
でもそれだけじゃない。翔子ちゃんは私にとっても大事な友達だし、それに彼女が信頼するあなたにも興味がある。」
「翔子さんが俺を信頼だなんて。友達でいさせてもらってるだけですよ。こんなうだつの上がらない男なのに・・・・。」
「いいえ、彼女は本当に有川さんを信頼しているわ。あの子、仲間は大事に想うけど、誰かを頼りにするってことがほとんどないのよ。
いつも一人で背負い込もうとして、いつも一人で気を張ってるわ。まあ似たような男の子がもう一人傍にいるんだけどね。
あまりに似すぎてるせいでぜんぜん距離が縮まらないのが難点だけど。老婆心でつい背中を押したくなるわ。」
「?」
「こっちの話よ」とクスっと笑う。
「だからこそあなたに興味がある。あの翔子ちゃんが精神的支柱にしているほどの人物、いったいどれほどの器なのか。この目で見極めさせてもらうわ。」
なんだか分からないけど、一つハッキリしていることがある。
この人、確実に俺を買いかぶってる。
眉間に皺を寄せていると、「行きましょ」と歩き出した。
「翔子ちゃんが待ってるわ、二人のうちどちらかのナイトが迎えに来てくれるのを。」
「二人のうちのナイト?なんですかそれ?」
「それもこっちの話。」
またクスっと笑う。
御神祐希さん・・・・なんだか掴みどころのない人だけど、翔子さんの友達なら悪い人じゃないだろう。
でも一つだけ問題が。
「それ、俺のジーパンのままですよね?」
「ええ。」
「じゃあもっとベルトを締めて下さい。」
さっきからずり落ちそうになっていて、目のやり場に困っていたのだ。
「あらやだ」と言って俺のを脱ぎ、干してあった自分のジーパンを取り入れている。
「だから目の前で着替えないでください!」

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