稲松文具店〜燃える平社員と動物探偵〜第二部 第二十四話 道しるべ(2)

  • 2018.11.29 Thursday
  • 10:03

JUGEMテーマ:自作小説

敵は本能寺にあり。
明智光秀は織田信長に反旗を翻す為、敵のいる城に乗り込んだ。
普通なら無謀なことだけど、本能寺の守りは手薄。
対して明智光秀は大勢の兵士を連れていた。
そのおかげで焼き討ちに成功したわけだけど、じゃあ果たして戦力が逆だったらどうか?
光秀はぜったいに本能寺を襲撃しようとはしなかっただろう。
大きな敵に挑む時は、必ず勝てる状況じゃないといけない。
それこそ敵の本丸に乗り込むなら。
「あの・・・御神さん。いきなりここへ来るっていうのはどうかと思うんですが・・・・。」
目の前には大きなビルがそびえている。
ここはカグラの本社、俺の街から二つ隣にある都市に建っている。
なんでいきなりこんなとこへ・・・・。
「俺たち明智光秀じゃありませんよ。こんなデカイ城にいる信長には勝てませんって。」
「勝つ?どうして?」
「どうしてって・・・・だってカグラは敵じゃないですか。」
「敵だからって倒す必要なんかないわ。大事なのは私たちの目的を果たすこと。」
「目的って・・・・翔子さんの救出ですよね。」
「そうよ。」
「だったら尚のこと正面から挑むのは無謀なんじゃ・・・・、」
「そうかしら?下手な奇策を用いるより全然いいと思うけどな私は。」
クスっと笑い、正面の大きな入口へ向かっていく。
「あ、ちょっと・・・・、」
追いかけようとすると、「お先」とモンブランが駆け出した。
続いてチェリー君も走り出し、マサカリたちもそれに続いた。
「おい待てって!」
アイツらを自由にさせたら何をしでかすか分からない。
仕方なしに後を追い、カグラのビルに入った。
中はホテルのロビーのように広くて、たくさんの社員が行き交っている。
かなり上の方まで吹き抜けになっていて、外から見た時よりも大きな建物に感じた。
正面には受付があり、男女一人ずつ座っている。
そこから少し離れた場所には屈強な警備員が10人も立っていた。
御神さんはそんなことも気にせずにずかずかと近づいていく。
こんなわけの分からない連中が入ってきたことで、警備員から鋭い眼光を向けられた。
「ちょっといいかしら?」
受付の男に話しかけている。
開口一番「取材を申し込みたいんだけど」と切り出した。
「フリーのジャーナリストをやってる者でね。ぜひここを取材させてほしいの。」
そう言って名刺を渡すと、男は怪訝そうにこう答えた。
「アポのない取材はお断りしています。」
「なら今からアポを取るわ。誰か偉い人に繋いでくれない?」
「申し訳ありませんが、そういうことは致しかねます。」
「どうして?」
「社内規則ですので。お引取り下さい。」
男は強気に突っぱねる。
横にいた女も警備員に目配せをし、こいつらを追い払えと合図していた。
屈強な警備員が近づいてくる。
しかし御神さんは怯まなかった。
「これ、ご存知かしら?」
なんと例の薬を取り出したのだ。
「おたくの会社が開発したものらしいんだけど、どうも強い副作用があるのよね。これを飲んだ人は胸の痛みを訴えて入院しているらしいから。」
薬の詳しいことはすでに話してある。
それと今までの大まかな経緯も。
御神さんはこの薬を武器に、カグラの偉いさんを引っ張り出すつもりなんだろう。
しかし男は「なんですかそれは?」と相手にしなかった。
「当社は家具の製造販売が仕事です。薬の開発など行っていませんが?」
「あらそう。じゃあそっちのあなたはどう?これに見覚えない?」
隣の女に尋ねると、急に表情を曇らせた。
そして「少しお待ちを」と呟き、どこかに電話を掛けていた。
何やら小声で話していて、電話を切るのと同時に「ロビーのソファでお待ち下さい」と言った。
「まもなく重役の一人が下りてきますので。」
「そう、手間を掛けさせて悪いわね。」
満足そうに頷く御神さん。
女はまた警備員に目配せをして、待機していろと伝えていた。
俺たちはロビーのソファに座り、重役とやらが下りてくるのを待った。
御神さんはその間ずっと社内を見渡し、「あれは違う」とか「あっちはそうね」とか呟いていた。
「さっきから何をブツブツ言ってるんですか?」
「ん?選別。」
「選別・・・・?」
「君の話によれば、この会社はお稲荷さんが仕切ってるんでしょ?」
「ええ、鬼神川というおっかない稲荷がいるそうですよ。」
「でも全てが霊獣というわけじゃない。人間の社員も混じっているはず。」
「そりゃこんだけの人数みんながお稲荷さんってことはないでしょうけど。」
「さっき例の薬を出した時、受付の男は不思議そうにしていたわ。ということは彼は何も事情を知らないただの人間。
逆に女はすぐに反応を示した。上にまで取り付いてくれたし。ならあの女は霊獣ってことよ。
この会社の中核で何が行われているのかを知っているってことだから。」
「ああ、なるほど・・・・。」
「ただの人間なら敵じゃない。でも霊獣が相手だと私じゃ勝目がないわ。だからとりあえず選別してるの。さっきの薬を見て反応を示した奴がいないかをね。」
御神さんの目はとても険しく、まるで冷酷なハンターのようだ。
そして「あそことあそこ、あと向こうで書類を持ってる男も霊獣っぽいわね」と教えてくれた。
「もし奴らが襲いかかってきたら頼むわよ。」
ポンポンとチェリー君の肩を叩く。
「任せとけ。その辺をウロウロしてるってことは下っ端だ。何かあっても返り討ちにしてやるぜ。」
「頼もしいわ。」
「私も!私だってぶっ飛ばしてやるんだから!」
モンブランが息巻くと「あなたも気が強いわね」と褒めていた。
「まあね、情けない飼い主を守ってあげなきゃいけないから。」
「良い子ね。ねえ有川さん、猫に気遣われるってどんな気持ち?」
「モンブランの大口はいつものことですから。気にしてません。」
「ふふ、いい飼い主さんね。」
その後は他愛ない話を続けながら、重役が下りてくるのを待った。
しかしまったく来ない。
腕時計を見ると20分が経とうとしていた。
「これちょっと遅すぎません?」
「・・・・・・・。」
「御神さん?」
サっと立ち上がり、「帰るわよ」と言った。
「え?なんで・・・・、」
「このままここにいたら無事じゃすまない。」
そう言って「見てよ」と周りを指さした。
「明らかにさっきよりも社員の数が減ってるわ。」
「そう言われれば・・・・、」
たしかにさっきよりも人が減っている。
それを見て御神さんはこう言った。
「いなくなってるのは人間ね。」
「はい?」
「さっき選別したでしょ。あの時に人間だと思った社員がいなくなっている。残ってるのは霊獣だけよ。」
「受付を見て」と指さす。
男の方がいなくなっていて、女だけがこちらを睨んでいた。
「そういえば男の方はただの人間だって言ってましたよね?」
「ええ。ちなみに警備員もさっきと変わってるわ。」
「ほんとだ・・・いつの間に。」
屈強な警備員が四人いたはずなのに、今は細身の男が二人いるだけだ。
でもその眼光は鋭く、チェリー君が「ありゃ霊獣だな」と呟いた。
「見た目はガリガリの弱っちい野郎だけど、さっきの警備員なんかよりよっぽど強え。」
「マジで?」
「こりゃとっととズラからねえとヤバいことになるぜ。」
チェリー君も立ち上がり、出口へ歩いて行く。
「さ、私たちも。」
御神さんがモンブランたちの背中を押し、ロビーを後にする。
俺はわけが分からずにあとをついて行った。
すると出口付近でいきなりスーツ姿の男が二人現れ、行く手を塞がれた。
さらに後ろからは警備員が・・・・。
《囲まれた!》
なるほど・・・・ここにいたらマズいってのはこういうことか。
重役が下りてくるなんてウソっぱちで、俺たちを拘束するのが目的なのだ。
だから人間の社員は引っ込めて、霊獣だけで周りを固めていたのだろう。
理由はチェリー君がいるからだ。
人間じゃ彼には太刀打ちできないから。
スーツを着た屈強な男が二人、目の前に近づいてくる。
「どこへ行くつもりですか?」
威圧するような声で尋ねてくる。
するとモンブランが「どいてよ」と詰め寄った。
「私たち帰るんだから。」
「もうすぐ重役が下りてきます。中へお戻り下さい。」
「はあ!?散々待たせといて何言ってんの!」
マサカリも「おうおう!」と威嚇する。
「礼儀のなってねえ奴らだなオウ!」
続いてマリナが「だったらさっさとお偉いさんを呼んできなさいよ」と睨みつける。
最後にチュウベエが「これでも食って落ち着け」とミミズを投げつけた。
上手いこと口に入り、「ごぼッ・・・・」と飲み込んでいた。
「き、貴様あ・・・・、」
顔が獰猛な獣に変わっていく。
後ろの警備員たちもお尻から尻尾を生やし、唸り声を上げていた。
《ヤバッ・・・・・。》
霊獣四人に襲われたらひとたまりもない。
背中に冷や汗を流していると、突然チェリー君が姿を消した。
《擬態か!》
次の瞬間、スーツの男二人が股間を押さえて倒れ込んだ。
「ぐおおお・・・・、」
「ひゅぐぅ・・・・、」
苦しそうに呻いている。
さらに警備員二人も股間を押さえて倒れた。
チェリー君が姿を現し、「今のうちだ!」と叫ぶ。
御神さんは弾かれたように駆け出した。
俺も「行くぞ!」とモンブランたちの背中を押す。
振り返ると受付にいた女が追いかけてきている。
物凄い怖い顔をしながら・・・・、
「乗って!」
御神さんが俺の車のエンジンを吹かす。
慌ててみんなで乗り込んだけど、チェリー君だけがその場に残った。
「おい!早く乗れ!」
「いや、俺は残るぜ。」
「何言ってんだ!捕まっちまうぞ!」
「へ!そんな間抜けじゃねえって。それより奴らのビルに潜入して色々調べてやる。」
また擬態を使い、姿を消してしまった。
そうこうしているうちにも女が追いかけてくる。
その顔はさっきより恐ろしく、口から牙がはみ出ていた。
「飛ばすわよ!」
御神さんがアクセルを踏み込む。
車は急発進して、すさまじい勢いでカグラから遠ざかっていった。
ルームミラーを見ると、女がどんどん小さくなっていく。
やがて追いかけるのをやめて、恨めしそうな目で睨んでいた。
俺たちはカグラのある都市を抜け、逃げるように高速へと駆け込んだ。
「ふう、間一髪だったわね。」
あっけらかんと笑う御神さんに、「笑いごとじゃないでしょ!」とツッコんだ。
「危うく捕まるとこだった・・・・。だから正面からなんて無謀だって言ったんだ。」
「いいのよこれで。」
「どこが。完全にこっちの顔を覚えられたし、薬まで持ってることがバレちゃったし。あいつら絶対に追いかけてきますよ。」
「それが狙いよ。成功成功。」
「強がってません?」
「まさか。」
クスっと笑い、グングン車を飛ばしていく。
「俺の車なんであんまり無茶しないでくださいよ。この前もコイツらのせいでカーチェイスになったんだから。」
後部座席のモンブランたちを振り返ると、窮屈そうにギュウギュウ詰めになっていた。
「狭いわ!ちょっとマサカリ、あんた太り過ぎなのよ!」
「仕方ねえだろが。後ろは三人乗りなんだから。」
「いいや、お前が二人分取ってる。これじゃ実質五人乗ってるのと同じだ。」
「あ、じゃあ私チュウベエの膝に座るわ。」
「やめろ、前が狭くなる。」
「しゃあねえなあ。ほれモンブラン、お前も俺の膝に座れ。」
「イヤよ!ていうかあんたの前って隙間がないじゃない。お腹が爆発してるから。」
「爆発だと!ぽっちゃりと言えぽっちゃりと。」
相変わらずうるさい奴らだ。
御神さんが「賑やかね」と笑った。
「騒がしいだけですよ。」
「まあとにかく、これで奴らは食いついたわ。」
「食いつく?」
「私たちを追いかけてくるってこと。」
「だからそれが怖いんじゃないですか!」
「でも相手の守りはきっと固いわ。だったら向こうから攻めてくるように仕向けるしかないじゃない。」
「なんか怒らせただけのような気が・・・・。」
「いいのよそれで。怒った相手には必ず隙が出来る。迎え撃つ時にこそチャンスがあるのよ。」
さらにスピードを上げてグングン飛ばしていく。
オービスがピカっと光ったような気がするけど・・・・今のは見なかったことにしよう。
「さて、次はあなたの番ね。」
「はい?」
「強い仲間がいるんでしょ?」
「ええ。お稲荷さんと狼男が。」
「だったらすぐに連絡を取ってちょうだい。追っ手が迫ってきた時、返り討ちにして生け捕りにする為にね。」
「生け捕りって・・・そんなことしてどうするんですか?」
「決まってるでしょ。翔子ちゃんの居場所を聞き出すの。それとカグラの内情をね。」
「そう簡単に喋るかな?」
「喋るように仕向ければいいじゃない。どんな手を使ってでも。」
顔は笑っているけど言ってることが怖い・・・・。
まさか拷問とかしたりしないだろうな。
「と、とりあえず知り合いのお稲荷さんに連絡を取ってみます。あと頼りになる刑事もいるんですよ。」
「そ、じゃあお願い。」
すぐにアカリさんと源ちゃんに電話を入れようとした。
けど・・・・、
「そういえばスマホは家で充電してるんだった。」
「もう!だったらこれ使って。」
「すいません・・・・。」
御神さんのケータイを借りる。
普段はメモリーの中から掛けているから、アカリさんの番号を覚えていない。
代わりにこがねの湯に掛けてみることにした。
数回のコール音のあと、『はいこがねの湯です』とアカリさんの声がした。
「もしもし?有川です。」
『声で分かるわよ。ウズメさんなら今いないわよ。急用が出来たとかいって休みなの。おかげで私が出勤よ。
もっと子供たちの傍にいたかったのに。悪いんだけど有川君代わってくれない?』
「俺はもうこがねの湯のスタッフじゃないですから・・・・。それよりお願いがあるんです。実は今・・・・、」
ついさっきの出来事を伝えると、『はあ?アンタ馬鹿じゃないの!』と呆れられた。
『なんで敵の城に正面から乗り込むのよ。下手すれば殺されるわよ。』
「自分でもそう思います・・・・。でもとにかく手を貸してほしいんです。」
『まったく・・・・なんで毎回毎回こうなるんだか。』
しばらく説教を食らう。
そして『少し待ってて』と言った。
『相手が相手だから、こっちも準備しないと。あの狼男たちも連れてくわ。』
「お願いします!」
『それとツムギ君にもお願いしてみる。アンタのこと嫌ってるから断られるかもしれないけど。』
「だったらマリナが会いたがってるって伝えて下さい。またデートしたいって。」
『OK、じゃあまたあとで連絡するわ。』
なんだかんだ言いながら協力してくれるアカリさんには感謝しかない。
そして数分後、折り返しの電話が掛かってきた。
『もしもし?』
「アカリさんですか?狼男やツムギ君はどうでしたか?手を貸してくれるって?」
『どっちもOKよ。ただ・・・・、』
「ただ・・・・?」
『会ってから話すわ。ちなみにアンタ今どこ?』
「ええっと・・・・姫道市の端っこ辺りです。サファリパークの近くの。」
『ならそこから北に向かって。しばらく走ると大きな稲荷神社が見えてくるから。金光稲荷神社ってところ。知ってる?』
「知ってます。初詣で混むあそこですよね?」
『そうそう。私はワープして先に待ってるわ。』
「はい!じゃあまたあとで。」
電話を切り、「金光稲荷神社に向かって下さい」と伝えた。
「あの初詣の時に混雑する神社?」
「ええ、俺の仲間がワープして先に待ってるそうなんで。」
「ワープ?まるでSF映画ね。」
可笑しそうに笑いながら、グルっとハンドルを切ってドリフトをかます。
後ろの席でモンブランたちが叫んだ。
「ちょっとデブ犬!重いんだから寄りかからないでよ!」
「てやんでい!デブって言うなっつってんだろ!」
「俺は助かったぞ、良いクッションになって。」
「ねえ悠一、私またデートしなきゃいけないの?もう飽きたからバズーカがいいわ。」
騒々しい動物たちを無視して、今度は警察署に電話を掛けた。
少し緊張しながら繋がるのを待っていると、『はい?』と野太いオジサンの声が返ってきた。
「あ、すいません。そちらに源ちゃんという刑事さんはいるでしょうか?」
『はい?』
「わたくし有川という者なんですが、刑事課の源ちゃんという方に繋いで頂きたいんですが・・・・、」
『名前は?』
「ですから有川と申しまして・・・・、」
『そうじゃなくてあなたが繋いでほしい人の名前。』
「源ちゃんです。」
『ゲンちゃんだけじゃ分からないよ。そう呼ばれてる奴は五人はいるから。』
「ええっと・・・・椎茸みたいな髪型にでっぷりしたお腹。でもって190センチくらいはありそうな大柄な人です。名前は源氏の源に次っていう字です。」
『ああ、はいはい。で・・・・あなたは彼とどういう関係?』
「知り合いです。」
『知り合い?どんな?』
「どんなって・・・・・、」
『知り合いならどんな知り合いかくらい言えるはずでしょう。』
「それはあ・・・・・、」
どうしよう・・・・いきなり刑事に繋いでくれなんて言ったものだから、怪しい奴だと思われているみたいだ。
今は急いでいるから早くしてほしいのに。
「あの・・・・、」
『なに?』
「猫又です。」
自分でも何を言っているんだろうと思う。
焦った時は突拍子もない言葉が出るものだ。
《ああミスった・・・・。こんなこと言ったら知り合いだって信じてもらえないよ。》
下手に疑われても困る。
いったん切ってしまおうかと思った時、『それを早く言ってよ』と言われた。
『猫又の源ちゃんね。ちょっと待ってて。』
「・・・・・・・・。」
いったいどうなっているんだろう?
なんで猫又って言葉をあっさり受け入れるのか?
答えは実に簡単だった。
すぐに源ちゃんが代わって、『彼も猫又なんですよ』と言ったのだ。
『ウチの署には三匹いましてね。』
「そういうの先に教えといてよ・・・・。」
『で、どうしました?何かありましたか?』
「けっこう大変なことになってるんだ。実はさっきカグラの本社に行って・・・・・、」
事の経緯を説明すると、『軽率ですな』と注意された。
『相手は犯罪集団ですぞ。下手すりゃ無事じゃすまない。』
「俺もそう思ったんだけど、今組んでる人が強引で。」
『とにかく事情は分かりました。金光稲荷神社へ向かえばいいんですな?』
「うん、お願いできる?」
『パトカーをかっ飛ばしていきます。』
「ありがとう」と電話を切ると、御神さんが「君ってさ・・・」と呟いた。
「お稲荷さんだの狼男だの猫又だの、いったいどんな連中とつるんでるのよ?」
「まあ色々縁があって。」
「明らかに普通じゃないわね。翔子ちゃんが興味を持つはずだわ。」
そういう意味で仲良くしてくれてるわけじゃないと思うが・・・もしそうだとしたらちょっと複雑な気分だ。
だからって大事な友達であることに変わりはないけど。
頬杖をつきながら外を眺め、翔子さんは無事だろうかと考える。
その時、ふと見たサイドミラーに恐ろしいものが映っていた。
「さっきの女!」
カグラの受付にいた女が猛ダッシュしてきている。
お尻からは四本も尻尾が生え、目は完全に獣に変わっている。
「御神さん!」
「分かってる!飛ばすわよ!!」
険しい顔をしながらハンドルを握り、一般道を100キロ以上で飛ばしていく。
もし・・・もしも追いつかれたらアウトだ。
チェリー君がいない今、霊獣に襲われたら太刀打ちできない。
けど女はめちゃくちゃ足が速くて、あっという間に追いつかれてしまった。
「うわああ!来たあああああ!」
「慌てないで!もっと飛ばすわよ!」
そう言ってアクセルをベタ踏みするけど、突然車は走らなくなってしまった。
「あ、あれ・・・?どうして?」
エンジンは鳴っている。
なのに全然前に進まないのは・・・・、
「逃がさない。」
女が車の下に潜り込み、車体を持ち上げていたのだ。
「脱出して!」
我先に逃げ出す御神さん。
けど俺にはそんなことは出来ない。
だって後ろの席にはモンブランたちが・・・・、
「いない!」
いつの間にか逃げ出していたようだ。
御神さんの隣で「早く!」と手招きしている。
「悠一のバカ!鈍臭いんだから!!」
「そんなこと言ったって・・・・。」
女は車をひっくり返し、窓を割って俺を引きずり出した。
「ひいッ・・・・。」
恐ろしい形相で睨みながら、「薬は?」と尋ねてくる。
「さっきの薬はどこやった?」
「え、ええっと・・・・俺は持ってないよ。」
「ならどこで手に入れた?」
「それは言えない・・・・。」
「あっそ。じゃあここでくたばれ。」
首を掴まれ、万力のようなパワーで締められる。
骨がミキミキっと鳴って、《あ、折れる・・・・》と死を覚悟した。
でもその時、チュウベエが「これでも喰らえ!」と何かを投げつけた。
女はチュウベエを振り向く。
そしてゴクンと飲み込んでしまった。
「あ・・・・、」
短く悲鳴を上げる。
そして突然苦しみだした。
「あ・・ああ・・・・、」
胸を押さえ、息苦しそうに悶えている。
「あ・・・あの薬は・・・・霊獣は・・・飲んじゃ・・・いけない・・・・の・・・に・・・・、」
そう呟きながら動かなくなってしまう。
《まさか死んだのか・・・・?》
恐る恐るつついてみると、ビクンと痙攣した。
そして白い煙が上がり、キツネの姿に変わってしまった。
「ああ・・・なんてこと・・・・、」
ワナワナと震えている。
この世の終わりみたいな顔をしながら「私はもう・・・・」と呟いた。
「私は・・・稲荷じゃなくなっちゃう・・・。ただのキツネに・・・・、」
「ケエエエ〜ン!」と甲高く鳴いてから、「解毒剤いいいいい!」と叫んだ。
「早く!早くしないと間に合わない!!」
猛スピードで走り去り、あっという間に見えなくなってしまった。
《なんなんだいったい・・・・。》
呆然と尻もちをついていると、チュウベエが「どうよ?」とカッコをつけた。
「な、なにが・・・・?」
「俺のおかげで助かった。まず言うことは?」
「ありがとう・・・・。」
「ウィイ。」
「さっき投げたのは例の薬か?」
「ああ。だって近づくのが怖かったから。投げられそうなモンがこれしかなかったし。」
薬を取り出し、「こういう具合にも役に立つんだな」と感心していた。
「これは対霊獣用の武器として使えるな。まだ5個くらいあるから、1個ミミズ10匹で買わないか?」
「買わない。でも寄越せ。」
「あ、ドロボー!」
この薬、本当に謎が多い。
さっきの女、稲荷じゃなくなるとか、間に合わなくなるとか言ってたけど。
《これ、もしかして霊獣を普通の動物に戻すことが出来るのか?》
だとしたらこれほど心強い武器はない。
「俺のだぞ!返せ!!」
チュウベエが飛びかかってくる。
ぶつかった拍子に手から薬が舞い上がり、口の中に入ってしまった。
そしてゴクンと・・・・、
「ぬああああああ!飲んじまった!また子犬になる!!」
この前みたいに白い煙が上がってボワっと・・・・、
そう思ったんだけど、特に何も起きなかった。
「あれ?なんで?」
この前は子犬に変わったのに。
二度目は効かないのかなと思ったけど、モンブランたちはまた人間に変わっている。
だったらどうして俺だけが・・・・。
「大丈夫?あの薬を飲み込んでたけど。」
御神さんが心配そうに尋ねてくる。
俺は「今のところは」と答えた。
でも次の瞬間、強い目眩が襲ってきて、気を失いそうになった。
そのまま倒れこみ、だんだんと視界がぼやけていく。
「有川さん!ちょっと!しっかり・・・・、」
御神さんの声が遠く聴こえる・・・・。
薄れゆく意識の中、またあの夢を見た。
謎の男が霊獣に銃を向けている夢を・・・・。

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