読みきり小説 「不幸を知らせる警報音」

  • 2019.01.30 Wednesday
  • 15:43

JUGEMテーマ:自作小説

子供の頃、警報音が怖かった。
火災報知機のベル、湯沸かし器のエラー音、テレビで流れる緊急速報の音。
異常を知らせる音だから、不安や恐怖を煽るのは仕方ないんだろうけど、それでも怖いものは怖い。
なにより怖かったのは二階に取り付けられていたブザーだ。
ウチは五人家族で、両親と兄と僕は二階で寝ていた。
でもおばあちゃんは足が悪いので、いつも一階で寝ていたのだ。
おばあちゃんは昔から心臓の持病があって、何度か発作を起こしていた。
だからもしもの時の為にブザーを取り付けたわけだ。
一階にいるおばあちゃんがリモコンのボタンを押すと、二階のブザーが警報を鳴らす。
ベランダ側の壁の隅にあったんだけど、この音が怖いのなんのって。
例えるなら火災報知機なみの大音量と緊迫感、緊急速報のえも言えない不安と恐怖。
二つを合わせたようなとんでもない音で、僕は警報器のある場所を見るのも嫌だった。
最初にこの音を聞いたのは8歳の時だ。
両親は用事で一晩帰って来れなくて、二階では僕と兄だけが寝ていた。
初めて過ごす親のいない夜。
隣には兄が寝ているけど、僕と二つしか違わない。
真っ暗な部屋の中、怖くて布団をかぶっていた。
早く眠れないかなと思っていた時、今まで聞いたこともないような音が鳴ったのだ。
「ピリリリリリ」だったかもしれないし、「プロロロロロロ」だったかもしれない。
あるいは両方を足したような、とにかく口では言い表せないような、不気味で奇妙な音が響いたのだ。
僕は耳を塞ぎ、布団の中で蹲っていた。
すると兄に『起きろ!』と布団を引っ張られ、一階まで連れていかれた。
『ばあちゃん!』
兄が駆け寄り、身体を揺さぶった。
なぜならおばあちゃんは胸を押さえながら、ブザーのリモコンを握り締めていたからだ。
兄はおばあちゃんを助けようと必死だったけど、僕はなにも出来なかった。
一階にいても響くほどブザーの音が大きかったからだ。
詳しい時間は覚えていないけど、10時は回っていたと思う。
遅い時間に鳴るブザーの音は外にまで響いていたみたいで、近所の人が玄関をノックした。
兄はすぐに鍵を開けて事情を話した。
それから救急車がやってきて事なきをえたんだけど・・・・そういうこともあって、とにかくあのブザーの音はトラウマだったのだ。
僕が高校に上がる頃、おばあちゃんは入院し、半年後に亡くなった。
必要のなくなったブザーはいつの間にか取り外されていた。
でも誰に聞いても取り外した覚えはないというのだ。
母に聞けば『お父さんでしょ』と言い、父に聞けば『お母さんだろ』と言い、兄に聞けば『俺じゃない』と首を振った。
当然僕でもない。
あのけたたましい音を放つブザーは忽然と失くなった。
誰がやったのかは分からなかったけど、とにかくあのブザーがなくなったことは嬉しかった。
高校生になってもぜったいに聞きたくないと思えるほど怖い音だったから。
それから数年後、大学を出て社会人になり、一人暮らしをすることになった。
引越し初日、足を踏み入れたワンルームの部屋。
最小限に抑えたはずの荷物を詰めたダンボール数箱でさえ、とても邪魔になるほどの狭さだった。
まあ仕方ない。いつかここを出られるように頑張ろうと、数日後に訪れる初出勤の緊張を誤魔化した。
目を閉じ、うつらうつらとしてくる。
そして数秒後、僕は心臓を掴まれたほどの恐怖を感じて飛び起きることになった。
「ピリリリリリ」「プロロロロロロ」
あの音が部屋に響いたのだ。
トラウマが蘇り、ベッドに潜り込んだ。
そして「なんで?」とパニくってしまった。
どうしてこの部屋からあのブザーの音が聞こえるのか。
ベッドに潜り込んでいても耳を掻き回されるような音量だった。
このままじゃ余計に怖いだけだ・・・・そう思って顔を上げると、音はダンボールの中から響いているようだった。
まさかと思い、手前のダンボールを開けてみる。
すると入っていたのだ。あのブザーが。
こんな物を入れた覚えはないし、そもそも家から無くなっていたはずだ。
不気味で不快な音に顔をしかめながら、どうやったら止められるんだろうと手にとってみた。
でもスイッチがない。
そういえばこれ、リモコンでしか操作が出来なかったのだ。
パっと見た限り、リモコンは一緒に入っていないようだったので、カバーを開けて電池を抜くことにした。
そして・・・・・、
「入ってない・・・・。」
単三電池が三つ入るようになっていたはずだ。なのになにも入っていない状態で音が鳴っていた。
僕はブザーを投げ捨てた。
いったいどうなってる・・・・。
いっそのこと窓から投げ捨ててやろうかと思った時、スマホの着信が鳴った。
母からの電話だった。父が急病で倒れたというのだ。
それを聞いた瞬間、ブザーは鳴りやんだ。
僕はすぐに地元へ戻り、父のいる病院へ向かった。
幸い命に別状はなく、ホっと胸を撫で下ろしたのを覚えている。
二日後、マンションに戻るとあのブザーは消えていた。
あんな物はいらないけど、だからっていきなり失くなるのも恐ろしい。
だから深く考えないことにした。
それから10年後、結婚して家庭を持った。昇進して給料も上がり、ローンを組んで一戸建てを買った。
穏やかで安定した日々、たまに喧嘩もするけれど、それでも幸せな毎日だった。
でもそんなある日のこと、僕はまたあのブザーの音を聞くことになった。
寝室のベッドから飛び起きると、枕元の時計の横で鳴っていたのだ。
もちろんベッドに入る時にこんな物はなかった。
不気味な大音量が響いている。なのに隣にいた妻は起きない。
まるで何も聞こえていないみたいに。
一緒に寝ていた子供たちでさえも。
きっとまた誰かに不幸があったんだ。
こいつが鳴る時は決まってそんな時だ。
次は母か?それとも兄か?
ゴクリと息を飲んで待つ。
しかし誰からも電話はかかってこない。
だからブザーも鳴りやまない。
こんなのおかしい・・・・。そう思いながらふと横を見ると、妻と子供たちが痙攣を起こしていた。
真っ青になってガグガクと震えているのだ。
おでこを触るととんでもない熱で、すぐに救急車を呼んだ。
食中毒だった。お隣さんが釣ってきた魚をおすそ分けしてもらったんだけど、その魚にあたってしまったのだ。
僕は仕事で帰りが遅かったから、お茶漬けだけですましていたけど・・・・。
幸い妻と子供はたちは助かった。
でも・・・・・、
『もうぜったいに二度と聞きたくない。』
例のごとく、家に帰るとブザーは消えていた。
いったい次にあの音が鳴るのはいつか?
怯えて暮らす毎日が始まり、2年、3年と経っても鳴らなず、5年も過ぎる頃にはだんだんと忘れかけていた。
そんなある日、出張で海外へ行くことになった。
初めての海外、短い間とはいえ、期待と不安が渦巻いていた。
飛び立つのを待つ飛行機の中、何気なく外を眺めていた。
すると妻からLINEでメッセージが入ってきた。
『怖い!』
一言そうあった。
心配になり、『どうしたの?』と返すと、『変な音が鳴ってる』と答えた。
『リビングから警報みたいな音がしてる!買った覚えのない警報器みたいなのがあってそこから鳴ってる!』
ゾっとした。
忘れかけていたから余計に。
『すぐに戻る!』
そう返して、近くにいたCAさんに「搭乗をキャンセルしたいんですが」と伝えた。
しかしCAさんはこっちを見ない。
引きつった顔で後ずさっていくだけだ。
僕はCAさんの視線の先を追い、何があるんだろうと窓の外を睨んだ。
着陸してきた飛行機が滑走路を逸れていく。
エンジンから煙を吹き上げながら、真っ直ぐにこの飛行機へ向かっていた。

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