稲松文具店〜燃える平社員と動物探偵〜第三部 第三十話 自分の居場所へ(2)

  • 2019.05.09 Thursday
  • 10:57

JUGEMテーマ:自作小説

誰にだって夢はある。
そして夢を叶える為ならリスクを背負うことさえ厭わない人もいる。
マシロー君は伊藤を助けたい。
だから薬を飲んで人間に変わって、胎児となった伊藤をお腹に宿すといった。
しかしムクゲさんも譲らない。
人間の家庭を持つことが夢だった彼女は、その役目は自分にやらせてくれって一歩も引かないのだ。
他のみんなは呆れているし、祐希さんは嬉しそうにシャッターを切っているし、それに気づいた紺野ちゃんが「ダメだって」とスマホを奪う。
ていうかついさっきなんてカマクラ家具の社長、葛ノ葉公子がいきなり現れて、エレベーターの中に飛び込んでいった。
彼女を連れてきた狼男たちはなぜか満足そうな表情で喜んでいるし。
「たまきは見つからなかったけど、トヨウケヒメを連れてくることが出来た。これなら鬼神川にも勝てるだろう。」
「だな。俺たち専用のデッカイ神社が手に入るってわけだ。」
よく分からない会話をしながら、お互いに肩を叩いて笑っている。
もうこれ、全然状況が把握できない。
《こんなイザコザなんてどうでもいいんだよ!俺が心配なのは課長なんだ。》
鬼神川に連れ去られてからけっこう経っている。
玉木さんは必ず連れ戻すって約束してくれたけど・・・・不安だ。
《こうなったら俺も薬を飲んで霊獣になって、エレベーターの底に飛び込むしか・・・・、》
最愛の人がピンチなのだ。
俺が行かずしてなんとする!
もうこんな所でじっとしてられない。
そう思って薬を手に取ろうとした瞬間、「冴木!」と声がした。
「・・・・箕輪さん!?それに美樹ちゃんも!」
二人が走ってくる。
その後ろからは結子さんと猛君、それに進藤君もやってきた。
「みんな何してんの!こんな所に来ちゃ危ないって!」
「来たくて来たんじゃないわよ!」
いきなりキレる箕輪さん。
すると美樹ちゃんも「そうですよ!」と怒った。
「全然戻って来ないから心配になって・・・・、」
「ええ!そこまで俺のことを心配してくれて・・・・、」
「部長補佐が心配で来たんです!冴木さんの為じゃありません。」
「ひどい・・・・。」
そんな思いっきり否定しなくてもいいのに。
まあ慣れてるから平気だけど。
すると結子さんも「彼女は?」と尋ねた。
「冴木さんと人質交換するはずだったんでしょ?姿が見えないけど・・・・。」
「ええっと・・・色々ありまして。」
どこからどう説明していいのか分からない。
困りながら頭を掻いていると「さっきカマクラ家具に行ってたんすよ」と進藤君が言った。
「え?向こうに行ってたの?」
「だって人質交換の為にカマクラ家具へ行ったんじゃないっすか。なのにあっちに行ったら会社全体がすげえ混乱してたんすよ。
その辺の社員に事情を聞いてみたら、冴木さんらしき人が少し前に出て行ったっていうから。他に行きそうな場所を考えたらここしかなかったんす。」
「だからってわざわざ来なくても・・・・、」
「あ、俺は冴木さんの為でも部長補佐の為でもないっすよ。」
そう言ってムクゲさんを見つけ、「無事だったんだ」と駆け寄っていった。
「ぜんぜん帰って来ないから鬼神川にでも捕まったのかと思ったよ。」
「あら、私のこと心配して来てくれたの?」
「当たり前だろ。ムクゲは母親みたいなもんだし。親が危ない目に遭ってたらじっとしてられ・・・・、」
「んん〜、ありがと〜!」
抱きしめて頭をグリグリ撫でている。
「恥ずかしいからやめろよ!」と言う進藤君だったけど、満更でもなさそうに照れていた。
しかしカレンちゃんが見ているのに気づいて「ヤバ!」と離れた。
「タンクってほんとにムクゲのこと好きなんだね。」
「あ、いや・・・今のは・・・・、」
「別にいいじゃん。私だって翔子ちゃんに抱っこされたら嬉しいし。」
「む、ムクゲは飼い主じゃないし、別に嬉しくもなんとも・・・・、」
「照れない照れない。」
そう言ってカレンちゃんも頭を撫でる。
「子供扱いすんな!」と怒っていた。
「冴木さん。」
猛君が前に出てくる。
「君までこんな所に・・・・。危ないから帰った方がいいぞ。」
「そうだけど・・・でも気になっちゃって。」
箕輪さんと美樹ちゃんを振り返り、「結子さんと一緒に稲松文具に行こうとしたら、あの人たちに会ったんです」と言った。
「お父さんならお店にいるからって。お父さんにはすぐ家に帰るように言われてたんだけど、このまま帰っても落ち着かないし。」
不安そうな表情をしながら「悪い奴らはどうなったんですか?」と尋ねた。
「ええっと・・・そうね。とりあえずカグラの社長はそこにいる。」
指をさすと「あの人が?」と驚いていた。
「ていうか拳銃持ってるじゃないですか!誰か倒れてるけど、まさか撃たれたんじゃ・・・・、」
「違う違う。そもそも倒れてる方が社長なんだよ。」
「どういう状況なんですか?」
「ああ、いいのいいの。君は細かいことは気にしないで。ねえ?」
伊礼さんを振り返ると「猛」と怖い顔をしていた。
「なんでここへ来た?」
「なんでって・・・・、」
「結子さんと家にいろと言っただろう。」
「そうだけど・・・・、」
「これはお前が心配することじゃない。すぐに結子さんと一緒に帰・・・・、」
「伊礼さん。」
結子さんが猛君の隣に並ぶ。
「そういう言い方はないと思います。」
強気な口調に伊礼さんは顔をしかめた。
「そういう言い方も何も、猛の身を心配して言ってるんです。相手は平気で犯罪をやるような連中なんですよ。
しかもここは敵のアジトときてる。そんな場所に猛を来させるわけにはいきません。」
「気持ちは分かります。でも猛君の立場にもなってあげて下さい。」
「猛の立場?」
「この前あなたが誘拐されてどれほど心配してたか。この年頃の子は自分の気持ちを隠そうとするんです。特に猛君みたいなタイプは。」
「知っていますよ。猛が感情を表に出しにくいことくらい・・・・、」
「だったらもっと安心させてあげて下さい。」
「ですから言われなくても分かっています。ただ今はそういう状況ではないから・・・・、」
「自分で引き取ったんでしょう?この子をちゃんと育てるって。」
「ちゃんと育てていますよ。生活には何不自由させていないつもりです。ただ俺は独り身だから、多少は負担を強いているところがあるのは認めますよ。
しかし猛はもう中学生です。自分のことくらい自分で出来る年齢で・・・・、」
「そういうこと言ってるんじゃありません!」
キンと耳に刺さるくらい叫ぶ。
結子さんは切ない顔をしながら「もっと向き合ってあげてほしいんです」と続けた。
「私だってほんとならこんな場所に連れて来たくなかった。でもお父さんが心配だって聞かないから・・・・。」
猛君は「ごめん・・・・」と呟いた。
「来たら怒るって分かってたけど、また誘拐とかされてたらどうしようって・・・・。」
「俺はそんなにドジじゃない。」
「でも一度あることは二度あるっていうし・・・、」
「心配するな。俺なら大丈夫だ。」
「だけど!また帰って来なかったらどうしようって・・・・。あの時すごく嫌な気持ちだった。このままずっと帰って来なかったらって・・・・、」
「一人にさせたりしない。」
「え?」
「俺はどこにも行かない。お前を一人にさせたりなんかしない。」
「・・・・・・・。」
「今までは一人でいいと思ってたんだろう?早く家を出て、自分の力だけで生きていこうって。」
「・・・・うん。」
「そう思ってたことくらい分かってる。ただ俺は不器用で・・・・気持ちは分かっていても、どう接すればいいのかが分からなかった。
誰だって踏み込んで欲しくない領域はあるはずだ。例え子供だって・・・・。
でもほんとはやらなきゃいけないことだった。ちゃんとお前と向き合うこと、話をすること。なのについ彼女に甘えてばかりで・・・・。」
そう言って結子さんに目をやる
「悪いと思っています、いつもいつも猛のことを見てもらって。」
「そんなのはいいんです。私が好きでやってることだから。」
猛君の肩を抱き、「ただこの子とちゃんと向き合ってくれれば」と言った。
「お仕事が忙しいのは分かります。今だって色々大変なことが起きてるし。でもその代わり、これが終わったらもう少し猛君と向き合ってあげてほしいんです。」
肩を抱いていた手を背中に回して、ポンと叩く。
「伊礼さん、ちゃんと猛君の気持ち分かってたみたいね。」
「うん・・・・。」
「君は優しいから周りに気を遣いすぎる。でも無理して背伸びする必要はないのよ。
だからもうちょっと心を開いてみたら?大丈夫、伊礼さんはちゃんと気持ちを受け止めてくれるわ。」
頷きながら嬉しそうに微笑む結子さん。
そして伊礼さんも照れくさそうに頭を掻いていた。
「あの、ちょっといいですか?」
伊礼さんの背中をつつくと、「ん?」と振り返った。
「感動的な場面に申し訳ないんですけど、今はやらなきゃいけないことが・・・・、」
「・・・・ああ!すまん。」
ううん!と咳払いしてから、紺野ちゃんに近づいていく。
「なあアンタ。ここまできたらもういいんじゃないか?」
そう声を掛けると「なにが?」と言った。
祐希さんから奪い取ったスマホをバキ!っとへし折りながら。
「あああああ!なんてことをおおおお・・・・、」
真っ二つになったスマホを掴んでプルプルしている。
「ちょっと!スマホまで壊さなくてもいいでしょ!」
「写真は禁止。外に情報を持ち出されたら困るから。」
「ほう、どう困るんだ?」
伊礼さんが詰め寄る。
「どうって・・・そんなのバレたら社長と鬼神川に・・・・・、」
「社長はそこで死んでる。」
「でももう一人の伊藤がまだ・・・・、」
「そっちはカグラの社長じゃないだろう?」
そう言ってもう一人の伊藤に手を向ける。
ムクゲさんとマシロー君はまだ言い争いをしていて、進藤君とカレンちゃんが必死に宥めていた。
「あんたの親玉はもういない。」
「で、でもまだ鬼神川が・・・・、」
「あいつももうじき死ぬはずだ。そこの霊獣と契約したんだからな。」
今度はバクに手を向ける。
箕輪さんと美樹ちゃんが興味津々に見つめていた。
「社長と鬼神川。もうアンタが恐れる者はいない。だったら渡してもいいはずだ。カグラの悪事の証拠をな。」
サっと手を向けると「でも・・・・、」と狼狽えた。
すると遠藤さんが「渡しちゃった方がいいわよ」と肘をつついた。
「アンタ真面目すぎるわ。社長も鬼神川も・・・・ううん、カグラそのものがもう終わりなのよ。誰に対しても義理立てする必要はないんだから。」
「うう・・・・、」
「ここらで楽になっちゃいなさいよ。でもって自分の世界へ帰ればいいわ。こっちで起きたこと、綺麗サッパリ忘れてね。」
そう言って「いいでしょ?」と刑事さんを振り返った。
「紺野ちゃんは怖くて逆らえなかっただけなの。見逃してあげて。」
必死にお願いする遠藤さんだけど、刑事さんの顔は険しい。
「ねえお願い!どうか許してあげて・・・・、」
言いかける遠藤さんを押しのけ、「見たところ仏教の稲荷だな?」と尋ねた。
「ほんとに稲荷の世界へ帰るのか?」
「え?ああ・・・まあ。」
「それならばなぜ伊藤や鬼神川を恐れる?ここにいるのが嫌ならば、自分の世界に帰ってしまえばそれで済むはずだ。
伊藤はただの人間だから追いかけて来ることはできない。
鬼神川は神道系の稲荷で、ましてや自分の世界でも邪険にされている荒くれ者だ。
無断で仏教系の稲荷の世界へ来ることは不可能だろう?」
「うう・・・そ、それはあ・・・・、」
「お前、ほんとは帰るつもりなどないんだろう?人間の世界が気に入っているからこそこっちにいるんだろう?
人間の世界にはたくさんの刺激がある。稲荷の世界へ帰ってしまったら味わえないものだ。」
「そ、そりゃこっちの世界は嫌いじゃないけど・・・・、」
「人間の世界に留まるならば、伊藤や鬼神川を恐れるのは理解できる。しかし奴らはもう終わりだ。
お前が本当に稲荷の世界へ帰るなら見逃してやってもいいが、こっちに留まるつもりなら許さない。
例え脅されていたとしても、悪事に手を貸した霊獣を放置しておくことは出来んからな。」
そう言って手錠を取り出す。
普通の手錠とは違って、ヒスイみたいな色をした変わった手錠だった。
「お前を逮捕する。」
「ええ!?」
「そして正義の霊獣集団の元へ連行する。お前を人間の法律で裁くことは出来んのでな。」
紺野ちゃんの手を取り、手錠を掛けようとすると「分かった分かった!」と首を振った。
「刑事さんの言う通りです!まだこっちにいたいなあって思ってて・・・・、」
「そら見ろ。」
「うう・・・・だってこっちの世界は楽しいんだもん。でも逮捕はヤダ。」
「じゃあ自分の世界へ帰ると約束するな?」
「・・・・はい。あ、いやでももうちょっとだけこっちに・・・・、」
「約束するな?」
「うう・・・・・、」
「なら逮捕する。」
「ああ、待って待って!約束します!しますからそれだけは勘弁!!」
「ならば違法薬物を使用した証拠を渡してもらうおう。それが見逃す条件だ。」
「・・・・・はい。」
ガックリと項垂れている。
遠藤さんが「これでよかったのよ」と慰めた。
「紺野ちゃんは悪い子じゃない。でもずっとこっちにいたらまた悪い奴に利用されるかもよ?だってアンタ人が好すぎるから。」
「うう・・・・もうこれまでか。」
フラフラと立ち上がって部屋へ消えていく。
そしてUSBメモリを手に戻ってきた。
「これに薬を作った時の全てのデータが入ってる。」
刑事さんは無言で受け取る。
「それとまだ薬がたくさん残ってる。」
「どこだ?」
「壁の鳥居の奥。」
「遠藤が出てきた場所だな?」
「あそこは保管庫だから。プラズマカッターも置いてあるし。」
「全て押収する。」
「はい・・・・。」
紺野ちゃんは歩き出す。
すると刑事さんは「そっちの狼男たち」と声を掛けた。
「一緒に来てもらえるか?」
「ん?」
「どこに?」
「鳥居の奥だ。」
「おお!もう神社をくれるのか?」
「仕事が早いな。そういうのは嫌いじゃない。」
「何を言ってるのか分からんが、とにかく来てくれ。」
「ウィッス!」
紺野ちゃんが「うわ、信用されていない」と顔をしかめた。
「万が一だ。お前はそこそこ位のある稲荷だろう?もし暴れられたら猫又の私だけじゃ手に負えんのでな。」
「別に抵抗なんてしないよ。」
四人は壁の向こうへと消えていく。
すると祐希さんも「私も連れてって!」と追いかけていった。
「せめてどんな場所かくらい見とかないとリアルな記事が書けないわ。」
こんな出来事をリアルに書いたら逆にウソ臭くなると思うんだけど・・・・まあいいや。
だんだん状況が収まってきた。
あとは・・・・・、
「僕が産みます!」
「いいえ、私が産む。」
「まだやってるよ。」
マシロー君とムクゲさんの意地の張り合いは終わらない。
進藤君もカレンちゃんもいい加減うんざりしていた。
すると箕輪さんがこっちへやって来て「何がどうなってんだか」と首を振った。
「いったいなんなのあのバクは?」
「伊藤が契約していた霊獣ですよ。次の契約者を探してるらしいけど。」
「ていうかなんでムクゲさんとハリネズミが言い争ってるわけ?産むとか産まないとかなんのこと?」
「ええっと・・・このままじゃもう一人の伊藤も長く生きられないから、それをどうにかするにはまた伊藤を産まなきゃいけないんですよ。」
「意味が分からない。」
俺だって意味が分からない。
とりあえず一から説明すると、なんとも言えない顔で腕を組んでいた。
「心臓がもう一つあって、それを使って胎児を生み出す・・・・。しかも誰かのお腹に宿すなんて・・・・ついていけないわ。」
世の中どうなってんの?みたいな感じでため息をついている。
そこへ美樹ちゃんもやって来て「なんかすごい大変なことになってますね」と言った。
「でもあのバク可愛い。」
「見た目に騙されちゃダメだぞ。ああ見えて恐ろしい奴なんだから。契約しないかって言われても絶対に断って。」
「しませんよそんなこと。でも不思議ですよね。霊獣だとか変な薬だとか、世の中って私が思ってたよりおかしなことばっかり。
畑を買う為にお金を貯めるなんて変わってるって友達から言われたけど、私なんかぜんぜん普通ですよね。」
なぜか嬉しそうに笑っている。
たぶん変わり者扱いがイヤなんだろう。
俺から見ると美樹ちゃんもけっこう変わってるけど、最近は箕輪さん化してきてるから、下手なこと言ったら何されるか分からない。
グっと言葉を飲み込んだ。
すると箕輪さんがいきなり「ああ!」と叫んだ。
「な、なんですか!?俺は何も言ってないっすよ!」
ビクっと身構える。
箕輪さんはポンと手を打ちながら「それよ!」と美樹ちゃんの肩を掴んだ。
「それって・・・どれですか?」
「あんたの畑!もう自分の物になったんでしょ?」
「ううん、まだです。あと50万円くらい貯めないと。」
「50万か・・・・うん、なんとかなりそうね。」
そう頷いて「冴木!」」と叫んだ。
「アンタ伊礼さんに頼みな。」
「何をですか?」
「会社から50万貸してもらうのよ。」
「ええ!なんで・・・・、」
「ていうか払ってもらえばいいわ。」
「だからなんでっすか!」
「畑を買う為。」
「畑って・・・・美樹ちゃんの?」
「そう。」
「いやいや、無理でしょ。社員の畑の為に会社が金を出すわけないですよ。」
「普通ならね。でも・・・・・、」
なにやら思案気な顔で後ろを振り返る。
ムクゲさんとマシローちゃんはまだ言い争っている。
進藤君とカレンちゃんは二人の喧嘩に飽きたのか、端っこに座っておしゃべりをしていた。
もう一人の伊藤は無表情のままバクに銃を向けているし、そのバクは『どうするか早く決めてよ』と急かしていた。
「あんなのほっといたらいつまで経っても終わらないわ。」
「ていうかほっといたら伊藤がバクを撃ち殺しちゃいますよ。まあアイツはとんでもなく悪い奴だからそうなっても仕方ないけど。」
「私はもう撃ち殺すとか物騒なことはゴメンなの。超常現象みたいな不気味なこともね。心臓を使って人間の胎児をネズミや猫又のお腹に宿らせるなんて大反対。」
「俺もですよ。いくら色んな価値観を認めなきゃいけない時代だからって、さすがにこれはやりすぎかなあって。」
「だったらさ、美樹ちゃんの畑を使おうよ。」
「だからなんで畑なんすか?」
「あんたの説明を聞く限りじゃ、心臓を使って新しい命を生み出せるわけでしょ?」
「バクはそういう風なこと言ってましたよ。」
「てことは人間じゃなくてもいいわけじゃない。」
「はい・・・・?」
「社長の方の伊藤は死んじゃったんでしょ?」
「契約を後悔して自殺したらしいですよ。」
「可哀想といえば可哀想だけど、同情は出来ないわ。復讐の為だけに霊獣と契約するなんて。そんな人を生き返らせるのってどうかと思うのよ。」
「つまり死んだままでいいと?」
「私はそう思う。だって死んだ命は生き返らないものよ。もしそんなことが可能になったら、それこそ価値観がどうとかいうレベルじゃないわ。
命には曲げちゃいけない掟がある。死人を復活させるっていうのは反対よ。」
「言わんとすることは分かりますよ。でもそれだとマシローちゃんが納得しないと思うけど・・・・、」
「飼い主がいなくなるって話よね。だったらいいアイデアがあるわ。」
ニコっと笑いながら「ねえ美樹ちゃん」と振り返る。
「あんた動物探偵の有川さんって人と知り合いなのよね?」
「はい!こがねの湯でバイトしてた時の先輩ですから。私も一度だけ動物で困ってることを助けてもらったんですよ。」
「じゃあまたお願いすればいいわ。マシローちゃんの飼い主になってくれる人を見つけてくれって。」
「それは・・・有川さんに依頼するってことですか?」
「そう。お金なら会社に出してもらえばいい。畑のお金と探偵を雇うお金、それで面倒なことが片付くなら安いもんでしょ。」
「う〜ん・・・有川さんなら引き受けてくれると思うけど、会社が出してくれるかなあ?」
「出させればいいのよ。こっちはいっつも危ないことに巻き込まれてるんだから。嫌だって言ってもふんだくってやればいいのよ。」
「・・・・そうですね。私たち被害者ですもんね!」
納得したように頷きながら「もし断われたら、あることないことでっち上げて訴えるぞって脅してやりましょう!」と息巻いた。
うんうん、やっぱり美樹ちゃんは箕輪さん化してきてる。
まあそれはいいんだけど、肝心の部分がまだ分からない。
「箕輪さん、死人を生き返らせるのに反対なのは分かったんですけど、なんで畑なんか欲しがるんですか?」
「だってマシローちゃんの新しい飼い主が見つかったとしても、伊藤が持ってる心臓は残るわけでしょ?」
「ええ。」
「しかもまだ動いている。」
「そうなんですよ。信じられないですけど。」
「その心臓は子犬の物だから移植とかには使えないし、かと言って捨てるのもちょっとアレじゃない。」
「マシローちゃんが許さないでしょうね。あの子マジで伊藤を慕ってるみたいですから。」
「だったら畑に埋めるのよ。そして植物の命として復活させればいいわ。」
「しょ・・・・、」
「植物の命・・・・?」
美樹ちゃんと顔を見合わせる。
箕輪さんは「植物の命」とにんまり笑っていた。

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