勇気の証 第六話 金運の鳥(2)

  • 2019.08.21 Wednesday
  • 10:25

JUGEMテーマ:自作小説

「なるほど、フク丸と会ったんですか。しかも動物と喋れるなんて驚きだ。」
牛丼屋で特盛を掻き込みながら男性が言う。
この人は鬼頭零士さんといって、数年前まで祈祷師をやっていたそうだ。
だけど詐欺行為をして捕まり、つい先月に出所したのだという。
よほどお腹が減ってたんだろう、ガツガツと牛丼を頬張り、すぐに空にしてしまった。
だけどまだ満腹そうに見えないので、「お代わりいりますか?」と尋ねた。
「いやいや!そんな・・・・、」
「いいんですよ、フク丸君の飼い主さんに会えるなんて思ってなかったし。何かの縁だと思って。」
もう一杯特盛をお願いして、鬼頭さんの胃袋が満足するのを眺めていた。
ここまで豪快に食べる姿は清々しい。
瞬く間に空にしてしまって、一気に氷水を飲み干した。
「ふう、久々に人間らしいモンを食った。」
うっとりしながらお腹を撫でている。
紅しょうがをつまみながら、「助かりました」と笑った。
「ここ一週間くらいまともに食ってなかったんです。野垂れ死にするところでした。」
「食べられないのって辛いですよね。海外へボランティアに行ってるんですけど、お腹を空かせて辛そうにしている人を大勢見てきました。」
「普通に食い物にありつけるって、それだけで幸せなもんです。なのに俺ときたら・・・・、」
紅しょうがをもうひとつまみしてから、「金に目がくらんで」と続ける。
「フク丸が来てからどんどん金回りがよくなってね。こいつは間違いなく幸運を運ぶ鳥だと思いましたよ。」
「事情は聞きました。最初は貧しい人の力になってたんですよね?」
「赤ひげ先生気取ってね。この力で困ってる人を助けることに快感を覚えていた。」
そう言ってテーブルに座るエル君を撫でた。
普通の人なら見ることも触れることも出来ないだろう。
でも鬼頭さんにはそれが出来る。
幽霊と触れ合うことも、そして追い払うことも。
エル君は嫌そうな顔をしながら、私の膝の上に逃げてきた。
『こいつ最悪だぜ。俺のこと成仏させようとしやがった。』
「いいじゃない、成仏して天国へ行けば。」
『ヤだよ。まだ幽霊を楽しみたい。それにアンタだってさっき止めてたじゃんか。』
「だってすごい苦しそうにしてたから。」
『無理矢理成仏させられようとしたからな。食いしばって抵抗してたんだ。』
そう言ってチョイチョイと私の牛丼に手を伸ばすけど、スカスカっとすり抜けるだけだった。
『チェッ!』
すごく悔しそうだ。
幽霊になってからお腹は減らないらしいけど、食べ物を見ると食欲がわくという。
だからこそフク丸君を食べようとしていたんだけど。
「鬼頭さん、ちょっと質問いいですか?」
「なんでも聞いて下さい。」
食事のお礼だと言わんばかりに大きくなったお腹をさすっている。
「フク丸君は鬼頭さんが出所してることを知ってるんですか?」
「知ってますよ。あいつこの辺りをウロついてるみたいだから。でも近づくと逃げて行くんですよ。」
「フク丸君が言ってました、幽霊は生きた人間と関わっちゃいけないって。でもほんとは鬼頭さんに会いたいんだと思います。」
あの子はなにかを隠していた。
無理な詮索は良くないから聞き出せなかったけど、おそらくそのせいで素直になれないんだろう。
「あの・・・・、」
「はい?」
「やっぱり気になるんです、フク丸君と鬼頭さんになにがあったんだろうって。もちろん言いたくないならいいですけど。」
「さっきも言いましたけど、なんでも聞いて下さい。」
「じゃあ・・・・、」
思い切って尋ねようとした時だった。
後ろから「早くどけよ・・・・」と小声がした。
振り向くとお客さんが並んでいた。
店員さんも物言いたそうな顔でこっちを見ている。
ここは牛丼屋、話し込む場所じゃない。
私はお会計をすませてから「別の場所で話しましょう」とドアを開けた。
『アカン!』
「きゃあ!」
ドアを開けた瞬間、バタバタと何かが飛んでいった。
あれはフク丸君!
『まて!』
逃げる鳥を見て本能が刺激されたのか、エル君が追いかけていく。
「あ、ちょっと・・・・、」
「平気です。あの猫はあなたに懐いているみたいだから戻ってくるでしょう。」
「だといいんですけど・・・・・。」
とりあえずお店を出て公園へ向かう。
ベンチに腰掛けると「ああやってね」と鬼頭さんが言った。
「ちょくちょく近づいて来るんです。」
「ならやっぱり鬼頭さんに会いたいんですよ。でも何かが邪魔をしてる。それって鬼頭さんが捕まったことと関係があるんじゃありませんか?」
そう尋ねると「まあ」と頭を掻いていた。
「俺が金に溺れるようになったのは自業自得なんです。けどフク丸は自分のせいだと思ってる。」
「どうして?」
「実はですね・・・・あいつ俺の家へ来てからすぐに死んじまったんですよ。」
「ええ!死ぬって・・・病気かなにかだったんですか?」
「前の飼い主がロクに世話をしてなかったみたいでね。ずいぶん弱っていたんです。」
「それって潰れたペットショップの社長さん?」
「ええ。慰みで飼ったはいいものの、倒産したショックからロクに面倒を見られなかったようです。
俺にフク丸を寄越したのは世話が面倒になっただけなんですよ。」
「ひどい!」
また怒りが沸いてくる。
いくら解決してもこういう問題は無くならない。
いい加減に日本も法整備して、飼う資格のない人は飼えないようにしてほしい。
そうでなきゃいくら私みたいな人間が頑張ったところでイタチごっこに過ぎないのだ。
目がつり上がっていたんだろう。
鬼頭さんが「藤井さん?」と不安そうにしていた。
「ごめんなさい・・・・そういう話を聞くと熱くなっちゃって。」
「動物愛護のボランティアをされてるんですよね、なら当然ですよ。動物に興味のなかった俺でも酷いと思いましたから。」
優しい人だと思った。
あんまり熱くなると脱線するから、呼吸を整えてから「じゃあ・・・」と話題を戻した。
「フク丸君はすぐに死んじゃって、それで幽霊になったってことなんですね?」
「そうです。俺は成仏させてやろとしたんですが、あいつは嫌がった。
だから何度も言ってやったんです。この世に留まり続けたっていいことはないぞって。
でも成仏させてやろうとする度に暴れてね。無理矢理にってわけにもいかないし、どうしたもんかと困ったんですよ。」
「フク丸君自身が言ってました。幽霊がこの世に留まるのは良いことじゃないって。でもあの子は留まり続けてる。」
「あいつはあいつなりに考えたんですよ。この世に留まることを納得してもらうにはどうしたらいいか?悩んだ挙句に出した答えがお金です。」
「お金?」
「あいつは本当に幸運の鳥なんですよ。どうしてか分からないけど金運を左右する力があるみたいでね。
おそらくだけど、前の飼い主の会社が倒産しやのはあいつの仕業でしょう。
動物への扱いが酷かったから、それを恨んで潰したんだと思います。」
「自分の好きな人にはお金を運んで、そうじゃない人にはお金を遠ざけるってことですか?」
「ええ。最初は昔の依頼者が出世払いの約束を果たしてくれたんだと思っていました。
でもそうじゃなかった。ある日あいつが言ったんですよ。『おカネ、おカネ』って。」
そう言って手の中を見つめている。
まるでそこにお金があるかのように。
「カネカネ言うフク丸を見てピンときました。金運に恵まれるようになったのはこいつのおかげなんだって。」
どこか寂しそうな目をしながら、消えたお金を握り締めるように手を閉じた。
「人間ってね、一度贅沢を味わうと昔には戻れないんですよ。フク丸が成仏したら俺はまた貧乏になるかもしれない。
それが怖くて成仏させようとはしなくなった。そして俺自身が金に溺れ、金持ちだけを助けたり、とことんまで吹っかけたりした。
けど金が増える度に霊力は落ちていったんです。」
「フク丸君がいればいくらでもお金が入ってくる。だったら腕を磨かなくてもいい。・・・・・そう思ったんですね。」
「おっしゃる通りです。でもそれがいけなかった。いくら金があっても慢心してちゃ上手くいかない。
やがて金のことばかり考えるようになって、やっちゃいけないことを始めたんです。」
「それは・・・・詳しく窺っても?」
「依頼者に霊感グッズを売りつけるようになったんです。これ買わないと不幸になぞるって。」
「ああ・・・・・。」
「これがけっこう売れたんですよ。それに味をしめてねずみ講みたいなことまでやっちまって。最後には人を雇って組織的に・・・・、」
「完全に違法じゃないですか。」
「だからこそこんなナリですよ。」
手を広げて今の自分を見せつける。
「ムショを出たはいいものの、こんな不景気じゃまともな仕事に就けなくてね。祈祷師なんて潰しの利かない仕事だし。」
「もう一度祈祷師はやらないんですか?」
「やる資格なんてありませんよ。もうそういう道へはとても。」
寂しそうな目を伏せながら、「俺のせいなのに・・・」と呟く。
「金に溺れたのは俺のせいです。けどフク丸はそう思わなかったみたいで。
何度もムショに来ては『スンマヘン』って言うんですよ。あいつ九官鳥だから、簡単な言葉なら喋れるでしょう?
だからスンマヘン、スンマヘンって。」
落ち込んだ気分を誤魔化したいのか、無精ヒゲをなでている。
でも私は一つおかしいと感じていることがあった。
「もしフク丸君が幽霊じゃなかったとしても、きっと鬼頭さんに金運を運んでいたと思いますよ。」
「俺もそう思ってます。幽霊がどうとかじゃなくて、俺に金運を与えたことを後悔してるんでしょう。別にあいつが悪いわけじゃないのに。」
鬼頭さんの言う通り、幽霊がどうとかは関係ない。
フク丸君は鬼頭さんに会いたいけど会いづらくて、その言い訳として幽霊がどうのと言ってるんだ。
これが人間同士ならまた違う展開になっていただろう。
だって言葉を交わせるから。
互いの気持ちに誤解があったとしても、会って話すことでわだかまりが溶けることもある。
けど人間と九官鳥とではそれも無理だ。
だったらここは・・・・・、
「私が力になります。」
「あなたが?」
「鬼頭さんとフク丸君をつなぐ力に。」
キョトンとする鬼頭さんだったけど、すぐに私の言ってることを理解した。
「たしかにこのままじゃフク丸は成仏できない。・・・・お願いできますか?」
「もちろん!」
それから数分もしないうちにエル君が戻ってきた。
その口にフク丸君を咥えて。
バタバタと暴れるフク丸君、私は離してあげてと言って、彼を鬼頭さんの腕に抱かせた。
じっと見つめ合う一人と一羽。
最初はお互いに戸惑っていたけど、やがて鬼頭さんの方から口を開いた。
私はお互いの言葉を訳す。
エル君は不思議そうな顔でそれを眺める。
お互いに語り尽くし、もう言葉が尽きたとき、鬼頭さんは「今までありがとう」と手をかざした。
フク丸君は抵抗することなく目を閉じる。
一羽の鳥が空に吸い込まれるように羽ばたいていった。

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