勇気の証 第八話 猫を迎えに(2)

  • 2019.08.23 Friday
  • 10:35

JUGEMテーマ:自作小説

陽は沈み、遠い空にだけわずかな光が残っている。
暗くなる前に東京へ着くどころか、夜ギリギリになって長野へ到着した。
あのあと三ヶ所も渋滞している所があったので、これでもまだ早く着いた方かもしれない。
目的地である渋温泉へ向かった私たちは、どこか空いている宿がないか捜していた。
今から用を終えて東京へ向かっても仕方ない。
友人にそう連絡したら『多分そうなると思ってたよ』と笑われた。
『マナコのことだから、途中に困ってる人や動物がいたら助けるんじゃないかと思ってたよ。』
こっちの行動はお見通しで、歯がゆいから恥ずかしいやら。
『急がなくていいさ。これもきっと神様の思し召しなんだよ。』
これは彼の口癖である。
なにか予想外の出来事が起きた時、いつもこう言って前向きに捉えるのだ。
我ながらいい友人を持った。
さて、幾つか宿を回ると、素泊まりだけどどうにか宿を取ることが出来た。
荷物だけ置いてすぐに出かける。
渋温泉は冬になると雪がすごいそうで、道路から温水が出る仕組みになっている。
今は夏だけど、冬になったらまた来てみたい。
夜になるとあちこちの宿やお店が輝き、幻想的な世界にタイムスリップしたような風情があった。
千と千尋の神隠しのモデルになったのも頷けるほどだ。
けどあいにく今は観光をしている暇はない。
この温泉街の外れに古い宿があって、私たちはそこを目指している。
行き交う観光客を縫って目的の場所までやって来た。
『いいぶさ』
表の看板を確認し、「ここだよね?」と猫を抱いた彼女に尋ねる。
「そうです!」
スマホを見ながら頷いている。
「ここにハチローがいるかもしれない。ああでも違ってたらどうしよう・・・・。」
不安そうに目を閉じている。
私は運転手さんと顔を見合わせ、なにも言えずに俯くことしか出来なかった。
「藤井さん。」
彼女が不安を押し殺すように私を見る。
「戻って来るまでここで待っててもらえませんか?」
「え・・・・ああ、それはいいけど。」
「藤井さんも用事があるのは分かってます。けど一人ぼっちっていうのは不安で。」
「大丈夫、戻って来るまで待ってるよ。」
「ほんとですよ!勝手にどっか行ったりしないでね!」
「約束する。季美枝ちゃんが戻ってくるまでここにいるから。」
「じゃあ・・・・ちょっと行ってきます。」
しっかりと茶トラの猫を抱きしめ、色あせた暖簾を潜っていく。
ガラガラと引き戸を開けて、「すいませ〜ん!」と中へ消えていった。
「・・・・・・・・。」
運転手さんが背中を向ける。
温泉街の灯りを見つめながら禁煙パイポを咥えた。
「この辺りはよく走ったもんだ。」
二年ほど前まで長野で仕事をしていたそうで、その頃にハチロー君と知り合ったのだという。
お昼どき、いつも車を停めている休んでいる公園には子猫がいて、よくタイヤの上で昼寝をしていたそうだ。
運転手さんはハチロー君を可愛がった。
首輪が付いていたのですぐに飼い猫だと分かったけど、そうじゃないなら自分が飼おうと思ったほどだという。
「いつも昼飯の残りをあげてたよ。ほんとは良くないんだろうが、可愛いんでついな。」
咥えたパイポを揺らしながら笑う。
「飲み仲間はいても、寂しさを紛らわしてくれる相手はいなかった。だからずいぶん癒されたもんだよ、そいつには。」
そう言って私を振り返り、「そこにいるんだろ?」と尋ねた。
「ええ。足元に。」
「いいなあ、俺にもハチローが見えたらなあ。」
腰を屈め、じっと一点を見つめている。
「お前、もう俺のこと覚えてないんだってな。」
「まだ小さいですから。二年の前のことだと仕方ないですよ。」
「覚えててほしかったな。じゃなきゃ謝っても意味がない。」
立ち上がり、「なんであの時・・・」と呟いた。
「いつもみたいにちゃんと確認しなかったんだろうな。昼時になればお前がタイヤの上で寝てるって分かってたのに。」
そう、運転手さんはタイヤの上を確認せずに走り出したのだ。
そして仕事終わり、会社へ戻って車を洗おうとした時に気づいた。
タイヤになにかの染みが付いていることを。
まさか!とは思ったけど、悪い方向へは考えないことにした。
ここしばらく忙しくて、いつものように確認せずに走り出してしまったけど、まさかそんなはずはないと。
けど翌日、いつもの場所へ行ってみてもハチロー君は現れなかった。
翌日も、その翌日も。
思い切って保健所に電話してみたけど、そういう子猫は預かっていないと言われた。警察に聞いても同じだった。
役所へ電話しても、猫の死骸を引き取った覚えはないそうで、『あの時ハチローはタイヤの上にはいなかった』と自分に言い聞かせた。
けど何日経っても現れず、胸のモヤモヤは広がっていくばかり。
飼い主が外へ出さないようにしただけなのか?
それともただこの場所へ来なくなっただけなのか?
あるいは自分が・・・・・。
考えても答えは出なくて、今日こそは来るんじゃないかと公園に行ってみた。
けど・・・来ない。
代わりによくここを散歩しているおじいさんと出会った。
思い切って『この辺で子猫を見なかったか?』と尋ねてみた。
・・・・帰ってきた答えは運転手さんが一番聞きたくないものだった。
『ああ、あの子猫か。可哀想になあ。きっと車に轢かれたんだろう。』
かなり酷い状態だったらしく、公園へやって来る子供がショックを受けてもいけないと思って、隅の植え込みに埋めたのだという。
それでもまだ自分のせいだと思いたくなくて、なんとその場所を掘り返したのだ。
掘っている途中、何度もやめようかと思ったそうだけど、確認せずにはいられなかった。
どうか違っていてくれと願っていると、鈴のついた白い首輪が見えた。
・・・・それ以上掘り起こすのをやめた。
丁寧に土を戻し、ギュっと目を閉じて手を合わせたのだそうだ。
それからすぐに長野のタクシー会社を辞めて、知人の伝手で関西のトラック会社に勤めた。
けどあまり慣れることが出来なくて、またタクシーの運転手へと戻ったという。
そして毎日のように思い出すのだそうだ。
ハチロー君のことを。
せめてちゃんと弔ってやるべきだった。
そう後悔している時に私と出会ったというわけだ。
ハチロー君にその時の話を聴くと、『よく分かんない』と答えた。
子猫だから記憶が曖昧なんだろう。
けど運転手さんの話を聞く限り、公園にいた子猫はハチロー君で間違いないはずだ。
《季美枝ちゃんにどう説明しよう。》
彼女も以前は長野に住んでいて、就職と同時に地元を離れた。
可愛がっていた子猫も連れていくはずだったけど、ある日窓から抜け出して、二度と戻ってこなかったという。
長野を離れてからもずっとハチロー君のことが気がかりで、週に一度は実家に電話を入れて、家に帰って来ていないか確認するほど心配しているのだ。
《やっぱりここはほんとのことを言うべきだよね。でも運転手さんの気持ちを考えると・・・・私一人じゃ決められない。》
長野へ向かう道中、運転手さんはずっと元気がなかった。
なにかを言いたそうに口を開きかけて、でも途中でやめてしまうのだ。
きっと迷っているんだろう。
それでもやっぱりきちんと話した方がいいと思う。
背中を向けている運転手さんに「あの・・・・」と呼びかけた。
するとその瞬間、民宿から季美枝ちゃんが出てきて「藤井さん!」と叫んだ。
「いた!ハチローいました!」
「え?」
「ほらこの子!」
嬉しそうに腕に抱いた猫を見せる。
白と茶色のぽっちゃりした猫だった。
「ハチローが帰ってきました!」
「・・・・・・・。」
私は呆気に取られながらも、じっと猫を見つめた。
たしかに白と茶色の猫だけど、幽霊のハチロー君とはまったく模様が違う。
ハチロー君は白地に茶色のブチって感じだけど、この子は茶色地に白のブチって感じだ。
一目で別の猫だと分かる。
「よかったあ!ほんとによかったあ・・・・。」
泣きそうになりながら抱きしめている。
よかった、もちろんよかった。それはそうなんだけど・・・・、
《運転手さんも固まってる。》
ポカンと口を開けたままこっちを見ていた。
だけどすぐにホっとしてため息をついていた。
「藤井さん!ハチローが戻ってきましたよ!」
「う、うん・・・おめでとう!」
「ここまで乗せてもらって助かりました!運転手さんもありがとう!」
猫を抱いたまま私たちの手を握る。
「でねでね!これも何かの縁だから、ウチへ泊まってってくれって女将さんが。」
「そんな、悪いわよ。」
「女将さんも大事な猫が帰ってきて喜んでるんです。あの茶トラの子、車とかトラックの上でよく寝てたらしいんですよ。
だからそのままどこかに運ばれていって、もう二度と戻って来ないんじゃないかって諦めてたそうなんです。
それがこうしてまた会えるなんてって涙ぐんでました。」
「みんな無事に会えてよかったね。私も一緒に来た甲斐があったよ。」
「もうほんとにどうお礼を言っていいのか。途中で事故した時はめちゃくちゃ焦ったけど、藤井さんみたいな良い人のおかげで助かりました。」
そう言って握った手をブンブン振ってくる。
「でね、もう夜だし、猫を見つけてくれたお礼に泊まっていってくれって言われたんです。もちろん藤井さんと運転手さんも。」
「気持ちは嬉しいけど、他に宿を取っちゃったから・・・・、」
「そんなのキャンセルすればいいじゃないですか。」
「だけど・・・・、」
「どうせ素泊まりなんだし、すぐにキャンセルすれば平気ですよ。なんなら私から言ってあげます。」
「平気平気!私が言うから。」
スマホを取り出そうとする彼女を止めて、すぐにさっきの宿へ電話を掛けようとした。
すると運転手さんが「俺は向こうに泊まるからいいよ」と手を振った。
「いいんですか?せっかくのご好意なのに。」
「いいのいいの。だいたい俺まで泊まるとなると、もう一つ部屋が必要だろう?さすがにそこまでは悪いから。」
クルっと背中を向けて「明日また迎えに来るから」と去ってしまった。
気を遣っているというのもあるだろうけど、それ以上に一人になりたいんだと思う。
「なんか行っちゃいましたね。せっかく女将さんが泊まっていいって言ってくれてるのに。」
「きっと一人でゆっくりしたいんだよ。だってここまで運転してきたんだし。」
「でも部屋は別々なんだから気にしなくていいのに。」
「まあまあ。」
彼女の背中を押し、中に入る。
女将さんはとても朗らかな人だった。
丁寧にもてなしてくれたし、料理も美味しかった。
そして夜、季美枝ちゃんと二人でお酒を飲んでいると、「藤井さんって」と身を乗り出して言われた。
「なんか不思議な感じがしますよね。」
「不思議?」
「なんだろう?なんか普通の人とは違う感じがする。」
「それは・・・・どういう感じで?」
「上手く言えないけど、な〜んかいろんな声が聴けるんじゃないかなって。」
「声?」
「動物とかお化けとか。」
一瞬引きつってしまった。
なんて鋭いことを言うんだろう。
私は「普通も普通だよ」と笑って誤魔化した。
「普通じゃないですよ。だって仕事を辞めてまで海外に動物保護のボランティアに行ってるんでしょ?」
「やろうって本気になれば行動に移せるものだから。」
「普通はなかなかそこまでいかないですよ。私なんか・・・・・、」
しばらく季美枝ちゃんの愚痴を聞く。
勉強を頑張ってきたのに志望していた大学へ入れなかったとか、就職も第一志望は落ちたとか、恋人と上手くいってないとか。
若い子なら誰でも抱く悩みだけど、語る本人にとっては大問題だ。
私は気の利いたアドバイスなんて返せないから、ただ黙って相槌を打っていた。
季美枝ちゃんには申し訳ないけど、それは誰もが通る道だと思うし、こういうのはあえて聞き役に徹していた方がいい。
案の定、吐き出すだけ吐き出して満足したのか、布団に倒れて寝息を立て始めた。
ハチロー君はとても大人しい猫で、彼女の腕に抱かれたままじっとしている。
子猫の時から二年も会っていなかったんだから、まず彼女のことは覚えていないはずだ。
なのにこうして懐くということは、ハチロー君が良い性格をしているのも理由だけど、季美枝ちゃんが本物の猫好きだからだと思う。
動物はそういうことをちゃんと見抜くのだ。
私はハチロー君に「よかったね」と小声で話しかけた。
「季美枝ちゃんのところに帰ることが出来て。」
「知らない人だけど、ちゃんと飼ってくれそうだからまあいいや。」
「おっとりしてる。」
クスっと微笑みを返してから「でも」と続けた。
「ここの女将さんに保護されるまでの間ってどこで何をしてたの?」
「ブラブラしてた。」
「野良猫だったってこと?」
「うん。人間から餌もらったりとか。」
「けっこう人から可愛がられるタイプだよね。餌には困らなかったんだ。」
「子猫の時からずっと。さっきのオジサンもそうだし。」
「オジサン?」
「ほら?タクシーの人。」
「タクシーの人って・・・・あの運転手さん?」
「子猫の時しょっちゅう公園に行ってたんだよ。それで車のタイヤの上で寝てた。その車の人がよく餌をくれたんだよ。」
「ちょ、ちょっと待って!」
慌てて止める。
なんかちょっと混乱してきた・・・・。
「君ってさ、子猫の時は飼い猫だったんだよね?」
「うん。」
「その時に白い首輪って付けてた?」
「付けてた。」
「その首輪って鈴は・・・・、」
「付いてたよ。」
「・・・・ちなみになんだけど、子猫の頃の記憶はハッキリしてるの?」
「してる。さっきのオジサンだって覚えてるし。」
「じゃあいま君の隣で寝てる季美枝ちゃんは?」
「知らない。」
「彼女、君の飼い主じゃなかったの?」
「違う。」
「ほんとに?」
「全然違う人。それに僕捨てられたんだもん。新しい家に引っ越すから、柱とか傷つけられたら困るからって。」
「・・・・・・・。」
「だから子猫の時から野良猫。人間に飼われてたのはちょっとの間だけ。」
「だから運転手さんのところで餌をもらってたのね。」
「うん。でも他にもっといい餌場を見つけたから、途中から行かなくなったけど。」
ますます混乱してきた。
これっていったいどういうことなんだろう?
このハチロー君は季美枝ちゃんの飼い猫じゃなかった。
けど運転手さんから餌はもらっていた。
そしてもう一匹のハチロー君・・・・今は部屋の隅っこでエル君とじゃれ合ってるけど、もしかしたらこの子が季美枝ちゃんの飼ってた猫なのかもしれない。
けどそうなるとおかしなことが。
季美枝ちゃんが抱いているハチロー君は茶色地に白のブチ、もう一匹のハチロー君は白地に茶色のブチ。
なのに季美枝ちゃんはこの子で間違いないと言っていた。
なら幽霊のハチロー君も季美枝ちゃんの猫ではないということになる。
・・・・そもそも運転手さんが轢いたかもしれない子猫って、ほんとに幽霊のハチロー君だったんだろうか?
勝手にそう思い込んでしまっただけなのかも・・・・。
「ねえハチロー君。」
「なに?」
「ごめん、君じゃなくて・・・・、」
「ああ、そこの幽霊。」
「見えるの!」
「猫はそういう奴多いよ。声だって聴こえるし。あの子猫もハチローっていうんだろ?自分で言ってたし。」
「そうなんだ・・・・猫は霊感が強いっていうもんね。見えても不思議じゃないか。」
「あんたと季美枝って子が話してる間、暇だからそこの二匹とおしゃべりしてたんだ。エルってやつは家の車に轢かれて死んだって言ってた。
でもって俺と同じ名前のハチローってやつは病気で死んだって。」
「びょ、病気?事故じゃなくて?」
「病気って言ってた。」
「ほんとに?事故じゃなくて?」
「僕に聞かれても知らない。」
プイっとそっぽを向き、大きなあくびを放って「もう寝る」と目を閉じてしまった。
「おやすみ。」
「あ、ちょっと・・・・、」
それからは何を話しかけても返事はなかった。
鼻ちょうちんを膨らませて夢の中だ。
こうなったら本猫に直接聞くしかない。
「ねえハチロー君、君って事故で亡くなったんじゃないの?もう一匹のハチロー君は病気だって言ってるけど。」
『うん。』
「どっちなの?事故?」
『うん。』
「病気?」
『うん!』
遊びに夢中で聞いてない。
私はサっとハチロー君を抱えて「真面目な話をしてるのよ」と言った。
「辛いことだろうけど思い出してほしい。君はどうやって亡くなったの?」
『知らない。』
「知らない?どうして?」
『知らない。』
「覚えていないの?」
『うん。』
「ほんとに?」
『うん。』
「ほんとは覚えてるんでしょ?」
『うん。』
これは埓が明かない。
どうしようかと困っていると、エル君が『誰か来たぞ』とドアに尻尾を向けた。
女将さんかなと思って開けてみると、そこには運転手さんが立っていた。
「いきなりすまんな。ちょっといいか?」
そう言って外へ顎をしゃくるので、「なにかあったんですか?」と尋ねた。
「これを。」
「あ!私たちの荷物。」
あとで取りに行こうと思って、向こうの宿に置きっぱなしだった。
「すいませんわざわざ。」
「別にいいんだよ。それよりな、実は子猫のことなんだが・・・・、」
「はい。」
「多分あいつだと思うんだよ。」
「あいつ?」
「季美枝ちゃんの所に戻ってきた猫。俺が可愛がってたのは多分あいつだ。」
「ほんとですか・・・・?」
「じっくり考えてみたんだが間違いないと思う。顔の模様とか尻尾の模様も同じなんだ。」
「でも二年前のことでしょう?そう長く一緒にいたわけじゃないし、勘違いってことはないんですか?」
「最初はそう思ったよ。でも・・・うん、間違いない。ほら、あいつ頭の上に白い点があるだろう?」
言われて確認してみると、たしかに小さな白い点がある。
「それに尻尾、先っぽだけ白くてあとは茶色だ。」
これも間違いない。でもそれだけじゃ同じ猫とは断言できない。
猫は犬と違っていろんな模様があるから、似たような子がいたっておかしく・・・・・、
「あと変な声で鳴くんだ。」
「変って・・・どんな声ですか?」
「ダエァ〜みたいな。」
「そんな声では鳴いてませんでしたよ。普通にミャアーって・・・・、」
「ダエァ〜。」
「・・・・・ッ!」
後ろから変な鳴き声がした。
振り返るとハチロー君が寝返りを打っていた。
「ダエァ〜。」
「あれだよ!あの声だ!!」
指をさしながら叫ぶ。
「寝てる時にああいう声で鳴いてたんだ!あんな変な鳴き声の猫なんていないだろう?」
「たしかに・・・・。」
「あいつだよ。あいつで間違いない!」
グっと拳を握り締め、「俺は殺してなかったんだ!」と笑った。
「公園に埋まってた猫は誰か他の奴が轢いたんだろう。俺はなにもしてなかった、あいつは生きてたんだ!」
ダダっと部屋に駆け上がり、「お前無事だったんだな!」と抱き寄せた。
「よかった!いやあよかった!」
季美枝ちゃんが「なに・・・?」と目を覚まし、「ぎゃあ!」と悲鳴をあげて後ずさった。
「オジサンなんでここにいるの!」
「ハチロー!よかった・・・よかったなあ!」
「は?なんで泣いてんの?」
季美枝ちゃんが私を見る。
けど私だって分からない。
運転手さんはハチロー君を轢いてなくて、ハチロー君は季美枝ちゃんの飼い猫じゃなくて、じゃあ幽霊のハチロー君はいったい・・・・。
首輪が付いてるってことは飼い猫なんだろうけど、その飼い主はどこの誰?
運転手さんが植え込みを掘り起こして見つけた猫の死体は無関係だったの?
・・・・・分からない。
だけど奇妙な出来事に関わっていることだけは分かる。
《これ、明日になっても東京へ行けないかも。》
一度寄り道をしてしまうと、なかなか元の道へ戻れない。
友人が言っていた通り、ほんとうに神様の思し召しなんだろうか。
私の不安をよそに、エル君と幽霊のハチロー君は無邪気に遊んでいた。

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