それでも明日はやってくる 第三話 葛藤

  • 2010.10.11 Monday
  • 09:09
 仕事を終えて、会社を出ると日付がかわっていた。
ここの所のはいつも残業ばかりである。
こんな生活を続けていれば、いつか過労で倒れてしまうんじゃないかと思う。
重い体を引きずるようにして、家まで歩いて帰った。
家に帰ると、佳恵が来ていた。
夕食を作って俺を待ってくれていたようである。
「今日も遅かったね、良ちゃん。」
佳恵が俺の上着を脱ぐのを手伝ってくれる。
「いつから来てたんだ?」
「八時くらいかな。」
壁掛け時計を見ると、午前一時前だった。
「こんなに遅くまで待っててもらってすまないな。」
「いいよ、別に。」
佳恵が脱がした上着をハンガーに掛けている。
俺は風呂に入る気力もわかず、すぐにパジャマに着替えた。
そして佳恵の作ってくれた夕食を一緒に食べた。
「良ちゃん、最近顔色悪いよ。
大丈夫?」
佳恵が心配そうな目で見つめてくる。
「ちょっと仕事が忙しくてな。
体がだるいんだ。」
「あんまり無理してると、体を壊しちゃうよ。」
「ああ、分かってる。」
無理をしているのは自分でも十分分かっている。
でも、最近何かがおかしい。
体の不調だろうか。
確かに残業続きで体調はよくない。
しかし、それだけではない。
何かが心に引っ掛かっているのだ
それが何かは分からない。
夕食を終えると、俺と佳恵はすぐにベッドに入った。
それから一時間。
佳恵はすやすやと寝息をたてていた。
俺は目を閉じて何も考えないようにする。
また明日も忙しいのだ。
なんとか眠らないと。
しかし中々寝つけなかった。
最近は不眠症に悩まされていた。
医者からもらった睡眠薬を飲んだ。
そして佳恵の手を握って眠ろうとする。
しかし眠れない。
何だろう。
何かが心をざわめかせている。
明日は仕事があるから早く眠らなければいけないのに、全く眠れない。
何かが心に引っ掛かる。
それは波のようにうねり、俺の心を刺激してくる。
俺は目を閉じた。
しかし結局眠れず、朝になってしまった。
俺はベッドの上に身を起こして窓の外を見ていた。
朝陽が眩しい。
すると佳恵が起き上がってきた。
「良ちゃん、起きてたの?」
「ああ。」
「もしかし全然眠れてないの?」
「ああ。」
佳恵は心配そうに俺を見つめて手を握ってきたあと、ベッドから降りて朝食を作り始めた。
俺は窓の外を眺めていた。
頭の中で誰かの声が聞こえるような気がする。
よく耳を澄ましてみる。
するとその声の主は俺だった。
俺が俺に何か言っているのだ。
しかし何を言っているのかまでは聞き取れない。
「良ちゃん、朝ご飯できたよ。」
佳恵に呼ばれ、俺は彼女と一緒に朝食をとる。
その間もずっと頭の中に声が響いていた。
そして朝食を終えると、俺はシャワーを浴びた。
それからしばらく休憩してから仕事に向かう。
佳恵と一緒に家を出た。
「じゃあね、良ちゃん。
今日も来るから。
あんまり無理しないでね。」
「ああ、分かってる。」
そして佳恵と軽いキスを交わしてから仕事に向かった。
体がだるい。
心も重い。
俺は無理をしながら仕事に打ち込んだ。
その間も頭に声が響いている。
すると隣の席の同僚が声をかけてきた。
「なあ、俺来月結婚するんだ。」
とても嬉しそうな顔で言ってくる。
たんに報告しただけなのか、それとも自慢したいだけなのかは分からなかった。
しかし俺は笑顔を作って「おめでとう。」と言った。
同僚は喜んでいた。
本当はこいつが結婚しようがどうしようがどうでもいい。
しかし俺は笑顔を作って喜んでみせた。
その時、頭の中に響いていた声が大きくなった気がした。
何かを言っている。
何だ。
一体何を言っているんだ?
俺の心が激しくざわめく。
結局その日も残業となり、家に帰ったのは昨日と同じくらいの時間だった。
また佳恵が来ていて、夕食を作って待っていてくれた。
「おかえり、良ちゃん。」
「ただいま。」
俺は疲れた声で返事をする。
「今日も遅かったね。」
「ああ、疲れたよ。」
「あんまり無理しないでね。
過労で倒れたりなんかしたらいやだよ。」
俺は佳恵の言葉に笑って頷き、上着を脱いでバスルームに向かう。
そして熱いシャワーを浴びた。
その間にも頭の中に声が響く。
俺が俺に何か言っている。
「このままでいいのか?」
今まで頭の中に響いて聞き取れなかった言葉が、聞き取ることが出来た。
「本当にこのままでいいのか?」
その声はだんだんと頭の中で大きくなってくる。
俺は頭を大きく振り、その言葉をかき消そうとした。
バスルームから出ると、佳恵と二人で夕食をとった。
俺は疲れているので、夕食を終えるとすぐにベッドに入った。
佳恵も入ってくる。
そして二人で手を繋いだ。
目を閉じる。
しかし全く眠れる気がしない。
横を見ると、佳恵は眠っていた。
きっと俺を待って疲れていたのだろう。
俺は彼女を起こさないようにしながら、どうせ効かないだろうと思いながらも睡眠薬を飲む。
そしてベッドに戻り、また佳恵の手を握った。
「このままでいいのか?」
頭の中に声が響く。
他のことを考えようとしても、頭の中の声はやまなかった。
そしてなぜかは分からないが、急に体が熱くなった。
頭の中に響く声。
俺が俺に何を言おうとしているか、だんだんと分かってきていた。
昔、俺にだって夢はあった。
しかし俺は自分の夢に挑戦することなく、今の道を選んだ。
毎日くたくたになるまで働く。
特に刺激や希望があるわけでもない。
とうの昔に忘れた夢が、今頃になって蘇ってきたのだ。
俺はベッドから身を起こして考える。
本当に今のままの生活でいいのだろうか?
俺はそれで納得しているのか?
昔に抱いた夢は、まだ俺の心に残っている。
俺が俺に言っている。
夢を追えと。
しかしそう簡単に今の仕事を辞めて夢を追えを言われても、困ってしまう。
夢をみるのは簡単だ。
だが夢を追うのは大変だ。
しかし俺は今の生活に納得していないのが本音だった。
頭の中で声が響く。
自分の夢を追えと。
しかしその前に現実が立ちはだかる。
夢と現実の板挟み。
頭の中の声はどんどん大きくなる。
俺は強く葛藤していた。
しかしだんだんとその葛藤にも疲れてきた。
もういい。
もう今日は考えるのはやめよう。
心に消えない葛藤を抱いたまま、俺は今日も眠れない夜を過ごした。

                                  第三話 完
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