それでも明日はやってくる 第四話 もうこの手は届かない

  • 2010.10.12 Tuesday
  • 09:16
 誰もいない道を、車に乗って走る。
アクセルを踏み込んで、スピードをあげる。
夜の街の光が通り過ぎていく。
自分は一体どこに向かっているのか。
どこに向かおうとしているのか。
答えのないままただ車を走らせる。
昨日、付き合っていた彼女からふられた。
「鈍感な人は嫌い。」
そう言われて別れを告げられた。
俺は彼女のことを愛していた。
一番好きな存在だった。
しかし俺は、彼女から愛を感じたことはなかった。
彼女をいくら抱いても、彼女の愛を感じ取れなかった。
俺は彼女の愛が欲しかった。
しかしそれは手に入らないものだと思っていた。
彼女を抱いた夜は、今日と同じようにこうして車を走らせていた。
目的地などない。
ただ車を走らせていた。
彼女に愛されたい。
彼女の愛が欲しい。
そう思って俺は彼女を強く愛した。
強く愛すれば、いつか彼女も俺のことを愛してくれると思っていた。
俺は努力を続けた。
彼女に愛される為に。
色んな愛の言葉もかけたし、プレゼントもした。
彼女を抱く時だって、愛を込めていた。
それでも彼女から愛を感じたことはなかった。
俺はさらにアクセルを踏み込み、スピードをあげる。
道には誰もいない。
歩いている人も、すれ違う車もなかった。
一人車に乗りながら、流れゆく街の景色を眺めた。
心臓が高鳴る。
心と体が彼女を求めていた。
彼女に言われた言葉。
鈍感な人は嫌い。
俺はその意味が分からなかった。
俺は自分を鈍感だと思ったことはなかった。
だから彼女にそう言われて別れを告げらた時はわけが分からなかった。
俺は彼女に必死に弁明した。
自分に悪い所があるなら直す。
君の望むような男になる。
だから別れないで欲しい。
一緒にいて欲しいと強く言った。
彼女は黙って俺の言葉を聞いていた。
しかし彼女からは何も言葉は出てこず、「さようなら」と言われて別れられた。
俺は一体何が悪かったのか。
一体彼女は俺の何が気に入らなかったのか。
車を走らせながら考えた。
やがて赤信号が見えて、車をとめた。
俺は彼女を愛していた。
でも彼女は俺を愛していなかった。
だから別れることになったのか。
赤信号で車をとめている間に考えていると、信号はいつの間にか青になっていた。
俺は車を発進させる。
そしてどんどんスピードをあげていく。
もう一度彼女に会いたい。
そして彼女を抱きたい。
そんな強い欲求が俺の頭を支配した。
このまま彼女の家に行こうか。
彼女は俺に会ってくれるだろうか。
もう一度やり直してくれと頼んでみても、その願いが叶うことはないように思えた。
俺は誰もいない道を車を走らせながら、何も考えないことにした。
頭の中を真っ白にしてみる。
何も考えない。
何も思わない。
するとその時、ふと彼女に言われた言葉が頭をよぎった。
「鈍感な人は嫌い。」
その言葉は心の奥深くに突き刺さり、頭の中で響いた。
鈍感な人は嫌い。
もしかして・・・。
俺は車のスピードをおとしながら思った。
俺はもしかしてとんでもない大馬鹿者だったのではないか。
俺は鈍感。
そう、彼女の言う通り、俺は鈍感だった。
鈍感な人は嫌い。
それは言葉通りの意味だった。
俺は気付いていなかったのだ。
きっと彼女は俺のことを愛していた。
俺が彼女を愛するのと同じように、彼女も俺を愛していたのだ。
頭の中を真っ白にしてみて、そのことに気付いた。
今さらこんなことを気付くなんて。
俺はずっと彼女に愛されていないと思っていた。
でもそれは間違いだった。
鈍感な俺は、彼女の愛に気付かなかっただけなのだ。
俺が彼女に愛をアピールしていたように、彼女も俺に愛をアピールしていたはずだった。
しかし鈍感な俺はそれに気付かなかった。
なんて俺は馬鹿な奴なんだろう。
今さらそんなことに気付いても、もう彼女は俺の元から去ってしまったというのに。
彼女に会いたい。
抱きしめたい。
しかしもうこの手は彼女に届かない。
彼女は待っていたのだろう。
俺が彼女の愛に気付くのを。
ただじっと待っていたのだ。
彼女の愛を見逃していた自分。
今さら取り返しはつかない。
俺達はちゃんと愛し合っていたのだ。
ただ、鈍感な俺がそのことに気付いていないだけだった。
悲しくなって、逆に笑えてくる。
いくら自分を責めても、もう遅い。
ずっとずっと、彼女の愛を見逃していた自分。
本当に馬鹿だ。
もう彼女に会えない。
彼女を抱けない。
そう思うと、情けない自分を笑いながら涙が出てきた。
俺は自分勝手だったのだ。
愛しているのは自分だけだと思っていた。
彼女の愛に気付く努力などしなかった。
彼女の愛を感じ取れなかった責任は俺にある。
悪いのは俺だ。
今さら気付いた所で、もう遅い。
彼女は去ってしまったのだ。
もう後戻りは出来ない。
しかし、俺は今気付いた。
彼女に愛されていたことを、今ちゃんと気付いた。
もう本当にこれで終わりなのだろうか。
もう元には戻れないのだろうか。
そう、後戻りは出来ない。
なら、もう一度やり直せばいい。
俺はまだ彼女を愛している。
そして彼女が俺を愛してくれていたことに気付いた今なら、もう一度一からやり直せるのではないか。
俺は彼女と別れたくなかった。
彼女の傍にいたい。
彼女に傍にいて欲しい。
そう、もう一度始めからやり直そう。
俺は車をUターンさせた。
誰もいない道を走って行く。
目的地は決まっている。
俺はアクセルを踏み込み、スピードをあげた。
そして彼女の家を目指した。
もう一度始めからやり直す為に。

                                   第四話 完
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