それでも明日はやってくる 最終話 世界の果てで

  • 2010.10.14 Thursday
  • 11:03
  マンションの窓から街を見下ろした。
街は夕陽でオレンジ色に染まっている。
仕事帰りの車が渋滞していた。
僕は街を見下ろしながら、生きる意味について考える。
生きるとは何だろう。
人生とは何だろう。
僕はある日突然、仕事場で息が出来なくなった。
急いでトイレに駆け込んだ。
仕事場から抜け出すと、息が出来るようになった。
しかし仕事場へ戻ると、再び息が出来なくなった。
翌日、会社を休んで病院に行った。
体に異常は無かった。
医者はおそらく精神的なものだろうと言って、精神科へ行くことをすすめられた。
その翌日、僕は精神科へ行った。
心の病だと診断された。
その日以来、僕は自分の部屋から出ていない。
自分のマンションに閉じこもり、ひたすら生きている意味について考えた。
生きるとは何か。
人生とは何か。
人はどうして生まれてくるのか。
いくら考えても答えは出なかった。
自問自答する日々。
自分の部屋で、毎日ただそんなことを考えて過ごした。
何度か死のうと思ったこともある。
しかし死の恐怖が勝って、今はまだ死ねていない。
心が波打つ。
そして急に真っ暗になったかと思うと、今度は不安が押し寄せてくる。
自分は一体どうなってしまうのか。
自分でも分からなかった。
僕は自分の部屋で座り込む。
ひたすら生きる意味について考える。
そしてケータイを見つめた。
僕はケータイを手に取り、いつもの番号を押す。
数回のコールのあと、電話は繋がった。
「もしもし。」
君の声が聞こえてくる。
「今忙しくない?」
僕はいつもこうやって君に確認する。
「大丈夫だよ。」
君の声を聞く度に、僕は安心する。
深く重たい心に光が射し込むような感じがする。
「特に用事はないんだ。
ただ君の声を聞きたかっただけなんだ。」
「うん。
分かってる。」
君は僕のことをよく知っている。
僕も君のことをよく知っている。
「最近どう?
仕事は忙しくない?」
「大丈夫だよ。
そっちはどう?
また死のうなんて思ってるんじゃないの?」
「そう思うこともある。
でもまだ生きてるよ。」
「そう。
よかった。」
君の安堵の声が聞こえる。
もし僕が死んだら悲しむ人はいるのだろうか。
涙を流してくれる人はいるのいだろうか。
君は僕が死んだらどう思うんだろう?
「ねえ、もし僕が死んだら、君は僕の為に泣いてくれるかい?」
しばらく沈黙が流れる。
「もし死んだりなんかしたら、許さない。
私にことわりもなく死んだりしたら、お葬式にも行ってあげない。」
その言葉を聞き、僕は何て返したらいいのか迷ってしまう。
「死ぬ時は君に一言言うよ。」
僕は窓の外を眺めながら言った。
「そうね。
そうして。
そしたら私が死ぬのをやめるように説得してあげる。」
その言葉を聞いて、僕は君は強いなと思った。
僕は知っている。
君だって今つらいことを。
それなのに、こうやっていつも僕の話し相手になってくれる。
そして励ましてくれる。
自分だってしんどいのに、僕の為に気を遣ってくれる。
僕の心が真っ白になっていく。
君と話すといつもこうなる。
心が真っ白になる。
そして生きる意味も、死ぬことも考えなくなる。
「とりあえず、いきなり死ぬことはないよ。
まだ当分生きているつもりだから。」
「当分じゃなくて、ずっと生きていて。」
「・・・・、そう出来たらいいな。」
「出来るよ。
私は知ってる。
あなたは強い人だって。
ただ今はちょっと疲れているだけなのよ。」
「そうかな?」
「そうだよ。」
僕はいつも君に元気をもらう。
その度に生きようと思う。
「君は強いね。」
僕は言った。
「そんなことないよ。
私は普通だよ。」
「そんなことないよ。
君は強い人だ。」
「そうかなあ。
毎日しんどいことはあるけど、ただそれに負けないように努力はしてるけどね。
ねえ、生きるってすごいことだよ。
すごく大変なこと。
しんどいことやつらいことがたくさんある。
でもそれに負けちゃいけないの。
人は生きているかぎり、戦わなくちゃいけないの。
すごくしんどいけどね。
そしたらたまに、いいこともあるよ。」
「うん。
そうかもしれないね。」
僕は君の言葉に素直に頷いた。
「ありがとう。
いつも励ましてもらって。」
「そんなこと気にしなくていいの。
それより、週末そっちへ帰るの。
時間ができたら、あなたに会いに行くわ。」
「本当?」
「うん、本当。」
僕はその言葉だけで心が明るくなるのを感じた。
「じゃあそろそろ電話を切るよ。」
僕は静かな声で言った。
「うん。
ちゃんと生きるのよ。
死のうなんて思っちゃダメよ。」
君はそう言って電話を切った。
僕はケータイをベッドの上に置き、部屋の中を見渡した。
今はこの部屋が僕の世界だ。
とても狭い世界だ。
さっき君と話していたばかりなのに、また君の声を聞きたいと思っている。
週末、君が会いに来てくれる。
そのことだけが今の僕の希望だった。
早く君に会いたい。
その顔を見たい。
僕は部屋の隅っこに座り込んだ。
今は狭い僕の世界。
いつかその世界が広がることはあるのだろうか。
僕は待っている。
この狭い世界の果てで君が来るのを。
ただじっと座り、君が会いに来てくれる日を待っている。

                             最終話 完
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