幽霊ハイスクール 第十八話 幽霊と買い物

  • 2010.11.18 Thursday
  • 09:04
 期末テストも終わった日曜日の昼過ぎ、俺は自分の部屋でゴロゴロしていた。
マンガを読んだり、ゲームをしたり。
「健太郎君、今日はどこにも出掛けないんですか?」
「うん、今日は家にいる。」
「外は良く晴れていますよ。
家の中にいたらもったいないですよ。」
「でも外は寒いんだもん。」
今は十二月の中旬。
外は寒い。
「今日は家にいるって決めたんだ。」
そう言うと佳恵さんは笑った。
「本当に寒いのが苦手なんですね。」
「うん。
寒いと何もしたくなくなるんだ。」
俺はやっていたゲームをやめ、ベッドの中に入った。
すると、誰かが俺の部屋のドアをノックした。
「はーい。」
俺は返事をした。
ドアを開けて顔を見せたのは母さんだった。
「健太郎。
あんた今日暇でしょ。」
「うん、まあ暇かな。」
「じゃあ買い物に行って来てくれない。
母さんはこれから用事があるのよ。」
「えー、外に出るのは嫌だ。」
「どうしてよ?」
「だって寒いんだもん。」
「若いのに何言ってるのよ。
さっき暇だって言ったでしょ。
母さんの代わりに買い物に行って来てちょうだい。」
そう言って母さんは部屋に入って来て、俺にメモとお金を渡した。
「じゃあ頼んだわよ。」
そう言って母さんは部屋から出て行った。
「外に出ることになっちゃいましたね。」
俺はベッドから出た。
「まったく。
今日は家に中にいたいのに。」
俺は渡されたメモを見た。
カレーのルーにニンジン、ジャガイモ、タマネギ、あとは肉と書いてあった。
どうやら今晩はカレーらしい。
俺はとりあえず外に出る為に着替えた。
「今日は二人でお買い物ですね。」
佳恵さんが嬉しそうに言う。
「佳恵さんは外に出たかったんだね。」
「はい。」
笑顔で返事をされた。
今日は家にいたかったが、仕方がない。
俺は買い物へと出掛けることにした。
玄関を出て、近所のスーパーに向かう。
「今晩はカレーみたいだ。」
俺は言った。
「いいですね、カレー。
私は大好きですよ。」
「佳恵さんは料理はできたの?」
「はい。
料理は得意でした。
カレーも得意ですよ。」
「一度佳恵さんの作ったカレーを食べてみたいな。」
「私も健太郎君にカレーをご馳走してあげたいです。
ああ、私が物に触れたらいいんですけどねえ。」
「佳恵さんのカレーなら、きっと美味しいだろうね。」
そしてしばらく歩いて、近所のスーパーに着いた。
「さて、何から買おうかな。」
「まずはカレーのルーから買ったらいいんじゃないですか。」
「そうだな。
そうしよう。」
俺はカレーのルーを探した。
そしてカレーのルーのコーナーを見つけた。
「色んな種類があるな。
母さんはいつも、どれを買っているんだろう?」
「メモにはどのルーか書いていないんですか?」
「うん。
カレーのルーとだけ書いてある。」
佳恵さんはカレーのルーのコーナーを眺めた。
「これ、私がいつも買ってたやつです。」
佳恵さんが一つのルーを指差した。
「じゃあそれにしよう。
俺は佳恵さんが指差したカレーのルーを、買い物カゴに入れた。
「ええと、あとはニンジンにタマネギ、ジャガイモに肉だな。」
俺は野菜のコーナーに行った。
メモに書かれた野菜を買い物カゴに入れていく。
「私はリンゴも入れていましたけどね。」
佳恵さんが言う。
「ふーん。
じゃあリンゴも買っておこうかな。」
俺は果物のコーナーに行き、リンゴを買い物カゴに入れた。
「あとは肉だな。」
俺は肉のコーナーに行った。
そして肉を買い物カゴに入れる。
「これで全部だな。」
メモを見て確かめた。
「カレーって、自分の家のカレーが一番美味しいと思いませんか?」
佳恵さんが聞いてきた。
「そうだな。
確かに自分の家のカレーが一番美味しいと思う。
何でだろう?」
「さあ、何ででしょうね。」
「よく考えてみれば不思議だな。」
「そうですね。
カレーって特別なのかもしれませんよ。」
「カレーが特別?
どういう意味?」
「カレーってその家によって味が異なるじゃないですか。
それでほとんどの人はカレーって好きでしょう。
みんな自分の家のカレーの味で育っているんですよ。
だから自分の家のカレーが一番好きなんじゃないでしょうか。」
「でもさ、それだったら他の料理も同じだよね。
味噌汁とか、ハンバーグとか。
なんでカレーだけは自分の家が一番美味しいと思えるんだろう。」
「確かにそうですね。
不思議ですね、カレーって。」
俺は頷き、買い物カゴをレジに持って行こうとした。
すると佳恵さんが言った。
「健太郎君、もう少し店内を見てもいいですか?」
「いいけど、どうして?」
「私、スーパーなんて久しぶりで。
もう少し店内を見て回りたいんです。」
「うん、いいよ。」
それから十分ほど、佳恵さんと一緒に店内を見回った。
「ありがとう、もういいです。」
それから俺はレジに向かい、買い物をすませてスーパーを出た。
「健太郎君、ちょっと散歩をして帰りませんか?」
「いいよ。」
俺と佳恵さんは、近くにある川沿いの道にやって来た。
何人か散歩をしている人がいた。
「そう言えばさ、給食のカレーも美味しいよね。」
俺は言った。
「そうですね。
給食のカレーも美味しいですよね。
どうしてでしょう?」
「何でだろうね?
カレーって不思議だね。」
「ええ、本当に。」
それからしばらく黙って川沿いの道を歩いた。
すると佳恵さんが言ってきた。
「ねえ、健太郎君。
手を繋ぎませんか?」
「え、あ、うん。」
「嫌ですか?」
「いや、そんなことはないよ。」
佳恵さんと手を繋ぐのは嫌じゃない。
何だか照れくさかっただけだ。
佳恵さんが手を出してくる。
俺はその手を握った。
「私、今幸せですよ。
こうして健太郎君や、木原君や美保さんと毎日が過ごせて。」
「確かにあいつらといると退屈はしないな。」
「木原君は、いつも私のことを褒めてくれますね。
私なんかの何がいいんでしょうか?」
「そりゃあ佳恵さんは美人だからじゃない。
落ち着いているし、優しいし。」
「そうですか。
自分ではよく分からないですけど。」
「佳恵さん、生きている時は、かなりモテただろう?」
「そんなことないですよ。
全然モテなかったですよ。」
「またまた、そんなこと言って。
佳恵さんは絶対にモテてたと思うな。」
すると佳恵さんは笑いながら言った。
「確かに何人かの男性の方から、付き合ってくれないかと言われたことはあります。」
「ほら、やっぱりモテてたんじゃないか。」
「だから、そんなことないですってば。
私なんか、全然モテませんでした。」
佳恵さんは恥ずかしそうに言った。
「佳恵さんてさ、生きていた時は恋人はいたの?」
何気ないつもりで質問した。
しかし佳恵さんは、急に暗い顔になって黙ってしまった。
「あ、ごめん。
俺、何か余計なこと聞いた?」
すると佳恵さんは首を横に振った。
「いえ、いいんです。
気にしないで下さい。」
気になった。
すごく気になったけど、これ以上は聞かない方がよさそうだった。
俺は話題を変えた。
「そう言えばさ、佳恵さんてどうして死んじゃったの?」
また佳恵さんが暗い顔になった。
「あ、ごめん。
俺また余計なこと聞いた?」
「いえ・・・、そんなことはないんですけど・・・。」
明らかに余計なことを聞いてしまったようだ。
「ごめん。
今の質問は忘れて。」
俺は言った。
「いえ、何だかごめんなさい・・・。」
「何で謝るのさ。」
「いえ、何だか健太郎君に気を遣わせてしまったみたいで・・・。」
「そんなの気にすることないよ。」
そう言って俺は笑った。
「誰でも聞かれたくないことってあるものだよ。
俺が余計なことを聞いたのが悪いんだ。
佳恵さんが謝る必要はないよ。」
「はい・・・。」
とても小さな返事だった。
「もう、どうしたのさ。
いつもの佳恵さんらしくないよ。」
そう言うと、佳恵さんは無理矢理笑った。
「そうですよね。
ごめんなさい、暗い顔しちゃって。」
それから佳恵さんと手を繋いだまま、他愛無い話をした。
佳恵さんは笑顔だった。
笑顔だったけど、どこか無理矢理笑顔を作っている感じがあった。
俺は佳恵さんの過去を知らない。
弁護士になりたかったという話は聞いたけど、それ以外は聞いていない。
誰でも人に聞かれたくないことの一つや二つはある。
しかし俺は、さっきの佳恵さんの暗い顔が忘れられなかった。
佳恵さんの過去。
それは佳恵さんから笑顔を奪ってしまうほどのものなのか。
俺は、俺と出会うまでの、生きていた頃の佳恵さんのことがとても気になった。
しかし今は聞かない。
他愛無い話で笑顔を作り、とりあえずは佳恵さんの過去には触れないようにしようと思った。
そう思っても、佳恵さんのさっきの暗い顔が頭から離れなかった。

                                  第十八話 完
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