幽霊ハイスクール 最終話 別れの時(2)

  • 2010.11.22 Monday
  • 09:07
 明らかになった佳恵さんの過去。
佳恵さんには恋人がいた。
そして佳恵さんは事故で死んだ。
佳恵さんが彼氏と乗っている車に、信号無視をした車が突っ込んで来た。
その結果、佳恵さんは死に、彼氏は生き残った。
佳恵さんの彼氏は自分だけが生き残ったことにとても苦しんでいた。
しかし佳恵さんは、彼氏の前に姿を現して、苦しまないでと言うことが出来なかった。
苦しんでいる彼氏の前に姿を現すのが怖かったのだそうだ。
それに、自分が姿を見せることによって、余計に彼氏が苦しむのではないかと考えていた。
木原はそれは違うと言った。
今からでもいいから、彼氏に苦しまないでって言おうと言った。
美保は佳恵さんの気持ちが分かると言った。
苦しんでいる彼氏の前に、姿を現すのが怖いという佳恵さんの気持ちが。
俺は悩んだ挙句、木原の意見に賛成した。
そして俺も木原と同じように言った。
佳恵さんの彼氏に、もう苦しまないでと言いに行こうと。
佳恵さんは目を閉じて黙っていた。
「ねえ、佳恵さん。
俺達も一緒に行ってあげるから、彼氏に言いに行こうよ。
もう苦しまないでって。」
俺はもう一度言った。
「そうだよ。
俺達も一緒に行くよ。」
木原が言う。
「佳恵さん・・・。」
美保が小さな声で言った。
「少し、考えさせて下さい。」
佳恵さんはそう言った。
そして俺達は頼んだカキフライ定食をほとんど食べることなく、ファミレスを出た。
「佳恵さん、よく考えてね。」
木原が言う。
「佳恵さん、私は何て言ったらいいのか分からない。」
美保が言った。
佳恵さんずっと黙っていた。
そして家に帰り、夜になるまで佳恵さんは一言も喋らなかった。
夜、俺は自分の部屋で佳恵さんに聞いた。
「佳恵さん、俺達佳恵さんにとって迷惑なことをしてる?」
すると佳恵さんは首を横に振った。
「そんなことはありません。
皆さんが私のことを思って言ってくれているのは分かります。
だから皆さんの気持ちはとてもありがたいです。」
「なら・・・。」
「でも、怖いんです。」
「佳恵さん・・・。」
「私が死んで、もう一年半になります。
今さら苦しまないでって言いに行って、何になるんだろうって思ってしまって・・・。」
佳恵さんはそう言って俯いた。
「俺ファミレスで言ったよね。
こういうことに今さらなんてないって。」
「健太郎君・・・。」
「俺はちゃんと言うべきだと思うよ。
きっと佳恵さんの彼氏は、今も苦しんでいるよ。」
「だから怖いんです。
そんな彼の前に姿を現すのが・・・。」
「佳恵さん。
勇気を出そうよ。
ちゃんと彼氏に言わないと、ずっと成仏出来ないよ。
佳恵さんは彼氏のことが心残りで成仏出来ないんだ。
それは自分でも分かってるはずでしょ。」
佳恵さんは顔をあげて俺を見た。
「彼はどう思うでしょう。
今さら幽霊になった私が姿を現して、どう思うでしょう。
余計に苦しむんじゃないでしょうか。」
それは俺にも分からなかった。
もしかしたら、佳恵さんの言う通り、余計に彼氏を苦しませるだけなのかもしれない。
そう思うと、自分の言葉に自信が持てなくなってきた。
「佳恵さんが彼氏の前に姿を現して、彼氏がどう思うのかは俺にも分からない。
でも、俺はきちんと彼氏に言うべきだと思うんだ。
それは彼氏の為でもあるし、何より佳恵さん自身の為でもあると思う。」
「私の為ですか・・・。」
「佳恵さんは本当は彼氏に言いたいんんだろう。
もう苦しまないでって。
なら言った方がいいと思う。」
佳恵さんは目をつむった。
俺は佳恵さんの言葉を待った。
佳恵さんはしばらく黙っていた。
時計の針の音がやけに大きく聞こえる。
俺はベッドに座っていて、自分の足元を見ていた。
「健太郎君。」
「何?」
俺は顔を上げた。
「私、迷っています。
彼の前に姿を現すべきかどうか。」
「うん。」
「今の私に足りないのは勇気です。
勇気があれば、彼の前に姿を現して、もう苦しまないでって言えるような気がします。」
「うん。」
「健太郎君、私に言ってくれましたよね。
彼の所へ皆さんと一緒に行ってくれるって。」
「うん、言ったよ。」
「もし皆さんが来てくれるのなら、私、勇気が出せるかもしれません。」
「じゃあ行くの?
彼氏の所に。」
「皆さんが一緒なら。」
俺はベッドから立ち上がって佳恵さんの手を握った。
「うん、行くよ。
俺達も一緒に行く。」
「ありがとう、健太郎君。」
「よし、じゃあ佳恵さんの彼氏の所に行くのは決まりだな。
こういうのは早い方がいい。
明日にでも行こうよ。」
「明日ですか?」
「うん、明日。
佳恵さんの彼氏が住んでいる所ってここから遠いの?」
「電車に乗って、一時間ほど離れた街に住んでいます。」
「じゃあ明日行けるね。
早速木原と美保にも連絡しよう。
俺は二人に連絡を取った。
木原は「そうか、行くことにしたんだな、佳恵さん。」と言った。
美保は「佳恵さん、無理してないかなあ。」と言った。
俺は二人に、明日の午前十時に、駅で集合しようと言った。
「佳恵さん、ちゃんと彼氏に言おうね。
もう苦しまないでって。」
佳恵さんは頷いた。
「健太郎君。」
「なんだい?」
「ありがとう。
もし皆さんが一緒に行ってくれるって言ってくれなかったら、私はずっと彼の所へ行く決断は出来なかったと思います。」
「佳恵さんは俺達にとって大切な存在だから。
佳恵さんの為なら何だって力になるよ。」
「ありがとう、健太郎君。」
佳恵さんが抱きついてきた。
俺は優しく佳恵さんの背中に手をまわした。
そして次の日の朝。
俺は佳恵さんと一緒に、駅まで来ていた。
「ごめん、お待たせ。」
そう言って美保がやって来た。
「佳恵さん、大丈夫?
無理してない?」
美保が聞く。
「はい、大丈夫です。
皆さんが一緒ですから。」
そして木原もやって来た。
「やあ、佳恵さん。」
「おはようございます、木原君。」
これでみんな揃った。
「じゃあ行こうか。」
俺は言った。
俺達は切符を買い、電車に乗った。
「ねえ、佳恵さんの彼氏って何て名前?」
美保が聞く。
「伊藤隆行といいます。」
「そうなんだ。
優しい人だって言ってたよね。」
美保が言う。
「ええ、優しい人ですよ。」
「佳恵さんと喧嘩したこととかないの?」
木原が聞く。
「あまり喧嘩をしたことはありませんね。」
「佳恵さんの彼氏なら、きっとカッコイイんだろうね。」
美保が言った。
「俺もそう思う。」
木原が言う。
「自分の彼氏のことを言うのもあれですけど、結構カッコイイと思いますよ。」
「やっぱり。」
木原は笑った。
「結婚も考えてたって言ってたよね。」
俺は聞いた。
「はい。
もし私が事故で死んでいなかったら、半年後くらいには結婚していたと思いますよ。」
それを聞いた美保が言った。
「なんか残酷だね、運命って。
佳恵さんはこれから幸せになろうとしていたのに。」
「そうだよなあ。
もし佳恵さんが生きていたら、人妻になっていたわけだもんなあ。」
木原が言う。
「何か変な言い方。」
美保が木原に言った。
「そうか。
だって実際そうなってたはずだろう。」
「そうだけど、人妻って。」
美保は笑った。
「なんだよ、何がおかしいんだよ。」
木原が言う。
「いや、何となく。」
そう言って美保は笑っていた。
「でも木原君の言う通りです。
もし私が死んでなかったら、人妻になってたわけですから。」
「その人妻っていうのやめてよ。」
美保が笑いながら言う。
「変なことで笑うやつだな。」
木原が言った。
そうやってみんなで喋りながら一時間後、俺達は佳恵さんの彼氏が住む街に着いた。
「ここが佳恵さんの彼氏が住む街か。」
木原が言った。
「それで、佳恵さんの彼氏はどこに住んでるの?」
美保が聞いた。
ここから北に二十分ほど歩いた所に住んでいます。
「よし、じゃあ佳恵さんの彼氏の家に行こう。」
俺は言った。
「佳恵さんの彼氏、家にいるかな?」
美保が言った。
「今日は土曜日だから、仕事は休みのはずです。
もし仕事を変えていなければの話ですけど。」
「とりあえす行けば分かるだろ。」
木原が言った。
それから北に向かって歩くこと二十分。
俺達は住宅地にやって来た。
「佳恵さんの彼氏の家はどこにあるの?」
美保が聞いた。
「こっちです。」
佳恵さんが案内する。
「ここです。」
佳恵さんが指差したのは、二階建ての、綺麗な感じの家だった。
家の門の柱には、伊藤と書いてある。
「じゃあインターフォンを押すぞ。」
俺は言った。
「ちょっと待って下さい。」
佳恵さんが言った。
「もう少し待って下さい。」
佳恵さんは緊張した顔で言う。
「心の準備をさせて下さい。」
「うん、佳恵さんがいけると思ったタイミングでいいから。」
俺は言った。
佳恵さんはしばらく目を閉じて、胸に手を当てていた。
「健太郎君。」
「なんだい?」
「インターフォンを押して下さい。」
どうやら心の準備ができたようである。
「それじゃあいくぞ。」
俺はみんなの顔を見て言った。
木原と美保が緊張した顔で頷いた。
俺も緊張していた。
俺はふうっと息を吐き、インターフォンを押した。
インターフォンを押す俺の指は、少し震えていた。

                                 最終話 またつづく


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