自由に、気ままに 第二話 ダイエットをする猫

  • 2010.12.03 Friday
  • 09:14
 しなやかな体に、俊敏な動き。
高い塀もひとっ飛びで登る。
それが猫というものだろう。
しかし今の俺は、そんな猫にはほど遠かった。
太った体にたるんだ肉。
俊敏な動きは期待できない。
低い障害物を飛び越えるのも一苦労だ。
俺は二階の窓から外を眺めていた。
野良猫が塀の上にいる。
その野良猫は、身軽な動きで塀を飛び降りると、別の塀にピョンと飛び乗った。
羨ましい。
昔は俺もあんな動きができたものだ。
しかし今は無理だ。
そうなったのは自分のせいだと分かっている。
俺はとにかく食べることが好きなのだ。
「プリン、また外を見てるの?」
俺より一年後に拾われてきたミミが話しかけてくる。
「野良猫を見てたんだ。
身軽な動きだったなあ。」
俺はしみじみと言った。
「プリンは身軽な動きなんて無理だよね。」
「言われなくても分かってるよ。」
俺は塀の上の野良猫を見つめた。
「プリンは私が拾われてきた時から太ってたもんね。」
そうなのだ。
俺は随分前から太っている。
「どうして俺はこんなに太ってしまったんだろう。」
「食べ過ぎるからでしょ。」
「そうじゃなくて、どうしてこんなに太ることを許してしまったんだろうって意味さ。」
「それは知らないわよ。」
ミミはそう言って笑った。
「プリンの生き甲斐は食べることでしょ?
その結果太ったんだから仕方ないじゃない。」
野良猫がまた塀を飛び降り、どこかへと走り去っていった。
「俺もあんなふうに身軽に動きたいな。」
俺は贅肉がいっぱいついた自分の体を見た。
まるで風船だ。
どうして俺はこんなに太るまで自分を放っておいたんだろう。
「じゃあダイエットすればいいじゃない。」
「ダイエット?」
「うん。
プリンは食べ過ぎるから太るんでしょ。
食べる量を減らせばいいじゃない。」
俺はふうっとため息をついた。
「簡単に言うけどな。
ダイエットなんてうまくいくもんかな?」
「それはプリンの努力次第じゃない。」
俺は「うーむ」と唸った。
ダイエットか。
今まで考えたことがなかったわけじゃない。
ただ実行に移さなかっただけだ。
「ダイエット、してみようかな。」
俺がそう言った時、俺達の飼い主のお母さんがやって来た。
「プリン、また太ったみたいねえ。」
そう言われて俺は落ち込んだ。
「ちょっと体重を量ってみようか。」
そう言ってお母さんは俺を抱いた。
「うわ、やっぱり重いわ。」
お母さんは俺を連れて一階にある体重計の所へ行った。
お母さんが俺を体重計に乗せる。
「15キロ。
また太ったわねえ。」
以前体重を量った時は13.5キロだった。
また太ってしまった。
俺は決意した。
ダイエットをしよう。
そして昔のしなやかな体を取り戻そう。
その日の夕方、俺は餌を残した。
「プリン、餌を残してるじゃない。
体調でも悪いの?」
お母さんが心配そうに言う。
「ニャオ。」
俺は大丈夫だと言った。
「プリン、ダイエットをする気になったのね。」
ミミが残った俺の餌を見て言う。
「そうだよ。
俺は痩せてみせる。
そして昔のしなやかな体を取り戻すんだ。」
「応援してるわ。」
次の日の朝も、俺は餌を半分も残した。
「プリン、また餌を残してるじゃない。」
お母さんが残った餌を見て言う。
「ニャーオ。」
俺は心配しないでと言っておいた。
俺は痩せてみせる、絶対に。
その日のお昼、おやつの時間になった。
お母さんが猫用のビスケットをくれる。
俺の隣でミミが美味しそうにビスケットを食べている。
しかし俺は我慢した。
俺は食べない。
だってダイエット中だから。
「プリン、おやつはいらないの?」
お母さんが俺の口の近くにビスケットを持ってくる。
俺の食欲が暴れ出した。
ダメだ!
食欲に負けちゃダメだ。
俺はそっぽを向き、その場から走り去った。
「プリンたら、どうしたのかしら。」
お母さんが不思議そうに言う声が聞こえた。
その日の夕方も、俺は餌を残した。
「頑張ってるじゃない、ダイエット。」
ミミが笑いながら言ってくる。
「俺は痩せるって決意したから。」
「偉いわ、プリン。」
そして俺は、おやつも食べず、餌を残す生活を一週間続けた。
「プリン、ダイエットちゃんと続いてるじゃない。」
「ああ・・・。」
「どうしたの、元気がないわね。」
「そんなことないよ・・・。」
「そんなことあるわよ。
声に力がないわ。」
「そうかな・・・。」
「そうよ。
いつものプリンじゃないわ。」
正直この一週間は地獄だった。
俺は食べたかった。
おやつも餌も、満腹になるまで食べたかった。
しかしそれを我慢してここまでやってきたのだ。
「俺、ちょっと体重計に乗ってくるよ・・・。」
「私もついて行く。」
そして俺は体重計に乗った。
「15キロ・・・。
体重が減ってない・・・。」
「そうねえ。
でもまだダイエットを始めて一週間じゃない。
そんなにすぐに結果はでないわよ。」
「そんな!
俺がこの一週間どんな気持ちでダイエットしてきたか。
俺は自分の中で暴れまわる食欲を必死に抑えてダイエットしてきたのに。」
「でも体重は減ってないわね。
まだダイエットを続けないと効果がないんじゃない?」
「そんなあ・・・。
まだ続けるのか・・・。」
俺はもう限界だった。
たった一週間といえど、俺は頑張ってきた。
自分の食欲と必死に闘ってきた。
それなのに効果が出ていないなんて。
俺はトボトボと二階の窓に行った。
ミミもついて来る。
俺は窓の外を眺めた。
今日も野良猫がいる。
野良猫は身軽な動きで塀に飛び乗っていた。
「食べたい・・・。
お腹いっぱい食べたい・・・。」
「プリン、もう限界なの?」
「食べたい・・・、食べたい・・・。」
「かなりやばい状態ね。」
「ダイエット・・・、しなきゃ・・・。
でも食べたい・・・。」
その日のお昼、おやつの時間になった。
「プリンは最近おやつを食べないからね。
ミミだけね。」
そう言ってお母さんはミミだけにおやつをやった。
ミミは美味しそうに食べている。
「ダイエット・・・、しなきゃ・・・。
ダイエット・・・、ダイエット・・・。」
俺は美味しそうにおやつを食べるミミを食い入るように見ていた。
そして・・・。
「きゃあ!
何をするのよ、プリン!」
俺はミミのおやつを横取りしていた。
「美味い美味い!
おやつ美味い!」
「あら、プリンもおやつを食べるの?
だったらあんたの分も持って来なきゃ。」
そう言ってお母さんは俺の分のおやつも持って来てくれた。
その量はミミの食べる三倍だ。
「美味い、美味いよ!」
俺はおやつを貪るように食べた。
「プリン・・・。」
ミミが呆れたような目で俺を見る。
「美味いよ、おやつ美味いよ!」
俺はおやつを全部たいらげてしまった。
「プリン、ダイエットは失敗ね。」
ミミが憐れむような声で言った。
俺がかつてのしなやかな体を取り戻す日。
そんな日は、しばらく来なさそうだった。

                                   第二話 完
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