自由に、気ままに 第五話 ぶらりぶらりと

  • 2010.12.06 Monday
  • 09:01
 田んぼの真ん中でグイッと背伸びをして、欠伸をする。
後ろ足で耳の裏を掻いて、手で顔をブラッシングする。
今日は雲が多いが、一応晴れていると言えるだろう。
俺は田んぼを横ぎりながら、今日も一日が始まったことを実感する。
まずは餌を食べに行こう。
ここから少し離れた魚屋さんの奥さんが、毎朝猫に餌をくれる。
俺は魚屋を目指した。
そしてその途中、ゴンと会った。
「おはよう、ゴン。」
「おはよう、パン。」
俺達は連れだって魚屋に向かった。
「最近だんだんと寒くなってきたな。」
ゴンが言う。
「ああ、猫にとってはつらい季節だ。
家猫ならこたつで丸くなって、暖かく眠っているんだろうな。」
「羨ましいな。
俺も家猫になりたいよ。」
「ゴンは家猫になりたいんだな。」
「パンは違うのか?」
「俺は野良猫でいいよ。」
「何でだ?」
「だって自由だからさ。
俺は何かに縛られるのが嫌いなんだ。」
「パンらしいな。」
そして俺達は魚屋までやって来た。
魚屋の奥さんが、集まった猫達に餌をやっている。
俺達も奥さんから餌をもらった。
「こうやって毎朝決まって餌にありつけるのは、野良猫にとって幸せだよな。」
ゴンが言った。
「そうだな。
食べ物が無くて苦しんでいる野良猫だっているもんな。」
ここの奥さんは、夕方にも餌をくれる。
餌の時間は、毎回多くの猫達が集まって来ていた。
餌を食べ終えた俺は、口の周りを舌でペロペロしていた。
「ごちそうさん。
パン、これから他の猫達とネズミ狩りに行こうって言ってるんだけど、お前も来るか?」
ゴンが聞いてくる。
「いや、俺はいいよ。」
「そうか。
じゃあまたな。」
ゴンは他の猫達と一緒に去って行った。
「さて、俺は散歩でもするか。」
俺はいつものように、町をぶらぶら歩くことにした。
魚屋をあとにして、畑を横ぎり、公園の方へと向かう。
その途中でチビと会った。
「やあ、チビ。」
「こんにちは、パン。」
「何してるんだい?」
「これから魚屋さんに行こうと思って。
まだ餌はあるかな?」
「さっき俺は餌をもらったぞ。
まだ間に合うんじゃないかな。」
「そっか、よかった。」
チビが安堵したように言う。
「パンはこれからどこに行くの?」
チビが聞いてくる。
「ちょっと公園まで。」
「そう。
私はさっきまで公園にいたのよ。
アンズとお喋りしてたわ。」
「そうか。
アンズがいるのか。」
「うん。
まだいると思うわ。」
「じゃあ会ってこようかな。」
「じゃあ私は魚屋さんに行くわ。
じゃあね、パン。」
「ああ、さようなら、チビ。」
チビと別れ、俺は公園までやって来た。
遊具で人間の子共達が遊んでいる。
俺はそんな光景を尻目に、アンズを探した。
すると、公園の植え込みの陰にアンズがいた。
「やあ、アンズ。」
俺は近寄って挨拶をした。
「よう、パン。」
「アンズは今朝は魚屋に来てなかったな。」
俺は聞いた。
「ああ、実は公園のゴミ箱でフライドチキンの残りを見つけてさ。
それを食べてたんだ。」
「お前は食べ物を見つけるが上手いな。
この前も弁当の残りを見つけていたな。」
「俺は鼻がきくんだ。
食べ物の匂いには敏感さ。」
「そうか。
いい鼻を持ってるな。」
「まあな。
それよりこれから高台に行ってみようと思うんだ。
あそこもよく食べ物の残りが落ちてるからな。
パンも一緒に来ないか?」
「いや、俺はいいよ。」
「そうか。
じゃあ俺は高台に行ってくるよ。
じゃあな、パン。」
「ああ、食べ物が見つかるといいな。」
そしてアンズは去って行った。
俺は人間の子供達を眺めながら、しばらく日向ぼっこをしていた。
さて、散歩を続けるか。
俺は公園をあとにした。
気の向くままに歩き出す。
ぶらりぶらりと目的もなく歩く。
俺はそうやって歩くのが好きだった。
空を見上げると、雲がゆっくりと流れている。
ああ、俺も雲になりたいな。
あんなふうに空を漂ってみたい。
そう思いながら歩いていると、前からジジがやって来た。
「こんにちわ、ジジ。」
「あら、こんにちわ、パン。
こんな所で何してるの?」
ジジが聞いてくる。
「ちょっと散歩をしてるんだ。」
「パンは散歩が好きねえ。
いつもぶらぶらと歩いているわね。」
「そういうのが好きなんだ。」
「パンらしいわね。」
「そうかな。」
「そうよ。
パンってまるで雲みたいなところがあるもの。
何にも縛られない。
ただふわふわと流れている感じがするわ。」
「そう言われると嬉しいな。」
「どうして?」
「俺は雲になりたいからさ。」
「パンらしい答えね。」
そう言ってジジは笑った。
「変かな?」
「そんなことないわよ。
私も時々雲になりたいって思う時があるわ。」
「へえ、そうなんだ。」
「たまにだけどね。」
そう言うとジジは毛繕いを始めた。
「ジジはいつも綺麗好きだね。」
「そうかしら?」
「そうだよ。
いつも綺麗な毛並みをしているじゃないか。
ブラッシングを欠かさない証拠だよ。」
それを聞くと、ジジは嬉しそうに笑った。
「綺麗な毛並みって言われると嬉しいわね。」
「本当のことを言っただけだよ。」
「ありがとう。
私、今から川辺の方に行こうと思ってるんだけど、パンも一緒に来る?」
「いや、俺はいいよ。」
「そう。
じゃあ私は川辺に行ってくるわ。
じゃあね、パン。」
「バイバイ、ジジ。」
俺は去って行くジジを見送ると、また歩き出した。
目的もなくぶらぶらと歩く。
さっきまで射していた太陽の光が陰った。
空を見上げると、太陽に雲がかかっていた。
トンビが空を舞っている。
ピーヒョロロロとトンビが鳴く。
いいなあ。
俺はトンビを眺めた。
トンビは風に乗り、どんどん空高く舞い上がって行く。
俺はトンビが小さな点になるまで眺めていた。
次に生まれ変わるなら鳥がいいな。
大きな翼を持った、優雅に空を舞える鳥に。
俺はまた歩き出した。
再び太陽の光が射してきた。
今日も俺はぶらりぶらりと過ごす。
雲のように、流れるように。
空高く舞うトンビの鳴き声が、かすかに聞こえた。

                                  第五話 完
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