自由に、気ままに 最終話 胸焦がすこの想い

  • 2010.12.08 Wednesday
  • 09:04
 肉屋の裏にある細い路地を抜けると、君の家の近くに出る。
俺はいつものようにその路地を抜け、君の元へ向かう。
今日、君はどうしているだろうか?
昨日会ったばかりなのに、君のことが気になって仕方がない。
俺は塀の上にジャンプし、そこから君の家の屋根に上る。
ベランダの近くにある窓を、前足でパンパンと叩く。
すると窓に白い影か映った。
俺はもう一度窓を叩く。
窓の向こうの白い影が、もそもそと動く。
そして窓が開いた。
「おはよう、ミロ。」
「おはよう、ケント。」
君が窓の外に出てくる。
「今日は暖かいね。」
君が太陽の光に目を細めながら言う。
「そうだね。
今日は暖かい。」
俺はじっと君を見つめた。
「どうしたの?
じっと見つめて。」
「あ、いや、何でもないよ。」
「今日は気持ちのいい日ね。
ちょっとそこの空き地まで行ってみましょう。」
「ああ。」
俺達は、君の家の前にある空き地へと移動した。
「今日は風も冷たくないわね。」
「そうだね。」
「日向ぼっこをするにはいい日だわ。」
「うん、そうだね。」
「やっぱり天気は晴れている方がいいわよね。」
「ああ、そうだね。」
すると君はクスリと笑った。
「ケントったら、さっきから相槌ばっかり。」
「え、そうかい。」
「うん、そうだねってばっかり言ってる。」
「ああ、そうだね。」
「ほら、また言った。」
「ほんとだ。
何でだろう。」
君といると、今でも少し緊張する。
「ケントと友達になってから、もう半年も経つのね。」
「うん、早いね。」
「ケントはいつも私に会いに来てくれるね。
どうして。」
「それは、まあ、その・・・。」
また君が笑った。
「私はいつもケントが会いに来てくれて嬉しいわ。」
「それはよかった。」
「ケントって不思議ね猫ね。」
「そうかい?」
「うん、なんだか掴みどころがないって言うか、いまいちどんな猫なのか分からないわ。」
俺はドキリとした。
どういう意味で言っているんだろう。
「それって、褒め言葉?」
「うん、そうよ。」
俺は安堵の息を吐き出した。
「ケントはどういう猫なのかよく分からないところがある。
だから、私はケントと一緒にいると楽しいの。」
「そう言われると嬉しいな。」
空き地に生えいる木に、一羽の小鳥がとまってこちらを見ている。
「ねえ、ケントは野良猫よね。
生活は苦しくない?」
「そんなことないよ。」
「そうなんだ。
私は野良猫になったら、生きていく自信がないわ。」
「もしミロが野良猫になったら、生きていけるように手助けするよ。」
「本当?」
「うん、本当。」
木にとまっていた小鳥が、二羽になっていた。
「野良猫って楽しい?」
「うん、まあ誰にも束縛されない自由はあるから楽しいよ。
でも苦労することもあるけど。」
「具体的にどんなことが楽しいの?」
「うーん、それは・・・。」
俺は君に会いに来るのが楽しかった。
でもそれを口にできない自分の不甲斐なさに、少し腹が立った。
「具体的に言うのは難しいな。」
「そう。
じゃあ苦労することってどんなこと?」
「それはやっぱり食べ物かな。」
「ケントは食べ物に苦労しているの?」
「たまにね。
いつも野良猫に餌をくれる人間のおばさんがいるんだ。
でもその人が来ない時は、自分で餌を探さないといけないから。」
「ふーん。
大変なのね。」
木にとまっている二羽の小鳥が、お互いを毛繕いしている。
「ミロの方はどう?
家猫って楽しい?」
「うん、楽しいっていうか幸せよ。」
「へえ、どんなところが?」
「家のみんなが私に優しくしてくれるところかな。
特にママは優しいの。」
「ママって、ミロを拾ってくれた人だよね。」
「そうよ。
公園に捨てられていた、まだ小さかった私を拾ってくれたの。」
「いい人だね。」
「うん。
私、ママのことが大好きよ。
それに家猫は、食べ物に苦労しないから。」
「その部分は羨ましいなって思うよ。」
「じゃあケントも私の家で一緒に住む?」
「え、いや、あの・・・。」
「ふふふ、冗談よ。」
俺は木にとまっている小鳥を見た。
「ああ、楽しいな。
ケントといると。」
「そう?」
「うん、だってケントは私のたった一匹の友達だもん。」
「本当は、もっとたくさん友達がほしい?」
「うん、できればね。
でもいいの。
私にはケントがいてくれるから。」
嬉しい言葉だった。
「ねえ、ケント。
ケントは私のことをどう思ってる?」
「え、どうって・・・。」
「私はケントのことが好きよ。」
ミロはよく俺のことが好きだと言ってくれる。
しかしそれがどういう意味での好きなのかは、分からなかった。
気になるなら確認すればいいだけの話だが、俺にはそんな勇気がなかった。
「ケントといると楽しい。
でもケントの方はどうだろうって思ったの。
ねえ、ケントは私と一緒にいて楽しい?」
「え、あ、うん、楽しいよ。」
「よかった。
じゃあ私のこと好き?」
「えーと、それは・・・。」
「嫌いなの?」
「い、いや、そんなことはないよ!」
「じゃあ好きなのね?」
「え、うん、その・・・、好きかな。」
「よかった。」
そう言って君は笑った。
「私はケントにどう思われてるんだろうって、ずっと気になってたの。
でも、最後にその言葉が聞けてよかった。」
「最後?
どういう意味?」
すると君は、木にとまっている小鳥を見つめて言った。
「あのね、私の家、引っ越しするの。」
「え、それは・・・。」
「ごめんね。
ずっと言おうと思ってたんだけど、なんか言い出せなくて。」
「いつ引っ越しするの?」
「明日。」
「明日!」
俺は固まってしまった。
「だからもうケントとは会えなくなるの。」
「そう・・・。
それは・・・、寂しいな。」
「うん、私も寂しい。」
木にとまっていた二羽の小鳥が、どこかに飛び立って行った。
「ねえ、ケント。
私のこと忘れないでね。」
俺は黙っていた。
「ケント?」
「忘れるわけないだろ・・・。」
「ケント・・・。」
「ミロがどこに行っても、ミロのことを忘れるわけないだろ。」
「そう言ってくれて嬉しい。」
それから、君とどんなことを話して、どんなふうに別れたのか覚えていない。
次の日になり、俺は君に会いに行こうかどうしようか迷った。
本当は会いたい。
でも、会ったら別れるのが辛くなる。
それが怖かった。
でも、本当にこのままでいいのか?
俺はちゃんと、ミロに自分の気持ちを伝えるべきじゃないのか。
行こう。
君に会いに。
俺はいつもの路地を通り、君の家に行った。
そしていつものように窓を前足で叩く。
誰も来ない。
俺はもう一度窓を叩いた。
しかし、君は出て来なかった。
もう引っ越したのか?
俺は君の家の前に回ってみた。
すると、一台の車が、家のガレージから出て行くところだった。
俺はその車を見た。
すると車の窓から、人間のおばさんに抱かれた君の姿が見えた。
「ミロ!」
俺は叫んだ。
ミロが俺に気付いてこちらを見る。
「ミロ!
俺、忘れないから!
ミロのこと、絶対に忘れないから!」
ミロが窓の近くにやって来た。
「ケント!
私も忘れない!
ケントのこと、忘れないから!」
車の中で君はそう叫んだ。
車が走り去って行く。
「ミロー!」
「ケントー!
私、ケントと出会えてよかったー!」
俺は車を追いかけた。
しかし車はどんどんスピードを上げ、俺との距離は離れていく。
「ミロ―!
俺、ずっとミロのことが好きだったー!
友達としてじゃなく、女の子として好きだったー!」
車は遠くにある角を曲がり、見えなくなった。
最後の最後に自分の気持ちを言った。
今になって、もっと早く自分の気持ちを言っておけばよかったと後悔した。
でももう遅い。
「ミロ・・・。」
もう君とは会えない。
窓をパンパンと叩いても、君が出て来ることはない。
寂しさが押し寄せてくる。
俺は昨日君とお喋りをしていた空き地に向かった。
今日も小鳥が二羽、木にとまっている。
小鳥は仲良く、お互いを毛繕いしていた。
「ミロ・・・、さようなら。」
俺は押し寄せてくる寂しさをこらえ、君と出会えたことに感謝していた。
小鳥が、空に向かって飛び立った。

                                 最終話 完
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