不思議探偵誌 最終話 挑戦、再び!(6)

  • 2010.07.31 Saturday
  • 09:39
 開けてある事務所の窓から、秋の涼やかな風が吹き込んでくる。
その風に頬を撫でられ、心地よい感触を感じていた。
今日は気持ちのいい秋晴れで、俺の心も同様に晴れ渡っていた。
今、俺の事務所には四人がソファに座っている。
俺、由香利君、茂美、そして尾崎。
その俺達のテーブルの前には、大人しくメロンちゃんがとぐろを巻いている。
「まさか、私が負けるなんて・・・。」
尾崎は茫然としながらメロンちゃんを見つめている。
メロンちゃんは男の俺と尾崎には目もくれず、由香利君と茂美を交互に見ていた。
「昨日駅前で見つけました。
これであなたとは一勝一敗。
まあ、引き分けってことですね。」
俺の言葉に尾崎は何か言い返そうとしたが、口をつぐんで黙り込んだ。
昨日駅前でメロンちゃんを見つけた俺と由香利君は、早速事務所に連れて帰り、茂美に連絡した。
「見つけたよ。
俺と由香利君でね。」
その言葉を聞くと、茂美は「そう、よかったわね」と明るく短い返事をしただけだった。
何故メロンちゃんが駅前にいると分かったのか。
昨日俺の体に起こった異変が、その原因かもしれない。
俺はただ目の前に一瞬浮かんだ映像を信じ、それに従っただけである。
どうしても負けたくないという思うが、一時的にではあるが、超能力を強くしたのかもしれない。
しかしまあ、今となってはそんなことはどうでもいい。
俺と由香利君は、こうして尾崎よりに先にメロンちゃんを見つけ、勝利を手にしたのだ。
「ねえ、尾崎さん。
今度は私の勝ちです。
さっき言ったように、これで一勝一敗の引き分け。
なら、どちらも事務所の看板を降ろす必要はなくなったということですよね。」
納得がいかないという感じの尾崎は、俺を睨んで言った。
「そうですね。
だったらまたもう一度勝負すればいい。
どぢらが真の超能力探偵に相応しいか、白黒はっきりつけようじゃありませんか。」
挑戦的な態度で身を乗り出し、チラリとテーブルの上のメロンちゃんを見た。
俺は尾崎の挑戦的な視線を受け流し、表情を柔らかくして答えた。
「いえ、私はもう勝負をするつもりはありません。
私にとって、どちらが真の超能力探偵かなんてどうでもいいことです。
あなたが自分こそ真の超能力探偵だと思うんなら、もうそれでいいじゃないですか。」
すると尾崎は俺を馬鹿にしたように笑い、そして言った。
「逃げるんですか?
もう一回私に勝つ自信が無いから。
事務所の看板を降ろすのが怖いから。」
その言葉にも、俺は柔らかい表情を浮かべたまま答えた。
「どういうふうに受け取ってもらっても結構です。
私は逃げたつもりはありません。
事務所の看板を降ろすのが怖いかと聞かれれば、それはその通りです。」
「ほら、やっぱり怖いんだ。
私に勝つ自信が無いということでしょう。
逃げているのと同じじゃないですか。」
そこで俺と由香利君は顔を見合し、わずかに笑った。
尾崎の隣に座っている茂美は、そんな光景を眺めていた。
「尾崎さん、私はね、誰かと勝負したくて探偵になったわけじゃない。
そして自分が超能力を持っていることを自慢しているわけでもない。
探偵は私にとって生き甲斐みたいなものなんです。
勝負の天秤にかけるような、安っぽいものじゃないんですよ。
さっきも言ったが、自分が真の超能力探偵であると思うなら、それでいいじゃないですか。
わざわざ私を目の敵にする必要なんてない。
実際あなたの超能力の方が優れているわけだし、それでいいじゃないですか。
それとも、本当に怖がっているのはあなたの方じゃないんですか?
この世に超能力を使える探偵が、自分だけじゃないっていう事実に怯えているだけじゃないんですか?」
「な、何を言って・・・。」
尾崎は一瞬うろたえたが、俺は構わず続けた。
「私はもうあなたと勝負するつもりはありません。
探偵は、誰かと勝負する為に存在しているわけじゃない。
持ち込まれた依頼を解決する為に存在しているんです。
私は、私の力を必要とする依頼人の為に探偵をしている。
あなと勝負をする為に、探偵をやっているのではない。」
「しかし・・・。」
そう言ってさらに身を乗り出そうとした尾崎を、茂美が不敵な笑みを浮かべながらたしなめた。
「尾崎さん、もういいじゃない。
久能さんの言う通りよ。
探偵は依頼人の為に存在している。
その言葉は、的を得ているわ。」
「いや、しかし・・・。
私はまだ勝負を続けたいと思って・・・。」
「醜いわよ!」
茂美が声を荒げ、尾崎が驚いたように目を開いた。
俺の隣で、由香利君もちょっとビックリしたようだった。
「さっき久能さんが言ったこと、やっぱり的を得てるわ。
あなた怖いのよ、この世に自分以外に超能力を使える探偵がいることが。」
「そ、そんなことはない!」
尾崎は慌てて答えた。
「だったら、もういいじゃない。
一勝一敗で勝負は引き分け。
それでお終いよ。」
尾崎は乗り出していた身を引っ込めて椅子に座り直し、唇を噛んで悔しそうな顔をしていた。
茂美は軽く口元を笑わせ、尾崎に言った。
「もう勝負はお終いなの。
あなたが久能さんに勝負を挑む正当な理由なんて、どこにもないわ。
元々この勝負はあなたのわがままみたいなもの。
久能さんはそれに付き合っていただけよ。」
由香利君が嬉しそうな目で茂美を見つめ、それに気付いた茂美は軽くウィンクをよこした。
「嫌がる相手を、これ以上勝負の土俵に引っ張り出そうとすのは、野暮な男のすることよ。
あなた、そんな野暮ったい男ってわけ?」
尾崎は完全に黙り込み、握った拳を膝の上で震わせていた。
また窓から風が吹き込み、それを合図にしたかのように尾崎は立ち上がった。
「分かりました。
もう勝負を挑むことはしません。
相手が逃げているんじゃ、勝負になりませんからね。
やっぱり、真の超能力探偵は、この私ということだ。」
そして尾崎はドアへ向かって歩き出す。
開けたドアを出て行く瞬間、一瞬だけ俺を見た。
俺はその視線を跳ね返すように見据えた。
尾崎は顔を伏せ、静かにドアを閉めて去って行った。
「茂美さん、カッコよかったです!」
由香利君がはしゃぐように茂美に言った。
「最後まで強がってたわね。
子供な男だわ。」
茂美は笑いながら言い、テーブルの上のメロンちゃんを掴むと立ち上がった。
「ごめんね、メロンちゃん。
寂しかったでしょう。
一緒にお家に帰りましょうね。」
茂美に甘い言葉をかけられながら撫でられているメロンちゃんは、とてもご機嫌そうだった。
「いやあ、やっぱり茂美さんは男前な美人やなあ。
惚れ直してまうわあ。」
メロンちゃん一号が言う。
「うんうん、その通りや。
さすが、俺らが惚れただけの女や。」
メロンちゃん二号も嬉しそうにしている。
「じゃあ、私はこれで。」
茂美がドアに向かって行く。
「なあ、茂美さん。
俺はまた探偵を続けられることが出来るよ。
君のおかげだ、ありがとう。」
そう言って頭を下げる俺に、「何のことかしら」ととぼけてみせる茂美。
「まあ、また近いうちに依頼を持ってくるかもしれないわ。
その時はよろしくね。」
そう言って茂美は去って行った。
「由香利ちゃん、またなー。」
ドアの向こうからメロンちゃんの声が聞こえ、茂美の足音とともに消えていった。
俺はソファから立ち上がり、自分の椅子に座り、窓の外を眺めた。
「お茶でも淹れましょうか。」
由香利君の声を背中に聞き、俺は頭だけ振り返って頷く。
俺はまた、探偵を続けることが出来る。
由香利君と一緒に。
嬉しいかと聞かれればその通りだが、飛び上がるような喜びではなく、何か心に暖かな安心めいた感情がわきたっていた。
「はい、どうぞ。」
由香利君が俺の机に上にお茶を置き、俺は椅子を回して由香利君と向かい合った。
お茶を一口飲み、ふうっと息を吐く。
由香利君が俺の前に立ったまま、ニコニコしながらこっちを見ている。
俺はもう一口お茶を飲み、由香利君に聞いた。
「なあ、君はいつまで俺の助手でいてくれるんだい?
大学を出たら就職だろう。
その時には、この事務所を辞めるのかい?」
由香利君は悪戯っぽく口に手を当てて笑い、「さあ、どうでしょう?」なんて笑いながら言っている。
「久能さんがどうしても私に助手を続けていて欲しいのなら、卒業してもここで働いてもいいですよ。」
俺はごほんと咳払いをし、ニコニコしている由香利君から顔を背けて言った。
「ま、まあ。
君がどうしてもここで働きたいのなら、俺は構わないけど。」
「素直じゃないなあ。」
そう言って由香利君は鼻歌を歌いながら書類の整理を始めた。
いつもと変わらない光景。
出来れば、ずっと続いて欲しい。
俺は嬉しそうに事務所を動き回る由香利君を見ながら、「卒業しても辞めないでくれよ」と小さく呟いた。

                      *

あれから十日以上が経ち、俺は相変わらず由香利君に隠れてエロ雑誌を読み、由香利君は相変わらず事務所の書類の整理や掃除をしていた。
「おお、このお姉ちゃんの腰のくびれはたまらんなあ。」
思わず声に出すと、由香利君が俺の前に立っていた。
「あ、しまった!」
そう言うのと同時に、俺の手からエロ雑誌を奪い取り、丸めてゴミ箱に捨てられてしまった。
「何度も何度も言わせないで下さい。
どうして仕事中にこういうものを読むんですか。」
俺は怒った顔の由香利君を見ながら、「えへへ」と誤魔化し笑いをして捨てられたエロ雑誌を拾おうとした。
「拾うな!」
由香利君のチョップが頭に落ちる。
「もう、相変わらず乱暴だなあ。
いいじゃないか、ちょっとくらい。」
俺が反論すると、またチョップをくらった。
「ダメなものはダメです。
たまには頭の中からエッチなことを消して下さい。」
由香利君はぷりぷり怒りながら、事務所の掃除に戻った。
「相変わらずやってるわねえ。」
茂美が開いたドアの前に立っていて、笑いながら言った。
「あ、茂美さん。
もう、聞いて下さいよ。
久能さんたら何度注意しても仕事中にエッチな本を読むんですよ。」
駆け寄って来て不満を漏らす由香利君に、「あら、それはいけないわねえ」と微笑みながら答えている。
俺は捨てられたエロ雑誌を拾いながら、こちらに近づいて来る茂美を見た。
「まあ、由香利ちゃん。
久能さんまたエッチな本を見ようとしてるわよ。」
「え?
あ、ほんとだ!
コラ、そんなもん捨てときなさい。」
またもやチョップをくらい、エロ雑誌を捨てられてしまった。
俺はチョップをくらった頭を押さえながら、顔をしかめて茂美に言った。
「もう!
バラすなよ!
また由香利君に怒られちゃったじゃないか。」
不機嫌な俺を見て茂美は笑い、そして俺の傍に寄って来て体を密着させる。
ああ、たまらん。
柔らかい胸が俺の腕に。
「うふふ、久能さん。
実はまたうちの雑誌で未確認生物の特集をやっていてね。
それで依頼を持って来たのよ。」
そう言ってさらに胸を押し付けてくる。
ああ、茂美お得意の色仕掛けが出たよ。
俺は顔をだらしなくニヤニヤさせながら、どうせまたろくな依頼じゃないんだろうなと思っていた。
「久能さん、顔がだらしないですよ。」
由香利君に拳骨をくらった。
頭を押さえて痛がる俺。
「本当に仲がいいわねえ。
ねえ、久能さん。
あなたと由香利ちゃんは、まったくいいコンビだわ。」
そう言って茂美は俺から体を離し、机の前に回って来て一枚の紙を置いた。
茂美の胸の感触が腕から離れていって、俺はちょっと残念に思いながらその紙を見た。
「今ね、インターネットで話題になっている生き物がいるのよ。
足が20本あって頭に羽が生えていて、しかも東北弁を喋るタコがいるんですって。」
またか・・・。
そんな生き物がいるわけないと思ったが、実際にメロンちゃんのようなヘビもいるので否定出来ない。
「詳しいことはその紙に書いてあるわ。
うふふ、メロンちゃんを見つけた久能さんなら、きっとこのタコも見つけてくれるわよね。」
茂美は前屈みになって豊満な胸を俺に見せつける。
クソ!また色仕掛けだ。
「ま、まあ捜してみるよ。」
俺が曖昧に答えると、茂美は満足そうに笑いながら頷いた。
「見つけたら教えてね。
期待してるわよ、久能さん。」
そう言葉を残し、茂美は色っぽいフェロモンを振りまきながら去って行った。
「面白そうな依頼ですね。
早速捜しに行きましょうよ。」
由香利君が嬉しそうに出掛ける準備をする。
俺はやれやれといった感じで立ち上がり、上着を羽織って茂美の置いていった紙をポケットに突っ込んだ。
「よし!
じゃあ張り切って捜しましょう!」
元気な声を出す由香利君の近くに寄り、俺はニコッと笑って言った。
「そうだな、張り切って行こう。」
そう言って由香利君のお尻を撫でる。
「何するんですか!」
凄まじい鉄拳が俺の顔にめり込んだ。
「もう!
本当にエッチなんだから!」
俺は出てくる鼻血を押さえるため、ティッシュを丸めて鼻に突っ込んだ。
「やっぱり由香利君の鉄拳は強烈だなあ。」
そう言うと、由香利君は「鍛えてますから」と拳を握って見せた。
「ほら、早く行きますよ!」
由香利君に急かされ、俺は「はいはい」と言いながらドアに向かう。
季節は秋。
今日は美しい秋晴れで、きっと外には透き通るような青い空が一面に広がっている。
「じゃあ、行こうか。」
俺は鼻にティッシュを突っ込んだまま、ドアを開けて由香利君とともに外に出た。
思った通り、綺麗な青空が広がっている。
「久能司探偵事務所」
その看板を一目見ると、俺は先を行く由香利君の後を追いかけた。
依頼を解決する為、今日も俺達は街へと繰り出した。

                                  最終話 完


お腹の調子が治らない

  • 2010.07.31 Saturday
  • 09:36
 もうお腹を壊して結構経ちます。
今では一日に何度もトイレに行っています。
なるべく暖かい物を食べたり飲んだりするように気をつけています。
でも治らない。
ああ、この状態が続くのって結構きついなあ。
早く治って欲しいです。

女の人の小説は面白い

  • 2010.07.31 Saturday
  • 09:24
 最近貪るように本を読んでいますが、その中で感じたことがあります。
これは私の個人的な意見ですが、小説は女の人が書いた方が面白いです。
もちろん男の作家さんだって面白い人はいます。
好きな男性作家もいます。
でも、私が今まで読んできた本の中の割合で言うと、やっぱり女の人の作家さんの方が面白い人は多いです。
その理由として、まず男性作家の本は、理屈っぽいのが多い。
あまり人の感情の動きや絡みというものが少なく、最後まで読んでもキャラクターの輪郭がはっきりしないものもあります。
だから誰がセリフを喋っているのか全然分からない。
それにオタク的な知識を披露したがる人が多い。
鉄道オタク、軍事オタク、車オタク、それらのオタク的知識を、さもみんなが知っているような感覚で書く。
オタクじゃないこっちにしてみれば、何を言っているのか全く分からない。
それに比べて女性作家は人間の心の動きや、人間同士の絡みを表現するのが上手い人が多いです。
だからいちいち誰が喋ってるか書かなくても、ちゃんとセリフを言っているキャラクターが誰なのかはっきりと分かる。
キャラクターというものがしっかり個性を持っているんですね。
まあ私の個人的な意見なので、反感を持つ人もいるとは思いますが。
次に買う本も、多分女性作家の本になると思います。

不思議探偵誌 最終話 挑戦、再び!(5)

  • 2010.07.30 Friday
  • 09:23
 突如として舞い込んできた希望の光。
もうダメだと諦めて、自分の唯一の生き甲斐を失くした喪失感を、心に灯った炎が明るく俺の気持ちを照らし始めた。
人生で何度か巡ってくる大きなチャンス。
それを活かすも殺すも俺しだい。
俺は、そのチャンスを絶対に掴んでみせる!
「もう、負けられませんね。
二度の敗北は許されないですから。」
由香利君が俺の隣に立って言う。
俺は椅子に座りながら頷き、昨日のことを思い出していた。
もう事務所を閉めるつもりでやって来た時、突然現れた茂美が俺に再度チャンスをくれた。
尾崎との再戦。
茂美の飼っているペットのメロンちゃんを見つける勝負。
これに全てがかかっている。
俺がこれからも探偵を続けられるかどうか、由香利君と一緒に、これからも働くことが出来るかどうか。
俺は椅子から立ち上がると由香利君に向き直った。
「また君と一緒に探偵が出来るなんて嬉しいよ。
それが今回一度限りで終わらないように、必ず尾崎に勝とう。」
由香利君は強く頷き、そして目に闘志を燃やしながら言った。
「私もまた久能さんと探偵が出来て嬉しいです。
もう負けるつもりはありません。
勝負は勝つ為にやるものです。
きっと、メロンちゃんを見つけ出しましょう!」
そして俺達は顔を見合わせて笑い、お互いに強く頷き合った。
上着を着て事務所を出た。
「久能さん、今回はどこを捜しますか?
メロンちゃんは女の子が大好きです。
尾崎の言っていたように、女の子がたくさん集まる場所を捜しますか?」
前回の勝負では、尾崎は女子高でメロンちゃんを見つけたと言っていた。
無類の女好きのメロンちゃんが、たくさん女の子が集まる女子高にいたのは当然かもしれない。
今回だって、尾崎は女子高を捜しているかもしれない。
「尾崎が女子高なら、私達は女子大でも捜しましょうか?」
それはいい考えだが、俺は何かが心の中で動いているような感じがした。
由香利君の言う通り、女子大にメロンちゃんが現れる確率は高いかもしれない。
どこを捜すか、それはとても重要な決断だ。
でも、自分の心の中で動く何か。
上手く言葉では説明出来ない。
何かが心の中を、そして頭の中を渦巻いていた。
「久能さん、早く捜しに行きましょうよ。
こうしている間にも、尾崎はきっとメロンちゃんを捜しているはずですよ。
私達には、もう後がないんです。
早く行動しないと。」
由香利君が焦った顔で俺を急かす。
俺はその顔を見た。
まだ俺と探偵を続けたいと言っていた由香利君。
その思いが目に表れていて、強く俺を見据える。
「うん、由香利君の言う通りなんだ。
早く行動しないといけない。」
でも俺は顔をしかめたまま、事務所の前で立ち止まっていた。
何だろう、この感覚。
何かが俺の心に芽生えようとしている。
強い力が流れ込んでくる気がして、俺は目まいにも似た感覚に襲われ、一瞬よろけた。
「大丈夫ですか。」
由香利君が、倒れそうになった俺の体を支える。
心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。
「ごめん、大丈夫だよ。
ちょっと目まいを起こしただけだ。」
俺が言うと、由香利君は俺の体から手を離さずに申し訳なさそうな顔をした。
「久能さん、疲れてるんですね。
ごめんなさい。
勝負に負けてから二日間、私何も連絡を取らずに・・・。」
顔を伏せた由香利君の頭をポンと叩き、俺は明るい口調で言った。
「いいさ、気にするな。
連絡をしなかったのは俺も同じだ。
昨日茂美がまた尾崎との再戦のチャンスを持ち込んでくれなかったら、俺はきっと、ずっと君と連絡を取らずにもう会うこともなかったと思う。
君だって、勝負に負けて辛かったろうにな。
何も気を遣ってやれなくて悪かったな。」
由香利君はぶんぶんと首を横に振り、顔をあげて言った。
「いいんですよ。
勝負に負けたショックは私も久能さんも同じだから。
どっちがどっちに気を遣うとか、そんな必要はないですよ。」
そう言って由香利君は俺の体から手を離し、ニコッと笑って見せた。
「今はもうそんなことを言っている場合じゃありませんよ。
早くメロンちゃんを見つけないと。」
由香利君、君は強い子だな。
俺も由香利君につられて笑い、よろけた体をしっかり立たせようとした時だった。
さっきまで心と頭の中に渦巻いていた何かが、急に俺の眉間に集まってくるように感じた。
これは、俺が超能力を使う時の感覚と同じだ。
でも、いつもと違う。
いつもより、もっと強烈な力が眉間に集まる。
熱い、そして痛い。
俺は頭を押さえ込み、その場に膝をついた。
「久能さん!」
由香利君が俺の前に屈んで、泣きそうな顔を見せていた。
「しっかりして下さい。
どこか体の具合が悪いんですか?
もしあんまり辛いなら、私一人でメロンちゃんを・・・。」
ガンガンと頭の中に大きな音が鳴り響く。
由香利君の声が、すごく遠くから聞こえるような気がする。
「久能さん、しっかりして!」
由香利君が俺の体を揺さぶる。
半分べそをかいている由香利君を見ながら、俺は眉間に集まる熱い力をどうすることも出来なかった。
どうしたんだ、一体?
自分でも、自分の体に何が起きているのか分からない。
超能力を使う時の感覚に似ているが、こんなに強烈な力は眉間に集中したことがなかった。
真っ白になる頭。
心の中で何かが暴れている。
耳鳴りのようなうねりが耳を痛いほど刺激する。
しばらくそのままうずくまっていた。
由香利君が半べそをかきながら俺に何か言っているが、何も聞こえない。
そうやって俺はどのくらいうずくまっていたのだろう。
多分長い時間ではないと思うが、やがて心も頭の中もクリアな状態になり、うねりのような耳鳴りもやんだ。
眉間に集まっていた力が、宙に向かって解放されていったような気がした。
「久能さん、久能さん!」
由香利君の声が聞こえるようになった。
彼女はちょっと涙を流しながら、強く俺の肩を握っていた。
俺はその手にそっと触れると、二コリと笑って立ち上がった。
由香利君が心配そうに俺を見上げる。
「大丈夫だよ、心配するな。」
由香利君の手を取って立たせ、俺は安心させるように微笑んだ。
由香利君は手で涙を拭きながら、相変わらず心配そうに俺を見ている。
心がとてもすっきりしていた。
頭の中がすっかり落ち着いて、とても気分がよかった。
眉間に集まった力が解放される瞬間、一瞬ある光景が目の前に浮かんだ。
頭の二つある、全身毛むくじゃらのヘビの姿が。
そしてそいつがいる場所が。
ほんの一瞬ではあったが、目の前にはっきりと見えたのだ。
これは透視能力だろうか?
自分でもよく分からなったが、きっとその一瞬見えた光景の場所にメロンちゃんがいると確信していた。
「由香利君、駅前に行こう!
以前メロンちゃんを捕まえたあの駅前に。」
由香利君はまだ半べそ状態のまま口を開いた。
「でも、あそこは前に捜して見つからなかったじゃないですか。
捜すなら、やっぱり女の子が集まる女子大の方が・・・。」
由香利君が言い終わる前に、俺は彼女の両肩を掴んで言った。
「いや、メロンちゃんは間違いなく駅前にいる。
きっとそこにいるはずなんだ!
間違いない。」
俺の真剣な目と力強い言葉に、由香利君は黙って俺を見ていた。
そして唇を一回噛むと、「はい」と頷いた。
「久能さんがそこまで言うのなら、私はその言葉を信じます。
二人で駅前に行きましょう。」
由香利君はもう涙を流していない目で、真っすぐ俺を見ていた。
「じゃあ行こう!
この勝負、きっと勝つんだ!」
そう言うと、俺達は駅前に向かって駆けて行った。
晴れた秋空が深い青色をしている。
その空の元を、俺達は勝利を信じて走って行った。
やがて駅前につくと、俺は息を切らしながら腕時計を見た。
午前10時。
駅前にはまばらに人がいた。
「若い女性の姿は少ないみたいですね。」
由香利君は息一つ切らしていない。
さすが空手で鍛えてあるなと思いながら、俺は駅の近くに歩み寄った。
由香利君がその後をついてくる。
由香利君の言う通り、若い女性の姿は少ない。
けど、きっとこのどこかにメロンちゃんはいるはずだと確信していた。
「二手に分かれて捜しますか?」
由香利君が俺の隣に並んで聞いてくる。
「そうだな、じゃあ1時間ほどしたらまたここに集合ということにしようか。」
「はい。
私、久能さんのこと信じてますから。
メロンちゃんはきっとここにいますよ。」
そう言って二手に分かれ、捜索を開始した。
前回と同じようにくまなく捜す。
若い女性も注意を払って見ていた。
そうこうしているうちに1時間。
俺達は元の場所に集まった。
「そっちはどうだった?」
俺は由香利君に尋ねた。
彼女は首を振る。
「見つかりませんでした。
久能さんは?」
俺も首を振った。
「でもきっとこのどこかにいるはずなんだ。」
俺はそう言って駅を見上げた。
「どこかに身を潜めているんですかねえ。」
由香利君も駅を見上げる。
その時、俺の眉間に力が集中してある映像が浮かんだ。
「危ない!」
そう言って由香利君の腕を引っ張った。
由香利君の体のすぐ脇を、頭が二つある、全身毛むくじゃらのヘビがジャンプしていった。
そのヘビはボテっと地面に落ちると、頭を持ちあげてこちらを振り返った。
「由香利ちゃーん!
会いたかったでえー!」
そのヘビはチロチロと舌を出しながら言った。
「見つけた!」
俺と由香利君は同時に叫び、そしてそのヘビを二人で鷲掴みにしていた。
「な、なんやなんや。
いきなり何すんねや!」
俺達の手の中でクネクネと体を動かしている生き物は、まぎれもなくメロンちゃんだった。
「やった!
やりましたよ!
見つけましたよ、久能さん!」
飛び上がって喜ぶ由香利君。
「なんや、由香利ちゃん。
そんなに俺らに会いたかったんかあ。」
二つの頭が同時に喋った。
メロンちゃんは相変わらず、俺達の手の中でクネクネと動いている。
「久能さん!
やった!
勝ちましたよ!
これでまた探偵が続けられますね!」
由香利君が満面の笑みで俺に向かって言う。
「ああ、そうだ。
俺達の勝ちだ。
これからも二人で探偵を続けらるぞ!」
メロンちゃんは二つの頭を忙しなく動かし、俺と由香利君を交互に見つめていた。
俺と由香利君は顔を見合わせて笑い合い、メロンちゃんを握りしめていた。
「痛たた。
あんまり乱暴に扱わんといてえなあ。」
その言葉にまた二人で顔を見合わせて笑い合った。
秋の深い青空が、俺達の勝利を祝福してくれているようだった。

                                 最終話 まだつづく


缶コーヒー

  • 2010.07.30 Friday
  • 09:20
 何故か分かりませんが、今家に大量の缶コーヒーがあります。
小さなダンボールに半分くらい。
一日で6本くらい飲みました。
さすがに飽きますね。
でもタバコを吸う人間にとって、缶コーヒーはありがたい存在なのです。
あれほどタバコに合う飲み物はありません。
今日もまた、たくさん飲むと思います。

すごく楽しみ

  • 2010.07.30 Friday
  • 09:16
 昨日友達と電話で喋ってました。
これからのこと、仕事のこと、色々なことを話しましたね。
そしてその話の中で、私が書いている小説のキャラクターをイラストにしてくれると言ってくれました。
その友達は絵がすごく上手です。
だから、今からめちゃくちゃ楽しみです。
自分の書いた小説のキャラクターがどんな絵になるのか。
想像しただけでワクワクします。

不思議探偵誌 最終話 挑戦、再び!(4)

  • 2010.07.29 Thursday
  • 09:45
 明日になったら看板を降ろそう。
誰もいない事務所に一人座り、窓の外を眺めながらぼんやり考えていた。
尾崎に負けてから二日経っていた。
この二日間、俺は何をするでもなく、ただ事務所に入り浸っていた。
別に感傷や思い出に浸るわけでもなく、名残惜しさがあるわけでもなく、心にぽっかりと空いた穴を抱えたまま、ただ事務所でぼーっと過ごしていた。
由香利君はあれから姿を見せていない。
まだ俺と探偵を続けたいと言って泣いていた彼女。
あのあと、雨が降ってきて、俺達は一旦事務所に入った。
由香利君は何も喋らず、しばらくソファに座って泣いていた。
俺はただ、その光景を見ていた。
言葉を交わすこともなく、時間だけが過ぎていった。
「久能さん。」
唐突に言って由香利君は立ち上がり、涙を拭きながら俺を見た。
「ごめんなさい、力になれなくて。
ごめんなさい・・・。」
窓の外の雨音を聞きながら、彼女が何故俺に謝るのか分からなかった。
謝るのはこっちの方なのに。
尾崎との勝負を受けたのは俺だ。
そして、負けた責任も俺にある。
「君は何も悪くない。
俺の力が及ばなかったんだ。
謝るのはこっちだよ。
ごめんな。」
事務所はしんと静まり返っていて、窓を雨が叩く音だけが響く。
何か抜け殻のようになってしまった自分の心は、体全身から力を奪っていた。
俺は由香利君の傍に歩み寄り、肩を優しく叩いた。
何か言おうとしたが、何も言葉は出てこなかった。
「ごめんなさい・・・。」
由香利君は小さくそう呟くと、自分の荷物を持ち、ゆっくと歩きながら事務所を出て行った。
窓から外に出た由香利君を見た。
雨の中を濡れながら、力無い足取りで去って行く姿を見送ると、俺は自分の椅子に座り、夜になるまでただそうしていた。
この二日間、何度か由香利君に連絡をしようかと思った。
彼女からは何の連絡もなく、今頃どうしているのだろうと思いながら、その声を聞きたくて連絡を取ろうとした。
でも、結局連絡は取らずじまいだった。
電話をかけても、何を話せばいいのか分からない。
俺達は恋人でもない。
友達でもない。
探偵と助手だったのだ。
たったそれだけの関係だった。
だから、探偵をやめることが決まった今、由香利君に何て電話をかければいい?
何故か無性に彼女の声が聞きたい。
でも、電話をかける正当な理由なんてどこにもないのだ。
俺が探偵じゃなくなった時点で、彼女も俺の助手ではなくなった。
もう繋がりはない。
探偵をやめれば、俺には何も無くなる。
でも由香利君には大学があり、空手がある。
探偵の助手じゃなくなっても、自分の生活がある。
お金が欲しくなったら、また別のアルバイトを探せばいい。
今や探偵という唯一のものを失った俺は、由香利君ともう会うことはないのだろう。
そして、生き甲斐だった探偵は、もう出来ない。
次の自分の人生を探す為、いつまでも立ち止まってはいられない。
明日この事務所の看板を降ろしたら、全て忘れよう。
もし全て忘れるのが無理でも、探偵であった思い出に浸って生きるのはやめよう。
俺に残されたのは小さな力。
とても下らない超能力。
この力を使って、もう何かをすることもない。
何かをしようとも思わない。
もう、普通に暮らそう。
俺はコーヒーを淹れ、自分の椅子に座って、その日もただ時間が過ぎるの待った。
やがて夜がきて、俺は事務所の電気を消してドアに鍵をかけた。
「久能司探偵事務所」
その看板を一目見上げると、事務所を振りかえることなく家に帰った。
夜の秋の風は、とても冷たく感じられた。

                      *

翌日、俺は事務所に来ると、受話器を取り上げて看板業者に電話をしようとしていた。
あの看板を外してもらうのだ。
そして今日中に荷物を整理して、綺麗さっぱり、何もなくしてこの事務所と別れを告げるのだ。
コーヒーを一口飲み、電話のプッシュボタンを押す。
その指がわずかに躊躇っていることに自分で気付き、何だか可笑しくなって笑ってしまった。
もう未練など残してはいけないのに。
昨日、全て忘れようと決めたのに。
俺はプッシュボタンを押す指に力を込めた。
もう全て終わりにするんだ。
俺は探偵じゃない。
普通の暮らしに戻るんだ。
そう覚悟を決めて最後のプッシュボタンを押そうとした時、ドアから誰か入ってきた。
茂美だった。
相変わらずの色っぽいスーツ姿で、目にわずかに笑みをたたえながら事務所の中央まで歩いて来る。
俺は一旦受話器を置き、茂美を見た。
茂美は俺の視線を受けると不敵に笑い、さらに近づいてくる。
俺の前で机に片手を付き、笑顔を保ったまま口を開いた。
「久能さん、また会いに来ることになるなんて思わなかったわ。」
顔は笑っているが、声は真剣だった。
「何か用か?
俺はもう探偵じゃない。
俺に用事なんてないはずだろ。」
茂美は腰を机の上に乗せ、窓の外に目をやって答えた。
「ねえ、久能さん。
このまま探偵を終わらしたら、あなたどうするつもり?」
俺は椅子の背もたれに体を預け、茂美を見上げながら答えた。
「どうもしないさ。
また就職活動でもして、新しい仕事を見つける。
まあこの不況だから、すぐには採用は決まらないだろうけど。」
そう言って自嘲気味に笑って見せると、茂美は顔から笑顔を消して言った。
「似合わないわ。」
「何?」
俺は呟くように聞き返した。
「久能さんが、普通に働くなんて似合わない。
そう言ったのよ。」
俺と茂美の間に、しばらく沈黙が訪れる。
似合わないか。
俺が普通に働くことが。
その言葉をどう受け止めていいのか分からないが、俺は茂美を見て「ふふ」と笑った。
「そうかもな。
俺はサラリーマンが嫌で、この仕事を始めたんだ。
宝くじを当てて、自分を変えるチャンスを得た。
俺はもっと刺激のある生活が欲しい。
そう思って探偵を始めた。
だから、また普通の暮らしに戻るのは、まあ、寂しくはあるな。
けど仕方ないさ。
もう、俺は探偵じゃないんだ。」
自分の心の中にあることを吐き出すと、茂美はゆっくりとその言葉を吟味するように聞いていた。
「褒め言葉よ。」
不意に茂美が言った。
俺は一瞬何を言っているのか分からず、真顔で茂美を見返した。
「あなたが普通に働くのなんて似合わない。
それって、裏を返せば今までの仕事が似合ってたってことよ。
あなたは探偵が似合ってる。」
茂美はそう言うと、机から腰を下ろして真っすぐに俺を見据えた。
「久能さん、人生にはそう何度も大きなチャンスは巡ってこないわよ。」
俺は黙って茂美の視線を受け止めた。
茂美の言葉が、何か形をもって俺の耳に入ってくるように感じる。
「あなたはさっき、宝くじを当てて自分の人生を変えるチャンスを得たと言っていた。
そして探偵を始めた。」
俺はコーヒーカップに視線を移し、茂美の言葉に力がこもっているのを感じた。
「でも、そうして始めた探偵も、もうやめなくちゃいけない。
人生の中で手に入れた一度目の大きなチャンスが、ふいになちゃったわけね。
でも、もしまたチャンスが巡ってきたとしたら?
人生でそうはない大きなチャンス。
その二度目が、今あなたに巡ってきたとしたら、あなたはそれに背を向けるのかしら?」
茂美の言葉が理解出来ず、俺はコーヒーカップを睨んだまま尋ねた。
「言っている意味が分からないな。
二度目の大きなチャンス?
そんなものがどこにある?」
茂美はまた笑顔を作り、腕を組んで俺の傍に寄って来た。
「決まってるわ。
探偵を続けるチャンスよ。」
俺は茂美の顔を見上げた。
彼女はまるで、俺を試すような目で見ている。
事務所の静けさが、逆に俺の心を騒ぎ立てていた。
「今日の朝ね、またメロンちゃんが脱走しちゃったのよ。
まったく、困ったペットだわ。」
茂美は俺を通り過ぎて窓の外を眺めている。
俺は椅子に座ったまま動けず、茂美を振りかえることが出来なかった。
「まあ、あんなペットでも私にとって可愛い存在なのよね。
だから、また捜して欲しいのよ。」
茂美は俺の前まで回って来ると、顔を近づけて言った。
「勝負はまだ終わっていない。
尾崎にはもうメロンちゃんが脱走したことを伝えたわ。
彼はきっともう動いているはず。
あなた、こんな所で座ったままでいいの?」
そう言って茂美はドアの方へゆっくりと歩いて行く。
「まだ、勝負は終わっていない?」
そう呟いた俺に振り返り、茂美はドアを開けてその際にもたれかかった。
「うふふ、再び巡ってきた大きなチャンスを、活かすも殺すもあなたしだい。
これを逃せば、あなたはもう本当に探偵じゃなくなるわ。」
また、俺にチャンスが巡ってきた。
今度は探偵を続けるチャンスが。
だが、そう都合よく人生に大きなチャンスが巡ってくるものだろうか?
そう思った途端、俺はハッとして茂美に尋ねた。
「お前、まさかわざとメロンちゃんを・・・。」
その言葉に茂美は答えず、ただ笑顔を寄こしただけだった。
気が付くと、俺は椅子から立ち上がっていた。
抜け殻になっていた心に、何かが戻ってくるのを感じていた。
茂美は俺に背を向け、顔をだけを振り向かせて言った。
「久能さん、今度は期待してるわよ。」
バタンとドアは閉まり、茂美が去って行く足音だけが聞こえる。
茂美は、再び巡ってきたチャンスに背を向けるのかと俺に尋ねた。
とんでもない!
誰が背を向けるものか。
俺は茂美に心の底から感謝をしつつ、すぐにケータイを手に取った。
電話をかける。
もちろん相手は決まっている。
数回のコールのあと、小さな声で「もしもし」と返事があった。
俺は興奮していた。
何をどう説明しようか頭の中で整理がつかず、でもとにかくまだ全てが終わったわけじゃないんだということだけは伝えなければならない。
ケータイを強く握りしめ、俺は力強く言った。
「由香利君、まだ終わっていない。
俺達は、まだ探偵なんだ。」
電話の向こうから返事はない。
俺は構わず続けた。
「まだ依頼は終わっていないんだよ。
勝負はまだ決してない。
これから解決しなけりゃならないんだ。」
由香利君が何か言ったように聞こえたが、声が小さくて聞き取れなかった。
「君は俺の助手だろ。
だったら、すぐに事務所に来てくれ。
また二人で、依頼を解決するんだ!
この勝負に、絶対勝つんだ!」
由香利君が俺の言葉に答えた。
今度ははっきり聞こえた。
「行きます!
すぐ行きます!
だって私は久能さんさんの助手だから!
依頼を解決するのは、いつだって二人だから!
もう、絶対に負けません。
勝って、探偵を続けましょう!」
俺は笑顔になってケータイを握っていた。
そうだ、今度は負けない。
自分に負けちゃいけない。
巡ってきたチャンスを手にするには、自分に勝たないといけないんだ!
俺は全身に力が漲るのを感じていた。
電話の向こうの由香利君の声も、俺に力を与えてくれた。
待ってろよ、尾崎。
今度はこっちが勝つ番だ。
心の底から湧き上がる力が、俺を満たしていた。

                                最終話 さらにつづく

山に登りたい

  • 2010.07.29 Thursday
  • 09:41
 なんか、無性に登山がしたい気分です。
今までに、何度か高い山に登りました。
すごくしんどいんだけど、頂上まで辿り着くと、とても晴れやかな気分になれます。
景色も空気も綺麗だし、何とも言えない達成感があります。
でも家の近くにはそんなに高い山はないんですよね。
だからどこか遠くに行かなきゃいけません。
日本人なら一度、富士山に登ってみたいです。
頂上まで登ったら、きっとすごく気持ちがいいでしょうね。

コスプレ

  • 2010.07.29 Thursday
  • 09:38
 アニメやゲームのキャラクターに扮して楽しむコスプレ。
そういう人達が集まるイベントもありますね。
実を言うと、私も一度コスプレをしてみたいんです。
今までにやったことはありません。
でお一度やってみたい。
どんな気分になるのか興味があります。
結構楽しいかもしれませんね。

不思議探偵誌 最終話 挑戦、再び!(3)

  • 2010.07.28 Wednesday
  • 09:20
 終わった。全て終わった。
俺の事務所にメロンちゃんを連れて、茂美と尾崎がやって来た時にそう思った。
尾崎は俺より先に、メロンちゃんを見つけたのだ。
尾崎と茂美はソファに座り、透明なカゴに入れたメロンちゃんをテーブルの上に置いた。
俺と由香利君は、茫然としたままメロンちゃんを見ていた。
「ふふふ、今回の勝負は私の勝ちですね。
やはり真の超能力探偵は私の方だったということです。」
尾崎が勝ち誇ったような笑みを浮かべ、俺を見下していた。
「久能さん、残念だったわね。
私はどっちかと言えば久能さんの方を応援していたんだけど、でもこうやって結果が出ちゃったからね。
尾崎さんの言う通り、あなたの負けよ。」
茂美の言葉は深く俺の心に突き刺さり、言葉は出てこなかった。
昨日、俺と由香利君は一生懸命になってメロンちゃんを捜した。
尾崎に負けたらどうしようという不安な思いが心の大半を占め、しかし由香利君が励ましてくれたおかげでやっとやる気が出てきた時に、茂美から尾崎が先にメロンちゃんを見つけたという電話を受けた。
あの後、そのことを知った由香利君はとても悔しそうな顔をしていたっけ。
唇を噛み、目を細めながら肩を震わせていた。
由香利君は何も言わなかった。
俺も何も言えなかった。
絶対に負けるものかと思っていたのに、二人でまだ探偵を続けたいと思っていたのに。
負けたら事務所の看板を降ろさなくてはいけない。
そのことだけが俺の頭を支配し、昨日は駅で由香利君と別れたあと、どうやって家まで帰ったのか覚えていなかった。
家に帰っても眠れず、気が付けば朝になっていた。
とりあえずコーヒーでも飲もうと布団から出た時に茂美からケータイが鳴った。
「今日メロンちゃんを連れて、尾崎さんと一緒にあなたの事務所に行くわ。
久能さん、負けちゃって可哀想だとは思うけど、これも勝負の結果だから仕方ないわよね。」
茂美からの電話に言葉は返さず、俺はケータイを切った。
食欲はなく、朝は何も食べないで事務所までやって来た。
あとからやって来た由香利君は、「おはようございます」と言ったきり、何も言わなかった。
そして事務所で待つこと一時間、こうして尾崎と茂美がやって来た。
メロンちゃんはカゴの中で忙しなく動き回り、事務所の中をキョロキョロと見渡していた。
「久能さん、約束は覚えていますよね。
負けた方が事務所の看板を降ろす。」
「言われなくても、分かっている。」
何とか声を絞り出し、尾崎に向かって言った。
「まあ、これからあなたは探偵じゃなくなるわけです。
さっさと次の仕事を探さないとね。」
尾崎は皮肉たっぷりに言い放った。
そうだ。
俺は探偵じゃなくなるんだ。
次に何をすればいいかなんて、まだ考えられなかった。
「何処でです?」
唐突に由香利君が口を開いた。
全員が由香利君を見る。
「何処でメロンちゃんを見つけたんですか?」
低い声で由香利君は言った。
まるで尋問する刑事のように。
「ふふふ、このメロンちゃんが無類の女好きだということは、茂美さんから聞いていましたからね。
しかも若い女性を好む。
だったら、若い女性が集まる場所を捜せばいい。
私は5キロ先まで見通せる透視能力を持っています。
それを駆使しながら、女子高を捜して回っていたのですよ。」
女子高か。
俺は素直に尾崎の目の付け所がいいと思った。
俺達は以前に駅前でメロンちゃんを見つけたので、駅を重点的に捜していた。
しかし、逆にそれが裏目に出たようである。
尾崎の考えることはもっともだ。
メロンちゃんは若い女性を好む。
だったら、若い女性が多く集まる場所を捜せばいい。
そのことが思い浮かばなかった自分が、悔しくなった。
「三つめの女子高を回った時です。
透視能力を使って、学校全体を見渡していました。
ちょうど下校時間でしたね。
私は校門のすぐ近くにいたんです。
すると、私の透視能力にメロンちゃんの姿が浮かびましてね。
学校の裏門でした。
テニスの部活をしている女子生徒を、じっと見つめているのを発見したんです。
持っていたカゴにすぐに捕獲したというわけです。」
由香利君は俯き、それ以降は何も喋らなくなった。
やはり尾崎の超能力はすごい。
もし俺が女子高を捜しても、学校全体を見渡す力などない。
勝負は超能力だけで決するわけではないと思っていたが、尾崎は俺には無い着眼点と、その強力な超能力を使ってメロンちゃんを捕獲したわけだ。
俺は項垂れ、自分の力の無さを痛感していた。
「由香利ちゃん、久しぶりやなー。
相変わらずべっぴんさんや。」
カゴの中のメロンちゃんが、体をクネクネ動かしながら、嬉しそうに由香利君を見る。
「やっぱり若い女の子はええなあ。」
右頭のメロンちゃん一号が言う。
「茂美さんみたいな色っぽい美人も好きやけど、由香利ちゃんみたいなのもタイプやでえ。」
左頭のメロンちゃん二号が愛想を振りまく。
由香利君はメロンちゃんの言葉を聞いているのかいないのか、視線を自分の足元に定めたまま動かない。
「なあ由香利ちゃん、今度俺らとデートしようや。
景色のええ場所知ってんねや、な。」
メロンちゃん一号が舌をチロチロ出しながら由香利君の気を引こうとする。
「そやそや。
それがええ。
今度俺らとデートしよ。
俺ら由香利ちゃんのこと大好きやねん。
景色のええとこを一緒に歩いて、ロマンティックな気分に浸ろうや。」
メロンちゃん二号がしつこく由香利君を誘う。
俺は黙ってメロンちゃんを見ていた。
メロンちゃんの二つの頭の目は、由香利君に釘付けで、「なあなあ、デートしよ」とまだ体をクネクネ動かしながら誘っている。
尾崎も茂美も言葉を発さず、ただメロンちゃんを見ていた。
「なあ、由香利ちゃん、俺らとデート・・・。」
そう言いかけた時、由香利君が勢いよくソファから立ち上がった。
泣きそうな顔でメロンちゃんを見下ろし、両手は拳を握って、体はわずかに震えていた。
「私は、あんた達のことなんか大嫌いよ!」
由香利君は大声で言うと、そのまま走るように事務所を出て行った。
「ああ、由香利ちゃん、カムバックー!」
メロンちゃんの悲しげな声が空しく事務所内に響き渡った。
「メロンちゃん、私より由香利ちゃんの方がいいの?」
茂美がメロンちゃんに声をかける。
「いやいや、茂美さんも大好きやでえ。」
メロンちゃん一号が答える。
「その色っぽい体と雰囲気、たまらんわあ。」
メロンちゃん二号が茂美に向かって言う。
「ふふふ、やっぱりメロンちゃんは女好きなのねえ。
まあ、そこが可愛い所でもあるんだけど。」
そう言うと茂美は立ち上がり、メロンちゃんの入ったカゴを手に取った。
「久能さん、あなたが探偵をやめなきゃいけないのは残念だわ。
でも、勝負は勝負。
結果には従わないとね。」
そう言ってドアまで歩き、出て行く間際に、俺に向かって言った。
「もう会うことは無いかもしれないけど、元気でね。」
茂美はドアを閉め、そのまま去って行った。
「久能さん。」
尾崎が俺に呼びかけ、俺は彼の顔を見た。
「茂美さんの言った通り、勝負は勝負です。
近いうちに事務所の看板を降ろして下さい。
あなたには悪いがね。
この世に、超能力探偵は私一人で十分だ。」
そう言うと尾崎も立ち上がり、俺を見下ろした。
「まあ、あなたには超能力探偵を名乗る資格は無かったということですよ。
早く次の仕事を見つけて、これからは普通に暮らして下さい。」
そう言い残し、尾崎も去って行った。
事務所には俺一人。
窓の外は曇っていて、まるで俺の心を映しているようだった。
俺は立ち上がってコーヒーを入れ、自分の椅子に座る。
窓を開け、タバコに火を点けて、大きく煙を吐き出した。
外を流れる風が、タバコの煙を運び去っていく。
コーヒーを口に含んだが、まるで味を感じることはなく、タバコも吸いつくして灰皿に押し付けた。
机の中には由香利君に隠して買ったエロ雑誌が入っている。
手に取ってパラパラとページをめくるが、まるで内容は頭に入ってこなかった。
俺は、もう探偵じゃなくなるのか。
もう依頼を持ちこまれることもない。
茂美から変なことを頼まれることもない。
そして、由香利君と一緒に街を歩くこともなくなるのだろう。
窓に近づき、曇った空を見上げていると、今までのことが思い出された。
思えば、妙な依頼ばかりだった。
とても探偵の仕事とは思えないものもあった。
でも、今になって思えば、どれも楽しかった気がする。
脱サラをして始めた探偵業は、俺の生き甲斐だった。
サラリーマン時代は何も刺激がなく、生きている実感というものがまるでなかった。
宝くじを当てた時、これで俺は変われると思った。
超能力を活かし、探偵という仕事を始めてからは生きているという感じがした。
やがて由香利君を雇い、彼女と行動を共にするようになって、さらに人生の充実度は増していった。
由香利君はいつだって俺の隣にいて、俺の行動にあれこれ口を出し、時には励ましてくれた。
探偵も由香利君も、俺にとって大切なものだ。
そのどちらも、もう失われようとしている。
俺は窓を閉め、事務所の表に出た。
「久能司探偵事務所」
そう書かれた看板を眺めた。
初めてこの看板を掲げた日、俺はワクワクしていた。
これからどんな依頼が舞い込んでくるんだろう。
きっと刺激のある素晴らしい人生を送れるに違いない。
そう胸を膨らませていた。
その時は、この看板を降ろす日がやってくるなんて思いもしなかった。
感慨深く事務所の看板を眺めていると、由香利君がとぼとぼとした足取りで帰って来た。
「やあ、何処に行ってたんだい?」
俺の問いには答えず、彼女は俺と同じように事務所の看板を見つめた。
俺はじっと由香利君の横顔を見た。
涙が目にいっぱいに溜まっていた。
やがて由香利君は俯き、唇を噛んで、小さな嗚咽を漏らした。
由香利君の涙が、一つ二つと地面に落ちていく。
何故由香利君は泣いているんだろう。
尾崎に負けたことが悔しいから?
それとも探偵事務所を閉めたくないから?
由香利君は、まだ俺と探偵を続けたいと言っていた。
しかし俺の力及ばず、その願いは叶えられなかった。
ごめん、由香利君。
俺は心の中で詫びた。
俯いて泣く由香利君を見て、俺は言った。
「ま、まあ仕方ないさ。
こういうこともある。
勝負は時の運。
今回は、たまたまついてなかっただけだよ。
な、だから泣くなよ。」
努めて明るい声を出して言った。
「由香利君、あんまり泣いてちゃ可愛い顔が台無しだぞー。」
そう言いながら俺はふざけて由香利君のお尻を撫でた。
しかし、鉄拳も回し蹴りも、かかと落としも飛んでこなかった。
由香利君はただ、泣いてばかりいた。
「ごめんな。
俺がもっとしっかりしていれば、探偵をやめることはなかったかもな。
本当にごめん。」
心に思っていることを、素直に言葉に出した。
曇り空はだんだんと濃くなり、一雨きそうな予感だった。
「わ、私・・・。」
由香利君が、泣きながら小さな声を出した。
俺は黙って由香利君を見ていた。
「私、まだ探偵をやめたくないです。
まだ、久能さんと一緒に、探偵をしていたい!」
そう言って俺の隣で泣いている由香利君に、かける言葉が見つからなかった。
俺は「久能司探偵事務所」と書かれた看板を見つめ上げる。
降り出してきた雨が、俺の頬を濡らした。

                              最終話 またまたつづく


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