竜人戦記 番外編 クロスワールド(2)
- 2012.10.31 Wednesday
- 20:54
木々の間から漏れる光が目の前の波打つ空間を映している。
一晩泊まった村からしばらく歩き、途中でモンスターと遭遇したがウェインが難なく倒してしまった。
今ケイトの目の前には大きな岩があり、長い年月そこにあったことを思わせるようにびっしりと苔が張りついている。
「これがトリスが言っていた異界との境界線、空間のひずみだな。」
ウェインは腰に携えていた剣の先を空間のひずみに当てている。
背中にはケイトよりも大きな剣を背負っているが、モンスターとの戦闘以外でその剣を使用することはほとんどなく、今抜いているのは対人間用の剣だった。
相手を殺さぬように刃は潰してあるが、この剣もかなり大きなもので、ケイトでは持ち上げることも困難である。
いくら刃を潰してあってもあんなに大きな剣で叩かれたら致命傷になるのではないかとケイトは思っているが、彼女の知る限りウェインが人を殺めたことはない。
魔人に取り付かれて悪魔のようになった人間なら別だが。
「不思議な現象ですね。
この先が全く別の世界と繋がっているなんて。」
ケイトは恐る恐る近づいてじっと空間のひずみを眺めた。
水面に石を投げ入れた時のように空間が波打っている。
手を伸ばして触れてみよかと思ったが、ウェインはそれをとめた。
「何が起こるかわからん。
むやみに触れるな。」
ウェインだってさっきまで剣の先を当てていたじゃないかとケイトは口を尖らせたが、確かに何かあっては困るので彼の言うとおり手を引っ込めた。
「さて、トリスから貰ったこいつは効果があるかな?」
ウェインは懐から一枚の紙を取り出した。
「封印の護符ですね。
邪悪なものや災いを退けてくれる魔法具ですが、このひずみに対して効果はあるんでしょうか?」
「一応はトリス特製の物だからな、並の護符よりは強力だろう。
しかし実際に効果があるかどうかは・・・・・、まあ、可能性は低いだろうな。」
ウェインは護符を右手でつまみ、魔力を込めて空間のひずみに押し当てた。
その瞬間眩い光がはじけ、何かが破裂するような音がした。
「きゃあ!」
ケイトは耳をふさいで目を閉じ、顔を逸らした。
反射的にウェインの後ろに隠れた彼女は、恐る恐る顔だけをのぞかせた。
「ど、どうですか・・・?」
ウェインはふんと短く息を吐き捨てると言った。
「駄目だな。何の効果もない。
まあこんな物でどうにかなるならトリスも竜人の里まで来なかったわけだが・・・。
物は試しとこいつを使ってみろと言われたが、予想通りの結果だった。」
「ああ・・・、やっぱり駄目ですか。」
ケイトもあまり期待はしていなかったが、やはり何の効果も無かったとなると少し落胆せざるをえない。
ウェインは燃えカスのようになった護符を放り投げ、しばらく考えるような仕草をしてからおもむろにひずみに手を伸ばした。
「ウェインさん!」
思わず叫んだケイトにかまわず、ウェインは空間のひずみの奥まで手を押し入れた。
彼の腕は肩の辺りまでひずみに入っていっている。
「だ、大丈夫ですか?」
不安そうに問いかけるケイトに対し、ウェインは何も答えずに腕を抜くと、少し後ろまで下がって行った。
「どうしたんです?」
ケイトが問うと「俺の後ろにいろ。」とウェインは短く顎をしゃくった。
何かするつもりだと思ったケイトは、そそくさとウェインの後ろに隠れた。
ウェインは右手を前に突き出し、手の平に気を集中させた。
彼の手の中に光が集まり、やがて鞠つきの玉の大きさくらいになっていた。
ケイトは確実に来るであろう衝撃音に備えて耳をふさぎ、ウェインの背後で身を硬くした。
そしてウェインが「フンッ!」と掛け声をかけるのと同時に、右手の光の玉は空間のひずみを目がけて飛んでいった。
そしてそれがひずみ当たるたいなや、あたりは強烈な閃光に包まれた。
耳をふさいでいても、ケイトには「バシュウ!!」という炸裂音がはっきりと聞こえた。
そして発生した衝撃が起こした風が、二人の髪と衣服を激しく揺らしていた。
ケイトは恐る恐るウェインの背中から顔を出して空間のひずみの方を見た。
もうもうと立ちこめていた煙が風に払われ、その中からさきほど変わらないそれがあらわれた。
まるで何事もなかったかのように、空間のひずみはそこに存在しているままだった。
「なるほど、やはりな。」
そう言いながらウェインは空間のひずみの方に近づいて行く。
「何がなるほどなんですか?」
わけのわからないケイトはウェインに歩み寄って尋ねるが、彼はそれを無視して背中の大剣に手を伸ばした。
「ウェインさん・・・?」
ウェインは大剣を右手に持つと、その切っ先を空間のひずみに押し当てた。
すると大剣は「バチッ!」という音と閃光とともに弾かれた。
「これは・・・・・。」
ケイトが大きく目を見開いて驚いていると、ウェインは大剣を背中に戻しながら一人頷いた。
勝手に一人で納得しているウェインに少しを頬を膨らませながらケイトはもう一度尋ねた。
「だから、どういうことなんですか?
一人で納得していないで私にも教えてください。」
ウェインは若干面倒くさそうな表情をみせながらも質問に答えた。
「この空間のひずみは、大きな力は通さないようだ。」
「?」
ケイトの頭の中に疑問符が浮かんだ。
「どういうことですか?」
「今までの俺の行動を見ていただろう。
最初に俺達がここへ来た時、俺は腰の剣を抜いてその切っ先をこのひずみに押し当てただろう。」
そういえばそんなことをしていたなとケイトは思い出した。
「そしてこの俺の腕も、弾かれることなく中に入っていった。」
「ええ、見ていました。」
そこでケイトはようやくウェインの言おうとしていることがわかってきた。
「でもウェインさんの放った光の玉はこの空間のひずみに弾かれて炸裂したんですね。
もしひずみの中に入っていったなら炸裂するはずがないですから。」
ウェインはその通りだという風に頷く。
「そしてその背中の大剣。
それは竜の牙を素材にして作られた特別な剣です。
今までたくさんの魔物を倒してきたし、あの魔人との戦いでも大活躍しました。」
「そうだ。
この剣は他の剣と違い、大きな力を秘めた剣だ。
だから・・・。」
「このひずみに弾かれた。」
ウェインは満足したように頷き、ケイトをじっと見つめた。
「な、何ですか?」
まさか頬が赤くなったりしていないだろうなと心配になったケイトは、手で顔を包むようにして視線を逸らせた。
「あんたも以前に比べたら大分物分りがよくなった。
無駄な労力が省けて助かる。
以前はそれでもシスターかと疑うほどだったが。」
「な・・・・・ッ!!」
ウェインの無神経な言葉に、一瞬でもドキドキと胸が高鳴った自分に腹の立つケイトであったが、もう自分がウェインに惹かれていることは自分でも認めている。
しかし、当分はそれを表に出す予定はないが。
ウェインはそんなケイトをよそに、気を高めていき、精神を昂ぶらせた。
すると彼の体の回りをだんだんと黄金の光が包んでいった。
やがてそれはウェインの体を纏うように収縮していった。
「ウェインさん!?」
ケイトは思わず叫んだ。
それはウェインが人の姿として戦う場合に本気になった証だった。
本当はもう一段階この先があるのだが・・・。
彼は先ほどと同じように空間のひずみに手を伸ばした。
すると光の玉や大剣の時と同じようにウェインの腕は弾かれた。
「この状態では力が大きすぎるということか。」
ウェインは身を纏う黄金の光を消し、くるりと踵を返すと来た道を足早に戻り始めた。
「帰るぞ。
すぐにこのことをトリスに報告する。」
ケイトは小走りで彼を追いながら尋ねた。
「あれはこのまま放っておいてもいいんですか?」
「今の時点ではどうしようもない。」
ウェインは面白くなさそうに言い放った。
「まあトリスにこのことを報告してこれからの指示を仰ぐしかないわけだが、一ついいことがわかった。」
「いいこと?」
ウェインは少しだけ笑うような表情を見せた。
ああ、また笑顔が見れた。
ケイトはそう思って嬉しくなった。
魔人討伐の時のウェインはいつもどこか張り詰めた表情をしていた。
しかしその役目を終えてから、彼はごく稀にではあるが優しい顔を見せることがある。
自分の背負う大きな宿命から開放されての安堵感からくるものであるのだろうとケイトは思っている。
しかし、もしかしたら自分に対して少しずつではあるが心を開いてくれているのか?
いや、そうであったら嬉しいのだが彼女にはそこまでは彼の意思は計りかねていた。
いつかこの笑顔が自分のことを思って向けられる日が来るのだろうか?
そういう日がいつか来てほしいと思うケイトであったが、そんなことはおくびにも口にせず、表情にも出さなかった。
ウェインは立ち止まって空間のひずみを振り返ると、まっずぐそれを見据えて言った。
「少なくとも、あれを通って俺が手に負えないような者がこちらの世界には来ていないということだ。」
「え?・・・・・・・・・、ああ!そっか!!」
光の玉も、大剣も、そして黄金の光を纏った状態のウェインもあの空間のひずみは通さなかった。
なら、それ以上の力を持つ者がこちらへ来れる可能性はないということだ。
しかし、安堵するケイトにウェインは厳しく言い放った。
「これはあくまで現時点での話だ。
これから先あの空間のひずみが変化をみせれば・・・・・、どうらるかはわからん。」
確かにその通りだ。
あれがあのまま今の状態を維持する保証などどこにもないのだ。
ケイトは安堵の気持ちを払い、ウェインに言った。
「早くトリスさんのもとへ戻りましょう。」
顔を見合わせて歩き出した二人であったが、背後に不穏な気配を感じて振り返った。
「!!!」
ケイトは驚きのあまり身を硬くして立ちすくんだ。
ウェインは厳しい目で空間のひずみを見つめ、背中の大剣に手をかけた。
二人に視線の先に映るもの。
そこにある空間のひずみから、何かが現れようとしていた。
続く
一晩泊まった村からしばらく歩き、途中でモンスターと遭遇したがウェインが難なく倒してしまった。
今ケイトの目の前には大きな岩があり、長い年月そこにあったことを思わせるようにびっしりと苔が張りついている。
「これがトリスが言っていた異界との境界線、空間のひずみだな。」
ウェインは腰に携えていた剣の先を空間のひずみに当てている。
背中にはケイトよりも大きな剣を背負っているが、モンスターとの戦闘以外でその剣を使用することはほとんどなく、今抜いているのは対人間用の剣だった。
相手を殺さぬように刃は潰してあるが、この剣もかなり大きなもので、ケイトでは持ち上げることも困難である。
いくら刃を潰してあってもあんなに大きな剣で叩かれたら致命傷になるのではないかとケイトは思っているが、彼女の知る限りウェインが人を殺めたことはない。
魔人に取り付かれて悪魔のようになった人間なら別だが。
「不思議な現象ですね。
この先が全く別の世界と繋がっているなんて。」
ケイトは恐る恐る近づいてじっと空間のひずみを眺めた。
水面に石を投げ入れた時のように空間が波打っている。
手を伸ばして触れてみよかと思ったが、ウェインはそれをとめた。
「何が起こるかわからん。
むやみに触れるな。」
ウェインだってさっきまで剣の先を当てていたじゃないかとケイトは口を尖らせたが、確かに何かあっては困るので彼の言うとおり手を引っ込めた。
「さて、トリスから貰ったこいつは効果があるかな?」
ウェインは懐から一枚の紙を取り出した。
「封印の護符ですね。
邪悪なものや災いを退けてくれる魔法具ですが、このひずみに対して効果はあるんでしょうか?」
「一応はトリス特製の物だからな、並の護符よりは強力だろう。
しかし実際に効果があるかどうかは・・・・・、まあ、可能性は低いだろうな。」
ウェインは護符を右手でつまみ、魔力を込めて空間のひずみに押し当てた。
その瞬間眩い光がはじけ、何かが破裂するような音がした。
「きゃあ!」
ケイトは耳をふさいで目を閉じ、顔を逸らした。
反射的にウェインの後ろに隠れた彼女は、恐る恐る顔だけをのぞかせた。
「ど、どうですか・・・?」
ウェインはふんと短く息を吐き捨てると言った。
「駄目だな。何の効果もない。
まあこんな物でどうにかなるならトリスも竜人の里まで来なかったわけだが・・・。
物は試しとこいつを使ってみろと言われたが、予想通りの結果だった。」
「ああ・・・、やっぱり駄目ですか。」
ケイトもあまり期待はしていなかったが、やはり何の効果も無かったとなると少し落胆せざるをえない。
ウェインは燃えカスのようになった護符を放り投げ、しばらく考えるような仕草をしてからおもむろにひずみに手を伸ばした。
「ウェインさん!」
思わず叫んだケイトにかまわず、ウェインは空間のひずみの奥まで手を押し入れた。
彼の腕は肩の辺りまでひずみに入っていっている。
「だ、大丈夫ですか?」
不安そうに問いかけるケイトに対し、ウェインは何も答えずに腕を抜くと、少し後ろまで下がって行った。
「どうしたんです?」
ケイトが問うと「俺の後ろにいろ。」とウェインは短く顎をしゃくった。
何かするつもりだと思ったケイトは、そそくさとウェインの後ろに隠れた。
ウェインは右手を前に突き出し、手の平に気を集中させた。
彼の手の中に光が集まり、やがて鞠つきの玉の大きさくらいになっていた。
ケイトは確実に来るであろう衝撃音に備えて耳をふさぎ、ウェインの背後で身を硬くした。
そしてウェインが「フンッ!」と掛け声をかけるのと同時に、右手の光の玉は空間のひずみを目がけて飛んでいった。
そしてそれがひずみ当たるたいなや、あたりは強烈な閃光に包まれた。
耳をふさいでいても、ケイトには「バシュウ!!」という炸裂音がはっきりと聞こえた。
そして発生した衝撃が起こした風が、二人の髪と衣服を激しく揺らしていた。
ケイトは恐る恐るウェインの背中から顔を出して空間のひずみの方を見た。
もうもうと立ちこめていた煙が風に払われ、その中からさきほど変わらないそれがあらわれた。
まるで何事もなかったかのように、空間のひずみはそこに存在しているままだった。
「なるほど、やはりな。」
そう言いながらウェインは空間のひずみの方に近づいて行く。
「何がなるほどなんですか?」
わけのわからないケイトはウェインに歩み寄って尋ねるが、彼はそれを無視して背中の大剣に手を伸ばした。
「ウェインさん・・・?」
ウェインは大剣を右手に持つと、その切っ先を空間のひずみに押し当てた。
すると大剣は「バチッ!」という音と閃光とともに弾かれた。
「これは・・・・・。」
ケイトが大きく目を見開いて驚いていると、ウェインは大剣を背中に戻しながら一人頷いた。
勝手に一人で納得しているウェインに少しを頬を膨らませながらケイトはもう一度尋ねた。
「だから、どういうことなんですか?
一人で納得していないで私にも教えてください。」
ウェインは若干面倒くさそうな表情をみせながらも質問に答えた。
「この空間のひずみは、大きな力は通さないようだ。」
「?」
ケイトの頭の中に疑問符が浮かんだ。
「どういうことですか?」
「今までの俺の行動を見ていただろう。
最初に俺達がここへ来た時、俺は腰の剣を抜いてその切っ先をこのひずみに押し当てただろう。」
そういえばそんなことをしていたなとケイトは思い出した。
「そしてこの俺の腕も、弾かれることなく中に入っていった。」
「ええ、見ていました。」
そこでケイトはようやくウェインの言おうとしていることがわかってきた。
「でもウェインさんの放った光の玉はこの空間のひずみに弾かれて炸裂したんですね。
もしひずみの中に入っていったなら炸裂するはずがないですから。」
ウェインはその通りだという風に頷く。
「そしてその背中の大剣。
それは竜の牙を素材にして作られた特別な剣です。
今までたくさんの魔物を倒してきたし、あの魔人との戦いでも大活躍しました。」
「そうだ。
この剣は他の剣と違い、大きな力を秘めた剣だ。
だから・・・。」
「このひずみに弾かれた。」
ウェインは満足したように頷き、ケイトをじっと見つめた。
「な、何ですか?」
まさか頬が赤くなったりしていないだろうなと心配になったケイトは、手で顔を包むようにして視線を逸らせた。
「あんたも以前に比べたら大分物分りがよくなった。
無駄な労力が省けて助かる。
以前はそれでもシスターかと疑うほどだったが。」
「な・・・・・ッ!!」
ウェインの無神経な言葉に、一瞬でもドキドキと胸が高鳴った自分に腹の立つケイトであったが、もう自分がウェインに惹かれていることは自分でも認めている。
しかし、当分はそれを表に出す予定はないが。
ウェインはそんなケイトをよそに、気を高めていき、精神を昂ぶらせた。
すると彼の体の回りをだんだんと黄金の光が包んでいった。
やがてそれはウェインの体を纏うように収縮していった。
「ウェインさん!?」
ケイトは思わず叫んだ。
それはウェインが人の姿として戦う場合に本気になった証だった。
本当はもう一段階この先があるのだが・・・。
彼は先ほどと同じように空間のひずみに手を伸ばした。
すると光の玉や大剣の時と同じようにウェインの腕は弾かれた。
「この状態では力が大きすぎるということか。」
ウェインは身を纏う黄金の光を消し、くるりと踵を返すと来た道を足早に戻り始めた。
「帰るぞ。
すぐにこのことをトリスに報告する。」
ケイトは小走りで彼を追いながら尋ねた。
「あれはこのまま放っておいてもいいんですか?」
「今の時点ではどうしようもない。」
ウェインは面白くなさそうに言い放った。
「まあトリスにこのことを報告してこれからの指示を仰ぐしかないわけだが、一ついいことがわかった。」
「いいこと?」
ウェインは少しだけ笑うような表情を見せた。
ああ、また笑顔が見れた。
ケイトはそう思って嬉しくなった。
魔人討伐の時のウェインはいつもどこか張り詰めた表情をしていた。
しかしその役目を終えてから、彼はごく稀にではあるが優しい顔を見せることがある。
自分の背負う大きな宿命から開放されての安堵感からくるものであるのだろうとケイトは思っている。
しかし、もしかしたら自分に対して少しずつではあるが心を開いてくれているのか?
いや、そうであったら嬉しいのだが彼女にはそこまでは彼の意思は計りかねていた。
いつかこの笑顔が自分のことを思って向けられる日が来るのだろうか?
そういう日がいつか来てほしいと思うケイトであったが、そんなことはおくびにも口にせず、表情にも出さなかった。
ウェインは立ち止まって空間のひずみを振り返ると、まっずぐそれを見据えて言った。
「少なくとも、あれを通って俺が手に負えないような者がこちらの世界には来ていないということだ。」
「え?・・・・・・・・・、ああ!そっか!!」
光の玉も、大剣も、そして黄金の光を纏った状態のウェインもあの空間のひずみは通さなかった。
なら、それ以上の力を持つ者がこちらへ来れる可能性はないということだ。
しかし、安堵するケイトにウェインは厳しく言い放った。
「これはあくまで現時点での話だ。
これから先あの空間のひずみが変化をみせれば・・・・・、どうらるかはわからん。」
確かにその通りだ。
あれがあのまま今の状態を維持する保証などどこにもないのだ。
ケイトは安堵の気持ちを払い、ウェインに言った。
「早くトリスさんのもとへ戻りましょう。」
顔を見合わせて歩き出した二人であったが、背後に不穏な気配を感じて振り返った。
「!!!」
ケイトは驚きのあまり身を硬くして立ちすくんだ。
ウェインは厳しい目で空間のひずみを見つめ、背中の大剣に手をかけた。
二人に視線の先に映るもの。
そこにある空間のひずみから、何かが現れようとしていた。
続く
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