特撮史の真なるキング、怪獣王ゴジラ!

  • 2014.07.31 Thursday
  • 20:34
今日はゴジラについて書きたいと思います。
ゴジラとは、それ自体が神話であり、それ自体が歴史であり、それ自体がひとつの世界である。
私は断言します。古今東西、未来永劫、ゴジラを超える特撮作品は現れない。
そしてゴジラを超える怪獣も、ゴジラを超える映画も現れない。
ゴジラという作品が生み出されたことで、SF映画は一つの完成形に到達したのです。
まだ映画が白黒の時代、ゴジラはスクリーンにその姿を現しました。
怪獣映画など馴染みのないこの時代、ゴジラという怪獣は人々の度胆を抜いたでしょう。
鉄塔より大きな黒い塊、電車を軽々と持ち上げ、高圧電線さえオモチャのように引きちぎる。
そんな想像を超えた怪物が、東京の街を襲ったのです。
当然人類に成す術はなく、人も街もただただ蹂躙されるしかありませんでした。
ゴジラの進撃と破壊は止まるところを知りません。
このままでは東京は火の海になり、誰も住めなくなるでしょう。
しかしいったいなぜ、こんな化け物が現れたのか?
それは人間のせいです。
ゴジラというのは、元々は大人しい性格の恐竜だったのです。
まあこの設定に関しては、作品によって違いがあります。
しかし恐竜の生き残りがゴジラになったというのが、多くの作品に共通している設定です。
この恐竜はゴジラザウルスといい、現代に生き残るたった一頭の恐竜でした。
当然親や兄弟はおらず、仲間さえいません。
ゴジラザウルスは、たった一頭で生きていたのです。
この時の彼、もしくは彼女の心境はどんなものだったのでしょうか?
寂しいのか?それとも一人気ままに暮らしていたのか?
いくら想像しても、それはゴジラザウルスにしか分かりません。
しかし一つ確かなことは、この恐竜はとても大人しいということです。
襲いかかってくる敵には牙を剥きますが、自分から喧嘩を吹っ掛けることはありません。
ゴジラザウルスは、与えられた命が終わまで、きっと静かに暮らすつもりだったのでしょう。
しかしそんな淡い願いは、あっさりと打ち砕かれます。
なぜなら、人間が科学という力を手にしてしまったからです。
科学は人間の生活を豊かにしましたが、その他の生き物にとってはそうではありませんでした。
棲みかを奪われ、乱獲により絶滅させられ、科学や医療の発展の為に、実験の対象にされたのです。
そしてゴジラザウルスもまた、そんな人間の暴挙の手から逃れることは出来ませんでした。
ひっそりと静かに暮らしていたゴジラザウルスは、人間のある実験によってその姿を変えてしまいます。
それは核実験です。
大量の放射線を浴びたゴジラザウルスは、その姿を醜く変えてしまいます。
身体は恐竜の限界を超えて大きくなり、皮膚は黒く、頑丈になります。
顔は悪魔のように恐ろしく、口からは鉄をも溶かす熱線を吐きます。
大量の放射線を浴びたその日、ゴジラザウルスは恐竜から怪獣に姿を変えてしまったのです。
こうなると、もうひっそりと暮らすことなど出来ません。
ゴジラは人間のせいで、その姿だけでなく、自分の在り方そのものまで強制的に変えられてしまたのです。
そして何より皮肉なのは、ゴジラが生きていく為には放射線が必要だということです。
ゴジラは、よく劇中で原発を襲います。なぜなら、そこに餌となる核物質があるからです。
放射線のせいで姿を変えられてしまったのに、その放射線がなければ生きていけない身体になってしまたのです。
これはきっと、ゴジラにとっては屈辱以外のなにものでもないと思います。
静かな暮らしを奪ったのが放射線なのに、その放射線がなければ生きていくことすら叶わない。
だから・・・ゴジラは人間を憎んでいます。憎くて憎くて仕方ないのです。
自分の姿を変えられ、その在り方まで変えられ、あまつさえ放射線を必要とする身体になってしまった。
そのすべての原因は、科学を信奉する人間のせいだったのですから。
だからゴジラは、復讐を誓います。化け物になったこの身体を以て、人間にも恐怖と絶望を味あわせてやろうと・・・・。
ゴジラは日本を表標的にし、その強大なパワーで破壊の限りを尽くします。
軍隊を蹴散らし、侵攻を食い止めるための高圧電線を食いちぎります。
このままゴジラが暴れ続けると、東京・・・・ひいては日本が滅んでしまいます。
そして日本を滅ぼしたあとは、別の国を襲うでしょう。
それほどまでに、ゴジラの人間に対する怒りは凄まじいのです。
もちろん人間は抵抗を試みますが、通常の武器では倒せません。
しかし核を使えば、それこそ東京が壊滅するし、何よりゴジラにどんな影響を与えるかわかりません。
下手をすれば、今以上の怪物になることだってあるのです。
もう人類は抗うすべを持たないのか?このまま滅ぼされるだけなのか?
しかしそんな時、一人の天才科学者が名乗りをあげます。
彼は必死に研究を重ね、ゴジラを葬ることのできる兵器を開発しました。
その名は『オキシジェン・デストロイヤー』
どんな兵器もしのぐ、最強の化学兵器です。
ゴジラはとにかく頑丈で、物理的に葬るのは困難です。
ならば化学的にダメージを与えればいいという考えで作られたのが、このオキシジェン・デストロイヤーなのです。
これを開発した芹沢博士は、この兵器を以てゴジラを葬ろうとします。
そしてたった一人で、ゴジラが眠る深い海へと向かったのです・・・・・・。
この先もまだまだ書きたいことはあるのですが、長くなりそうなのでまた次回書きます。

ダナエの神話〜宇宙の海〜 第二十九話 霧の街マクナール(10)

  • 2014.07.31 Thursday
  • 19:45
「こっち見ろっつってんだろダボハゼどもがああああああああああ!」
ダナエたちはピタリと争いをやめ、キツネにつままれたような顔で振り向いた。するとそこには、白いローブを羽織った美しい女の魔道士が立っていた。やや赤味がかった長い髪に、美人とも可愛いともいえる端正な顔立ち。そして抜群ながらもキュートなスタイルをしていて、ワンピース風の水色の魔道服を纏っていた。
その女魔道士は、イライラと舌打ちをしながら、鬼のような形相で睨んでいた。そしてこめかみに血管を浮かび上がらせ、ドスの利いた声でメンチを切った。
「さっきから呼びかけとろうが!ええ加減気づかんかいワレども!」
「ご・・・ごめんなさい・・・。」
さっきまでの剣幕が嘘のように、みんなはピタリと大人しくなった。そして彼女の腕にドリューが抱えられているのに気づいて、慌てて駆け寄った。
「ドリュー!しっかりして!」
ダナエが肩を揺さぶって呼びかけると、ドリューは薄く目を開けた。
「・・・ダナエさん・・・?」
「ああ・・・よかった・・生きてる。」
ホッとして安堵の息をつき、ギュッとドリューの手を握った。
「大丈夫?どこも怪我してない?」
「・・・ええ。ちょっとだけ頭がボーっとしますが、それ以外は大丈夫です。」
ドリューはみんなを安心させるように笑い、また気を失ってしまった。
「ドリュー!」
ダナエが不安そうに呼びかけると、女魔道士は「心配ありません・・・」と答えた。
「この方に目立った傷はありません。今は疲れているだけです。」
「ほんと?よかったあ・・・。」
そう言ってホッと胸を撫で下ろし、女魔道士を見つめた。
「あなたがドリューを助けてくれたの?」
「はい・・・。なんだか危険な状況だったので、思わず助けに入ってしまいました。」
「ありがとう。あなたのおかげで仲間を失わずに済んだわ。」
ダナエは女魔道士の手を取って感謝し、長い金色の髪を揺らして微笑みかけた。
「私はダナエ。月っていう星から来た妖精なの?あなたは・・・見たところ人間みたいだけど・・・この星の人?」
「はい・・・。ずっと昔からこの谷に住んでいる者です。」
「へええ・・・こんな霧の濃い場所にねえ・・。さぞかし大変でしょう?買い物とか、寝る時とか。」
「いえ、どちらも私には必要ありませんから。」
そう言って小さく笑い、ドリューを地面に寝かせた。
「もうしばらくすれば、きっと目を覚ますと思います。それまでは安静にしていて下さい。
それじゃ・・・・。」
女魔道士はさっとローブを翻し、霧の奥へ去ろうとした。しかしダナエにローブを掴まれ、首が締まって「ぐえッ!」と叫んだ。
「待って!仲間を助けてもらったんだから、なにかお礼をさせて。」
「い・・・いえ・・・。別にそのようなことは・・・・。」
「ダメよ、あなたはドリューの恩人なんだから、ちゃんとお礼をさせてほしいの。」
「・・・・まあ、そこまで言うなら・・・・。」
女魔道士はローブを直し、髪を整えてダナエと向き合った。
「・・・なんかアッサリと受け入れたね。ほんとはお礼が欲しかったんだ・・・。」
「しッ!聞こえたら悪いぞ・・・。」
ミヅキとスクナヒコナはコソコソと喋り、女魔道士は決まりが悪そうに咳払いをしていた。
いったいこの女魔道士は何者なのか、誰もが疑問に思いながら口を噤んでいた。さっきのドスの利いた啖呵のせいで、全員がこの人物のキャラクターを測りかねていたからだった。
「ねえスッチー・・・。この大人しい方と、さっきのいかつい喋り方と、どっちが本性だと思う・・・?」
「う〜む・・・難しいな。一見大人しそうにみえて、実は気性が荒い奴というのはかなりいるからな・・・。さっきのいかつい方が本性ではないだろうか?」
「んだんだ。オラもそう思うべ。こういうタイプは、結婚した途端にキャラが変わるんだ。」
「何よ、あんた結婚したことあるの?」
「いや、ただの想像だべ。」
「あの・・・全部聞こえてるんですが・・・・。」
女魔道士に睨まれ、ミヅキたちはビクっとして愛想笑いを浮かべた。それを見たダナエはクスクスと笑い、「ごめんね、悪気はないの」と謝った。
「でもあなたのことは気になるわ。どうしてこんな場所に住んでるのか?それにどうしてドリューを助けることが出来たのか?どっちもとっても不思議だわ。」
そう言ってダナエは後ろを振り向き、まだ死闘を続けている龍神たちを睨んだ。
「見てよあれ。あれはもう戦いというより、ただの災害だわ。近くに寄っただけで巻き込まれて死んじゃいそう。あの中からドリューを助けたんだから、すごいとしか言いようがないわ。」
龍神たちは雄叫びを上げ、地割れを起こしたり、濁流で辺りを押し流したりととんでもない戦いをしていた。誰もが一目見ただけで震え上がるほどの戦いなのに、女魔道士は平然として言い放った。
「たかがトカゲの戦いです。大したことはありません。」
「ふええ〜・・・あれをトカゲって言い切っちゃった。もしかして、あなたってすごく強いの?」
「ええ・・・まあ・・・それなりには・・・。」
そう言ってモジモジと照れる女魔道士だったが、その足はカクカクと震えていた。
「何よ、めっちゃビビってんじゃん。」
ミヅキにツッコミを入れられ、女魔道士は顔を真っ赤にして目を逸らした。
「ミヅキ、そういうこと言わないの。ドリューを助けてくれた恩人なんだから。」
「あ、ああ・・・そうね、ごめん。」
素直に謝るミヅキに対し、女魔道士は「いえ・・・」と手を振った。
「さてと、あなたにお礼をしなきゃいけないんだけど、とりあえずドリューを連れてここから出なきゃ。ええっと・・・あなたの名前はなんていうの?」
ダナエにそう尋ねられると、女魔道士はやや照れながら名前を名乗った。
「・・・クインと言います。」
「クイン・・・?」
「はい。私の名前は・・・クイン・ダガダといいます。」
「へええ・・・なんだか面白い名前ね。」
うんうんと頷きながら笑うダナエだったが、クインの顔を見つめて「あれ・・・?」と首を捻った。
「あなたって・・・・誰かに似てるわ。」
そう言ってジロジロと顔を眺めていると、クインはサッと顔を逸らした。
「誰だろう・・・?けっこう最近会ったような気がするんだけど・・・・。」
腕を組んで考えていると、突然スクナヒコナが「ぬあああ!」と叫んだ。
「どうしたのスッチー?オシッコ?」
「違わい!お主、さっきからわざと言っとるだろう!」
「あ!バレた?」
ダナエが可笑しそうに笑っていると、スクナヒコナの矢が飛んできた。しかし咄嗟に手で払い、「へへん!」と笑った。
「もう食らわないよ。パターンは読んでるんだから。」
「違う!そういう意味で撃ったのではない!」
「じゃあどういう意味?」
そう言ってヒョイっとスクナヒコナを摘まみあげると、彼はクインを指差して言った。
「この女が誰に似ているか・・・まだ分からんのか?」
「まだ分からんのかって・・・スッチーは分かったの?」
「当たり前だ!この顔、この佇まい、そしてこの雰囲気・・・どれをとってもあの女にそっくりではないか!」
「あの女って・・・いったい誰のことよ?」
そう言って首をひねると、スクナヒコナは「かあ〜!」と呆れた顔をした。
「ここまで言ってまだ分からぬとは・・・コウ殿の苦労が察せられるというものだ。」
「何よスッチーまで!私を鈍チン扱いする気?」
プリプリと怒るダナエだったが、ミヅキが「ああああああ!」と叫んでバシバシと叩いた。
「ちょっと、痛いよミヅキ。」
「ダ・・・ダナエ・・・。私この人とそっくりな女を知ってる・・・。」
「ミヅキも?」
「ち・・・地球で邪神と戦った時、この顔を見たの・・・。」
「邪神?・・・それってまさか・・・。」
ダナエはゴクリと息を飲み、クインを振り返った。
「そのまさかよ!あの邪神・・・虫みたいな身体から魂だけ抜け出して、この星に逃げてきたの・・・。その時の一瞬だけ・・・ハッキリと顔が見えた・・・。この女の人は、あの邪神の女にそっくりなのよ!」
ミヅキはブルブルと震えてクインを指さし、ダナエの後ろに隠れた。
「ま・・・まさかあ〜・・・・。」
そう言ってジロジロとクインの顔を眺め、ミヅキと同じように「あああああ!」と叫んだ。
「ほ・・・ほんとだ・・・。邪神にそっくりだ・・・・。」
ダナエはワナワナと震え、声にならない声で口を動かした。そして深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、また笑顔に戻って言った。
「確かに似てるけど、それは偶然よ。もし邪神だったら、きっと今頃私たちは襲われてるもの、ねえ?」
そう言ってクインに微笑みかけると、突然背後から熱風が襲いかかった。
「きゃあ!なに!」
「まずい!燭龍が本気を出し始めたのだ!見ろ、頭の花が大きくなって、さっきより強い輝きを放っている!このままここにいたら、偉人の谷とともに消し飛んでしまうぞ!」
「そりゃ大変!とにかく逃げよ!」
ダナエはドリューを抱え上げ、一目散に飛び上がる。ミヅキもスクナヒコナを手に乗せ、クトゥルーの頭に乗っかった。
「クトゥルー!早く逃げて!」
「んだ!」
みんなは慌てて逃げるが、それでも熱風は襲いかかって来る。灼熱の風はどんどん強くなり、やがてミヅキが倒れてしまった。
「あ・・・熱い・・・。」
「ミヅキ!」
ダナエが心配そうに振り返ると、クトゥルーが闇の道を作り出した。
「みんな!この中に逃げるだ!」
「分かった!」
ダナエたちは慌てて闇の中に逃げ込もうとする。しかしその瞬間、燭龍の花がパッと炸裂して、地獄の業火のような閃光が迫ってきた。
「まずい!間に合わねえべ!」
灼熱の光がダナエたちを飲み込もうとする。せめてミヅキとドリューだけでも守ろうとした時、クインがみんなを守るように立ちはだかった。
「早く逃げんかい!」
そう言って手を広げると、その身体はゴキゴキと蠢いて巨大な虫へと変化した。
「こ・・・これは・・・邪神と同じ姿!」
ダナエは呆気に取られて固まった。そして青い顔でワナワナと震え、思わずドリューを落としそうになった。
「・・・・この姿を晒すことんなるとは・・・おどれら許さんで!」
そう叫んで羽を開き、高速で動かして霧を巻き起こした。その霧は灼熱の光を弾き、ダナエたちを間一髪で守った。
「何しとんじゃ!さっさと逃げんかい!」
予想外の出来ごとに放心していたダナエは、ハッと我に返ってコクコクと頷いた。そしてクトゥルーの足で巻き取られ、サッと闇の中へ消えていった。
「よし・・・・そろそろウチも限界じゃけん、ここらで逃げるとしようかの。」
そう言って人間の姿に戻り、素早く闇の中に逃げていった。
するとその次の瞬間、燭龍の放った光が谷全体を飲み込んだ。そして瞬く間に谷を蒸発させ、ボコボコと沸騰する溶岩の海へと変えてしまった。
《九頭龍・・・少しはこたえたか・・・?》
鋭い眼光で辺りを見渡すと、煮えたぎる溶岩の中から九頭龍が現れた。
《むうう・・・咄嗟に地下へ逃げ込んで凌いだか・・・。》
そう言ってまた頭に花を咲かせ、二発目の光を撃つ準備に入った。それを見た九頭龍は、九つの頭を動かしながら猛スピードで突進してきた。
《もう地下は飽きた!俺は空を駆ける龍になる!まずはお前を倒し、その後は黄龍だ!地球に三体も龍神はいらん!》
《ぬかせ!我らは三位一体で地球の自然を司っているのだ。誰かが勝手な真似をすれば、あそこは生命の棲める星では無くなる。それがなぜ分からん!》
《分かりたくもないわ!延々と大地を背中に乗せるだけの仕事など、刺身にタンポポを乗せる仕事と変わらんではないか!》
その言葉を聞いた燭龍は、少しだけ同情した。しかし九頭龍の持つ役割は大きく、その責任も重大だった。いったいどう言えば分かってもらえるかと考えている間に、九頭龍の体当たりが炸裂した。
《ぬうううう・・・・これしきで・・・・。》
二体の超巨体が激突したことで、辺りは特大の地震に見舞われる。大地は割れ、山は崩れ、木々が飲み込まれてクレーターのような大穴が空く。しかしそれでも二体の龍神は戦いを止めない。それどころか、さらに激しさを増してぶつかり合った。
《いかん!このままでは、この星の自然が破壊されてしまう!》
燭龍は慌てていた。これ以上本気で戦えば、この星の自然が破壊され、生態系を崩壊させてしまう。しかしここで手を抜けば、九頭龍に押し切られて負けてしまう。どうしたものかと悩んでいると、ハッといいことを思いついた。
《九頭龍よ、聞けい!》
《なんだ!命乞いなら断るぞ!》
《そうではない!実は・・・・儂はボイラーなのだ。》
《・・・・・・・は?》
唐突な言葉に、九頭龍は一瞬動きを止めた。
《よいか九頭龍。儂はボイラーだ。ボイラーの役目は、ひたすら燃えて熱を生み出すことだ。そして・・・・黄龍はエアコンだ。》
《・・・・・・・ん?》
《エアコンというのは、温度を調節して風を送るのが仕事だ。そして・・・・お前は空気清浄機なのだ!》
《・・・・・・・ぬ?》
《空気清浄機というのは、汚れた空気をろ過して綺麗にするのが仕事だ。それはすなわち、お前が背負う大地の役目と同じだ。大地は死した命を吸収し、再び土に還す。それが大地に潤いを与え、新たな命を育むのだ。それだけではないぞ。雨として降り注いだ水をろ過し、綺麗な水に変えて川へと流す。それは海を満たし、やがては雲に変わって恵みの雨をもたらす。ほれ、どうだ?こう考えると、決してお前の仕事は刺身にタンポポを乗せるだけではあるまい?》
《むむう・・・・・。》
燭龍のきわどい例え方に、九頭龍は言葉を失くして黙り込んだ。言っていることは馬鹿っぽいが、その内容は筋が通っている。九頭龍は困惑し、怒ることも納得することも出来ずに唸っていた。
《よいか、もう一度言うぞ。儂はボイラー、黄龍はエアコン、そしてお前は空気清浄・・・・・・・・ぶふッ!》
《・・・・・ん?どうした?》
《いや・・・なんでもない。わ・・・儂はボイ・・・・・ぶほッ!》
燭龍は自分で言った例えがツボにはまり、思わず吹き出してしまった。するとそれを見た九頭龍は、怪訝な顔で尋ねた。
《どうして笑っている?何がそんなにおかしい?》
《い・・・いや・・・これは決してその・・・・可笑しな笑いでは・・・・ふぼッ!》
《ぬううう・・・・貴様、上手いこと言って俺を丸めこむつもりだったな?》
九頭龍は怒りで身を震わせ、あんな馬鹿みたいな例えで納得しかけた自分に腹を立てた。その怒りはやがて燭龍に向かい、《べええええええええ!》とクラブのママのような雄叫びを上げて襲いかかった。
《もう我慢ならん!ここで貴様を倒し、俺こそが地球で唯一の龍神になってやる!覚悟しろ!》
《ま・・・待て!決してお前を馬鹿にしたわけでは・・・・。》
今さら言い訳しても、九頭龍は止まらなかった。九つの頭が口を開け、燭龍に噛みついてくる。
《このままバラバラにしてくれるわ!》
《むうう・・・・しくじったか。ウケると思ったのだが・・・・・。》
燭龍の最大の誤算、それは自分と九頭龍とでは、笑いのセンスが違うことにあった。こうなってはもう力ずくで止めるしかないと思い、頭の花に力を溜めた。
《この星の自然は、儂が責任を持って元に戻す。しばらくは荒れ果てるだろうが、それもこの星を守るためだ。許せ!》
そう言って頭の花を炸裂させ、再び灼熱の光を放った。偉人の谷はもはや地獄と化し、周りの大地まで溶け始めていた。
しかしそれでも龍神たちは止まらない。マグマの中で、そして荒れ狂う稲妻の中で、超絶の巨体をぶつからせて死闘を演じ続けた。それは確実にこの星に影響を与え、遠く離れた場所にまで被害が及んだ。ダナエの言った通り、これはもう戦いではなく、大きな災害であった。このまま二体の龍神が戦い続ければ、やがてこの星は荒れ果てて死の大地に変わるだろう。しかしこの二体を止められる者は、この星にはいない。
マクナールの海に眠る、あの神樹を除いては・・・・・。

夏につられて

  • 2014.07.30 Wednesday
  • 16:27
夏は不思議ですね。
普段あまり外へ出ない私でも、ふらりと出掛けてしまいます。







ザ・夏という景色ですね。
こういう景色って、どうして胸が切なくなるんでしょう?






水辺は涼しさを感じられるからいいですね。黄色い花が夏に似合っています。






夏の光は強烈です。影は浮き立ち、色は原色を露わにします。




地元の町並み。歴史と風情を感じます。




池の鯉は涼しそうです。




古い建物には味がある。木立に囲まれて、静かに佇んでいました。




幼い頃、網を持って野原を駆け回っていたのを思い出します。
あの頃から景色は変わらないけど、気温は上がりました。
ずっと外にいると、さすがに熱中症になりそうです。景色は美しいのにな・・・。




この道を抜けたら、どこか別の世界へ行ける気がする・・・。
夏は人を童心に還らせます。
この道の向こうまで歩くと、コンクリートの護岸があるだけでした。
夏に見る別世界への入り口とは、どうやら幼い日の心の中だけにあるようです。
この道の先にコンクリートの護岸があったことに、今では落ち込んだりしません。
幼い日に夢想した世界を、心の隅に追いやることが、大人になるということなのかもしれません。
それが寂しいことなのか、喜ぶべきことなのか、今の私には分かりません。
きっと私は、まだ大人に成りきれていないのだろうと実感した日でした。

ダナエの神話〜宇宙の海〜 第二十八話 霧の街マクナール(9)

  • 2014.07.30 Wednesday
  • 15:06
「あれは・・・・山を飲みこんでいるのね。周りの山と同化して、九頭龍と同じくらいに大きくなるつもりなんだわ。」
燭龍のシルエットは次々に山を飲みこみ、やがて九頭龍と同じくらいにまで大きくなった。それを見たミヅキは、恐怖を忘れてその光景に見入っていた。
「私・・・こう見えても特撮とか好きなんだよね。ゴジラとか、ウルトラマンとか。」
「ゴジラ?ウルトラマン?なあにそれ?」
「地球の怪獣やヒーローよ。ダナエと同じで、空想の世界の住人。小さな頃、あんまり友達がいなかったから、特撮の映画とかテレビとか大好きだったの。それが生で見られるなんて・・・ちょっと感激かも。」
ミヅキは嬉しそうに手を組み、じっと二体の龍神を見上げた。するとやがて大きな地響きが鳴って、地震のように大地が揺れ始めた。
「うわわ!」
「ミヅキ!クトゥルーに掴まってて!」
ダナエたちはクトゥルーの頭に避難し、二体の龍神のシルエットを見つめた。
「霧でよく見えないけど、すごい迫力は伝わって来るわ。地球にはあんなに凄い神獣がいるのね・・・・。」
ゴクリと息を飲んで見守っていると、「だああああああああ!」と雄叫びが響いて燭龍が動いた。するとどこからともなく雷雲が現れ、バリバリと雷鳴を響かせて稲妻を落とした。辺りに閃光が走り、空気が震える。その稲妻は九頭龍を直撃し、モウモウと大きな煙を上げていた。
「なんて大きな雷・・・・。まるで隕石が降ってきたみたい・・・・。」
燭龍の放った特大の雷は、大地に大穴をあけるほど強力だった。しかし九頭龍はピンピンしていて、雄叫びを上げて反撃に出た。
「べええええええええええ!」
九頭龍の雄叫びは、ヒステリーを起こしたクラブのママのように、独特で低い声だった。
「なにあの雄叫び・・・・・なんか馬鹿っぽい・・・。」
ミヅキがげんなりして呟くと、次の瞬間には地面が割れて水が噴き出していた。その水は巨大なビルのように燭龍を取り囲み、一瞬にして氷漬けにしてしまった。
「ああ!燭龍が!」
身を乗り出して叫ぶミヅキ。目を見開いて驚くダナエ。そして腕を組んで「むむ!」と唸るスクナヒコナ。最後にクトゥルーが「んだ!」と叫んだ。
一瞬にして氷漬けにされた燭龍に、九頭龍の強烈な頭突きが炸裂する。それは雷に負けないほどの爆音で、またしても大地が揺れた。
まともに攻撃を受けた燭龍は、氷漬けにされたまま倒れて行く。しかしすぐに起き上がり、氷を粉砕して反撃に出た。
「だああああああああ!」
「なんか・・・こっちの雄叫びも馬鹿っぽい・・・・。」
独特な雄叫びの応酬が続き、みんなは少しだけ笑いを堪える。しかしすぐに表情を引き締め、二体の死闘に見入った。
「見て!燭龍の姿が変わっていく!」
ミヅキは興奮気味に燭龍を指差した。
「ほんとだ・・・。なんか・・・真っ赤に燃え上がってる?」
燭龍の巨体は、溶岩のように赤く染まっていく。そしてモクモクと煙を上げ、頭の上にポンと花のようなものが咲いた。
「あら可愛い!」
「そう・・・?なんかマヌケだけど・・・。」
喜ぶダナエに、ミヅキが低い声でツッコミを入れる。しかし燭龍の頭の花は、ムクムクと大きくなって、やがて太陽のように輝き始めた。すると黙って見ていたスクナヒコナが、慌てて叫び声を上げた。
「いかん!早くここから逃げるぞ!」
「どうして?」
「あれは世界に熱を与える、燭龍の光なのだ!こんなところにいたら、我々は一瞬で蒸発してしまうぞ!」
「それは大変!・・・・って、ドリューを放ってはおけないわ!」
ダナエは槍を構えて走り出し、羽を広げて飛び上がった。
「みんなは先に行ってて!私はドリューを助けるから!」
そう言ってドリューを助けに行こうとすると、頭の後ろにスクナヒコナの矢が刺さった。
「痛ッ・・・。何するのよ!」
「ダナエ殿・・・気持ちは分かるが、もう手遅れだ・・・。」
「手遅れ・・・?何が手遅れなのよ!ドリューはちゃんと生きてるわ!」
ダナエは拳を握って反論する。しかしスクナヒコナはゆっくりと首を振った。
「なによ・・・・ドリューが死んだとでも言うつもり?」
怒った目でスクナヒコナを睨みつけると、彼は何も言わずに目を逸らした。そしてミヅキとクトゥルーも、浮かない顔で黙っていた。
「どうしたのよみんな・・・。なんでそんなに暗い顔をしてるの?」
ダナエは槍を下げ、瞳を揺らしながらみんなを見つめた。するとミヅキが言いづらそうに口を開いた。
「ダナエ・・・気持ちは分かるけど、さっきの龍神たちの戦いを見たでしょ?あの絵描きさんは、その龍神たちの足元にいたんだよ?だったら・・・もう・・・・。」
「ミヅキ・・・・やめてよ、そんなこと言わないで・・・・。」
悲しそうに呟くと、クトゥルーも重い口を開いた。
「・・・仕方ねえべ。あんな化け物同士の戦いに巻きこまれたら、生きてる方が不思議だ。
だったら・・・このままマクナールって街を目指した方がいいべ。」
「なによクトゥルーまで・・・・不吉なことばっかり言わないでよ!」
ダナエはカッと熱くなり、泣きそうになるのを堪えて唇を噛んだ。
「ドリューは生きてるわ!前だって死にかけたけど、ちゃんと助かった。だから今回だって、絶対に生きてるに決まってる!」
そう言って背中を向け、二体の龍神の方に飛んで行こうとした。
「クトゥルー!ダナエを行かせないで!」
ミヅキが叫ぶと、クトゥルーは長い足を伸ばしてダナエを巻きつけた。
「ちょっと!離してよ!」
「オラじゃねえ。ミヅキがやれって言ったんだ。」
「あなたミヅキと絶交してるんでしょ!だったら言うこと聞かなくていいじゃない!」
「簡単に絶交するなって言ったのはオメさんだべ?」
「そ、そんなの・・・・今は関係ないでしょ!いいから離して!」
ダナエは銀の槍をクトゥルーの足に突き立てた。
「いでででで!刺すでねえ!」
「離してくれるまで止めない!」
ダナエはブスブスと槍を刺し、最後にはガブリと噛みついた。
「こ・・・コラ!傷口に噛みつくでねえ!」
「ははふはではへはい!」
ダナエは意地でもドリューを助けに行こうとする。しかもあの龍神たちの戦いに巻き込まれたら、決して無事ではすまない。だからミヅキたちは、何としてもダナエを止めようとしていた。
「ダナエ!ちょっとは落ち着いて!あんなデッカイ怪獣が戦ってるところに行ったら、あなたまで死んじゃうわよ!」
「ほへでもいい!」
「ダナエ殿!いい加減諦められよ!仲間を想うことは素晴らしいが、あまりに意地を張るとみんなが不幸になるのだぞ!」
「ほへでも、ほひゅーをひふてはへはい!」
「何言ってるか分かんねえべ・・・・。」
ダナエは意地でもドリューを助けに行こうとする。そしてミヅキたちは意地でもダナエを止めようとする。うるさくギャアギャアと喚き合っていると、後ろから「あの・・・」と声が掛かった。
「行っちゃダメよダナエ!」
「へっはいひふもん!」
「ならん!ここは一旦退くのだ!そして後ほどコウ殿たちと合流して、また助けに来るしかない!」
「ほんはひはっへはへはい!」
「だから・・・何言ってるか全然分からねえべ。いい加減噛みつくのを止めてけろ。」
みんなはギャアギャアと言い争い、後ろから声を掛けてくる人物に気づかない。
「あ・・・あの・・・お取り込み中申し訳ありません・・・。」
その人物はオロオロとしながら、遠慮がちに声を掛けてくる。そしてその腕には、グッタリとしたドリューが抱えられていた。
「あなた達がお探しの人って・・・この方じゃないでしょうか・・・・?」
そう声を掛けるも、誰も聞いていなかった。
「行っちゃダメだって!死んじゃうよ!」
「ひなない!わはひはひんだりひない!」
「何を言っておるのだ!あの戦いを見よ!あんな戦いに巻き込まれて、いったいどうやって生きて帰って来るというのか?」
「ひるか!ひあいでいひのひてやる!」
「なんだかちょっと面白くなってきたな。オラ・・・笑ってもいいべか?」
ダナエたち言い争いをやめず、全く後ろの人物に気づかない。
「あ・・・あの・・・ちょっといいですか?あなた方がお探しの・・・・、」
「行っちゃダメ!」
「うっさい!」
「いかんと言っておろうが!」
「知るか!」
「やっぱ面白れえべ。・・・・ぶふッ!」
「あ、あの・・・・・ちょっと聞いて頂けますか・・・?」
また呼びかけるが、それでも誰も振り向かない。その人物はいい加減に業を煮やして、大声で叫んだ。
「こっち見ろっつってんだろダボハゼどもがああああああああああ!」
ダナエたちはピタリと争いをやめ、キツネにつままれたような顔で振り向いた。するとそこには、白いローブを羽織った美しい女の魔道士が立っていた。

孤独の中で戦う戦士、仮面ライダーブラックRX

  • 2014.07.29 Tuesday
  • 15:32
私の中に、ウルトラマンティガに並ぶもう一人のヒーローがいます。
その名は仮面ライダーブラックRX!
真っ赤に染まる大きな目に、艶やかな黒いボディ。
そしてリボルゲインという剣で、敵の怪人にトドメを刺します。
このライダーはちょっと特殊で、三つのタイプにフォームチェンジすることが出来ます。
通常のライダー、ロボライダー、そしてバイオライダーです。
この能力のおかげで、どんな敵とも戦うことが出来るし、どんな状況にも対応することが出来ます。
ロボライダーは頑丈な装甲に圧倒的なパワー。そして射撃を得意としています。
バイオライダーは動きが早く、水に変身してどんな場所からでも抜け出すことが出来ます。
こういう能力を備えているがゆえに、とてつもなく強いライダーです。
仮面ライダーブラックRXは、元々は別のライダーでした。それは仮面ライダーブラックというライダーで、ライバルのシャドームーンに敗北してしまったのです。
しかしポセイドンという海の神様に一命を助けられ、新たなライダーとして生まれ変わりました。
仮面ライダーブラックRXに変身する南光太郎は、普段はとても大人しくて優しい青年です。
とても戦いに向きそうな性格には思えません。
しかし彼はライダーになってしまいました。それは逃れることが出来ない戦いの始まりであり、悪の軍団であるゴルゴムを倒さねばならなくなったのです。
それに加えて、大きな悲劇がもう一つ。親友だった男が、シャドームーンという敵のライダーに変わってしまったのです。
南光太郎は、かつての親友と戦い、そして負けました。しかし仮面ライダーブラックRXとして復活し、再び戦うことになったのです。南光太郎は二度目の戦いで勝利しました。しかしそこに喜びはなく、親友を失ったという悲しみがあるだけです。
それでも彼は、戦いをやめることはありませんでした。
なぜなら、この地球という星を守る為です。
仮面ライダーブラックRXは、なにも人類だけを守る為に戦っているわけではありません。
この地球という友の為、そしてこの星に生きるすべての命の為に戦っているのです。
その戦いは孤独であり、また敵の怪人も強敵揃いです。
それでも南光太郎が戦いを降りないのは、きっと戦いの果てに何かを見出そうとしていたからではないでしょうか。
彼の戦いはとても孤独です。仲間がいないわけではありませんが、怪人と戦えるのは自分しかいないのです。
きっと南光太郎は、とても責任感の強い男なんだと思います。
望んで手に入れた力じゃなくても、自分の肩には大きな責任が圧し掛かっていることを知っていたのでしょう。
だから孤独の中でも戦い続けた。その先に、きっと何かが見えるはずだと信じて・・・・・。
仮面ライダーブラックRXの戦いは、勝敗の結果が重要なのではありません。
大事なのは、例え一人でも戦おうとする覚悟と、戦いという中で発生する心の動きです。
いらぬ戦いに巻き込まれ、そして親友までもを手にかけてしまった。それが正義の下に行われたことだとしても、心優しい南光太郎は苦しんだのです。
だから戦い続けることで、自分を孤独の中から救い出そうとしていたのかもしれません。
数あるライダーの中で、ここまで葛藤を抱えて戦ったライダーがいたでしょうか?
きっと南光太郎も、ウルトラマンティガのダイゴ隊員と同じく、常に迷いながら、そして傷つきながら戦ってきたはずです。
私はそういうヒーローをこそ、心の底からカッコいいと思うのです。
ちなみに仮面ライダーブラックRXは、オープニングとエンディングのテーマがすごく良い曲ですよ。
オープニングテーマの方は、まさに先ほど書いた孤独の中の戦いをイメージさせてくれます。
例えどんなに辛くても、その身に宿った力で怪人と戦わなければならない。
なぜなら、その力を必要とする者が大勢いるから。仮面ライダーブラックRXが戦うことで、守られるものがたくさんあるからです。
エンディングテーマの方は、きっとすべての戦いを終えた後の話なんだろうと思います。
ずっと孤独の中で戦ってきたけど、それは間違いだと気づかされるのです。
その身に宿った力と運命を全うすることで、多くのものが救われた。そしてその戦いは、きっと誰かが見てくれている。あなたを信じているという曲です。
一人じゃない・・・・きっとどこかに、あなたを求める人がいる。
このエンディングを聞くと、彼の戦いは無駄ではなかったんだろうと納得します。
きっと孤独の戦いの先に、何かの手ごたえを掴んだのだろうと。
それがどういうものかは、南光太郎にしか分かりません。でも彼は孤独の中を戦い抜き、そして何らかの光を見たんだと思います。
仮面ライダーブラックRXは、デザイン、設定、ストーリー、キャラクター、そしてテーマソング、どれもとっても仮面ライダー史を代表する作品です。
ある意味では、仲間に支えられて戦ってきたウルトラマンティガとは対極のヒーローですが、個人的には仮面ライダーブラックRXの方に共感を覚えてしまいます。
仲間と共に戦うヒーローもいいけど、孤独の中で戦うヒーローもまた、私の心を惹きつけてやみません。
仮面ライダーブラックRXは、ウルトラマンティガと並ぶ偉大なヒーローです。

ダナエの神話〜宇宙の海〜 第二十七話 霧の街マクナール(8)

  • 2014.07.29 Tuesday
  • 14:57
ダナエはそっと手を差し出し、スクナヒコナを乗せた。そして燭龍の方に向けると、ゴゴゴゴと大きな音を響かせて身を動かした。
《・・・何奴?》
燭龍は山のような巨体を振り向かせ、大きな目で睨んできた。
「うう・・・・近くで見るとすごい迫力・・・・。」
燭龍は、鳥とトカゲを混ぜたような顔をしていた。身体は土のように茶色く、表面のほとんどが木々に覆われていた。そして額には大きな目が開いていて、全身から凄まじい気迫を漲らせていた。
《・・・・妖精?それと・・・・小人の神か?》
燭龍はスンスンと鼻を動かし、ダナエたちの臭いを嗅いだ。
「・・・・・・・・・・・・・。」
そのあまりの巨体に、ダナエはみじろぎ出来ずに固まっていた。燭龍は長い蛇のような身体をトグロに巻いていて、天高く頭を持ち上げた。そしてギロリとダナエたちを見下ろし、《何用か?》と重たい声を響かせた。
「あ・・・あのね・・・・ちょっとあなたに話があって・・・、」
《話?話とな?》
「うん。実は私の友達のジャムっていうゾンビのことなんだけど・・・・、」
《ジャム・・・?おお、我の寄り代になった小童か。あれがどうした?》
「あの・・・彼を元に戻してほしいの。ジャムはこの霧の影響を受けて、あなたを呼び覚ましたんでしょ?だからあなたには申し訳ないんだけど、もう一度ジャムの中に戻ってほしいの。じゃないと・・・彼は最悪死んじゃうかもしれないから。」
ダナエは勇気を振り絞って言った。しかし燭龍は《ならん!》と叫び、ダナエの近くまで顔を寄せてきた。その顔は巨人のように大きく、ダナエが米粒に見えるほどだった。
《いいか、若いの。》
「は・・・はい・・・。」
《森羅万象の龍神たる儂が、何の考えもなしに現れたと思うか?》
「・・・・ええっと・・・どういうこと?」
首を傾げて尋ねると、燭龍は嵐のような鼻息を吹き出した。
《儂はかの邪神の企みを防ぐ為、宇宙の海を駆けてやって来た。このゾンビの小童を寄り代にしてな。》
「かの邪神って・・・まさかラシルの邪神のこと?」
《ほう・・・知っているのか?》
燭龍はいささか驚き、少しだけ表情を和らげた。
「私は地球とラシルを守る為に、邪神を倒す旅をしているの。」
《お前のような童の妖精がか?見たところ月の力を秘めているようだが、なぜ邪神を倒そうとする?》
「それは・・・この星の近くを通りかかった時に、ユグドラシルに呼ばれたから。この星が悪い邪神によって滅ぼされようとしているって。」
《ユグドラシルが・・・・。》
燭龍は思案気な顔で呟き、ゆっくりとダナエに顔を近づけてきた。そして大きな目でじっと睨み、長い髭を伸ばしてダナエの頭に触れた。
「な・・・・何してるの?」
《お前の記憶を見ているのだ。・・・・ふむふむ、ほほう・・・・あのゾンビの小童は、お前の風呂を覗いて殴られてばかりいたのか。・・・・ぶふ!》
「そこに反応するんだ・・・・。」
燭龍は長い髭からダナエの記憶を読みとり、何かを納得したように頷いた。
《なるほど、よく分かった。お前たちはここまで来るのに、かなり過酷な旅をしてきたようだな。》
「そうよ。だからこんな戦いを終わらせる為にも、絶対に邪神を倒さなきゃいけないの。
でもその為には、まずジャムを助ける必要がある。だから彼を返してほしいんだけど・・・。」
《なぜだ?あんなゾンビの小童・・・大して役に立たなかろう?》
「そういう意味じゃない。彼は私の大切な仲間だから、ここで見捨てて行くことなんて出来ないわ。」
《・・・役に立たぬ仲間の為に、貴重な時間を割こうというのか?》
「そうよ。仲間を助けるっていうのは、損得勘定じゃないもの。時間だとかお金だとか、そういうもので割り切れるものじゃないわ。」
《・・・・ふうむ、自分のことより仲間の身を案じるか?》
燭龍はいたく感心したように呟き、優しい眼差しでダナエを見つめた。
「それに、私は将来会社を立てて社長になりたいの。その時は、ジャムにだって一緒に働いてほしいと思ってる。床とトイレの掃除を・・・時給600円くらいで。」
《・・・・安いな。せめて650円にしてやれ。》
燭龍は可笑しそうに笑い、そっとダナエから顔を離した。
《ダナエよ。お前の仲間を想う気持ちはよく分かった。だがしかし・・・今すぐにこの小童を返すわけにはいかん。》
「どうして?ああ!まさか・・・やっぱり時給が安過ぎるから・・・。じゃあ720円にするから、今すぐ返して!」
《そういう問題ではない。今は無理なのだ。なぜなら・・・・儂はこれより、九頭龍と戦わねばならんのでな。》
「九頭龍・・・?」
ダナエは首を傾げて尋ねた。するとスクナヒコナが、「それも龍神だ」と説明してくれた。
「地球には、自然を司る大きな龍神が三体おるのだ。一つ目はそこの『燭龍』。そして二つ目は、光り輝く龍神『黄龍』。そして三体目が、最も巨大な龍神、『九頭龍』。この三体の龍神が、大きな自然の力を操り、そして季節や気候を左右している。そうすることで、地球は生命の住みやすい快適な環境に保たれておるのだ。」
「へええ・・・・まるで空調設備みたいね。一人がエアコンで、一人がボイラーで、もう一人がガスボンベみたいな感じね?あ、でもガスボンベは違うか?空気清浄機とかの方がいいかな・・・・?」
「う・・・うむ。まあ概ね間違ってはおらんが、そんな例え方をした者は初めてだ・・・。」
それを聞いた燭龍は盛大に吹き出し、突風のような鼻息を吹き出した。
「きゃあ!風に巻かれちゃう!」
《おお、これはすまん。つい可笑しくなってしまってな。・・・・ぶふ!ボイラーって・・・。》
燭龍は垂れた鼻水を舐め取り、威厳のある声で口を開いた。
《黄龍は天を駆ける龍神であり、九頭龍は大地を支える龍神だ。そして儂は、世界に光を灯す龍神である。》
「へええ・・・じゃああなたがボイラーなのね?」
《・・・・ぶふッ!いい加減やめい。顔が鼻水まみれになってしまうわ。》
そう言ってペロペロと鼻水を舐め取り、それを見たダナエは「風邪を引いた猫みたい」と笑っていた。
「で?その龍神さんたちがどうかしたの?」
《うむ。実は九頭龍の奴が、邪神の仲間になってしまったのだ。》
「ええええええ!どうして邪神の仲間なんかに?」
《おそらく・・・もうそろそろ地下で眠るのが飽きたのだろう。奴は気性の激しいところがあるから、じっと大地を支えているのが我慢ならなかったようだ。まあ定期的にこういう癇癪を起こす奴なのだが、今回はそこを邪神につけ込まれた。あの邪神は神殺しの神器という恐ろしい武器を持っているが、それは神や悪魔にしか通用しない。ゆえに、神でも悪魔でもない神獣や魔獣に対抗する為に、九頭龍を手懐けたのだ。》
それを聞いたスクナヒコナは、「なんと狡賢い奴・・・」と顔をしかめた。
《九頭龍は邪神に協力する見返りとして、海と空を駆ける龍神になれると約束してもらった。ゆえに、邪神を守る為にこの星に襲来するはずだ。》
「そっか・・・・。邪神は魂だけになって、この星に来てるもんね。じゃあそれを追いかけて、九頭龍もやって来るってことね?」
《いかにも。宇宙の海を駆け、瞬く間にこの星に到達するだろう。》
「宇宙の海・・・?それってさっきも言ってたけど、いったい何のことなの?」
ダナエは初めて聞く言葉に首をひねった。するとスクナヒコナも、「我も初めて聞く言葉だ」と首をかしげた。
《よかろう、お前たちに教えてやる。宇宙の海というのはな、空想と現実の狭間で・・・、》
そう説明しかけた時、燭龍は突然「来たな!」と空を睨んだ。
《お前たち、すぐにここから離れよ!でなければ、九頭龍に押し潰されてしまうぞ!》
「え?押し潰されるって・・・いったいどういう・・・・、」
《いいから早く逃げい!》
燭龍は鼻から突風を吹き出し、ダナエたちを吹き飛ばした。
「きゃあああああああ!」
ダナエはスクナヒコナを抱えたまま、遠くに吹き飛ばされていった。そして地面にいたクトゥルーの上に落ちて、「痛〜い・・・」と頭を押さえた。
「もう・・・いきなり何なのよ?」
タンコブの出来た頭を押さえていると、突然空から何かが降ってきた。それを見上げたミヅキは、顔面蒼白になってクトゥルーの後ろに隠れた。
「・・・し・・・島が降って来る!」
ダナエたちの頭上には、霧を切り裂いて激しい風が吹いていた。その原因は、空から降って来る島のような巨大な何かのせいだった。
「こりゃやべ!いったん闇の中に逃げるべ!」
クトゥルーは慌てて地面に闇を広げ、その中に逃げ込んだ。
「待って!私たちも隠れるから!」
ダナエはミヅキの手を引き、咄嗟に闇の中に隠れた。そしてその後に重大なことに気づき、
「あああ!」と叫んだ。
「ドリューを忘れてる!」
そう叫んで外に出ようとした時、クトゥルーに止められた。
「やめるべ!外に出たら危ないだ!」
「でもあのままじゃドリューが押し潰されちゃう!早く助けなきゃ!」
そう言って外に出ようとしたが、何かに出口を塞がれて出られなかった。
「何これ・・・?何かが穴を塞いでる。」
力いっぱい押しても、穴を塞いでいる何かはビクともしなかった。
「この!」
槍で切りつけても動かず、どうしたものかと困り果てた。
「・・・・そうだ!ブブカに助けてもらおう!」
そう言って右腕のコスモリングに触れ、ブブカの眠る右の宝石に呼びかけた。
「お願いブブカ!ドリューをこの中へワープさせて!」
強くそう念じるダナエだったが、コスモリングはウンともスンとも言わなかった。
「どうして・・・?なんで反応しないの!」
苛立たしそうにコスモリングを叩くと、クトゥルーが「そりゃ無理だべ」と言った。
「どうして!」
「どうしてって・・・・今はその腕輪は力を失ってるからだあ。」
「力を失う・・・・?」
「コスモリングってのは、決して万能な道具じゃねえんだ。あんまり無闇やたらに使い過ぎると、エネルギーが切れちまうべ。きっとオメさんやコウとかいう妖精が、事あるごとに使ったからエネルギー切れを起こしてるんだ。」
「そんな・・・・じゃあどうすればいいの!」
「綺麗な海にしばらく浸けておくと、また力を取り戻すべ。でも今は近くに海なんてねえから、どっちにしろ使えねえがな。」
「し・・・知らなかった・・・。どうしてジル・フンはそのことを教えてくれなかったんだろう・・・。」
この腕輪をくれたジル・フィンという神様は、まったくそんなことは教えてくれなかった。
「・・・これも試練ってことなの?コスモリングに頼らずに、自分の力で何とかしろってことなの・・・?」
思い返せば、この腕輪にはずっと頼りっぱなしだった。コスモリングに宿る神様に助けられ、コスモリングに宿る力に助けられ、何かというとこの腕輪にお世話になっていた。
「・・・プッチー、ごめんね。あなたも疲れてたのね。」
労わるようにコスモリングを撫で、優しく労いの言葉をかけた。
「この谷を抜けたら、マクナールっていう街があるわ。その近くには海があるから、そこでプッチーを癒してあげるからね。それまでは・・・・自分の力で戦わなきゃ!」
ダナエは槍を握りしめ、どうにかしてここから脱出しようとした。
「ねえクトゥルー。他の場所に穴を開けて、外に出ることは無理なの?」
「んなことは朝飯前だ。」
「じゃあやってみてくれる?ずっとここにいたままじゃ、ドリューを助けられないから。」
「んだ。じゃあオラから離れないようにするだ。」
そう言って長い足でみんなを抱え、スイスイと闇の中を泳いでいった。そしてかなり遠くまで来ると、「この辺でいいべかな?」と外へ繋がる穴を広げた。
「ありがとう。じゃあすぐに行こう!ドリューを助ける為に!」
そう叫んで外に飛び出そうとした時、頭にゴチン!と何かがぶつかった。
「いったあ〜い・・・・。またタンコブ出来ちゃった・・・・・。」
涙目でおでこを押さえていると、スクナヒコナが「もっと遠くへ行かないと無理だ」と言った。
「おそらくここの穴も塞がれているのだ。ほれ、上に何かが乗っかっておるだろう?」
そう言って矢を放つと、固い音が響いて跳ね返されてしまった。
「だども、そりゃ変だべ?さっきの場所からずいぶん遠くまで来たんだ。また穴が塞がれてるなんておかしいべ?」
「いや、おかしくない。空から降ってきたあの巨大な何かは、きっと九頭龍だからな。」
それを聞いたクトゥルーは、鼻息荒く「九頭龍!」と叫んだ。
「そんな化け物までこの星に来てるだか!」
「ああ、しかも邪神の手下になってな。」
「んなッ・・・・。なんてこったあ・・・・。」
その会話を聞いていたミヅキは、「九頭龍って何?」と尋ねた。
「大地を支える龍神だあ・・・。そのデカさときたら、島一つが背中に乗っかるほどだべ。」
「マジで!」
「しかも・・・全部で九つの頭を持ってるだ。分かりやすく言うと、ヤマタノオロチの馬鹿デカイバージョンだと思えばいいべ。」
「・・・そんな・・・次から次へとそんな怪物が・・・。いったいいつからこの戦いは怪獣大戦になったのよ!」
「文句言っても仕方ねえべ。来たもんは来ちまったんだ。もっと遠くへ移動して、さっさとここから逃げるだ。」
クトゥルーは高速で闇の中を進み、ずっと離れた場所に穴を開けた。すると地上から光が射し、みんなは眩しく目を細めた。
「やった!外に出られる!」
ミヅキは喜び、「早く早く!」とクトゥルーを促した。そして穴から外に出てみると、そこにはまだ霧が漂っていた。
「ここは・・・まだ偉人の谷が続いているのね。」
「ずいぶん長い谷だね。いったいどこまで続いてるんだろう?」
谷は遥か遠くまで続いていて、その終わりが見えなかった。しかし霧は少しだけ薄くなっていて、先ほどよりは視界が開けていた。
「霧が薄くなってるってことは、もうすぐ谷を抜けられるってことね。でもその前にドリューを助けなきゃ。」
そう言って後ろを振り返ると、信じられない光景に絶句した。
「・・・凄い・・・・ほんとうに怪獣大戦みたいだ・・・・。」
谷の遥か奥の方では、霧の中に巨大なシルエットが二つ浮かんでいた。一つは燭龍のもの、そしてもう一つは、ヤマタノオロチのようにいくつもの首を持った龍のシルエットだった。
「あれが九頭龍・・・・。大きいなんてものじゃないわ。頭が雲まで届いてる・・・。」
ダナエの言うとおり、九頭龍はとてつもない大きさだった。頭は天まで届き、大きなトサカが雲をかすめていた。そしてその身体は島そのものと呼べるくらいに巨大で、怪しげな風に包まれていた。そのあまりの大きさに圧倒され、誰も口を開くことが出来なかった。息を飲んでその様子を見つめていると、燭龍のシルエットがムクムクと大きくなり始めた。
「あれは・・・・山を飲みこんでいるのね。周りの山と同化して、九頭龍と同じくらいに大きくなるつもりなんだわ。」
燭龍のシルエットは次々に山を飲みこみ、やがて九頭龍と同じくらいにまで大きくなった。
山より大きな二体の龍神が、今にも戦おうと睨み合っていた。

ダナエの神話〜宇宙の海〜 第二十六話 霧の街マクナール(7)

  • 2014.07.28 Monday
  • 18:27
その頃ダナエたちは、闇の道を抜けて偉人の谷という場所に出ていた。そこはいつでも深い霧に覆われていて、十メートル先も見えないような危険な場所だった。
辺りには怪しげな気配が漂っていて、常に誰かに見られているような居心地の悪い雰囲気だった。ダナエはみんなの先頭に立ち、慎重に歩いていった。そしてしばらく歩いた所で足を止め、グルリと辺りを見渡した。
「結界が消えてる・・・。前に箱舟でここに来た時は、見えない壁のようなものがあったのに・・・。」
深い霧に手を伸ばし、以前にあった見えない壁を探る。するとドリューが「拠点の化け物を倒したからですよ」と答えた。
「五つの拠点に棲む化け物を退治したから、結界が消えたんです。これで先に進めますよ。」
「そうだね・・・。この谷を抜けるとマクナールっていう街があって、その近くの海にユグドラシルがいるのよね?」
「ええ。でもその前にジャムさんを取り戻さないといけないですが・・・・この霧だと後を追うのが難しそうですね。」
ドリューは濃い霧を睨んで眉を寄せた。するとミヅキが何かを見つけ、「これを辿ればいいんじゃない?」と呟いた。
「ほら、ここ見て。クトゥルーの通った後があるよ。タコのネバネバみたいなのが残ってるもん。」
「ああ、ほんとだ・・・。ずっと向こうの方まで続いてるね。」
クトゥルーの通ったネバネバは、地面を伝って霧の向こうに消えていた。
「じゃあこれを辿って行こうか。向こうもマクナールに向かってるはずだから、きっとそのうち会えるわ。」
ダナエたちはクトゥルーのネバネバを辿り、霧の中を歩いていった。
「みんな、霧で視界が悪いからはぐれないようにね。」
「うん、大丈夫。」
そう言って返事をするミヅキだったが、「あれ?」と首を傾げた。
「あの絵描きさん・・・いなくなってる。」
「ウソ?ドリューが・・・?」
言われて周りを見渡すと、ドリューの姿が見当たらなかった。
「ドリュー・・・もしかして、また絵を描きに行っちゃったのかしら?」
「どういうこと?」
「ドリューは根っからの画家だから、珍しい景色に出会うと、勝手にどこかへ行って絵を描いちゃうのよ。今までにもそれで危険な目に遭ってるのに・・・・。」
「迷惑な絵描きさんねえ・・・。でもとりあえず捜した方がいいよね?」
「うん。じゃあはぐれないように手を繋いどこう。」
二人はしっかりと手を繋ぎ、深い霧の中を叫んだ。
「お〜い!ドリュー!どこにいるの〜?」
「絵描きさ〜ん!勝手にどっか行っちゃダメだよ〜!」
偉人の谷に、ダナエとミヅキの声が響き渡る。それは谷にこだまして、何重にも音が重なって響き渡った。
「・・・・返事がない。けっこう遠くまで行っちゃったのかな?」
ダナエが心配そうに呟くと、ずっと黙っていたスクナヒコナが「むむむ!」と唸った。
「どうしたのスッチー?オシッコ?」
「違わい!人を子供扱いするな!」
「痛ッ・・・・だから矢を飛ばさないでよ・・・。」
スクナヒコナはぷりぷり怒りながらダナエを説教し、そして矢を番えて偉人の谷の奥を睨んだ。
「この先から強い妖気を感じる・・・。気を引き締めた方がよいぞ。」
「強い妖気・・・?敵がいるってこと?」
「分からん。敵意はあまり感じないが、向こうもこちらを警戒しているようだ。気を抜くでないぞ。」
「わ、分かった・・・。」
ダナエは槍を握りしめ、じっと谷の奥を睨んだ。すると霧の中から人影が近づいて来て、ゴクリと息を飲んだ。その人影はドリューによく似ていて、小さな声で呼びかけた。
「・・・・ドリュー?」
そう声をかけると、「ええ」と返事があった。
「・・・・ああ!よかった、無事だったのね・・・。」
霧の中から出てきたのはドリューだった。しかしどこかいつもと様子が違っていて、妙な雰囲気を感じた。
「ドリュー・・・どうしたの?なんだかいつもと違う感じがするんだけど・・・。」
「そうですか?僕はいたって普通ですよ。でも・・・ちょっとだけ角がムズムズするんです。これって何かの病気ですかね?」
そう言って、ドリューは羊のような曲がった角を触っていた。
「それに・・・やけに身体が熱いんですよ。なんだか血が沸騰しているような、闘志が燃え盛るような・・・・・落ち着かない感じです。」
「そうなの?もしかして、どこか調子が悪いとか?」
「いや、そういうのは感じないです。けど・・・・やっぱり変なんですよ。いつもの自分じゃない感じがして・・・・。」
ドリューは不安そうに角を触り、ソワソワと落ち着かない様子でいた。するとそれを見たスクナヒコナが「ちょっとよろしいか?」と尋ねた。
「確かドリュー殿は、父上が神で、母上が人間でしたな?」
「ええ、父は芸術の神です。元々はただの獣人だったんだけど、あまりに凄い絵を描くので神様の仲間にしてもらったんです。」
「ふうむ・・・それではお父上は、もしかしてこの谷に来られたことがあるのではないか?」
「ええっと・・・どうだろう?父は色んな所を放浪して絵を描いていたから、もしかしたらここにも来たことがあるかもしれません。」
「ふうむ・・・・なるほど。これはもしかしたら・・・。」
スクナヒコナは腕を組んで考え、ポリポリと頭を掻いた。
「どうしたの?シラミでもいるの?」
「だから違わい!いちいち間の抜けたことを言うな!」
そう言ってピョンとミヅキの胸ポケットから飛び出し、地面に降りた。
「ドリュー殿。ここは偉人の谷というそうだが、その名前の由来はご存じか?」
「ええ。なんでも大昔に、すごい魔道士がいたそうですよ。その人は後に神様と崇められて、死んだ後でも魂だけになってこの世に留まっているそうです。そしてその魂の眠る場所が・・・、」
「この谷というわけか・・・。」
スクナヒコナは谷の霧を見つめ、一人で何かを納得していた。
「ちょっと、何勝手に一人で頷いてるのよ。私たちにも説明して。」
ミヅキはヒョイとスクナヒコナを摘まみあげ、手の平に乗せた。
「・・・我も詳しいことは分からん。しかしこの霧からはどうにも妙な気配を感じるのだ。
おそらく・・・その魔道士とやらの魂が関係しているのだろう。そしてドリュー殿は、この霧の力に反応して、眠っていた神の血が騒ぎ出したに違いない。」
「神の血・・・ですか?」
「うむ。申し訳ないが、ドリュー殿は神の血を引いているにしては、ちと力が弱すぎる。
きっと・・・お父上の神の血が、ずっと身体の奥で眠っていたのだろう。それが表に出てきたものだから、今までとは違う妙な感覚に陥っているのだ。」
そう説明すると、ミヅキがそっと手を挙げた。
「じゃあさ、ドリューさんはこれから神様になろうとしてるってこと?」
「いや・・・そこまではいくまい。しかしただの獣人から、神の力を受け継ぐ偉大な絵描きへと成長してようとしているのだ。」
それを聞いたダナエは「ほんと!」と手を叩いて喜んだ。
「よかったじゃないドリュー!これから成長するんだって!今までよりすごい絵が描けるよ。そうなったら絵だけでご飯が食べられるかもしれないし、生まれてくる子供だって養ってあげられるよ!」
ドリューの手を取ってニコニコとはしゃぐダナエだったが、スクナヒコナは「それはどうかな?」と首を振った。
「なあに?ドリューは成長しようとしてるんでしょ?すごくいいことじゃない?」
「確かに成長するのは良いことだ。しかし急激な成長は危険を伴うものだ。上手く神の血が目覚めればいいが、もし失敗したら・・・・、」
「失敗したら・・・・?」
「・・・化け物に変わってしまう可能性がある。それもただの化け物ではない。神の力を受け継いだ、凶悪で醜い化け物だ。」
「そんな・・・・。」
ダナエは不安そうに顔をゆがめ、ドリューを見つめた。
「ねえドリュー?なにか調子の悪い感じとかはしない?大丈夫?」
「ええ、今のところは・・・。でも身体の中は、さっきより熱くなってるんですよ。まるで血が沸騰しているような・・・・。」
そう言ってダナエの手を離した時、ドリューはビクン!と震えた。
「ちょっと!大丈夫?」
慌ててドリューの肩を揺さぶると、彼は目を紫に光らせてダナエの首を絞めにかかってきた。
「ドリュー!やめて!」
ダナエは必死に抵抗するが、あまりに力が強くて引き離せなかった。
「絵・・・絵が描きたい・・・。この世を埋め尽くすほどの絵を描いて、僕は絵の神になるんだ・・・・。」
ドリューはダナエを持ち上げ、力任せに遠くへ投げ飛ばした。
「ダナエ!」
ミヅキが慌てて駆け寄ると、ダナエは羽を動かしてふわりと宙に舞い上がった。
「・・・・大丈夫、心配ないよ・・・。ゴホッ・・・・。」
ダナエは首を押さえて咳込み、凶暴になったドリューを睨んだ。
「ドリュー!正気を保って!そのままじゃ化け物になっちゃうよ!」
「黙れ!僕は絵の神になるんだ!邪魔する奴は・・・このキャンバスに閉じ込めてやる!」
そう言ってどこからともなく真っ白なキャンバスを取り出し、超高速でダナエをスケッチし始めた。
「そら!お前を描いてやったぞ!ありがたく思え!」
完成したスケッチをダナエに向けると、絵の中からスケッチのダナエが飛び出して襲いかかってきた。
「きゃあ!」
ダナエはスケッチの自分に腕を掴まれ、キャンバスの中へ引きずり込まれていく。
「ダナエが危ない!ちょっとスッチー!黙って見てないで何とかしてよ!」
「分かっておる!」
スクナヒコナは矢を構え、まじないを掛けてドリューに飛ばした。
「痛ッ・・・。なんだこの小さな矢は?こんなものが効くか!」
「それはどうかな?」
スクナヒコナはニヤリと笑い、勝ち誇ったような笑みを見せた。しかしドリューは何ともない様子で、おでこに刺さった矢を抜いてしまった。
「・・・・・スッチー?何も起きないじゃない・・・。どうなってるのよ!」
「うむ。あの矢には封印のまじないを掛けたのだ。しばらくすれば、ドリュー殿の神の血は治まるだろう。」
「しばらくって・・・・どのくらい?」
「一時間くらいかの?」
「長過ぎ!そんなに待ってたらダナエがやられちゃうよ!」
「・・・それは分かっているが、神の血を抑え込むとなると、それなりに時間が必要なのだ。ダナエ殿には、それまで堪え切ってもらうしかない。」
そう言ってまた矢を番えた。
「今度は攻撃のまじないだ!食らえ!」
スクナヒコナは、ドリューの胸に狙いを定めた。しかしダナエから「待って!」と言われ、番えた矢を下ろした。
「ドリューを攻撃しないで!一時間くらいなら耐えてみせるから!」
「でもこのままじゃ・・・・。」
「ミヅキ・・・心配しないで。私はそんなにやわじゃない。きっと・・・傷一つ付けずにドリューを正気に戻してみせるわ!」
ダナエは銀の槍を振り、スケッチの自分を切り払った。そして返す刃で、思い切りドリューの顔を叩きつけた。
「ふべしッ!」
ドリューの鼻から盛大に鼻血が吹き出し、もんどりうって地面に倒れてしまった。
「傷一つどころか、鼻血まみれになってるじゃん・・・。」
「いいのよ、後で治すから!」
そう言ってまた槍を振り、倒れたドリューをバシバシと叩きつけた。
「ごめん!悪いけど今は気絶してて!どおおおりゃああああああ!」
「どぶろッ!」
ドリューの腹に槍の柄がめり込み、ピクピクと痙攣して気を失った。
「ふう・・・これでよしと。」
ダナエはホッとした様子で汗を拭き、ミヅキに向けてビシッとピースサインをした。
「ダナエって・・・けっこう無茶するわね・・・。」
「こんなの軽い方よ。もしこれがジャムだったら、股間に思いっきりキックを入れてるもん。」
「・・・なんか、あのゾンビさんが怒る気持ちが分かるような気がするわ。」
少しだけジャムに同情をおぼえていると、霧の中から強い妖気が迫ってきた。
「いかん!何かが来るぞ!」
スクナヒコナは咄嗟に矢を構え、霧の中に向けて放った。すると「いで!」と叫び声が響いて、大きな何かがヌッと現れた。
「ひ、酷いだよ〜・・・いきなり何するだ・・・。」
「クトゥルー!」
霧の中から出て来たのは、矢の刺さった頭を撫でるクトゥルーだった。
「いくら絶交したからって、いきなり矢を飛ばすことはねえべ?」
「・・・お、お主!ここで何をしておる!マクナールとやらに向かったのではないのか!」
スクナヒコナがそう叫ぶと、クトゥルーはしょんぼりした様子で口を開いた。
「そのつもりだったんだけど、ちょっと予想外の事が起きたべ・・・。」
「予想外・・・?」
「んだ。あのへっぽこのゾンビが、ここの霧に触れて変わっちまったんだ。なんでもあいつの家は神社らしくて、龍神を祭ってたんだと。」
「龍神・・・・?」
「中国の道教に出て来る、ばかデカイ龍神だべ。ほら、神社って何でも祭っちまうだろ?だからあのゾンビは、その龍神の気をモロに受けて育ってきたんだべ。それがここの霧に触れて、表に出てきたんだあ・・・。オラ、あんなデッカイ龍神と戦いたくねえべ。だからあのゾンビさ置いて、引き返すことにしたんだ。」
クトゥルーはしょんぼりとした声で言って、地面に闇の道を作り出した。
「そんじゃ、オラはこれでさよならするべ。後はオメさんたちがよろしくやってけろ。」
「いや、待て待て!何を無責任なこと言っておるのだ!あのゾンビはお主が連れて行ったのだろう?ならばちゃんと責任を持って・・・・、」
そう言って止めようとした時、深い谷の向こうから、とてつもなく巨大な何かが動き出した。それを見たミヅキは、真っ青になってダナエの後ろに隠れた。
「な・・・何あれ・・・?山が・・・動いている・・・。」
霧の向こうには、大きな山のシルエットがそびえていた。そのシルエットはゆっくりと動き、やがて生き物のように雄叫びをあげた。
「だあああああああああ!」
その雄叫びは、雷鳴を遥かに凌ぐ爆音だった。思わず鼓膜が裂けそうになり、ミヅキはギュッと耳を押さえた。
「痛い!耳が壊れちゃう!」
「ミヅキ!大丈夫よ、私が守るから!」
ダナエは魔法を唱え、風の精霊に呼びかけて空気の壁を作り出した。
「お願い!この爆音から私たちを守って!」
そう叫んで手を前に出すと、可愛らしいシルフが現れて、見えない空気の壁を作り出した。
それは爆音の雄叫びを防ぎ、そしてダナエたちをクルリと包み込んだ。
「この中にいれば大丈夫よ。」
「・・・・ほ、ほんとだ。雄叫びが聞こえなくなった・・・。」
ミヅキは耳から手を離し、不思議そうに辺りを見渡した。
「私の近くから離れちゃダメよ。」
「うん・・・。」
ミヅキはギュッとダナエの裾を掴み、顔だけ出して山のシルエットを睨んだ。
「あれは何なの?どうして山が動いてるの?」
そう尋ねると、いつの間にか肩に乗っかっていたスクナヒコナが答えた。
「あれは山ではない。おそらく・・・・燭龍だ。」
「燭龍?何それ?」
「道教に伝わる龍神だ。燭龍は森羅万象を司る神獣で、その姿は山そのものとされるほど巨大だ。まさかあのゾンビがこんなものを宿していたとは・・・・予想外だ。」
「じゃ、じゃあ・・・もし襲いかかって来られたら・・・・、」
「間違いなく全滅するだろう。」
「そ、そんな・・・・。」
ミヅキはフラフラと後ろによろけ、ドリューにつまづいて転んでしまった。
「ぎゃん!」
「ミヅキ!私から離れちゃダメ!」
「んだんだ。みんなで固まってる方が安全だべ。」
クトゥルーはそそくさとダナエたちの元に寄り、霧の中にそびえる燭龍を見上げた。
「あいつは地球でも最強の部類に入る神獣だべ。下手な神様なんかより、よっぽど恐ろし相手だあ・・・。」
「じゃ、じゃあ・・・クトゥルーでも勝てない?」
ミヅキが恐る恐る尋ねると、クトゥルーは何とも言えない顔で唸った。
「・・・勝てない・・・ってことはねえと思う。だども、あんな化け物と戦おうとすると、オラは昔に戻んなきゃなんね。」
「昔に戻る?どういうこと?」
「オラは元々は破壊の神なんだあ。だども今は改心して、善い神様になってるだ。でもその分力は劣るべ。だから昔の破壊の神に戻れば、絶対に勝てない相手じゃねえと思う。」
「だったらすぐにそうしてよ!だいたいこうなったのも、全部あんたのせいなんだから!」
ミヅキはポカポカとクトゥルーを殴りつけた。
「・・・それはゴメンだべ。」
「どうして!このままじゃみんなやられちゃうんだよ?」
「・・・それでも断る。だって・・・昔の破壊の神に戻ったら、またみんなから嫌われちまうべ。オラはもう・・・一人ぼっちは嫌なんだ・・・・。」
クトゥルーは切ない顔で俯き、地面に闇の道を作り出した。
「別に無理してあんな化け物と戦わなくてもいいべ。この闇を通って、どこか安全な場所に逃げるだ。」
「そ・・・そうね。おっかない敵からは、逃げるのが一番よね。」
ミヅキとクトゥルーは、そそくさと闇の道に逃げようとした。しかしダナエが「ダメ!」と叫び、二人の前に立ちはだかった。
「ここで逃げたら、ジャムはどうなっちゃうの?」
「そ、それは・・・・どうなるの?」
ミヅキはクトゥルーを見上げて尋ねた。
「分かんね。だども・・・良い結果にはならねえだろうなあ。身に余る力を開放すると、最悪は死んじまうだろうから。」
「そんな・・・・じゃあすぐに助けないと!」
ダナエは宙に舞い上がり、燭龍に向かって飛び立とうとした。
「待たれよダナエ殿!」
「スッチー・・・悪いけど止めてもムダよ。私は絶対に仲間を見捨てたりしないから!」
「分かっておる。お主の性格からすると、死んでも仲間を助けようとするだろう。だからここは、我も共に戦うぞ。」
「でも・・・すごく強い敵なんでしょ?一緒に戦ったら危険だよ?」
「そんなことは分かっておる。しかしここで背を向けたとあっては、八百万の神の名折れというもの。我も共に戦わせてくれ、とりゃ!」
スクナヒコナは思い切りジャンプして、ダナエの肩に掴まった。
「ダナエ殿。とりあえずは燭龍に話しかけてみよう。向こうもこちらに敵意を持っているとは限らんからな。」
「そうね。」
ダナエは銀の槍を握りしめ、そっとコスモリングを撫でた。
「プッチーの神様たち・・・。いざという時は頼むわよ。」
そう言って高く舞い上がり、ミヅキの方を振り返った。
「ミヅキ!そこから動かないでね!」
「分かった!ダナエも気をつけてね!」
「ああ、それと・・・クトゥルー。」
「んだ?」
「ミヅキをちゃんと守ってあげてね。」
「へん!やなこった!オラはもうこいつらとは絶交したんだ!」
クトゥルーはプイっとそっぽを向き、顔をしかめて拗ねてしまった。
「そんな簡単に絶交だなんて言わないの。せっかく出来た友達でしょ?大事にしなきゃ。」
「・・・・・・ふん!」
意地を張るクトゥルーを見て、ダナエはクスクスと笑った。
「じゃあ・・・行くわよスッチー!」
「うむ、慎重にな。」
ダナエは霧の中を飛び抜け、大きなシルエットに向かって行く。そして燭龍の目の前まで来た時、その大きさに息を飲んだ。
「なにこれ・・・本当に山そのものだわ。」
「だから言っただろう、燭龍は山ほど大きいと。とりあえず、こちらに敵意が無いことを伝えねばならん。悪いがダナエ殿、我を手に乗せてくれ。」
「分かった。」
ダナエはそっと手を差し出し、スクナヒコナを乗せた。そして燭龍の方に向けると、ゴゴゴゴと大きな音を響かせて身を動かした。

ダナエの神話〜宇宙の海〜 第二五話 霧の街マクナール(6)

  • 2014.07.27 Sunday
  • 18:06
「あ・・・あああ・・・・なんということだ・・・。」
サリエルの姿は変化していた。黒いローブは、真っ白な絹のローブに変わり、大きな鎌は透明な杖へと変化していた。そして・・・醜いアンデッドのような顔は、超絶の美男子へと変貌を遂げ、サラサラと流れる白銀の髪になっていた。
「そ、そんな・・・まさか妖精ごときに天使の姿に戻されるとは・・・・。」
ワナワナと震えながら自分の手を見つめていると、後ろから「よう」と声が掛った。
「それがあんたの表の姿ってわけか?えらい美男子だなあ。」
「ぐうッ・・・・お主、どうして私の秘密を・・・・。」
「クー・フーリンに教えてもらったのさ。あんたは月の性質を持った死神だと。だから月の力を持つ光を当てれば、天使の姿に戻るってな。」
「ぬうう・・・あのケルトの戦神が・・・・。」
サリエルは悔しそうに拳を握り、真っ白な美しい白馬になったセバスチャンに視線を落とした。
「確かに・・・私は月と同じ性質を備えている。月は太陽の光を受ける表側は、常に光り輝いて見える。しかしその反対側は、常に真っ暗な闇のままだ。私は月と同様に、光と闇の二面性を持っている。だから月の光を受けると・・・・・、」
「天使に戻るってわけだ。」
コウはゆっくりとサリエルの前に飛び、勝ち誇ったような笑顔で睨んだ。
「あの箱舟は、月の女神ダフネの祝福を受けている。だから月の力が宿っているのさ。それを車輪に集めて回転させて、月と同じ光を放ったってわけだ。」
「むううう・・・・なんと頭の回る妖精か・・・・。」
サリエルは悔しそうに唇を噛み、超絶の美男子の顔でコウを睨んだ。しかしコウはまったくビビらない。それどころか、挑発気味に顔を寄せて笑った。
「今のあんたは天使だ。だったらさ、もう俺の魂を狩る必要はないよな?」
「ぬうう・・・それは・・・・。」
「あれ?それとも天使ともあろう者が、何の罪もない妖精の魂を狩ろうっていうのか?それって天使としてあるまじき行為なんじゃないかなあ。」
そう言ってわざとらしく顔をゆがめ、腕を組んでチラチラと見つめた。
「ぐうう・・・おのれ妖精・・・・・。」
サリエルはプルプルと震えていた。たかが妖精に天使に戻されたことが、どうにも我慢できずに悔しかった。しかしコウの言うとおり、天使に戻った今は、彼の魂を狩ることは出来ない。それがとても腹立たしくて、口から血が出るほど唇を噛んだ。
しばらくじっとコウを睨んでいたが、やがてふっと表情を緩めて笑いだした。
「・・・・・ふ・・・ふふふふ。」
「なんだよ?いきなり気持ち悪いな・・・。」
「いや・・・こんな方法で私の鎌から逃れる者がいるとはな・・・。今までに二十八人の獲物を逃してきたが、こんなやり方で逃げ切ったのはお主が初めてだ。」
「二十八人て・・・けっこう逃げられてるじゃんか・・・・。」
「かなり難しいのだ、この仕事はな。」
そう言ってニコリと笑い、透明な杖をコウの前に向けた。
「妖精よ、どうやら私の負けのようだ。死神族の掟に従い、お主の頼みを一つだけ聞いてやろう。」
「え?一つだけ頼みを聞くだって・・・・?」
「ああ。お主は死神の鈴を使って私を呼び寄せただろう?しかし見事に私の鎌から逃げ切った。その場合は、相手の頼みを一つだけ聞かねばならんのだ。もちろん私の力で出来ることに限るがな。」
予想外の展開に、コウは一瞬戸惑ってしまった。しかしすぐに表情を輝かせ、キラキラとした瞳でサリエルに詰め寄った。
「ほ・・・ほんとに頼みごとを聞いてくれるのか?」
「ああ、それが死神族の掟だからな。私に出来ることなら、なんでもしよう。」
「じゃ、じゃあ・・・例えばどんなことが出来るの?」
「そうだな・・・例えば死者を蘇らせるとか。」
「マジで!」
「あとは嫌いな奴を呪い殺したり、逆に大切な者の寿命を延ばしたり・・・。まあ命に関わることがほとんどだな。」
「す、すげえな・・・・さすが死神だぜ。」
コウは感心して目を輝かせた。そしてどういう願い事をするのが一番いいかを考え、うんうんと唸っていた。
「・・・あのさ、俺たちはこの星の邪神と戦ってるんだけど、そいつを呪い殺すことは出来る?」
「この星の邪神?・・・・ああ、クインことか?」
「クイン?あいつクインっていうのか?」
「奴はクイン・ダガダという、遥か昔からこの星に巣食う邪神だ。元々は小さな虫だったのだが、ある国の王女の怨霊と融合してあのような邪神になったと聞く。」
「怨霊と虫の融合・・・・。」
「クインの力は強大で、しかも神殺しの神器まで持っている。ゆえに、残念ながら私の力で呪い殺すことは無理だ。」
「そうか・・・あんたでも力の及ばないほどの相手か・・・・。」
コウは残念そうに呟やいた。もしサリエルの力で呪い殺せるのなら、それが一番手っ取り早いと考えたからだ。しかしそう上手くはいかないかと諦め、別のことをお願いすることにした。
「じゃあさ、死者を復活させてほしいんだけど。」
「うむ、お安い御用だ。誰を生き返らせればいいのだ?」
サリエルは透明な杖を掲げ、白いローブをたはめかせた。コウはそんな彼にニヤリと詰め寄り、自分の顔を指差して言った。
「俺を生き返らせてくれ。」
「お主を?」
サリエルは不思議そうに首を捻っていたが、やがて「ああ、そういうことか」と納得した。
「お主・・・魂と肉体が別々なのだな。だから元々持っていた自分の肉体を復活させてくれという意味だな?」
「そういうこと。出来る?」
「うむ、朝飯前だ。しかしそうなると、今入っているその肉体は抜け殻の状態になるが?」
「あ!それってやっぱまずいかな・・・?」
「魂の入っていない肉体は、やがて生命活動を停止して死を迎える。ゆえに、その肉体の持ち主の魂を早急に入れる必要があるが・・・・。その者の魂はまだ現世に留まっているのか?」
「ああ、俺の仲間と一緒にいるよ。だからそこまで一緒について来てほしいんだ。」
「お主の仲間か・・・・。さきほど闇の道で一緒にいた妖精や人間のことだな?よかろう、では奴らが行く先まで同行する。」
サリエルは手綱を引き、セバスチャンに命じた。
「闇の道はもう閉じているだろう。お主の仲間の行き先は、セバスチャンに探させるとしよう。ほれ、先ほど闇の道で会った妖精たちの気配を探るのだ!」
「ビヒイン!」
セバスチャンは目を光らせて遠くを見渡した。鼻息荒くブフン!ブフン!言いながら、やがてダナエたちの気配を探り当てて「ブフォン!」と鳴いた。
「おお、見つけたか!よし、それでは行くぞ!」
サリエルは手綱を引き、コウに向かって「ついて来い!」と叫んだ。
「ちょ、ちょっと待って!箱舟のエネルギーを溜めてくるから。」
「エネルギーを溜める?・・・ああ、先ほど車輪を回して力を放出していたからか。ならばすぐに力を溜めるのだ!さあ、早く!」
サリエルはイライラしながら透明の杖を向けた。
「この人・・・けっこうせっかちだな・・・。」
コウはぼそりと呟いて箱舟に戻り、急いで操縦室に向かった。
「カプネ!すぐに箱舟のエネルギーを溜めてくれ。今からダナエたちの所に行くから。」
「そ、それはいいけどよ・・・この兄ちゃんをどうする?ドクドク血が出て死にかけてるぞ・・・。」
そう言ってカプネが指差した先には、死にそうな顔でヒクヒクと痙攣するクー・フーリンが寝かされていた。
「あああ!ごめん、忘れてた!すぐ助けてやるからな!」
コウは慌てて治癒の魔法を唱え、クー・フーリンの傷を塞いでやった。
「・・・傷が深いな。ちょっとダメージが残るけど我慢してくれ。」
「・・・・・・・・・・・・・・。」
クー・フーリンは白目を剥いたまま、小さく口を動かして呟いた。
「・・・最近・・・・損な役回りばかりだ・・・・やってられん・・・・。」
「でも最強の死神と戦えてよかったじゃん、な?」
「・・・・お前・・・いつかシバく・・・・。」
クー・フーリンはコウを睨み、怒っているのか笑っているのか分からない表情で引きつっていた。

破磐神社

  • 2014.07.27 Sunday
  • 16:43
破磐神社という神社に行って来ました。
とても綺麗な神社で、ゆったりとした時間が流れている場所でした。



鳥居です。夏の陽射しの中に、綺麗に浮かび上がっています。




神社を囲う森です。まるで外の世界と隔てる結界のようでした。




参道には強い影が差していて、夏の空気が感じられました。




手を清める水です。青いもみじが涼しげな風情を醸し出しています。
自然の美しさですね。




社です。綺麗ながらも、時の重みを感じる社でした。






狛犬が社を護っています。悪い霊や妖怪が来たら、ガブリとやられそうです。




屋根と大木。神社と木はよく似合います。




三本の綱があるということは、三柱の神様がいるということでしょうか?




夏独特の強い陰影。ドラマティックでいいですね。






影と光。夏は相反する二つの世界が存在する、不思議な季節です。




観音様のお堂です。ここは神仏習合の名残りが強いようです。
神様と仏様を共に祀る風習、私は嫌いじゃないです。
異なる二つの宗教が、一つの場所に祀られるなんて楽しいじゃないですか。
きっと神様も観音様も、仲良くやっているはずだと思います。
ドライブがてらに寄った神社ですが、ゆったりとした不思議な時間を過ごさせてもらいました。
神様も観音様も、どうもありがとう。
ゆったりとした時間を感じたくなったら、またお邪魔させて下さい。

ダナエの神話〜宇宙の海〜 第二十四話 霧の街マクナール(5)

  • 2014.07.26 Saturday
  • 20:20
「あっぶねえ・・・ここまでにげれば少しは時間が稼げるだろ。」
コウは闇の道を通って元の場所に戻り、遠くに停まる箱舟を見つめた。
「上手く逃げ出したはいいけど、絶対に追いかけて来るはずだ。ここはクー・フーリンの力を借りて、あのおっさんを撃退するしかない!」
羽をはばたかせて宙に舞い上がり、一気に箱舟まで駆け抜けた。そして急いで船の中に入り、クー・フーリンのいる広間に駆けこんだ。
「クー・フーリン!いるか?」
「なんだ?クトゥルーを追いかけに行ったのではないのか?」
クー・フーリンは怪訝な顔でコウを睨み、興味もなさそうに槍を磨いていた。
「いつまで槍掃除をしてんだよ?ちょっとピンチだから手を貸せ。」
そう言って詰め寄ると、クー・フーリンは不機嫌そうに「断る!」と怒鳴った。
「俺はクトゥルーにもあのゾンビにも興味はない。行きたければ一人で行け!」
シッシっとコウを追い払い、背中を向けて槍磨きを続けた。するとコウは槍を取り上げ、「いいから話を聞け!」と睨んだ。
「貴様!俺の槍を返せ!」
「返すのはいいけど、こっちの話を聞いてくれよ。今すんごい強い敵に追われててピンチなんだ。」
そう言うと、クー・フーリンは「強い敵だと?」と興味を示した。
「ああ、とてつもなく強い敵だ。なんたって、相手は最強の死神なんだからな。」
「さ・・・最強の死神・・・。」
クー・フーリンの顔色が明らかに変わる。美男子の顔が歪み、メキメキと顎が割れ始めた。
《よしよし、上手い具合に乗ってくれたぞ。》
コウは笑いを噛み殺し、ウホンと咳払いをして言った。
「実はな、俺はいま最強の死神に命を狙われているんだ。今までにいったい何度死にかけたか・・・。」
「むうう・・・そんなに強い敵なのか?」
「そりゃあもう・・・強いなんてもんじゃないよ。なんたって最強の死神だからな、最強の。」
「最強・・・・。」
クー・フーリンの顎はさらに割れ、顔は鬼神のように恐ろしい形相になっていく。そして全身の筋肉は盛り上がり、もじゃもじゃと毛が生えてきた。
「あんな化け物は、俺一人じゃどうすることも出来ない。だからさ、ここはケルト最強の神様であるクー・フーリンに戦ってほしいんだ。いったいどっちの方が強いのか、戦ってみればハッキリすると思うし。」
そう言って槍を返すと、クー・フーリンはそれを握って雄叫びを上げた。
「ぬううううぐうおおおおおおおお!たぎる!戦神の血がたぎるぞおおおおおおお!」
爆音の叫びを上げて髪を振り乱し、恐ろしいまでの迫力を解き放つクー・フーリン。それを見たコウは、しめしめと笑いを噛み殺した。
《ジャムといいクトゥルーといいコイツといい、みんな単純で助かるぜ。でもあの死神のおっさんは、きっと一筋縄じゃいかない。いくらクー・フーリンといえど、一人で戦って勝てる相手じゃないだろう。いったいどうずれば・・・・。》
たぎるクー・フーリンを横目に、コウは険しい顔で考えた。眉を寄せ、腕を組み、焦るように足をトントンならして考えを巡らせた。
《あのおっさんは生半可なことじゃ倒せない。だから殺すのは無理だとしても、どうにかして追い返さないといけない。でもその為には、とても強力な力がいる・・・・。
考えろ!考えるんだコウ!きっと身の回りに、あのおっさんを撃退出来るような大きな力があるはずだ。》
悶々と思索にふけっていると、ふと窓の外を見て思いついた。
《そうだ!あるじゃないか!俺の周りに、あのおっさんを撃退するくらいの力が!》
コウは窓に手を当て、船の横に付いている物を睨んでいた。
《あれならきっと大きなダメージを与えられる。けど問題は、いったいどうやってあそこまでおびき寄せるかだけど・・・・。》
箱舟の船体には、左右に大きな車輪が付いている。それを回すことで船を宙に浮かせ、どこへでも飛んで行くことが出来る。だからあの車輪は、船が稼働中は大きな力で回っているのだ。上手いことあの車輪に死神を巻き込ませれば、充分なダメージを与えられると考えていた。
《力でそこまで追い詰めるのは無理だ。だったらこっちからあそこへおびき寄せないといけない。となると・・・俺がオトリになるのがベストだよな。》
すぐに作戦を考え、それをクー・フーリンに耳打ちした。
「興奮してるところを悪い。ちょっと聞いてくれ。」
そう言ってヒソヒソと耳打ちをすると、「ふむう・・・」と難しい顔をされた。
「な?いい作戦だと思うだろ?」
コウはビシッと親指を立ててみせる。しかしクー・フーリンはあまり乗り気ではないようだった。
「果たして、そう上手くいくかな?」
「大丈夫だよ、きっと上手くいくって。この箱舟の車輪は、遠い宇宙まで駆ける力を持っているんだから。死神なんてイチコロだぜ?」
「・・・なるほど、お前の考えが甘いということがよくわかった。」
クー・フーリンは槍を構え、コウに背を向けて辺りの気配を窺った。
「何も知らないお前に、一つ教えてやろう。」
「なんだよ、クーのクセに偉そうに・・・・。」
「お前の言う最強の死神とは、おそらくサリエルのことだ。」
「サリエル・・・?なんか天使みたいな名前だな?」
そう尋ねると、クー・フーリンは「その通りだ」と頷いた。
「その通りって・・・死神が天使だっていうのか?」
「ああ、死神と天使は同じものだ。天使の中には、神に命じられて魂を狩る者がいる。それは寿命の来た魂を狩りとり、迷うことなく天国に送り届ける為だ。」
「じゃ、じゃあ・・・俺はずっと天使に追いかけられていたのか?」
「そういうことだ。そして・・・・もうすぐそこまで迫って来ている!」
クー・フーリンはダラリと槍を構え、目を閉じて敵の気配を捜した。そしてその状態のまま、コウに向かって言った。
「サリエルは生半可なことでは死なない。いくら強力だからといって、船の車輪に巻きこまれたくらいではビクともしないだろう。」
「じゃ、じゃあどうすれば・・・・。」
コウは焦り始めていた。ただのしつこいおっさんだと思っていたのに、まさか相手が天使だとは思わなかったからだ。しかしクー・フーリンはまったく焦りを見せない。それどころか、最強の死神と戦えることが嬉しくて堪らなかった。
「いいかコウ!俺がサリエルを引きつける。お前はその隙に、この箱舟のパワーを車輪に集めろ!」
「ど、どうしてそんなことを・・・・、」
「それはな、あの死神が・・・・・・・、」
クー・フーリンはゴニョゴニョと耳打ちをし、「ということだ。分かったか?」と肩を叩いた。
「なるほど・・・あのおっさんにそんな秘密があったなんて・・・・・。」
「分かったらさっさと行け!あまり時間がないぞ!」
コウは頷き、急いでカプネのいる操縦室に向かった。
「・・・あのチビ妖精め、なかなか面白い敵を連れて来てくれる。最強の死神と戦えるなんて、こっちから願い出るところだ!」
クー・フーリンはそう叫んでパッと飛び上がった。するとさっきまで彼の立っていた場所に、大きな鎌が突き刺さっていた。
《かわしか・・・。》
「・・・現れたな、サリエル・・・。」
馬に跨ったサリエルを睨みつけ、ギュッと槍を握るクー・フーリン。彼の顎はさらに割れ、髪は血のように赤く染まっていった。
《その姿・・・ケルトの戦神クー・フーリンか?》
「いかにも!最強の敵と合いまみえる為、いざ戦わん!」
クー・フーリンの殺気がビリビリと空気を揺らし、サリエルを包みこんだ。
《・・・・やる気か?だが手加減はせんぞ?》
「望むところ!」
そう叫んで床を蹴り、一気に間合いを詰めて斬りかかった。しかしサリエルは一瞬にして目の前から消え、次の瞬間にはクー・フーリンの背後に回っていた。そして音より早く鎌を振って斬りかかった。
「ぬうん!」
《受け止めたか・・・やるな。》
クー・フーリンとサリエルは激しい鍔迫り合いを起こし、骨を軋ませて力比べをした。
しかしわずかにサリエルの力が勝り、クー・フーリンはじりじりと後退させられてしまう。そしてそのまま壁まで押し切られ、逃げ場を塞がれたところで馬に体当たりをかまされた。
「ぐおッ!」
《・・・失せろ。》
サリエルの鎌が一閃し、クー・フーリンを鋭く斬りつける。彼の赤い鎧はパックリと割れ、下に着込んでいた鎖帷子も斬られてしまった。
「ぐおおおおお!」
《防具に助けられたな。だが次はない!》
サリエルの二撃目が襲いかかる。クー・フーリンは咄嗟にかがんで鎌をかわし、サリエルの腹に槍を突き立てた。
「その身体・・・ズタズタに切り刻んでくれる!」
魔槍ゲイボルグの先端が無数に枝分かれして、サリエルの体内を切り刻む。
《・・・・、むうう・・・・こそばゆいな。》
「なんと!身体をズタズタにされながら効いていないというのか!」
クー・フーリンは驚きを隠せず、槍を抜いて飛びのいた。しかし一瞬で間合いを詰められ、すれ違いざまに激しく斬りつけられた。
「ぬぐああああああ!」
鎧の割れ目から肉を斬られ、胸から大量の血が飛び散る。思わずその場に倒れ込むと、馬にガツン!と踏みつけられてしまった。
「がはッ・・・・・。」
《良い腕だが、我を傷つけるには至らず・・・。さあ、あの妖精の居場所を教えよ。奴はどこに隠れている?》
サリエルはクー・フーリンの首に鎌を当て、目を光らせて尋ねた。
「だ・・・誰が教えるか!」
《意地を張るな。首が落ちるぞ。》
そう言って鎌の刃を首に食い込ませる。すると右腕に妙な違和感を覚えて、何事かと見つめた。
《おお・・・我の腕が・・・・。》
サリエルの右腕には、一本の矢が刺さっていた。それはゲイボルグが変化した、魔の矢だった。
《いつの間に刺したのか気がつかなかった。だが残念ながら、この程度では蚊に刺されたほどにもならん。》
そう言って矢を引き抜くと、突然バランスを崩して馬から落ちそうになった。
《セバスチャン・・・どうした?》
「ビヒイン!」
セバスチャンは苦しそうに雄叫びを上げる。なぜなら、身体中に無数の矢が刺さっていたからだった。
「・・・・ふふふ、馬には俺の武器が効くようだな。」
そう言って身体を起こし、一瞬の隙をついてサリエルを蹴り飛ばした。
《ぬうう・・・まだこんな力が残っていたか。》
「俺はケルトの戦神だ!この程度の傷はどうということはない!」
クー・フーリンは矢を槍に戻し、馬の頭に飛び乗って槍を向けた。
「この馬は傷ついている。さっきみたいに素早く動くことは出来ないだろう。」
《なるほど・・・最初からセバスチャンが狙いだったのか。》
「ああ・・・この馬はとにかく足が速いようだ。ならばそれを奪えば、チョコマカト動き回ることはできまい?」
クー・フーリンの槍がサリエルの眉間を貫き、また無数に枝分かれした。
《ぐうう・・・やるではないか。》
「まだまだこれからよ!」
そう言って刺した槍を持ち上げると、サリエルの頭がビキビキとヒビ割れた。
《おお・・・・・我に傷を与えおったか・・・。》
サリエルはニヤリと笑い、槍を掴んで何かを呟いた。それは敵の命を奪う呪いの言葉で、クー・フーリンの心臓に激痛が走った。
「がはあッ・・・・。」
たまらず槍を離して膝をつくと、怒ったセバスチャンが渾身の後ろ蹴りを放ってきた。
それをまともに食らったクー・フーリンは完全に意識を失い、広間の床にノックアウトされてしまった。
《ケルトの戦神よ・・・見事な腕であった。だが今は貴様と遊んでいる暇はない。我はなんとしてもあの妖精の魂を狩らねばならんのでな!》
そう言ってセバスチャンの手綱を引き、窓を割って外に躍り出た。セバスチャンは空中を駆けて箱舟の真上に上がり、ギラリと目を光らせた。
《どうだセバスチャン?あの妖精の魂は見えるか?》
セバスチャンは目を光らせながら、じっとコウの気配を探る。そして船の中腹にある操縦室から、コウの気配を探り当てた。
「ビヒイイイイン!」
《おお・・・あそこか。では行くぞ!》
サリエルはセバスチャンを蹴り、鎌を振りあげて駆け出した。しかしその瞬間、箱舟の車輪が回転して、眩しく輝きだした。
《むうう・・・これはいったい・・・?》
あまりの眩しさに顔を覆うと、その光の中にコウのシルエットが浮かんでいた。
「よう、死神のおっさん。」
《ぬうう・・・ノコノコと出てきおったか?ということは、潔く腹を決めて、我の鎌を受け入れる気になったか?》
そう尋ねると、コウは「まさか」とケラケラ笑った。
「あいにく俺は、こんな所では死ねないんだ。だから・・・おっさんには退いてもらうぜ。」
《ふ・・・いち妖精ごときに何が出来るというのだ?思い上がりも甚だしい!》
サリエルは鎌を振りあげ、コウのシルエットに斬りかかった。しかしスカッと鎌はすり抜けてしまい、「幻影か!」と叫んだ。
《おのれ・・・またしても姿を見せぬつもりか・・・・。》
先ほどからコウに翻弄されっぱなしのサリエルは、いい加減イライラが頂点に達していた。
《妖精よ!姿を見せい!でなければ・・・・この箱舟ごと切り刻んでくれるぞ!》
サリエルは怒ったように鎌を振り回し、禍々しい殺気を解き放った。黒いローブは大きくはためき、鎌の色も赤く染まっていった。そしてセバスチャンを蹴って箱舟に飛びかかり、ズタズタに斬り裂こうとした・・・その瞬間だった。
箱舟の車輪はさらに激しく輝き、まるで月のように青白い光を放った。その光をまともに受けたサリエルは「まずい!」と叫んで後退していった。
《これは月の光か!このままでは・・・我は・・・我はあああああああああ!》
青白い光がサリエルを飲みこんでいく。箱舟の車輪はさらに回り続け、稲妻のように激しい閃光を放ってから動きを止めた。
「あ・・・あああ・・・・なんということだ・・・。」
サリエルの姿は変化していた。黒いローブは、真っ白な絹のローブに変わり、大きな鎌は透明な杖へと変化していた。
そして・・・醜いアンデッドのような顔は、超絶の美男子へと変貌を遂げ、サラサラと流れる白銀の髪になっていた。
それはまるで、天使のような姿であった。

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